オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第85話:5つの試練

 

 

第一試練 ― 青空の竜王スヴェリアー

/*/ 天空の試練場 /*/

 

 

舞台は雲の上。

巨大な浮遊島が空に並び、竜巻と雷雲が絶えず渦を巻いている。

そこに悠然と姿を現したのは――天空の化身、蒼天を纏う竜。

 

その鱗は透き通る空の色を映し、翼を広げるだけで天候そのものを支配するようだった。

 

「――我が名はスヴェリアー=マイロンシルク。青空の竜王。

 大空を制する者にこそ、世界の理を支配する資格がある」

 

その声と同時に、空全体が震え、天を覆う雷雲が渦を巻く。

烈風がジョン一行を引き裂こうと吹き荒れる。

 

ルクルット:「うわっ、浮島が崩れるっ!」

ニニャ:「風が……身体ごと持っていかれる……!」

ペテルは必死に盾を地に突き立て、仲間を守る。

ブレインは歯を食いしばり、剣を支えに必死に立ち続けた。

 

ただ一人、ジョンだけが前を見据えていた。

髪と毛並みを逆巻く風に揺らし、天を仰ぐ。

 

「空を制する力、か……面白い」

 

彼の背に、雷の光が集い始めた。

 

「来い、人の子よ!」

 

スヴェリアーの咆哮と共に、天雷が落ちる。

それは大地を貫くどころか、浮遊島ごと粉砕する規模の雷撃。

 

だがジョンは吼え返すように大地を蹴り、拳を構える。

 

「――【雷神拳】!」

 

稲妻と拳が正面から激突し、空全体が白光に包まれる。

その瞬間、雲を割り、天空に巨大な穴が開いた。

 

「ほう……我が“天罰の雷”を打ち破るか」

スヴェリアーの声に、驚愕と歓喜が混じる。

 

だが戦いは終わらない。

青空の竜王は翼を羽ばたかせ、次の瞬間、姿を消した。

 

「――どこだ!?」

ブレインが目を見開く。

空を裂くような風音。次に現れたのは、ジョンの背後。

 

竜の翼が竜巻を生み、ジョンを丸ごと空の彼方へ吹き飛ばそうとする。

 

「くっ……甘いッ!!」

 

ジョンは逆に拳を突き出し、風ごと殴り砕いた。

竜巻が弾け、青空に散る。

 

「拳で……風を殴り飛ばしただと……!?」

ペテルが呆然と呟く。

 

ルプスレギナは腹を抱えて大笑い。

「いやー、ジョン様マジで拳で天候とケンカしてるッスよぉ~♪」

 

だがスヴェリアーは笑っていた。

「そうだ、その力だ! 大空を駆ける者よ!!」

 

天空で竜と人狼が激突する。

風が砕け、雷が弾け、雲が散り――戦場そのものが次々と変貌していく。

 

最後の一撃。

ジョンは両の拳に【風神拳】と【雷神拳】を重ね、全身を回転させながら渾身の突きを放つ。

 

「――【雷の暴風(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)】!!!」

 

六重の暴風雷撃が天空を貫き、竜の翼を直撃した。

轟音と閃光が一帯を覆い、浮遊島ごと砕け散る。

 

……静寂。

その中で、竜王の巨体は空に留まり、やがて大きく息を吐いた。

 

「……見事だ。空をも砕き、大気をも掴む拳。

 確かに貴様は“天空の覇者”と呼ぶに相応しい」

 

スヴェリアーは翼をたたみ、ジョンの前に頭を垂れた。

 

「第1試練――突破だ」

 

仲間たちはただ呆然と空を見上げていた。

「……もう、何が人の限界か分からん」

「師匠……あんた、空まで殴れるんですか……」

ニニャは膝を抱えて座り込み、ただ震えていた。

 

ルプスレギナだけが満面の笑みで拍手。

「いやぁ~最高っすねぇジョン様! 次は誰をぶん殴るんすかぁ?」

 

 

第二試練 ― ダイヤモンド・ドラゴンロード

/*/ 結晶の闘技場 /*/

 

 

そこは、光を反射する巨大な水晶洞窟だった。

壁も床も天井も――すべてが硬質な結晶に覆われ、わずかな光すら七色に乱反射している。

 

「……ここは我が鱗の欠片にして、絶対の防壁」

低く響く声とともに、巨影が結晶壁から離れる。

 

姿を現したのは――全身が透明な結晶のごとき鱗に覆われた竜。

光を反射し、巨大な宝石のように輝く。

その瞳は無機質な冷光を帯び、戦意を映すことなく静かにジョンを見据えていた。

 

「私はオムナードセンス=イクルブルス。絶対防御の竜王。

 破れぬ壁を打ち破る力――それが真実の“信”となろう」

 

宣言と同時に、洞窟全体が変容した。

結晶が螺旋を描いてせり上がり、円形闘技場を形成する。

まるで竜そのものが作り出す檻の中に閉じ込められたかのようだ。

 

ブレインが歯を噛みしめる。

「……これは、単なる固さじゃない。あらゆる攻撃を拒絶する防壁……!」

 

ペテルも汗を浮かべ、盾を抱き締めた。

「師匠がどんな攻撃をしても、効かない……ってことか……!」

 

だがジョンは、人狼形態で静かに拳を握った。

「なら――壊してみせるだけだ」

 

オムナードセンスが動く。

巨竜の全身が煌めき、無数の結晶片が飛翔した。

それは剣より鋭い刃であり、盾より堅い壁。

嵐のように迫るそれを、ジョンは全身で受け止めた。

 

ガガガガガッ――!

肉体に突き立つ無数の結晶刃。

だが人狼の筋肉は砕けず、鮮血を流しながらも瞳の炎は消えない。

 

「……ッはああああッ!!」

 

雷鳴のような咆哮とともに拳を振るう。

【雷神拳】が炸裂し、結晶の壁が一部砕け散った。

だが――すぐに再生する。

 

「無駄だ」

竜の声は冷ややかだ。

「私の防御は再生と共にあり。いかなる衝撃も、いかなる刃も……」

 

ジョンは血を吐きながら笑った。

「そうか……なら、人間の研鑽した技って奴を見せてやろう」

 

拳を開き、掌底打ちの構えを取る。

左の掌底打ち込み、衝撃が逃げる前に右の掌底を撃ち込む。

 

水晶の壁は崩れなかった。幾重もの竜の絶対防御を貫通する。

 

オムナードセンスの巨体が震えた。

血を吐き、煌めく破片が宙に舞う。

 

「……ば、かな……我が結晶に……傷も無く……」

 

ジョンは膝をつきながらも、ゆっくりと顔を上げた。

「……絶対の壁?そんなもの、この拳で何度でも砕いて来たぜ……!」

 

長い沈黙の後、竜王は瞼を閉じ、巨躯を伏せた。

 

「……見事だ。力なき者は、信を得られぬ。

 だが――君はその血と拳で、確かに証明した」

 

第二試練――通過。

 

結晶の闘技場に、七色の光が降り注ぐ。

ルクルットは膝を抱えて呟いた。

「……師匠、あんなの……人間の領域じゃないよ……」

 

ルプスレギナはケタケタ笑いながら、

「へへっ♪ 絶対防御(笑)っすねぇ」とニヤついていた。

 

ジョンは振り返らず、血に濡れた拳を握りしめる。

まだ――試練は続くのだ。

 

 

第三試練 ― オブシディアン・ドラゴンロード

/*/ 黒曜石の奈落 /*/

 

 

次に案内されたのは、光を呑み込むような深淵の空洞だった。

床も壁も天井も――すべて漆黒の黒曜石。

わずかな灯りすら吸い込み、空間は無限の闇に閉ざされていた。

 

その中心に佇む巨影。

鉱石のように滑らかな漆黒の鱗、禍々しいまでの重圧。

ただ存在するだけで、空気が押し潰される。

 

「……我はケッセンブルト=ユークリーリリス。重力と闇を司る竜王」

その声は低く、地鳴りのように響いた。

 

「力を求むか。ならば――圧し潰されよ」

 

次の瞬間、重力が襲い掛かった。

全員の身体が何倍もの重さに引きずられ、床に叩きつけられる。

 

「くっ……ぐ、ぐぅ……!」

ペテルは盾を支えに立ち上がろうとするが、膝が砕けそうになる。

ルクルットは動けず、地に這いつくばる。

ニニャは呻き声を上げ、ブレインすら膝をついていた。

 

だが――ジョンだけは違った。

人狼の筋肉を隆起させ、地を割るように踏みしめる。

 

「こんな圧力……まだ潰れはしない!」

 

オブシディアン・ドラゴンが咆哮する。

闇の奔流が嵐のように広がり、視界を奪った。

無数の影の腕が伸び、ジョンを引き裂かんと襲い掛かる。

 

「重力と闇を合わせ持つ我が力――抗えるものなど存在しない」

 

ジョンは影の渦の中で拳を握った。

血管が浮かび上がり、肉体が悲鳴を上げる。

 

「なら……抗ってみせるだけだろうが!」

 

雷光が闇を裂いた。

【雷神拳】を纏った拳が、闇の腕を次々と粉砕していく。

さらに【風神拳】が加わり、重圧の空間を切り裂く。

 

「天地合一――!」

雷鳴と暴風が渦巻き、身体の周囲に光輪が生まれる。

 

「静動轟一――ッ!!」

 

ジョンは地を蹴った。

信じられぬ重力下で、稲妻の弾丸のように竜へ迫る。

拳が黒曜の鱗へ叩き込まれる瞬間――

 

「――【雷の暴風】!!!」

 

暴風と雷撃が一体となり、竜王を直撃した。

轟音とともに空洞が震え、黒曜の壁に亀裂が走る。

 

ケッセンブルトの巨体が揺らぎ、漆黒の鱗に深い傷が刻まれる。

 

「……ば、かな……我が重力を……押し返すだと……!」

 

ジョンは肩で息をしながら、血に濡れた口を拭った。

「壁も、重力も、闇も……俺の拳で砕けぬものはない!」

 

しばしの沈黙。

やがてオブシディアン・ドラゴンは、ゆっくりと頭を垂れた。

 

「……認めよう。お前はただの怪物ではない。

 その肉体と魂が――真の戦士の証だ」

 

第三試練――突破。

 

ペテルたちは全身を震わせながら見ていた。

ルプスレギナだけはケラケラ笑い、

「いやぁ~、ジョン様の筋肉、闇と重力にも勝っちゃいましたねぇ♪」とご満悦。

 

ジョンは一歩、次の闇へと進む。

まだ――試練は終わらない

 

 

第四試練 ― ワーム・ドラゴンロード

/*/ 大地の螺旋 /*/

 

 

試練の場は、巨大な地底洞窟だった。

壁一面に走る亀裂から、灼熱のマグマが赤々と光を放ち、空気は地鳴りのように揺れている。

その中心に――大地そのものの化身のような竜がいた。

 

体長は山脈に匹敵し、螺旋を描くような長大な躯体。

鱗は岩盤のごとく重厚で、眼窩からはマグマの光が洩れている。

 

「……ザラジルカリア=ナーヘイウント。大地と再生の竜王」

その声は、洞窟全体を震わせるほどに低く、重い。

 

「血と肉を砕かれようと、我が身は大地と共に再生する。

 壊すだけでは――決して我を超えられぬ」

 

そう言い放つと同時に、地面が隆起し、石の槍が雨のように突き上げた。

ペテルたちは慌てて後退し、ブレインが剣で一部を斬り払いながら叫ぶ。

 

「ちっ……防ぎきれん!カルバイン様行ってくれ!」

 

ジョンは頷き、人狼の姿で地を蹴った。

だが次の瞬間、竜の巨尾が地を薙ぎ払い、衝撃波だけで岩壁が崩れ落ちる。

 

「おぉおおッ……!!」

ジョンは全身で衝撃を受け止め、踏みとどまった。

 

「ならば壊すだけじゃない――貫き続けてやる!」

 

彼の拳が閃き、【風神拳】が竜鱗に叩き込まれる。

轟音と共に黒曜石のような鱗が砕け飛んだ――が、

その傷口はすぐさま石とマグマで塞がり、元通りになっていく。

 

「見たか。大地は不滅。砕けようと蘇る」

 

ザラジルカリアの声が重々しく響く。

ジョンは歯を食いしばり、再び拳を握った。

 

「だったら……再生の速さを上回るまで叩き続けるまでだ!!」

 

雷が走る。

ジョンの身体に【雷神拳】の光が迸り、さらに【天地合一】で闘気と魔力を重ねる。

 

「静動轟一――!!!」

 

連撃が始まった。

一撃、二撃、十撃――。

拳が稲妻と暴風を纏い、岩盤を砕き、肉を抉り、再生より速く打ち込まれていく。

 

「グォオオオオッ!!!」

ザラジルカリアが咆哮を上げる。

再生の力が追いつかない。

螺旋の巨体が大地を揺らし、洞窟全体が崩壊寸前にまで震動した。

 

最後の一撃。

ジョンの拳が竜の胸に突き立ち、雷光が全身を貫いた。

 

――静寂。

 

やがて、巨竜は倒れることなく、その場で巨体を伏せた。

胸の裂け目からはマグマの光が洩れていたが、それを塞ごうとはしなかった。

 

「……なるほど。無限の再生を凌駕する“継続の意志”……。

 貴様の拳に、確かにそれを見た」

 

ザラジルカリアは巨体を横たえ、静かに頭を垂れる。

 

「第四試練――突破だ」

 

ペテルたちは崩れた岩陰から顔を出し、震えながら息を呑んでいた。

「い、今の……無限に殴り続けたんじゃ……?」

「あれ……人間がやる領域じゃないよ……」

ブレインは冷や汗を流しつつ、低く呟いた。

「……あれが本当の“剣豪”の域を超えた肉体……」

 

ルプスレギナはケタケタ笑いながら、

「いやぁ~、ジョン様マジで地面ごと殴り抜けちゃいましたねぇ♪」と拍手していた。

 

試練は続く――

次なる相手は、最後の竜王。

 

――そして。

残るは最後の試練。

白金竜王・ツァインドルクス=ヴァイシオン(ツアー) との決戦が待ち構えていた。

 

 

最終試練 ― 白金竜王 ツァインドルクス=ヴァイシオン(ツアー)

/*/ 白金の神殿 /*/

 

 

天空の果て、全ての試練を越えた者だけが辿り着く聖域。

白金に輝く柱が林立し、空間そのものが神々の威光に包まれている。

 

そこに立つのは、一体の竜。

鱗は月光のごとき白銀を超え、神の光を反射する白金の輝き。

その瞳は千年を超える叡智を宿し、ただ在るだけで存在全てを圧する。

 

「……よくぞ、ここまで至ったな」

ツアーの声は静かでありながら、天地の理そのものを震わせる。

 

ペテルたちは息を呑み、膝が震えるのを止められない。

「こ……これが、竜王の頂……」

「言葉……出ない……」

ブレインですら剣を抜きながら、冷や汗を流した。

 

だがジョンだけは、真っ直ぐにツアーを見据える。

その目には畏怖ではなく、友としての覚悟が宿っていた。

 

「ツアー。俺はお前の力を知っている。

 だが――この拳が、どこまで届くか。確かめたい」

 

白金竜王はわずかに瞳を細める。

「……ならば示せ。

 我を“友”と呼ぶ資格を持つのか、

 それとも滅びに至るか――!」

 

瞬間。

白金の光が弾け、神殿全体が戦場へと変貌した。

 

大地は逆巻き、重力すらねじ曲がる。

ツアーが振るうのは“力”ではなく、“世界そのもの”。

その一挙手一投足が、法則を塗り替えていく。

 

「――ぐあああああっ!!」

ペテルが盾を構えるも、ただの衝撃波で吹き飛ばされる。

ルクルットも魔法を放つが、光の奔流にかき消される。

ブレインの剣撃すら、空気に触れた瞬間に断ち切られた。

 

仲間が次々と倒れる中、ジョンだけが前に立つ。

 

「……やはり、ここまでか」

ツアーが呟く。

 

だが――

 

「まだだッ!!」

 

ジョンは吠え、己の肉体を極限まで高める。

血管が裂け、骨が悲鳴を上げる。

それでもなお、拳を構える。

 

「【人狼解放――王狼顕現(ヴォルフ・カイザー)】!!」

 

黄金の毛並みが逆巻き、巨躯の人狼が白金竜王と対峙する。

二つの存在は、まさに神話の獣。

 

「行くぞ、ツアー!!」

 

「来い――ジョン!!!」

 

白金と黄金、竜と狼。

二つの咆哮が交わった瞬間、天地は砕け散った。

 

拳と爪がぶつかり合い、時空が裂ける。

衝撃は神殿を越え、大陸全土へ響き渡った。

 

ルプスレギナは吹き飛ばされながらも、目を輝かせて笑っていた。

「っははは!! これっすよォ!! これがジョン様ぁぁ!!」

 

戦いは永遠にも思える一瞬の中で続き――

 

最後に。

互いの全てを込めた一撃が炸裂する。

 

「――【白金の咆哮】!!!」

「――【狼牙風風拳】!!!」

 

光と闇、竜と狼。

その衝突は天地を覆い、全てを飲み込む閃光となった。

 

……やがて。

残ったのは、砕けた神殿の残骸と、対峙する二つの影。

 

ツアーは膝を折り、深く息を吐いた。

「……見事だ。

 我が全力を受け止め、なお立つか」

 

ジョンは片膝をつきながらも立ち上がり、拳を下ろす。

「約束したろ……俺は嘘はつかん。

 友として――対等に、立つ」

 

長い沈黙の後、ツアーは微笑した。

「……ああ。

 ようやく、“共に歩める者”に出会えた」

 

その瞬間、白金竜王の威圧が消え、神殿を包む光が穏やかに変わった。

 

「最終試練――突破だ」

 

仲間たちは呆然と立ち尽くし、やがて歓声と安堵の声を上げる。

「……勝った……のか?」

ニニャは涙を流しながら頷く。

「師匠……本当に……!」

「バケモノだ、あんたは……」

 

ルプスレギナだけはいつもの調子で、

「いや~最高でしたねジョン様! あとは飲んで歌って踊るだけっすよ!」

と笑い転げていた。

 

――こうして。

魔導国と評議国との“絆”は、血と拳によって結ばれたのだった。

 

 

/*/ 評議国・大広間 /*/

 

 

戦いの余波で砕け散った神殿の瓦礫は、竜王たちの魔力によって瞬く間に修復された。

代わりに広間には煌びやかな灯火がともされ、長大な卓が設けられる。

 

そこには竜王級に仕える亜人官僚たちが次々と料理を運び込み、香ばしい肉や芳醇な果実酒が山のように並べられていく。

竜王たちも人化した姿で列席し、滅多にない饗応の場を整えていた。

 

ルクルットが目を輝かせて叫ぶ。

「うわっ……見てくださいよ! これ、どれも高級食材じゃないですか! あ、あっちにはワインが樽ごと!?」

 

ニニャは早速ノートを開き、料理の名前をメモしている。

「こ、これは記録しなきゃ……きっと後世の資料になる……」

 

ペテルはまだ身体を押さえながら、ひとまず椅子に座って息を整える。

「し、師匠……さっきの試練で死ぬかと思いましたよ……。でも、こうやって生きて宴を囲めるなんて……」

 

ブレインは酒杯を片手に、しばしジョンを見つめ、ため息をついた。

「……あんたには勝てねぇ。だが、あんたと肩を並べて酒を飲める。

 ……それで充分だ」

 

ルプスレギナは早々に酔いどれ、竜王たちの隣で気さくに話しかけている。

「いや~、竜王様方もやるじゃないっすか! でもウチのジョン様には敵わないっすよねぇ♪ ひっく」

 

白金竜王ツアーは杯を持ち上げ、静かに告げた。

「――よくぞ、我らの試練を越えた。

 ジョンよ、そしてその仲間たちよ。

 今日より、汝らは評議国の“正式な友”と認められる」

 

その言葉に広間がどよめき、竜王級たちも順に頷く。

 

青空の竜王スヴェリアーは涼やかに笑みを浮かべ、

「ならば今宵は――空の果てまで飲み明かそうではないか!」

と盃を掲げる。

 

オブシディアンドラゴンのケッセンブルトは豪快に肉を頬張り、

「我らが竜と人とで、ここまで共に杯を交わす日が来るとはな!」

と声を張り上げる。

 

ダイヤモンドドラゴン・オムナードセンスは透き通る瞳でジョンを見つめ、

「光の結晶は、強者の絆を映す……。今日の宴は永遠に残るだろう」

と詩のように語った。

 

やがて音楽が鳴り響き、亜人の楽士たちが弦や笛を奏でる。

すると、ルプスレギナがにやりと笑って立ち上がった。

 

「はいは~い! ここからはウチらのターンっすよ!

 ジョン様、また歌いましょ!」

 

彼女が合図すると、人狼部隊の“時王”たちが現れ、即席のバンドを組む。

ドラム、ベース、リュートの旋律が広間を揺らし、酒に酔った亜人たちが次々に立ち上がって踊り出す。

 

ジョンは苦笑しながらもマイク代わりの杖を握り、低く歌い始めた。

その声に広間が一瞬で静まり返り――次の瞬間、大歓声が沸き起こる。

 

「おおおおっ!!!」

 

ルプスレギナが掛け合いで笑いながら踊り狂い、ペテルとルクルットも無理やり引っ張り出される。

ニニャは真っ赤になりながらも歌詞を口ずさみ、ブレインは半ば呆れながらも酒杯を置いてリズムに合わせ剣を振る舞う。

 

竜王たちすら微笑み、白金竜王は静かに杯を掲げながら呟いた。

「……これは、千年を生きても二度と見られぬ光景かもしれんな」

 

夜は果てなく、宴は続く。

竜と人、亜人と冒険者――その全てが交わり、笑いと歌と踊りが広間を満たした。

 

――こうして、戦いを越えた者たちは“共に生きる”未来への一歩を、杯と歌で刻んだのだった。

 

 

/*/ 評議国・大評議堂 /*/

 

 

翌日。

宴の余韻を残したまま、だが空気は厳粛に張り詰めていた。

 

評議堂の中央には円卓が設けられ、その左右に竜王級と魔導国代表の席が並ぶ。

中央の壇上には羊皮紙でできた巨大な調印文書が置かれ、その表題には古代竜語と人間語の二つが並記されていた。

 

《永久友好及び相互不可侵の盟約》

 

白金竜王ツアーが首をもたげ、場を見渡す。

「ここに、アーグランド評議国と魔導国の間に、正式な国交を樹立する」

 

その声は広間を揺らすように響き、官僚や使節たちは緊張に包まれる。

 

ジョンは深呼吸し、背筋を伸ばして前に出た。

彼の背後にはルプスレギナと漆黒の剣、そしてブレインが並ぶ。

皆が固唾を飲んで見守る中、ジョンは力強く宣言した。

 

「――この盟約をもって、我らは互いを敵とせず。

 血を流し合う代わりに、未来を分かち合う。

 魔導国を代表して、ここに誓う」

 

その声に、ペテルの拳が自然と震え、ルクルットが息を呑み、ニニャが目を潤ませた。

ブレインは静かに腕を組んでいたが、口元にはかすかな笑みが浮かんでいる。

 

青空の竜王スヴェリアーが羽根のような装飾を揺らしながら立ち、

「我ら竜王級もまた、この時代において“新しき盟友”を得ることを喜ばしく思う」

と宣言する。

 

その後、竜王たちが順に名を連ね、署名を行っていく。

 

最後にジョンが羊皮紙を前に立ち、ペンを取る。

その一筆が走った瞬間、広間に魔力の震動が走り、契約文書が光を帯びた。

 

「調印、完了……!」

 

官僚や兵士たちから歓声が上がり、ルプスレギナが嬉しそうに両手を打ち鳴らした。

「やったっすね、ジョン様~!」

 

ツアーは厳かに立ち上がり、ジョンに右手を差し伸べる。

「……これで、我らは真の友。

 互いに背を預け合う時代が始まるのだ」

 

ジョンはその手を力強く握り返す。

「――ああ、必ず守ってみせる。俺たちの未来を」

 

大評議堂に再び拍手と歓声が轟き、

こうして歴史に刻まれる瞬間――“竜王評議国と魔導国の国交樹立”が成し遂げられた。

 

 

/*/ 評議国・謁見の間 調印式後 /*/

 

 

調印が終わり、式が散会に向かう中。

白金竜王ツアーは一歩前に出て、ジョンへ語り掛けた。

その声音はさきほどの公的なものではなく、ひどく私的で、重々しい。

 

「……ジョン。ひとつ、忠告をしておこう」

 

ジョンは目を細め、無言で耳を傾ける。

ツアーは視線を巡らせ、周囲に余計な者がいないことを確認すると、低い声で続けた。

 

「この世には、我らと同格……いや、それ以上に忌むべき存在がいる。

 キュアイーリム=ロスマルヴァー――“朽棺の竜王”」

 

名を口にした瞬間、場の空気がわずかに冷え込んだ。

竜王級の誰もがその名に反応し、眉を潜める。

 

青空の竜王スヴェリアーが、羽根を震わせながら口を開く。

「……彼奴は死を糧とする。眠りについたように見えるが……完全に滅んだわけではない」

 

ダイヤモンド・ドラゴンロードも静かに頷く。

「墓所に王国を築き、死せる軍勢を従える。

 奴が動き出せば……国家の興亡など、あっという間だ」

 

ルプスレギナは珍しく笑わず、真剣な目でジョンを見上げる。

「ジョン様……つまりそいつは、竜王級の中でも“不死者”寄りってことっすね?」

 

ジョンの瞳が鋭く光る。

「……不死者を統べる竜王、か」

 

ツアーは深く頷く。

「盟友として忠告する。

 ――もし“朽棺”が目を覚ます時、この大地は必ず血に沈む。

 その時こそ、お前の《雷の暴風》を振るう覚悟を固めよ」

 

ジョンは短く目を閉じ、ゆっくりと頷いた。

「心得た。友の忠告、胸に刻んでおこう」

 

重々しい沈黙ののち、ツアーは下がった。

 

 

/*/ 大地の底、屍竜の都 /*/

 

 

果てしなく続く棺の群れ。

冷たい瘴気が澱み、屍竜たちが眠る大空洞。

 

その中心――腐り果てた巨体が横たわっていた。

竜の王にして、すでに死を超えた存在。

 

朽棺の竜王(エルダーコフィン・ドラゴンロード)

キュアイーリム=ロスマルヴァー。

 

砕けた顎骨がきしみ、低く嘲るような声が響く。

 

「……またか。

 この世界に巣食う異物――“ぷれいやー”。

 あれは竜帝が垂れ流した汚物にすぎぬ」

 

骨の隙間から、黒き瘴気が滲み出す。

その瘴気は、傍らの屍竜たちを立ち上がらせ、虚ろな眼窩を燃え上がらせた。

 

「だが……利用できる。

 評議国と魔導国の愚かな結託。

 その先に芽吹く秩序も、交易も、すべて――腐らせて喰らう糧となろう」

 

その声音は傲慢にして、しかしわずかな怯懦が混じる。

己を凌ぐ“竜王級”の影を恐れながらも、同時に嘲笑い、支配欲を募らせる。

 

「竜帝の遺した屑どもめ……。

 我こそが真なる継承者。

 すべては、この棺の中で朽ち、やがて我が王国の礎となる」

 

朽ちた竜の瞳窩に、青白い炎がぼうっと灯る。

その瞬間、無数の棺が共鳴するように震え、大洞窟全体が揺れ動いた。

 

胎動は始まった。

評議国と魔導国が手を結んだ、その影に。

 

読者だけが知る。

“アレ”と呼ばれる恐怖の正体こそ――

“朽棺の竜王”キュアイーリム=ロスマルヴァーであることを。

 

 

/*/






第9部完!

もっと情報を!情報おくれ!

次回!
第10部!まだやるのか!?

第86話:言えたじゃねぇか!

強き頂きを望む。望み臨みその頂きを進むブレイン・アングラウス。
その手に天を掴むのか。それとも破滅か。



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