オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~ 作:ぶーく・ぶくぶく
ひびだらけて(ニートな)コキュートス→ヒビだらけで
ユリとルプーの会話一部修正。茶釜さんの業が深くなりました。
二人が去った後もその場に待機していた守護者達はしばらく、誰も口を開く事は出来なかった。
死すら生温い死の支配者の圧倒的なオーラ。呼吸の必要ないシャルティアですら、呼吸を忘れ、息苦しさを覚え、自らの死を望んでしまうような圧倒的な威圧であった。
そして、それを柳のように飄々と受け流していた人狼。
正に自らの支配者に相応しい至高の方々であった。
ようやく痺れるような死のオーラの感覚が薄れ、一人二人と安堵の息をつき始める。
「お姉ちゃん。モモンガ様もカルバイン様も、凄かったねー」
「ええ、でも……あんなに怒っているモモンガ様。初めて見たわ」
「――私ノ責任ダ」
コキュートスはカルバインへモモンガの怒りが向けられた事に責任を感じ、自責の念に押しつぶされそうになる。
至高の御方が望んだ事とは言え、至高の御方の頂点であるモモンガの怒りをカルバインが買ってしまった。
もっと他にやりようがあったのではないか? 自らを責め、自らの行動を省み、悔やみ、力尽きそうなコキュートスはライトブルーの外殻の輝きも鈍ったようで、守護者達も見たことが無いほど弱々しく見えた。
流石のデミウルゴスも声をかけるのを躊躇う……ヒビだらけで今にも砕け散りそうな凍河の支配者へ、守護者統括たるアルベドは今まで見せた事の無い、天使のように慈悲深い微笑を向けた。
「先ほど玉座の間でカルバイン様がモモンガ様に一礼していらっしゃったの。その姿はまるで別れを告げるようで、……私は不敬にも
『我等へと最後の別れを告げ、お隠れになった至高の方々。……カルバイン様も、モモンガ様へ別れを告げにいらっしゃったのでありましょうか』
そう聞いてしまったわ。
けれど、カルバイン様は何の心配も無いのだと笑って下さり、
『泣くな、アルベド。何処にも行かないし、何処にも連れて行かない。
俺はこれまで通り、モモンガさんとアインズ・ウール・ゴウンを守る』
そう言って、私の不安を吹き飛ばして下さった。
私たち守護者の不安を酌み取り、あえてコキュートスの一刀を受ける事で自分はここにいる。何処にも行かないと言う事をその身で示して下さったのよ」
だから、コキュートス一人の責任ではないのだ。
罪があるのは不敬にも至高の御方の不在に不安を覚えた自分達の全てなのだ。
そして、それは他ならぬ至高の御方によって許されているのだと、アルベドは見るものを安心させるような微笑で続けた。
自らの不安を吹き飛ばして下さった、至高の御方のように笑えていれば良いと願いながら。
デミウルゴスは今までに無い、本当に天使のような慈愛の表情を仲間に向けるアルベドの変化をもたらしたものが、至高の御方の偉業である事を疑う事無く、アルベドの言葉に言葉を重ねる。
「その通りだね、アルベド。
モモンガ様のお怒りはカルバイン様の装備にこそあったと私は思うよ」
その指摘にマーレが目を白黒させ始め、シャルティア、アウラがそれに続く。
「あ、あれ、え、、カルバイン様の装備って……?」
「聖遺物級のズボンとベルトだけでありんした」
「確か、コキュートスの武器って……」
「大太刀、斬神刀皇。武人武御雷様ヨリ賜ッタ、神器級ノ武具ダ」
「「………」」
沈黙の後、アウラがカルバインと同じモンクのクラスを持つセバスに問う。モンクとは丸裸でコキュートスの必殺の一撃に突っ込んで平気なのかと。
「カルバイン様、正面からぶつかりに行ったように見えたんだけど。どうなのセバス?」
「……正直に言いますと、聖遺物級の防具で正面からぶつかるのは相当な無茶かと。私であれば決死の覚悟が必要です」
「だからこそ、真正面からぶつかって下さる姿には思うものがありんした」
ペロロンチーノから伝説級の防具、神器級の武具を賜っているからこそ、シャルティアも自分達守護者の為に、カルバインがどれ程の決意と覚悟で血を流してくれたのか。その深い愛に身を震わせた。
「まったくだね。お二人が敢えて我々の為に残って下さったと言う事に、私も思い至らなかった」
「ドウイウコトダ、デミウルゴス?」
「カルバイン様がおっしゃっただろう」
そう言ってデミウルゴスはその場の守護者たちをぐるりと見回すとゆっくりと両手を広げ、神の言葉を授かる預言者のように天を仰ぐ。言葉を紡ぐ。
「『皆、弱い自分のままで挑む事、挑みたい事があっただけだ』とカルバイン様は仰った。
至高の41人が弱く、挑む必要がある世界。
それは吹き荒ぶ風は嵐となって山を削り、降り注ぐ雨は竜殺しの槍となって竜をも殺す。男子の生存率は1%を切る修羅の国。
そこは神器級、超位魔法、ワールドクラスの攻防が乱れ飛ぶ神々の世界。
至高の御方々はお隠れになったのではない。
それほどの超越者の世界に至高の御方々は挑んでいるです。何の為に? 問うまでもありません。アインズ・ウール・ゴウンの威光を知らしめる為です。
『俺より強い奴に(殴り)会いに行く』と普段から装備を削り、力を封じ、己を弱体化させてまで強者を求めるカルバイン様が、そのような修羅の国に旅立つ機会を捨てるなど有り得ません。
また、至高の御方々を誰よりも愛しているモモンガ様が至高の御方々と別れるなども有り得ません。
その有り得ない行動。それは何故か? 考えるまでもないでしょう。
その全て、至高の御方々に比べ、遥かに脆弱な我々を巻き込まない為です。
かつて第8階層まで攻め込まれ、情けなくも全滅した。我々守護者を巻き込まない為。
そして、置き忘れ、放置され、自分たちは見捨てられたと幼子のように泣く、我々の為――」
デミウルゴスは、心中で不甲斐なさを恥じ、至高の御方の秘す偉業に、慈悲深さに、心からの敬意を示した。
「なんという偉業。そして、なんという慈悲でしょう……」
デミウルゴスの瞳からは留まることを知らない涙が溢れ、頬を伝っている。
コキュートスは感動に打ち震えるように数度頭を左右に振る。シャルティアも片手に持った純白のハンカチを目尻に当てていた。
デミウルゴスの説明で、ようやくカルバインの真意に気づいたアウラとマーレも滂沱の涙を流していた。
先ほどまで慈母の微笑を浮かべていたアルベドも、今は「くふー」なんて変な声を噛み殺し、ハンカチを目尻に当てている。
セバスは先ほどデミウルゴスに渡されたハンカチを使うべきか躊躇し、結局は意地を張って血が出るほど拳を握り締めながら涙を堪えていた。
守護者達がやっと耐えている感動に、セバスに同行していたルプスレギナは耐えられる筈も無く。
職務中だと言うのに「なんでそんな優しいんすかー!」と、素で泣きながら叫んでいた。後でセバスに叱られるだろう。
そんな守護者を、ナザリックの仲間達を温かい眼差しで見回しながら、デミウルゴスは懐から取り出した何枚目かのハンカチで涙を拭く。
「カルバイン様はこんな不甲斐ない私達の為に死んでも良いなどと言って下さる。
これではまったく逆ではないかね。
至高の御方を守護すべき我々が至高の御方に守られている。
そして、我々にそれを示すために血を流す事を厭わないカルバイン様。
しかし、万一の事があれば唯一残った盟友が……だからこそ、モモンガ様はあれほどカルバイン様にお怒りになられたのだろうね」
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しんみりとした空気。微かにすんすんと鼻を鳴らすような音も聞こえる。
コキュートスはその湿っぽい空気を変えようと口を開いたが、話題の選択からして間違っていた。
「マーレ。カルバイン様ノ、モフモフトハナンダ?」
「ええと、その、以前、カルバイン様が第六階層の3分の2を農園にしてしまった事がありましたよね。それに怒ったぶくぶく茶釜さまに言われて、狼形態になったカルバイン様のお腹のところに、こう……」
な、なんだってーッ!!!(AA略
「至高の御方に触れて頂くどころか、枕になって頂けるとか!?」
「くふー! 私もモモンガ様に抱き枕にして頂きたい!!」
「ソウイエバ、ソノ後カラダッタカ? カルバイン様ガ外ニ開拓ニ出ラレルヨウニナッタノハ……」
「あっ……」
誰かの空気を読まない発言で、一瞬、沸騰しかかった空気は再び氷河のように冷え切った。流石は凍河の支配者。
そのカルバイン腹枕の一件に立ち会っていたアウラとシャルティアは、この冷え切った空気に思うところは同じだったか、目が合うと互いに「やれやれ」というジェスチャーをした。
「――カルバイン様の子狼形態でのもふもふは、特に強力無比な全種族魅了攻撃でありんす。お怒りのぶくぶく茶釜様も、同席の餡ころもっちもち様、やまいこ様。皆様、耐え切れずめろめろでありんした。居合わせたペロロンチーノ様も抵抗しきれんかったと悔しがってありんしたよ。そん後、カルバイン様はさいぜんのモモンガ様のようにお怒りになったペロロンチーノ様に攻撃されてありんしたが……」
ふむと、シャルティアは一つ得心がいったと言う風に頷き続ける。
「カルバイン様、総受けでありんせんか?」
なんと言う腐女子的発想。それ以上は、いけない!
男性陣と女性陣で空気にはっきりとした温度差が出た事を読み取ったのか、誰かそれ以上の不穏な発言をする前にセバスは口を開く。
「――御側に仕える事が私の使命ですので、私は先に戻ります」
「……そうね、セバス。御二人にくれぐれも失礼の無いように。それと何かあった場合、すぐに私に報告を。特にモモンガ様が私を御指名とあらば即座に駆けつけます! 他の何を置いても!」
それからさらに湯浴みの準備が、服は着たままでも、と喋り続けるアルベドを見ていたデミウルゴスはため息を吐き、シャルティアの纏う空気はコキュートスのように冷え切っていく。
アウラとマーレはそろそろとデミウルゴスとコキュートスの背後に下がり、セバスは……。
「――了解しました、アルベド。これ以上は御二人にお仕えする時間が減ってしまいますので、私はお先に失礼致します。それでは、守護者の皆様もこれで」
アルベドの止まらないであろう話をやんわりとさえぎり、ルプスレギナを従えて闘技場から去っていく。
その後、ナザリックの将来と戦力の増強、モモンガの世継ぎについて守護者間で熱く語り合ったようである。
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ナザリック地下大墳墓の一角にアインズ・ウール・ゴウンが誇る戦闘メイド『プレアデス』の控えの間があった。
モモンガの指示で第9階層と第10階層の警戒レベルを引き上げている現在、この部屋には休憩中の2人の姿しかない。
1人はプレアデスの副リーダーであり、まとめ役でもあるユリ・アルファ。
もう1人は健康的な褐色の肌の美少女。メイド服と修道服を合わせて2で割ったような服装をしているルプスレギナ・ベータ
落ち着いた雰囲気のユリ・アルファとは対照的に、ルプスレギナはころころと表情が変わり非常に明るい。まさに天真爛漫といった感じだった。
「セバス様と闘技場に行ったら、ちょーど、久しぶりにお帰りになられたカルバイン様がコキュートス様と模擬戦やってて凄かったっすよ!
タオルをお渡ししたら、ありがとうって言って貰えたっす!」
「きゃー」と表情を緩め、その頬を両手で包み込む。ぐるんぐるんと身体を振るのに合わせて、長い赤髪の三つ編みも尻尾のように振り回されている。
頬をピンクに染めながら、照れたように、幸せそうに笑うルプスレギナを見て、ユリも微笑ましく思い小さな笑みを浮かべている。
「その後、モモンガ様に火球で爆撃されてたっすけど、デミウルゴス様がそれも全部計算ずくで私たちを安心させる為だって教えてくれたっす。感動の余り、守護者様方の前で素に戻って泣いてしまったっすよ」
その後にセバス様に叱られたっす、うへへと誤魔化し笑いをしながら頭を掻く。その姿にユリは思う。
忠誠を捧げ、その身も心も捧げきっている至高の御方の大いなる慈悲に触れた以上、感涙に咽び泣くのも致し方ないが、この娘はその前に微笑ましいで済ますわけには行かない行動をしていた。それだけは注意して置かねばなるまい。
「ところで、その前にカルバイン様が広間にいらっしゃった時、職務中に、しかも至高の御方に対してウィンクをするとか何を考えているの?」
「ち、違うっすよ!? ヘロヘロ様にカルバイン様が目の前に来たらウィンクするよう勅命を頂いていたっす」
「! そうだったの。そうとは知らず、ごめんなさい」
至高の御方の勅命とあれば、何事にも優先される。
ユリの謝罪を気にしていないとルプスレギナは言葉を続ける。
「あ、ユリ姉。それでそれで、広間でモモンガ様とカルバイン様がいらっしゃった時にウィンクをしたら、カルバイン様は可愛いって言ってくれたっすよ」
再び「きゃー」と表情を緩め、その頬を両手で包み込む。ぐるんぐるんと身体を振るのに合わせ、長い赤髪の三つ編みも尻尾のように振り回されていた。
恋する乙女を通り越して、これはもうライブで目が合っただけで失神する熱狂的なアイドルファンだ。
尤も彼女たちからすれば、この程度は当たり前の事でしかない。落ち着いて見えるユリとて、ルプスレギナと立場が逆なら冷静ではいられないと理解している。
妹のはしゃぎぶりが微笑ましくもあり、自分では無い事を残念に思う気持ちもある。
だが、この妹は特にカルバイン様の開拓村ダーシュ村で生まれたとされている。その上、同じワーウルフ。
至高の41人に「そうあれ」と生み出された自分達であるが、ルプスレギナは特にカルバインと関わり深くなるよう生み出されている。
カルバインも以前からルプスレギナを気にかけており、何かにつけてルプスレギナの様子を窺いに立ち寄る事が多かった。
(そう言えば、ボクを創造したやまいこ様が、ぶくぶく茶釜様、餡ころもっちもち様とお喋りをしていらっしゃった時、ぶくぶく茶釜様が『幼子を自分好みに育て上げる光源氏計画は、千年を超えて受け継がれる至高の伝統』とおっしゃっていた)
これは……。ヘロヘロ様の勅命。これまでの積み重ね。決まりね。
「……これは、もう、あれかしらね」
「? どうしたっすか、ユリ姉」
「光源氏計画よ、ルプー」
「なんすか、それ?」
「カルバイン様はルプーを自分好みに育て上げた上で、御寵愛を下さるおつもりなのよ!!」
ユリ・アルファ、戦闘メイド『プレアデス』のまとめ役。
明確な序列を持たない他のメンバーからも姉として慕われている落ち着いた大人の女性であるユリ・アルファだが、至高の御方への忠誠も敬愛も信仰も、守護者達と比べても勝るとも劣らない。だからこその名推理。
「御寵愛!? そんな番だなんて!?」
三度「きゃー」と表情を緩め、その頬を両手で包み込むルプスレギナ。ぐるんぐるんと身体を振るのも、長い三つ編みが尻尾のように振り回されているのも、どちらも荒ぶりすぎてバターになりそうな勢いだ。
「……セバス様? はい、ルプスレギナに……はい、伝えます。はい」
セバスからの《メッセージ》を受けたユリは、興奮しすぎて荒ぶるルプスレギナを横目に何度か頷く。
これだけはしゃいでいる妹にこれを伝えて大丈夫だろうか? 喜びすぎて心臓が止まるのではないだろうか、自分は心臓がないので分からないが。
そんな心配をしながら、セバスからの《メッセージ》の内容をルプスレギナに伝えた。
「ルプー、セバス様から『カルバイン様が食事の給仕はルプスレギナにお願いしたい』って……」
「マジっすか!? 了解っす!! 直ちに向かうっす!!」
人間形態では出ていない筈の尻尾がぶんぶんと振り回されているのが目に見えるような勢いで走り出そうとする。
「ルプスレギナ、言葉遣い」
その言葉。ユリの叱責にびたっと脚を止めるとルプスレギナは瞳を閉じ、胸に両手をあてて深呼吸を繰り返す。
「はい、了解しました。ユリさん」
「はい、良く出来ましたルプスレギナ。浮かれすぎて失敗しないように」
まだ頬に赤みが残っているがこの程度であれば大丈夫だろう。
ユリはそう判断すると、仕事モードに切り替った可愛い妹に何処に向かいどうするか細かい指示を伝え始めた。
・うちのコキュートスさんは場の空気を凍らせます。
・ジョンくんの全種族魅了攻撃はPC限定。子狼形態で動物好きのツボを押えた仕草で萌え殺します(ぽてぽて歩いて目の前でころんとあざとく転がる)。可愛さに耐え切れずもふったペロロンチーノを「だが、俺だ」と成人男性の声で突き落とす。
・腐ってる女子って、即ち腐女子ですよね。