オーバーロード~狼、ほのぼのファンタジーライフを目指して~   作:ぶーく・ぶくぶく

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第87話:リサイクル

 

 

/*/ 第9階層・ジョンの工房 /*/

 

 

鍛冶炉の赤熱が揺らめき、棚には奇妙なアイテムが並んでいた。

ジョンが工具を弄びながら、ふと振り返る。

 

「どうしたっすか、ジョン様?」

工房に顔を出したルプスレギナが小首をかしげる。

 

「ああ、ルプー。お前に渡してたパワードスーツなんだが――回収してシズに回してやらないか?」

 

「え? かまわないっすけど……」

ルプーは目を瞬かせる。

 

ジョンはあっけらかんと笑った。

「だってお前、レベル上がったろ? もうスーツに頼るより、素で殴った方が強いんだよ。持っててもあんまり意味ない」

 

「……あ、あはは! 確かに言われてみれば!」

ルプスレギナが苦笑し、肩をすくめる。

 

「その代わりってわけじゃないが、俺の私物からなんかアイテムやるよ。そうだな――いつもの聖杖、作り直してやるか!」

 

ジョンの瞳がキラリと光り、机に設計図が広げられる。

「祝福の刻印も入れ直す。お前に合わせて"回復速度強化"と"肉体適応"を付ければ、竜血ブレインの治療や戦場での支援がさらに楽になるはずだ」

 

ルプスレギナの顔がぱっと明るくなる。

「わぁっ! ジョン様の新作、楽しみっすね! 聖杖もらったら、もっともっと役立っちゃうっすよ♪」

 

ジョンは肩をすくめ、工具を取り上げた。

「ま、期待してろ」

 

――工房には、金属の音とルプーの嬉しそうな鼻歌が響いていた。

 

 

 

/*/ 第6階層・闘技場 /*/

 

 

黒き聖杖を掲げたルプスレギナの周囲に、冷気と瘴気が渦を巻く。

死の宝珠が低く唸るように輝き、骸骨の影が表面に浮かび上がった。

 

「《召喚:デスナイト》!」

「《召喚:スケリトルドラゴン》!」

 

杖から迸る黒光が地を穿ち、甲冑を纏った死騎士が二体、闇の門から歩み出る。

さらに竜骨を組み上げた巨影が地響きを響かせ、二頭の骸骨竜が翼を広げた。

 

観戦していたジョンが口元を綻ばせる。

「おお、ちゃんと四体同時に制御できてるな。やっぱり成長したもんだ」

 

その時――。

 

宝珠が突如として脈打ち、深淵のような声がルプスレギナの頭に直接響いた。

 

――汝の器、拡張を許す。さらなる騎手を呼べ。

 

ルプスレギナはハッとして聖杖を握り直す。

「……え、まだ呼べるんすか!? じゃ、じゃあ――」

 

「《召喚:ペイルライダー》!!」

 

地面に大きな魔法陣が浮かび上がり、白濁した霧が辺りを覆う。

その中から現れたのは、死を具現する蒼ざめた騎士。

朽ちた外套を靡かせ、蒼白の馬に跨り、無言のまま闘技場を見渡した。

 

観る者の心臓を握り潰すような威圧が広がり、デスナイトすら無意識に跪く。

 

「ひ、ひゃぁぁ……なんか、やべーの来ちゃったっすね……」

ルプスレギナは思わず背筋を伸ばすが、宝珠の輝きはまるで誇らしげに煌めいていた。

 

ジョンは腕を組んで、にやりと笑う。

「ふむ……《死の宝珠》、とうとう上位死霊を呼び出したか。ルプー、お前自身の格がそれを可能にしたんだ」

 

ルプスレギナの顔が緩む。

「えへへ……ジョン様に褒められるの、やっぱ最高っすね♪」

 

――闘技場には、四体の軍勢と死の騎士を従える女神官の姿があった。

 

 

/*/ 第6階層・闘技場 /*/

 

 

ルプスレギナの掲げる《死の宝珠の聖杖》が、さらに眩い黒光を放った。

宝珠の内部に幾千もの骸骨の影が踊り、耳をつんざく呻き声が空間を満たす。

 

――汝、器は拡張された。四騎を呼べ。

 

ルプスレギナの瞳が見開かれ、声が自然に迸る。

「《召喚――黙示録の四騎士》!!」

 

大地に巨大な魔法陣が幾重にも展開し、虚空の裂け目から次々と騎士が現れる。

 

黙示録の騎士たち

 

征服の騎士(コンクエストライダー)

白骨の馬に跨り、黄金の王冠と黒曜の弓を携える。

その矢は命令権を奪い、敵軍を支配下に置く。

 

戦争の騎士(ウォーライダー)

血に濡れた赤き骸馬に跨る、甲冑の巨躯。

巨大な黒刃を振るう度に炎と血煙が迸り、周囲を狂戦状態に陥れる。

 

飢饉の騎士(フェイミンライダー)

やせ細った闇馬に跨る骸骨の商人。

両手の天秤は空気を裂く度に作物を枯らし、飲料水を濁らせる。

彼の周囲では味方ですら空腹に苛まれる。

 

死の騎士(ペイルライダー)

蒼白の死馬に跨る亡者。

その一振りは魂を抜き取り、すべての生者を冷たい墓の世界に引きずり込む。

 

騎士たちが闘技場に揃い踏みする。

足音は雷鳴の如く、視線は死の審判の如く。

 

デスナイトとスケリトルドラゴンすら恐怖に膝を折り、四騎士を仰ぐ。

 

ルプスレギナは聖杖を握り直し、唇を震わせる。

「……す、すごいっす。わたし、本当にこんなの従えられるんすか!?」

 

ジョンが目を細め、満足げに笑った。

「やれるさ。お前はもう“ただの猟犬”じゃない。

 ――死霊軍を率いる黙示録の巫女(アポカリプス・メイデン)だ」

 

ルプスレギナの頬が赤らむ。

「……あはは、ジョン様にそう言われると、なんだか照れるっすね!」

 

四騎士の気配が渦を巻き、闘技場はまるで終末の戦場のように変貌していった。

 

 

/*/ 第6階層・闘技場 /*/

 

 

ジョンが両手を広げると、そこに鎮座していたのは全高4メートルほどの人型機動兵器。

赤と金を基調にした装甲は曲線と直線が絶妙に融合し、胸部にはナザリックの紋章が輝いていた。

騎士の鎧を思わせながらも、機械仕掛けの人形――まさに自動人形の延長線上。

 

「……これを、わたしに?」

無表情のまま、シズの瞳が淡く光る。

 

「ああ。お前の本体に合わせて調整した。スーツというより……"拡張身体"だな」

ジョンはにやりと笑った。

 

シズは無言で一歩近づき、赤金の機体に掌を触れる。

次の瞬間、機体の胸が開き、静かに彼女を受け入れるように展開した。

 

「――リンク開始」

淡々とした声が響くと、機体の眼光に赤い灯がともる。

装甲が閉じ、シズの身体が完全に機体に覆われた。

 

ブゥン――低く唸る起動音。

四メートルの巨躯がゆっくりと立ち上がる。

 

「動作チェック。……問題なし」

巨体の中から聞こえてくる声は、いつも通り淡々としていた。

だが、彼女の指が開閉し、首を左右に振るたび、重厚な装甲が音を響かせる。

 

ルプスレギナが口笛を吹いた。

「おぉ~! 赤金のシズっち、超かっこいいっす!」

 

ジョンは腕を組み、満足そうに頷いた。

「よし。これなら前線でも殴り合えるし、砲撃にも耐えられる。ま、言うなればシズ専用の"機動兵器モード"ってやつだ」

 

シズは静かに拳を握り、膝を沈める。

巨体が地を震わせ、一瞬でドームの端に跳躍した。

着地と同時に床が割れ、砂煙が舞い上がる。

 

「――悪くない」

淡白な言葉の奥に、かすかな満足の色があった。

 

ジョンが笑う。

「よし、そいつの本領はこれからだ。お前にしか扱えない拡張人形だ、シズ。――存分に暴れて来い」

 

 

/*/ ナザリック・執務室 /*/

 

 

赤と金の巨体を格納させた後、報告を受けたモモンガは玉座に顎に手を添える仕草をした。

「……ふむ。確かに、あの姿のシズは目を引くが……逆に考えれば、帝国にとっては都合が良いかもしれないな」

 

ジョンが首を傾げる。

「どういう意味だ?」

 

モモンガは指を組み合わせ、赤い光を細く灯らせた。

「我々はすでに帝国へ【鉄の騎士】型ゴーレムを輸出している。あれは人々の間でも広く知れ渡っているはずだ。つまり――あの赤金の機体も、"鉄の騎士の上位機種"と解釈されるだろう」

 

ルプスレギナがぱちぱちと瞬きをしてから、にやっと笑った。

「なるほどっすね。帝国の街中を歩いても、変な怪物扱いされないってことっすね」

 

「その通りだ」

モモンガは頷く。

「シズの活動は帝国での諜報や戦力誇示においても有効だろう。……"輸出品の延長"として誤認されるなら、むしろ外聞のカバーになる」

 

ジョンは腕を組んで唸った。

「確かに、ただの機動兵器扱いなら"ナザリックの秘匿戦力"だと気付かれにくいか。……悪くないな」

 

シズは淡々と頷いた。

「命令があれば、帝国領内での活動も可能です。――機体の露出は許容範囲、と判断」

 

モモンガは軽く骨の指を鳴らす。

「よし。シズ、次の任務では帝国へ同行せよ。必要なら"鉄の騎士"部隊との連携を演出してもよい」

 

「了解」

シズの応答はいつも通り無機質だったが、ほんの僅かに翠の瞳が輝いたように見えた。

 

 

/*/ ナザリック地下大墳墓・玉座の間 /*/

 

荘厳な玉座の間。

ルプスレギナが跪き、手にした《死の宝珠の聖杖》から微かに黒い燐光が揺らめいていた。

 

「――というわけでっす、モモンガ様! わたし、この聖杖で《黙示録の四騎士》を召喚できるようになったんすよ!」

 

彼女は胸を張って笑顔を浮かべる。

その声音に嘘はなく、死の宝珠の鈍い鼓動が彼女の言葉を裏付けていた。

 

アルベドが目を細める。

「黙示録の四騎士……? 詳細を」

 

ジョンが補足するように前に進み出る。

「死の宝珠がルプーの成長に呼応した結果だ。従来はデスナイトやスケリトルドラゴンの枠で頭打ちだったが……

 今はレベル70相当の四騎士――“征服”“戦争”“飢饉”“死”を具現化できる。

 それぞれが軍勢を単独で壊滅させ得る存在だ」

 

「レベル70相当……!」

デミウルゴスが眼鏡を押し上げる。

「アダマンタイト級冒険者複数をものともしない程の力を、常時四体まで制御可能とは……」

 

ルプスレギナは頬を赤らめ、少し照れ臭そうに笑った。

「へへ……まあ、ジョン様が聖杖をチューンしてくれたおかげっすけどね!」

 

モモンガはしばし黙考したのち、ゆっくりと頷いた。

「……ルプスレギナ。よくぞそこまで成長した。

 四騎士を従える力があれば、前線での抑止力として極めて有用だ。

 ――今後は“黙示録の猟犬”としての役割を期待しよう」

 

「も、もったいないお言葉っす!」

ルプスレギナは目を輝かせ、玉座の間に響く声で応えた。

 

宝珠が脈打つたびに、淡い死の囁きが漂う。

まるで主の評価を誇らしげに受け止めているかのようだった。

 

 

/*/ 帝国西辺境・山岳地帯 /*/

 

 

ウォートロールとオーガが群れを成して村々を襲っている――その報を受け、帝国軍は【鉄の騎士】部隊を展開していた。

黒鉄の巨兵たちが整然と並ぶ中、ひときわ異彩を放つのは赤と金の巨体――シズ搭乗のパワードスーツである。

 

「……なんだ、あれは……」

「鉄の騎士の強化型か? 聞いてねぇぞ」

兵士たちの間にざわめきが広がる。

 

そのとき、山肌から巨体の影が現れた。

棍棒を構えたオーガと、口から涎を垂らすウォートロールの群れ。

 

「前衛、構え!」

「【鉄の騎士】部隊、第一列――進撃ッ!」

 

号令とともにゴーレムたちが前進する。

鈍重な動きながら、連携は整っており十分な威圧感があった。

 

だが――

 

「目標ロック」

シズの無機質な声が響いた。

赤金の巨体が右手に持ったヘビーマシンガンが唸りを上げる。

 

――ガガガガガガッ!!

 

閃光と轟音。

次の瞬間、十数体のウォートロールが弾丸の嵐に貫かれ、血飛沫と共に倒れ伏した。

 

「なっ……!?」

「お、おい、オーガまで倒れたぞ! 一斉射で!?」

 

帝国兵たちは目を見開き、【鉄の騎士】の操者までもが硬直した。

あまりにも圧倒的、あまりにも一方的な火力。

 

「……シズ、ウォートロールは再生能力がある」

同行していたジョンが冷静に続ける。

「左肩のウェポンラックを展開。焼き尽くせ」

 

「了解。兵装解放【炎の嵐(ファイヤ・ストーム)】」

シズは無機質に返答する。

 

赤と金の機動兵器の左肩にある箱のようなものが開き、内部のレンズ状のものが露出する。そこに光が吸い込まれていき、そしてそれが炎の形となって放たれた。

 

炎の嵐は倒れ、痙攣しながら再生しつつあるウォートロールの群れを骨まで焼き尽くし、真っ白な灰にしたのだった。

 

討伐は瞬く間に終わった。

残骸と化したウォートロールの死骸を見ながら、帝国兵たちは小声で囁き合う。

 

「……あの兵装、もし帝国軍に配備されたら……」

「いや、それより……あの連射機構だ。あれは……なんだ? いや、あんな速度で撃てる武器は……」

 

やがて一人の将校がジョンのもとに歩み寄った。

「魔導国の……あの“へびーましんがん”とやら。あれは……輸出の予定は?」

 

ジョンは片眉を上げて、薄く笑う。

「……欲しいのか?」

 

将校は唾を飲み込み、率直に言った。

「便利すぎる……。対魔獣戦において、あれほどの火力があれば、どれほどの兵の命が救われるか……」

将校は身を乗り出して、必死の面持ちで繰り返した。

「……あれさえあれば、帝国軍の損害は大幅に減らせる。是非とも……!」

 

ジョンは肩をすくめて、にやりと口角を吊り上げる。

「検討はしてやる。だが――その代価が“命”で済むかどうかは、あんたら次第だ」

 

淡々と歩み寄る赤金の巨体。

シズ機体のバイザーには光が一瞬反射し、将校は思わず言葉を失った。

 

憧れと畏怖。

欲望と恐怖。

夕陽に照らされる帝国軍の瞳は、その両方に揺れていた。

 

シズは黙って立ち尽くし、ヘビーマシンガンをバックパックのウェポンラックにマウントする。

赤金の巨体は夕陽を浴びて煌めき、兵士たちの目には“憧れと畏怖”が同時に映っていた。

 

 





大変ですがやりがいのある職場です。by帝国魔法省

次回!
第88話:プルジェクトXッ!!

爆発オチなんてサイテー!
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