オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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キング・クリムゾンッ!
原作準拠のシーンは消し飛ぶッ!



第2部ED:そして誰かが伝説へ。

 

朝日がエ・ランテルの広大な墓地を照らす中を、モモンガとジョン、ルプスレギナが市街地への門まで戻ってきた時、衛兵や冒険者達の活躍によって、アンデッドはほぼ全てが打ち滅ぼされていた。初動が十分に早く、門をハムスケに守らせた事が効いたようだった。長大な射程を誇る尻尾で城壁の上から門を破壊しようとするアンデッドを一晩中打ち倒していたハムスケには、後日、モモンガが気がついた時には『白銀の守護獣』と言った大層な渾名が定着していた。

 

それでも押し寄せるアンデッドは数千を超え、冒険者達は城壁を降り、墓地内で戦う事を余儀なくされた。

 

押し寄せるアンデッドが詰み上がり、高さ4mほどの城壁を越える可能性もあったのだ。その為、冒険者達にも少なくない犠牲が出た。

特にエ・ランテルに3つしか存在しないミスリル級冒険者パーティの一つ『クラルグラ』は全滅し、誰も帰って来なかった。

 

『エ・ランテルを守るのは、この街に住む俺達だ!』

 

アンデッド溢れる墓地へ飛び込み、生命をかけて戦ったイグヴァルジは、悲劇の冒険者――英雄として、彼の望み通り後世に語り継がれる事となる。

 

 

……実際は手柄を求めて霊廟に近づきすぎ、エイトエッジ・アサシンに捕獲され、仲間共々ナザリックの資源となったのだが。

 

 

漆黒の剣もゴールド()どころかプラチナ(白金)級に届くような活躍を見せ、大いに評価を上げる。

これは彼らが低レベルの為、デスペナルティによるレベルダウンよりも、課金アイテムによる経験値加算でのレベルアップが大きかったのと、ジョンが与えた武器と鎧が現地においては、それだけ強力だという事でもあった。そうは言っても彼ら漆黒の剣の強さはレベルにすれば、現状では15Lv程度であったので、30Lvを超えるクレマンティーヌと正面からぶつかれば一撃で粉砕されてしまったのだったが。

 

幸い《死者蘇生》を受けた経験の有る者など存在していなかった事もあり、陽光聖典の時と違って不自然さを感じたものはいなかった。

 

城壁の上に立って警戒を続けていた衛兵や冒険者たちは、凱旋するモモンガ達を大歓声で迎え入れた。図らずも名声を高める第一歩を踏み出せたと、ほくそ笑むモモンガだったが、その観衆が街の中まで続いていたのには、流石に唖然とした。

 

 

どうも、溢れ出すアンデッドが多すぎたので、《上位物品作成》で作った鎧を着ていても使える魔法に選んでおいたジョンへの突っ込み用の《火球》で、間引きを兼ね、ジョンと二人で……。

 

「もう一息だ。パワーを火球へ!」

「いいですとも!」

 

と、W火球(三重化していたので二人合わせて6発だが)で遊んでいたのと、雑魚の多さに魔法を使うのも面倒になったジョンが、より範囲の広い手刀で起こす衝撃波――陽光聖典の上位天使40体を一撃で全滅させた――命名真空斬り(ソニックブレード)を乱発しながら道を切り開いた派手な光景が、城壁の上から良く見えていたのだ。

 

その結果、3人の通過した跡は文字通り嵐が通り過ぎたような荒れっぷりで、犠牲者が少なく、語る人間の数が多く、語りやすい事が大歓声の原因のようだった。

おかげで漆黒の戦士ではなく、漆黒の魔法戦士モモン。風と炎の魔法詠唱者ジョジョンになってしまったが、名声を高める意味では些細な事だろう。……きっと、多分。

 

 

カジットのスケリトルドラゴン? クレマンティーヌ?

ご覧のありさまで特に語る事も無かった。

 

「魔法に絶対の耐性を持つ骨の竜(スケリトル・ドラゴン)。如何に貴様が強力な魔法詠唱者でも……は?」

「ああ、すまん。俺の真空斬り(ソニックブレード)は物理攻撃なんだ……あ、モモンガさん、お帰り」

 

ナザリックらしい酷い蹂躙劇だった事は、これだけで解かって貰えると思う。

 

 

兎に角、遠目からでも良く見える派手な戦いで道を切り開いた為に、相当な大騒ぎになってしまっていた。

最初に助けた衛兵達の他、組合近くで漆黒の剣を助けた際のパフォーマンス(死者復活)で、冒険者達からも、モモンガ達がアンデッドの軍勢を切り開き、元凶を討ち取った事が広く伝わったようだった。

 

ハムスケに騎乗して組合まで戻るモモンへの大歓声はやむ事がなかった。

 

《モモンガさん、笑顔が硬いよ。もっとにこやかに手を振って》

《うう、幾ら歓声を上げられても巨大ハムスターじゃ……せめて骨の竜(スケリトルドラゴン)ぐらいは》

 

自分の下で得意気にのしのしと歩くハムスケが恨めしいモモンガだった。

大体、面頬付き兜(クローズド・ヘルム)を被っているのに、にこやかにも何もあるものか。

 

 

ルプスレギナは、普段を知っていれば誰だお前と言いたくなるほど、猫をかぶり、しずしずと淑やかに歩いている。普段のおちゃらけた様子など何所にも無い。

シモベであるルプスレギナの側から見れば、これは至高の御方のまとめ役モモンガと愛するジョンの凱旋である。

 

その列に、シモベとして唯一供を許されているのだ。

 

凱旋パレードというのは力を誇示するという側面を持つ。つまりそのパレードにおいて至高の御方の周囲に付き従うというのは、ナザリック大地下墳墓の武威を示し、そして至高の力を見せ付けるという意味があるとシモベならば当然、考える。

 

大いなる喜び、大いなる名誉。

 

この輝かしい凱旋パレードを自分如きのミスで汚すなど、生命を以ても拭えない不敬である。

ルプスレギナはこれまでに無い真面目さで組合までの道のりを歩いていった。

 

 

その後、即日で霊廟まで入った冒険者組合の調査隊は、モモン達の証言の証拠となる()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。他には骨の竜(スケリトル・ドラゴン)死の騎士(デス・ナイト)など伝説級のアンデッドの残骸を複数発見し、報告したが、調査隊の正気が疑われる理不尽があった。

 

モモンガとジョンとしては、デスナイトが1ガゼフらしいとの認識だったので、自分達も1ガゼフ級と設定したつもりだった。

 

その1ガゼフ級が3人パーティを組むなら、頑張ってこのぐらいは倒さないとアダマンタイト級に届かないだろうと判断した――のだが、いつものように完全に遣り過ぎ(ナザリック基準)であった。

 

 

冒険組合長プルトンの約束通り、モモンはオリハルコン級のプレートを受け取った。

後日、出現したアンデッドの撃破が確認された段階でアダマンタイト級に昇級される事となった。

 

 

/*/

 

 

カジット・デイル・バダンテールはその光景を思い出しては己の幸運と神の恩寵に感謝する。

3メートルを超える銅像が守る巨大な扉の向こうには、法国でもないであろう神秘の光景が広がっていた。塵一つ落ちていない磨かれた床は寄木細工で美しい紋様が描かれ、吹き抜けの二階にはバルコニーが突き出し、無数の本棚を覗き込むように取り巻いている。半円の天井は見事なフレスコ画と豪華な細工でびっしりと埋め尽くされていた。

 

幾千万の神秘が眠る神の図書館。

守るは死者の大魔法使い達。

 

カジットは慈悲深き死の神へ感謝の祈りを捧げる。

神の使いと敵対した不敬を慈悲深くも死の神はお許しになり、自分の知る限りではあるが、この500年で発展した巻物作成技術と引き換えに、この地の第1階層で魔道の研究を許された。

幾種類かある死者復活魔法でも最上位ならば、母の復活は可能。だが、我が身をエルダーリッチとしても、そこまでは届かない。

 

人の執念あらば生命力の喪失を防ぐ或いは別の方法も生み出せるだろうとの神の言葉。

 

欲で結びつくだけのズーラーノーンに未練などない。母の蘇生の為に捨て去った信仰が神の慈悲によって蘇った。神に許され、神の望まれる事と己の望む事が一致した。これほどの幸せがあるだろうか。

 

カジット・デイル・バダンテールは、人生で最も充実した日々を過ごしていた。

 

 

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エルダーリッチに絞め殺されたクレマンティーヌが蘇生された直後、目に入ったのはエルダーリッチの仲間である褐色の魔法詠唱者だった。

反射的に攻撃し、跳ね起きて逃走しようとするが、復活直後では満足に身動きも出来ず、指で額を押さえられただけで動けなくなる。

 

「まだ諦めてないか…良いガッツだ。そのガッツとガーターベルトに免じて生命は助けてやろう」

 

「え?」

「ジョン様?」「カルバイン様?」

 

素っ頓狂な声が上がる。目だけを必死に動かし周囲を見回すと、この世のものとは思えない幾人もの美女とあのエルダーリッチ…否、今なら解かる。あれはエルダーリッチなんて生易しい存在ではない。それに加えて異形の白銀の騎士などの姿が目に入る。

そんなクレマンティーヌの驚愕を他所に、褐色の魔法詠唱者とエルダーリッチのふざけた会話は続く。

 

「ガーターベルト、好きなんですか?」

「ルプーにガーターベルトを穿かせて、スカートにスリットを入れる程度には」

「ガチじゃないですか!」

 

冗談はそのぐらいにして、と褐色の魔法詠唱者は何処からか黄金の林檎を取り出し、食えと自分へ差し出してくる。

こんな状況で差し出されるものだ。碌な物では有るまい。だが、わざわざ蘇生させてまで食わせるならば、殺すつもりではないだろう。

そう判断すると、クレマンティーヌは震える身体を起こして林檎を受け取り齧りつく。

 

法国でも見た事がない絢爛豪華な室内は贅を尽くした造り。そして、部屋の中にいる存在が人外すぎた。

 

自分は英雄の領域に片足を突っ込んだと自負していたが、それが如何に人間のちっぽけなモノサシで測った事だったのか。

人間に見える褐色の魔法詠唱者も、あの修道女も、黒いドレスの少女も、白いドレスの角と翼のある女も、自分など小指で殺せるような存在なのだろう。

 

この身体の震えが、寒さや復活による体力の消耗ではなく、本能から恐れを感じている故だと、クレマンティーヌは自らの卑小さを認め、理解した。

 

渡された林檎は、酸味と甘みが絶妙のバランスの林檎は今まで食べたどんな果実よりも甘く、それでいて甘すぎず、一噛み毎に生命が満ちていくような充実感があった。

恐怖からなのか、林檎に感動しているからか、涙が零れた。

 

微かな塩味を感じながら全て食べ終えると、ぽんっと軽い音と薄い煙に包まれる。

 

 

「きちんと効果はあったか。クレマンティーヌ、その身体は幾つ頃のものだ?」

 

 

褐色の魔法詠唱者の声に自身の身体を見回すと、身体が一回り小さくなったように感じた。

身長は十代で伸びきった。その伸び切る直前ぐらいの身長体格になったように感じる。体つきも女性らしい丸みが薄い子供と大人の狭間の年代のように見えた。

それを正直に――10歳分ほど若返ったようだと答える。その自分の言葉に……クレマンティーヌは、氷に包まれたような寒さを、更なる恐怖を感じてしまった。

 

若返りなど――どんな魔法でも行えない。正に神の御業ではないのか!?

 

 

「では、クレマンティーヌに《永続化》をお願いします」

 

 

褐色の魔法詠唱者の言葉にあのエルダーリッチが頷き、何か知らない魔法をかけてくる。

 

「後は《永続化》の効果検証だけだな」

褐色の魔法詠唱者は一人呟くと、黒いドレスの少女へ向き直る。

「……シャルティア。任務を無事に達成したお前へ、褒美と次の任務だ。このクレマンティーヌをお前に預ける。ペロロンチーノさんが好んだ快楽を主体とした調教で屈服、服従させろ。人格は極力元のまま。仕上がったら魔法で拘束した上で、モモンガさんの戦闘訓練の相手にする。ああ、あと、《永続化》がきちんと効果あるかの検証もだ」

 

連れて行け。その言葉に頷き、近づいてきた黒いドレスを纏った銀髪の少女の真紅の瞳を覗いた時、クレマンティーヌは言いようも無い違和感と恐怖を感じた。

 

その少女は、女の体を貪ろうとしている情欲に塗れた男のような感情を宿していたから。自らの体がまるで動かないから。まるでその真紅の瞳に全てを吸い込まれてしまったようだったから。

否。何よりも、一瞬の違和感を感じさせるだけで、自分を拘束する魔眼を持つ吸血鬼など、一体どれほどの存在なのか。

 

 

そして、それを当然のように従える存在は一体、何者なのか。

 

 

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クレマンティーヌを魔眼で支配したシャルティアが扉の向こうに消えたところで、扉の向こうから、「あはっはっはは。そうよぉおお、あなたの頭の中が快楽でぐじゃぐじゃのぬちゃぬちゃになるまで、いろいろしてあげるのよぉおおおお。自分からもとめてくるまでぇえええ、どれぐらいの時間がいるのかしらあああぁああ!」と、厚い扉越しにシャルティアの愉悦に塗れた声が響いてくる。

 

注意に向かおうとしたアルベドをモモンガは手で制した。

(アルベドよりは声、小さいしな)などと思いながらだったが。

 

「シャルティア、頑張ったんだな」と、ジョンが沁み沁みと呟く。

 

単純戦闘最強であるシャルティアは、配下にエイトエッジ・アサシンなどをつけても、血の狂乱を発動させてしまえば誰もシャルティアを止められない。

そのシャルティアが配下を使い、血の狂乱を発動させず、武技持ち(ブレイン)を生け捕って帰還した。自分達から与えられた任務を遂行するのには相当なストレスがあっただろう。

 

あとは王都へ向かったセバスとソリュシャンの調査報告待ちだ。

 

シャルティアの頑張りを思い、ジョンは思わず目頭を押さえる。

 

「何を泣き真似してるんですか」

 

モモンガの突っ込みに心外だと、ジョンは肩を竦め、驚きに満ちた声で続けた。

「いや、だって、まさか……シャルティアが、あのシャルティアがですよ? 出来るだけ男に触りたく無いとか言い出すとは!?」

「ペロロンチーノさんの嫁だから、ペロロンチーノさん以外の男に自分を触れさせたくないって理由でしたね。――俺も涙で前が見えませんよ」

モモンガも一人称が俺になっているところを見ると、相当に驚いているようだ。

 

「ペロロンチーノさん喜ぶだろうなぁ」

 

ジョンの再びの沁み沁みとした声にモモンガも大きく頷いた。

 

「それにしても、クレマンティーヌにブレイン。ガゼフ級の強者が2人も手に入ってラッキーだったよ。……《自己変身》で30Lvぐらいの人間に弱体化すれば、まともに戦いを楽しめるんじゃないかなぁ」

「ちゃんと調教してからにして下さいね。そんなので死なれるのは御免ですよ」

「あい」

 

勝つか負けるかの戦いを楽しみにしているジョンに、モモンガは釘を刺すのを忘れない。

漆黒の剣が死んだ時に「こんな風に死にたい」とジョンが言った事をモモンガは忘れていなかった。

 

万が一にも唯一残った友が、生に飽きて死ぬような事は避けたかったし、満足して死んでしまえば蘇生も叶うかどうか。

デミウルゴスから、回復魔法は対象の生きる意志が失われると効果が落ちるとの報告も上がってきている。蘇生を繰り返せる程の実験対象はまだいないが、回復魔法の効果を受け付けなくなるのなら、蘇生魔法の効果も受け付けなくなる可能性があるとモモンガは考えていたのだった。

 

「……漆黒の剣を殺された事は良いんですか?」

「問題なく蘇生できたし、あいつらも捕まえたし、もう良いじゃん? 結局、弱いから負けたんだしな。弱いから負けるのは仕方ない。あいつらの蘇生に失敗してたら、腹いせに殺したけど……何か問題ありました?」

「ジョンさんが良いなら、俺は構いませんよ」

 

モモンガは、じっとジョンを見つめ、含む所は無さそうだと見ると頷いた。

漆黒の剣の蘇生でバタバタしたが、精神作用無効の無い分、ジョンは感情が強く揺さぶられると理性よりも感情を優先してしまうとモモンガは思った。

それを悪いと言うつもりはまったくないが、普段からの生活で負担を強いてるのでは無いかと心配したのだった。

 

 

元々ジョンは種族的な拘りが無く。ギルドの外にも種族関係なく交友関係を持っていた。

そのジョンにとって、現在の人間蔑視のナザリックにいる事自体が負担なのではないかと、モモンガはふと心配になったのだった。

 

 

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「ルプーにガーターベルトを穿かせて、スカートにスリットを入れる程度には」

 

ジョンのその言葉に、ルプスレギナの胸の奥で、ドキン…ドキン!と心臓が強く、打ち鳴り始める。

頬がかっと熱くなり、頭が沸騰しそうだった。ドキドキと脈打つ心臓が激しすぎて胸が苦しい。熱い血潮が全身を駆け巡り、フワフワと熱に浮かされたようになっていた。

 

真っ直ぐに立っているのかすら怪しい。この髪も、この服装も、至高の御方(ジョン)に望まれたものだったのか。

 

自分の脚を見るジョンの視線を思い出す。

自分の脚はジョンの望んだ通りのものだろうか? 自分の創造主がジョンでない以上、どこかしら自分には、ジョンが望んでいないところがある筈なのだ。

 

そう思うと恥ずかしさに居た堪れなくなって、もじもじと靴の踵をすり合わせる。メイドに有るまじき無作法だが、気が動転していた。これほど動揺するのは始めてかも知れない。

一般メイドには眉をひそめられ、アルベドには微笑ましげな視線を向けられていたが、ルプスレギナはまったく気がつかなかった。

 

「ペロロンチーノさん喜ぶだろうなぁ」

 

だが、ジョンの再びの沁み沁みとした声と、それに大きく頷くモモンガの声に血が凍った。

 

そうだ。

 

シャルティアはペロロンチーノに自らの伴侶(俺の嫁)として創造された。アルベドは至高の存在によりモモンガの伴侶()、半身として創造された。

 

 

では、ルプスレギナ・ベータ(自分)は?

 

 

自分の創造主はジョン・カルバインではない。どれほど慕っていようとも、自分の忠義の1番はジョン・カルバインではないのだ。

もしも、至高の四十一人に優劣をつけるとするならば、ルプスレギナ・ベータにとっての1番は、自分を創造した御方になる。それはシャルティアも、アルベドも皆、同じだ。

慕う御方と創造主が一致するシャルティア。愛する御方を『そうあれ(愛する)』と至高の御方々に定められたアルベド。

 

では、自分のこの思いは――何なのだろう?

 

ジョンが望んだ髪、服装を持ち、ジョンを慕いながら、それでも自分の忠義()の1番はジョンではないのだ。

ジョンに望まれれば、生命だって喜んで差し出せる。けれど、自分の1番はジョンではないのだ(創造主なのだ)

 

 

シモベとして当然のその事が――何故だろう。

 

 

――とても、心を抉った。

 

 

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何台もの馬車と多くの豚、牛、鶏を引き連れた一団が、カルネ=ダーシュ村を目指していた。

護衛に冒険者パーティ「漆黒の剣」と「漆黒」がつくその一団は、エ・ランテルからカルネ=ダーシュ村へ移住するリイジー、ンフィーレア、先日の襲撃で村を焼かれた開拓村の生き残りが20名ほどだった。

 

家畜と作物の苗などは、アンデッド事件の解決で報奨金が出たので、ジョンが自分の分け前から購入した。モモンガの分け前はセバス達の活動資金や、ナザリックの各種設備の作動試験に使われる予定だった。

 

ところで、カルネ村の現状や法国の暗躍で全滅した村についてだが、都市長パナソレイ、冒険者組合長プルトンなどは、王国戦士長ガゼフから、3つの村が全滅し、カルネ村が半壊したが救助が間に合ったとだけ簡単に報告を受けたに留まっていた。

 

ガゼフとしても、カルネ村での出来事が余りにも一大スペクタクル過ぎて、どこまでどう報告すれば良いのか決められなかったのだ。

 

『村が騎士に襲われた時に、通りすがりの人狼に救われた。神様が現れ、広場に立派な教会を立て、この地で頑張って生きろと言われたので人狼と手を取り合って生きていく。助けてくれない王国より人狼と死の神を選ぶ』ここまでなら、それほど困らないのだ。それでも十分に大事だが。

 

問題は『自分達(王国戦士団)が法国の陽光聖典に追い詰められ、全滅するだけになった時、人狼が現れ、腕の一振りで数十体の天使を消し去り、神が降臨した。その神を見た陽光聖典が死の神スルシャーナと御名を呼んだが、神はアインズ・ウール・ゴウンであると否定。その上で陽光聖典隊長は自ら死の神へ生命を捧げ、神の手により復活。それまで使えなかった《死者蘇生》を使い敵味方双方の部下を蘇生させ、今までの信仰は間違っていた。自分達は本国の信仰を正しに行く。ガゼフ・ストロノーフすまなかった』などと言って去っていったことだ。

 

ガゼフ自身、こんな話を部下がしてきたら、「お前は何を言っているんだ」と言ってしまう自信がある。

 

思い返してもガゼフは、何度も思い返しても、あの出来事を簡潔に分り易くまとめる事が出来なかったのだ。

ひょっとしたら、自分はカルネ村で死に掛けていて、これは今の際に見ている夢なのではないかと、何度も自分を疑った。

それほどまでにガゼフの体験した事は現実離れしていて、自分でも信じられなかったのだ。

 

で、あるから、村長の言も飲み込み、取り合えず被害の報告だけをエ・ランテルへ伝え、全て国王へ報告し、その判断を仰ぐつもりであったのだ。

その為、エ・ランテルでは未だカルネ村が王国から独立するなどの妄言を言い出している事を把握していない。

 

だが、そのガゼフも、もう王都へ到着し、国王ランポッサⅢ世へ報告を始めている頃だろう。

 

 

嵐は――静かに王国へ迫っていた。

 

 




クレマンティーヌさんへ青春の林檎を食べさせたのは、若返りの効果を永続化できたら、後日に権力者への交渉材料に出来ると考えてるからです。
でも、クレマンティーヌさんが若作りだったので、思わずジョンくんは何歳ぐらい若返ったと思うと聞いてしまいました。原作者様によると二十代後半らしいので、10歳若返ったらエンリちゃんと同年代?

第3部開始まで2週間ほどお休みします。年内に帰って来れなかったら……(゚A゚;)ゴクリ


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