二度手間っていうなっ!   作:祐弘千尋

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最近まで帰省しており、更新が遅くなってしまいました。
そして大学の夏休みが終わるので、これからも更新が遅くなります。


10.乙女の火傷っていうなっ!

 今朝の全校集会で近々ノース校との友好デュエルがあると連絡があった。去年の代表はカイザーだったようだが、今年の代表はまだ決まっていないようだ。俺に関係のある話だとは思っていないので半ば聞き流していたが、一部生徒は代表の座を得るために意気込んでいるようだ。

 

 話は少しそれて、少し前に大山平という男がオベリスクブルーに復学してきた。ドローの真髄を極めるべく一年間山ごもりをしていたとのたまっていたが、新手のジョークだろうか。この世界ならあり得そうなのが怖いのだが。

 

 この大山平だが、彼は代表を目指して意気込む一部生徒ではなく自分のドローを極めたいそうだ。ドローを極めるということがどういうことかイマイチよくわからないが、彼曰く黄金の卵パンの連続ドロー記録を塗り替えたいらしい。

 

 これはアカデミアの飼う黄金の鶏が日に一個だけ産むという黄金の卵を具に使ったドローパンであり、ドロー運が強いものだけが引き当てる事ができるといわれている。

 

 そしてこの黄金パンを引く奴はかなり限られており、俺の知り合いではチートドローに定評のある十代、一年女子最強と名高い明日香さん、そして先ほど紹介した山ごもりの大山平、その三人だけだ。

 

 ちなみに連続ドロー記録を持っているのは十代で、20連続ドローを達成したことがあるらしい。半月以上的確に黄金の卵パンをドローし続けるのは至難の業、と自称ドローの権威である大山平は語る。

 

 そして何故そんなことを言っているのかというと、今俺は購買部におり、大山と共にドローパンのカートの前に立っているからだ。…正確には昼休みの開始と同時にこの男に拉致され、ドローパンをドローする事を強制されている。

 

「どうした葵! 俺に遠慮せずにドローするんだ!」

 

「いや、俺はイエロー食堂に」

 

「そうだぜ葵! お前のドローを見せてくれ!」

 

 いつの間にか現れた十代に主張を遮られてしまった。…今日はイエロー食堂に突撃してカレーを食べるつもりだったんだが、これでは諦めざるを得ない。最近はブルー制服で行っても睨まれないぐらいには馴染んできたのだが…

 

「俺のターン、ドロー」

 

 開封すると、中身はコロッケパンであった。今日も安定して好きなパンをドローすることができた。ドローパンでネタとしか思えないようなパンを引いた事がないのは、運がいいのかネタにならないと嘆くべきなのか。

 

「気迫が足りないぞ、葵! よし、見本を見せてやる!」

 

「おっ、なら俺も参加させてもらうぜ!」

 

「しょうがないわね、私も参加しようかしら」

 

 ドロー馬鹿二人の他に、いつの間にか明日香さんも加わっていた。明日香さんには一体何がしょうがないのか教えて欲しい。

 

「「「俺(私)のターン、ドロー!!」」」

 

 三人がものすごい気迫を込めてドローする。そして三人同時に開封し、かじりつく。そして間を置いて十代がガッツポーズをし、残り二人が崩れ落ちる。一体なんなんだお前ら。

 

「へへっ、黄金の卵パンゲットだぜ! 今日は俺の勝ちみたいだな!」

 

「くぅ、フォアグラパンだったか…!」

 

「マジメロンパンを引かされるなんて、やるわね十代」

 

 外れみたいなリアクションだけど、お前らの大好物だろうが。二個目以降に当てたときは大喜びするくせに、なんで最初は卵パンじゃないと全て外れみたいなリアクションなんだよ。十代について来た翔をみてみろ、大嫌いなめざしパンを引いて泣きそうじゃないか。

 

 ちなみに昼休みにこうしてドロー馬鹿達が集まるのは、最近では週に五日以上…つまり授業のある日は毎日こんな感じである。そして俺は三回に二回は強制的に参加させられている。こうしてアカデミアの昼休みは騒がしくすぎていくのであった。

 

—————

 

 放課後になってカイザーに借りていた本を返しに部屋を訪れたわけだが、中から物音がする。3年の方が先に授業が終わっていたのだろうか。足音でわかるためノックは必要ないと言われているので、そのまま部屋に入ることにする。

 

 扉を開けると、帽子を目深に被った背の小さなレッド生がカイザーのデッキを頬擦りしていた。…えっ、何コレ、どういう状況? 追っかけ? 男の? 腐った人たちが狂喜する展開なの? うわっ、関わりたくない…

 

「あっ」

 

 こちらに気付いたレッド生は一瞬固まったが、すぐに逃げ出そうとした。関わり合いになりたくないが、逃がす訳にも行かない。幸いにも不審者は部屋の隅にいたので、普通に回り込んでデュエルディスクを展開する。

 

「逃がすか! デュエルで拘束させてもらうぞ!」

 

『ご主人様も随分デュエル脳になってきましたな』

 

 捕まえるための手段として咄嗟にデュエルを選んでしまうのは、いよいよ末期な気がしてならない。一応《聖なる鎖》などのカードを実体化して使うために懐に仕舞ってあるので、いざというときはこれらで捕縛するしかない。

 

「ちっ、仕方ない」

 

 どうやらレッド生の方も応じてくれるようだ。流石にデュエルディスクにワイヤーを仕込んだりはしていないので普通に逃げようとする可能性も考えていたのだが、この世界の人たちはノリが良くて助かる。

 

「「デュエル!」」

 

「ボクのターン! ドロー! 《恋する乙女》を召喚! ターン終了!」

 

《恋する乙女》ATK/400

 

 ソリッドヴィジョンで現れたのはリボンのついたカチューシャを付けた栗色の髪の乙女だった。何やら少女漫画チックな光がそこら中を飛び交っていて、思わず目を細めてしまうぐらいに眩しい。

 それにしても《恋する乙女》ってことは、この不審者はレイだったのか。カイザーのデッキに頬擦りする光景が衝撃的すぎて頭から抜けてしまっていた。

 

「俺のターン、ドロー。《デュアル・サモナー》を召喚し、ターンを終了する。」

 

《デュアル・サモナー》ATK/1500

 

「攻撃してこないのか」

 

 レイが意外そうに驚いているが、《恋する乙女》と関連カードの効果はアニメオリカの中ではそれなりに有名なのでよく覚えている。そもそも《デュアル・サモナー》はサポートのために召喚したので、わざわざ攻撃する必要はない。

 

「ボクのターン、ドロー! カードを2枚伏せてターンを終了する」

 

「ならエンドフェイズ時、ライフを500払って手札から《デュアル・ソルジャー》を召喚させてもらう」

 

葵LP4000→3500

 

《デュアル・ソルジャー》ATK/500

 

「俺のターン、ドロー。《デュアル・ソルジャー》を再度召喚してバトル《恋する乙女》に攻撃」

 

 《デュアル・ソルジャー》がプロペラダーツを投げつけるが、《恋する乙女》の足下に着弾しただけで傷は負わせていないようだった。《デュアル・ソルジャー》がほっと胸を撫で下ろしている理由を聞かせてもらいたい。

 

《デュアル・ソルジャー》ATK/500

《恋する乙女》ATK/400

 

レイLP4000→3900

 

「そんな二度手間なことをしても、《恋する乙女》は攻撃表示でいる限り戦闘では破壊されないよ!」

 

「二度手間っていうなっ! 再度召喚された《デュアル・ソルジャー》が戦闘を行った時デッキからレベル4以下のデュアルモンスターを1体特殊召喚する!《エヴォルテクター シュバリエ》を特殊召喚!」

 

《エヴォルテクター シュバリエ》ATK/1900

 

 プロペラダーツのあった場所から赤い甲冑の騎士が現れ、距離を取るように飛び退いた。非常に重そうな格好なのに、よくもあんなに俊敏な動きができるものだ。

 

「《恋する乙女》のもう1つのモンスター効果、《恋する乙女》を攻撃したモンスターに乙女カウンターを1つ乗せる!」

 

 《恋する乙女》の手からハートマークが飛び出し、《デュアル・ソルジャー》の顔に当たる。《デュアル・ソルジャー》は何をされたか分からないようにきょろきょろとしているが、左胸にはハートマークが1つ付いていた。

 

「さらに、《デュアル・サモナー》で《恋する乙女》に攻撃!」

 

 召喚師から放たれた橙色の光線が《恋する乙女》の足下に着弾し、その衝撃で《恋する乙女》とレイにダメージを与えた。いつもなら相手を貫くのだが、今回は余波で攻撃しているのは乙女補正なのだろうか。

 

《デュアル・サモナー》ATK/1500

《恋する乙女》ATK/400

 

レイLP3900→2800

 

「《デュアル・サモナー》にも乙女カウンターが乗ったよ!」

 

 レイがそう言うや否や、キラキラとした桃色空間が展開される。先ほど攻撃した召喚師が《恋する乙女》に駆け寄り、目線を合わせるように身体をかがめる。

 

『お嬢さん、大丈夫かい?』

 

『大丈夫、だって私たちが闘うのは宿命だから…』

 

『可憐だ…!』

 

 なにやら桃色空間で茶番が行われたが、召喚師の左胸にも《デュアル・ソルジャー》と同様のハートマークが1つ付いていた。騙されるな《デュアル・サモナー》、そいつは平気で二股や三股をかける気満々だぞ。

 

「そして《エヴォルテクター シュバリエ》で《恋する乙女》を攻撃!」

 

 赤い甲冑の騎士が炎のような斬撃をとばしたが、これも《恋する乙女》の足下に着弾していた。そしてへたり込んでしまった《恋する乙女》を一瞥し、勢いよく頭を振る甲冑の騎士…例によって左胸にはハートマークが1つ付いていた。

 

《エヴォルテクター シュバリエ》ATK/1900

《恋する乙女》ATK/400

 

レイLP2800→1300

 

「ターン終了」

 

「僕のターン、ドロー! 手札から装備魔法《キューピッド・キス》を《恋する乙女》に装備!」

 

 ハートの矢を持った金髪の天使が《恋する乙女》の周りを飛び、その頬にキスをした。ステータスには変化がないが、これで乙女カウンターが効力を発揮することになる。

 

「バトルよ!《デュアル・サモナー》に攻撃! 一途な思い!」

 

 《恋する乙女》が召喚されたときのようにキラキラとしたエフェクトが周りを覆うと、足下が花畑となり《恋する乙女》が召喚師に向けて走り出す。走るといっても、ゆったりとした走り方で攻撃するには心もとない。

 

『《デュアル・サモナー》さ〜ん、私の一途な思いを受け止めて〜』

 

 召喚師が軽く避けると、《恋する乙女》はそのままこけてしまった。そのまま《恋する乙女》はうずくまってしくしくと泣き出してしまい、《デュアル・サモナー》がおろおろしている。

 

《恋する乙女》ATK/400

《デュアル・サモナー》ATK/1500

 

レイLP1300→200

 

『ひ、酷い、酷いわ!』

 

『そ、そんなつもりじゃ』

 

 召喚師が何やら弁解していると、《恋する乙女》が召喚師にむけて投げキッスを放った。ハートマークが顔に当たり、召喚師の身体から桃色のオーラが立ち上がる。

 

『私の言うこと、聞いてくれるわよね?』

 

『もちろんだとも!』

 

『じゃあ、《デュアル・ソルジャー》を攻撃して』

 

『君のためなら喜んで!』

 

 そう言って《デュアル・ソルジャー》を嬉々として攻撃してくる召喚師。《恋する乙女》に攻撃するときは足下への攻撃だったのに、今回はきっちり身体を貫いているというのはどういう了見だ。

 

《デュアル・サモナー》ATK/1500

《デュアル・ソルジャー》ATK/500

 

葵LP3500→2500

 

「乙女カウンターの乗っているモンスターを攻撃し、逆にダメージを負ったら、装備魔法《キューピッド・キス》が発動、そのモンスターをコントロールできる!」

 

 この効果があるため、初ターンは攻撃しなかったのだ。先ほどのターンも、もう一体ぐらい召喚してそのまま倒せる状況まで待つべきだったかもしれないが、やってしまった物は仕方がない。

 

「再度召喚した《デュアル・ソルジャー》は1ターンに1度戦闘によっては破壊されない。そして戦闘を行ったので効果発動! 《シャドウ・ダイバー》を特殊召喚!」

 

《シャドウ・ダイバー》ATK/1500

 

 桃色空間には似つかわしくない黒法師が現れ、俺の影からは悪魔が立ち上がる。フードを目深に被った黒法師からは表情を伺うことはできないが、悪魔のほうはニタニタと笑っている。

 

「手札から装備魔法《ハッピーマリッジ》を《恋する乙女》に装備! 《デュアル・サモナー》の分、《恋する乙女》の攻撃力がアップする!」

 

 先ほどから桃色空間が解除されないまま、ウェディングドレス姿になる《恋する乙女》。召喚師の隣で嬉しそうに微笑んでいるが、召喚師が腕を組もうと伸ばした手をはたき落としていたのは見なかったふりをすべきなのだろうか。

 

《恋する乙女》ATK/400→1900

 

「女の子は恋をすれば強くなる、不可能なんてないの! ターン終了!」

 

 レイはテンションが上がってきたようで、帽子を脱ぎ去り素顔があらわになった。お前変装してなくていいのか。デッキテーマでバレバレとはいえ、自分から証拠をさらけだしているのはまずいだろう。

 

「俺のターン、ドロー! 《シャドウ・ダイバー》を再度召喚して効果発動! 自分フィールド上の闇属性レベル4以下のモンスター1体はこのターン相手に直接攻撃することができる! 《シャドウ・ダイバー》で直接攻撃! リッピング・フロム・シャドウ!」

 

「罠発動!《ホーリージャベリン》! 相手の攻撃宣言時に、そのモンスターの攻撃力分だけライフを回復する!」

 

 俺の影に潜り込んだ悪魔がレイの影から現れ、奇襲をかけようとする。しかし途中で白い槍に阻まれ、攻撃がレイまで届くことはなかった。攻撃を阻止された悪魔は、渋々といった様子で俺の影まで戻ってきた。

 

レイLP200→1700→200

 

「《エヴォルテクター シュバリエ》で《デュアル・サモナー》を攻撃!」

 

「永続罠《ディフェンス・メイデン》! 自分フィールド上のモンスターを攻撃されたとき、攻撃対象を《恋する乙女》に変更するよ!」

 

 召喚師をかばうように騎士の前に立ちはだかる《恋する乙女》。騎士は一歩後ずさると、意を決したように剣を振り下ろし…見事に切腹を果たしていた。お前西洋騎士だろう、そういうのは《未来サムライ》にでもやらせろよ。

 

《エヴォルテクター シュバリエ》ATK/1900

《恋する乙女》ATK/1900

 

「《デュアル・ソルジャー》を守備表示に変更して、ターン終了だ」

 

《デュアル・ソルジャー》ATK/500→DEF/300

 

「僕のターン、ドロー! バトル!《恋する乙女》で《シャドウ・ダイバー》を攻撃! 一途な思い!」

 

『《シャドウ・ダイバー》さ〜ん、私の思いを受け止めて〜』

 

 そんなことを言いながら、こんどは黒法師の目の前で転んでしまった。そして投げられたブーケが黒法師にぶつかり、爆発。影の悪魔もそのまま消えてしまった。ずいぶん過激な愛情表現だ。

 

《恋する乙女》ATK/1900

《シャドウ・ダイバー》ATK/1500

 

葵LP2500→2100

 

「《デュアル・ソルジャー》は守備表示になっちゃってるし、僕はこのままターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー! 《デュアル・ソルジャー》を生け贄に、《灼熱王パイロン》を召喚! そして、《スペシャル・デュアル・サモン》を発動! 《灼熱王パイロン》を再度召喚状態にする!」

 

《灼熱王パイロン》ATK/1500

 

 炎が地面から噴出し、大男の形となっていく。そして再度召喚の魔力を注がれた炎は更にその勢いを増し、炎の色も徐々に白に近づいていく。ソリッドヴィジョンなので熱気までは感じないが、心無しか周囲の景色が揺らいでいるようにも見える。

 

「そんなことをしたって、《恋する乙女》は倒せないよ!」

 

「そっちの《恋する乙女》を倒す必要はない。《灼熱王パイロン》の効果発動! 1ターンに1度、相手に1000ポイントのダメージを与える! パイロボール!」

 

 炎の大男の前で炎が球状に収束していく。最初は拳大ほどの球体だったのが直径1mほどまで膨れあがったところで、レイ目掛けて放たれた。火球は《恋する乙女》の横を通り過ぎ、レイは炎に包まれた。

 

レイLP200→0

 

—————

 

 レイにデュエルで勝ったのは良いが、もちろんながら拘束力もなにもあったものではない。しかしレイは観念したようで、大人しく床に座っていた。そしてベランダから物音がしたのでそちらをみてみると、十代が木を伝って入ってきたようだ。お前は猿か。

 

「あれ? 葵、ここにレイ来てないか? レッドに転入してきた身体が小さくて帽子かぶってる奴なんだけど…」

 

「それならそこに座り込んでる奴だろうな。侵入していたから、とりあえずデュエルで拘束しておいた」

 

 脱ぎ捨てられたまま床に転がっていた帽子をレイにかぶせてやり、十代に確認をとる。ちなみにデュエルで拘束といったことはスルーされた。

 

「レイって女だったのか…すまねぇけど、俺に免じて放してやってくれねぇか?」

 

「俺としても捕まえたはいいが、どうしようかと思っていたんだ。十代が引き取ってくれるなら何の文句もないさ」

 

「おう、わりぃな」

 

 そういうと、十代はレイを担いでそのまま器用に木を伝って降りていった。ひとまず散らばっていたカイザーのデッキを片付け終わると、カイザーがタイミングよく部屋に戻ってきた。

 

「すまない葵、遅くなった」

 

「いえ、お気になさらず。それじゃあこれ、ありがとうございました。やはり汎用性が高いカードは可能性として見ておくのは大事ですね」

 

 カイザーから借りていた本だが、中寺錦丸著「明日を迎えにいく99%の鍵」という本である。《サイクロン》や《強欲な壷》など汎用性の高く採用されやすいカードが記されており、基礎に立ち返ってデッキや戦略を構築することの重要性について書いてあった。

 

「相手の戦略を見極めたつもりでも、そう言ったカードに足下をすくわれることがある。常に頭の隅にはおいておくべきだろう」

 

「そうですね。それではそろそろ失礼します」

 

 部屋に戻るとPDAに十代から連絡があり、レイのことで晩にレッド寮の裏に来て欲しいということだった。別に拒否する理由もないので了承し、晩まで部屋でのんびりすることにした。

 

—————

 

 そして晩になり、レッド寮裏の崖下で十代と合流した。レイは俺が来た途端に距離を取ったが、デュエルで拘束されたから警戒しているのだろうか。

 

「十代、待たせたか?」

 

「いや、俺たちも来たばっかりだぜ」

 

 十代に聞いた所、質問をしても何一つ答えることができないと言われてしまったようだ。そして十代とレイがデュエルをすることで、丸く納めることにしたらしい。

 

「いや、ちょっと待て」

 

「なんだよ?」

 

「それ、何一つ解決にならないだろ」

 

 離れた所でレイも首を振っている。十代は何故俺たちが理解していないのか不思議に思っているようだが、説明してもらえないと何故その結論になったのか理解できない。

 

「デュエルじゃ誰も嘘はつけないからな。事情を聞く必要もなくなる」

 

 訂正、説明されてもまったく理解できなかった。《オネスト》が墓地にいる状況で意気揚々と光属性モンスターに攻撃し、その攻撃宣言時に《光の招集》で回収されてダメージ計算時に《オネスト》の効果で反撃されるなど、デュエルで騙された経験が大いにある俺には理解できない。そうこうしているうちにデュエルが始まるようだ。

 

「「デュエル!」」

 

—————

 

「ガッチャ、面白いデュエルだったぜ」

 

 《バーストレディ》が恋に現を抜かす男ヒーロー共に喝を入れ、《フレイムウィングマン》に融合して《恋する乙女》を焼くことで何とか十代が勝利した。恋する乙女を焼いたという意味では俺と同じだが、真正面から攻撃した十代の方がよほど男らしいと言えるだろう。

 

「十代、僕は…」

 

「そこから先は、ずっと見ていた後ろの奴に言った方がいいだろ」

 

「亮様…」

 

 どうやらカイザーが崖上から見ていたらしい。一緒に見ていたと思われる明日香さんや翔、そして未だ名前を教えてもらっていないレッドの上級生…おそらく隼人…も一緒にこちらへ降りて来た。

 

「亮様がデュエルアカデミアに進学なさってから、ずっと会いたくてやっとここまでやってきたの…十代とのデュエルには負けたけど、亮様への思いは誰にも負けない! 乙女の一途な思いを受け止めて!」

 

「なんか、カイザーもたじたじだな。それにしてもすげー迫力、デュエルと同じだ」

 

「デュエルじゃないもん…」

 

 レイがどこかいじけたような調子で十代に抗議する。乙女心の欠片も理解していない能天気な十代の発言に反論したいが、どう言えば理解してもらえるのかが皆目見当もつかないといった所だろうか。見当がつく人間がいるとも思えないが。

 

「そうね、一途な思いは素敵よ。でも今あなたが言ったように、デュエルのヒーローと違って本物の男性はウィンクやキスじゃだめなの。デュエルも恋も、気持ちと気持ちが繋がって初めて実るんじゃないかしら」

 

 学年一の男前である明日香さんが、あたかも自分も乙女であるかのような台詞をのたまってくれた。昼休みにドローパンで一喜一憂していた人物と同じに見えないのは俺だけであろうか。

 

「レイ、お前の気持ちは嬉しいが…今の俺にはデュエルが全てなんだ」

 

「亮様…」

 

 カイザーがポケットから髪飾りを取り出し、レイに渡した。そういえば部屋から追い出す時帽子はかぶせたが、その他に何があったとか見てなかったな。それでカイザーはここにきていたのか。

 

「レイ、故郷に帰るんだ」

 

「そこまですることないだろ! 女の子だって、オベリスクブルーの女子寮に入れてもらえば…」

 

「レイはここには居られない」

 

 十代が強く反論しようとしたが、カイザーが有無を言わせぬようにそれを遮った。アカデミアは良くも悪くも実力主義なので性別を偽る程度なら問題はないかもしれないが、もう一つの問題は実力でもどうしようもない問題なのだ。

 

「レイはまだ小学5年だ」

 

「はぁ?」

 

「「えぇー!?」」

 

 レッドの三人組が衝撃のあまり叫び声をあげた。レイはまだ小学生であり、そもそも年齢が足りていないのだ。飛び級という意味では中等部から高等部への編入措置はあるらしいが、流石に小学生を入学させるということはない。

 

「なんなんだよー!? 俺ってば、小学生に苦戦したのかよー!?」

 

「ごめんね。ガッチャ、楽しいデュエルだったよ!」

 

 あ、十代が倒れた。

 

「あっはっはっは、最高だ! これだからデュエルは楽しいんだよ!」

 

 十代が楽しそうに笑い転げ、つられて全員が笑みを浮かべる。十代は場の空気を明るくすることにかけては天才的だと思う。そして明日の船でレイを本土まで返すということで、この夜は解散となった。

 

—————

 

 そして翌朝、レイを見送るために港に集まっていた。レイの両親も迎えにきており、レイと一緒に船に乗っている。

 

「来年小学校卒業したら、またテスト受けて入学するからねー!」

 

 レイがこちらに向かって元気よく叫んでいる。今でさえ高等部の試験に合格できるのだから、中等部の試験を合格することはまず問題ないはずだ。むしろよっぽどヘマをしなければ、不合格になることはありえないとさえ言える。

 

「だってよ」

 

「そのときは、俺はもういないけどな」

 

 カイザーがあっさりと事実を口にする。もちろんこの程度の声量では船まで届かないだろうし、レイもそのことは十分に分かっているだろう。だからこそ本来入学できる歳になる前にアカデミアに来たことは想像に難くない。

 

「待っててねー! 十代様ー!」

 

「え、えぇ!?」

 

 レイに突然様付けされた十代が一人驚いているが、他の面々はさほど驚く訳でもなくむしろ当然という顔をしていた。今朝集まってみたら、もう十代を意識してたもんな。邪魔するのも悪いし、帰るとするか。

 

「な、なんで俺なんだよ!?」

 

「きっと、あなたのデュエルに惚れたんでしょ」

 

 普段ジュンコやモモエが恋愛話をしてもまったく興味を示さないのに、今回の明日香さんはノリノリである。おマセな小学生であるレイと、フィアンセの意味も知らないほどの純粋培養な十代…確かに見ていて笑えてくる。

 

「後はまかせる」

 

「じゃあ兄貴、先に帰るねー」

 

「ゆっくり見送ってあげるんだなー」

 

「船が見えなくなるまで、見送ってあげなきゃねー」

 

「望遠鏡もあるし、肉眼がだめでもこれならしばらくは見えるだろー」

 

 全員投げやりに声をかけて去っていく。俺も《古代の遠眼鏡》を十代に渡して帰ることにした。実験したときはかなり離れていても実体化していたみたいだし、デュエルディスクから外さなければ大丈夫だろ。

 

「待っててねー! きっとよー! 十代様ー!」

 

「えぇ、あれぇ? 嘘ぉ…」

 

 レイのやたら元気な声と十代の力ない声を聞きながら、ブルー寮への道を歩いて帰った。余談だが十代は律儀に《古代の遠眼鏡》で見えなくなるまで見送ったらしく、部屋に《古代の遠眼鏡》を返しにきたのは昼過ぎだった。

 




もちろんレイとフラグなんて立ちません。
そもそもヒロインなんて存在するのかどうか。

まぁ、遊戯王にはよくある話ですね!

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