オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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最終更新からそろそろ2年が経とうかとしています。皆さん如何お過ごしでしょうか?
私は前向きな言葉なんていってらんなくて、かけられた頑張れが辛い日々です。
なんとかジョンとルプーの物語だけでも完結させねばと気力が少しだけ戻ってきたところ。



第33話:俺たちの戦いはまだまだこれからだッ!

 

『僕は自分を馬鹿だと思う』

 

ジョンの心中で、異形異能となったジョンの背中を、幼い頃の自分が見つめながら、そう言った。

四十一人の仲間たちはなんと言うだろうか。

 

馬鹿な事だと笑うだろう。全力を尽くせと言うだろう。

そいつは浪漫だね、と言ってくれるだろう。

 

心配し、引き止めた後でこちらの意志が固いと知って、表情の動かない骸骨顔に困ったような空気を纏わせながら、モモンガは言ってくれるだろう。

 

 

『ジョンさんの思うようにやって下さい』と。

 

 

自分に使える《魔法封印》に第1~3階位の魔法を3つ封印しながら、ジョンは予想通りのモモンガの答えに頬を緩ませた。

 

 

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周囲を《フォース・サンクチュアリ/力の聖域》の白い光に包まれたルプスレギナ。

内側からも攻撃できないが、相手からの攻撃の一切を遮断する絶対防御。モモンガならば攻撃魔法を用いて障壁を力づくで破壊する事も出来るが、ジョンの魔法行使能力では逆立ちしても破壊できない。

 

その中でルプスレギナは強化魔法を使い、デス・ナイトを召喚し、外なる神々の従者を従え、圧倒的な強者であるジョンと戦うのに備えている。

 

結界越しに向き合うジョンも常時展開している『アイアン・ナチュラル・ウェポン』『アイアン・スキン』に力を入れなおし、ついで魔法《自己変身》の上限である50Lvの人狼に変身する。

ジョンは《自己変身》で50Lvまで弱体化し、歪んだ笑みを浮かべた。

 

ルプスレギナのレベルは59Lv。

 

50Lvまで弱体化してはデータ上、レベル補正もあって勝ち目はほぼ無い。

だが、スキルはそのまま使える。人狼の身体武器《手足の爪》は過剰強化で限界までぶち込んだクリスタルによって強化されている。攻撃力に不足は無い。

相手の攻撃は当たらなければ……どうと言う事は無い。

 

 

そう、あとは戦い方だけ。

 

 

勝てるかどうかは、自分の、プレイヤースキル次第。

自らのスキル(力量)取り返しの利かないもの(ルプスレギナ・ベータ)が懸かっている。

 

男として、こんなワクワクする事があるだろうか?

 

武者震いに身を震わせ、ジョンは視線をルプスレギナへ向けた。

 

 

「どうして《自己変身》するっすか?」

 

 

戦いを前に自ら弱体化するジョンへ、ルプスレギナは不思議そうに問いかける。

それに答えるジョンは、震える手を上げながら言った。

 

「お前を失うかもしれないと思うと、怖くて怖くて仕方ない。でも、全力を出せば一瞬で終わるだろう」

「はい」

 

神妙に頷くルプスレギナへ、ジョンは牙を剥き出し、飢えた獣のような歪んだ笑みを狼顔に浮かべる。

 

「この状態では攻撃力では俺。総合力ではルプーに分があるだろう。3対7で俺が不利。それが……とても、嬉しい」

 

ジョンの震える手が拳を握った。

 

「お前を失えば、俺は間違いなく悔やむだろう。

 その恐怖を噛み締めて戦える。恐ろしさに震えながら戦える。

 勇気を振り絞り、恐怖と向き合い。恐怖を踏み越える。……これこそ…生きてる証だろうが」

 

ぎゅっと拳に力が込められ、固く握った拳がルプスレギナ見せ付けられた。

 

 

 

「ルプー、嬉しいぞ。お前のおかげで、俺は喜び(恐怖)に満たされている」

 

 

 

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シャンあるいはシャッガイからの昆虫と呼ばれる存在は、人間風に言うのなら困惑していた。

彼が憑依寄生している娘。

人間よりも遥かに頑丈で強健な娘にとって、目の前の存在は神にも等しく。歯向かう事など考えもしない存在ではなかったのだろうか。

思考を誘導し、変質させ、戦うよう仕向けたが……

 

 

神にも等しい敬愛する存在に刃を向ける禁忌。

許されざる禁忌を犯し、どうして、この娘は心底、歓喜に満ち溢れている?

 

 

禁忌を犯す恐怖と狂気を沸騰する混沌の核に捧げる神話的生物は、ルプスレギナとジョンの恐怖と狂気を彩る狂喜に困惑していた。

 

 

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ルプスレギナは笑う。

花のように艶やかに笑う。

 

「ジョン様、カルバイン様の為、《不死鳥召喚》も覚えました。男胸さんを使わなくても、天地魔闘の構えが出来るっすよ」

 

言葉と共に《コール・フェニックス/不死鳥召喚》を発動させる。

ルプスレギナの背後に巨大な光の珠が生まれ、それは花咲くように開きながら、黄金に光り輝く火の鳥……フェニックスの姿へと変わる。

一際に澄んだ甲高い声で鳴くとフェニックスは小細工も無しに真っ直ぐ突っ込んでくる。

 

さまざまな特殊能力と多彩な攻防を誇るフェニックスの使い方としては非常に勿体ない浪漫あふれる使い方だ。

 

どっちかって言うと、カイザーフェニックスよりもフェニックス・ブレイズっぽいなとジョンは思う。

健気なルプスレギナはシャンに憑依されている所為か、口調が安定していない。

 

けれども、ルプスレギナは言うのだ。貴方の為に覚えたと。貴方の為に変わったと。

それはきっと、涙の中から生まれでて、限りを超える為に出現したのだ。

そう信じる事にジョンはした。

 

 

だからこそ、彼らNPCに慕われ、信じられている自分に回避はありえない。

 

 

こんなジョン・カルバインの為に変わったと、覚えたと言うのなら、その想いに応えるのだ。

ずっと思っていた。自分を無条件に受け入れてくれる人が、愛してくれる人が現れたら、自分も自分の全部で応えよう、と。

 

右足を引き、左足を前に、左手はかるく前に、右の拳は臍のあたりに。

今の自分なら出来るハズ。

 

彼らの、ルプスレギナ・ベータの信じる自分になら間違いなく出来る事。

 

鋭く吐き出された呼気と共に左手と右手が動き出す。

轟々と燃え盛るフェニックスは目の前に迫っている。

 

緊張、集中。

 

極限まで鋭く束ねられたジョンの意識では全てが、ゆるゆるとスローモーションに見えた。

左右の肘から先が真っ赤に燃えている。余りの高速に腕の周囲で圧縮断熱がおこっている。

 

ジョンの中の人……**に回し受けは出来ても、廻し受けは出来ない。

しかし、ジョンの身体ならば出来るだろう。

 

そして、今、この瞬間、この世界に生を受け、初めて、ジョン・カルバインと**の意識と願い。

 

必ず実現させるという決意と覚悟と勇気が一致した。

燃える炎、NPCの……否、ルプスレギナ・ベータの想いを受け止める!

 

掌が高速の世界の中でフェニックスの嘴を捉え、そっと外側へ軌道を変えていく。

 

一瞬の後、ジョンの左側の地面へ叩きつけられたフェニックスが錐揉みしながら、後方へ転がっていく。

轟音と共に周囲を無差別に焼く炎も、青い人狼にだけは結界に阻まれたかのように届いていない。

 

 

自分の使える最高位の攻撃(?)魔法を防がれながら、ジョンを惚れ惚れと見つめるルプスレギナ。

そんな彼女へ、ふっと笑うとジョンは人差し指を振りながらドヤ顔で言い放った。

 

 

「マ・ワ・シ・受ケ。受け技の最高峰にして、あらゆる受け技の要素が含まれる技だ。

 カラテ・マスターは言いました。矢でも鉄砲でも、火炎放射器でも持ってこいやァってな」

 

 

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外なる神の従者は本来不定形であり、絶え間なく姿を変容させ続けているが、あえて誤解を恐れずに表現するならば、不定形でありながら巨大なヒキガエルのようなシルエットをしていると言えるだろうか。

そして、それは笛のような楽器を手にしており、理性持つ人を不愉快にさせる音楽を奏で続けているのだ。

 

シャンに憑依されたルプスレギナによって召喚された外なる神の従者は、不定形の触腕を伸ばしたり、音楽を奏で続ける笛のような楽器でジョンに襲いかかってくる。

 

人間のままであれば、その姿を見るだけで理性の崩壊は免れなかっただろう。

やつらは人間の理性が拠り所としているちっぽけな物理法則や世界観などに囚われていないのだ。

 

けれども場合によっては旧支配者とも殴りあったジョン・カルバインの肉体は、外なる神の従者如きに揺らぐことは無かった。

強靭な肉体に宿った人間の脆弱な精神は、強靭な肉体に引き摺られ、人間の認識の枠を本人の自覚のあるなしに関わらず外れつつあったのだ。

 

その姿に捕らわれず、ジョンの腕が唸りをあげて真空斬りで死の騎士と外なる神の従者を蹴散らす。目の前で死の宝珠の放った《火球》が真空斬りに当たって炸裂するが、気にせず炎を突っ切ってルプスレギナへ肉薄する。

拳が、爪が向かうその先には……

 

「シズ……?」

「私はハズレ」

 

その場に存在しない筈のシズの姿に虚をつかれ、横合いからの《火球》と棍棒のように振り回されたシズの銃で吹き飛ばされる。

打撃の威力を転がって殺し、跳躍。

一瞬、遅れてその場に《ブロウアップ・フレイム/噴き上がる炎》が立ち上る。

 

同時に強力な魔法抵抗力(正確には変容し続ける性質によって一定の法則が固定化され難い)によって、死の宝珠の《他者変身》によってシズに姿を変えられた外なる神の従者が本来の不定形の姿へと戻っていく。

 

 

「やるな! 良いぞ、ルプー。そうだ! そうじゃないとな!」

「はい! 『誰もが持っている魔法を、誰も思い付かない使い方を出来る者』っすよね!」

 

それはニニャに教えた時の言葉。

脇で聞いていたルプスレギナも、その教えを守り、必死に自ら考え出したのだろう。

経験を蓄積し、自らの能力の振る舞いに深みを出す。

人の持つ学習能力を発揮しつつある彼女は既にNPCなどと呼べないだろう。

 

ルプスレギナは《ディメンジョナル・ムーブ/次元の移動》との組み合わせによる変わり身で、見事にジョンの虚をついて見せた。

 

そのルプスレギナの戦術を褒めながら、ジョンは同時にモモンガが魔法の外部記憶と発動の検証にと、死の宝珠in聖杖に幾つかインストールしたの魔法が《他者変身》と《ディメンジョナル・ムーブ/次元の移動》である事を思い出し、『モモンガさん、これ(死の宝珠in聖杖)ウザイよッ』と盛大に愚痴っていた。

 

レベル差もあり、ジョンの攻撃はまともに通らない。

普通に攻撃するだけならば、ルプスレギナに見切られてしまうのだ。

 

その上で教えを守っての工夫までされれば、勝ち目は更に薄い。

 

逆境にある事を認識すればするほど、ジョンは喜び/恐れを笑い/嗤いを堪える事が出来なかった。

これほどの喜び(恐れ)を感じるなど、転移前にはどれほど望んでも出来なかった。

 

そして、これまで以上の工夫が出来るのはルプスレギナだけではないのだ。

自分にも、これまで以上の工夫が出来るのだ。

 

例えば、低レベルの防御魔法を高レベルの近接職が使うとどうなる?

ゲームシステム上では回避にボーナスが入るだけだった。

だが、ゲームが現実となった今なら《ミラーイメージ/鏡像分身》で間合いと攻撃の方向を見切らせない事で、打ち込みタイミングを見切らせない事だって出来るだろう。

 

 

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勝ち目のまったくなくなる10Lv差の一歩手前、9Lvという破格のハンデをつけながら、3対7で勝ち目があると言い放つジョン・カルバイン。

至高の四十一人より賜った聖杖で使用可能となった本来ならば守護者レベルでなければ使えぬ《コール・フェニックス/不死鳥召喚》。

それを自らよりも劣るLvまで弱体化しながら、青い人狼は避けもせず、正面から受け切って見せるのだ。

 

「マ・ワ・シ・受ケ。受け技の最高峰にして、あらゆる受け技の要素が含まれる技だ。

 カラテ・マスターは言いました。矢でも鉄砲でも、火炎放射器でも持ってこいやァってな」

 

周囲を焼く炎の中に堂々と立つ青い人狼の巨躯。

それが子供のように得意げに笑う姿に、ルプスレギナは普段は丸っこい瞳を薄く細く尖らせ、妖艶に笑うのだ。

それでこそ自らの主に相応しい。それでこそ自らの全てを捧げるのに相応しい、と天真爛漫に笑うのだ。

 

 

「あははは! こいつは傑作! 《コール・フェニックス/不死鳥召喚》ですら無傷っすか! あー、楽しい! 最高! 大好き!」

 

 

ルプスレギナの指示を受け、外なる神の従者と死の騎士が群れをなしてジョンへ襲いかかる。

 

双方ともに弱体化したジョンに粉砕される程度のLvでしかないが、数が多い。

外なる神の従者は属性が不定であり、固定された弱点を持たない。死の騎士はモモンガも愛用するように一撃では倒れないスキル持ちだ。

対単体戦闘においてモンクは強大な戦闘力を有するが、対多数は苦手とするというのが、ルプスレギナの認識だった。

ジョンは真空斬りのような攻撃手段は持っていなかったハズ。またまだ奥の手を持っているのだろう。

 

それでも戦況は未だルプスレギナに傾いていた。

 

(私が愛するカルバイン様が暴力ですり潰されていく姿を見てると、すっごくゾクゾクしてくる)

サディストここに極まれり、自らの愛する者の傷つく姿すら快楽に変え、ルプスレギナは嗤う。

 

 

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火球の爆炎と真空斬りの暴風で視界は悪い。

人間と超える嗅覚と聴覚を持つ人狼とは言え、標的を追い続ける事は難しい。

ルプスレギナは飛ぶか、ここで待ちうけるか考え、飛ぶことを切り捨てた。

 

同じ《飛行》の魔法を使えば、速度は一緒。追いつかれること無く一方的に遠距離攻撃が出来る。

 

一方的に嬲る事が出来る筈だが、自分の愛するいと高き青い人狼がその程度で終わる理由がない。

思いもつかぬ奥の手で撃ち落とされるのが落ちだ。

 

レベルで上回っていようとも、相手は圧倒的な戦闘巧者。

自分が弱者であると知るが故に史実のシャルティアと違い油断はなかった。

 

 

周囲を《フォース・サンクチュアリ/力の聖域》の白い光に包まれ、油断なく噴煙の奥を見据える。

 

 

噴煙を突き抜け、真っ正面からジョンが飛び出してきた事に一瞬驚くも、ジョンには《フォース・サンクチュアリ/力の聖域》を貫く術が無い事を思い出す。

そのジョンが獰猛に笑いながら言う。

 

「これさ。ユグドラシル時代に思ってたんだけど、魔力壁で物理と魔法の攻撃を遮断する割りに(チャット)は通るんだよなぁ」

 

武器である鉤爪の生えた手を翻し、両手の平をルプスレギナへ向ける。

左手を前に右手を後ろに。両手が複雑な、けれどシンプルな動きをしながら、障壁に叩きつけられた!

 

 

「裏当て、浸透勁、徹し……まぁ、衝撃を通す技法と衝撃波を発生させる打撃を合わせて、障壁を殴ったら中はどうなるかな?」

 

 

そしてジョンは叫ぶ。《リリース/解放》!《エンラージ/大型化》!!

 

低レベルの魔法と高レベルの技法。

《エンラージ/大型化》は第一階梯の一時的にキャラクターのサイズを拡大する魔法にすぎない。若干物理攻撃にボーナスが入る事から、低レベルでは重宝される魔法だ。

しかしである。

現実となった今では、拳の威力は質量×(速度の二乗)であるから、インパクトの瞬間に発動させれば、それが1.5倍の大型化であっても体重は体積に比例する。体積はスケールの3乗に比例して変化する。

つまり、インパクトの衝撃は3倍を優に超える。自らの身体への負担は人狼の再生能力でカバーできる。

 

 

物理攻撃を受け付けない障壁が軋んだ様な気がした。

 

 

「なにを……」

 

言いかけたルプスレギナは頬にそよ風を感じた。そして、衝撃。

シェイカーに放り込まれたように、竜巻が出現したかのように、障壁内部の空気が荒れ狂う。

空気そのものが振動し、身体が、脳が揺さぶられる。

 

朦朧とする意識の中、身体制御の主導権を宝珠に渡す。生身と違い頭脳が固体で出来ている死の宝珠に脳震盪はあり得ない。

 

死の宝珠はすぐさま《フォース・サンクチュアリ/力の聖域》を解除。再度展開する。

次の展開はジョンを中心に閉じ込めるように。

 

 

再びジョンの《リリース/解放》!の声が響く。

《ミラーイメージ/鏡像分身》!!

 

左?死の宝珠の意識が左に向けられる。

「残念、右だ!」

 

一瞬で9体に分身し、ルプスレギナの意表を突く。直前の行動から左と見せかけ、意識の逆を突く。

魔術の使い手に対しては正面きっての物量よりも、不意をついた攻撃が有効だ。力ある意思の死角を突くのだ。ウルベルトの教えは今もジョンの中で生きていた。

ジョンを捉え損ねた《フォースサンクチュアリ/力の聖域》が背後で空しく展開される。

 

「物理無効の敵と戦った事が無いと思ったか。俺たち(四十一人)をなめるな!」

 

 

《リリース/解放》!《レイスフォーム/幽体化》!!

 

 

 

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――豪と音が立つ。

 

「******!」

 

声にならない絶叫が響いた。目の前にジョンが立つ。ありえない光景に虚をつかれたルプスレギナの頭部にジョンの右腕が入り込んでいた。

第三階位《レイスフォーム/幽体化》で幽体化した腕はそのままルプスレギナに憑依していた幽体化していたシャンを鷲掴み、力づくで引きずり出す。

 

同時に《ブラックホール/暗黒孔》を死の宝珠がルプスレギナに。シャンが最後の力を振り絞って《アザトースの召喚》を行った。

シャンの《アザトースの召喚》で変質した《ブラックホール/暗黒孔》は周囲を自らの中心に落としていく。

 

落ちていく。

 

区切られていた結界内の停滞空間そのものが《ブラックホール/暗黒孔》となって、停滞空間の全てを飲み込んでいく。

 

 

「なッッッ!これは!?」

 

 

驚愕するジョン。その掌の中で握り潰されるシャンの最後の意志を人間風に訳するならば、『召喚したアザトースをゴーツウッドの森にある神殿へ送り出せれば良い。それが母星を失い、残され、逸れた仲間へ、己が出来る唯一の……』そういったものだった。

召喚されるアザトースに《ブラックホール/暗黒孔》を通じて、ルプスレギナとジョンを生贄に捧げ、召喚したアザトース(の一部)を抱えたザイクトイエの怪物は生体宇宙船となって、同胞の元へ、ゴーツウッドの森にある神殿へ宇宙を飛んでいく。

本来であれば、停滞空間を以てアザトースの一部(マイクロブラックホール)を制御する。しかし、停滞空間を維持するナーガ達を半ば解放されてしまっている現在、不安定な《生体宇宙船=ザイクトイエの怪物》はどこまで飛べるのか誰もわからない。

むしろ、ブラックホールの制御を失い墜落。世界がアザトース=ブラックホールに飲み込まれる危険すらあった。

 

 

ジョンにとって自分を犠牲にしても仲間の為にってのは共感できるものだった。

俺も仲間の為に出来る事があるなら、それをやり尽くしたいって、ずっと思ってやってきた。

だからって、俺の大事なものをくれてやる気は無い。

 

あの現実のように何一つ手に出来ず、何も守るものがなかった頃に戻って溜まるものか!

 

アザトース=ブラックホールに飲み込まれながら、ジョンは自己変身を解除。《天地合一》を発動。《飛行》を発動。

飛びながら、世界級(ワールド)アイテム大地を揺るがすもの(フローズヴィトニル)を発動し、サイズを最大化。100倍化された歩幅で空気を蹴って空を駆ける。

先に飲み込まれたルプスレギナをそっと手にすると、円錐型の雲(ベイパーコーン)を発生させながら、飛び、空を駆ける巨大な人狼。

それでも世界は遠のき、アザトース=ブラックホールに飲み込まれていく。

 

 

「まだまだぁッ!……モモンガさんッ! 間に合えぇぇぇッ!」

 

 

限界まで加速し、そこからルプスレギナを放り投げる。そこまで加速した膨大な運動エネルギーを託されたルプスレギナはアザトース=ブラックホールの外に放り出された。

同時に停滞空間が無くなったことで《上位転移》で、宙に転移してきたモモンガがルプスレギナをキャッチした。

しかし、ルプスレギナを放り投げた反作用でジョンは一気に引きずり込まれる。

 

 

「俺たちの戦いはまだまだこれからだああぁぁぁぁ…………」

 

 

ジョンの叫び声がドップラー効果で低く小さくなっていく。

 

「ジョン様ぁぁぁぁぁッ!!!」

「ジョンさーーーんッ!!!」

 

ルプスレギナを抱えたモモンガの悲鳴。抱えられたルプスレギナの悲鳴も虚しく。

《天地合一》の青銀色の光が巨大で空虚な虚空の孔へ飲み込まれ、呆気ないほどに簡単にそこには何もいなくなる。

 

 

「――おい、どうするんだ。これ?」

 

 

モモンガの絞り出す声が空しく響いた。

 

 

end.

 

 

まだ、終わりじゃないぞい。

もう一寸だけ続くんじゃwww

 




ブラックホールに飲み込まれたジョン・カルバイン。更にそのブラックホールの制御は半壊していて、宇宙空間に離脱する前に制御が壊れれば、星を飲み込む立派なブラックホールに成長しかねない。
世界の危機!だが、我らがモモンガは友を失った悲しみに膝をつく。
どうなる世界?どうなる我らがナザリック地下大墳墓!?

次回本篇:「第34話:横っ面を引っ叩くのは女神です。」

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