オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第83話:そうだね筋肉だね

 

 

/*/ カルネ・ダーシュ村 特訓場 /*/

 

 

「うおおおおぉぉッ! ひっ、百九十九ぃぃぃッ……!」

泥にまみれたペテル・モークが、腕立てを繰り返す。

 

「まだだ! あと三百だ!」

ジョンの声が雷鳴のように轟く。

 

腕立て五百回。腹筋五百回。スクワット五百回。

その後に三時間の走り込み。

 

普通なら一日で命が尽きる強化メニューだ。

だが――。

 

「安心しろ、死んでも蘇らせてやる。お前が英雄級になるまで、何度でもな」

ジョンの冷たい宣告に、ペテルの顔は青ざめる。

 

「ひ、ひでぇ……! 特訓って、本来は“登る”ものじゃないんですかぁ……!?」

「登れるなら止めてやる。だが崖を飛び降りたお前はもう戻れん。飛び降りたなら――英雄になるしかないんだッ!」

 

カルネ村の住民たちは遠巻きに見守りながら、震えながらも理解する。

これは拷問ではない。至高の御方に認められるための、血で刻む登竜門なのだ。

 

ペテルの視界が霞み、意識が途切れる。だが次の瞬間、掛けられていた【高速自然回復】の光で呼び戻される。

その度に彼の身体は少しずつ強靭になっていく。

 

――こうして“漆黒の剣”のリーダー、ペテル・モークは地獄の特訓漬けに身を沈めていった。

仲間たちは気の毒そうに見守りながら、ジョンが用意した「初心者用・甘口メニュー」に取り組む。

(なお、腕立て三百回、スクワット三百回、走り込み二時間を“甘口”と呼んでいいのかは誰も突っ込めなかった……)

 

「ひぃぃっ……も、もう無理です師匠ぉ……!」

泥に沈むペテルをよそに、村人たちがざわめき始めた。

 

「……すごい。あんなにも強くなれるんだな」

「俺も! 俺も英雄になりたい!」

「ジョン様、次はぜひ俺を鍛えてください!」

 

気がつけば、農具を手にした男や、子どもを背負った女まで列を作り、弟子入りを志願していた。

 

「お前ら……正気か?死んでも蘇生されるんだぞ(気絶はしてるが言うほど死んでいない)!?何度も!何度もだ!」

泥の中で叫ぶペテルの声など、誰も耳を貸さない。

 

ジョンは腕を組み、冷ややかに(内心ウキウキで)言い放った。

「……いいだろう。崖を飛び降りる覚悟があるなら、止めはせん」

 

こうしてカルネ・ダーシュ村は、筋肉の村へと変貌を遂げていく。

田畑を耕す音に混じり、村中に響くのは腕立てとスクワットの掛け声。

やがて――人々は畏怖と敬意を込めて、この地をこう呼んだ。

 

“筋肉カルネ村” と。

 

そうだね、筋肉だね。

マッスルハッスル。

 

 

/*/ カルネ・ダーシュ村 学び舎 /*/

 

 

「……くっそ……! また間違えた!」

ブレイン・アングラウスが額に汗を浮かべ、木炭で書かれた文字を睨む。

 

読み書き、四則演算。

戦いの技ではない。だが、聖王国への遠征に加わる条件は“最低限の読み書き計算能力”。

それができずに、ブレインは一度、試験で落第してしまった。

 

――剣では誰にも負けんのに……!

悔しさに歯を食いしばりながらも、彼は村の子供たちと机を並べて学んでいた。

 

「ブレインおじちゃん、“九かける七”は?」

「……ええっと……六十三だ!」

「すごい! あってる!」

 

子供たちが笑顔で褒めるたび、ブレインの心は少しずつ軽くなる。

剣だけではなく、心もまた鍛えられている気がした。

 

そして――。

 

 

/*/ 試験当日 /*/

 

 

「では、答案を提出してください」

ペストーニャの声に、ブレインは緊張で指が震える。

 

だが、返却された答案用紙には――。

 

「……合格です。おめでとうございます、アングラウス殿」

 

「っ……!」

胸に熱いものが込み上げ、思わず拳を握りしめる。

 

観覧していたジョンが頷いた。

「よくやったな。剣だけじゃなく、己の弱点と向き合い克服した。その胆力こそ――英雄の証だ」

 

その瞬間、ブレインの胸に誇らしげな紋章が刻まれる。

――ウルフ竜騎兵団、正式入団許可。

 

子供たちが駆け寄り、口々に叫ぶ。

「ブレインおじちゃん、やったぁ!」

「すごい! 今度は一緒に戦えるね!」

 

ブレインは涙をこらえながら、刀を高く掲げた。

「……ああ。今度こそ――俺も胸を張って共に戦う!」

 

その姿に、誰もが“努力の英雄”を見た。

 

 

/*/ 第4階層・実験場 /*/

 

 

「……よし、準備は整ったな」

ジョンは両の拳を組み合わせ、深く腰を落とした。

右腕には“雷神拳”。左腕には“風神拳”。

二つの神器級武具が唸りを上げ、空気が震える。

 

「構えは……こうだな」

両手を腰に引き、掌を合わせる――まるで光弾を撃ち出すかのような“かめはめ波”の構え。

次の瞬間、二つの拳から魔法陣が展開し、右手からは【三重強化】【最強化】の万雷の撃滅(コール・グレーター・サンダー)。左手からは同じく右手からは【三重強化】【最強化】の暴風雨(テンペスト)

 

合わせて六重の魔法が合成されて【雷の暴風】が収束し始める。

 

「ぬぅっ……! 制御が……重い!」

凄まじい風と雷の奔流が渦を巻き、観覧席の守護者たちでさえ結界を張る。

 

アルベドが思わず声をあげる。

「この規模……冗談ではありません! 広域殲滅兵器に等しい……!」

 

ジョンはさらに術式を重ねる。

「――天地合一ッ!」

空と地の理を合わせ、放出される力を一点に収束。

 

「――静動轟一ッ!」

静と動、轟と一体を統合することで、解放の瞬間に爆裂的な威力を与える。

 

六重の雷嵐がさらに圧縮され、直径数メートルの光球へと変貌する。

それは空気を焼き切り、周囲のマナを吸い込みながら脈動した。

 

「――撃つッ!」

 

轟音と共に放たれた光柱は、雷鳴と暴風を巻き込み、実験場を越えて大地を穿つ。

大気が裂け、天井が揺れ、虚空に白亜の雷雲が生じる。

 

「……ッ、コレハモウ魔法デハナイ……」

コキュートスが氷のような声で呟いた。

「神器級武具ガ導ク……一撃必殺ノ天災」

 

光が収まった後――実験場の半分が消し飛び、跡には黒焦げのクレーターが広がっていた。

 

爆発の余波で、床石はガラスのように溶け、観覧席の結界は蜘蛛の巣状にひび割れていた。

空気は焦げ臭く、なお雷鳴が地の底から轟いている。

 

「……ッ。あれを野に放てば、一国が一夜で消える」

デミウルゴスが低く呟き、炎の瞳を細める。

 

「わ、私の全力でも……おそらく防ぎきれません」

シャルティアが血色の唇を噛みしめる。

 

アインズは沈黙のまま、ただその光景を見据えていた。

ジョンの拳から漂う余熱――それはもはや“魔法”の域を超えた、“神罰”に等しかった。

 

ジョンは深く息を吐き、拳を下ろす。

「ふぅ……制御はまだ不安定だな。実戦投入には、もう少し調整が必要だ」

 

ルプスレギナがケラケラと笑いながら拍手する。

「ひぃ~、ジョン様! もはや“雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)”っすねぇ♪」

 

観覧席にざわめきが広がった。

――この技、もし実戦で放たれるなら。

それは一つの戦場を“存在ごと消す”災害の再現であった。

 

 

/*/ カルネ・ダーシュ村・訓練場 /*/

 

 

「……始めッ!」

ジョンの号令と共に、模擬戦が始まった。

 

正面に立つは、剣と盾を携えたペテル・モーク。

対するは、刀を腰に収めたまま微動だにしないブレイン・アングラウス。

 

空気が張り詰め、村人たちがごくりと息を呑む。

 

――次の瞬間。

 

「――居合ッ、《モガリ笛》!」

 

ブレインが一歩も動かずに抜刀。

閃光のような速さで木刀がペテルの首筋を打ち抜く。

 

「ぐっ……!」

 

鈍い音が響き、首がはじかれたようにのけぞる。

普通の兵士なら即座に意識を刈り取られる衝撃。

 

だが、ペテルは――。

 

「……まだ、立ってる……!?」

膝をつきかけながらも、目は落ちず、盾を構え直す。

 

「なにっ……!?」

ブレインの目が大きく見開かれる。

 

「お前……どれだけ鍛えられたんだ……!普通なら首の骨が砕けてもおかしくない一撃だぞ!」

 

泥に塗れた特訓の日々。

死んでは蘇り、また死んで鍛えられたペテルの肉体は、かつての自分では想像できぬほど頑強になっていた。

 

しかし――。

 

「ぬうっ……くっそ、速すぎる!」

振りかぶる暇もなく、居合の二撃目が肩を打ち抜く。

 

盾で受け、剣で応じるも、技量の差は歴然。

数合の後、ブレインの木刀がペテルの胸に突き刺さり、ついに崩れ落ちた。

 

「勝負ありッ!」

 

ジョンの声で戦いが終わる。

 

勝者はブレイン・アングラウス。

だが、彼の眼差しはどこか驚愕と感嘆が入り混じっていた。

 

「……地力はまだ俺の方が上だ。だが――あの一撃を耐えきる胆力と肉体……正直、震えたぞ」

 

地面に倒れながら、ペテルは荒い息で笑った。

「……まだ……俺は……強くなれる……」

 

村人たちの胸に、確かな衝撃が刻まれた。

ただの冒険者の一人だった男が、今や“英雄候補”として育ちつつあることを。

 

 

/*/ カルネ・ダーシュ村・訓練場 /*/

 

 

模擬戦が終わり、汗を拭いながらブレインがジョンへと歩み寄る。

先ほどの余韻がまだ残っているのか、彼の目は真剣そのものだった。

 

「なぁ、カルバイン様。……どうしてペテルには、あんなにも“基礎”ばかり教え込んでいるんだ?」

ブレインは刀を納めながら問う。

「剣の才能なら、正直、俺の方が上だろう。けど、あれだけの基礎があるなら技に進んでも……」

 

ジョンは腕を組み、じっとペテルを見やる。

まだ地面に倒れ、肩で息をしているその姿は泥臭いほど無様だ。だが――目は死んでいない。

 

「……だからだ」

静かに、だが揺るぎない声でジョンは言った。

 

「ペテルにはお前のような才能はない。だからこそ、徹底的に基礎を叩き込むしかないんだ」

 

ブレインの眉が動く。

 

「俺はな、基礎を磨き抜けば、それだけで“才能”を超えられる瞬間があると思っている。

派手な技や必殺の奥義よりも――一歩踏み込み、剣を振るう。

その“通常攻撃”こそが最大の攻撃になる」

 

「……通常攻撃が、最大の攻撃……?」

ブレインは思わず呟く。

 

ジョンはうなずいた。

 

「お前の居合は凄まじい。だが、あの速さに耐え、なお剣を構え直したペテルを見ただろう?

あれは基礎の積み重ねだ。何百回、何千回と繰り返した腕立て、スクワット、走り込み……

その愚直な努力が、あの一瞬を生み出した」

 

ブレインは口を閉ざす。

彼の中で、今までの価値観が少し揺らいでいるのを自覚した。

 

「剣技も奥義もいずれは教えるさ。だが基礎を抜きにしては、それらは砂上の楼閣だ。

……だから俺はペテルを“地力”で作り直す。

いつかお前のような天才をも、その肉体でねじ伏せられるようにな」

 

ペテルが泥の中から、必死に手を挙げる。

「し、師匠……! 俺は……いつか、ブレインさんを超えてみせます……!」

 

その言葉に、ブレインは思わず笑った。

「……ククッ、いい目だ。なら俺も負けんぞ。お前が追いつく前に、もっと上へ行ってやる」

 

訓練場に、妙な熱気が広がる。

“才能”と“努力”。

その二つが火花を散らし、互いを高め合う――そんな未来が、確かにここから始まっていた。

 

 

/*/ カルネ・ダーシュ村 即席ステージ /*/

 

 

地獄の特訓に明け暮れる村人たち。

だがその夜は――空気が少し違った。

 

村の広場に組まれた簡易ステージ。

中央に立つのは、赤いメイド服を翻すルプスレギナ。

そして、その横には黒コート姿のジョン。

 

「それじゃあ……いっちょ、やるか!」

「おっけーっす! ジョン様!」

 

背後で楽器を構えるのは人狼チーム“時王”。

筋骨隆々の狼たちがギター、ドラム、ベースを手に、まるで戦場のような迫力でスタンバイしていた。

 

ドラムのカウントが鳴り、重低音が響く。

ギターのリフが火花を散らし、観客――鍛え上げられた筋肉村の住人たちが歓声を上げた。

 

ジョンがマイクを握り、低く力強い声で吠える。

「筋肉を――ッ! 信じろォォォッ!!!」

 

ルプスレギナが甲高いシャウトで応える。

「ハッスル! マッスル! 命燃やして鍛えるんスよォォォッ!」

 

音楽は加速し、時王たちの演奏に合わせて二人は歌い上げる。

村人たちは腕を振り上げ、筋肉を躍動させ、スクワットや腕立てしながらリズムに合わせて踊り狂う。

 

「お、おい! なんだこの盛り上がりはぁぁぁ!」

ペテルが驚く間もなく、ブレインまで腕を組んでノリ始めていた。

 

「……なるほど、鍛錬の“息抜き”ってのはこういうことか」

気がつけばブレインも腰を振り、刀をギターのようにかき鳴らす真似をしている。

 

サビのタイミングで、ジョンとルプスが両手を掲げ――

「「筋肉ッ! カルネェェェッ!!!」」

 

爆発的なコールが響き渡り、観客の雄叫びとともに広場が揺れる。

人狼たちのバックバンドは止まらず、ルプスレギナは最後に高音を伸ばし切った。

 

ドォォォォンッ!!

 

演奏が終わると同時に、花火のような魔法の光弾が夜空を彩る。

 

村人たちは汗だくで息を切らしながらも、誰もが笑顔だった。

戦いも鍛錬も、そして歌も踊りも――ここではすべてが「生きる力」になる。

 

 

/*/ カルネ・ダーシュ村 翌朝 /*/

 

 

夜の熱狂は冷めやらず。

翌朝、畑を耕す村人の口から自然と歌声が漏れ出した。

 

百年生きて 僕らの人生は

どんな未来に繋がるかな?

 

隣で鍬を振る男も笑いながら続ける。

 

生まれて 飛んで 弾けて 消えて

虹になれるの――?

 

歌はやがて子供たちの遊び歌になり、畑の作業歌になり、カルネ・ダーシュ村の日常のBGMとなった。

 

腕立てをする者は声を合わせて歌い、スクワットをする者はリズムを取りながら声を張り上げる。

田畑にこだまするのは、笑いと歌と筋肉の音。

 

そして――夜になると村人たちは火を囲み、再び合唱した。

 

「筋肉は消えない! 俺たちの力は未来に繋がるんだ!」

「ジョン様の歌は村の魂だッ!」

 

ブレインは焚き火の前で腕を組み、苦笑しながら呟いた。

「……すげぇな。あの歌が、こんなにも人を突き動かすなんてよ」

 

ルプスレギナはケラケラ笑いながらジョンに肩を寄せる。

「これからは村の筋肉だけじゃなくて、歌声でも大陸に響いちゃうかもっすよ?」

 

ジョンは空を見上げ、遠い未来を思う。

筋肉も、歌も、そして鍛えた命も――いつか虹のように輝きを残すのだろう。

 

 

 





もう原作を待てない。残り2巻で完結っていったじゃないですかー!
その残りはいつでるんですかー!僕たちずっと待ってるんだよ!

次回!
第84話:アーグランド評議国

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