オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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今回、食事のシーンがありますが、人によっては好悪が分かれるかと思います。
詳しく書くとネタばれですが、ダ○シュ村では蜂とか蛇の駆除もやってました。後は分りますよね?



第29話:スタッフが美味しく頂きました。

 

 

ジョン達がカルネ=ダーシュ村へ帰還した翌日、ンフィーレアとリイジーの工房が完成した。

いつものようにチーム時王があっと言う間に建築した工房は、店舗と工房が続きになっている広い間取りで、その奥に住居と倉庫が合わさっていた。

工房にはナザリックから運び込まれた予備の錬金用の生産用具がならび初歩の錬金術の資料も用意した。

 

村の他の家と同じように《環境防御結界》による冷暖房。《永続光》をつかった蛍光灯っぽい照明器具。そして異臭を外に漏らさない《フィルター》とエ・ランテルの工房よりも快適なつくりだった。

 

驚いたのは辺境の開拓村だと言うのに、30cmほどの透明なガラス板のはまった格子窓が明り取りに使われていた事だった。

都市では明り取りにガラスが使われるが、錬金術師かドワーフでなければ作り出せない割合高価なもので、割れ易く運搬に向かない事から技術者(錬金術師)のいない村では使われる事は殆ど無かった。

街でも神殿、裕福な職人、商人の家、組合会館で使われるものであり、このように気安く使われるものではなかったのだ。

 

だから、ジョンが窓ガラスを第三位階の魔法で作り出し、徐々に村の家々の窓にはめ込んでいると聞き、バレアレ家の二人は何度目かの驚きを露にした。

 

「ジョ、ジョジョンさんは錬金術師だったんですか!?」

 

彼をジョンさんと呼ぶと、ルプスレギナ達の機嫌が悪くなる事に気がついた彼等は、最近はジョンを呼ぶ時に「カルバイン様」か「ジョジョンさん」と呼ぶようにしていた。

本人は堅苦しい呼び方を好まないようなのだが、彼に仕える者達がそれを許さないので仕方が無い。

 

ンフィーの問いにジョンは狼頭で笑う。自分が錬金術師などおこがましい。

自分は魔法で生成しているだけで、錬金術と呼ばれるような知恵も知識も持っていないのだと笑う。

 

そのジョンの使う第三位階魔法《物品作成》、第一位階魔法《小さな願い》は細分化され、ンフィーレアの知る香辛料や甘味を生み出す下位の魔法として良く使われている。

だが、ジョンの知る限りそれは普通の素材の採取の手間を省く為、彼の知る錬金術師達が使っていたと言う。

 

リイジーも扱える《物品作成》であるが、リイジーはそれでガラスを作ろうと思った事も無かった。精々、自分の使う素材で必要なものを呼び出すのに使う程度だった。

 

ジョンは《小さな願い》や《物品作成》などは、使用者の想像力と魔力の及ぶ範囲で効果が決まるのだと言う。

つまり《物品作成》で、何が作れるのか使用者が想像できなければ、その創造力は発揮されず。また、魔法の力が及ばずとも、触媒を利用する事で効果を強める事も出来るのだと彼は語った。

 

《物品作成》単体ではそれほど大きなガラスは作れない。けれども、ガラスの材料になる珪砂という物質は土や岩に含まれている。村の外周を回る巨大な空堀を掘った土を触媒に《物品作成》を行使すれば、魔法はその土から珪砂を集め、30cm四方の透明なガラス板が得られたのだ。

 

合金も始めから創造しようとすれば創造できないが、例えば銅と錫を別々に創造してから、それを媒介にすれば青銅がつくれると言った話は刺激的で、自分達が如何に常識に囚われていたか痛感させられた。

 

 

そんな彼ら(ジョン達)から見れば、自分(ンフィー)達は滑稽だったのかもしれない。

 

 

ジョンは自らが持つ神の血、赤いポーションよりも、自分達が作る劣化する青いポーションを高く評価していた。まったく違った材料製法で、劣化するとは言え同じ効果を得る。それは先人達の努力の証であり、人の工夫と知恵の結晶なのだとジョンは言う。だが、それでも彼は自分達に赤いポーションを再現する実験をさせてくれる。

 

それは二つの製法を知り、違いを知る事で、自分達が新しい何かを創り出せるのではないかという未知への期待。

 

先人たちが生み出した青いポーションが、人の知恵の結晶と認められた事は嬉しい。

自分達が積み上げてきたものが決して間違っていなかったのだと、英雄の如き人たちに認められたから。

 

けれども、自分に向けられる彼の期待に応えるには、自分はまだまだ力不足である事も痛感させられた。

 

ジョンの言う《物品作成》の応用にしても、それはジョンが土に何が含まれているのか、ガラスの材料になるのは何か? それを知っているからこそ応用が出来たのだ。

自分はまだまだ力不足だ。魔法も、錬金も、薬師としても、力も足りなければ、知識も足りない。

 

天才とも呼ばれていたンフィーレアは今、初めて壁にぶつかったのかもしれない。

 

神の血などと言う漠然としたものではなく、自分を上回る知識を持つ仰ぎ見る星。乗り越えるべき壁。生きる目標。

自分が立ち向かうべき世界の強大さを身を以て知らしめてくれる存在。ジョン・カルバインに追いついた時、並び立った時に、どんな世界が見えるのか――想像するだけで、ンフィーの心はこれまでに無く弾んだ。村の救世主について語るエンリの姿に嫉妬を覚えた事もある。けれど、今なら思う。なんとつまらない事を思っていたのだろう。

 

彼は仰ぎ見る星であり、太陽であったのだ。

 

その力、その輝きに憧れ、手を伸ばす事はなんと自然な事か。嫉妬に眼を曇らせ、下を向き、眼を逸らせるなど勿体無い事だ。

気がつくとンフィーレアはこれまでに浮かべた事の無い笑みを浮かべていた。

 

ジョンは自分に出来る限りの手を差し伸べてくれる。善意には善意で答えてくれる。それはそれだけの力があるが故だけれど、出来るなら、自分もそう生きて見たい。

何の為にポーションを開発するのか……過去の遺産を取り戻すのではなく、彼と共に未知なる明日を見る為に、この手で未知を作り出したい。

 

 

ンフィーレア・バレアレのその笑みは、生命ある限りこう生きてやろうと、人が決めた時に浮かぶ決意の笑みだった。

 

 

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その晩、カルネ=ダーシュ村の広場は祭りの賑わいを見せていた。

 

あの惨劇の弔いの宴の時のようにバーベキューが開かれていたが、焼かれる肉はトブの大森林で取れたイノシシや鹿などの肉。パンと野菜は時王が村の一角で試作している麦と野菜から作ったものだった。早く成長し過ぎる上に土地を枯らしてしまうので、改良中だが収穫した分を蒔くわけにいかないので食べてしまおうと言う事だった。

 

その他、ジョンがトブの大森林を駆けて廻り、ミツバチを捕まえてきた祝いとその試食でもあった。

 

「甘ーい」

 

ハチミツをかけたパンの甘さにエンリの顔がとろけそうになっている。

それは黄金に輝くミツバチの巣をスプーンで掬い取り、薄くスライスして軽くトーストしたパンに乗せたハニートースト。

まだ温かいトーストの上で巣蜜(コムハニー)がじゅわ~っと溶け出していく。

 

そのままパンを一口齧る。

 

今まで食べていたパンは石だったのかと思うほど、サクッと柔らかくパンが崩れ、口の中に濃厚な甘みと花の香りが広がる。噛むごとに口の中でパンとハチミツ、巣蜜(コムハニー)が交じり合い、蕩ける甘みが麦の甘みを包み込み舌を通して脳をも蕩けさせる。

 

このミツバチを村で育てるのだと、ジョンは言う。

 

そうすれば蜂蜜はいつでも食べれるようになるし、栄養もとれる。作物が実るのも蜂が助けてくれるのだと教えてくれた。

更にジョンはハチミツと鶏の卵と牛の乳、小麦粉があればカステラなるお菓子も作れると、作って村人に振る舞ってくれていた。

 

それはハチミツの色を溶かし込んだような黄金に染まった柔らかいお菓子。その甘味は今まで食べた事の無いものだった。ふんわり、しっとりした口あたりと蜂蜜独特の優しい甘さ。そこにタマゴの甘さが重なって、コクのある豊かな風味が口の中に広がっていく。

 

優しいその甘味に頬を緩ませるエンリを見て、ンフィーレアは自分の作ったもので自分の好きな人が笑顔になってくれるのなら、それは…自分にとって何よりも素敵な事じゃないだろうか。そう不意に思った。

 

「? どうしたのンフィー?」

「僕も錬金術で甘味を作れるようになったら、良いなって」

 

その言葉に、エンリは思わず強い声を発した。発してしまった。

 

「頑張って作って」

 

うん、頑張るよ、と言う声を耳にしながら、エンリはカステラをもう一口食べ、その味に頬を緩ませた。

 

 

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養蜂は、蜂に刺されないようにさえ気をつければ、力の無い子供でも行える。それは子供ばかりになってしまった村としては有り難い事だった。ハチミツであれば薬草が取れない時期でもエ・ランテルに売りにいけるかもしれない。蝋燭だって売り物になる。自分達では出来なかったけれど、ジョンから学んで子供達に伝えていけば、子供達はきっと自分達よりも良い生活が出来るようになるだろう。

 

 

今日よりも良い明日を想像する。

数少ない大人達が食べるハニートーストとカステラは、塩味が効いていた。

 

 

そんな村人達を前に、「ちなみにこいつは」と、ジョンはミツバチよりも二回りは大きい黒と黄色の蜂をつまんで言う。

 

「毒が強いし、何度も刺すから近づかないように。見つけたら、俺達に教える事。駆除の仕方や道具は段々教えるけど、最初は俺達で駆除するからな」

そう言って、強くなれば、蜂の針なんて刺さらないから、頑張って強くなるのも有りだと続ける。

そうして、駆除した蜂や毒蛇など、これまで捨てていたものも食べられるのだと、時王が駆除したものが調理済みの姿になって運ばれてきた。

 

先ずは蜂などの虫を油で揚げたもの。それを野菜と炒めたものなどが出てくる。

 

蜂、蜂の子、芋虫、蜘蛛。そして何故かGの姿。

綺麗な姿で、からっとパリパリに揚がっている。旨いよ?と、ジョンはバリバリ食べて見せるが、虫食は経験の無いものには少々敷居が高い。

健啖家のルプスレギナも流石に引き気味だ。

 

「ルプー、これ美味しいですよぉ」

 

少し舌足らずな調子で話しながら、ひょいっとジョンとルプスレギナの間から手を伸ばし、芋虫の姿上げを顎下から食べたのはプレアデスのエントマだった。

 

「エンちゃん!?」

「カルバイン様にぃトブの大森林で取れた虫の試食をするから、食べてみないかぁってお誘いを頂いたんですぅ。ルプーは食べないんですかぁ?」

 

蜘蛛人(アラクノイド)で人の生食や、恐怖公の眷属を生でもおやつ代わりにするエントマは、種族的な本来の食性からして虫食に抵抗は無い。その上、味にも拘りがあるのだから、この試食で意見を求めるならば最適だろう。

 

しかし、ルプスレギナだってジョンが用意したものなのだ。勿論、食べたい。

 

だが、これはルプスレギナの感性からすればゲテモノだ。自分は食べるのは好きだが、ソリュシャンやエントマと違って調理済みのものが好きなのだ。肉だって生より火が通したものの方が良い。

 

せめて……ああ、せめて、この虫も…ハンバーグ見たいに形が分らなくなっていれば抵抗なく食べられるのだが……

 

 

「カルバイン様ぁ、これ美味しいですぅ」

「そうか、美味いか」

 

 

何種類か作られているGの唐揚げをパリパリと顎下の本来の口で食べるエントマ。

上機嫌なジョンに撫でられて、眼を細めるエントマの姿を見た時、ぶちっと何かが切れる音をルプスレギナは聞いた。

 

ぷるぷると震える手を伸ばし、芋虫のフライを摘みあげる。芋虫と思うから行けないのだ。これはソーセージ。これはソーセージ。もしくはシューストリングカットのフライドポテト。ちょっと黒いところはコゲであって頭じゃない。そう思うと余計まじまじと見てしまう。そう思うほどに見てしまうものだが、見てはいけない。コゲと誤魔化そうとした部分に複眼や顎があるのが見えてしまうが、これはコゲ。これはコゲ。これはコゲ。

 

自分を騙そうと繰り返し唱え、目をつぶって覚悟を決めると、ルプスレギナはそれを口の中に放り込んだ。

 

想像したウニョっとした気持ち悪い感触は無かった。油で揚げて水分が抜けている為かサクサクした食感で、ナッツ類のピーナッツやアーモンドのような味がする。

小麦粉と練った芋のフライ。そのさっくり揚がったフライドポテトからナッツ類の味がするような感じがする食感と味だった。

 

「……ゴールデン芋のフライ。シューストリングカットの味違いみたいで美味いっす。美味いっす……けど……」

 

金色の瞳に涙を浮かべ、ぷるぷると震えるルプスレギナ。

エントマは悪意なく美味しいものを大食らいの姉へ進めた。

 

「ルプー、これも美味しいですよぉ」

「エ、エンちゃん――恐怖公は、恐怖公(の眷属)だけは、勘弁するっすよぉぉッ!!」

 

うひぃぃとルプスレギナから悲鳴が上がる。

 

今度こそ金色の瞳から涙が零れ落ちそうになったルプスレギナは、不意にぐいっと腰の辺りを掴まれ、抱き寄せられた。

ぽふっと白い毛並みに包まれて、目を白黒させるルプスレギナの腰のあたりが、軽くニ、三度ぽんぽんと落ち着かせるように叩かれる。

 

「無理すんな。恐怖公は俺たち(AOG)半分以上(28人)が苦手だったんだ。仕方ない」

 

至高の御方(ジョン)に抱き寄せられた姉に、むぅと不満げな雰囲気を纏ったエントマだったが、ジョンに蜘蛛人(アラクノイド)であり、創造主である源次郎の感性を受け継いでいるエントマは恐怖公が平気でも、恐怖公が苦手な創造主の感性を受け継いでいるルプスレギナ達は仕方ないと言われ、それならばと機嫌を直した。

 

美味しいものを美味しく頂けないのは残念であるが、そう言った好悪の感情が創造主である至高の御方に由来するものであると言われれば、エントマ自身も創造主に抱き寄せられているようで胸の内が温かくなる。

 

そんなパニックを一部で引き起こしている恐怖公の眷属(調理済み)であるが、恐怖公の無限召喚によって呼び出された清潔で衛生的な、安心安全な食材(?)である。

現代人に由来する忌避感を持たない村人達は、見た目にも食べやすいよう脚と触角を落として調理したものは問題なく食せるようだった。

 

これで『ダグザの大釜』の使用率を少し減らせるとジョンは、ほくそ笑んだ。

 

魔法を使えば、醤油だろうと味噌だろうと作れるし、食料だってなんとかなるのだが、それでは味気ない。

大豆を生産する前に主食と家畜の飼料も増産したい。けれども異世界転移した日本人として味噌と醤油の現地生産は外せないと思う。

 

となれば、どうする?

 

(大豆以外で醤油を作るしかないだろう、JK)

定番は魚醤だが、あいにくと付近で魚は取れない。多少、足を延ばしても淡水魚しか手に入らない。いつかは海にも出たいものだが……。

 

「エントマ、この付近に蝗や飛蝗はどの位いるか分るか? ムシツカイで集められるものか?」

「草原ですから、それなりにいるようですよぅ。食べるのですかぁ?」

 

自分の頭の上で(エントマ)と親しげに会話を始めたジョンに不敬にも、むっとしたルプスレギナだったが、虫を食べるとの話題に肌を粟立たせ、ジョンにしがみついた。

そこまで虫が駄目なわけではないが、先ほどのシューストリング(芋虫のから揚げ)から恐怖公眷属の姿揚げまでの流れのショックが大きすぎて耐えられない。

恐怖公の眷属が全身を這い回っているような気すらして、気持ち悪いを通り越して恐怖に震えてしまう。

金の瞳に涙を浮かべ、抱き寄せられたままジョンを見上げるが、気づいた様子もなくエントマと会話を続けている。

 

発酵調味料(醤油)の材料にしようと思ってな。醤油麹菌は魔法で用意するしかないとしても、材料は現地のもので作りたいんだ……本当は大豆を使うんだけどな」

 

(だ、大豆で、大豆でお願いするっす!)

ルプスレギナの切なる願いはスルーされていく。

 

「米麹でもつくれるらしいから、そっちは料理長に何か美味い使い道を探してもらうようになるだろうな」

 

伝統的な醤油ではないが、21世紀初頭に地域活性化の一つとして虫を材料に醤油が作られた事があるらしい。

それなりに美味かったと記録にあるが、実際に作ったらどんな味になるのか? 

リアルでは醤油にしても、醤油っぽい何かしか味わった事が無いわけであるし、ジョンは非常に楽しみだった。

 

 

端から見ていると、ルプスレギナを怖がらせる為、ワザと虫の話を続けているようにしか見えないジョンとエントマの会話は、その後もしばらく続いたのだった。

 

 

漆黒の剣とゴブリン達には蒲焼(蛇)が好評だった。原材料を見せたら、ニニャから悲鳴があがり、ペテルとルクルットの頬は引きつり、ダインが感心したように頷いた。

食料が足りないんだ。好き嫌いはいけない。ジョンのその言葉にダインは大いに頷き、作り方が知りたいとの事だった。

 

 

残り3人の頬が引きつっていたが、美味いのだから何度か食べていれば慣れるだろう。慈悲はない。

 

 

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さて、メイドとはなんだろうか?

 

ペロロンチーノを始めとする紳士諸君にとっては、エロの重要なフレーバーの一つである主人に服従する使用人で間違いないだろう。

では、アインズ・ウール・ゴウンにおけるメイド製作班にとっては?

 

ホワイトブリムなどにとってのメイドとは、どんな存在だったのだろうか。

 

メイドとはヴィクトリア朝時代は役割が細分化されており、洗濯、寝室、客室、給仕、来客、お菓子担当など様々なメイドが存在していた。

 

勿論、ホワイトブリムはこれらを再現したメイド隊を製作したかったのだが、その理想の定数を揃えると100名を超えてしまい流石に外装担当が根を上げた。

その為、ホワイトブリムは止むを得ずメイド全てを『メイド・オブ・オール・ワーク』すべての役割を出来ると設定した。

 

 

モモンガは気づいていないが、メイド達はバフ効果のある料理こそ作れないが、バフ効果のないお菓子を作る事は実は出来たのだ。

 

 

キッチンメイドと言う分類もあるので料理こそ出来ないが、下ごしらえや仕込み、火おこしなどの雑務なら一流の腕前を彼女達は持っていた。そこまで出来るのに料理が出来ないのは、調理はコックが行うと言う資料に忠実な設定をしたホワイトブリムの熱意である。

 

一般メイド、男性使用人、料理長、プレアデス、セバスとペストーニャを加えても、60人少々と言うのは、ホワイドブリム理想のメイド定数の半分から三分の一程度であり、セバスが、モモンガなどにつけるメイドの数が少ないと感想を持つのも、そこ(ホワイトブリムの熱意)からきていると思われる。

 

 

であるから、メイド達は自分たちは至高の御方々の権威権勢を表現する部品であり、御方々に仕える事こそが自身の存在意義であった。故にブラック勤めだった、モモンガが休みを取らせようとした際には涙ながらに抗議をする事になる。

 

 

そんなメイド達の役割の中に、女主人の一切の身の回りの世話をするレディースメイドと呼ばれる役割があった。本来は上級使用人の一種であるが、仕えるべき女主人―アルベド―より交替で役割につくように指示があり、現在はモモンガ、ジョン、アルベドに仕えるメイドは(ルプスレギナを除いて)交替でその役目についていた。

 

アルベドはメイド達と等しく創造された側であるが、モモンガの伴侶として至高の御方々によって創造された事が広く知られた事から、彼女に仕え、彼女をモモンガに相応しく磨き上げる事が、至高の御方々の意志に沿い、モモンガへの奉仕へ繋がると理解されている為、アルベドは自然と一段高く扱われるようになっていた。

 

例えば朝の身繕い。

これまではアルベドも自身で済ませていたものだったが、モモンガと同室になってからメイド達によって、モモンガとは別に、アルベドの身の回りの世話をする班が組織された。

髪を、翼を梳り、普段は制服とも言える白いドレスだが、衣装を用意し、至高の支配者の伴侶に相応しくアルベドを磨き上げるのは、メイド達の新たな喜びだった。

 

 

出来るだけ自分で済ませてしまうモモンガと違い、仕えるものの喜びを知り、そのようにさせてくれるアルベドは彼女達にとって、仕え甲斐のある。ありがたい存在だったのだ。

 

 

そんなある朝、モモンガが服装を整え、アルベドに先んじて執務室へ入ると、いつもとは違い珈琲の香りが漂っていた。

モモンガはもともとお茶に拘りはなかったし、最近はアルベドの影響もあって紅茶の方を好むようになっていたので、珈琲の香りは新鮮に感じた。

 

ふむ、と首を傾げて執務室を見回せば、戦闘メイドや一般メイド達によって既に清掃や書類の準備が整えられ、彼女達が待機している中、応接セットでルプスレギナに淹れさせた珈琲を飲みながら、報告書を新聞のように眺め、寛いでいるジョンの姿があった。ジョンはモモンガに気づくと、顔と片手をあげて挨拶をしてくる。

 

「おはよう、モモンガさん。アルベドは言い付けを守ってくれてる?」

「ええ、皆やアルベドには申し訳ないですが……おかげで良く眠れています」

「良く眠れるなら、それに越した事はないよね。変な事を聞くけど、あんまりヤる気は起きないの?」

 

「精神作用効果無効の所為か、そういうのも抑制されるようなんですよ。正直なところ眠る前は結構な回数発動してますから、無かったら危なかったです」

 

「別に危なくても構わないんだけど……」

「もう少し状況が落ち着いてからですね。今やったら、アルベドに溺れて何もしなくなる自信がありますよ、俺」

 

「流石にそれは困るなぁ」

「でしょう。大体そう言う自分はどうなんですか?」

「あーうん。それねぇ……」

 

ジョンとしては先日の夜の散歩も、翌日にはデミウルゴスにまで知られていた事もあり、木を隠すなら森の中、スキャンダルはより大きなスキャンダルで覆い隠してしまえと、モモンガを先にやらせようとしているので、返事を濁したのであるが、そうは取らない者もその場にはいた。

 

(どれほど慕っていようとも、自分の一番に至高の御方をあげられない女なんて、御方のご寵愛を受けるのに相応しくないっすよね)

 

至高の御方の伴侶として自らの手で創造されたシャルティア。至高の御方々により、御方々の頂点であるモモンガの伴侶として創造されたアルベド。

そのアルベドに聞いた事がある。創造主とモモンガどちらが一番なのか、と。

 

「創造して下さった御方に感謝しています。けれど、一人を選べと言われたら迷わず愛する殿方を私は選ぶわ」

 

至高の御方は、その叛意すら受け止め、許して下さると言うけれど、ルプスレギナ・ベータ(自分)はどうしてもアルベドのように決断する事が出来なかった。

ジョン・カルバインが自分を見てくれている事はわかっている。自惚れでも慈しみ、好いてくれていると思っても良いだろう。

ジョン・カルバインの為に自分の全て、心も、身体も、魂も、全て捧げても惜しくないと思っている。

 

けれど、シモベとして創造された魂が囁く。お前の全てを捧げるのはジョン・カルバインではない。捧げるべきは創造主だ、と。

 

自分の創造主がもしもジョン・カルバインであれば、こんな想いは抱かなかったと思う。

ついこの間まではジョンを慕い、名前を呼ばれるだけで幸せだったのに、どうしてこんな急に不安になるのだろう。

敬愛する事は許されても、やはり「そうあれ」と定められていない自分が至高の御方を愛するなど過ぎた事なのではないか。

 

だからこそ、アルベドは(皆を)愛しているとモモンガに告げられても、自分はジョンにそう言ってもらえないのだろう。そう思ってしまえば、不安が募り、これまで感じたこと無い胸の痛みに呼吸が苦しくなる。

 

至高の御方を想うほど苦しくなるなど、シモベとしてどうかしている。自分は壊れてしまったのだろうか?

 

 

――ニグンからの報告では――

 

――こんな感じで――

 

 

以前は聞き逃すまいとしていた至高の御方々の会話も耳に入らない。

 

それでも――

 

「……良し。それじゃ行くぞ、ルプー」

 

そう自分を、自分だけを見て、声を掛けてくれるジョン・カルバイン(至高の御方)の笑顔があれば、この胸の切ない苦しみも甘美な喜びに変わる。

名前を呼ばれるだけで、自分の全てが満たされるような幸せを感じる。自分はジョン・カルバイン(至高の御方)に女として見られ、求められているのだと。この瞬間は迷いも悩みも忘れて、思い込む事が出来た。

 

 

その後に、また、胸を締め付ける切なさに苦しむ事になるとしても……。

 

 




人間の虐殺シーンと獲物の解体シーンってやってる事同じなんですが、魚でも蛇でも獣でも、獲物の解体と思えば私は平気なんですが、人によっては違いますよねぇ。
活動報告で「どこまでOK」か聞いて見たいです。

うちのヘタレは「俺のだ」と言っても、いまだ「好きだ」「愛してる」とは言ってなかった件。

次回本編「第30話:落ちた黒い涙」

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