二度手間っていうなっ!   作:祐弘千尋

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13.ある日森の中っていうなっ!

 

 さて、今日は待ちに待った日曜日。遺跡については場所ぐらいしか分からなかったが、カメラの充電も終わっているし、食堂で販売されている弁当も購入してある。天気予報によると今日は一日晴れ、絶好のピクニ…課外授業日和である。

 

 そして集合場所に着くのが早すぎた俺は今、森の奥にある滝に打たれている。打たれている滝は、滝行初心者向けの勢いが弱い場所らしい。それでもまだ春というには寒いこの季節、滝に打たれるのは中々辛い物がある。

 

 …どうしてこうなった。

 

「葵、集中が乱れているぞ! 自然と一体になるんだ!」

 

 隣では大山が事故防止のためにこちらを見ている。この小さな滝ではそうそう起こりえないだろうが、万が一の可能性があるためか、その表情は真剣そのものである。

 

「よし、そろそろあがろう。長くやれば良いというものではないからな」

 

 滝から出て、タオルで身体を拭いて服を着る。そして冷えた身体を温めるため、焚き火にあたることにした。ライターもないのでてっきり《火の粉》の出番かと思っていたが、俺が着替えている間に大山が火をおこしていた。

 

「葵よ。滝に打たれると思考が澄み切って、新たな扉が見えてくると思わないか」

 

「残念ながら光り射す道が見えるまでには至って無いな」

 

「そうか…だが葵はまだ初めての滝修行だ。きっとその内大自然と一体になって、ドローの真髄を見極めることも出来るだろう」

 

 そう、これはドロー改善のための修行なのである。願掛けだとかそんな生易しいものではなく、本気で修行すれば効果があるあたり、この世界はどうかしていると思わなくもない。

 

「ところで大山、今何時だ?」

 

 今いる場所は大山が山ごもりをしていた頃の拠点であり、それなりに校舎から離れた場所にある。気付いたら大山に担がれながら移動していたので、道のりどころか方角すら分からないが、間に合うならば錬金術の課外授業に参加したい。

 

「もう昼過ぎだと思うが、どうしたんだ? 飯が無いなら分けてやるが」

 

 錬金術の課外授業の集合時間はとっくに過ぎているようだった。遺跡観光は楽しみにしていたのだが、仕方ない。今日は大山に付き合ってもらって一日ドロー修行に励むとしよう。

 

「いや、一応昼飯を買ってあるからな。でも美味そうだから少し交換してくれ」

 

「いいぞ。もうすぐ焼けるはずだ」

 

 大山の昼飯は、今焚き火で塩焼きにされている川魚である。魚については詳しくないので何の魚かは分からないが、とりあえず塩焼きならまずくはならないだろう。ちなみに捕獲方法を聞いたところ、川の中からドロー…つまるところ手掴みとのことだった。

 

「食べ終わってからは何をするんだ? ここに辿り着いて滝に打たれるだけで午前が終わってしまったんだが」

 

 俺が知っているドロー修行は、前に教えられたドローパン一日一引ぐらいだ。やはり感謝の一万ドローなんかをするのだろうか。気になる答えは、ドロー修行のために山ごもりする事一年、今やドローのスペシャリストである大山平に答えてもらおう。

 

「そうだな…ところで葵、修行といえば熊との勝負だよな」

 

「一体何の修行だよ」

 

 俺たちはデュエリストであって、格闘家ではないはずだ。少なくとも熊と勝負をした結果、ドローがよくなるということはないとは思うが、大山が言うからにはもしかしたらそんなこともあるのかもしれない。

 

「そしてちょうどいいところに、あそこに熊がいる」

 

「いくらなんでもそんなバカな話に釣られ…クマー!」

 

 指を指された方を見ると、そこにいたのはヘッドギアをかぶり、腕にデュエルディスクを装着した二頭の熊だった。肩にはモモエとジュンコがそれぞれ担がれている。

 

「あら、代田さん。ごきげんよう」

 

「あぁ…そちらのお連れさん方は随分野性味溢れた見た目だが、二人の恋人か?」

 

 自分でいっておいてなんだが、野性味も何もヘッドギアとデュエルディスク以外は野生の熊そのものである。しかし担がれたまま挨拶してくるなんて、こいつ以外と胆が据わってるよな…

 

「そんなわけないでしょ! モモエも呑気に挨拶してる場合!?」

 

「すまん。あまりにも美女と野獣そのものの構図だったもので驚いてしまったんだ」

 

「葵、確かにあの熊達はどちらも美女だが、女同士で美女と野獣は無理があるだろう。そもそも浜口くんは野獣というにはおっとりしているし、枕田くんは…」

 

「私たちが野獣側なの!? しかもなんで私のほうで言葉に詰まるのよ!」

 

 残念ながら熊の美醜なんて俺には分からない。しかしよくみてみると、艶やかで手入れが行き届いた毛、健康的に引き締まった身体、そしてつぶらな瞳。こうして特徴を並べると、大山が美女というのも納得できる。

 

「そんなことはいいとして、これはどういう状況なんだ」

 

「そ、そんなことですってぇ!」

 

 ジュンコが憤慨していると、熊達がやってきた方向から突如として黒服達が現れた。黒服達は俺たちを無視して、銃を構えて熊を取り囲む。そして黒服達の後ろからゆっくりとした歩調で背の低い壮年の男性が歩いてきた。

 

「ふん、あれらは私たちSAL研究所が飼育していた実験動物たちだ」

 

「前にも似たような事があったとおもったけど、またアンタ達のせいだったのね!」

 

 どうやらジュンコは前にもさらわれたりしていたらしい。そういえばアニメでもSAL研究所は登場しており、なんだかんだで撤退していたと思ったのだが、この時期にはまだいたようだ。

 

「我々SAL研究所は、デュエルの精霊について調査するため、動物が人間よりも精霊を感じる能力に長けていることを生かし、動物に特殊な訓練と補助デバイスを用いることで、ついにデュエルアニマルの調教に成功したのだ!」

 

 黒服達から博士と呼ばれた男が興奮気味に己の成果を語っているが、技術の無駄遣いにしか聞こえない。目的がデュエルの精霊の調査ということだが、精霊が見える人物に協力を要請したほうが…とも思ったが、そもそも精霊を見る事の出来る人間自体めったにいないし、それを探すよりも動物を使った方が確実か。

 

「それがSuper Animal Learning (スーパー アニマル ラーニング)、SAL (サル)だったのだが、そこのガキが知っているように前の被検体に逃げられてしまったのだ。そこで新しい被検体を確保し、SALのノウハウを生かして新たに訓練されたこの二頭こそが、 Knowledge More Animals (ノウレッジ モア アニマルズ)、KMA (クマ)だ!」

 

 博士が熊、もといKMAを指差しながら高笑いをあげる。しかしやっていることは動物実験いうよりは、動物を訓練しているだけにしか聞こえない。言ってしまえば芸を仕込んだという程度だ。…その芸がデュエルなのが実にこの世界らしいと思う。

 

 …そんなことよりも、デュエルの精霊を研究するという目的はどこへ行ったのか。デュエルアニマルを世間に発表すれば注目されるだろうが、研究目的を見失っては本末転倒ではないだろうか。

 

 そして博士が説明している間、幸いにもKMAは黒服達を警戒しているのか動きを見せていないが、あちらには人質がいるためにこちらからも手が出せずに事態は膠着している。

 

「そんなことより早く助けてよー!」

 

 熊に担がれ、さらには麻酔銃を向けられているという状況にジュンコが泣き言を漏らす。しかしながら二人を助けようにも、近づくことすらままならない。

 

『ふむ…動物は精霊を感じる力が高い、ということでしたな?』

 

 シハーブに確認をとられるが、その情報が真実かどうかは俺に確かめようは無い。しかし何もしなければただただ無駄に時間が過ぎていくだけなので、シハーブに向かって頷いておく。どうせシハーブが何かやっても、他の人たちには分からないだろうというのも理由の一つにある。

 

『そこの熊達よ! お前達が担いでいるのは某の主人の知人である! 痛い目をみたくなければ、ただちに二人を解放せよ!』

 

 シハーブがKMAに向けて声を張り上げ、モモエ達の解放を要求する。KMAはそれが理解できたのか、二人をそっと自分たちの後ろに隠すように降ろし、デュエルディスクを構えながらうなり声をあげていた。

 

「状況から察するに、デュエルを申し込まれているみたいだな」

 

「なんだかよくわからんが、タッグデュエルならば俺も手を貸そう」

 

 大山と共にデュエルディスクを展開する。タッグデュエルということに一抹の不安を感じるが、そんなことを言ってもこれ以外に取れる手段はない。こうなればなるようになるだろう。

 

—————

 

*タッグデュエルルールはOCG準拠

 

『『「「デュエル!」」』』

 

 どうやらデュエル関連の会話はヘッドギアから出力されるようだ。どうせならある程度普通の会話ぐらいできるようにしてもらいたかったものだが、うなり声や鳴き声だけでデュエルをするよりはよっぽどマシである。

 

『ワタシのターン、ドロー! ワタシは《グリズリーマザー》を、攻撃表示! さらにカードを2枚伏せ、ターンエンド!』

 

《グリズリーマザー》ATK/1400

 

 ところどころイントネーションなどに不自然さがあるものの、思ったよりも喋りが流暢で聞き取りやすい。これならば聞き間違える事はあまりないだろう。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 大山のターンだが、何かを忘れているような気がする。大山のデュエルを見るのはなんだかんだで初めてなのだが、確かアニメでこいつが使っていたデッキはドローと名の付くカードで固められて…あっ。

 

「俺はカードを1枚伏せ、《ドローラー》を召喚! そして《ドローラー》の効果発動! このカードの召喚時に手札を任意の枚数デッキの下に送る事で、攻撃力と守備力はその枚数×500となる。俺は4枚の手札全てをデッキの下に送る!」

 

《ドローラー》ATK/?→2000

 

 まさか伏せカードを1枚のこして、それ以外全てデッキ送りにするとは…しかも予想が正しければ、あの伏せカードは防御するつもりがないどころか、下手すれば自爆になりかねないものだったはずだ。

 

「いくぞ!《ドローラー》で《グリズリーマザー》を攻撃!」

 

 ロードローラーのような体躯のそのモンスターは《グリズリーマザー》までまっすぐローラーを転がして移動し、そのまま《グリズリーマザー》をひき潰した。紙の様に薄くなった《グリズリーマザー》は空へ舞い上がると、そのままポリゴンとなって割れてしまった。

 

《ドローラー》ATK/2000

《グリズリーマザー》ATK/1400

 

KMA LP8000→7400

 

「《ドローラー》が戦闘で破壊した攻撃表示モンスターは墓地に送られず、デッキの一番下へ送られる!」

 

 《グリズリーマザー》には戦闘によって破壊され墓地に送られた時に、水属性攻撃力1500以下のモンスターをデッキから特殊召喚する効果があるが、《ドローラー》の効果により墓地ではなくデッキに送る事でそれは回避された。

 

『ワタシのターン、ドロー! ワタシは《地獄の番熊》を、攻撃表示!』

 

《地獄の番熊》ATK/1300

 

 《地獄の番熊》の効果は、フィールド上に存在する《万魔殿—悪魔の巣窟—》の破壊を防ぐものだったはずだ。そんなものを採用しているからには、こちらのKMAのデッキは【デーモン】の可能性が高い。

 

『ワタシは手札から、《野性解放》を発動! この効果により、《地獄の番熊》の攻撃力は、その守備力である1800ポイント上昇!』

 

《地獄の番熊》ATK/1300→3100

 

 …どうやら俺が知っている【デーモン】ではなさそうだ。少なくとも《野性解放》の入った【デーモン】なんて聞いた事が無い。単純に熊繋がりで採用されたのだろうか。

 

『さらにリバースカード、永続罠《野生の咆哮》発動! 自分フィールド上のモンスターが相手モンスターを戦闘により破壊し墓地へ送った時、自分フィールドで表側表示の獣族モンスター1体につき300ポイントのダメージを、相手に与える』

 

 1ターン目のKMAが召喚したのは獣戦士族の《グリズリーマザー》のはずなのに、しっかりと獣族モンスターサポートを伏せているあたり、タッグデュエルができるよう訓練されていたのだろう。厄介この上ない。

 

『バトル! 《地獄の番熊》で《ドローラー》に攻撃! ヘルハウリング!』

 

 《地獄の番熊》のあげる咆哮、その衝撃だけで数百キロはあるであろう《ドローラー》が吹き飛ばされる。悪魔の巣窟を守っているのは伊達ではないということだろうか。

 

《地獄の番熊》ATK/3100

《ドローラー》ATK/2000

 

大山・葵LP8000→6900

 

『さらに《野生の咆哮》の効果で、300ポイントのダメージ!』

 

大山・葵LP6900→6600

 

『さらに、リバースカード、《キャトルミューティレーション》発動! 《地獄の番熊》を手札に戻し、《地獄の番熊》を攻撃表示で特殊召喚!』

 

《地獄の番熊》ATK/1300

 

 特殊召喚しなおすことにより、《野性解放》のデメリットであるエンドフェイズでの破壊を回避されてしまった。そしてまだKMAのバトルフェイズは終了しておらず、こちらのフィールドはがら空きである。

 

『《地獄の番熊》でプレイヤーに直接攻撃!』

 

 こちらががら空きということは、当然直接攻撃されてしまう。どうやらデュエリストアニマルというのは思っていたよりも手強いようだ。あっという間にライフの30%以上がなくなってしまった。

 

《地獄の番熊》ATK/1300

 

大山・葵LP6600→5300

 

『ワタシはカードを2枚伏せ、ターンエンド!』

 

「エンドフェイズに罠カード発動!《奇跡のドロー!》! 自分のドローフェイズの前にカード名を1つ宣言し、ドローしたカードが宣言したカードならば相手に1000ポイントのダメージを与え、違った場合は自分が1000ポイントのダメージを受ける!」

 

 使うだろうとは思っていたが、せめて大山のターンまで待ってはくれないものだろうか…そんなことを考えながら大山を睨みつけると、素晴らしい笑顔でサムズアップされた。無茶振りにもほどがある。

 

「俺のターン、ドローするカードは…《デュアル・サモナー》だ。ドロー」

 

 ドローカードは…《巨人ゴーグル》だった。そもそもデッキをハイランダー構成にしているということは、デッキにあるカードの種類が40種はあるということだ。最初の手札の5枚を除いても30種類を越えており、宣言通りにドローする確率は3%程度という酷い数値なのである。

 

大山・葵LP5300→4300

 

「《巨人ゴーグル》を召喚してバトル、《地獄の番熊》に攻撃」

 

《巨人ゴーグル》ATK/1500

 

『攻撃宣言時、リバースカード、オープン!《幻獣の角》発動! 《地獄の番熊》に装備し、攻撃力を800上昇! そしてこのカードを装備したモンスターが相手モンスターを破壊し墓地に送った時、ワタシはカードをドローする!』

 

「速攻魔法《スペシャル・デュアル・サモン》! これにより《巨人ゴーグル》を再度召喚状態にし、元々の攻撃力を2100にする!」

 

 《突進》よりも高い上昇値、戦闘破壊したときのドローによるアドバンテージ、これだけでも獣族、獣戦士族サポートとしてかなり高性能である。油断も隙もあったものではない。

 

《巨人ゴーグル》ATK/1500→2100

《地獄の番熊》ATK/1300→2100

 

「カードを2枚伏せ、ターン終了」

 

 幸いなのは《幻獣の角》をダメージステップに発動されなかったことだろうか。もしダメージステップに発動されてしまったならば、《スペシャル・デュアル・サモン》で対抗できずにダメージを負った上にドローまで許してしまうところだった。

 

 また《野生の咆哮》の効果は相手モンスターが破壊し墓地に送られてから発動するため、自分モンスターが1体の時に相打ちとなった場合、効果発動時に自分フィールド上に獣族モンスターが不在のため効果が発動できなかったようだ。

 

『ワタシのターン、ドロー! ワタシは《剣闘獣アンダル》を、攻撃表示!』

 

《剣闘獣アンダル》ATK/1900

 

「ホァッ!?」

 

 思わず変な声が出てしまった。もちろん原因は《剣闘獣アンダル》である。この鎧をつけた熊のモンスター単体ならば、高い攻撃力の通常モンスターというだけなので動揺する理由ほどではないのだが、デッキとしての【剣闘獣】はOCGの世界大会で優勝経験があるのだ。

 きっと《地獄の番熊》と同様に熊繋がりで採用されただけなのだと思うが、強力なカテゴリなだけに心臓に悪い。…もしも熊カードを取り入れただけの【剣闘獣】ならば、こちらの伏せが破壊され尽くすのも時間の問題ではあるのだが。

 

『バトル! 《剣闘獣アンダル》で直接攻撃!』

 

《剣闘獣アンダル》ATK/1900

 

大山・葵LP4300→2400

 

『ターンエンド!』

 

「エンドフェイズにリバースカードオープン!《正統なる血統》! この効果で、墓地から《巨人ゴーグル》を特殊召喚!」

 

《巨人ゴーグル》ATK/1500

 

 大山のターンまで待っても良かったのだが、デュエルディスクの仕様で大山は俺の伏せカードの確認ができない。それならば先に発動して知らせた方が、方策が固まりやすいはずだ。…余計なお世話にならなければいいが。

 

「俺のターン、《奇跡のドロー!》の効果だ! 俺がドローするのは《破滅へのクイック・ドロー》!」

 

 大山はドローしたカードを自分で確認せずにKMAへと突きつける。俺も横を向いて確認すると、見事に《破滅へのクイック・ドロー》を引き入れていた。KMAの後ろにいるモモエとジュンコも驚いている。

 

KMA LP7400→6400

 

「そして、俺は《巨人ゴーグル》を、なんだったか、あぁ、思い出した! 二度手間…じゃなかった、再度召喚する!」

 

《巨人ゴーグル》ATK/1500→2100

 

「まぁ! 代田さん以外の方が二度手間召喚をするだなんて!」

 

「そいつの二度手間召喚には嫌な思い出があるのよね…」

 

「お前ら、揃いも揃って二度手間っていうなっ!」

 

 KMAとはデュエル以外の言葉が通じないので断言はできないが、一応モモエとジュンコのためにデュエルをしているのに、何が悲しくて二度手間呼ばわりされなきゃならんのだ!

 

「行くぞ!《巨人ゴーグル》で《剣闘獣アンダル》に攻撃!」

 

 岩の巨人と鎧を着た熊が真正面から取っ組み合いをする。お互いに力自慢なのか、搦め手を使わないまっすぐな力押しである。そしてじりじりと岩の巨人が押し切り、そのまま鎧を着た熊は地に倒れ伏した。

 

《巨人ゴーグル》ATK/2100

《剣闘獣アンダル》ATK/1900

 

KMA LP6400→6200

 

「カードをセットし、ターン終了だ!」

 

『ワタシのターン、ドロー! 《キラーパンダ》を守備表示! カードを1枚伏せ、ターンエンド!』

 

《キラーパンダ》DEF/1000

 

 パンダは中国語では熊猫ということで、やはり【熊デッキ】なのだろう。そんな冗談のようなデッキに対して劣勢だったということが泣けてくるが、ここからは反撃に移る事が出来るだろう。

 

「俺のターン、《奇跡のドロー!》の効果で宣言するのは《エヴォルテクター シュバリエ》! ドロー!」

 

 気合いを入れたのは良いものの、ドローしたカードは《デュアル・ランサー》だった。この状況で《奇跡のドロー!》がなければ悪い引きではないが、これで残りライフポイントが2000を下回ってしまった。かなり危機的状況である。

 

大山・葵LP2400→1400

 

「《デュアル・ランサー》を召喚し、バトル! 《デュアル・ランサー》で《キラーパンダ》に攻撃!」

 

《デュアル・ランサー》ATK/1800

 

『攻撃宣言時、リバースカード、オープン!《猛突進》発動! 《キラーパンダ》を破壊し、《巨人ゴーグル》をデッキに戻す!』

 

 笹を持ったやたらと目つきの悪いパンダが猛烈な勢いで岩の巨人に突撃し、そのままポリゴンとなって砕けた。突撃された方の巨人はというと、こちらへと吹き飛んでデッキへと吸い込まれていった。

 

『そして自分フィールド上の獣族モンスターが破壊され墓地に送られた時、ライフポイントを1000払い、手札より《森の番人グリーン・バブーン》を特殊召喚!』

 

《森の番人グリーン・バブーン》ATK/2600

 

KMA LP6200→5200

 

 おい、【熊デッキ】じゃなかったのか。バブーンってヒヒじゃねぇか。クマ科じゃないどころか、ネコ目ですらねぇぞ。《幻獣の角》といい、このカードといい、なんでちょいちょい本気の構成なんだよ。たしかに熊カード少ないけど、もう少し頑張ろうぜ?

 

「カードを2枚伏せ、ターン終了」

 

 少し現実逃避してしまったが、念のため手札を0枚にしておこう。できればお世話になりたくないカードだが、備えはしておくに越した事は無い。

 

『ワタシのターン、ドロー! 《本気ギレパンダ》を召喚! バトル! 《森の番人グリーン・バブーン》で《デュアル・ランサー》に攻撃! ハンマークラブデス!』

 

 この攻撃が通ると、《野生の咆哮》の効果を合わせてちょうどライフポイントが0となり負けてしまう。追いつめられるのが早過ぎる気がするが、このまま負けるわけにはいかない。

 

「させるかっ! リバースカードオープン!《ジャスティブレイク》! 自分フィールド上の表側表示通常モンスターが攻撃宣言を受けた時、表側攻撃表示の通常モンスター以外のモンスターを全て破壊する!」

 

 頭上から雷が降り注ぎ、辺り一面を焼き尽くす。パンダとヒヒは雷に打たれて身を焦がしたようだが、《デュアル・ランサー》に落ちる雷だけは当たる寸前で二つに割れ、地面へと避けて行く。

 絵面だけならば、天罰という表現が一番しっくりくるかもしれない。

 

『ターンエンド!』

 

「ならば俺のターン、ドローするのは《ドローバ》だ!」

 

 そして大山が引いたカードを堂々と公開すると、確かに《ドローバ》だった。しかし《野生の咆哮》があるこの状況では、攻守共に低く、そして効果もない《ドローバ》は壁にする事すら危険である。

 

KMA LP5200→4200

 

「《デュアル・ランサー》を…二度、じゃない、再度召喚する! そしてバトルだ! 《デュアル・ランサー》で直接攻撃!」

 

『攻撃宣言時、リバースカード、オープン! 《闘争本能》発動! 直接攻撃宣言時、相手フィールドにのみモンスターが存在するとき、手札からレベル4以下獣族モンスターを攻撃表示で特殊召喚する! 《逆ギレパンダ》を特殊召喚!』

 

《逆ギレパンダ》ATK800

 

『《逆ギレパンダ》は相手モンスターの数×500ポイント、攻撃力上昇!』

 

《逆ギレパンダ》ATK800→1300

 

「ならばっ! 《デュアル・ランサー》で《逆ギレパンダ》に攻撃!」

 

《デュアル・ランサー》ATK/1800

《逆ギレパンダ》ATK/1300

 

KMA LP4200→3700

 

『獣族モンスターが戦闘により破壊され、墓地に送られた時、墓地の獣族モンスター、《本気パンダ》と《逆ギレパンダ》を除外することで、手札から《森の狩人イエロー・バブーン》を特殊召喚!』

 

《森の狩人イエロー・バブーン》ATK/2600

 

 《森の番人グリーン・バブーン》が入っているので、調整版モンスターである《森の狩人イエロー・バブーン》も当然入っているとは思っていたが、またもやこちらの攻勢は潰されたようだ。大山も悔しそうに歯噛みしている。

 

「くっ、俺はこのままターン終了!」

 

『ワタシのターン、ドロー! バトル!《森の狩人イエロー・バブーン》で《デュアル・ランサー》に攻撃! アローシュートデス!』

 

《森の狩人イエロー・バブーン》ATK/2600

《デュアル・ランサー》ATK/1800

 

大山・葵LP1400→600

 

『さらに《野生の咆哮》の効果で、300ポイントのダメージ!』

 

大山・葵LP600→300

 

『ワタシはカードを1枚伏せ、ターンエンド!』

 

「エンドフェイズに、永続罠《破滅へのクイック・ドロー》を発動! 互いのプレイヤーはドローフェイズ開始時に手札が0枚だったとき、通常のドローに加えてもう1枚、カードをドローすることができる! ただし、俺たちは自分のエンドフェイズ毎に700のライフポイントを払わなければならず、表側表示のこのカードがフィールドから離れた時、3000ポイントのダメージを受ける!」

 

 まさしく破滅へ一直線に突き進むカードである。しかもエンドフェイズ毎に払うライフが足りない場合、ライフを0にするというとんでもない効果を持っている。

 

「葵、後は任せたぞ!」

 

 大山め、勝手な事を言いやがって…俺たちの残りライフポイントは700を下回っており、《破滅へのクイック・ドロー》を発動したからにはこのターンこそがラストターンである。そもそも《奇跡のドロー!》に失敗してしまえば、その時点でライフポイントが尽きてしまう。

 

「俺のターン…」

 

 一息ついて目を閉じ、デッキトップに意識を集中させる。周りの音が徐々に遠ざかっていくが、滝の音だけはむしろはっきりと聞こえていた。絶体絶命の大ピンチにもかかわらず、頭が澄み切っている。

 

「俺がドローするのは…」

 

 ほんの一瞬、1枚のカードが目の前を横切った。

 

「《未来サムライ》! ドロー!」

 

 ドローしたカードは《未来サムライ》。カードを呼び寄せたというよりも、カードのほうから来てもらったような感覚だが、これこそが大山の拘るドローということなのだろう。たしかに、これは少し癖になる。

 

KMA LP3700→2700

 

「さらに、《破滅へのクイック・ドロー》の効果で、もう1枚ドロー!」

 

 この状況この手札で相手のライフポイントを削りきることができるかと聞かれたとしたら、普段なら無理だと言い切ることのできる手札。それでも何故だか今に限ってはできないはずがないと言えてしまう。

 

「俺は、《未来サムライ》を召喚! そしてリバースカード、オープン!《フォース・リリース》! この効果により《未来サムライ》は再度召喚状態となる!」

 

《未来サムライ》ATK/1600

 

「そして再度召喚された《未来サムライ》の効果発動! 墓地のモンスター1体を除外することで、表側表示の相手モンスターを1体破壊する! 墓地から《ドローラー》を除外し、《森の狩人イエロー・バブーン》を切り裂け! 紫電一閃!」

 

 未来的な裃を白く染め上げた侍が、弓を構える狩人に向かって駆け出す。狩人は次々に矢を飛ばして近づけまいとするが、侍はそのことごとくをかわし、懐に入り込んだ所で一閃。紫の光を残して刀を鞘に納めると同時、狩人の上半身がずれ、そのまま爆散した。

 

『自分フィールド上の獣族モンスターが破壊され墓地に送られた時、ライフポイントを1000払い、墓地の《森の番人グリーン・バブーン》を特殊召喚!』

 

《森の番人グリーン・バブーン》ATK/2600

 

 狩人を切り伏せたと思った途端、墓地から這い上がった番人が目の前に立ちふさがる。最初に出てきたときはこちらを見下ろす番人に威圧感を感じたが、今では弱々しく見える。すぐに墓地へ送り返してやるとしよう。

 

KMA LP2700→1700

 

「手札から速攻魔法《デュアルスパーク》! 《未来サムライ》を生け贄にささげ、《森の番人グリーン・バブーン》を破壊する! さらにカードを1枚、ドロー!」

 

 これでこのターン3枚目のドロー。脳裏に大量のカードが裏向きに流れる光景がよぎり、指先に力がこもる。脳裏を流れるカードの一枚が表側を向いた瞬間、腕を振り抜き、そのまま確認することなくそのカードを発動する。

 

「俺は手札から、魔法カード《思い出のブランコ》発動! 墓地から《デュアル・ランサー》を特殊召喚!」

 

《デュアル・ランサー》ATK/1800

 

「バトル! 《デュアル・ランサー》で直接攻撃!」

 

 魚人が両手の三叉槍をKMAに突き立てる。KMAは咆哮をあげ、地面にその身を投げ出した。

 

《デュアル・ランサー》ATK/1800

 

KMA LP1700→0

 

—————

 

「やったな、葵! 良いドローだったぞ!」

 

「あぁ、こんなにもドローが気持ちいいなんて初めてだ…もう一度同じ事をやれ、と言われても出来る気がしないけどな」

 

 それとタッグデュエルなのに味方に追いつめられるという経験に関しては、もう二度としたくない。ラストターンの《破滅へのクイック・ドロー》に至っては、追いつめるなんてものじゃない。一歩どころか半歩間違えれば確実に破滅だ。

 

「さて俺たちが勝ったんだし、二人は返してもらうぞ」

 

 KMA達は言葉を理解しているのか、モモエ達の前から離れて地面に座り込む。二人は呆然とした様子で動こうとしなかったため、俺と大山で二人のところまで歩いていき、手を差し伸べる。

 

「お手を貸しましょうか?」

 

「…ぷっ」

 

 いきなりモモエが吹き出した。こちらもこの前のリベンジを狙ったとはいえ、なかなか失礼な話だ。ジュンコは話の流れが分からない様で俺とモモエとをそれぞれ見比べていたが、理解されても恥ずかしいのでひとまず意識の外に置いておく。

 

「お気持ちは買いますけど、やっぱり代田さんには似合いませんわ」

 

 そう言いながら、俺の手を取って立ち上がるモモエ。自分でやった事だが気恥ずかしくなってしまったので大山の方を確認すると、ジュンコを肩に担ぎ上げていた。ジュンコは諦めたのか、抵抗せずにだらりと手足をぶらさげている。色々と台無しだった。

 

『ところでこの熊達はどうされるのですかな?』

 

 シハーブが疑問を挟んでくるが、そんなもの答えは一つしか無い。それこそ、このデュエルの勝敗以前の話である。KMA達もなんら反応を示さないので、SAL研究所の博士および黒服達の方を向き、はっきりと口に出す。

 

「それじゃあ研究所のみなさん、俺たちは帰りますので後はご自由に。大山、道案内よろしく」

 

「え!?」

 

 ジュンコが大声をあげるが、そもそも研究所で飼育されている実験動物を勝手に逃がすことは犯罪である。他人のペットを逃がしたら違法であるのは当然だろうし、それが実験動物ともなれば下手をすればバイオハザードだ。

 

「ではいくぞ! アーアアー!」

 

「ちょ、まっ、きゃあぁぁぁ…」

 

 ジュンコを担いだまま、枝を蹴り、蔦を掴み、雄叫びをあげてまさしくターザンのごとく移動する大山。遠ざかるジュンコの叫び声を残しながら、あっという間に視認できない距離まで行ってしまった…それだと道案内にならないだろう。

 

 結局SAL研究所の面々が撤収したあとも山ごもり拠点に残り、大山が迎えにくるまで待ち続けたのであった。ちなみに大山が俺たちを置き去りにした事に気付いたのは、アカデミアに着いてからとのことだった。

 




*焼き魚はスタッフ(KMA含む)がおいしくいただきました。

タッグデュエルを公式ルールのものにしました。
やはりこちらの方が書いていて楽ですね。
バトルロワイヤル形式は処理に悩んでしまいます。

《マジック・スライム》をヒロインにするために色々考えたりもしましたが、《マジック・スライム》が《アメーバ》や《カエルスライム》たちを引き連れて精霊界を侵略し始めたあたりでそっと画面を閉じました。
遊戯王GXはそういう話だった気がするのですが、気のせいでしょうか。
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