オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第四部から、ほのぼの生活がスタートだと言ったな?
私はそのつもりだった!!


第36話:ほのぼのは西からやってこない

その日、カルネ=ダーシュ村の風呂屋は異臭に包まれていた。

異臭……と言っても、バレアレ家に起因するものではない。その証拠に風呂屋は子供たちとチーム時王の声で騒がしい。

 

「おら、そこぉッ!まだ落ちてねぇぞ!」「ちゃんと洗ってー!!」

「はーい」「う〇こー!」「ち〇こー!」「くさー!」

 

そんな騒がしく排泄物の香り漂う風呂屋へやってきたのは、村に作られた孤児院での子供たち相手の塾講師を拝命したクレマンティーヌと生徒のブレインだった。

 

「神獣様~!ガキどもがこないんですけどー?」

「旦那ぁ、この強烈な臭いなんだい?」

 

法国の元漆黒聖典メンバーで高度な教育を受けていた事がバレたクレマンティーヌは、ここで子供たち相手+に読み書きと四則計算を教えるハメになっていた。なんといっても、法国、帝国、王国、聖王国など主要な人間種族国の読み書きが出来る上に割合高度な計算まで出来て、自然科学の知識まで持ってるのだ。法国の教育の高さに至高の御方もびっくりである。

これは拾い物と(調教の済んだ)クレマンティーヌはカジッチャンともども良いように使われてる。

農村出身のブレインはついでにお勉強のやり直しである。

 

他にもペストーニャとユリが、今後は子供たちに教える為に子供たちと一緒に勉強している。

 

「もうそんな時間だったか」

 

風呂場から、そう言って出てきたのは人間形態のジョンだ。

首からタオルを掛け、手に持ったズボンを履きながらの登場である。

 

「子供たちが孤児組と村人組で度胸試しで肥溜め渡りやってたんだよ」

 

孤児達、村の子供達の肥溜めの蓋(固まった糞尿)の上を歩く度胸試しをやって、何人目かで見事に失敗。

肥え塗れになった子供の泣き声で気が付いたジョン達チーム時王が、参加者全員を肥溜めに放り込み今は風呂屋で丸洗い中。

 

強烈な臭いは脱がせた糞尿塗れの服が放つ臭いらしい。

 

「今、ペストーニャとユリに黒板やらを持って、女の子たちと来るように伝えたから、悪いがこっちでやってくれ」

「神獣様がそう言うならいいけど……馬鹿な事やるんだねぇ」

男の子たちの面子を懸けた度胸試しが理解できなかったのか。首を傾げ、未だ少女の姿のままのクレマンティーヌに、ジョンが苦笑いで告げる。

「男はずっと馬鹿なんだよ。……ブレインだって、度胸試しやったことあるだろう?」

「凍った池を渡るとか、高いところから飛び降りたりとかか?まぁやった事がないとは言わねぇが……」

「同じさ」

 

そう笑いながら糞尿塗れの子供たちの服を桶で洗い始める。それを見咎めてクレマンティーヌは眉をひそめながら言った。

 

「そんなのメイドたちにやらせれば良いじゃん。わざわざ神獣様がやることないですよ」

「メイドたちの仕事場はナザリックだ。村の事、しかもこんなのをやらせるのは忍びない」

「神獣様の命令なら喜んでやると思いますけど……」

 

そういいつつも、モノがモノだけにクレマンティーヌもブレインも手伝うとは言い出せない。

ジョンは、水を替えながら一人分を洗い終えると汚れが残っていないか臭いを嗅いで、問題ないと頷くと第一位階魔術《小さな願い》で乾かしてたたむ。

そうして、次の汚れものを手に取った。

 

/*/

 

集会場には昼間だと言うのに村の主だった者達が集まっていた。

といっても、村長となったエンリ、ンフィーレア。相談役(前村長)に人狼形態に戻ったジョンの4名だ。

彼らが集ったのは第三王女ラナーの使いを名乗る5名の女性冒険者たちの話を聞く為だった。

 

「……なるほど、討伐軍がもうこちらに向かってるんですね」

 

エンリが冒険者のリーダー……ラキュースと名乗った女性の説明を一通り聞いてため息をつく。

冒険者5名とも金髪だったが、その中でもラキュースの金髪は一際輝いており、長く……ドリルだった。

その特徴的な髪をしたラキュースは、二十歳前で王国屈指のアダマンタイト級冒険者「蒼の薔薇」のリーダーだと言う。

 

「ええ。ですから、帰順するか逃げるか。……この村の空堀と防壁には驚きましたが、それでも村人しかいない。5千もの兵士に囲まれたらどうしようもありません」

 

考え込んだエンリ、ンフィーレア、相談役を前にラキュースはもう一度、帰順か逃亡を促す。

その隣で美味そうに苦みの強い黒々草茶を飲む青い毛並みの人狼だった。

 

「そっちの狼頭のあんた。ビーストマンなら強いんだろうけど、軍を相手にはどうしようもねぇぜ」

 

下手な男を軽く凌ぐ筋骨隆々の巨体と強面が特徴の……それでも肩までの髪を軽く結っているところに女性らしさが垣間見える……ガガーランがジョンへ声を掛けた。

脚運びや座ってる間の気の張り方などから力量を読み取ろうとしていたジョンはガガーランの気遣いに軽く手を上げる事で答えると。

 

「ありがとう。だが、俺の決定は一番最後だ。……約束したんでね。一緒に飯を食って、泣いて、笑って、戦って、生きようって」

 

沁み沁みとした言い様だった。

その語り口に思うところがあったのかガガーランがポツリと零す。

 

「……いい男だなぁ、あんた。童貞じゃないのが残念だぜ」

 

先日までのジョンならば「どどどどッ童貞ちゃうわッ!?」とキョドったこと間違いなしのセリフだったが、既婚者となった駄犬に弱みはない。大人の余裕でガガーランへ。

「それ関係あるか?まぁあんたのトコのリーダーは処女みたいだし……あんた、そーゆー趣味なのか?」そう返した。

「ちょっと!私を巻き込まないで!」

 

流れ弾に被弾したラキュースが頬を赤らめながら抗議してくる。

 

「リーダーが処女なのは、私の趣味じゃないよ」

「そうなのか?ふむ、美人なのになぁ。モテないのか」

残念美人なのかと、気の毒そうな表情を(人間には分かり難いが)作ってみせるジョンだった。

リーダーは処女。リーダーはお子様と双子がぼそりと呟いた。

「違います!婚前交渉なんて出来るわけないでしょ!」

「……婚前交渉…」「令嬢の自覚あったのか……」

 

ジョンは婚前交渉の物言いに、ガガーランは令嬢の自覚に対して呆然としてみせた。

そして、ジョンはアダマンタイト級冒険者「蒼の薔薇」のリーダーは王国貴族の令嬢であった事を思い出す。

 

「そういや、いいとこのお嬢様だったか。下世話な話してすまんね」

ジョンの軽い謝罪にガガーランが手を振ってなんでもないと答える。

そのガガーランにそれ以上なにも言わないラキュースに互いに信頼し合ってる様子を見て取り、ジョンは仲間たちを思い出してしんみりした気持ちになった。

「……ところで、そっちの仮面のお嬢さんは不死者(アンデッド)みたいだけど、パーティの知恵袋なのかな?」

なのでジョンとしては、ちょっとした話題転換のつもりだったのだ。言われた方は堪ったものではなかったが。

「なッ」「どこでそれを!」

「いや、だって、人間の臭いしないし……人狼は鼻が良いんだ」

ガタッと驚愕を示すように立ち上がった蒼の薔薇に「またオレ何かやっちゃいました?」と内心びっくりしながらも、自分の鼻先を指でついてみせる。

「知り合いの不死者(アンデッド)と同じなんだ。不自然に代謝の臭いがないところとか」

 

蒼の薔薇のトップシークレットを暴いた事で刃を突きつけられながら、青い人狼はニヤリと笑ってみせた。

そう……既に蒼の薔薇の残り2人。物静かな双子はジョンの不死者発言に間髪入れずジョンの背後を取り、左右から首に刃を突きつけていたのだ。

それに対しジョンは、あえて背後を取らせ、その動きから二人のクラスを忍者と推測していた。

 

あーこの娘たち盗賊かと思ってたら、忍者だったか。

 

そして、突きつけられたその刃を指先でつまむと、ジョンは軽く力を込めて二人を揺さぶり、二人の体幹の使い方から更に細かく力量を推測していく。

 

30Lvに届かないくらいかな?

 

「ティア!ティナ!」

 

ティアとティナの行動に村長エンリ、ンフィーレア、相談役が色めき立つ。

ただの村娘とは思えない気迫にラキュースは双子へ制止の声を掛ける。

 

ユグドラシルでは忍者60Lv以上にならないとなれなかったのに、ここでは最初から忍者とれるんだなぁ。

スキルツリーも違ってる可能性がある。面白いなぁ。

ラキュースが焦った声をあげているが、なんだろう?

Lv差がありすぎて、ダメージを負う可能性はゼロだから無問題なんだけどな。

 

「……わかった。でも、この狼が刃を放してくれない」

 

少し困ったような臭いがするティアかティナの言葉に自分がまだ刃先をつまんでいる事に気が付くジョンだった。

「ああ、悪かったな。こっちもびっくりしたんだよ」

「……ウソ。そんな風には見えない」

「臭いを嗅げ、臭いを。ちゃんとびっくりした臭いがしてるぞ(ウソです)」

「……人間の鼻はそんなに利かない」

 

そのやり取りを見ていたエンリがぽつりと、しかし、その場に染み入る声で、はっきりと告げた。

 

「カルネ=ダーシュ村は戦います」

 

「……エンリ村長」

「ラキュースさん、そんな表情(かお)をしないで下さい。今のお二人の行動を見て決めたわけじゃありません。

 ただ……逃げて、どうなります?逃げても、またその先で略奪されるだけです。行く当てだってありません」

 

死を覚悟した透き通る笑顔でエンリはそう言った。

 

「逃げても、残っても、今死ぬか。後で死ぬかの違いしかないんです。

 

【力の大小ではない。その覚悟こそ我は愛でよう。それこそが人の生き方だ】

 神様がそう言ったんです。そう言ってくれたんです。

 

 だから、私たちは戦います」

 

/*/

 

広場に村人たちを集めて、エンリは村人に討伐軍が向かってきているのを説明した。

今ならまだ逃げる事も出来ると……冬に向かいつつある今、村としては徹底抗戦を選ぶとも。

 

慈悲深いと評判の第3王女ラナーがエ・レエブルまでこれれば、助けてくれると言ってる事も合わせて明かした。

 

結果としては逃げる事を選んだのは全体の1割にも満たなかった。

ジョンの想定よりも相当に少ない。3割程度は逃げ出すかなと思っていたのだ。

 

気炎を上げる村人たちを眺めながら、ジョンはいつかのようにエンリへ問う。

「エンリはそれで良いのか?」

「遠くて道もわかりません。冒険者でもないのに、そんな遠くまで行けるわけないじゃないですか」

蒼の薔薇たちは討伐軍を追い越す為に危険を冒して《転移》を繰り返し、カルネ=ダーシュ村まで来たという(正確にはエ・ランテルまで《転移》で来て、そこからは早馬)。

帰りもまた第三王女の護衛の為に一刻も早く戻る為に《転移》で帰っていった。

 

座標制御がシビアな《転移》を繰り返す姿に、ジョンは切羽詰まった状況なのだろうなと思う。

ちょっとのミスでパーティ全員『石の中にいる』になってもおかしくない魔法なのだ。

 

カルネ=ダーシュ村の広場は村人達の声と音で騒がしくあったが、どこか空虚な――悲しみを抱え、堪えて、それでもあえて明るく振舞っているような、そんな空々しくも力強い空気があった。

 

「戦えない者は教会で守ってやるよ」

 

そのジョンに言葉に先の襲撃から生き残った男たちは笑って答えた。

ありがたい。そして今度こそ俺は、俺たちは、家族を守って戦える(死ねる)んだなと笑った。

 

それはエンリと同じ、死を覚悟した透き通る笑顔だった。

生命ある限り、こう生きてやろうと決意した笑顔だった。

 

ジョンの好きな表情で、モモンガが憧れる瞳だった。

 

だから、彼らの覚悟を見届ける為、彼らの忠誠心を試す為に、その時が来るまでは手出し出来ない自分を寂しく思った。

出来る事なら、彼らと肩を並べて、泥を啜り、血に塗れ、拳を握って、戦いたい。

 

/*/

 

蒼の薔薇が帰り、エンリが村人たちに覚悟を問うた翌日。

ジョンは風呂屋の2階でがっくりと膝をついていた。見事なorzである。

 

空堀に流す水と農業用水の水路作りだったが、測量は伊能忠敬の測量に倣い(実際は21世紀初頭の某アイドル番組)。測量器具、鉄鎖、方位盤、象限儀etcを用意し、図書館の司書達と連携。時王が昼間に測量した数値を夜間に司書達が製図する手筈だった。

 

「……もう、終わってる……だ…と……」

「リーダーが出稼ぎに行ってる間に用意して、もうやっちまったよ」

「い、1日の時間の測定は……」

 

世界の1日の時間は垂揺球儀を使って、太陽の南中から次の南中までの振り子の振動数を使って調べるのだが……

 

「垂揺球儀作って、天体観測もして、測定したよ」

「じ、慈悲は無いのか……?」

 

せめて距離は…?と問えば、インベントリに入っていた10フィートの棒を基準にしたと言われた。

 

「10フィートの棒……まさかこんなところでフィートに頼るハメになるとは……約3.048m」

「異世界探索の基準が10フィートになるとか、予想外でびっくりだよ」

 

「だいたい出稼ぎから戻ってきて、その後に3日も引き籠ってるからだよ。水路工事の最初くらいは出来たかもしれないのに……」

コークスが呆れた気味にジョンへ言う。

 

「朝チュンからのプロポーズしての3日間だぞ?そんなん引き籠るわ!」

「なら、諦めるんだねぇ」

 

眷属の優秀さが恨めしい。

ぶつぶつ恨めし気に、しかし、本気では無く呟きながら、ジョンはよっこいしょと座り直す。

そんなジョンへナーガンが問う。

 

「討伐軍どうするんだ?討伐隊じゃなくて軍だぞ。軍」

「リーダーがいれば余裕だと思うけど」

コークスはマイペースにジョンに代わって答え、ジョンは。

 

「……取り合えずは村人に任せて、俺は様子見……」

 

納得はしてるが、不満はある。その様子にナーガンが「なんでさ」と問えば、やはりコークスが口を挟む。

「村人がリーダーに依存しっぱなしになるから?」

「ん……犠牲が少ないと良いんだけどな」

 

多分、討伐軍が来るタイミングに合わせて自分はトンネル工事中で直ぐにこれない場所にいるだろうとジョンは打ち明ける。実際にはそればかりではなく、リザードマン征服やデミウルゴス等が建てた計画との兼ね合いもあってだが。

 

「俺たちは良いんだよな」

カルネ=ダーシュ村防衛戦に時王は参加しても良いのだろうと、最近、一部の村人と親密らしいヤーマが確認してくる。

「あーうん。いいけど、大した戦闘力ないんだから無理するなよ」

「殴る蹴るくらいは出来るさ」

 

今回は俺たちが村を守るぞ!

 

そう気炎を上げるメンバーを羨ましく思い、眩しいものを見るようにジョンは目を細めた。




ちょーっとまだまだ本調子じゃないです。
以前の投稿の半分くらいの量しか書けてないです。

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