オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ 東方・ビーストマン領 軍議の夜 /*/
獣脂を焚いた松明の下。
巨大な毛皮の天幕の中で、諸侯たちが肉と血酒をむさぼりながら笑い声を響かせていた。
「竜王国の人間は良い餌になる。
あれほど血に魔力の香りが濃い種は、我らの国には残っておらぬ」
「家畜として飼うには脆すぎる。
すぐ病に倒れ、反抗し、逃げようとする……だが、肉は上質だ。
腐れ羊や豚などより、よほど力がつく」
牙を剥いた狼面の王が、骨を噛み砕きながら唸る。
「だからこそ我らは進むのだ。
竜王国を裂き、その人間どもを捕らえ、東へ送る。
供給が途絶えれば我らの宴は枯れ果てる。
竜など恐れるに足らぬ、人間の肉のためなら戦も惜しまず!」
周囲がどっと笑い、盃を打ち鳴らす。
その声は血と煙と肉の臭いに混じり、夜空に響いた。
――彼らにとって"侵略"とは、ただの狩猟と同じ。
人間という種族を、肉と魔力を持つ「畜産物」としか見ていないのだった。
/*/ ビーストマン連合・戦議の場 /*/
夜。焚火の炎が揺れる円形の幕舎。
巨体の獣人たちが集い、血と獣臭の充満する中、戦議の声が響いていた。
先に吠えたのは、黒毛の狼王。
肩幅は巨岩のように広く、黄金の瞳が焔を映している。
「竜王国の人間を狩り尽くせ! 肉を喰らい、群れを強くせねば、我らが牙は鈍る。
群れの戦士に肉を与えねば、次代は育たぬのだ!」
その隣、縞模様の虎王が嘲笑した。
「狼よ、貴様らは腹しか満たせぬ。
人間は戦わせてこそだ。闘技場で泣き叫ぶ姿こそ、我ら虎族の悦び!
肉を食うより、強き獲物を何度も楽しむ方がよほど価値がある」
「フン、無駄な遊戯に生かしておいて何になる」
狼王が唸ると、静かに声が割って入った。
それは長大な蛇の胴を持つ者――ナーガの商王であった。
鱗が火光を反射し、二叉の舌がゆらめく。
「狼は肉を喰らい、虎は血を浴びる。だが……それでは残るのは骨と灰ばかり。
我ら蛇は、肉を黄金に変えるのだ。
捕らえた人間は東へ送れば、竜鱗すら凌ぐ財貨に化ける。
竜王国を攻める真の理由――それは"交易"だ。忘れるな」
場が一瞬、沈黙した。
焚火のはぜる音の中、羽音とともに声が響く。
「お前たちは贅沢を言う」
広げた翼で幕舎の柱を揺らし、鷲の将が言い放つ。
「我らの山砦には労働の手が要る。人間を鉱山に送り込め。奴隷として、岩を砕かせろ。
肉も血も、財もいらぬ。ただ"働き手"が欲しいのだ」
狼王が牙を剥き、虎王が爪を鳴らし、蛇王が冷ややかに笑みを漏らす。
思惑は交わらず、ただ一つ――「人間を獲る」ことだけが一致していた。
そしてその矛先は、竜王国へと向けられる。
/*/ 竜王国北部・敵本陣潜入 /*/
闇夜に紛れ、四つの影が獣人の陣幕をすり抜ける。
鬱蒼とした松林を抜け、野営地に並ぶ松明の灯りを背に忍び寄るのは――セラブレイトと、その仲間たちであった。
「……ここから先は本陣だ。首魁ガルゾックの匂いが濃い」
先頭を進むのはレンジャーのカイム。猫のように静かな足取りで、鋭い目を光らせる。
「索敵魔法展開中。周囲に巡回二、三……配置は粗いわね」
呟くのは魔法使いのリュシア。白髪を揺らし、低声で詠唱を続けながら進む。
「神の御加護を……」
後方で祈るのは神官のマリアン。仲間を守る光の結界を小さく張り、足音を消す。
そして、その中心に立つ銀鎧の男――セラブレイト。
月光を受けて輝く姿は、潜入行動に全く不釣り合いなほどに目立っていた。
「フフ……ついに来たか、宿敵の牙城ッ!」
「いや、だから声抑えて!」リュシアが慌てて肘を突く。
「見つかるでしょうが!」
セラブレイトは構わず剣を掲げる。
「愛しき女王よ!あなたがこの身を褒美とすると誓われた!
その契約に応じ、我は必ず首魁を屠る!
ああッ、幼き御身がこの胸に――」
「しぃーっ!」
カイムとマリアンが同時に口を塞ぐ。
――だが、セラブレイトの剣から漏れる光は、不思議と敵に気づかれない。
否、それは仲間たちにも分かる。
彼の異様な気配が、逆に「人外の存在感」として獣人たちを萎縮させ、巡回兵が無意識に視線を逸らしてしまうのだ。
「……結果的に、潜入が楽になってるのが腹立つわね」リュシアが舌打ちする。
「神の導きでしょう……多分」マリアンは困ったように祈りを続けた。
やがて四人は敵本陣の中央、巨大な獣骨を積み上げた祭壇の前に辿り着く。
そこに鎮座していたのは、黒鉄の甲冑を纏う巨躯――首魁ガルゾック。
獅子の頭を持ち、血に濡れた斧を横に置いたまま眠っている。
セラブレイトの目が爛々と輝く。
「来たぞ……愛の証明の刻が!」
仲間三人は、一瞬だけ顔を見合わせた。
――この男を止められる者は誰もいない。
だが、今だけはそれで良いのだ。
銀閃が、闇を裂いた。
/*/ 竜王国北部・敵本陣 首魁ガルゾックの居館 /*/
闇を裂く銀光。
セラブレイトが真っ先に飛び込み、眠っていた獅子頭の巨将――ガルゾックを強引に叩き起こした。
「誰だァァァァッ!!」
巨斧が横薙ぎに振るわれる。
一撃で数人は粉砕されるだろう威力。
だが――。
「フフフ……遅いッ!」
銀鎧が閃光を放ち、斧の刃を受け流す。
凄絶な衝撃音と共に、地面の石畳が砕け散った。
「この首を捧げんッ!幼き女王の御身のためにィィィ!」
「またそれかよ!」
レンジャーのカイムが舌打ちしつつ、背後から矢を放つ。一本は巨躯の肩に刺さり、動きをわずかに止める。
「【アイス・ランス】!」
リュシアの詠唱から氷槍が飛び出し、ガルゾックの脇腹を抉る。
その瞬間を狙って、セラブレイトがさらに踏み込む。
「閃光剣――《クルセイド・フラッシュ》!」
十字に走る白光。
巨体の胸甲に深々と亀裂が走り、獣の咆哮が夜を震わせた。
「貴様ァァァ!その狂気ッ、我が肉を裂くか!」
ガルゾックは血飛沫を吐きながら、なおも斧を振り回す。
狂戦士の如き連撃が嵐のように襲いかかる。
「防御を!――【セイクリッド・ウォール】!」
マリアンの祈りが光の壁を張り、セラブレイトの前に展開する。
巨斧が衝突し、火花と共に破壊されかけるが、その一瞬で十分だった。
「女王陛下ァァァ!この一刀を見届け給えッ!」
セラブレイトは鼻血を吹き出しながら跳躍。
月光を背に受け、その剣に聖なる輝きを宿す。
「必殺・光輝剣――《セイント・オブ・プリンセス》ッ!」
轟音と共に、銀光が敵陣を切り裂いた。
刹那、ガルゾックの巨躯が宙を舞い、獅子頭がスローモーションのように落ちていく。
地面に転がる首を見て、仲間たちは息を呑む。
「……本当にやりやがった」カイムが低く呟く。
「今の必殺技の名前、絶対にロリコン全開よね……」リュシアが顔を覆う。
「けれど……勝利をもたらしたのもまた、彼」マリアンは静かに胸の前で祈る。
セラブレイトは、返り血と鼻血にまみれながら剣を掲げた。
「女王よォォォッ!この命、この愛……今、完成したァァァァァ!」
――その咆哮が、夜の戦場に轟き渡った。
/*/ 敵本陣・ガルゾックの居館脱出戦 /*/
「首魁を討ったぞ! 撤退だ!」
カイムが叫ぶ。
しかし――すでに異変は起きていた。
血にまみれたセラブレイトがガルゾックの首を掲げた瞬間、周囲のビーストマンが狂ったように咆哮したのだ。
「グオオォォォッ!」
「首領を……殺したなァァァッ!」
数十、数百のビーストマンが居館を取り囲み、四人を呑み込もうと迫ってくる。
「……ッ! 思ったより早く気付かれた!」
リュシアの顔が蒼白になる。
「こりゃあ完全に袋のネズミってやつだな!」カイムが毒づく。
セラブレイトはしかし、相変わらず狂気じみた笑みを浮かべていた。
「くはははッ!追うがいい! だが我らが愛は止められんッ!」
「……今そういうテンションでいられるの、あんたくらいよ!」リュシアが思わずツッコむ。
斧を構えるビーストマン、槍を振りかざすリザードマンの従兵たちが一斉に突撃してきた。
四方から殺到する牙と爪の奔流。
「突破口を開く!【火球】!」
リュシアが詠唱し、猛烈な爆炎が狭い回廊を覆う。獣たちの動きが鈍った隙に、カイムが矢を連射し進路を切り開く。
「聖光よ、道を拓け!【ショック・ウェーブ】!」
マリアンの祈りが炸裂し、迫る獣を白光が吹き飛ばした。
「フハハハハハァァ!道は見えた! 進めぇぇぇ!」
セラブレイトは鼻血を飛び散らせながら最前線で剣を振るう。
斬られた獣の血と彼自身の鼻血が混ざり、通路を赤く染めていった。
だが数が多すぎる。
どれだけ切り伏せても、次から次へと押し寄せてくる。
「……くそッ、このままじゃ!」カイムが歯噛みする。
「いっそ籠城して祈るか……?」リュシアが弱気になる。
そのとき――。
セラブレイトの瞳がギラリと輝いた。
「女王陛下との約束を果たすまで……私は死なんッ! 死ねぬのだァァァ!」
再び白銀の剣が閃き、敵陣を強引に切り裂く。
だが――背後からも、獣の群れが追いすがってきていた。
「包囲される……!このままじゃ全滅だ!」
仲間たちの焦燥が高まる中、彼らは必死の脱出劇を続けていく――。
/*/ 敵陣突破 /*/
獣の咆哮と戦斧の衝撃が、崩れかけた居館を震わせる。
四人の冒険者は背中合わせに構え、じりじりと押し寄せる包囲の圧力にさらされていた。
「リュシア!左の群れを足止めできるか!」
「やってみる!――【フロスト・ウォール】!」
氷壁が走り、獣人たちの動きを数瞬止めた。
その隙にカイムが矢を雨のように放ち、進路を切り開いていく。
「マリアン!後ろは任せた!」
「光よ、我らを護れ――【ディヴァイン・シールド】!」
聖なる結界が背後を覆い、迫る槍の穂先を弾き返す。
「……ふははは!見よ、この仲間との絆を!尊き姫君に捧げるべき絆を!」
セラブレイトは狂気の笑みを浮かべながら、前方に突撃する。
「喰らえ!《クルセイド・フラッシュ》!」
銀光の十字斬が炸裂し、通路を塞いでいた巨体のオーガ数体が一瞬で真っ二つになる。
血しぶきと共に道が開かれた。
「今だ!走れ!」
四人は瓦礫と血煙の中を駆け抜ける。
背後から獣たちの雄叫びが追いかけてきたが、リュシアの放つ【ファイア・ボール】が爆炎の壁を築き、追撃を食い止める。
「はぁっ、はぁっ……! まだ、まだ来る!」
「くそ、キリがねぇ!」
それでも走る。命を賭けた脱出行。
獣たちは狂ったように執拗に追ってきた。
だが――。
「……行かせぬわけにはいかんだろうッ!」
セラブレイトが一歩立ち止まり、振り返った。
「おい!なにやって――」
「先に行け!愛しき陛下との誓約を果たすため、ここはこの私が抑えるッ!」
剣を掲げ、血と鼻血に塗れた顔で嗤うセラブレイト。
その背に一瞬、仲間たちの心が迷った。
だが――カイムが叫ぶ。
「バカ言うな!置いていくかよ!」
矢が飛び、魔法が炸裂し、祈りの光がセラブレイトを包む。
三人は息を合わせ、彼と共に獣の群れへと再び突っ込んだ。
「……フッ。やはり、仲間というものは……悪くない!」
銀光が爆ぜ、獣たちを切り裂く。
四人の連携は奇跡的なまでにかみ合い、やがて血路が拓かれた。
満身創痍になりながらも――彼らはついに敵陣を突破し、闇夜の森へと転がり出た。
荒い息をつき、互いの無事を確かめ合う仲間たち。
そして、鼻血を拭いながらセラブレイトは天を仰ぎ、陶酔したように呟いた。
「女王陛下ァ……!報酬は……必ず……受け取りますぞぉぉ……!」
/*/ 竜王国北部・前線陣地 /*/
夜明け前の薄明の空の下、竜王国軍の陣営には緊張が張りつめていた。
敵首魁がまだ健在ならば、再び大軍が襲いかかる。
その恐怖に兵士たちは眠れぬまま槍を握りしめていた。
「――開けろ!帰還だ!」
遠くから声が響く。
そして、血にまみれた四人の影が姿を現した。
「セ、セラブレイト様!? まさか……!」
兵たちの視線が一斉に彼に集まる。
銀鎧は傷だらけ、鼻血はまだ乾いていない。
だがその腕には、敵首魁ガルゾックの巨大な首がぶら下がっていた。
「見よ! これぞ勝利の証! ビーストマンの王、ガルゾックの首である!」
セラブレイトが掲げると、兵士たちの間に一瞬の沈黙が走り、次の瞬間――。
「「「おおおおおおおっっ!!」」」
歓声が爆発した。
恐怖に押し潰されかけていた兵士たちの胸に、熱が戻っていく。
誰もが立ち上がり、槍を掲げ、勝利を叫んだ。
「勝ったぞ! まだ戦える!」
「首魁を失った獣どもなど恐るるに足らず!」
「竜王国は滅びぬ!」
熱狂に包まれる陣営の中央で、セラブレイトは血まみれの剣を天に突き上げ、叫んだ。
「陛下よォォ! 御身のために、この命と愛を燃やし尽くしたッ!
そして今、我らが掴んだ勝利は、すべて貴女の尊き幼き御身に捧ぐのだァァァァ!」
「…………」
兵士たちの熱狂が、また少しだけ引いた。
「やっぱ変態だな……」
「でも……強いんだよなぁ……」
後方で控えていたウルフ竜騎兵団のル・ガルーが鼻で笑い、隣のジョンが静かに呟く。
「勝利は確定した。……問題は、この“英雄”の扱い方だな」
夜明けの光が差し始める。
竜王国軍の士気は最高潮に高まり、戦況は一気に竜王国側の決定的な勝利へと傾いていった。
次回!
「……痛みを伴うのでも、国の為に耐えます」
なんてことだ。このペド野郎!
モモンガさんのパンチが炸裂する!
第76話:だいたい酷い目に会う!
みんなーワッフルワッフル!