オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第82話:チートを躊躇う人ではない

 

 

/*/ 第6階層・闘技場 /*/

 

 

炎熱の残滓がなお漂う闘技場に、モモンガの低く響く声が落ちた。

 

「……ルプスレギナ」

その名を呼ぶ声は、冷たくも王の威を孕んでいた。

「お前の潜在能力は、まだその程度ではない。――今ここで、極限まで高めてしまえ」

 

ルプスが驚いて振り向く。

「……え? い、今すぐって……」

 

モモンガは玉座のごとき椅子に腰掛けたまま、漆黒の掌を掲げた。

そこには世界級アイテム《強欲と無欲》。

闘技場に充満する“無尽の眷属”たちの影がざわめく。

 

ジョンは慌てて声を上げる。

「待て、モモンガさん! レベルを一気に上げれば、制御も未熟なまま力だけが肥大化する。

 ルプーには――段階を踏んで、経験を積ませるべき!」

 

その訴えに、アインズの瞳窩が赤く煌めいた。

「……理屈は理解する。だがナザリックは常に外敵に備えねばならぬ。

 切り札は早ければ早いほど良い。ジョンさんも理解できるでしょう」

 

重圧に押し潰されそうな空気の中、ジョンは拳を握りしめた。

ええい支配者ロールしやがって!

 

「……っ……しかし……!」

 

だが、モモンガの声は揺るがなかった。

「これは命令だ。――ナザリックの為に、今ここで力を得よ」

 

その瞬間、無数の眷属が《強欲と無欲》の光に呑み込まれ、無惨に散華した。

眩い奔流がルプスの身へと注ぎ込み、その身体を灼くように貫く。

 

「――――あ、あぁ……!?」

ルプスレギナの悲鳴とも歓喜ともつかぬ声が、闘技場にこだました。

 

レベルは瞬く間に跳ね上がる。

六十台から七十台、さらに八十……

ノーコストで呼べるシモベたちは後から後から闘技場にやってきては「強欲と無欲」によって経験値に還元される。

獣の血が沸き立ち、毛並みが逆立ち、尾が雷のように震える。

 

観覧席にいた守護者たちが、次々と息を呑んだ。

「……まさか、ここまで……!」

「これは、規格外だ……」

 

やがて光は収まり、ルプスレギナは荒い息を吐きながら立ち尽くしていた。

その瞳は先ほどまでの無邪気さを残しながらも、どこか神性めいた輝きを宿している。

 

「……はぁ、はぁ……すご……すごい……! あたし、こんなに……!」

 

ジョンは無言でその姿を見つめた。

彼の胸に去来するのは、誇りか、不安か。

“成長の過程”を奪われ、いきなり神話的力を得た従者。

その刃は、果たして自在に振るえるのか――。

 

モモンガは満足げに頷いた。

「よい。これでナザリックはさらに盤石となった。

 あとは……お前が使いこなすだけだ、ルプスレギナ」

 

闘技場に広がる沈黙は、誰もがその圧倒的な事実を受け入れざるを得ない、神聖な間のようであった。

 

ルプスレギナを光に包み込み、世界を揺るがすほどに力を肥大させた《強欲と無欲》は、なおも輝きを放ち続けていた。

アインズの赤い眼窩が、次に射抜いたのは――ジョン。

 

「……待て、まさか」

ジョンの心臓が跳ねた。

 

アインズの声は揺るぎなき王命として轟いた。

「ルプスレギナだけでは足りぬ。――ジョンさん!あんたもだ!」

 

「な……何を……!」

ジョンは即座に拒絶の声を上げる。

「俺は――鍛錬の積み重ねで強さを築きたい! 一気に引き上げられては、心身の均衡を崩す!」

 

「理解している」

モモンガは静かに応じた。

だがその瞳は決して揺らがぬ。

「だが今は悠長な成長を待つ時ではない。ナザリックは常に“次”を見据えねばならぬ。

 貴方の才覚……その力が最大に至れば、どれほどの礎となるか。――分かるね、ジョンさん?」

 

ジョンは唇を噛み、拳を震わせた。

「……っ、俺は……!」

 

だが、答える間もなく。

光が奔った。

 

「ごちゃごちゃ言わずに経験値を喰らえ!」

 

《強欲と無欲》が無数の眷属を喰らい尽くし、その生命を一滴残らずジョンへと注ぎ込む。

天地を揺さぶる奔流が彼の肉体を貫き、骨の髄から魂を引き裂きながら組み替えていく。

 

「――ぐ、あぁぁぁぁッ!!!」

絶叫。

気が爆ぜ、血潮のごとく魔力が流れ込み、彼の存在そのものが拡張されていく。

 

104、105、106……107……

なお止まらぬ。

百の壁を越えたそれは、さらに膨張する。

 

ついに――

 

「――110……!?」

観覧席のティトゥスが呻くように告げた。

「神話級……人が踏み入れるべきでない領域だ……」

 

光が収まった時。

そこに立つジョンの背は、もはやただの獣ではなかった。

周囲の空間が軋み、圧倒的な存在感が観る者の魂を震わせる。

その瞳は深淵を映し、同時に天をも睨む。

 

ジョンは肩で息をしながら、己の両手を見つめた。

「……ああー……一瞬で……」

声は掠れ、驚愕と困惑が混じる。

 

モモンガは満足げに頷いた。

「アンデッドの私は魂の拡張が難しそうだから、私が強くなるまでナザリックの盾としてお願いしますよ、ジョンさん」

 

ジョンは答えられなかった。

力の奔流が余りに膨大で、ただ立つことすら困難だったからだ。

 

闘技場を満たす沈黙は、畏怖と荘厳さを孕んでいた。

その場にいたすべての者が――新たに生まれ落ちた“怪物”を、ただ凝視するしかなかった。

 

 

/*/ 第6階層・闘技場 /*/

 

 

沈黙を破ったのは――モモンガの乾いた声だった。

「……ん? これは……」

 

骸骨の指先が空をなぞると、そこにマスターソースの青白いウィンドウが展開する。

「やはり……! 《強欲と無欲》で得たレベルアップ分、まだスキルポイントが未振り分け状態のままだ!」

 

ジョンは顔を上げる。

「なに……? つまり、俺の中に……空白のままの力が、まだ残っているのか」

 

「そうだ!」

モモンガの声に熱がこもる。

「これはゲーム時代でいうステータス画面だ! 見たまえジョンさん、この“割り振り可能ポイント:***”の表示を!」

 

ジョンも半信半疑で自身の前に手をかざす。

すると彼の視界にも――同じウィンドウが現れた。

「……本当だ……筋力、敏捷、耐久、知力、精神力……そして《特殊スキルツリー》だと?」

 

「ふふふ……」

モモンガの眼窩の赤光が妖しく燃える。

「ジョンさん、ここからが“チートの本番”ですよ! 振り方次第で君の役割は幾重にも変化する。タンクにも、火力にも、果てはデバッファーや支援特化にも!」

 

「いや、待て……!」

ジョンは眉をひそめる。

「闇雲に強くしても制御できなきゃ意味がないだろう。俺は――」

 

「だからこそ!」

モモンガは食い気味に遮った。

「今こそ“考える時”なのだ! 我らゲーマーの誇りを示す時だ! どこにポイントを振るか、それが戦略! それが浪漫ッ!」

 

「ルプスレギナの”割り振り可能ポイント:***”もこれだけある!これも割り振らなければ!」

「あれ?ルプー超位階魔法取れるようになってるぞ!?何習得させます?」

 

骨の手と人狼の手が、並んで空中のウィンドウを叩く。

カチカチカチ……と虚空をタップする音だけが、闘技場に響いた。

 

観覧席の守護者たちは顔を見合わせる。

「……モモンガ様とジョン様、夢中になっておられる……」

「なんというか……楽しそうですわね」

「はい……まるで、子供のように」

 

だが当人たちは一切気づかない。

ただひたすら、割り振りプランについて議論し続けていた。

 

「ここは敏捷に極振りして、超速近接型にするのも良い!」

「いや、それだと防御が紙になる! ならば精神力と耐久にバランス振りして、“不死身の制圧者”路線だ!」

「ふははは! 浪漫か、効率か……どちらを選ぶか、それが問題だ!」

 

二人の熱は、いつしか闘技場全体を呑み込みつつあった――。

 

 

/*/ 第9階層・モモンガの執務室 /*/

 

 

空間に浮かぶ二つのウィンドウを前に、モモンガとジョンは額を突き合わせるようにして座っていた。

 

「……精神力をあと二十、いや三十に回すべきだ」

「だがそれでは敏捷が不足する。攻撃が当たらねば意味がない」

「ふむ……では敏捷を十だけ増し、残りは特殊スキルに――」

「それだと火力が死ぬ。もう一度考え直そう」

 

議論は夜を越え、さらに夜を越え、三日三晩続いた。

ナザリックの玉座の間は空虚に響き、モモンガの日常業務はほぼ停止していた。

 

――その間、唯一の生活線を支えていたのがルプスレギナだった。

 

食事を運び、眠らない二人に代わって照明を調整し、時折肩を揉み、珈琲を差し出す。

だがその笑顔は崩れない。

むしろ金色の瞳を輝かせ、心から楽しげに仕えていた。

 

「ふふっ……なんだか嬉しいなぁ」

ぽつりと呟く声に、誰も気づかない。

 

「だって……至高の御方が、あたしの為に本気で頭を悩ませてくれてるんだもん」

 

机に突っ伏すように眠りかけたジョンを毛布で包み、モモンガに薬茶を差し出す。

彼女の仕草はどこか慈母めいてすらいた。

 

ナザリックの外では太陽が再び昇る。

だがその光に気づく者はなく、二人の声だけが部屋に響き渡っていた。

 

「――これでバランスは取れたな」

「いや、もう一度試算を……」

 

三日目の朝もまた、二人の“ゲーム的熱狂”は終わる気配を見せなかった。

 

 

/*/ 第6階層・闘技場 /*/

 

 

アインズとジョンの三日三晩に及ぶ割り振りの果て――

ルプスレギナのステータスは、もはや原形を留めぬほど精緻に組み上げられていた。

 

「完成だ。人狼の身体能力を基盤に、神官系の回復と支援、さらに高位攻撃魔法を搭載したハイブリッド……名付けて――《人狼神官詠唱者ビルド》!」

アインズの声は誇らしげに響いた。

 

ジョンも頷く。

「理論上は、単独で前衛も後衛も務まる万能構成だ。さて……実際に使えるかどうかだな」

 

「はぁい? じゃあ、やってみるっすよぉ」

ルプスレギナは笑みを浮かべ、闘技場の中央へ歩み出る。

 

赤毛が揺れ、次の瞬間――彼女の全身を光輪が包んだ。

「《神聖加護》《獣性覚醒》……そして――《朱の明星》!」

 

天と地を貫くような光柱が立ち昇る。

狼の咆哮と共に、神聖な光と血のように紅い魔力が渦を巻き、融合していく。

 

咆哮に呼応して周囲の空気が震え、観覧席に座る守護者たちの頬を風が打った。

「これは……神聖魔法と、彼女の種族能力が同時に発動しているのか……!」

ティトゥスが息を呑む。

 

やがて、光が一点に収束した。

闘技場の中心に刻まれたクレーター――そこには、神々しさと獣性を兼ね備えたルプスの姿があった。

 

「くぅん……? すっごい! 身体が軽くて、魔法の回りも早い! なんか、全部できちゃう感じぃ!」

 

ジョンは腕を組み、慎重に頷いた。

「……成功だな。これなら前衛で敵を削りながら、後衛支援も同時にこなせる」

 

まーゲームだと万能系よりは特化型なんだが、常にフルパーティで行動できる訳じゃない今は万能型の方が良いとの結論に至ったのだ。

 

アインズは満足げに両手を広げた。

「ふははは! 完璧だ! これぞ浪漫と効率の融合! ルプスレギナ、君は今やナザリック随一の“人狼神官魔法詠唱者”となったのだ!」

 

ルプスは胸に手を当て、深く頭を垂れた。

「ありがと、モモンガ様……ジョン様……この力、ナザリックの為にぜーんぶ使うっすよ!」

 

その声音は甘やかでありながら、力強い決意を帯びていた。

 

 

/*/ 第6階層・闘技場 模擬戦 /*/

 

 

観覧席の守護者たちが息を呑む中、対峙するのは――ルプスレギナとシャルティア。

 

「ふふふ……あんたがどこまで強くなったか、試して差し上げるでありんす」

挑発的に笑みを浮かべ、スポイトランスを構えるシャルティア。ジョンの指示でフル装備の鎧姿だ。

 

「わぉん! 望むところっす!」

ルプスレギナは神々しい光を背に、狼の本能を剥き出しにして応じた。

 

合図と共に、両者が激突する。

神官系の回復と支援を即座に自分に施しながら、ルプスレギナは獣の速度で距離を詰め――渾身の聖杖を振り下ろす。

シャルティアもまた、スポイトランスを旋回させて正面から受け止める。

 

轟音。

闘技場の床が砕け、観客席に衝撃波が走る。

 

「互角……!? まさかルプスレギナが、守護者と拮抗するなんて!」

マーレが声を上げる。

 

攻防は激しさを増す。

ルプスレギナは回復と強化で押し、シャルティアは吸血鬼としての膨大なリソースと技巧で受け流す。

だが――決定的な差があった。

 

「くっ……!?」

ルプスレギナの攻撃が鋭くも、シャルティアの防具に阻まれる。神器級装備で固められたその鎧は、彼女の新たな力を悉く削ぎ落とす。

 

逆にシャルティアの一撃が直撃すれば、ルプスレギナのメイド服は大きく軋み、命を削られる。

 

「……これが装備の差でありんす、ルプスレギナ!」

最後の突きでルプスの武装が吹き飛ばされ、闘技場の端に叩きつけられた。

 

勝敗は決した。

 

荒い息を吐きながら立ち上がるルプスレギナに、シャルティアは口元を拭いながら笑った。

「でも……おそろしい子でありんす。レベルだけでここまで拮抗するなんて……まるで守護者候補でありんす」

 

アインズは頷き、冷静に総括する。

「……レベルとビルドだけでは越えられぬ壁、それが装備。次の課題は明白だな」

 

ジョンは隣で腕を組み、唇を引き結ぶ。

「万能ビルドの力は証明された……だが、ナザリックの武具庫を開放しない限り、守護者には及ばない」

 

ルプスレギナは倒れ伏しながらも笑って答えた。

「えへへ……でも、最高だったっすよぉ……!」

 

シャルティアは槍を収め、観客席に視線を向けた。

「モモンガ様……もし、この子にわらわと同等の装備を授けたなら――」

 

言葉の続きを待つ守護者たち。

アインズは玉座のように背もたれに寄り掛かり、骨の顎を静かに動かした。

「……その時こそ、ナザリックに新たな守護者候補が誕生するだろう」

 

ルプスレギナの胸が高鳴る。

己が名を、御身の口から聞いたのだから。

 

 

/*/ 第9階層・会議室 /*/

 

 

モモンガが重々しく口を開いた。

「……現状の武具庫だけでは、ルプスレギナに守護者級の装備を揃えることは不可能だ。ユグドラシル時代のように、素材ドロップや課金アイテムが存在しないからな」

 

デミウルゴスが眼鏡を押し上げる。

「かといって、外界の市場に神器級装備など流通しているはずもございません。既存の在庫を組み合わせて新調するしか……」

 

そこでジョンがぼそりと口を挟む。

「……素材は本当にないのか? たとえば、俺の抜け毛とか」

 

会議室が静まり返った。

「ぬ、抜け毛でございますか……?」

アルベドが呆然と復唱する。

 

ジョンは肩を竦めた。

「俺の体質は人間と違う。魔力や“気”が毛髪や爪にまで滲んでるって言われたことがある。こっちの世界の鍛冶師なら、毛をフェルトにして布にすれば“通り”が良くなるって考えるかもしれない」

 

モモンガの眼窩に赤光が走った。

「……なるほど! ユグドラシルには存在しなかった素材理論だ! プレイヤーの身体そのものがリソース……これは実に興味深い!」

 

シャルティアが口を挟む。

「でも、毛だけで鎧は作れないでありんすよ? せめて金属の芯が要るでありんす」

 

「そこは武具庫のストックを転用する。基材は在庫のアダマンタイトやオリハルコンとし、ジョンさんの毛フェルトを内層に仕込むことで、魔力伝導率を底上げするのだ!」

アインズの声はもはや実験に臨む研究者そのものだった。

 

ルプスレギナは目を輝かせ、両手を胸に当てて叫んだ。

「すっごーい! じゃあモモンガ様とジョン様の合作で、わたし専用の新装備ってことっすね!」

 

「ま、まあ……毛を抜かれるのは気が進まんが……」

ジョンは頭を掻きながら苦笑した。

 

 

/*/ 第9階層・鍛冶工房 /*/

 

 

炉の赤光の中で、鍛冶長が頭を垂れた。

「ご報告いたします、アインズ様。ジョン様の抜け毛を精緻に加工し、フェルト布としてアダマンタイト合金の内層に編み込んだ鎧――《ジョンフェルト強化アダマンタイト合金》、完成いたしました」

 

アインズが骸骨の顔をかしげる。

「……ほう。して、その性能は?」

 

鍛冶長は誇らしげに胸を張った。

「従来のアダマンタイト鎧に比べ、耐火・耐冷双方で二段階以上の向上を確認。さらに魔力伝導効率が極めて高く、エンチャント付与時の効力は通常比で二ランク上の結果となりました」

 

ざわめく守護者たち。

デミウルゴスが眼鏡を光らせ、驚嘆の声を洩らす。

「……まさか、毛髪の“気の流れ”が魔力の回路と親和するとは。まさしく新たな理論の発見でございますな」

 

ジョンは頭を押さえながら渋い顔をする。

「……つまり、毎日のブラッシングで出た毛が、そこまで役に立つのか」

 

「既にウルフ竜騎兵団へ配備を開始しております」

鍛冶長は深く頭を下げる。

「彼らの竜鎧に適用したところ、吐息の炎や冷気への耐性が飛躍的に上がり、戦闘継続能力は過去にない水準です。正直……この素材が無尽蔵に供給されるなら、我らが軍備は一気に英雄級に迫るかもしれませぬ」

 

「無尽蔵って……俺、そんなに毛深くねぇぞ」

ジョンのぼやきに、場が少し和む。

 

アインズは玉座のように工房の椅子に腰掛け、静かに頷いた。

「……面白い。ユグドラシルの常識では到底考えられぬ進化だ。これが、この世界での“最適解”というわけか」

 

ルプスレギナは目を輝かせ、尻尾を揺らしながらジョンに身を寄せる。

「ジョン様の毛でできた鎧……うふふっ。ナザリックの軍がジョン様に守られてるって感じで、なんだかすっごく素敵っすねぇ」

 

 

/*/ 第9階層・裁縫工房 /*/

 

 

煌めく魔布を扱う工房にて、ルプスレギナの新たな衣装が完成した。

それは従来のメイド服を基盤にしながらも――内層に精緻に織り込まれた《ジョンフェルト強化型ヒヒイロカネ繊維》が、その存在を根本から別格のものへと変貌させていた。

 

鍛冶長が両手で衣装を捧げ持ち、恭しく報告する。

「アインズ様、ジョン様……御下命の通り、メイド服を戦闘仕様に再構築いたしました。耐火・耐冷・耐魔の性能は既存装備を凌駕。更にジョン様の“気”と親和し、回復や支援魔法の効率も向上しております。ランクは伝説級に匹敵するかと」

 

ルプスレギナは、目を丸くしてその服を受け取る。

「えへぇ……すっごい……! ただのメイド服じゃなくて、“戦う聖装”って感じっす!」

 

彼女が袖を通した瞬間――

赤毛が光を帯び、服全体に淡い金銀の紋様が浮かび上がる。狼の耳と尾がふわりと揺れ、同時に神官系魔力が流麗に脈動し始めた。

 

「……これは……!?」

アルベドが思わず口を押さえる。

「美と戦闘機能の両立……まさに至高の御方の寵愛を纏うかの如き姿……!」

 

ルプスはくるりと回って裾を翻す。

「うふふっ、軽い! 動きやすい! しかも力が内側からわき上がってくる感じぃ……! なんか、負ける気しないっす!」

 

ジョンは腕を組み、少し苦笑いを浮かべる。

「俺の毛がそんな大事な資源になるとはな……だが、これでお前の生存力が増すなら悪くない」

 

モモンガは立ち上がり、荘厳に宣言する。

「――ルプスレギナ。この瞬間をもって、そなたは“戦闘用メイド服”を纏いし、真なるナザリックの戦乙女となったのだ!」

 

ルプスは胸に手を当て、満面の笑みで深く頭を垂れる。

「ありがとぉございますっす、モモンガ様! ジョン様! この力……至高の御方の愛に包まれて、必ずナザリックの為に振るうっすよぉ!」

 

 

/*/ 第6階層・闘技場 模擬戦・第二幕 /*/

 

 

観覧席が静まり返る。

ルプスレギナとシャルティア――再び立ち会う二人。

 

「さぁて、今回はどんな芸を見せてくれるんでありんすかぁ?」

シャルティアはスポイトランスを軽く回し、余裕の笑みを浮かべる。

 

対するルプスレギナの周囲には10メートルにも及ぶ青白い立体魔法陣が既に形成されていた。

ルプスは深呼吸し、神々しい気配を全身に満たした。魔法陣の発光が一際強くなる。

 

「いっくっすよぉ――《失墜する天空(フォールン・ダウン)》!」

 

瞬間、天井を貫くほどの光柱が迸り、闘技場を灼熱の嵐が包む。

空気が爆ぜ、観覧席すら思わず魔法障壁を張らなければ焼かれかねないほどの超高熱。

 

「ぬぅっ……!?」

シャルティアが全身を神器級の装備で守るも、鎧がジュウと音を立てて焼け焦げた。

次の瞬間、彼女のHPゲージが大きく削られる――最大値の25%を一撃で奪う凄絶な火力。

 

「ば、馬鹿な……フル装備のシャルティア様に、ここまでのダメージが……!」

セバスでさえ瞳を細め、驚愕の声を漏らした。

アルベドは驚愕の声を漏らす。

「これは超位階魔法!?ルプスレギナは至高の御方の領域に至ったと言うの!?」

 

 

だが――。

 

 

「……ふふ、悪くないでありんす。でも――ここからが本番でありんすよぉ!」

シャルティアの紅瞳が爛々と輝く。

彼女は即座に【グレーター・リーサル】を重ね掛けし、HPを急速に回復。さらに強化魔法を発動し、自身の能力を強化。

 

「っ、はや……!」

ルプスが回避に徹するも、前衛型のシャルティアは一瞬で間合いを詰め、スポイトランスを連撃で突き出す。

 

「えへ……っ、でも、まだ……!」

ルプスも支援と回復で粘り、後衛寄りの万能戦法を展開する。

だが攻めより守りにリソースを割かざるを得ず、次第に劣勢へ追い込まれていく。

 

「結局――あんたは万能でも、後衛寄り。わらわのように“前衛で押し込みながら回復できる万能型”には及ばないでありんす!」

 

最後の一突きが決まり、ルプスは闘技場の床を抉って吹き飛ばされた。

 

「うぅ……参ったっすぅ……」

膝をつき、息を荒げながら笑うルプス。

 

シャルティアはランスを下げ、勝利を告げるように鼻を鳴らした。

「やるようになったでありんす。……でも、“守護者の壁”はまだ高いでありんすよぉ」

 

モモンガは冷静に総括する。

「――見事だ。装備差をものともせず、シャルティアから四分の一を奪ったのは驚異的だ。だが万能型といえど、役割の違いは埋めがたい」

 

ジョンも頷く。

「ルプスのビルドは後衛寄りのハイブリッド。真正面からの殴り合いは分が悪い。だが、局所戦力としては……もう守護者級だ」

 

ルプスは倒れたまま、にっこり笑ってウィンクする。

「えへへっ……でも、ちゃんと“焼け焦げる守護者様”を見られたから、満足っすよぉ♪」

 

その言葉に、場内の空気がほぐれる。笑いと驚嘆が交じり合い、観覧席には奇妙な一体感が広がった。

 

「――ルプスレギナ。汝の成長、確かに見届けた」

モモンガの低く荘厳な声が、静まり返った闘技場に響く。

 

その瞬間、ただの模擬戦は一つの儀式のように感じられ、

“守護者に肩を並べる者”の誕生を告げる鐘の音のように響いた。

 

 





基礎は大事。
城を建てるような広大な基礎を築くのだ!

次回!
第83話:そうだね筋肉だね!

(☆∀☆)
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