オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第75話:変態さんGoGo!

 

 

/*/ 東方・ビーストマン領 軍議の夜 /*/

 

 

獣脂を焚いた松明の下。

巨大な毛皮の天幕の中で、諸侯たちが肉と血酒をむさぼりながら笑い声を響かせていた。

 

「竜王国の人間は良い餌になる。

 あれほど血に魔力の香りが濃い種は、我らの国には残っておらぬ」

 

「家畜として飼うには脆すぎる。

 すぐ病に倒れ、反抗し、逃げようとする……だが、肉は上質だ。

 腐れ羊や豚などより、よほど力がつく」

 

牙を剥いた狼面の王が、骨を噛み砕きながら唸る。

 

「だからこそ我らは進むのだ。

 竜王国を裂き、その人間どもを捕らえ、東へ送る。

 供給が途絶えれば我らの宴は枯れ果てる。

 竜など恐れるに足らぬ、人間の肉のためなら戦も惜しまず!」

 

周囲がどっと笑い、盃を打ち鳴らす。

その声は血と煙と肉の臭いに混じり、夜空に響いた。

 

――彼らにとって"侵略"とは、ただの狩猟と同じ。

人間という種族を、肉と魔力を持つ「畜産物」としか見ていないのだった。

 

/*/ ビーストマン連合・戦議の場 /*/

 

夜。焚火の炎が揺れる円形の幕舎。

巨体の獣人たちが集い、血と獣臭の充満する中、戦議の声が響いていた。

 

先に吠えたのは、黒毛の狼王。

肩幅は巨岩のように広く、黄金の瞳が焔を映している。

 

「竜王国の人間を狩り尽くせ! 肉を喰らい、群れを強くせねば、我らが牙は鈍る。

 群れの戦士に肉を与えねば、次代は育たぬのだ!」

 

その隣、縞模様の虎王が嘲笑した。

「狼よ、貴様らは腹しか満たせぬ。

 人間は戦わせてこそだ。闘技場で泣き叫ぶ姿こそ、我ら虎族の悦び!

 肉を食うより、強き獲物を何度も楽しむ方がよほど価値がある」

 

「フン、無駄な遊戯に生かしておいて何になる」

狼王が唸ると、静かに声が割って入った。

 

それは長大な蛇の胴を持つ者――ナーガの商王であった。

鱗が火光を反射し、二叉の舌がゆらめく。

 

「狼は肉を喰らい、虎は血を浴びる。だが……それでは残るのは骨と灰ばかり。

 我ら蛇は、肉を黄金に変えるのだ。

 捕らえた人間は東へ送れば、竜鱗すら凌ぐ財貨に化ける。

 竜王国を攻める真の理由――それは"交易"だ。忘れるな」

 

場が一瞬、沈黙した。

焚火のはぜる音の中、羽音とともに声が響く。

 

「お前たちは贅沢を言う」

広げた翼で幕舎の柱を揺らし、鷲の将が言い放つ。

「我らの山砦には労働の手が要る。人間を鉱山に送り込め。奴隷として、岩を砕かせろ。

 肉も血も、財もいらぬ。ただ"働き手"が欲しいのだ」

 

狼王が牙を剥き、虎王が爪を鳴らし、蛇王が冷ややかに笑みを漏らす。

思惑は交わらず、ただ一つ――「人間を獲る」ことだけが一致していた。

 

そしてその矛先は、竜王国へと向けられる。

 

 

/*/ 竜王国北部・敵本陣潜入 /*/

 

 

闇夜に紛れ、四つの影が獣人の陣幕をすり抜ける。

鬱蒼とした松林を抜け、野営地に並ぶ松明の灯りを背に忍び寄るのは――セラブレイトと、その仲間たちであった。

 

「……ここから先は本陣だ。首魁ガルゾックの匂いが濃い」

先頭を進むのはレンジャーのカイム。猫のように静かな足取りで、鋭い目を光らせる。

 

「索敵魔法展開中。周囲に巡回二、三……配置は粗いわね」

呟くのは魔法使いのリュシア。白髪を揺らし、低声で詠唱を続けながら進む。

 

「神の御加護を……」

後方で祈るのは神官のマリアン。仲間を守る光の結界を小さく張り、足音を消す。

 

そして、その中心に立つ銀鎧の男――セラブレイト。

月光を受けて輝く姿は、潜入行動に全く不釣り合いなほどに目立っていた。

 

「フフ……ついに来たか、宿敵の牙城ッ!」

「いや、だから声抑えて!」リュシアが慌てて肘を突く。

「見つかるでしょうが!」

 

セラブレイトは構わず剣を掲げる。

「愛しき女王よ!あなたがこの身を褒美とすると誓われた!

 その契約に応じ、我は必ず首魁を屠る!

 ああッ、幼き御身がこの胸に――」

 

「しぃーっ!」

カイムとマリアンが同時に口を塞ぐ。

 

――だが、セラブレイトの剣から漏れる光は、不思議と敵に気づかれない。

否、それは仲間たちにも分かる。

彼の異様な気配が、逆に「人外の存在感」として獣人たちを萎縮させ、巡回兵が無意識に視線を逸らしてしまうのだ。

 

「……結果的に、潜入が楽になってるのが腹立つわね」リュシアが舌打ちする。

「神の導きでしょう……多分」マリアンは困ったように祈りを続けた。

 

やがて四人は敵本陣の中央、巨大な獣骨を積み上げた祭壇の前に辿り着く。

そこに鎮座していたのは、黒鉄の甲冑を纏う巨躯――首魁ガルゾック。

獅子の頭を持ち、血に濡れた斧を横に置いたまま眠っている。

 

セラブレイトの目が爛々と輝く。

「来たぞ……愛の証明の刻が!」

 

仲間三人は、一瞬だけ顔を見合わせた。

――この男を止められる者は誰もいない。

だが、今だけはそれで良いのだ。

 

銀閃が、闇を裂いた。

 

 

/*/ 竜王国北部・敵本陣 首魁ガルゾックの居館 /*/

 

 

闇を裂く銀光。

セラブレイトが真っ先に飛び込み、眠っていた獅子頭の巨将――ガルゾックを強引に叩き起こした。

 

「誰だァァァァッ!!」

巨斧が横薙ぎに振るわれる。

一撃で数人は粉砕されるだろう威力。

 

だが――。

 

「フフフ……遅いッ!」

銀鎧が閃光を放ち、斧の刃を受け流す。

凄絶な衝撃音と共に、地面の石畳が砕け散った。

 

「この首を捧げんッ!幼き女王の御身のためにィィィ!」

「またそれかよ!」

レンジャーのカイムが舌打ちしつつ、背後から矢を放つ。一本は巨躯の肩に刺さり、動きをわずかに止める。

 

「【アイス・ランス】!」

リュシアの詠唱から氷槍が飛び出し、ガルゾックの脇腹を抉る。

その瞬間を狙って、セラブレイトがさらに踏み込む。

 

「閃光剣――《クルセイド・フラッシュ》!」

十字に走る白光。

巨体の胸甲に深々と亀裂が走り、獣の咆哮が夜を震わせた。

 

「貴様ァァァ!その狂気ッ、我が肉を裂くか!」

ガルゾックは血飛沫を吐きながら、なおも斧を振り回す。

狂戦士の如き連撃が嵐のように襲いかかる。

 

「防御を!――【セイクリッド・ウォール】!」

マリアンの祈りが光の壁を張り、セラブレイトの前に展開する。

巨斧が衝突し、火花と共に破壊されかけるが、その一瞬で十分だった。

 

「女王陛下ァァァ!この一刀を見届け給えッ!」

セラブレイトは鼻血を吹き出しながら跳躍。

月光を背に受け、その剣に聖なる輝きを宿す。

 

「必殺・光輝剣――《セイント・オブ・プリンセス》ッ!」

 

轟音と共に、銀光が敵陣を切り裂いた。

刹那、ガルゾックの巨躯が宙を舞い、獅子頭がスローモーションのように落ちていく。

 

地面に転がる首を見て、仲間たちは息を呑む。

 

「……本当にやりやがった」カイムが低く呟く。

「今の必殺技の名前、絶対にロリコン全開よね……」リュシアが顔を覆う。

「けれど……勝利をもたらしたのもまた、彼」マリアンは静かに胸の前で祈る。

 

セラブレイトは、返り血と鼻血にまみれながら剣を掲げた。

「女王よォォォッ!この命、この愛……今、完成したァァァァァ!」

 

――その咆哮が、夜の戦場に轟き渡った。

 

 

/*/ 敵本陣・ガルゾックの居館脱出戦 /*/

 

 

「首魁を討ったぞ! 撤退だ!」

カイムが叫ぶ。

 

しかし――すでに異変は起きていた。

血にまみれたセラブレイトがガルゾックの首を掲げた瞬間、周囲のビーストマンが狂ったように咆哮したのだ。

 

「グオオォォォッ!」

「首領を……殺したなァァァッ!」

 

数十、数百のビーストマンが居館を取り囲み、四人を呑み込もうと迫ってくる。

 

「……ッ! 思ったより早く気付かれた!」

リュシアの顔が蒼白になる。

 

「こりゃあ完全に袋のネズミってやつだな!」カイムが毒づく。

 

セラブレイトはしかし、相変わらず狂気じみた笑みを浮かべていた。

「くはははッ!追うがいい! だが我らが愛は止められんッ!」

 

「……今そういうテンションでいられるの、あんたくらいよ!」リュシアが思わずツッコむ。

 

斧を構えるビーストマン、槍を振りかざすリザードマンの従兵たちが一斉に突撃してきた。

四方から殺到する牙と爪の奔流。

 

「突破口を開く!【火球】!」

リュシアが詠唱し、猛烈な爆炎が狭い回廊を覆う。獣たちの動きが鈍った隙に、カイムが矢を連射し進路を切り開く。

 

「聖光よ、道を拓け!【ショック・ウェーブ】!」

マリアンの祈りが炸裂し、迫る獣を白光が吹き飛ばした。

 

「フハハハハハァァ!道は見えた! 進めぇぇぇ!」

セラブレイトは鼻血を飛び散らせながら最前線で剣を振るう。

斬られた獣の血と彼自身の鼻血が混ざり、通路を赤く染めていった。

 

だが数が多すぎる。

どれだけ切り伏せても、次から次へと押し寄せてくる。

 

「……くそッ、このままじゃ!」カイムが歯噛みする。

「いっそ籠城して祈るか……?」リュシアが弱気になる。

 

そのとき――。

セラブレイトの瞳がギラリと輝いた。

 

「女王陛下との約束を果たすまで……私は死なんッ! 死ねぬのだァァァ!」

 

再び白銀の剣が閃き、敵陣を強引に切り裂く。

だが――背後からも、獣の群れが追いすがってきていた。

 

「包囲される……!このままじゃ全滅だ!」

 

仲間たちの焦燥が高まる中、彼らは必死の脱出劇を続けていく――。

 

 

/*/ 敵陣突破 /*/

 

 

獣の咆哮と戦斧の衝撃が、崩れかけた居館を震わせる。

四人の冒険者は背中合わせに構え、じりじりと押し寄せる包囲の圧力にさらされていた。

 

「リュシア!左の群れを足止めできるか!」

「やってみる!――【フロスト・ウォール】!」

 

氷壁が走り、獣人たちの動きを数瞬止めた。

その隙にカイムが矢を雨のように放ち、進路を切り開いていく。

 

「マリアン!後ろは任せた!」

「光よ、我らを護れ――【ディヴァイン・シールド】!」

 

聖なる結界が背後を覆い、迫る槍の穂先を弾き返す。

 

「……ふははは!見よ、この仲間との絆を!尊き姫君に捧げるべき絆を!」

セラブレイトは狂気の笑みを浮かべながら、前方に突撃する。

 

「喰らえ!《クルセイド・フラッシュ》!」

 

銀光の十字斬が炸裂し、通路を塞いでいた巨体のオーガ数体が一瞬で真っ二つになる。

血しぶきと共に道が開かれた。

 

「今だ!走れ!」

 

四人は瓦礫と血煙の中を駆け抜ける。

背後から獣たちの雄叫びが追いかけてきたが、リュシアの放つ【ファイア・ボール】が爆炎の壁を築き、追撃を食い止める。

 

「はぁっ、はぁっ……! まだ、まだ来る!」

「くそ、キリがねぇ!」

 

それでも走る。命を賭けた脱出行。

獣たちは狂ったように執拗に追ってきた。

 

だが――。

 

「……行かせぬわけにはいかんだろうッ!」

セラブレイトが一歩立ち止まり、振り返った。

 

「おい!なにやって――」

「先に行け!愛しき陛下との誓約を果たすため、ここはこの私が抑えるッ!」

 

剣を掲げ、血と鼻血に塗れた顔で嗤うセラブレイト。

その背に一瞬、仲間たちの心が迷った。

 

だが――カイムが叫ぶ。

「バカ言うな!置いていくかよ!」

 

矢が飛び、魔法が炸裂し、祈りの光がセラブレイトを包む。

三人は息を合わせ、彼と共に獣の群れへと再び突っ込んだ。

 

「……フッ。やはり、仲間というものは……悪くない!」

 

銀光が爆ぜ、獣たちを切り裂く。

四人の連携は奇跡的なまでにかみ合い、やがて血路が拓かれた。

 

満身創痍になりながらも――彼らはついに敵陣を突破し、闇夜の森へと転がり出た。

 

荒い息をつき、互いの無事を確かめ合う仲間たち。

そして、鼻血を拭いながらセラブレイトは天を仰ぎ、陶酔したように呟いた。

 

「女王陛下ァ……!報酬は……必ず……受け取りますぞぉぉ……!」

 

 

/*/ 竜王国北部・前線陣地 /*/

 

 

夜明け前の薄明の空の下、竜王国軍の陣営には緊張が張りつめていた。

敵首魁がまだ健在ならば、再び大軍が襲いかかる。

その恐怖に兵士たちは眠れぬまま槍を握りしめていた。

 

「――開けろ!帰還だ!」

遠くから声が響く。

そして、血にまみれた四人の影が姿を現した。

 

「セ、セラブレイト様!? まさか……!」

 

兵たちの視線が一斉に彼に集まる。

銀鎧は傷だらけ、鼻血はまだ乾いていない。

だがその腕には、敵首魁ガルゾックの巨大な首がぶら下がっていた。

 

「見よ! これぞ勝利の証! ビーストマンの王、ガルゾックの首である!」

セラブレイトが掲げると、兵士たちの間に一瞬の沈黙が走り、次の瞬間――。

 

「「「おおおおおおおっっ!!」」」

 

歓声が爆発した。

恐怖に押し潰されかけていた兵士たちの胸に、熱が戻っていく。

誰もが立ち上がり、槍を掲げ、勝利を叫んだ。

 

「勝ったぞ! まだ戦える!」

「首魁を失った獣どもなど恐るるに足らず!」

「竜王国は滅びぬ!」

 

熱狂に包まれる陣営の中央で、セラブレイトは血まみれの剣を天に突き上げ、叫んだ。

 

「陛下よォォ! 御身のために、この命と愛を燃やし尽くしたッ!

 そして今、我らが掴んだ勝利は、すべて貴女の尊き幼き御身に捧ぐのだァァァァ!」

 

「…………」

兵士たちの熱狂が、また少しだけ引いた。

 

「やっぱ変態だな……」

「でも……強いんだよなぁ……」

 

後方で控えていたウルフ竜騎兵団のル・ガルーが鼻で笑い、隣のジョンが静かに呟く。

「勝利は確定した。……問題は、この“英雄”の扱い方だな」

 

夜明けの光が差し始める。

竜王国軍の士気は最高潮に高まり、戦況は一気に竜王国側の決定的な勝利へと傾いていった。

 

 

 






次回!

「……痛みを伴うのでも、国の為に耐えます」
なんてことだ。このペド野郎!
モモンガさんのパンチが炸裂する!

第76話:だいたい酷い目に会う!

みんなーワッフルワッフル!



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