二度手間っていうなっ!   作:祐弘千尋

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12.オカマとおっさんっていうなっ!

 日に日に生徒数が少なくなる錬金術の授業は、今日も爆破オチだった。そしてこの爆発音でも全く起きなかった十代がチャイムの音でようやく目を覚ました。こいつの体内時計の正確さは驚くべきものがある。

 

「よし、昼飯だ!」

 

 訂正、腹時計の正確さだったようだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってほしいんだにゃ、このプリント、持っていって欲しいんだにゃ」

 

「え〜、宿題か?」

 

 十代が不服そうな声を上げる。今までも錬金術の授業でたまに課題がでることがあったが、大徳寺教諭の話さえ聞いていれば難しくもないものばかりだ。つまり、話を聞かずに寝ていた十代には少々辛い。

 

「違うんだにゃ。今度の日曜日に、島に眠る遺跡を尋ねるピクニックを企画しているのにゃ。希望者はこぞって、参加して欲しいんだにゃ」

 

 そういって大徳寺教諭がプリントを配布する。定員は特に設けられていないようで、事前に用意しておくものも弁当ぐらいである。一応課外活動扱いらしいので、参加すればボーナスで出席点が付くとも書いてあった。

 

 単位が危ないわけでもなく、成績優秀者を狙っているわけでもないので参加する必要はあまり無いが、単純に面白そうなので行ってみることにするか。大徳寺教諭はおおらかなので、記念撮影ぐらいなら許されるだろう。

 

 事前にちょっとした下調べもしておきたいが、この島に関することはほとんどネットに上がってないんだよな…なにせ島の名前すらわからない。アニメのときから気になっていたのだが、学校案内にも載ってなかったしなぁ。

 

 ひとまず図書室にでも行ってみるか。…あれ、図書室ってどこだっけ。購買へ歩く道すがら、適当に誰か捕まえて聞いてみるか。

 

—————

 

 結局だれも捕まえることが出来ないまま、購買に到着した。普段なら食堂に行くのだが、ドロー力を鍛えるならドローパンだと大山に言われ、最低でも一日一引を心がけるようにしているのだ。山ごもりも勧められたが、俺は流石にそんなことはできない。

 

 カゴの中身をかき分けてドローしようとした時、反対側にいた人と同じパンをドローとしたようで引っ張り合いになってしまった。

 

「貴様! その手を離せ! それはこの俺がドローしようとしていたんだぞ!」

 

 反対側を見てみると、ノース校の黒い制服を着た生徒がこちらに向かって怒鳴り散らしてきていた。ノース校との対抗試合も終わっているので、今本校でその制服を来ているのはただ一人、万丈目準その人である。

 

「誰かと思えば、万丈目じゃないか」

 

「さん、だ! そう言う貴様は代田か」

 

 せいぜい一回か二回程度しか会ったことが無いのに、どうやら覚えられていたらしい。大企業の御曹司ともなると、嫌でも人の顔を覚えなければならないからだろうか。

 

 しかしサンダーを強調するということは、よっぽどあだ名が気に入っているらしい。アニメでも散々サンダーと呼ばれているのは、あの対抗試合でのサンダーコールだけではなくこうやって自分から強調しているからなんだろうなぁ。

 

「覚えてくれていて光栄だ。ところでサンダー、図書室がどこにあるか知らないか?」

 

「当然だ。しかし図書室の場所か…教えてやらんでもないが、それなりの対価を払ってもらおうか」

 

 嫌らしくニヤリと笑う万丈目…サンダー。対価も何も、図書室の道のりぐらいなら教えてくれれば良いと思うのだが、これは遠回しに手に掴んだドローパンを要求されているのだろうか。未だに放そうとしないし。

 

『兄貴〜、そんな意地悪しないで教えてあげればいいじゃな〜い』

 

 謎の黄色い物体が空中に突如現れた。ナメクジのような目にタラコ唇、赤いパンツだけを履いた半裸姿というコメントし辛い姿だ。端的に言うなら不細工としかいいようがない。きっとこいつは《おジャマ・イエロー》だろう。オカマ口調なのがイラッとくる。

 

「えぇい! 貴様は余計なことを言うんじゃない!」

 

 羽虫を退治するように両手で《おジャマ・イエロー》をたたき落とそうとするサンダーだが、ひょいひょいと空中を動き回る《おジャマ・イエロー》にはなかなか当たらない。そうとは言っても、10回目にはたたき落とされてしまったのだが。

 

「ゴホン、それで、貴様はこの俺に何を差し出すんだ?」

 

 サンダーの動きはカードの精霊が見えない人から見たら奇行にしか見えなかったので、それを誤摩化すように大きく咳をしていたが、近くにいた生徒達から胡乱げな目でみられていた。

 

 ちらちらと手元のドローパンに視線がいっているので、どうしてもこのドローパンを手に入れたいのだろう。普段なら新たなドローパンをドローすればいいと思って譲るのだろうが、あいにくとドロー修行のために引いたならば結果を確認せずに譲るなんて考えられない。それならば解決方法は一つだ。

 

「今サンダーに差し出せるものはないな。代わりといってはなんだが、デュエルをしないか? 俺が勝ったら図書室の場所を教えてもらおう」

 

「ほう、この俺にデュエルを挑むとは、身の程知らずめ。いいだろう、ならばお前が負けたらそのドローパンを差し出せ!」

 

「あぁ、このドローパンは勝ってから存分に味わうことにしよう」

 

 ドローパンのカゴから離れ、レジなどの邪魔にならないスペースでデュエルディスクを構える。俺とサンダーがデュエルを始めるということで、購買にいた他の客達の何人かは見物するようだ。

 

『しっかしお互い賭けるものが…なんといいますか、ぱっとしませんな』

 

「「やかましい」」

 

—————

 

「「デュエル!」」

 

「俺のターン、ドロー! 俺は《ドラゴンフライ》を守備表示で召喚してターン終了」

 

《ドラゴンフライ》DEF/900

 

 1mは優に超えているであろうドラゴンフライ…すなわちトンボが身体を丸めて防御姿勢を取っている。トンボなら回避行動に専念したほうが撃墜を逃れやすそうなものだが、防御姿勢をとるのはプレイヤーの盾となるためだろうか。

 

「俺のターン、ドロー。永続魔法《金剛真力》発動! これにより相手フィールド上にのみモンスターが存在する時、俺は1ターンに1度、手札のレベル4以下デュアルモンスターを特殊召喚することができる!」

 

 初ターンから《金剛真力》を引けたのは幸先がいい。なにせ1ターン目に展開を補助できるのは《金剛真力》と《二重召喚》ぐらいしかないからだ。《二重召喚》は使い捨てだし、他のカードは墓地に依存するカードだったり、効果の発動までタイムラグがあったりするので、どうしても初動が遅くなる。

 …《金剛真力》も相手フィールド上にモンスターがいない先攻1ターン目では効果を発揮しないため、《おろかな埋葬》を採用することを検討したほうがいいかもしれない。

 

「俺は《金剛真力》の効果により、《シャドウ・ダイバー》を特殊召喚し、さらに再度召喚する! そして《シャドウ・ダイバー》の効果発動! 俺の闇属性・レベル4以下のモンスター1体はこのターン相手プレイヤーに直接攻撃することができる!」

 

《シャドウ・ダイバー》ATK/1500

 

 フードを被った黒坊師が静かに佇む中、俺の影から白く輝いた悪魔が咆哮をあげるように力強く立ち上がった。…立ち上がっただけで、実際に咆哮をあげたわけではない。そもそもこいつに発声器官なんてあるのだろうか。そんなことを考えていると、影の悪魔はこちらに振り向いて口角をあげた。

 …細かいことは考えないほうがいいのかもしれない。

 

「ふん、わざわざ二度手間をしてまで《ドラゴンフライ》の効果を発動させないつもりか」

 

「狙いは間違ってないが、二度手間っていうなっ!」

 

 《ドラゴンフライ》は戦闘破壊された時にデッキからモンスターを特殊召喚する効果をもつ、いわゆるリクルーターである。うかつに戦闘破壊した場合、厄介なモンスターを場に残されて次のターンに繋げられてしまうだろう。

 

 もし手札に再度召喚状態にするカードと攻撃力1500以上の下級モンスターがあれば、まずは《ドラゴンフライ》を撃破し、特殊召喚されたモンスターがリクルーターなら無視して直接攻撃、場に残さない方が良さそうなら戦闘破壊という風に状況に応じて攻撃方法を変えることが出来たのだが…

 

「いくぞサンダー! 《シャドウ・ダイバー》で直接攻撃! リッピング・フロム・シャドウ!」

 

 悪魔は俺の影に潜り込んだかと思うと、サンダーの影から立ち上がった。照明の位置により、影はサンダーの真後ろにあるためサンダーは気付いていないようだ。

 

「消えただと? えぇい、どこにいった!」

 

 サンダーが振り向くと影に潜り、サンダーが前を向いた途端にまた立ち上がる。影が白く輝いているので、サンダーが下を向けばすぐに見つかると思うのだが、辺りを見渡すサンダーはいっこうに影の様子に気付かない。

 

 そして悪魔は背後からサンダーの目を塞いだ。

 

「な、なんだ!? 急に視界が、えぇい、放せ!」

 

 サンダーが背後の悪魔目掛けて殴り掛かろうとするが、悪魔はひょいひょいとサンダーの攻撃を避けている。…あいつはソリッドヴィジョン相手に何をやっているんだ。ついでにソリッドヴィジョンも何をしている。

 

 悪魔はひとしきりはしゃいで満足したのか、身体をのけぞらせてサンダーから距離を取った。…もちろん影は繋がっているので上半身しか離れていない…そして腕を振り下ろし、鋭い爪でサンダーを切り裂いた。

 

《シャドウ・ダイバー》ATK/1500

 

サンダーLP4000→2500

 

「カードを1枚伏せ、ターン終了」

 

「俺のターン、ドロー! 貴様の小賢しい策は無意味だったことを教えてやろう! 俺は《ドラゴンフライ》を生け贄に捧げ、《アームド・ドラゴンLV5》を召喚!」

 

《アームド・ドラゴンLV5》ATK/2400

 

 周囲が伝説のモンスターであるレベルモンスターの出現にざわめいている。サンダーは対抗試合でもこのカードを使用し、その実力をはっきりと見せつけた。

 

 サンダーがアカデミアを去ったときは、レッドに負けた恥知らずだの、イエローに居場所を奪われた雑魚だの、散々に言われていた。しかし伝説のカードを使いこなす実力や、わずか3ヶ月もしないうちにノース校をまとめあげるカリスマ、それらは無視できるような物ではない。

 

「《アームド・ドラゴンLV5》で《シャドウ・ダイバー》を攻撃! アームド・バスター!」

 

 出席日数の問題でレッド寮に移籍することになったとはいえ、再びこのアカデミア本校に舞い戻ったサンダー。《アームド・ドラゴンLV5》は、その力を強調するかのように豪快に腕をまわして拳を繰り出した。フードの黒坊師は影の悪魔を盾にしたが、トゲ付きの拳に悪魔もろとも身体を貫かれてしまった。

 

《アームド・ドラゴンLV5》ATK/2400

《シャドウ・ダイバー》ATK/1500

 

葵LP4000→3100

 

「リバースカード、オープン! 《二重の落とし穴》! 再度召喚されたデュアルモンスターが戦闘により破壊された時、相手フィールド上のモンスターを全て破壊する!」

 

「何だと!?」

 

 恐らく本体であろう黒坊師が砕け散った後、身体を貫かれた影の悪魔がドロリと溶け出したと思うと地面が大きく揺れる。溶け出した悪魔だった液体に沿うように床が割れ、《アームド・ドラゴンLV5》はその裂け目に飲み込まれてしまった。

 

「くそっ、俺はカードを1枚伏せてターン終了だ」

 

「俺のターン、ドロー。」

 

 相手の場が伏せ一枚だけなので攻勢に出たいのだが、手札の下級モンスターは火力が低く、《金剛真力》は発動条件を満たしていない。…先ほどの《二重の落とし穴》は少し早まったかもしれない。

 

「《マジック・スライム》を攻撃表示で召喚! そのままサンダーに直接攻撃!」

 

 どこか金属のような光沢を持った青いゲルが現れ、きょろきょろと辺りを見渡すように流動する。のそのそとサンダーまで近づくと、大きく身体を振るわせてサンダーの左脚…正確に言うならばその脛…にぶつかった。

 《マジック・スライム》は満足したと言わんばかりにのんびりとこちらに戻ってくるが、サンダーはうめき声をあげて脛を押さえている。…あぁ、うん、そこはぶつけたら痛いよな。しかも結構鈍い音がしてたもんな。でも地味だからリアクションを取り辛いんだよな。

 

《マジック・スライム》ATK/700

 

サンダーLP2500→1800

 

「カードを1枚伏せてターン終了…サンダー、大丈夫か?」

 

「こ、これしきのこと、どうということはない。俺のターンだ、ドロー」

 

 そうはいうが、どうみても左脚が震えている。…これはきっと指摘しないのが優しさというものだろう。

 

「俺は、《アームド・ドラゴンLV3》を召喚してバトルだ!《マジック・スライム》を攻撃! アームド・スマッシュ!」

 

《アームド・ドラゴンLV3》ATK/1200

《マジック・スライム》ATK/700

 

葵LP3100→2600

 

「さらに、《死者転生》を発動! 手札を1枚捨て、墓地の《アームド・ドラゴンLV5》を手札に加える」

 

 わざわざ回収するということは、1枚ずつしか投入していないのだろうか。ノース校に伝わる伝説のカードというだけあって、そもそも複数枚存在するのかどうかさえ怪しいということを考えると当然かもしれない。

 

「さらにカードを1枚伏せてターンエンド!」

 

「俺のターン、ドロー」

 

 レベルモンスターと呼ばれるモンスター群は一定条件を満たすとレベルが上昇し、ステータスと効果が強化される。ならばその条件を満たす前に退場させればいい。

 

「《デュアル・サモナー》を攻撃表示で召喚!」

 

《デュアル・サモナー》ATK/1500

 

 汎用リクルーターに対応できる攻撃力、1ターンに1度の戦闘破壊耐性、さらにはデュアルの展開補助が可能と、一体で何粒も美味しいモンスターの《デュアル・サモナー》さんである。

 猿に殴られたり、コスプレ呼ばわりされたり、鳥に蹴られたり、馬に蹴られたり、ウォンバットに突撃されたり、乙女に籠絡されたのに手をつなぐことを拒否されたり、色々と酷い目に遭っている彼だがこのデッキには無くてはならない人材である。

 

「《デュアル・サモナー》で《アームド・ドラゴンLV3》を攻撃! カイザースペル!」

 

 召喚師の指先から発せられた橙色の光線が《アームド・ドラゴンLV3》に殺到する。この攻撃が決まってしまえば、前のターンにサンダーが仕込んだ攻撃の準備が無駄に終わり、防御に回ることになるだろう。そうなればそのまま押さえ込んでしまうのは難しいことではない。

 

「罠カード発動!《攻撃の無力化》! これで貴様のモンスターの攻撃は《アームド・ドラゴンLV3》に届かん!」

 

 流石というべきだろうか。橙色の光線は《アームド・ドラゴンLV3》に届く前に、突如現れた渦に飲み込まれてしまった。…次のターンは《デュアル・サモナー》の戦闘破壊耐性に期待しよう。

 

「俺はこのままターン終了」

 

「そして恐怖の俺のターンが始まる! カード、ドロー!」

 

 このターンに反撃が始まることが確実という点では、確かに恐怖だ。下手をしたらこのターンでライフを削りきられかねない。

 

「俺のスタンバイフェイズ、《アームド・ドラゴンLV3》は《アームド・ドラゴンLV5》へとレベルアップする!」

 

《アームド・ドラゴンLV5》ATK/2400

 

 《アームド・ドラゴンLV5》への進化条件は、《アームド・ドラゴンLV3》がスタンバイフェイズにフィールド上に存在すること。初ターンにリクルーターを召喚したのは《アームド・ドラゴンLV3》をむざむざ破壊されないためだろう。

 

「そして《アームド・ドラゴンLV5》の恐ろしい効果を発動! 手札のモンスターカードを1枚墓地に送ることで、その攻撃力以下の相手フィールド上のモンスター1体を破壊する! 俺が墓地に送ったのは《闇より出でし絶望》!よって攻撃力2800以下の《デュアル・サモナー》を破壊だ! デストロイド・パイル!」

 

 《アームド・ドラゴンLV5》から発射されたそれは、トゲというにはあまりにも太く、杭と表現する方が正しいだろう。いかに《デュアル・サモナー》に戦闘破壊耐性があるといっても、効果破壊には無防備である。

 《デュアル・サモナー》は杭に胴体をあっさりと貫かれ、ポリゴンと化して砕け散った。

 

「まだだぁ!《アームド・ドラゴンLV5》で貴様に直接攻撃! アームド・バスター!」

 

《アームド・ドラゴンLV5》ATK/2400

 

葵LP2600→200

 

「ふん、首の皮一枚繋がったか。ターンエンド!」

 

 危ないところだった…サンダーがモンスターを召喚していたらライフを削りきられてしまうところだった。

 

「俺のターン、ドロー…モンスターをセットして、ターン終了だ」

 

「ふん、《アームド・ドラゴンLV5》の圧倒的パワーの前に手も足もでんか。俺のターン! ドロー!」

 

 ここでモンスターを引かれてしまうと、もうどうしようもない。

 

「ちっ、《アームド・ドラゴンLV5》でセットモンスターに攻撃!」

 

《アームド・ドラゴンLV5》ATK/2400

《フェデライザー》DEF/1100

 

「《フェデライザー》の効果発動! このカードが戦闘により破壊され墓地に送られた時、デッキからデュアルモンスター1体を墓地に送り、そしてカードを1枚ドローする!」

 

「だが、このエンドフェイズ、《アームド・ドラゴンLV5》はモンスターを戦闘破壊したことで《アームド・ドラゴンLV7》にレベルアップする!」

 

《アームド・ドラゴンLV7》ATK/2800

 

 《アームド・ドラゴンLV5》から光がほとばしり、その身体をみるみる変化させていく。身体の各所から生えていたトゲは所々鋭い刃になり、肉体も格段に大きくなり、甲殻に覆われた部分は相対的に少なくなったが力強さが強調される姿になった。

 

「俺のターン…ドロー!」

 

「《金剛真力》の効果発動! この効果で《インフィニティ・ダーク》を特殊召喚!」

 

《インフィニティ・ダーク》ATK/1500

 

「そして墓地に通常モンスターが2体以上存在するとき、《樹上の射手》は手札から特殊召喚できる! さらに《樹上の射手》を生け贄に、《魔族召喚師》を召喚!」

 

《魔族召喚師》ATK/2400

 

 《樹上の射手》は登場する度に生け贄になってもらっている気がするが、上級モンスターを素早く召喚するための必要な犠牲と割り切ることにする。召喚からすぐ生け贄になった《樹上の射手》の目が恨めしげだったのは気のせいだろう。きっとそう違いない。

 

「速攻魔法《フォース・リリース》発動! 自分フィールド上のデュアルモンスター全てを再度召喚状態にする!」

 

 光が降り注ぎ、《インフィニティ・ダーク》と《魔族召喚師》に力を与える。モンスター達は、紋様を光らせたり、手に持つ髑髏の杖を青く輝かせたり、それぞれに力のみなぎる様子を表現してくれた。

 

「再度召喚された《魔族召喚師》の効果発動! 墓地の悪魔族モンスター、《シャドウ・ダイバー》を特殊召喚!」

 

《シャドウ・ダイバー》ATK/1500

 

「ふん、雑魚をどれだけ並べた所で、《アームド・ドラゴンLV7》の効果の前では無力!」

 

 《アームド・ドラゴンLV7》の効果は《アームド・ドラゴンLV5》の効果を強力にしたものである。除去する対象が相手フィールド上の1体から、相手フィールド上に存在する表側表示のモンスター全てに広がっている。

 攻撃力も、上級デュアルモンスターの最高値である2400を上回る2800という大台であり、真っ向から戦えばまず一方的に負けるのが目に見えている。しかし、《アームド・ドラゴンLV5》の時には無かった弱点がある。

 

「バトル!《インフィニティ・ダーク》で《アームド・ドラゴンLV7》に攻撃!」

 

「ふん、ヤケになったか。迎撃しろ! アームド・ヴァニッシャー!」

 

「それはどうかな! 再度召喚された《インフィニティ・ダーク》の効果発動! このカードの攻撃宣言時、相手フィールド上のモンスター1体の表示形式を変更することができる! この効果により、《アームド・ドラゴンLV7》を守備表示に変更する!」

 

《アームド・ドラゴンLV7》ATK/2800→DEF/1000

 

 《アームド・ドラゴンLV7》は攻撃力が上昇した代わりに、防御が脆くなっているのだ。《アームド・ドラゴンLV5》の守備力は1700であり、もし《インフィニティ・ダーク》が効果を使っても反射ダメージでライフがなくなってしまうところだった。

 

「なんだと!?」

 

 漆黒のヒーローがフィールド上を縦横無尽に駆け巡る。《アームド・ドラゴンLV7》は焦れた様子で攻撃を続けるが、避け続ける漆黒のヒーロー。そして《アームド・ドラゴンLV7》がバランスを崩した瞬間、ヒーローはその腕を駆け上がり、肩の後ろの2本の角の真ん中のトサカの下の鱗の右…ではなく、背中の甲殻に覆われていない部分目掛けて飛び蹴りを放った。

 

 やはり防御が薄い部分だったのだろう。《アームド・ドラゴンLV7》は叫び声をあげてポリゴン化し、砕け散った。毎度のことだが、《インフィニティ・ダーク》はいつ効果を発揮しているのだろう。そして紋様の発光は何か意味があるのだろうか。

 

《インフィニティ・ダーク》ATK/1500

《アームド・ドラゴンLV7》DEF/1000

 

「そして、《魔族召喚師》でサンダーに直接攻撃!」

 

「そうはさせん! 罠発動!《リビングデッドの呼び声》! 俺は墓地から《アームド・ドラゴンLV5》を特殊召喚する! 貴様の攻撃は俺には届かん!」

 

 ここで《アームド・ドラゴンLV5》に帰還されると、《魔族召喚師》と相打ちにしても《シャドウ・ダイバー》も一緒に破壊されてしまう。そうでなくとも、サンダーのライフを削りきるには《シャドウ・ダイバー》では攻撃力が足りない。

 

「ならば《リビングデッドの呼び声》にチェーンして、手札から速攻魔法《デュアルスパーク》を発動! 《シャドウ・ダイバー》を生け贄に、《リビングデッドの呼び声》を破壊する。そしてカードを1枚ドロー」

 

 流石デュアルサポート最高峰の万能除去カード。【デュアル】以外のデッキでもタッチ要素で入れられる有能さは伊達じゃない。実質1:1交換でしっかりと仕事をこなすその姿には、惚れ惚れとしてしまうな。

 

「何ィ!?」

 

「バトル続行! 《魔族召喚師》の直接攻撃! スペル・オブ・ハデス!」

 

「のわぁぁぁ!」

 

 サンダーは青い光に包まれ、絶叫とともに吹き飛ばされた。見た感じだと、明らかに脚力だけで跳ぶことのできる距離ではない。相変わらず体感システムは尋常じゃないな。

 

《魔族召喚師》ATK/2400

 

サンダーLP1800→0

 

—————

 

「くそっ、この俺が負けた…っ! 俺のドローパンが…っ!」

 

 サンダーが悔しそうに膝を折り、床を殴りつけている。後半の台詞がなければもっと締まったんだけどなぁ…そういえばドローパンを巡ってデュエルしてたんだよなぁ。あとついでに図書室の場所。

 

「まぁいい、今回は負けを認めてやろう。それで、図書室の場所だったか」

 

「あぁ、どうにも場所が思い出せなくてな」

 

 一応オリエンテーションや学校案内のパンフレットで見た記憶自体はあるのだが、何階にあるのかすらろくに覚えていない。むしろこの学校の設備で覚えている場所の方が少ない。規則ならほとんど覚えているのだが…

 

「俺の分のドローパンをすぐに買うから待っていろ」

 

 場所だけを教えてくれればよかったのだが、どうやらサンダー自ら先導してくれるらしい。サンダーがドローパンを新たにドローするのを待ち、サンダーと連れ立って図書室まで向かった。

 

 道中、シハーブと《おジャマ・イエロー》の心暖まる交流があったのだが、紫色のおっさん精霊と黄色いオカマ精霊の交流は見るに耐えないものだったので、サンダーと一緒に出来る限りそちらを見ないようにしていた。

 

 ちなみにドローしたパンは、俺とサンダーの両方ともショコラパンだった。デュエルするまでもなかったか、などとサンダーは満足そうに呟いていた。カリスマ溢れるサンダーだが、案外単純な奴なのかもしれない。

 




皆大好き万丈目サンダーです。
強いはずなのにどこか残念、憎もうにも憎めないそんなおいしいキャラだと思います。

それはともかく、ブラックサンダーっていうチョコ菓子おいしいですよね。
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