オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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11日は成人の日。15日は昔の成人の日。
せっかくなので何か大人(アダルト)な話でもと思いましたが、無理でした。



第31話:雨、逃げ出した後。

ジョンは考える。

自分たちは――PCもNPCも――ゲームシステム上の制限を受けている。

 

デミウルゴスも武器防具の製作は出来ないが、ウルベルトが設定した通りに家具職人顔負けの腕前で日曜大工を行えている。

料理人クラスの無いPC、NPCは料理が出来ないが、転移後の世界の住人はクラスがなくとも料理がつくれ、そこに特別な効果は無い。

 

「強欲と無欲」で経験値がある事も確認できた。

 

蘇生魔法は死体ではなく魂にかけるとモモンガは見ている。

なら、この意志は神経細胞の火花、脳の記憶情報の影ではなくて、実在する魂の表れ? 魂の強さが肉体に影響を及ぼしている? 100Lvで経験値が上限と言う事は魂の容量が一杯と言う事? 魂を拡張すれば成長できる?

 

 

……まったく、とジョンは頭を振って暗くなった空を見上げる。

 

 

自分の存在なんて肉体が死ねば消えていく脳神経細胞の絡み合いが形成する記憶情報の影でしかないと思っていたのに、魂があるとか。

死ねば情報は揮発して、消滅する存在だと思っていたのに、と胸に手を当てて小さく笑う。

 

俺に魂があるのか。魂は鍛えられるものなのか? 魂の拡張ってどうやるんだ? 瞑想するとか、滝に打たれるとか? 悟りを開くとか?……最後なにか違うな。

モンクらしく小周天と大周天をやってみている。大周天は天地合一の感じに似てるが、あそこまでの一体感は無かった。《星に願いを》が一番簡単そうだが……。

 

 

モモンガはルプスレギナに戦闘での経験値獲得によるレベルアップを試させている。

それはその前に実験的に使用した《星に願いを》で、一般メイドの一人に料理人のクラスを取得させられた事から、99Lv以下のNPC達が成長する分には拠点のNPCレベル制限に引っかからないとモモンガが判断した事によるものだ。

 

ゲーム時代のようなスキル構築は望めないにしても、99Lv以下のNPC達が成長できるなら、ナザリックの強化に繋がると戦闘による経験値獲得をモモンガは検証している。

 

経験値の存在は確認できたので、スキルによる召喚モンスターを「強欲と無欲」で経験値に還元する事で、定期的に《星に願いを》使用できる目処が立ったのは大きい。

《星に願いを》で得られるものには、情報もあるのだ。場合によっては世界の法則といった本来ならば簡単に手に入らない情報を得る事も出来る。

例えば、1Lvの一般メイドにクラスを取得させるならば経験値消費なしでも可能だが、紅蓮などの高レベル存在になると最大経験値消費を複数回必要とすると言った情報などだ。

 

 

それにしても、前回、神都で戦った漆黒聖典隊長と番外席次はやけにレベルが高かった。

 

 

この世界では経験値を効率的に稼げるほどモンスターも湧かず、経験値が多そうな存在とは危なくて戦えない筈。この世界独自のレベリング手段が存在し、それを法国から得られればナザリック強化が捗る事だろう。

 

 

そんな事を考えながらジョンは1日の作業を終えて、カルネ村アインズ・ウール・ゴウン教会の居住区へ入っていく。

 

 

料理長が作った夕飯を食べる前にルプスレギナの料理特訓を見てやるのも日課になっていた。

作っている本人は作っている間の意識、記憶が曖昧になっているようだが、クラス制限に引っかかる行動が少ないジョンは自分でそれを体感する事がなかなか出来ないでいる。

 

骸骨の外見で表情などが分かり難いモモンガでは良く分からなかったが、ルプスレギナが料理をしようとしている間は、眼も虚ろで意識も朦朧としている様子だった。

まるでこの世界に転移する前になかった機能は搭載されていないかのようだ。

 

 

けれども、定められたものだけではなく、自分の意志で料理をしたいと思う事が出来たのなら、NPC達も新しい事――料理も出来るようになるのではないかと、ジョンには信じられるのだ。

 

 

/*/

 

 

ジョンにしてはシリアスに考えながら、ルプスレギナの待つ教会の居住区に入った彼は思考停止していた。

 

出迎えたルプスレギナは普段のメイド服ではなく、シャルティアより貸し出された魅惑のビスチェ(ビスチェドレス)でジョンを出迎えてくれた。

どうっすか?と、自分の前ではにかみ笑いでくるりと回って見せたその姿は、髪も普段の三つ編を解いてアップにし、うなじと背中が良く見えて、ジョンはごくりを唾を飲んだ。

 

(あれ、この装備ってTバックだったよな? 下も良く見てれば……)と、思わず内心で滂沱の涙を流す変態紳士見習いである。

 

ルプスレギナはルプスレギナで、身体の前で両の手を組み、媚びるような上目遣いでジョンを見上げる。

緊張の余り普段の砕けた調子はなりを潜め、定められたメイドとしての作法で姿勢良く立ち、手を合わせているので、その扇情的な装いと洗練された姿勢に媚びる視線のギャップが、本来は高嶺の花である女性(ルプスレギナ)女性(ルプスレギナ)の意思でこれだけの事をさせているとの認識が、弥が上にも(いやがうえにも)男の独占欲、支配欲を満たし、息が止まるほどジョンを興奮させた。

 

 

「お、お風呂にしますか? お食事にしますか? そっ、それとも私にしますか?」

 

 

そして、まさかの新婚三択である。ジョンは緊張と興奮で口内に張り付いた舌を苦労して引き剥がしながら、問いに問い返す空気の読めない発言が精一杯だった。

普段は意識せず出来る事でも、相手から迫られ、意識させられると途端にロールプレイする余裕も無くなり、馬脚を現してしまう。

 

「ど、どこで覚えたの。そんな言葉」

「えっと、その、アルベド様に……」

 

シャルティアかと思ったら、アルベドだった。

 

 

どれにするって……勿論、(ルプー)だろJK。

……いや、待て。いきなりがっつくのはかっこ悪い。ここは風呂で(ルプー)じゃなかった。風呂→(ルプー)→食事で、(ルプー)おかわりだろJK。

 

 

これが精神作用効果無効を持っているモモンガならば「そんな事、知らんよ」と答えかけ、寂しい現実生活を思い出し、男の矜持で「なかなか魅力的であったぞ、アルベド」とか答えられただろう。たが、ここにいるのは身も心もロンリーウルフとなった童貞だ。冷静に答える余裕などありはしない。

 

据え膳食わぬはと言うが、食べる想像をするだけで頭の中が一杯で眼がぐるぐるしているロンリーウルフ(ジョン)

緊張の余り半開きになった口に、表情の消えた狼頭。外から見ると何を考えているのか読めず一寸ばかり怖い。

 

「……あ、あの、ジョン様?……」

 

黙り込んだジョンに気分を害してしまったのかと、恐る恐る声をかけるルプスレギナが、ジョンには自分に媚びる艶っぽい嬌態に見えた。

その姿にジョンは心臓(ハート)を打ち抜かれ、思わずよろけ、一歩を退いてしまう。

 

「あっ……」

 

その一歩。たった一歩に何を察し、何を感じたのか、ルプスレギナの金の瞳にはみるみるうちに涙が盛り上がった。

己の致命的な失敗を悟ったジョンが何かを言う前に、その涙はぽろぽろと零れ落ち、胸の奥から湧き上がる正体不明な感情は、彼女自身にも思いもしない行動を取らせてしまった。

 

 

「……ッ!」

「ルプー、待てッ!!」

 

 

それは逃走。

ジョンの制止の声にも立ち止まらず、ルプスレギナは嗚咽を堪えるように口元を押さえ、居住区から飛び出してしまったのだった。

 

「え……ちょっ……」

 

ルプスレギナ(NPC)が自分の制止も振り切って飛び出した事、泣かせてしまった事に、ジョンは自分の一歩がルプスレギナに与えた影響に思い至り、胸の奥にじわっと暗く冷たい痛みが広がっていくのを感じていた。早く追いかけて誤解を解かねば……そう思いながら。

 

 

「モ、モモンガさんに探しに行って来るって連絡して……」

 

 

ルプスレギナが身を切られるような悲痛な表情で自分の脇を駆け抜けて行った瞬間が頭から離れない。

今の自分ならば、声を掛ける前に彼女を力ずくで引き止める事など容易い筈だったのに、涙を零し、嗚咽を堪えながら走るルプスレギナに身体は硬直し、手を伸ばす事が出来なかった。

 

 

「……ああ、アルベドにも言った方が良いのかな……」

 

 

異形種となり、精神は変容し、人間の生死に頓着せず戦いの喜びに身を焦がすようになっても、現実で無縁であった癒し――絆を、愛を、仮想に求めた孤独であった精神は、恋愛という未知に恐れ戦き、普段ならば容易く踏み出せる一歩を踏み出せずにいた。

 

 

/*/

 

 

ナザリック地下大墳墓第九階層。

その豪華絢爛たる居住区の一つモモンガの私室兼執務室となった部屋だ。ジョンはルプスレギナを探しに行く事をわざわざモモンガ報告へ訪れ、今、ゆらりと紫のオーラをまとったアルベドを前に文字通り尻尾を巻いていた。

 

 

「……至高の41人が御1人、ジョン・カルバイン様。私の意思(叛意)選択(殺意)。その全てを至高の41人は許されると仰いました。その寛大なる慈悲に甘えるかのような物言いは本意ではありませんが、あえて言わせていただきます。

 

――逃げましたね?」

 

 

普段の果断な様子も無く、言い難そうにモモンガへ、ぽつりぽつりと事情を話すジョンの姿に、アルベドの胸の中ではごうごうと音を立てて怒りの炎が燃え上がっていた。

これまでならば怒りが燃え上がるにしても、至高の御方の思いに応えられず、逃げ出したルプスレギナへの怒りが燃え上がった事だろう。

だが、自分の全てを肯定して下さった創造主が、その心を自分へと託し、モモンガとナザリックの仲間達を愛し、支えられるよう定めていった事。愛し、支えられる事を願っている事を知り、自分の蒙は啓かれた。

 

創造主たる偉大な至高の41人とて完全ではなく……自分にモモンガを託す事もあれば、仲間同士で支えあう事も、シモベを頼る事もある。

 

至高の41人の中で年若い存在だったのか。ジョンは他の至高の41人から弄られている事があったように思う。

自分達の創造主達は、未知を追い求め、未知を何よりの娯楽とする至高の存在であるが、それでも恐れの感情はあるのだ。背中を押してほしい時はあるのだと、今のアルベドは思う事が出来た。

 

この怒りの炎も、慈愛の炎も、ジョン・カルバインが与えてくれた。誤解から心を凍らせた自分の心を溶かし、モモンガを愛しても良いのだと。その為に思う事は全て自分たちが、自分は許すのだと言ってくれた。

 

 

ならば、不敬であると罰せられる事になろうとも、その言葉を信じて、シモベでも、サキュバスとしてでもなく、至高の御方を愛する女の一人として、自分はこの御方に怒らねばならない。

 

 

「ルプスレギナがカルバイン様に喜んでいただこうとあそこまで恥を忍んで定められた服装も替え、カルバイン様へ尽くそうとしましたのに!! 女に恥をかかせるなんてッ!!  それでも至高の41人が御1人ですかッ!! モモンガ様など『なかなか魅力的であったぞ、アルベド』とか! 冷静に返してくださって益々惚れ直したと言うか――もっと我を忘れて獣のように襲い掛かって下さっても良いのとか!!!」

 

「あ、あのアルベ…ド…SAN?」

 

「モモンガ様は黙っていて下さいませ!」

「あッ、はい」

 

 

ジョンは『モモンガさんも三択やられていたのか!?』とか、『どうしてそんな冷静に返せるんだよ、この骸骨!!』とか、言いたい事はたくさんあったが、助けてくれるのかと期待させておきながら、アルベドの一喝ですごすごと下がっていくモモンガに、『骸骨弱ぇー』と自分を棚に上げて現実逃避していた。

 

 

……え、NPCに叱られてる俺? そんなの知らないよ。

 

 

《ちょッッ!!モモンガさん見捨てないでぇッ!?》

《女性を怒らせた時は全部自分が悪いで受け入れた方が良いそうですよ。茶釜さんにしぼられた後のペロロンチーノさんが良く言ってました》

《ペロロンチーノぉッ!?》

 

 

「……聞いていらっしゃいますか? カルバイン様!?」

「もちのロンです!」

 

 

「普段からルプスレギナの胸やお尻を眺めるだけで手を出さないし、放置プレイですか視姦ですかと問い詰めたいのも我慢して、ルプスレギナに新婚三択を授けたのに……よりにもよって、びびって一歩退いて拒絶されたと誤解させたあげく直に追いかけもせず、こんなところで私に叱られるのを望むとか、どれだけMなのですか!? それとも新手の放置プレイですか!? このヘタレ狼!!」

 

 

男のチラ見は女性に100%バレてるって本当なんだなぁ。アルベド(美人)に正面から糾弾されるのはいたたまれない。恥ずかしくて死にそうだ。……ああ、これが穴があったら入りたいって奴か。一つ賢くなったぞ。うん。

 

 

そ、それに視姦は本能なんです。仕方ないん…で…いえ、なんでもないです。はい、私ヘタレの駄犬であります。

 

 

耳をぺたんと後ろに倒して、尻尾をたらしたジョン。その前で肩で息をつくアルベド。

そこへ恐る恐ると言った風に死の支配者(オーバーロード)が声をかけた。

 

 

「ア、アルベドよ。そろそろ、ジョンさんにルプスレギナを追わせた方が良くはないか?」

 

 

「モモンガ様、申し訳ございません! 全てを許すと言うお言葉に甘え、至高の41人へ私なんと言う不敬をッ!」

「良い。良いのだ、アルベド。お前の全てを許そうと言った言葉に偽りはないのだ。お前たちが私たちをどう思うとも、私達がお前たち皆を愛する事に変わりはないのだ」

 

モモンガの言葉にぱっと振り返るアルベドの表情は、一瞬で怒れる般若から恋する乙女の華やかな表情へと変わり、心底申し訳なさそうにモモンガへ頭を下げていた。

その姿に、女って怖いんだなーと、ギルメンの体験談を思い出しながら思う駄犬(ジョン)だった。

 

「ありがとうございます! 愛すると言われ、喜びに身を震わせない女がいるでしょうか。そのお言葉だけで私はどのような不安でも耐え、乗り越えていけます」

「私は…? アルベドよ。ひょっとしてだが、ルプスレギナは……」

「は…畏れながら、ルプスレギナはカルバイン様よりそう言った肯定のお言葉を頂いた事がございません」

 

 

え? モモンガさん、アルベドに『愛しているぞ、アルベド』とか言ってるの?

なにそれプロポーズ?

え? わざわざ言わなきゃ駄目なの? って、モモンガさん。なんかコワイヨ?

 

 

「……ジョン=SAN」

「ハ、ハイ、ナンデショウ。ももんが=SAN」

 

 

「こんのぉヘタレがぁッ!!」

 

 

ひさしぶりにモモンガの執務室に爆炎の華が咲いた。ひさしぶりの《ファイヤーボール/火球》での突っ込みであった。

 

何よりも大切であったギルドメンバー達。無くしたくなかった。守りたかったナザリックは、かけがえのない仲間達と築き上げたものだからこそだ。

だかこそ、モモンガは仲間達の作り上げたNPCの背後に仲間達の姿を見る。

仲間達が創り上げ、愛したナザリックも、NPC達も、もう何も失いたくないモモンガの宝なのだ。

 

それを悲しませ、不安がらせるなど、モモンガには出来ない。

 

絶対の支配者であるとロールプレイを続けているのは、最早、自身の身の安全だけではなく、仲間の残した子等であるNPC達を悲しませない為、自分と同じ寂しさを味わわせない為でもあるのだ。

 

そうであればこそ、どのような歯の浮くような台詞でも口に出来る。

だと言うのに、この駄犬は自分が恥ずかしいからと、言うべき事を言わずにNPCを傷つけた。

 

NPCに手を出すなと言うつもりは毛頭ないが、NPCを不安がらせるのだけは許すわけにはいかない。

 

 

「ええ!? なんでモモンガさんにまで!? てかモモンガさん、なんでそんな事恥ずかしい事素面で言えるんだよぉッ!! と言うか、何時の間に言ってるんだよぉッ!!」

「自分が本当に思ってる事を口にするのに何が恥ずかしい事がありますかッ!!(嘘です。精神作用効果無効がなかったら、モモンガ様もそんな事は言えません。多分)」

 

 

「オンドゥルルラギッタンディスカー!!(本当に裏切ったんですかー!!)」

 

 

余りのショックに滑舌が悪くなり、ネタではなく本気でオンドゥル語になってしまったジョンだった。

モモンガは変態紳士までとはいかなくとも、聖なる夜をゲームで過ごす程度には同士だと思っていたのに、自分の嫁にわざわざ『愛してる』とか言ってるとか、どんなリア充だ。

たっちさんぐらいしか言えない台詞だと思っていたのに、モモンガさんが、アルベドに『愛してる』って言ってるって、そんな……。

 

 

「ウゾダドンドコドーン!(嘘だそんなことー!)」

 

 

「……何を言ってるのか分かりませんけど、ウルベルトさんの悪の組織五か条の他に、ペロロンチーノさんの(変態)紳士5つの誓いやら、たっちさんからも貰っていましたよね?……そうか、この駄犬。たっちさんからもか…」

「そこに嫉妬すんの!?」

「……私も困った時には仲間達の言葉を良く思い出しますが、ジョンさん思い出して下さい」

 

突っ込みを無視したモモンガにじと目を向けながらもジョンは、モモンガの言うタブラの台詞に耳を傾ける。

 

 

『言葉では伝わらないものが確かにある。しかし、それは言葉を使い尽くした人だけが言えることである。言葉は心という海に浮かんだ氷山のようなものだ。言葉は大事に使いなさい。そうすれば、ただ沈黙しているより多くのことをより正確に伝えられる。正しい判断は、正しい情報と正しい分析の上に初めて成立する』

 

 

「……タブラさんだっけ? 最初はぷにっと萌えさんが言いそうだなと思ったけど……」

表情の読めない骸骨の眼窩に輝く血のように赤い光を見ながら、ジョンは冷たい汗を流しつつ答えた。これで誰の台詞か間違えていたら……モモンガは、間違いなく切れる。

 

「そうです。あなたの羞恥心は、ルプスレギナを傷つけるだけの価値があるものですか?」

「あーーそう言われると反論できねぇや……うん。ありがとう、モモンガさん。アルベドもサンキューな―――あ、あとさ、やっぱりちゃんと言わないと駄目なのか?」

 

 

ジョンの問いにアルベドはきょとんとした表情を浮かべた。言われた事が分からなかったのだ。そうして、ジョンがモモンガと違い男女の機微には疎いのだと思い至り、自分の愛するモモンガは正に至高の御方々のまとめ役。頂点に立つに相応しい存在なのだと惚れ直し、モモンガと比べれば未熟なジョンへ仕方ない人ですねと笑いかけた。

 

ナザリックが現実になってから、NPC達の下にも置かない対応に辟易しているモモンガだったが、アルベドが見せるこういった表情に思うのだ。

 

ナザリック絶対の支配者としてのロールプレイを崩さないよう努力している(ジョンが絡むと崩れるが)自分だが、自分もアルベドにならばジョンのように弱いところを見せても、アルベドはそれを受け入れてくれるのではないか。

 

 

そう思うのだった。

 

 

「……言われずとも分かっている事でも、直接に仰っていただけるのは無上の喜びです。ルプスレギナのように愛する殿方の為、定められた器を変えようとしている女であれば、尚の事。自らの進む道が本当に愛する殿方の求めているものなのか。不安に震える心を癒せるのは愛する殿方の言葉しかありません。――創造されたものの分を弁えず、不敬な……」

 

「いや、良い。それも含めてお前を許しているし、そう言った事を言ってくれないと俺は困る」

「そうだぞ、アルベドよ。我々とて失敗する事もある。時にはお前たちがそう言って叱ってくれねば……特にジョンさんは困るだろう」

 

流石に言い過ぎたと頭を下げるアルベドの言葉を遮って問題ないと告げる二人。

 

場を和まそうとしたモモンガのふりに「俺だけ!?」と、がくーとジョンは頭をたれて見せた。

「……でも、そうだね。茶釜さん達がいたら、俺、制裁されてるかな?」

 

「ええ、ハンバーグ見たいに挽肉にされてますよ、きっと。間違いなく」

 

ぶくぶく茶釜に正座させらていたペロロンチーノを思い出したのか、笑いを含んだモモンガの声に、それは流石に不味いな、とジョンも笑い返す。

 

 

「……じゃあ、ちょっとルプーを探してきます」

 

 

一転して真面目な表情になったジョンはモモンガの執務室から出て行った。

そして、今回はニグレドの力も借りずに独力でルプスレギナを探しに行くと言うジョンを見送り、モモンガは冒険者組合からの呼び出しに答えるべく、ジョンの姿をとったパンドラを伴ってエ・ランテルへ向かうのだった。

 

 

振り出した雨の中、駆け出していったジョン。

泣いているような暗い夜の森。そこでルプスレギナを探す彼が見たものは……。

 

 




いくらかっこつけてても、一部のジャンルで他人と本気で向き合う時にヘタレる残念な人っていますよね。脇で見てる分にはどうしてって?思うのですが…。

大事な大事な自分の事は棚にあげておくものですとも。

とある人は言いました。
『この中でヘタレた事のない男子が、まず、このヘタレに石を投げなさい』

あ、いたッ…ちょっ……うわぁ、私の心……ヘタレすぎ……?


次回本編「第32話:駄犬~!後ろ後ろ~!」

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