オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~ 作:ぶーく・ぶくぶく
/*/ 第9階層・ジョンの工房 /*/
鍛冶炉の赤熱が揺らめき、棚には奇妙なアイテムが並んでいた。
ジョンが工具を弄びながら、ふと振り返る。
「どうしたっすか、ジョン様?」
工房に顔を出したルプスレギナが小首をかしげる。
「ああ、ルプー。お前に渡してたパワードスーツなんだが――回収してシズに回してやらないか?」
「え? かまわないっすけど……」
ルプーは目を瞬かせる。
ジョンはあっけらかんと笑った。
「だってお前、レベル上がったろ? もうスーツに頼るより、素で殴った方が強いんだよ。持っててもあんまり意味ない」
「……あ、あはは! 確かに言われてみれば!」
ルプスレギナが苦笑し、肩をすくめる。
「その代わりってわけじゃないが、俺の私物からなんかアイテムやるよ。そうだな――いつもの聖杖、作り直してやるか!」
ジョンの瞳がキラリと光り、机に設計図が広げられる。
「祝福の刻印も入れ直す。お前に合わせて"回復速度強化"と"肉体適応"を付ければ、竜血ブレインの治療や戦場での支援がさらに楽になるはずだ」
ルプスレギナの顔がぱっと明るくなる。
「わぁっ! ジョン様の新作、楽しみっすね! 聖杖もらったら、もっともっと役立っちゃうっすよ♪」
ジョンは肩をすくめ、工具を取り上げた。
「ま、期待してろ」
――工房には、金属の音とルプーの嬉しそうな鼻歌が響いていた。
/*/ 第6階層・闘技場 /*/
黒き聖杖を掲げたルプスレギナの周囲に、冷気と瘴気が渦を巻く。
死の宝珠が低く唸るように輝き、骸骨の影が表面に浮かび上がった。
「《召喚:デスナイト》!」
「《召喚:スケリトルドラゴン》!」
杖から迸る黒光が地を穿ち、甲冑を纏った死騎士が二体、闇の門から歩み出る。
さらに竜骨を組み上げた巨影が地響きを響かせ、二頭の骸骨竜が翼を広げた。
観戦していたジョンが口元を綻ばせる。
「おお、ちゃんと四体同時に制御できてるな。やっぱり成長したもんだ」
その時――。
宝珠が突如として脈打ち、深淵のような声がルプスレギナの頭に直接響いた。
――汝の器、拡張を許す。さらなる騎手を呼べ。
ルプスレギナはハッとして聖杖を握り直す。
「……え、まだ呼べるんすか!? じゃ、じゃあ――」
「《召喚:ペイルライダー》!!」
地面に大きな魔法陣が浮かび上がり、白濁した霧が辺りを覆う。
その中から現れたのは、死を具現する蒼ざめた騎士。
朽ちた外套を靡かせ、蒼白の馬に跨り、無言のまま闘技場を見渡した。
観る者の心臓を握り潰すような威圧が広がり、デスナイトすら無意識に跪く。
「ひ、ひゃぁぁ……なんか、やべーの来ちゃったっすね……」
ルプスレギナは思わず背筋を伸ばすが、宝珠の輝きはまるで誇らしげに煌めいていた。
ジョンは腕を組んで、にやりと笑う。
「ふむ……《死の宝珠》、とうとう上位死霊を呼び出したか。ルプー、お前自身の格がそれを可能にしたんだ」
ルプスレギナの顔が緩む。
「えへへ……ジョン様に褒められるの、やっぱ最高っすね♪」
――闘技場には、四体の軍勢と死の騎士を従える女神官の姿があった。
/*/ 第6階層・闘技場 /*/
ルプスレギナの掲げる《死の宝珠の聖杖》が、さらに眩い黒光を放った。
宝珠の内部に幾千もの骸骨の影が踊り、耳をつんざく呻き声が空間を満たす。
――汝、器は拡張された。四騎を呼べ。
ルプスレギナの瞳が見開かれ、声が自然に迸る。
「《召喚――黙示録の四騎士》!!」
大地に巨大な魔法陣が幾重にも展開し、虚空の裂け目から次々と騎士が現れる。
黙示録の騎士たち
白骨の馬に跨り、黄金の王冠と黒曜の弓を携える。
その矢は命令権を奪い、敵軍を支配下に置く。
血に濡れた赤き骸馬に跨る、甲冑の巨躯。
巨大な黒刃を振るう度に炎と血煙が迸り、周囲を狂戦状態に陥れる。
やせ細った闇馬に跨る骸骨の商人。
両手の天秤は空気を裂く度に作物を枯らし、飲料水を濁らせる。
彼の周囲では味方ですら空腹に苛まれる。
蒼白の死馬に跨る亡者。
その一振りは魂を抜き取り、すべての生者を冷たい墓の世界に引きずり込む。
騎士たちが闘技場に揃い踏みする。
足音は雷鳴の如く、視線は死の審判の如く。
デスナイトとスケリトルドラゴンすら恐怖に膝を折り、四騎士を仰ぐ。
ルプスレギナは聖杖を握り直し、唇を震わせる。
「……す、すごいっす。わたし、本当にこんなの従えられるんすか!?」
ジョンが目を細め、満足げに笑った。
「やれるさ。お前はもう“ただの猟犬”じゃない。
――死霊軍を率いる
ルプスレギナの頬が赤らむ。
「……あはは、ジョン様にそう言われると、なんだか照れるっすね!」
四騎士の気配が渦を巻き、闘技場はまるで終末の戦場のように変貌していった。
/*/ 第6階層・闘技場 /*/
ジョンが両手を広げると、そこに鎮座していたのは全高4メートルほどの人型機動兵器。
赤と金を基調にした装甲は曲線と直線が絶妙に融合し、胸部にはナザリックの紋章が輝いていた。
騎士の鎧を思わせながらも、機械仕掛けの人形――まさに自動人形の延長線上。
「……これを、わたしに?」
無表情のまま、シズの瞳が淡く光る。
「ああ。お前の本体に合わせて調整した。スーツというより……"拡張身体"だな」
ジョンはにやりと笑った。
シズは無言で一歩近づき、赤金の機体に掌を触れる。
次の瞬間、機体の胸が開き、静かに彼女を受け入れるように展開した。
「――リンク開始」
淡々とした声が響くと、機体の眼光に赤い灯がともる。
装甲が閉じ、シズの身体が完全に機体に覆われた。
ブゥン――低く唸る起動音。
四メートルの巨躯がゆっくりと立ち上がる。
「動作チェック。……問題なし」
巨体の中から聞こえてくる声は、いつも通り淡々としていた。
だが、彼女の指が開閉し、首を左右に振るたび、重厚な装甲が音を響かせる。
ルプスレギナが口笛を吹いた。
「おぉ~! 赤金のシズっち、超かっこいいっす!」
ジョンは腕を組み、満足そうに頷いた。
「よし。これなら前線でも殴り合えるし、砲撃にも耐えられる。ま、言うなればシズ専用の"機動兵器モード"ってやつだ」
シズは静かに拳を握り、膝を沈める。
巨体が地を震わせ、一瞬でドームの端に跳躍した。
着地と同時に床が割れ、砂煙が舞い上がる。
「――悪くない」
淡白な言葉の奥に、かすかな満足の色があった。
ジョンが笑う。
「よし、そいつの本領はこれからだ。お前にしか扱えない拡張人形だ、シズ。――存分に暴れて来い」
/*/ ナザリック・執務室 /*/
赤と金の巨体を格納させた後、報告を受けたモモンガは玉座に顎に手を添える仕草をした。
「……ふむ。確かに、あの姿のシズは目を引くが……逆に考えれば、帝国にとっては都合が良いかもしれないな」
ジョンが首を傾げる。
「どういう意味だ?」
モモンガは指を組み合わせ、赤い光を細く灯らせた。
「我々はすでに帝国へ【鉄の騎士】型ゴーレムを輸出している。あれは人々の間でも広く知れ渡っているはずだ。つまり――あの赤金の機体も、"鉄の騎士の上位機種"と解釈されるだろう」
ルプスレギナがぱちぱちと瞬きをしてから、にやっと笑った。
「なるほどっすね。帝国の街中を歩いても、変な怪物扱いされないってことっすね」
「その通りだ」
モモンガは頷く。
「シズの活動は帝国での諜報や戦力誇示においても有効だろう。……"輸出品の延長"として誤認されるなら、むしろ外聞のカバーになる」
ジョンは腕を組んで唸った。
「確かに、ただの機動兵器扱いなら"ナザリックの秘匿戦力"だと気付かれにくいか。……悪くないな」
シズは淡々と頷いた。
「命令があれば、帝国領内での活動も可能です。――機体の露出は許容範囲、と判断」
モモンガは軽く骨の指を鳴らす。
「よし。シズ、次の任務では帝国へ同行せよ。必要なら"鉄の騎士"部隊との連携を演出してもよい」
「了解」
シズの応答はいつも通り無機質だったが、ほんの僅かに翠の瞳が輝いたように見えた。
/*/ ナザリック地下大墳墓・玉座の間 /*/
荘厳な玉座の間。
ルプスレギナが跪き、手にした《死の宝珠の聖杖》から微かに黒い燐光が揺らめいていた。
「――というわけでっす、モモンガ様! わたし、この聖杖で《黙示録の四騎士》を召喚できるようになったんすよ!」
彼女は胸を張って笑顔を浮かべる。
その声音に嘘はなく、死の宝珠の鈍い鼓動が彼女の言葉を裏付けていた。
アルベドが目を細める。
「黙示録の四騎士……? 詳細を」
ジョンが補足するように前に進み出る。
「死の宝珠がルプーの成長に呼応した結果だ。従来はデスナイトやスケリトルドラゴンの枠で頭打ちだったが……
今はレベル70相当の四騎士――“征服”“戦争”“飢饉”“死”を具現化できる。
それぞれが軍勢を単独で壊滅させ得る存在だ」
「レベル70相当……!」
デミウルゴスが眼鏡を押し上げる。
「アダマンタイト級冒険者複数をものともしない程の力を、常時四体まで制御可能とは……」
ルプスレギナは頬を赤らめ、少し照れ臭そうに笑った。
「へへ……まあ、ジョン様が聖杖をチューンしてくれたおかげっすけどね!」
モモンガはしばし黙考したのち、ゆっくりと頷いた。
「……ルプスレギナ。よくぞそこまで成長した。
四騎士を従える力があれば、前線での抑止力として極めて有用だ。
――今後は“黙示録の猟犬”としての役割を期待しよう」
「も、もったいないお言葉っす!」
ルプスレギナは目を輝かせ、玉座の間に響く声で応えた。
宝珠が脈打つたびに、淡い死の囁きが漂う。
まるで主の評価を誇らしげに受け止めているかのようだった。
/*/ 帝国西辺境・山岳地帯 /*/
ウォートロールとオーガが群れを成して村々を襲っている――その報を受け、帝国軍は【鉄の騎士】部隊を展開していた。
黒鉄の巨兵たちが整然と並ぶ中、ひときわ異彩を放つのは赤と金の巨体――シズ搭乗のパワードスーツである。
「……なんだ、あれは……」
「鉄の騎士の強化型か? 聞いてねぇぞ」
兵士たちの間にざわめきが広がる。
そのとき、山肌から巨体の影が現れた。
棍棒を構えたオーガと、口から涎を垂らすウォートロールの群れ。
「前衛、構え!」
「【鉄の騎士】部隊、第一列――進撃ッ!」
号令とともにゴーレムたちが前進する。
鈍重な動きながら、連携は整っており十分な威圧感があった。
だが――
「目標ロック」
シズの無機質な声が響いた。
赤金の巨体が右手に持ったヘビーマシンガンが唸りを上げる。
――ガガガガガガッ!!
閃光と轟音。
次の瞬間、十数体のウォートロールが弾丸の嵐に貫かれ、血飛沫と共に倒れ伏した。
「なっ……!?」
「お、おい、オーガまで倒れたぞ! 一斉射で!?」
帝国兵たちは目を見開き、【鉄の騎士】の操者までもが硬直した。
あまりにも圧倒的、あまりにも一方的な火力。
「……シズ、ウォートロールは再生能力がある」
同行していたジョンが冷静に続ける。
「左肩のウェポンラックを展開。焼き尽くせ」
「了解。兵装解放【
シズは無機質に返答する。
赤と金の機動兵器の左肩にある箱のようなものが開き、内部のレンズ状のものが露出する。そこに光が吸い込まれていき、そしてそれが炎の形となって放たれた。
炎の嵐は倒れ、痙攣しながら再生しつつあるウォートロールの群れを骨まで焼き尽くし、真っ白な灰にしたのだった。
討伐は瞬く間に終わった。
残骸と化したウォートロールの死骸を見ながら、帝国兵たちは小声で囁き合う。
「……あの兵装、もし帝国軍に配備されたら……」
「いや、それより……あの連射機構だ。あれは……なんだ? いや、あんな速度で撃てる武器は……」
やがて一人の将校がジョンのもとに歩み寄った。
「魔導国の……あの“へびーましんがん”とやら。あれは……輸出の予定は?」
ジョンは片眉を上げて、薄く笑う。
「……欲しいのか?」
将校は唾を飲み込み、率直に言った。
「便利すぎる……。対魔獣戦において、あれほどの火力があれば、どれほどの兵の命が救われるか……」
将校は身を乗り出して、必死の面持ちで繰り返した。
「……あれさえあれば、帝国軍の損害は大幅に減らせる。是非とも……!」
ジョンは肩をすくめて、にやりと口角を吊り上げる。
「検討はしてやる。だが――その代価が“命”で済むかどうかは、あんたら次第だ」
淡々と歩み寄る赤金の巨体。
シズ機体のバイザーには光が一瞬反射し、将校は思わず言葉を失った。
憧れと畏怖。
欲望と恐怖。
夕陽に照らされる帝国軍の瞳は、その両方に揺れていた。
シズは黙って立ち尽くし、ヘビーマシンガンをバックパックのウェポンラックにマウントする。
赤金の巨体は夕陽を浴びて煌めき、兵士たちの目には“憧れと畏怖”が同時に映っていた。
大変ですがやりがいのある職場です。by帝国魔法省
次回!
第88話:プルジェクトXッ!!
爆発オチなんてサイテー!