オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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人が密集してるところで暴れると捏造設定が増えます。
うちは捏造ありですので、ご容赦下さい。……10巻でどうなるかドキドキです。

最近知ったのですが、原作者様によると転移後の世界は物理法則がリアルと違うので衝撃波とか発生しないそうです。
えー!?うち、もう衝撃波やっちゃったよー。完結前の作品における二次にありがちな現象です。笑って許して下さい。

でも、うちは捏造設定により、現在のところジョンは衝撃派や圧縮断熱を発生させる事が出来てる設定です。
どんな捏造設定かはネタバレになるので伏せておきます。一応、伏線(つもり)は張ってあります。

漆黒聖典隊長の名前「ケネウス」は「絶対的娯楽者降臨」の藍jamsolo様より許可を頂き、使用させて頂いております。
この場を借りてお礼申し上げます。ありがとうございました。



第30話:落ちた黒い涙。

その日、スレイン法国神都の最大の聖域の一つ水の神殿には厳戒態勢が敷かれていた。

 

ガゼフ・ストロノーフ抹殺任務に失敗し、帰還した陽光聖典隊長ニグンが持ち帰った情報は、神官長会議を紛糾させた。自らが仕えるべき神の帰還。あるいは神の裁き。

仮に土の神殿を崩壊させたのが、神の御業だとしても、神官長会議はニグンの報告の裏も取らずにそれを認める事など出来るわけも無かった。

 

風花聖典による現地調査班が編成され、同時に水の神殿では巫女姫による《次元の目》による調査が再び行われようとしていた。

 

陽光聖典隊長ニグンと、襲撃から生き残った土の副神官長は危険と神への不敬を理由に強固に反対したが、神官長会議は水の巫女姫の儀式には漆黒聖典を配置する事で最大限安全に配慮しているとし、儀式を強行させた。これらの情報はニグンより、神都に浸透したデミウルゴス配下を通じてナザリックへ報告が上げられており、儀式が行われる日時、護衛にあたる漆黒聖典の人数までもが、ナザリックに事前に把握されていた。

 

 

漆黒聖典から隊長ケネウス、一人師団クアイエッセ、巨盾万壁セドラン、神領縛鎖エドガール。これに"傾城傾国"カイレを加えた5名が水の神殿の警護に就いた。これはたとえ破滅の竜王が来ようとも捕らえる布陣だ。

 

 

そして、今、儀式を執り行う水の副神官長が水の巫女姫に《次元の目》によるカルネ村の遠隔視を命じていた。

 

 

突如――水の巫女姫を中心に漆黒の闇が生まれる。

ぽっかりとした黒い穴は何処までも何処までも吸い込みそうな、漆黒の色を湛えている。何処から見ても真円に見える実際は球体状の深淵に水の巫女姫は飲み込まれた。

 

土の神殿に発生したそれよりも遥かに巨大な深遠の穴。

 

それにその場の誰もが息を呑み、深遠の穴に注意を向けた次の瞬間、彼等の背後から奇怪な声が響き渡った。

「ギャギャギャギャ!」

「なっ!?」

ライトフィンガード・デーモンたちの声に驚き振り返った者達は、次いで深遠の穴から響き渡った冷気よりも冷たい、死そのもののような声に悪魔共々静まり返る。

 

 

『『悪魔達よ、静まれ』』

 

 

息を呑み、恐る恐ると振り返れば、土の神殿を崩壊させた蒼褪めた乗り手(ペイルライダー)が2体、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に騎乗した死の騎士(デス・ナイト)が6体に加え、魂喰らい(ソウルイーター)に騎乗した死の支配者(オーバーロード)が2体。

 

彼らは深遠の穴を挟んで整列し、深遠の穴の前には身長2mに達する逞しい人狼が彼らの主のように堂々と立っていた。

 

それら異形異能の列の中、人狼の左後方には、冬の月のように表情を冴え凍らせた赤毛の修道女。右後方には真紅の鎧を身に纏い、奇怪なランスのような武器と盾を持つ少女が異彩を放っている。

 

 

漆黒聖典隊長ケネウスは、緊張に唾を飲み込んだ。

 

 

骨の竜(スケリトル・ドラゴン)死の騎士(デス・ナイト)は部下たちで何とでもなる。蒼褪めた乗り手(ペイルライダー)も1体ならば自分が抑えられよう。

 

だが、魂喰らい(ソウルイーター)に騎乗している死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)は、死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)ではあるまい。魔神レベルの重圧を感じる。その証拠に、血を覚醒させた自分には及ばずとも漆黒聖典に名を連ねる部下たち……何れ劣らぬ強者である筈の“一人師団”クアイエッセの口からも「死の神…スルシャーナ様…」と、畏れ震える声が漏れていた。

 

 

神都に集結した漆黒聖典全員を……番外席次も含めて、ここに展開すべきだった。

 

 

陽光聖典隊長ニグンの言葉は決して誇張でもなかったのだと、ケネウスは疑り深い神官長会議を内心で罵った。

 

 

/*/

 

 

クアイエッセの掠れた「スルシャーナ」の御名を呼ぶ声が聞こえたのか、魂喰らい(ソウルイーター)に騎乗する死の支配者(オーバーロード)が眼窩に輝く赤い灯火をクアイエッセへ向け、彼らにとって当然の……法国の住人にとっては衝撃の言葉を放った。

 

 

『『我等は至高にして偉大なる死の御方に創造されしもの。愚かな人間よ。我等は神にあらず』』

 

 

その言葉にクアイエッセは崩れ落ちる。

従属神クラスの重圧を放つ死者の大魔法使い(エルダー・リッチ)を創造せし存在。それはまさしく死の神(スルシャーナ)と呼ぶべき存在ではないのか。

死の神(スルシャーナ)への信仰厚いクアイエッセにとって、崩れ落ちるだけの衝撃を持つ言葉だった。

 

 

隊長ケネウスは与えられた任務を思い返し、再び神官長会議を脳内で罵った。

 

 

この団体のリーダー格に傾城傾国を使え? ふざけるな! こんな状況で使用して従属神が暴走したらどうする気だ。

魂喰らい(ソウルイーター)3体でビーストマンは10万の被害を出したのだ。

引退した元漆黒聖典がいるとは言え、この集団が神都に解き放たれたら明日を待たずに神都は滅びるだろう。

 

はぁ。

 

ケネウスは内心で大きく溜息をついた。それでもケネウスは神官長会議の命令を無視するわけにはいかないのだ。

偉大な神の残した遺産。傾城傾国の使用をカイレに命じる。ケネウスの命令に従い力を解き放ったカイレの着用する傾城傾国は、その竜王すらも従える力を人狼(ジョン)へ叩きつけ……その力は、そよ風のように霧散していった。

 

 

――は?

 

 

そしてケネウスは気づいた。

人狼(ジョン)の纏う衣服。黒い厚手の服の上から、青色の貫頭衣を纏って黒い帯で留めているそれ(武道着)が六大神の装備に匹敵するオーラを放ち、傾城傾国に似たデザインである事に。

つまり、この人狼(ジョン)は神に匹敵する装備を身に纏う神域に住まう圧倒的上位者。神の遺産を振るう人間如きの力の届かぬ生きた神!

 

 

尤もそれは隊長の誤解だった。

 

 

人狼(ジョン)の武道着は神器級(ゴッズ)だが、世界級(ワールド)アイテム傾城傾国を無効化したのはモモンガから最大級の備えとして渡された世界級(ワールド)アイテム。フローズヴィトニルを装備していた事によるものだった。

 

 

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儀式の間をぐるりと見回した人狼(ジョン)は、視線を隊長ケネウスの上で留めると一人、足を踏み出した。

水面に波紋こそ起こるものの沈む事無く地面のように人狼は歩き続け、漆黒聖典へ向かってくる。

 

 

「哀しいな。(神官長会議)手足(陽光聖典)の言葉を信じないか。――我が盟主(アインズ・ウール・ゴウン)の言葉に耳を傾けないなら、こんな街は要らないな」

言葉と共に人狼(ジョン)の顔が笑みに歪んだ。

 

 

「クアイエッセ立て! セドラン、エドガール、カイレ様を守れ!」

 

 

隊長ケネウスの気合の篭った声にクアイエッセの目に力が戻り、クリムゾンオウル、ギガントバジリスクを召喚する。セドランとエドガールが得物を手にカイレを守るよう動き出す。

 

 

だが、左右でデザインの違う篭手を嵌めた人狼(ジョン)の腕が振り抜かれ、空を裂く。

手刀に切り裂かれた空気は、風の刃となって召喚されたクリムゾンオウル、ギガンドバジリスクを切り裂き、セドラン、エドガール、クアイエッセに襲い掛かった。

 

 

人類の守護者、漆黒聖典の隊員達は一撃で戦闘不能になる事は無かったものの、真空の刃(ソニック・ブレード)で深手を負った彼等は信じられないと膝をつきながら青い人狼を見上げる。

 

 

その人狼(ジョン)の腰が僅かに沈む。両の腕が、まるで早撃ちのガンマンのようにくの字に折れ曲がると、閃光のように閃いた。

 

圧倒的な身体能力、装備による底上げ、魔法による支援によって繰り出された空撃ちのパンチが空を叩き、空気を圧縮。それは本来、有り得ない現象であるが、それによって圧縮された空気が衝撃波の形で打ち出された――ようは男の浪漫、居合い拳。連弾衝撃波である。

 

人狼(ジョン)はその連弾衝撃波をクアイエッセ、セドラン、エドガール、カイレに叩き込む。メコォッ!とかドゴォッ!とか、絵的にも派手にひしゃげながら、彼らは吹き飛び、どう見ても死んでいる。

 

 

――だが、スキル《手加減》を使用しているので理不尽にもHP1で生き残っていた。

 

 

最早、勝ち目は無いと頭の片隅で自覚しながらも、隊長ケネウスは部下とカイレ、そして神都を守る為、槍を繰り出し、人狼(ジョン)へ立ち向かう。

こんな事になるのであれば、神官長会議も出し惜しみせずに番外席次をフル装備で繰り出せば良かったのだ。

 

 

そんな不平不満が渦巻いていても、繰り出された槍はケネウスが知る限り、番外席次にしか避けられない鋭さを持っていた。

 

 

人狼(ジョン)はそんなケネウスの槍の穂先すらするりとすり抜け、手の届く距離まで間合いを詰めてしまう。

そして、ケネウスの槍を繰り出した腕が取られ、襟元を掴まれ、ケネウスの身体は減速するどころか加速し、気づいた時には天地が入れ替わり、背中から衝撃が伝わっていた。

 

 

認識が遅れ、衝撃に息がつまり、信じられぬとケネウスは目を見開く。

 

 

神人の槍の間合いに容易く踏み込まれ、踏み込みの勢いそのままに投げ飛ばされ、神殿の磨かれた大理石の床に叩きつけられた事を、ケネウスは後日、部下達からの言葉で知る事になる。

 

今のケネウスは自覚なしに天地が入れ替わった驚愕と混乱。全身がバラバラになるような衝撃に呼吸が止まり、自分を跨いで立つ人狼(ジョン)の姿。そして追い討ちに打ち込まれる拳の衝撃に……意識は黒く閉ざされたのだった。

 

 

/*/

 

 

ケネウスは己の意識が覚醒した時、風切り音と自分の直ぐ脇に何かが突き刺さる音に気がついた。

自分がまだ生きている事に驚きながら、必死に彼は眼を開ける。

 

自らの脇に突き刺さっていたのは、見覚えのある十字槍にも見える戦鎌。

 

ドンッ!と鈍く響く戦闘音に眼をむければ、この騒ぎに乗じて墓所を抜け出してきた人類最強たる番外席次。同じ神人でありながら自分の及ばぬ力を持つ彼女が、青銀色のオーラ(天地合一)を纏った人狼(ジョン)に打ち倒されるところだった。

 

 

その衝撃をどう伝えれば良いだろう?

 

自分こそが最強。自分こそが漆黒聖典だと疑わなかった己の慢心を打ち砕いた少女が、生ける神である人狼(ジョン)になんら痛手を与えられずに打ち倒されたのだ。

 

 

彼は驚き、そして意識せず少女(席次番外)へ手を伸ばしていた。

 

 

そうだった。自分よりも強い男にしか興味が無いとされている番外席次。自らの慢心を打ち砕いてくれた少女に、彼はあの時からずっと惹かれていたのだ。

今、この時になって、ようやく気がつくことが出来た。

 

 

ジョンなら「つり橋効果じゃないのか?」と首を捻っただろうが、本当に若い漆黒聖典隊長(ケネウス)にとってはこの思いこそが真実だった。

 

 

自分の真実を得たケネウスは半死半生の身体に鞭打って立ち上がり、手を伸ばし、駆ける。

理解していた自身の限界を超えて動く身体が、手が、届く。

 

 

そして、意識を失っているのか、ぐったりとした少女(番外席次)の小さな身体を受け止めた彼は、彼女と共に吹き飛ばされた。

 

 

/*/

 

 

ジョンはルプスレギナからの各種バフに自身の自己強化に超位スキル《天地合一》まで使って圧倒的戦力差を見せ付けて、法国最強戦力である漆黒聖典を打ちのめした。

ニグンからの情報とデミウルゴス配下の者達からの情報を元に、モモンガとデミウルゴスと一緒に考えた脚本演出である。

 

漆黒聖典で最後に駆けつけた十代前半にも見えるほどの幼い外見の少女が最もレベルが高かった。

 

その外見は長めの髪は片側が白銀、片側が漆黒の二色に分かれており、その瞳もそれぞれ色が違い。更には艶やかな唇と特徴的な耳を持つと属性てんこ盛りで、武器が十字槍にも見える戦鎌。

 

その余りの属性の盛りっぷりに一瞬、プレイヤー?と疑ってしまった程だった。

 

だが、プレイヤーなら超位スキル《天地合一》まで使ってるモンクに無策に突っ込んでくるなど無いだろうからプレイヤーの子孫だろう。

その遺伝した厨二的な外見に合せて、こちらも強者の余裕たっぷりに語りかけ、【天地魔闘の構え】からのカウンターで仕留めてやった。

 

 

鍛冶長から上がって来た新装備のテストも兼ねた今回、装備の効果によってルプスレギナが使えるようになった魔法《精神結合》の効果によって遠征部隊は相互にMPの貸し借り、パーティメンバーを経由しての魔法発動が可能となっていた。

 

これにより、ジョンは自分で攻撃と防御を行う他、《精神結合》しているシャルティアが《ヴァーミリオンノヴァ/朱の新星》をジョンを基点に発動してくれる事で(本来は射線が通らない時に使うものなのだが)……。

 

 

厨二病、永遠の浪漫【()()()()()()()()()()()である。

 

 

キャラビルドこそネタ枠であるが……いや、であるからこそジョンは、ガチの廃人勢の一人として膨大な時間をかけ、データクリスタルを己の肉体武器――手足の爪、牙――に詰め込めるだけ詰め込んだ。

その肉体武器は神器級(ゴッズ)に届く。その上から神器級(ゴッズ)のナックルを装備する事で実質、武器を二重に装備している状態を生み出したジョンの繰り出す《手刀》は、重ねがけされたバフ効果とモンクの気功により強化され、まさしく『地上の如何なる名刀にも勝る余の腕』状態だ。

 

空手にある天地上下の構えから繰り出す《手刀》《カウンター》《回し受け》による攻防一体。その《回し受け》はゲーム時代と違い余りの速さに断熱圧縮で赤く輝き、フェニックス・ウィングのようだとジョンは悦に浸る。

 

だから、真空切りで衝撃波を生み出してる時に断熱圧縮が発生していない事を不思議に思う事もなかった。

 

唯一、《精神結合》からの魔法の外装がカイザーフェニックスになっていない事。もしくは召喚したフェニックスを体当たりさせられない事がゲーム時代からの劣化だったが、引換にフェニックス・ウィングの完成度が高まったのだからと自分を納得させる。

 

《手加減》は使っているが、《ヴァーミリオンノヴァ/朱の新星》を食らうまで意識があったところを見ると、厨二病が覚醒遺伝している少女は他の者よりかなりレベルが高い(覚醒遺伝は隔世遺伝と厨二病が覚醒しているのをかけた駄洒落です)。

この世界はモンスターが弱く、経験値が稼げない筈だが、一体どうやってレベルを上げたのか……追跡調査の必要があるだろう。

 

 

しかし、厨二病って遺伝するとは思いもしなかった。新たな発見である。もし、ワールドサーチャーズに出会ったら教えてやらねばなるまい。

 

 

隊長と呼ばれていた漆黒聖典のイケメン隊長は、カイレ様を庇う時より、吹っ飛ばされた厨二患者(番外席次)を庇う時の方が瀕死の癖に良い動きした。

つまり、このイケメン――ロリコンだ(ジョンから見るとケネウスはマジックアイテムの効果で青年に見えています)。

 

重度の厨二病患者とイケメンロリコンか。くつくつ、と喉を鳴らしてジョンは笑う。

それはジョンにとっては弄りがいのある逸材を見つけた喜びによるものだったが、周囲で聞く者達にとっては人類の脆弱さを嘲笑う嘲笑にしか聞こえなかった。

 

 

またジョン本人は気づいていないが、弄りがいのある逸材を見つけた喜びなど、ルプスレギナが玩具で遊ぶのと遊ばれる側からすればなんの違いもありはしない。

ルプスレギナに獲物を弄ぶ姿が猫っぽいなど言ってる場合ではなかった。

 

 

控えさせたシモベ達に一切の手出しをさせず、スレイン法国最高戦力である漆黒聖典を一人で圧倒的な戦力でねじ伏せたジョン。

這い蹲ってこちらを見上げる漆黒聖典各員も、儀式を取り仕切る高位神官も、儀式に参加していた神官も衛兵も、圧倒的な力に震え上がっている。

 

自分達は強いと思っていた者達が、それを上回る圧倒的な力で捻じ伏せられ、絶望的な表情でこちらを見上げてくる。

 

なるほど、確かにこれは快感だ。

これが、『己の強さに酔う…! どんな美酒を飲んでも味わえない極上の気分だぞ』と言うものか。

今更だが、異形種PKしたのはこれが欲しくてやっていたのかともジョンは思った。これは繰り返し味わいたくなるものだろう。

 

 

(……でも、これは飽きそうだ)

 

 

気分は最高なのだが、自分より高位のものを倒した時のような達成感、充実感が薄い。

仲間達と準備に準備を重ねて強敵を打ち破った時の達成感、万能感、一体感とは比べるまでも無い。

 

仲間達の手足となって勢子をしたり、仲間達が去ってからは教えを思い出しながら、こつこつと情報を集め、敵対勢力を一人ずつ闇討ちした喜びと比べると、単調で飽きそうだとジョンは感じた。あまり自分の好みではない。偶に味わうなら良さそうだが。

 

だが、パフォーマンスは続けなければならない。

 

今度は神殿の外、神都の住人、神官達にも圧倒的な力を見せ付け、屈服させる必要があるのだ。

その為、特に声を出さなくとも発動できるが、演出に何か呪文っぽいものを唱えろと指示をされていたので、自分用に図書館に突っ込んでおいた電子書籍を見直して何とか暗記した部分を芝居っ気たっぷりに唱え出す。

 

 

「偉大なる盟主を放逐し、その言葉を疑う大罪人。お前達は既に3度の過ちを繰り返した。かつて滅びに瀕したように、力に捻じ伏せられなくては信じられないと言うなら、見るが良い! ――《クム・フルグラティオーニ・フレット・テンペスタース/雷を纏い吹けよ南洋の嵐》」

 

 

右手の雷神拳より、《トリプレットマキシマイズ・ワイデンマジック/三重魔法最強化効果範囲拡大》《コール・グレーター・サンダー/万雷の撃滅》

 

左手の風神拳より、《トリプレットマキシマイズ・ワイデンマジック/三重魔法最強化効果範囲拡大》《ボルテックス・タイフーン/渦を巻く嵐》

 

 

これこそ最強の悪の魔法使いを自任するウルベルトにより製作された左右一対となる雷神拳と風神拳。

 

 

悪魔を無限召喚する世界級アイテムを真似てウルベルトが作成した第十位階魔法《アーマゲドン・イビル/最終戦争・悪》を六重で発動できる魔神像。

その六重発動の試作、実験の過程で生まれたのが、風神拳、雷神拳。

 

三重魔法最強化・効果範囲拡大などにより、万雷の撃滅と渦を巻く嵐が同時に発動し、仮想的に六重発動を行うものだ。

燃費は悪いが、範囲攻撃が弱い格闘系のジョンにとっては雑魚散しに非常に有り難い装備だった。

 

「《アウストリーナヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス/雷の暴風》!」

 

 

天へ向かって突き上げられた両の手が、月へ吠える狼の顎のように開かれる。

右腕からは万雷の撃滅が、左腕からは渦を巻く嵐が放たれ、それらは交じり合って正しく雷を纏い吹く嵐となって、天井の無い儀式の間から夜空に浮かぶ月へ向かって放たれる。その余波で儀式の間のプールを囲む白亜の石柱はなぎ倒され、細かな装飾の入ったフリーズを持つエンタブラチュアも粉々に砕けて散った。

 

 

法国最強の漆黒聖典を無手で容易く打ち倒し、大魔法を行使する人狼。

その力は従属神や魔神の枠に収まらぬ。水の副神官長は、陽光聖典隊長ニグンの必死な制止を思い出し、後悔する。

 

 

夜闇を引き裂く轟音と共に水の神殿から吹き上がった雷を纏い渦巻く嵐は、神都全域から見る事が出来た。

 

 

「それでは始めよう。裁きの時間だ」

 

 

ちなみに繰り返しになるが、別に詠唱はしなくても風神拳と雷神拳の魔法は発動する……でも、その方がハッタリが効くだろう?

 

 




次回本編「第31話:雨、逃げ出した後」の予定でしたが、第30話が長くなったので途中で区切りました。
次回は「第30話:落ちた黒い涙(後編」です。君は黒い涙を見る( ー`дー´)キリッ

前後編から上中下、完結編1・2・3にはなりませんw


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