オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第3話:怒れる死の支配者。

アインズ・ウール・ゴウンのギルド長、モモンガは骸骨となった身を震わせて怒っていた。

信頼すべき仲間に怒っていた。

それはもう、思わず《ファイヤーボール/火球》で突っ込みを入れるぐらい怒っていた。

 

 

――それは何故かと問われれば、

 

 

(NPC達が我々を裏切り、襲ってくる可能性も捨て切れません。確認が取れるまで警戒はすべきでしょう。って言ったのに。

この人(ジョン)、どうしていきなりフル装備のコキュートスと戦ってるんだ!? しかも自分は武器なし、防具なし。嬉々としてって馬鹿なのか!? ゲームじゃない。現実だって言ったの自分だよな!? 死んだらどうするんだ!? ああ、もう怪我までして、馬鹿じゃないのか!?

 

打ち合わせしたでしょうが!? NPCたちの忠誠の確認を取るまでは慎重に警戒して行こうって!? 打ち合わせたのに、この人は……こんの駄犬はぁぁッ!!)

 

 

アンデッドの精神作用効果無効が連続して発動する程にモモンガは怒っていた。

その度に死の支配者からは絶望のオーラが吹き上がり、スタッフからはどす黒い赤色のオーラ揺らめきながら立ち上がる。時折それは人の苦悶の表情をかたちどり、崩れ消えていく。

どこから、どう見ても、怒り狂う魔王そのものだった。

 

 

(……ああ、馬鹿でしたね)

 

 

余りの怒りに精神作用効果無効が発動し、怒りが凪いで冷静になる。

 

(格闘キャラにはまって、リアルでも格闘技スクールに通いだして、数年で全国4位になるようなバトルジャンキーでしたね。

ゲームとして限界があるから、当り判定を受け流せないとか悔しがった挙句に当り判定の発生しない箇所を払って受け流すとか、気が狂ったとしか思えない事をしでかしてチート呼ばわりされて凹んでましたものね。

装備と相性の問題で爆発力はあっても、総合では上の下~中の上クラスでしたけど、現実になってその辺りが思うように出来て嬉しいのでしょうねぇ。ええ、馬鹿ですけど)

 

 

(駄犬ですけど)

 

 

幾度と無くモモンガからは絶望のオーラが吹き上がり、スタッフからは揺らめきながら立ち上がるどす黒い赤色のオーラ。

激しい怒りの感情と平静を行き来する死の支配者にして魔王。間欠泉のように吹き上がる絶望のオーラは最高位のスタッフに増幅され、守護者たちに身動きすら許さない。

 

 

「あ、あのー、モモンガさ……様」

 

 

身動きの取れない守護者達を横目に、ジョンが恐る恐るモモンガに声をかけた。

尻尾を足の間に挟み込みそうなほど腰が引けていたが、動けるだけ守護者達よりまだ増しだろう。

髑髏の奥で輝く赤い光がジョンをぎろりと睨みつける。スタッフで闘技場の地面を指し示すと、普段よりも更に一段低い声が響き渡る。

 

「ジョンさん、そこに座って下さい」

「あーでも、守護者の皆も集まったことだし……」

 

「そこに座れ、駄犬」

 

「サー! イエッサー!!」

 

地獄の底から響くようなその声に、ジョンは迷い無く敬礼し、土下座の勢いで正座をした。

駄犬ことジョン・カルバインは後日「マジで死ぬかと思った」とコメントしている。

 

 

/*/

 

 

《守護者統括のアルベドですら、こう言ってましたよね。

「我等へと最後の別れを告げ、お隠れになった至高の方々。……カルバイン様も、モモンガ様へ別れを告げにいらっしゃったのでありましょうか」

 我々がNPC達を捨てたと思っているなら、彼等が我々を裏切り、襲ってくる可能性も捨て切れません。確認が取れるまで警戒はすべきでしょうと言いましたよね》

 

「肩慣らしに基本動作から確認したのは良いでしょう。ですが、怪我するまでやる必要が何処に……

 いや、コキュートスの一撃でどの程度のダメージを受けるかとか、回復はどうなってるとか確認したかったのも分かります。

 分かりますが、それならまともに装備をしてから……」

 

《メッセージ》と肉声で同時に説教を受けながら、同時に違う話できるモモンガさんすげーとジョンは考え、自分も両方の話を理解しながら考えている事に気がつき、自分の頭の出来も変わってる事を実感する。

 

見れば、スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンでブーストされているモモンガの絶望のオーラを受け続け、そろそろ守護者達も限界のようである。

 

なんとかモモンガさんを誤魔化し……げふげふ、落ち着いて貰って、本題に戻らなければ。

ジョンはきりっと擬音が出そうな程、神妙かつ真面目な表情を作り、モモンガの話に割って入った。

 

 

「モモンガさん、それは違う。

 

 アインズ・ウール・ゴウンの仲間達が離れ、守護者たちが不安になっているからこそ、俺は、守護者たちを、モモンガさんを、ギルメンを信じます。

 

 信じる事を選びます。

 

 分からないから、信じる事が出来るんです。

 だから、分らない事は良い事なんです。分からなくても信じたいと思える事が――俺たちの絆だから」

 

 

怒り狂う魔王の重圧を受け、最早、空気そのものが死に染まるような中で、それでもジョンは守護者達を信じると口にする。

その姿にアルベドは、玉座の間で不安にかられて無様をさらした自分を恥じた。同じ不安にかられても、これが至高のお方の絆の強さなのだろう。

自分達の不安も、狂気も飲み込み、それでも信じると言って下さる至高の御方の器のなんと大きな事であろうか。

 

 

「だから、俺は全開でぶつかり合わないといけない。俺は何処にも行かないし、モモンガさんを何処にも連れて行かない。

 俺はこれまで通り、モモンガさんとアインズ・ウール・ゴウンを守ると示さなきゃならない。

 

 それで裏切られたら仕方ねぇって事で。俺はその程度だったって事です」

 

 

そう言ってジョンは牙をむき出して笑った。

そんな事ありません。そうアウラとマーレは口にしたかった。

だが、怒れる死の支配者の重圧に口は動かず、恐怖ではなく己の無力に涙が零れそうだった。

 

 

「ギルメンだって、別にアインズ・ウール・ゴウンを、俺たちを裏切った訳じゃないし、俺たちを見捨てたわけじゃない。

 ただ一寸、他に優先する事があって来れなかっただけ。皆、ここにいる間は無敵の大怪獣だけど、弱い自分のままで挑む事、挑みたい事があっただけだ」

 

 

その言葉にデミウルゴスは考える。

 

至高の41人が弱いと言う世界。それはどのような世界なのだろうか。

吹き荒ぶ風は嵐となって山を削り、降り注ぐ雨は竜殺しの槍となって竜をも殺す。男子の生存率は1%を切る修羅の国だろうか。それは神器級、超位魔法、或いはワールドクラスの攻防が乱れ飛ぶ神々の世界なのだろうか。

 

 

それほどの超越者の世界に至高の41人は挑んでいると言う。

何の為に?

問うまでもない。アインズ・ウール・ゴウンの威光を知らしめる為にだ。

 

 

「俺とモモンガさんはそこでやるべき事を見つけられず、ここに残ってしまった」

 

 

(違う。断じて違う)

 

デミウルゴスは至高の御方であるジョンの言葉を心中で即座に否定する。それは不敬であったが、彼の信じる御方々がそのような理由で残るわけがないのだ。

 

『俺より強い奴に(殴り)会いに行く』と普段から装備を封じ、相対的に己を弱体化させてまで強者を求めるカルバイン様が、そのような修羅の国に旅立つ機会を捨てるなど有り得ない。至高の方々を誰よりも愛しているモモンガ様が至高の御方々と別れるなど有り得ない。

 

その有り得ない行動。それは何故か? 考えるまでもない。

 

その全て、至高の方々に比べ、遥かに脆弱な我々を巻き込まない為だ。

かつて第8階層まで攻め込まれ、情けなくも全滅した。我々守護者を巻き込まない為だ。

そして、置き忘れ、放置され、自分たちは見捨てられたと、幼子のように泣く我々シモベ達の為だ。

 

デミウルゴスは、心中で不甲斐なさを恥じ、至高の御方の秘す偉業に、慈悲深さに、心からの敬意を示した。

 

 

「モモンガさんが、そんな俺を心配してくれるのは嬉しい。

 ……けれど、でも、それでも、仲間たちと創ったアインズ・ウール・ゴウンは俺の全てで、俺の信じる仲間たちが創った守護者たち、アインズ・ウール・ゴウンそのものに殺されるなら――俺は本望だ」

 

 

(……ああ、これは効く。これまで受けたどんな攻撃よりも効いてしまう……これではセバスと同じではないか。

 

脆弱な、不甲斐無い自分たちの為に死んでも良いなどと、他の至高の方々に追いつけなくても良いとまで言って下さるこの御方は、どれほどの決意と覚悟で我々の元に残って下さったのか)

 

身を震わせるコキュートスと、嗚咽を隠そうともしないシャルティアとアウラとマーレ。

そして、血が流れ落ちる程に拳を握り締め、それでも堪え切れない涙を流すセバスに懐から取り出したハンカチをそっと差し出す。

 

「執事とは常にエレガントにあるべきではないのかね」

 

自身の頬を伝う涙など知らぬふりを通して。

 

 

この日、守護者達は自分達が守護すべき至高の御方に自分達こそが守られているのだと言う事を理解した。

 

 

《あー、たっちさんとウルベルトさん、普段は喧嘩してても、こう言う時はこんな感じでしたっけねー》

《ええ、そうですね。ところで……これで私を誤魔化したつもりですか?》

《い、良い話でまとめたのに!?》

 

 

/*/

 

その後、集合した守護者からの忠誠の儀を受けると、セバスを交えて現在ナザリック地下大墳墓がおかれた状況と今後の動きについてモモンガは指示を出す。

そして、最後の確認としてモモンガは守護者達に自分達をどう思うかと問いかけた。

 

「まずはシャルティア」

「モモンガ様は美の結晶。まさにこの世界で最も美しいお方です。その白きお体と比べれば、宝石さえ見劣りしてしまいます」

「モモンガ様が美の結晶であるならば、カルバイン様は戦の結晶。屠った数十万の熱き血潮で鍛え上げられた、モモンガ様の懐刀です」

 

《骸骨って美しいのか……》

《シャルティアはそう言う趣味ですからね。モモンガ様って繰り返してるし》

 

 

 

「――コキュートス」

「モモンガ様ハ守護者各員ヨリモ強者デアリ、マサニナザリック地下大墳墓ノ絶対ナル支配者ニ相応シイ方カト」

「カルバイン様ハ己ニ枷ヲカシテマデ、強者ヲ求メ続ケル、マサニ武人ノ鑑デアリマス」

 

《強者って……ロールプレイ重視のスキルビルドだから、ガチでやったらシャルティアに負けると思うけど》

《シャルティアのスキルビルドはガチですもんね。……落ち着いたら、シャルティアともやってみようかな》

 

 

 

「――アウラ」

「モモンガ様は慈悲深く、深い配慮に優れた素敵なお方です」

「カルバイン様は至高のお方のご威光を広める素晴らしい方です」

 

《深い配慮とかなんだよと思うけど、それでも無難に感じてしまいますね》

《ご威光を広めるって、なんだ?》

《ダーシュ村の開拓では無いでしょうか》

 

 

 

「――マーレ」

「モモンガ様は、す、すごく優しい方だと思います」

「カルバイン様は、そ、その、も、もふもふです」

 

《……なに、それ?》

《以前、ぶくぶく茶釜さんに狼形態でマーレに腹枕をしろと言われまして……子供と動物が戯れているのは良いとか……SSまで撮られて……》

《かわいいは正義って言ってましたっけ》

 

 

 

「――デミウルゴス」

「モモンガ様は賢明な判断力と、瞬時に実行される行動力も有された方。まさに端倪すべからざる、という言葉が相応しきお方です」

「カルバイン様は脆弱な我々の為に、この地に残って頂けた慈悲深きお方です」

 

《端倪すべからざるなんて始めて聞いたよ。誰だよ、それ!? デミウルゴス、お前は誰を見てるんだ》

《いやでも、モモンガさんのとっさの思考の瞬発力は凄いと思うよ。ところで、デミデミの俺を見る目が優しいんだけど……何かしたっけ?》

 

 

 

「――セバス」

「モモンガ様は至高の方々の総括に就任されていた方。そして最後まで私達を見放さず残って頂けた慈悲深き方」

「カルバイン様は力無きもの達へ手を差し伸べる事の出来る方。そして、お姿を見せた時は私達にお声をかけて下さる慈悲深き方です」

 

《そんな事やってたんですか?》

《いや、セバスはついでで……俺はルプーの顔を見に行ってただけなんだけど……すまん、セバス》

 

 

 

「そして最後になったがアルベド」

「モモンガ様は至高の方々の最高責任者であり、私どもの最高の主人であります。そして私の愛しいお方です」

「カルバイン様は、モモンガ様と私どもをお守りして下さるお方。まさにアインズ・ウール・ゴウンの騎士であります」

 

 

《ナイト・オブ・アインズ・ウール・ゴウンwww》

《やめろ、骸骨。ぶっ飛ばすぞwww いいや、アルベドの愛しいお方www》

《タブラさーーーん!!》

 

《どうすんの、この高評価》

《一体、誰を見てるんでしょうか。……ジョンさんが泣かせたせいでしょうね》

《人の所為にすんなや骸骨。うーん、あんまり、彼らの前ではおちゃらけないほうが良いか》

《もう遅いような気がしますよ、駄犬》

 

 

「……では、私は円卓でジョンさんともう少し話がある。後の事はアルベドに任せる」

 

モモンガの発言に肩をビクッと揺らす駄犬ことジョン。

 

《違いますよ。ゲームじゃない以上、ジョンさんにも装備を整えて欲しいと言うだけです》

《あー、うん、装備ね》

 

守護者達には威厳たっぷりに、内面は肩の力を抜きまくってるような二人は、そうして、指輪の力を使用して闘技場から姿を消した。

後には拝謁の姿勢で崇拝すべき主である至高の二人から、圧倒的な畏怖と恐怖で威圧され、感動に打ち震える守護者達が残されていた。

 

 


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