オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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乗り込み型ゴーレム鉄の騎士

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第7章:帝国試験編
第68話:楽しいお泊り試験


 

 

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ランゴバルトが登校すると校門には普段以上に多くの人の出入りがあった。多くの荷物を運搬する商人や、全身鎧で身を包んだ騎士などの姿が見えた。

 

「さて、待ち合わせの場所は……」

 

チームの仲間たちとの待ち合わせ場所に向かう。今日は教室に向かう必要はない。校門を潜った段階で、既に試験は始まっているのだ。ここからの全てが評価につながる。

あり得ないほどの熱気が学院内を包み込んでおり、元気な声が普段以上に聞こえている。

 

試験に参加した段階で、ほぼ昇級は確定しているが、そんな姿勢を見せる者が誰一人としてない真摯な態度が熱意となっているのだ。

 

この試験における点数は、ある種のステータスとして卒業以降もついて回る。当然、良い点数を取ればペーパーテストの結果などが悪くても、本番に強いなどと見なされる。そして逆のパターンだってある。

自分の今後の人生を左右する試験であると思えば、この熱気は極々当たり前であろう。

 

冷静さを装いながらも、周囲の熱気に背を押されたように、ランゴバルトの足も早くなっていく。

 

試験での評価は旅の最中の様々な態度。倒した、もしくは相対したモンスターの強さなどによって多角的に判断されて点数がつけられる。当然ではあるが準備が終わらず、遅く出発をする者は評価が低くなる。早い者には良い点がつく。

 

若干早く待ち合わせ場所に着くと、羊皮紙を持った森妖精(エルフ)の女生徒がいた。

 

「早かったですね」

 

ヘジンマールに仕える3人の森妖精(エルフ)の一人。セルデーナだ。基本的にヘジンマール以外に興味がないような姿勢を崩さない3人だが、最近は慣れてきたのか挨拶くらいはしてくれるようになっていた。

羊皮紙のチェックシートを確認しながら挨拶してくるセルデーナに、ランゴバルトも挨拶を返す。

 

「幌馬車の借り受け、荷物の準備は私たちの方で先に済ませておきました。革鎧が必要なら、今のうちに借りに行ってきて下さいね」

 

彼女たちが荷物の準備を行ってくれることにランゴバルトも問題はない。と、言うよりも3人とも実際に旅をしたことがあるようで準備段階から彼女たちの経験に裏打ちされた知識には大変に助けられたのだ。

 

「だが、幌馬車への食料の積み込みなどもあるだろう?重い荷物を女性にだけ運ばせるわけには……」

「ヘジンマール様とアイクが〈浮遊板(フローティングボード)〉を使って運搬していますから、問題ありません」

 

断られたが、件の悪評もある。尚も手伝おうと口を開き掛けるが、それよりも早く彼女が口を開く。

 

「それでしたら、地図管理を任せたクアイアが戻ってきたら、一緒に先輩方を回って情報を手に入れて来て下さい。私たち(エルフ)は帝国では異分子ですので、ランゴバルトさんが一緒なら情報も手に入れやすいと思います」

「あ、ああ、ありがとう。そうさせて貰うよ」

 

せっかく役割を回してもらったのだ。時間を無駄にしないようランゴバルトはクアイアが戻ってきたら、先輩たちへの挨拶周り兼情報収集をしようと、それまでの間に自分の鎧をチェックする事にした。

 

ランゴバルトくらいの貴族になれば自分用の鎧を用意できるが、用意できない学生が大半である。革鎧の貸出場所には多くの人間が殺到して混雑していた。

 

ちらりとセルデーナを見ると、彼女は自前の旅装に身を包んでいた。それは真新しいが旅慣れた感じの洗練された装備だった。

やがて、地図担当のクアイアが戻ってくると、ランゴバルトは彼女と挨拶回り兼情報収集に出るのだった。

 

 

 

挨拶回りを終えたランゴバルトとクアイアが幌馬車に戻ると、そこには14名の騎士たちと身長4mほどの鋼鉄騎士(アイアン・ゴーレム)の姿があった。

兜を片手に、一列に綺麗に並んだ姿は、まさに帝国の武の結晶たる勇ましさを感じさせた。

幌馬車には既に荷物が積み込まれているようであり、騎士たちの前にはヘジンマール、アイク、セルデーナの姿があった。

ランゴバルトは騎士たちの様子を窺う。鎧の恰好や胸に刻まれた紋章から、彼らの所属や立ち位置を読み取る。

 

彼らは第一軍第三師団に所属する騎士たちで、六人の一般騎士、騎士位を持つ魔法使いが一人、騎士位を持つ神官が一人、騎士位を持つ野伏が二人、二人の重装騎士、一人の鋼鉄騎士(アイアン・ゴーレム)の操縦騎士、そして小隊長という構成のようだ。

 

通常時の帝国領内の巡回に当たる騎士たちのチーム構成の一人を、最近になって魔導国から輸入したと言う乗り込み型のゴーレムに入れ替えた構成だった。

 

ランゴバルトが小隊長と判断した男が一歩前に出る。

 

「さて、私が君たちと同行する事になるのだが、班長はヘジンマールくんだね」

「はい、私がヘジンマールです。……ランゴバルトくん。本当に班長は私で良いのか?」

 

「班内の人望は私よりヘジンマール様の方がありますから」

 

ランゴバルトは苦笑するとヘジンマールに言葉を返す。もっとも実務は森妖精(エルフ)3人娘がやってしまい男二人はお飾りのようだと思ってもいたが。

 

「私たちは君たちに同行し、守るのが役目だ。試験中よろしく頼む」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

ヘジンマールが常識的に挨拶し、隊長と握手した事にランゴバルトは心底ほっとした。

 

 

 

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幌馬車には騎士から4人と班から3人、ヘジンマール、セルデーナ、クアイアが乗り、残りが馬に乗って旅をしていた。一人馬に乗り外に出る事になったアイクが不満そうだったが、準備の時にヘジンマールと一緒にいたのだからと外に出された。ランゴバルトは勿論、外だ。

 

鮮血帝は予算のかなりを割いて、乗り込み型ゴーレムを購入したと言う。

 

今回の試験はその試験運用も兼ねているのだろう。各班に1体ずつ付けられた〈鋼鉄騎士(アイアンゴーレム)〉は総数で100体になるだろう。どういった運用が効果的か?それを騎士たちに試行錯誤させる試験も兼ねているのではないかと御者台のランゴバルトは考えていた。

 

草原のど真ん中を走る街道の上、御者台に座ったランゴバルトは揺られながら進んでいく。街道は石畳のような立派なものではなく、土をむき出しにしただけものもである為、時折、轍の跡に嵌ってガタリと大きく揺れる。その度に薄い座布団を敷いた荷台に振動が伝わり、ランゴバルトの尻を下から突き上げた。

 

尻の痛みに眉を顰めながら、ランゴバルトは草原に視線を動かした。

青い空の下、草原が続く光景はランゴバルトに感銘を与えてくれる。帝国は王国などより安全だが、それでも都市外に出ないで人生を終える者の方が多いのだ。

 

街道の先、後方に眼をやれば、他の班の護衛につく〈鋼鉄騎士(アイアンゴーレム)〉の姿が微かに見える。

 

そのうち1体は、今も大きな地響きを響かせて幌馬車の後をついてきている。

これが帝国の守りとなってくれるなら、今よりも帝国領内は安全になるのではないだろうか。オーガなどを引き連れたゴブリンなど地響きを響かせる音だけで逃げていきそうだ。

 

その時、ガタンと振動が走った。

 

薄い座布団越しにお尻が木の荷台にゴリゴリと当たる。馬車自体揺れやすいものだが、そういったものとは違う、何か異質な揺れだ。

異常事態の発生は間違いがない。では一体、何事か?

ランゴバルトは視線を前にやる。人工物は全く見えない。どこまでも続いていきそうな草原だ。

揺れはまだ収まらない。最初に考えた轍に嵌ったと言うのが期待外れである事を伝えてくる。

諦めて手綱を引いて馬を止めると飛び降り、後ろに回る。目にするとショックは大きかった。

 

右側の後輪が内側に傾いている。異常事態の発生は言うまでもない。

 

「左側に異常はありません」

 

左側から回り込んできたアイクが馬から降りながら声を掛けてくる。その言葉に少しだけ救われた気持ちになった。

 

「右側後輪だけの異常のようですね。車軸に異常とは思いたくない……」

 

車輪の前にしゃがみ込んだランゴバルトだったが、アイクにどかされる。代わって車輪の前にしゃがみ込んだアイクが車輪を検分し始める。

 

「軸受けの一部が歪んでいますが……なにか細工されていましたね。これも試験の一部でしょうか?」

「細工!?」

 

驚いたランゴバルトが騎士たちを見ると、騎士たちは興味深いと自分たちを見ている様子だった。

ランゴバルトは頭の中に地図を思い浮かべる。最も近い街まで騙し騙しいけるだろうか?それとも騎士たちの補給基地まで行けるだろうか?

 

如何すれば良いのかと考えていると、馬車を降りてきたヘジンマールの穏やかな声が掛かった。

 

「〈修復(リペア)〉」

 

ヘジンマールの魔法の発動に合わせて、ガタリと馬車が動く。急に元に戻った軸受けに押される形で車輪が正しい位置に戻った振動だ。

 

「耐久限界が若干下がるけれど、取り合ず問題ないでしょう」

「旅をする冒険者などは最低でも〈巻物(スクロール)〉で良いから準備をしておけと言われていますね。……私たちの班は私とヘジンマール様が取得しているので用意していませんでしたが」

 

流石はヘジンマール様、とアイクは言葉を続けた。

 

騎士隊所属の魔法使いが満足気に頷くのが見えた。この試験には合格したと言う事だろう。

ランゴバルトはこの班に入れて良かったと少し…思った。

 

 

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「まったく見事としか言い様がないな」

 

ジルクニフは新たにまとめた予備費の試算表を眺めながら呟いた。

 

アインズによるアンデッド輸出の打診は受け入れる事が出来る筈もなかった。

確かに疲労もせず、給金も必要ないアンデッドによる警備や農作業、果ては執務まで……それは使う者からすれば一見魅力的だが、それはアンデッドを支配できるアインズに軍事も食料も、内政も丸裸にされて生殺与奪権を握られてしまう事に他ならない。

 

それでも圧倒的な軍事力を誇る魔導国からの提案だ。

 

完全に断る事など出来よう筈もない。そこに差し出されたのが、ジョンの乗り込み型ゴーレムだ。

乗り込み型ゴーレムは人が乗らなければ動かない。

それはつまり万が一の際に魔導国に支配権を奪われないと言う事だ。しかも、仕様を完全公開し、最終的には自国生産するまでの道筋が見せられている。

 

フールーダ後任の主席魔法使いに確認したが、今すぐは無理だが最終的には自国生産も可能との答えを得ている。

 

アンデッドと比べれば確かに高いが、原料の鉄を帝国からの輸入で賄う点も良い。アインズからのアンデッド輸入を鉱山用のスケルトンなどに絞り、鉄鉱石を増産し、それを製鉄し、魔導国へ輸出。魔導国から〈鉄の騎士(アイアンゴーレム)〉を輸入する。一方的な依存関係にならないならば、安全も多少は担保される。

 

同時に仕様を公開された乗り込み型のゴーレムは製作が用意で、自国生産も行える。

 

操縦者が剥きだしで戦闘には向かないが、公共事業に使えば文字通り大きな力になってくれるだろう。

ゴーレムとしての利点。自立行動が可能な点や疲労しない点などが、操縦者の存在によって台無しになってしまうのが欠点だと魔導国は言っている。しかし、人間の国としてはそれは大きな利点だ。

 

決定し、行動するのは人間でなくてはならないのだ。

 

乗り込み型ゴーレムの強さはあくまでもゴーレムとしての強さになる為、1対1ではオリハルコン級冒険者などに撃破されてしまう。それでもオリハルコン級まで到達できる人間がどれほどいるというのか?

 

銀級(シルバー)の剣技しか持たない人間でも、これに乗れば例えば……武王と打ち合えるようになるのだ(勝てるとは言っていない)。

 

そして、人間と同じ道具を使える利点は多くある。

 

特に今までない巨大な道具だけに、道具、武具を生産する事による経済への影響は計り知れない。

 

「飴と鞭……無理を言うだけなく、きちんとメリットも用意してくるのが恐ろしいところだ。アインズとジョン……完璧に連携している二人を離間させるのは無理そうだな」

「恐れながら陛下。礼には礼をと言うだけあり、魔導国は王国などよりも遥かに信頼できる相手ではありませんか?」

 

秘書官の問いをジルクニフは哂う。

 

「自分が絶対の支配力を持つアンデッドを売り込みにくるがな」

「失礼しました」

「問題は私がそれを問わなかった場合、絶対の支配力を持つ事を開示してきたか……だがな」

 

問わなければ、それを忘れたようにしれっと売り込んでいったのではないかとジルクニフは疑っていたのだ。

重要な物資の輸出入で必要な確認を怠った方が間抜けとの意識はジルクニフにもある。国を治める者として、それが出来る相手の提案を諸手をあげて受け入れる訳にはいかない。

 

属国化を断られた以上、軍事でも経済でも食料でも、魔導国があってもなくとも自主独立を保てるだけの力を持たなければならないのだ。

 

「魔導国から通知が来ていたな」

「はい。我が国と国境を接するトブの大森林の地下にゴブリンの大集落が発見されたと……。ゴブリン・キングとの交渉が決裂したので、駆除するが、その残党が四方に散る可能性があるので注意されたしとの事です」

 

「学院の試験の時期だったな……生徒と護衛の騎士で討伐は可能か?」

 

「今年は運用試験も兼ねて〈鉄の騎士(アイアンゴーレム)〉を各班につけておりますので、オーガなどが一緒でも十分に対処可能です」

「討伐の為に大森林に入る事は許可するが、事故や死傷に責任は持たない。薬草などの資源の採取は禁止すると連絡がありました」

 

「当然だな。試験につく騎士たちに伝えておけ……ところで〈鉄の騎士(アイアンゴーレム)〉が今まで我が国で開発できなかったのは何か理由があるのか?」

 

ジルクニフの疑問に主席魔法使いが答えた。

 

「はッ。ゴーレムと言えば、独立して行動が出来、疲労を知らず、眠らない謂わば人造のアンデッドのようなものです。その命令を聞き入れ、理解し、周囲の状況を理解し、独自に判断する魔術的な回路とも言うべきものを作るのが非常に難しくゴーレムの製造を困難なものにしていました」

 

「なるほど……魔導国の〈鉄の騎士(アイアンゴーレム)〉は一番の問題であった魂とも言うべきところを作らず、人間が乗り込む事で解決させる事により、製造の難易度を下げていると言う事か」

 

「御意」

 

「やはり恐るべきはその智謀か。これまで誰も思いつかなかった事を実行する視野の広さ……か」

 

魔導国の脅威を噛み締め、次の打つ手を考えるジルクニフへ秘書官の一人がおずおずと報告をする。

 

「陛下、カルバイン様より闘技場観戦のお誘いが……」

「またか!今度は何を企んでいる!」

「断りの連絡を致しますか?」

 

「また、この間のような事をされては面倒だ。スケジュールを調整しろ。いくしかあるまい」

 

ジルクニフは深く椅子に背を預けた。

机上にはゴーレムの仕様書、予算試算、そして魔導国からの通知文。

紙の山が、帝国の未来を象徴しているように見える。

 

――軍事、経済、食糧、そして内政。

どの分野でも、魔導国は“全ての手を握っている”。

だが、あえてそれを丸ごと突きつけず、選択肢を与えてくる。

そこに恐怖を覚える一方で、ジルクニフは妙な安堵すら感じていた。

 

(アインズ……お前は本当に人間を理解しているのか?

 それともジョンという人狼の助言があればこそか……?)

 

皇帝の思索を破るように、秘書官が囁く。

「陛下……魔導国の“礼”は、帝国を縛る鎖でありながら、我らに力をも与えます。これは……利用すべきでは?」

 

「……利用する? ふん、我々が利用しているつもりで、気づけば丸ごと取り込まれている……そうはならんと思うか?」

ジルクニフの口調は鋭かったが、内心では同意もしていた。

魔導国の差し出す飴は、あまりにも甘美すぎる。

 

その時、別の秘書官が青ざめた顔で駆け込んできた。

「陛下! 至急の報告です。トブの大森林……ゴブリン残党の一部が散り、オーガと合流し小規模な“王国”を築きつつあるとの報告が!」

 

「……もうか。早いな」

ジルクニフは舌打ちした。

 

「討伐試験に出した学院の班では対応が難しいかもしれません……」

「いや、それも見越しての〈鉄の騎士〉投入だろう」

皇帝の声は苦く笑っていた。

 

――アインズとジョンは、帝国の未来を試すつもりだ。

ゴーレムを、帝国の兵を、人間の意志を。

 

そしてジルクニフは悟る。

この試練を乗り越えた時、帝国は一歩進む。

だが同時に、その一歩は“魔導国の敷いたレール”の上であることを。

 

 

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夕暮れとともに、幌馬車は街道脇の小高い丘の上で停まった。

周囲に茂みは少なく、遠くまで見渡せる安全な場所。まさに野営の定石とも言える立地だった。

 

「……さて、ここで一晩を明かそう」

小隊長がそう告げると、騎士たちは慣れた動きで馬を繋ぎ、簡易の柵を立て始める。〈鋼鉄騎士〉は無言のまま丘の斜面に仁王立ちし、まるで番犬のように辺りを睨み続けていた。

 

班の学生たちも、それぞれの役割をこなすことになる。

セルデーナとクアイアは食料と水袋を下ろし、手際よく仕分けを始める。アイクは火打ち石を取り出し、まるで儀式のように焚火を起こしていく。

 

「よし、火は任せて」

火柱がぱちりと立ち上がり、安堵の気配が広がる。

 

一方で、ランゴバルトは戸惑っていた。

貴族の身である彼にとって、野営はあまり経験がない。布を広げること一つにも手がもたつき、アイクに半ば呆れられながら手ほどきを受ける始末だ。

 

「おい、そっちは風上だ。煙が全部こっちに流れてくるぞ」

「う……すまない」

 

その様子を横目で見ていたクアイアが、くすりと笑った。

「ランゴバルトさん、不器用なんですね。ちょっと意外でした」

「……君たちは旅慣れているようだな」

「私たちはヘジンマール様のお供ですから。長い道も野営も、何度も経験しています」

 

その言葉に、またも胸の奥で小さな劣等感が疼いた。

この班の中で、自分だけが場違いなのではないか――そんな思いが頭をかすめる。

 

だが同時に、焚火の周囲に腰を下ろした仲間たちの表情は柔らかい。

炎に照らされる笑顔と騎士たちの無言の視線の中で、ランゴバルトは「今度こそ役に立たねば」と静かに拳を握りしめた。

 

焚火がぱちぱちと音を立てる中、エルフ三人娘は実に手際よく野営の準備を進めていた。

 

セルデーナは森で育った経験を活かし、風の流れと地形を確認してから焚火の位置を決める。

「ここなら煙が夜風に流れて、私たちのところに戻ってこないはずです」

そう言って、迷いなく薪を組んでいく姿はまるで熟練の猟師のようだった。

 

クアイアは荷物から干し肉や黒パン、保存野菜を取り出し、器用に刻んで煮込み鍋に放り込む。

「夜は冷えますから、温かいスープが良いでしょう」

彼女の動きに無駄はなく、指先は迷いなく食材を切り分け、香草を加える姿は料理人のそれに近かった。

 

一方、アイクは焚火の炎に掌をかざし、小声で呪文を紡ぐ。

〈修復〉や〈小清浄〉の魔法を織り交ぜ、煤けた鍋や食器を瞬時にきれいにし、湯を沸かす。

「人の手で時間をかけてやるのも大切ですが、旅の途中では効率が優先ですから」

そう言って笑うヘアイクの姿は、まるで「野営術の教師」のようであった。

 

その横で、ランゴバルトはようやくテントの布を広げ終えたところだった。

だが風を読み違えたのか、布は膨らんで絡まり、なかなか支柱にかからない。

「……くっ、これだから野営は苦手なのだ」

ぼやく彼に、クアイアが軽やかに歩み寄り、ひょいと布を抑える。

「ランゴバルトさん、こういうのは風下から建てるんですよ。支柱を先に立てちゃえば楽です」

 

軽い助言と共に、彼女の指先が布を滑らせると、あっという間に形が整う。

「……ありがとう」

「いえ、当たり前のことです」

 

ランゴバルトはその笑顔を見て、胸の奥で密かに息を吐いた。

この班の中で、自分が一番頼りない――そう痛感させられる一方で、彼女たちの経験と確かさが、逆に安心感を与えてくれるのも事実だった。

 

炎の輪の中で、エルフ三人娘はまるで「熟練した旅の一座」のように振る舞っている。

 

それを見ていた騎士の一人が、ぽつりと呟いた。

「……正直、俺たちよりよほど冒険者らしいな」

 

一方のヘジンマールは三人娘に甲斐甲斐しく世話を焼かれながら、呑気に本を読んでいるのだった。

 

 






次回!
第69話:トブの大森林は危険が一杯!

みんな読んでくれよな!
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