オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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ストックが尽きました。
ついでにはネトゲのレベル上げが楽しくなってきたので、更新間隔が開きます。


第52話:CLUBナザリックへようこそ!

/*/バレアレ工房エ・ランテル出張所

 

 

 

エ・ランテルで最高の薬師と呼ばれたバレアレ師がポーションの研究の為に薬草採取地に近いカルネ=ダーシュ村に引っ越し、その工房はしばらく空き家となっていた。

 

エ・ランテルが魔導国支配となってから、その工房に再び明りが灯った。

 

『バレアレ工房エ・ランテル出張所』そう書かれた看板を掲げ、再びポーション販売と魔法道具(マジックアイテム)の取扱いを開始したのだ。ただ周囲の期待を他所にバレアレ家の錬金術師は帰って来ず、代わりに帝国から流れてきた年若い魔法詠唱者が店番をしている。彼女自身は錬金溶剤を使ったポーションを可もなく不可もなくな品質で作ることが出来るようだが、店にバレアレ製品が並ぶのは高位の冒険者たちにとって福音だ。

 

また、村と街を行き来する隊商が出来た為、薬草が(バレアレ工房経由とは言え)これまでよりも手に入りやすくなったのは、周囲の薬師たちにとってメリットだ。

 

この店を切り盛りしている魔法詠唱者の名前を、アルシェ・イーブ・リイル・フルト。

先日、闘技場でジョンに助けられたワーカーチーム『フォーサイト』の一員である。

 

彼女の一日は、妹たちを起こすことから始まる。

彼女が経営する店の二階にある部屋の一つ、妹たちの部屋に向かう。

 

「クーデ、ウレイ、朝よ」

 

部屋のドア越しに声を掛ける。

すると、中でドタバタと小さく物音がして、勢いよくドアが開かれた。

 

「おはよー!お姉さま!」

 

ドアが開くと同時に、中から女の子が飛び出してくる。

部屋から跳び出すと同時に、彼女は「とうっ!」という掛け声とともに跳躍し、アルシェに抱き着いた。

 

「ふみゅっ! 」

「あー!ウレイリカずるーい!」

 

抱き付いてきた妹を床に降ろしながら、アルシェが両腕を開くと空いたスペースにもう一人の妹が飛び込んでくる。

二人を抱きしめると、双子の妹たちは屈託のない笑い声をあげる。二人の頭をぐしゃぐしゃと撫で回しながら、今のこの瞬間の幸せを噛み締める。

 

 

 

妹たちが身支度を整えるまでの間に、アルシェは手早く朝食を用意すると一階の魔法道具の品揃えを確認する。

売っているものは魔法道具(マジックアイテム)と稀少なものだが、冒険者向けの魔法道具の他に帝国から仕入れてきた生活用魔法道具も取り扱っているので、店舗面積はそこそこ広い。前日の店仕舞いに確認した時と品揃えに違いがないか確認すると二階に戻り妹たちを待つ。

 

アルシェがリビングで静かに席について二人を待っていると、クーデリカとウレイリカは競うように扉を開けて入ってきた。

 

「やったー、私が一番乗りー!!」

「うー、まけたー」

 

本当に競争をしていた二人のお転婆ぶりに目を細めながらも、アルシェは一応注意する。

 

「クーデ、ウレイ、あまり走るのはだめ。怪我したらどうするの」

「「はーい」」

 

可愛さ余って強く注意できないから、毎日のように双子の競争は行われるのではないだろうか。

三人が揃ったところで、彼女らは朝食を食べ始めた。

 

「お姉さま。お母さまは次はいつ帰ってくるの?」

「ん、次は5日後」

「お母さまのお土産、楽しみ」

 

魔導国へ一緒に移住してきた母親はメイドとして働きに出ている。

魔導王の眷属であるアンデッドが多数働くエ・ランテルでは、特に太守などの魔導王の近くで働くもののメイドになる者がいないと言う。

嫁入り前にメイドとして花嫁修業もしていた母親はジョン・カルバイン大使の口利きで、太守ラナーのメイドとして働き始めていた。

 

ぶらっく企業にはしないとの言葉の意味は良く分からなかったが、母は大体1週間おきに休日を貰って、ここに帰ってくる。

 

その際にラナーからお土産としてお菓子を貰ってくる事があり、クーデリカとウレイリカはすっかりそれの虜になっている。働いて帰ってくる母親の笑顔が明るいのも、嬉しい誤算だった。そして、雇われの魔法道具屋の店主だが、太守のメイドを勤める都合上、形ばかりだが身分は貴族という事になっていた。

 

運命とは皮肉なものだ。

 

食事を食べ終え、食器などを片付けた後、妹達には洗濯や部屋の掃除を任せ、アルシェは一階の店を開店する。

開店して、しばらくすると店の入口が開かれ、ロバーデイクが入ってくる。彼は客ではなく妹達の送迎だ。

 

「おはようございます、アルシェ」

「おはよう」

 

二階に声を掛けると、またドタバタと物音がし双子が駆け下りてくる。

 

「「ロバーおじさん、おはよう!」」

「おはよう。今日も元気ですね」

 

太守であるラナーが王女時代に王都で開いていた孤児院も、エ・ランテルに引っ越してきていた。

その孤児院の管理を任されたロバーデイクは、子供たちに読み書き算術も教えている。

 

弱者救済の為にワーカーになったロバーデイクだったが、魔導国の神殿のあり方――治療による報酬額が定められており、それ以上の額を請求しない。報酬額も平民が払える額だ――神官や冒険者の自由な診療(ボランティア)を許している事に驚き、感動し、涙を零した。自分の目指した世界がここにはあった。

 

そんなロバーデイクは孤児院の子供達に教えながら、近隣の子供を労働力としなくても良い程度の余裕のある家々の子供たちにも、一緒に読み書き算術を教えているのだった。

 

店を出ると、ロバーデイクが送迎している子供たちとはしゃぎながら、学校でもある孤児院へ向かっていく双子を見送るとアルシェは店内に戻った。

 

 

 

/*/ターマイト商店

 

 

 

ヘッケランは目を覚ますと、腕の中のイミーナを起こさぬようにそっとベッドから起き上がった。

水差しの水を一口飲んで、タオルで身体を拭くと身支度を済ませる。

 

エ・ランテルの市場の商店が立ち並ぶ通りの一つ。そこの商店がヘッケランとイミーナの新たな住処だった。

 

二人は魔導国にエ・ランテルが支配された際に街を去った商店の一つを改装して、ターマイト商店として使っている。

立ち去った商店は他の街に伝手がある商店だっただけに一等地の広めの商店を入手できたのは運が良かった。

 

取り扱う商品は少量多品種で、まだまだジャンル分け出来ていない。

 

冒険者が必要とする雑貨から、一般向けの商品や富裕層向けのお菓子まで雑多に取り扱っている。売上を伸ばして店を複数持てるようになりたいと思ってしまうほどだ。

 

今朝の食事当番であるヘッケランは手早く朝食の用意を始める。

 

冬の朝だが、魔導国大使ジョン・カルバインの手配してくれた建物は魔導国の手によって《環境防御結界》《毒ガス防御結界》等の魔法がかけられ、とても快適だ。台所には『湧水の蛇口』と『発火の焜炉(コンロ)』が設置され、毎日の水汲みも火起こしもいらない。天井に取り付けられた飾り気のない逆三角形の土台に細長い《永続光》が付与された照明器具でムラなく室内を照らしている。

 

これらの魔法道具は簡単な改装で既存の建物に設置できるのが売りで、アルシェの魔法道具屋で取り扱っている商品でもあった。

 

トイレだけは『じゅんかんがたしゃかいの構築の為』とかの理由で既存のものを《毒ガス防御結界》等で匂いなどが漏れないようにしたものだった。これまでのように下水に汚物を流す事を許さず、この人の糞尿は毎日、近隣の農村が肥料にする為に回収に回ってくるが――驚いた事にこれは有料で引き取られるのだ。

 

お金を払って引き取ってもらうのではない。

 

農村で買い取ってくれるのだ。これによりスラム街などの衛生環境も劇的に良くなったと言う。

それはそうだ。これまで文字通りの汚物だったものが、金を生み出す卵になったのだ。人間など金になるものには幾らでも正直になると思っているヘッケランからすると当然の結果だが、こんな方法で街が綺麗になるとは思ってもいなかった。

 

食事時に考える事ではないなと、頭を振って考えを追い払うと用意した食事をテーブルに並べ、まだ起きてこないイミーナを起こしに寝室へ向かう。

 

 

 

食事を終えると手早く片付けし、揃いのエプロンをしてイミーナと二人で階下の店に向かう。

 

店舗内には様々な雑貨が並んでおり、入口に近いところにカウンターとショーケースがある。ショーケースは驚きの全面ガラス張りで《保存》の魔法が付与されている。内部にはチーズケーキやカヌレが並び、調光された《永続光》で美味しそうに照らし出されていた。

 

歪みのない曲面ガラスだけでも高価なのに、それを使ったショーケースを用意できる魔導国の財力、技術力には舌を巻くばかりだ。

 

店内に異常がないのを確認すると扉をあけて、店の前にテーブルと椅子を出し、パラソルを刺して、客席を幾つか設ける。

設置が終わるとヘッケランは空を見上げて腰を伸ばした。冬の良い天気だった。

 

「今日は良い天気だな。今日も来るかな?」

「来るんじゃないかしらね」

 

イミーナの言葉に頷くと店内に戻って、カウンター内に設置された『湧水の蛇口』から水を汲むと『発火の焜炉』でお湯を沸かし始める。

そうしてると、本日一人目の客が訪れてくる。

 

「おはようございます」

「おはようございます!モモンさん」

 

漆黒の全身鎧に身を包んだ大柄な戦士。エ・ランテルの誇るアダマンタイト級冒険者、漆黒のモモンだった。彼は時折、店を訪れては店舗前の席から市場を行き交う人々を見守るように見つめている。

 

「今日は何にしますか?帝国産の豆が少し入荷してますよ。なんでもドワーフが作ったとか」

「ほう?それじゃあ、それを貰おうか」

「はーい。ヘッケラン、珈琲1つ」

 

イミーナに了解の合図を返すとヘッケランは珈琲を淹れ始める。ワーカー時代は珈琲など淹れた事もなかったが、店を出すにあたってルプスレギナから紅茶と珈琲の淹れ方の特訓を受けたお陰で、美味いお茶を出せると思っている。

 

湯気のあがる珈琲をモモンの前に出すイミーナ。それにはカヌレが添えられていた。

 

「……これは?」

「サービスです。ンフィーレアさんの新作ですよ」

「そうか。ありがとう」

 

モモンが良く訪れる店と言う事で、冒険者や一般人の注目も集められて集客で助かっているのだ。このぐらいのサービスは安いものである。

いつものように気が付くと減っていく珈琲とカヌレ。決して兜を脱がないモモンがどうやって気がつかれないうちに飲んでいるのかはエ・ランテルの七不思議の一つだ。

 

「……ほろ苦い皮の後を追ってくる、もっちりとした中身の甘味と洋酒の香りが良いな」

 

律儀にサービスしたカヌレの感想を聞かせてくれる気遣いは、流石にアダマンタイト級に上り詰めるだけはあると思う。お陰で新商品の売り文句に困らない。ヘッケランはモモンの感想を小さな黒板に書き込むとPOPとして、ショーケースの前に設置する。勿論、新商品の珈琲豆にもモモンの感想を添えてPOPを設置だ。

 

モモンが店を出て、お昼までは近所の者たちがお客の中心だ。お昼を過ぎた頃から、ぼちぼち冒険者たちの姿が増えてくる。彼らは『携帯燃料』や『ロープ』などを中心に購入していくが、女性冒険者にも甘味の需要が高まってきている。

 

この商店で扱う『ロープ』は〈蜥蜴人(リザードマン)〉が器に使うヤシの実に似た木の実から取れる繊維で作られたもので、水に強く丈夫で軽いとあって密かなヒット商品だ。

 

如何なる種族でも平等に受け入れると言う魔導国の主張の通り、この店の商品は様々な種族の知恵が詰まった商品が多く並んでおり、それを見るだけでも知識欲が刺激されると魔術組合長も訪れるほどだった。

 

 

 

/*/バハルス帝国帝城

 

 

 

鮮血帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは焦燥していた。

騎士団も、魔法省も、神殿も、魔導国の圧倒的な力の前に心をへし折られ、立ち上がる事が出来ないでいる。

 

戦わずして負けたようなものだ。

 

そのくせ平民からの人気は鰻登りだ。天才剣士を独力で打ち倒す強い皇帝とのイメージがついてしまっている。魔導国がその気になれば、皇帝をすり替える事も出来る事実を公にするわけにもいかず、騎士団なども本気にし始めているのが頭の痛い問題だ。

 

胃が痛いのも、朝起きた時に枕に髪の毛がびっしり付いてるのも、全て魔導国が原因だ。

 

独占していたドワーフ達との交易も、魔導国はドワーフたちと国交を結び、交易どころか技術交流まで始めていると言う。

他の国と同盟を結び強大な魔導国へ対抗しようにも、既に法国も王国も魔導国の属国だ。

 

王国や法国のように力で捻じ伏せられる前にと属国化を大使ジョン・カルバインに申し出たが、その場で断られてしまった。

 

やはり、魔導王はアンデッドらしく生者を憎んでいるのだろうか?

一度は苦しめ、殺戮しなければ、支配しないと言う事なのだろうか?

それとも、やはりアンデッドの感性で生者の苦しむ姿を楽しんでいるのだろうか?

 

答えの出ない問いにジルクニフの優れた頭脳はぐるぐる思考をループさせ続ける。

 

今日の執務を終え、寝室に向かうジルクニフだったが、その彼の前に漆黒の闇が生まれる。

ぽっかりとした黒い穴。それは何もかも吸い込みそうな漆黒の色を湛えていた。

 

「陛下!!」

 

異常事態にバジウッドとニンブルの二人がジルクニフの前に出る。

 

「……こんばんは、ジルクニフ。良い夜だな」

 

闇の中から聞こえてきたのは、アインズ・ウール・ゴウン魔導王の声だった。暗い闇の中から滲み出すように豪奢な衣装に身を包んだ不死者の姿が現れる。続いて人狼(ジョン)の姿も現れた。

 

「ジョンさんから報告を受けてね。迷惑かもしれないが、早急に君と話し合わなくてはと、飛んできたのだよ」

「……飲みながら、少し話さないか?」

 

酒瓶をかざして、ジョンが言う。酒の席を用意したとの事だったが、安全保障上の懸念から〈転移門(ゲート)〉を潜るのは丁重にお断りし、帝城の一室で席を設ける事とした。

 

 

 

白い石材で作られたバルコニー。そこには深い色合いの木材から作られたデッキチェアが置かれていた。座面に張られた布には端に細かな細工が施されている。

用意されたチェアにもたれ掛かりながら、夜の帝都アーウィンタールを眺める。

 

灯りによって照らされた帝都は豊かさの象徴だ。

 

大通りに設置された『永続光』の街灯は帝国の財であるし、そこを市民が行き交うからこそ灯りが点る。

ジルクニフはそんな帝都の夜景を見るのが好きだった。いつも見るたびに胸に広がるのは己の内政による確かな手応えと充足感であった。しかし今となっては掻き消えてしまいそうな、そんな夢幻の光景に思えてくる。

 

「……活気のある良い街だな」

 

琥珀色の酒が注がれた杯を前に、夜景を見つめるアインズ・ウール・ゴウン魔導王の口から言葉が漏れた。

 

「そうだろう。……自慢の街、国…なのだ」

「ああ、羨ましく思うぞ」

「……では…では!!どうか貴国の属国として欲しい!法国や王国のように民を蹂躙しないで欲しい!」

 

帝国皇帝としてではなく、帝国を愛する人間ジルクニフの叫びだった。

不死者の眼窩に燈る赤い光がジルクニフの心の底まで覗き込むようにじっと向けられた。

 

「蹂躙も、属国もしない。ジルクニフ、君は私たちの友だ。友とは対等なものではないか」

私たち(人間)の知恵も力も、お前たちと対等とは言えないではないか!」

 

皇帝の真意の発露に控える者たちは息を呑んだ。

しかし、アインズは静かに答える。

 

 

「だが、活気のある国を作る事は出来る。私にそれを教えてくれると嬉しい」

 

 

そう言って、真摯に頭を下げたアインズの姿にジルクニフは息を吞んだ。

エ・ランテルは静かな街になってしまった。私は多様な種族の集う活気のある国にしたいのだ。

そう続けたアインズの言葉の裏を探ってしまうジルクニフだったが、ジョンの言葉でさらに分からなくなる。

 

「ジル、お前は難しく考えすぎなんだよ。……この世界にきて、お前が初めて俺たちに友になろうと言ってくれたんだ。それが何より俺たちは嬉しかったんだよ。帝国として俺たちに謀をする時もあるだろうさ。それでも、お前が友でいてくれるなら、俺たちはそれで良い」

 

幼い頃より皇太子として育ったジルクニフには友と呼べる者はいない。友とは物語の登場人物が持つものでしかなかった彼には、ジョンの言葉は理解し難いものだった。

 

拗らせたリア充ぼっちである彼に友人が出来るのは、まだまだ先の事のようである。

 

 

 

/*/CLUBナザリックへようこそ!

 

 

 

「ほら、モモンガさん。はやくはやく」

 

ジョンがそう言っているのはナザリック第9階層の廊下だった。

モモンガを誘う先にはジョンの私室。酒でも飲もうとジョンが言い出したのだ。

 

メイドが扉を開けてくれ、中に入った二人を出迎えたのは同じくメイド+αだ。

 

「「「いらっしゃいませ、モモンガ様」」」

 

両手をへそのあたりで交差させて、綺麗な一礼で出迎えたのはプレアデスの6名とアルベド、シャルティアの8名だ。

……ただし、全員がバニーガール姿だったが。

 

「な、な、な」

「今日はお疲れのモモンガさんの慰労を兼ねて、少し趣向を凝らしてみました」

 

わざわざ人型で出迎えに来て、『自己変身の指輪』で自分(モモンガ)も人間形態で連れ込むから何かあるとは思ったが、こんな事だとは思わなかった。

 

「……これはあんたの趣味でしょう?」

「そんな事いってぇ。モモンガさんだって、バニースーツ仕舞いこんでるのは知ってるんだからね」

 

どこでそれを!?と問い質そうとして、目の前のアルベドの姿を見て納得した。

アルベドが引っ越してきた際に自分のコレクションを隅々までチェックされていたなぁと遠い目をする。

 

アルベドが来ているバニーコートこそ、モモンガのコレクションの品だったのだ。

 

「モモンガ様、如何でしょうか?」

 

そう言うアルベドは羽根をどうにか仕舞ったのか。角と羽根の無い姿で白いバニースーツに身を包んでいた。

女性NPCに着せてみたいと購入したが、死蔵していたコレクションだ。自分の性癖を調べ上げて、メンバーたちがアルベドを創造したと言うだけあって、アルベドの容姿はどストライクだ。如何でしょうと問われれば、それは確かに。

 

「ん、んん。な、なかなか魅力的だぞ、アルベド」

 

微笑みながら「それは良かったです。くふふふ」と嬉しがるアルベド。

艶やかな笑みは転移直後と比べて余裕があるように感じられる。

 

ソファーへ誘われ、どかりと腰を下ろすとモモンガの左右にアルベドとシャルティアがつく。ジョンの方はルプスレギナだ。

皆と同じくバニーガール姿のユリ・アルファとナーベラル・ガンマが、モモンガとジョンの目の前のクリスタルガラスの杯に琥珀色の酒を注いでくれる。

 

目の前に現れたユリのたわわな果実に思わず目を奪われたモモンガは、罪悪感を感じ、心の中でやまいこに詫びる。

 

一方、人間形態のジョンは裸の上半身に赤い上着を羽織った姿にも拘らず、ルプスレギナを抱き寄せながらグラスを手にしている。

その場慣れしてる感がモモンガ的にはムカついた。

 

「エ・ランテルでアインザック組合長に接待された時は、はっちゃけられなかったからな。今日は楽しもうじゃないか!」

 

ジョンはそのまま手にしたグラスを掲げて、「アインズ・ウール・ゴウンに…」とモモンガへ向けてくる。

 

「「乾杯!」」

 

くっとグラスをあおると、口の中に広がった酒からバニラやナッツのような香りが広がり、酒精が喉を焼く。

 

「……随分と慣れてる感じですね。リアルでも遊んでいたんですか?」

 

思わず恨めし気な声をジョンへ掛けてしまう。

 

「いいや。リアルは仕事と道場とユグドラシルの三角食べでしたよ。営業やってたモモンガさんの方が機会あったのでは?」

「接待する程の優雅な仕事はしたことないですね」

「……ジルなら、こーゆーの慣れてそうですけどね」

「フレンドリーに接してるつもりですが、なかなか打ち解けてくれませんね」

 

そっと、モモンガの太ももにアルベドの手が添えられる。視線をアルベドに向けるとアルベドが口を開く。

 

「モモンガ様。あのような人の皇帝にお慈悲を与え続ける事はないのではありませんか?」

「そう言うな。アルベドよ、友と言うものは得難いものだ。そこにどのような思惑があったにせよ。私と友になろうと言った彼の心意気を私は汲んでやりたいと思うのだよ」

「はっ。差し出がましい事を申しました」

「よい」

 

人間形態でも支配者ロールを行うモモンガへ呆れたような声をジョンは掛ける。

 

「俺たちしかいないんだから、モモンガさん。もっと砕けようよ。アルベドの肩に手を回すとかさ。出来ないなら、アルベドがやってやれよ」

「何を言ってるんですか」

「……モモンガ様、少々失礼致します」

 

ジョンの言葉を受けて、アルベドはモモンガの腕を持ち上げると自分の肩を抱くように回し、モモンガにぴたりと寄り添った。

慌てたモモンガだったが、反対側に座るシャルティアから「モモンガ様、アルベドにお慈悲を御与え下さい」との援護射撃に黙るしかない。

 

「ほらほら、モモンガさんも飲んで飲んで。……そう言えば、シャルティアは俺たちがペロさんと喋る時に近くに居た事が多かったけど、会話の内容覚えてる?」

「はい!勿論でありんす!」

「じゃー、ギャップ萌えとかの話とかも?」

「普段、強気な者が時折見せる弱気な面によりそそるとかの話でありんすね!」

「そうそう」

「そういう意味では統括殿はモモンガ様に、もう少し恥じらってみせると効果的と思うでありんす」

「……そんな事を言っても、モモンガ様ったらイケずなんですもの」

 

ぴたりとモモンガに寄り添い。その胸にのの字を書くアルベドにモモンガは引き攣った笑いを浮かべるしかない。

 

「それ! それでありんすよ! がっつりいくと思わせて、そこでそう引いてみせる! なんでそれが出来ないでありんすか!? このがっかりサキュバスは!」

「あ、愛する人にそこまで冷静に計算ずくで向き合えるわけないでしょ!」

「だから、がっかりサキュバスなんでありんすよ!」

 

自分を挟んでやり取りする様子に愛おしさがこみ上げ、モモンガは思わずアルベドの肩に回された手で、アルベドの頭を撫でる。

 

「モ、モモンガ様」

「あ、すまない。アルベド」

「いえ、そのような事を仰らずに、もう少し」

「あ、ああ、そうか。……しかし、角のないアルベドと言うのも新鮮だな」

「はい。私も《自己変身の指輪》で50Lv相当の人間の姿を取っております」

 

そう言って、腕の中から見上げるアルベドの恥じらうような笑みにモモンガは心臓を撃ち抜かれた。

 

その後はシャルティアを交えて、ギルメンの思い出話に花を咲かせ、夜も更けるとモモンガは白いバニーガール姿のアルベドを伴って自室へ引き上げていった。

 

その後に何があったのか……翌日は妙にキョドったモモンガと夢見心地のアルベドがいた事だけは記しておく。

 

 

 

 




本当ならCLUBナザリックにジルクニフを招待して第5部が終わる筈だったのだけど……無理だったよ

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