校長に鍵の警護を依頼された次の朝、保健室に向かうと十代がベッドに寝かされており、翔が付き添っていた。別のベッドには精悍な顔立ちをした男が眠っており、こちらには明日香さんが付き添っている。
「十代が担ぎ込まれたと聞いたが、何があったんだ?」
セブンスターズの一人であるダークネスとの戦闘があったのだろうが、知らない振りをして翔に事情を話すように促す。
「それが兄貴が明日香さんのお兄さんと闇のデュエルで勝負をしてから、夕べ一度目を覚ましたっきりで…」
「つまり明日香さんが付き添ってるのがお兄さんか。しかし闇のデュエルの噂は聞いた事はあるが、敗者には壮絶な罰ゲームがあるんじゃなかったか?」
「それについては私から話すわ」
明日香さんが翔に代わって続けた説明を聞くと、明日香さんの兄である吹雪にダークネスの魂が乗り移っており、魂を賭けたデュエルによってダークネスはカードに封印されたということだった。
「なるほど、それで後は二人が目を覚ますのを待っているのか」
「そうね」
あまり長居しても邪魔になるだけなので、事情も分かった所で保健室を出ることにした。明日香さんと翔は付き添いのために今日の授業は休むそうだ。あとでノートを見せる事にして、教室へと向かった。
—————
放課後、鍵を警護しているメンバーが校長室に呼び出された。安静にしなければいけない十代と兄の付き添いをしている明日香さんがいなかったが、大徳寺教諭が伝えるために校長室に来ていた。
校長が今回呼び出した理由は、学内でそこかしこで話題になっている吸血鬼の噂のことだった。そしてその吸血鬼が闇のデュエルに関係している、すなわちセブンスターズではないか、ということだった。警戒をするように言われて解散となったのだが…
『尾けられておりますな』
校長室から解散し、自室へ戻った後にシハーブから聞いた一言により俺は森に来ているのであった。件の吸血鬼とは関わり合いになりたくない俺としてはこのまま放置していたかったのだが、デッキの内容ならまだしもその過程で見られたくないカードまで見られてしまう可能性がある。
吸血鬼事件が解決するまでデッキをいじらなければ済む話だろうが、あいにく見られているのを分かっていてそのまま生活ができるほど胆が太いわけではない。そんなわけで捕獲しようと思ったのだが、そもそも場所がわからない。
「シハーブ、相手の場所とか分かるか?」
『方角程度しかわかりませんな』
「森に入ったのは失敗だったか…」
むしろ部屋に入ってこられないように何らかの処理をしたほうが良かったかもしれない。何を言っても今更ではあるので、ひとまずはなんとかしてこの状況を打破したい。捕獲が厳しければ撒くべきだろうか。
「…相手の様子は?」
『動きませんなぁ』
撒くことを考えるならばもっと隠れやすい場所を考えるべきであったか、いやどちらにしても相手は空を飛んでくるので難しいか。そんなことを思っていると、突如爆発音が聞こえてきた。そしてシハーブが何かに気付いたように後ろを向く。
『む、落下しましたな』
「落下って、尾行してきたのがか?」
『えぇ、先ほどの爆音はコウモリには堪えたようですな。おそらく気絶したのではないかと』
コウモリならば誰にも気付かれずに部屋まで尾行することは容易いだろう。何せ空を飛べるだけでなく、見つかっても動物なので気にされる事はそうはない。
それにも関わらずシハーブが気付いたのは、そのコウモリから精霊の気配がしたからということだった。それを証明するように、墜落したコウモリは《ヴァンパイア・バッツ》というアニメオリカによく似ている。
「こいつ、実体があるよな」
『本物のコウモリを媒介としているようですな。それとなんだか良く分からない力も感じますぞ』
「吸血鬼の能力か、それとも闇のアイテムか」
どちらにしても厄介な話だ。こいつを捕まえても媒介のコウモリを用意すればすぐ次が飛んでくることが考えられる。今日はもう見張られないとは思うのだが、これは撒く事を諦めるべきだろう。
「それにしても…さっきの爆発音はなんなんだ?」
『行ってみますかな?』
「そうだな」
コウモリが霧になったりしても困るので《デモンズ・チェーン》でぐるぐる巻きにして抱え、爆発音のした方へ向かう。それにしても確かこの方向は…いや、深くは考えまい。
—————
爆発音のした方向へ向かうと、そこにいたのはSAL研究所の博士だった。なにやら機材を調整しているようだが、その所々が焦げ付いている。
彼が何故こんな森の中にいるのかというと、ここがSAL研究所のフィールドワーク拠点の一つだからだ。ここは研究施設にもなっており、主にこの島の環境状態を研究するために利用されているらしい。
「おぉ、代田くんではないかね。どうしたのかね、こんなところで」
博士の話し方が随分とフランクになっているが、KMA騒動で大山に置いてけぼりにされた際に一緒に焼き魚を食べながら話しているうちに仲良くなったのだ。その縁もあって春休みの間、ドロー力向上の手掛かりになればと思って研究に協力していたことも理由の一つだろう。
「こっちから爆発音が聞こえたのですが、また何かやらかしたんですか?」
「またとは失敬な。私はField Link Operator(フィールド リンク オペレーター)略してFLO(フーロ)の開発に勤しんでいただけだ」
「今度はどういう装置なんですか?」
「周囲の状況を認識し、それに対応するフィールド魔法を周囲で行われているデュエルに発動させる装置だ。動物による精霊認識実験が一段落したのでな。周辺環境と精霊との関係を探るべく開発をしていたのだ」
そういいながら謎の機械を再び弄り始める博士。なんだか面白そうな発明だが、それでどういうデータを取得できるのかはまったくの謎である。おそらく聞いたら答えてくれるだろうが、理解できるとは思えない。
「あ、博士。そういえば今アカデミアで噂になっている吸血鬼の話は聞いたことがありますか?」
「吸血鬼? いや、そんな話は初めて聞くな。そもそもここに来る学生なんぞ、代田くんぐらいのものだしな」
それもそうか。まず山や森といった場所に用事がある生徒なんて非常に稀だと思う。そもそもこの研究所の関係者は滅多な事では外に出てこない。買い物なんかは業者がまとめて搬入しているようだし、それこそ実験動物が脱走することでもないと外には出ないだろう。
「それを踏まえて見てもらいたいのですが、こんなものを捕まえました」
さっき捕まえた《ヴァンパイア・バッツ》(仮)を博士に見せる。引きずり回すわけにもいかなかったので小脇に抱えていたのだが、博士は機械に夢中で気が付いていなかったようだ。博士は《デモンズ・チェーン》が邪魔そうだったが、鎖を外さずに全体をじっくりと観察して眉間にしわを寄せていた。
「む、コウモリかね? 確かにこの島では珍しいだろうが…いや、しかし通常のコウモリにはこのような器官は…新種のコウモリか? それにしても…」
手伝いに行っていたときの話を聞く限り、この博士は機械工学だけでなく情報工学や生物学、さらに環境学とデュエル理論についても深い知識を持っているらしい。それにしても見ただけで普通のコウモリとの違いを理解するなんて、この人は一体何を専攻していたのだろう。
「シハーブに聞いてみた所、どうやらコウモリを媒介にして《ヴァンパイア・バット》の精霊を顕現させているようです」
「ほほう! なかなか面白い物を持ってきた物だな!」
どうやら博士が興味を持ってくれたようだ。俺が持っていても邪魔なだけなので色々調べるついでに預かってもらうようお願いすると、二つ返事で了承してもらえた。
「時に代田くん、私としては今すぐにでもこの精霊について調べ始めたいのだが、協力してもらえるかね」
「寮の門限がありますが、それまでなら全く問題ないです」
「それならば急いで研究所へ行くぞ! 精密検査はできずとも、大まかな記録ならばここの設備でも可能なはずだ」
俺の返事を聞くと素早く機械にシートをかぶせ、風で飛ばないように固定してから急ぎ足で研究室へと歩き出した。やはり未知の探求というものには心が躍るのは研究者の性なのだろう。俺も博士の後を追って研究所へと急いだ。
—————
「ふむ…」
さすがに《デモンズ・チェーン》を外さずにいることは無理があったので、ケージに入れてから拘束を解いて調査を続行している。鎖を外した際、コウモリは霧になることはなく羽ばたいて逃げようとしたので、飼育するときは普通のケージでも問題なさそうだ。
そして何の実験なのかは分からないが、現在コウモリ共々研究所のデュエル場にきている。今からデュエルをするのだろうとは思うが、SALやKMAと違ってコウモリにデュエルディスクを装着することはできないだろう。
「ついにこれを使う時がきたようだな」
博士が職員に持ってくるよう要請した機械が届き、それを神妙な顔つきで睨みつけながら作業をしている。ケージから出したコウモリに電極を取り付け、接続された機械を何やら操作しながら独り言の様に呟いた。
「これは簡単に言ってしまえばデュエルシミュレーターだが、デッキ作成方法が特殊なのだ」
かいつまんだ話を聞く限りでは、この機械は取り付けた相手の様々な情報からデッキを作成し、それを用いてデュエルを行うというものらしい。その中に精霊からの干渉があるのではないか、と考えて作られた物なのだとか。
しかしこの機械には一つ欠点がある。デッキ作成を行う際、研究所が把握しているカードのデーターベースから参照するのではなく、測定データからカードを生成してデッキを構築するため研究所が把握していないカードが生成されることがあるらしい。
どう言う法則でカードの生成が行われているのか、むしろどうやってその機械を作り出したのかが非常に気になるが、そこは今は気にしないようにする。
不安定さ故にお蔵入りとなっていたこの機械を使う理由は、《ヴァンパイア・バッツ》の精霊と思われるこのコウモリからは果たしてどのようなデッキが構築され、どのようなデュエルを行うのか。精霊という存在からくる計測外のデータの反映があるのかどうか。そういった点を調べておきたいらしい。
「代田くん、準備はいいかね?」
「いつでも大丈夫です」
『システム起動。デッキ構築プロセス………デッキ構築完了。データ保存』
どうやら準備は整ったようだ。あちらのモニターはデュエル場に接続されていてソリッドヴィジョンとして反映されるので、俺から見ると相手がいないのにモンスターが召喚されたりするようになるようだ。
『デュエルシミュレーション開始』
「デュエル!」
『ドロー。召喚、《不死のワーウルフ》、攻撃表示』
《不死のワーウルフ》ATK/1200
白銀の毛並みを持つ二足歩行の狼がフィールドに現れ、遠吠えをあげた。腕には鎖が繋がっており、どこかしらから逃げ出したのであろう。
『カード1枚セット。ターン終了』
「俺のターン、ドロー」
それにしても《不死のワーウルフ》か、こいつも《ヴァンパイア・バッツ》と同じくアニメオリジナルカードということは覚えているのだが…破壊された時に攻撃力が上がってデッキから特殊召喚されるということぐらいしか覚えていない。
「《デュアル・ランサー》を召喚してバトル、《不死のワーウルフ》を攻撃」
《デュアル・ランサー》は狼男目掛けて三叉槍を振り下ろし、それは避けられる事無く肩を貫いた。狼男は貫かれた肩を押さえながら後退し、遠吠えをあげてからポリゴンとなって砕け散った。
《デュアル・ランサー》ATK/1800
《不死のワーウルフ》ATK/1200
コウモリLP4000→3400
『《不死のワーウルフ》効果発動。被戦闘破壊時、山札内同名カード1体特殊召喚。追加効果、攻撃力500上昇』
《不死のワーウルフ》ATK/1200→1700
倒したはずのワーウルフが再び現れ、さらにはその身体が一回り大きくなった。破壊は破壊でも戦闘破壊限定だったか。とは言っても単体では《デュアル・ランサー》の攻撃力を越える事は無いので、別段気にするほどでもないかもしれない。
「カードを1枚伏せて、ターンエンド」
『ドロー。召喚、《ヴァンパイア・バッツ》、攻撃表示』
《ヴァンパイア・バッツ》ATK/800
機械に繋がれているコウモリとそっくりなコウモリが現れた。見れば見るほどそっくりであり、博士も興味深そうに顎をさすっている。このコウモリは《ヴァンパイア・バッツ》の精霊という考えは間違っていないだろう。
『永続効果、表側アンデット族攻撃力200上昇』
《不死のワーウルフ》ATK/1700→1900
《ヴァンパイア・バッツ》ATK/800→1000
『バトル、攻撃宣言《不死のワーウルフ》、攻撃対象《デュアル・ランサー》』
先ほどやられた仲間の復讐ということなのか、雄叫びをあげながら《デュアル・ランサー》へと躍りかかる狼男。突き出された槍を躱して間合いに入り、鋭い爪で《デュアル・ランサー》の肩を貫いた。
《不死のワーウルフ》ATK/1900
《デュアル・ランサー》ATK/1800
葵LP4000→3900
『直接攻撃宣言《ヴァンパイア・バッツ》』
《ヴァンパイア・バッツ》が小さな《ヴァンパイア・バッツ》に分裂して、俺の周りに集まってきた。そして一斉に激しく羽ばたき、超音波というよりも衝撃波が襲いかかってくる。
《ヴァンパイア・バッツ》ATK/1000
葵LP3900→2900
『ターン終了』
「俺のターン、ドロー」
《ヴァンパイア・バッツ》の効果により全体の攻撃力をあげられている以上、早めに潰しておかなければならないだろう。しかし記憶がただしければ《ヴァンパイア・バッツ》には何らかの破壊耐性効果があったはずだ。
「《デュアル・サモナー》を攻撃表示で召喚」
《デュアル・サモナー》ATK/1500
しかし《ヴァンパイア・バッツ》のステータスは高くない。こちらも耐性を持ったモンスターを使って、少しずつダメージを与えて削っていくとしよう。
「バトル、《デュアル・サモナー》で《ヴァンパイア・バッツ》に攻撃」
《デュアル・サモナー》がオレンジ色の光線で《ヴァンパイア・バッツ》を撃ち落とそうとしたが、再び何匹にも分裂して避けられてしまった。
《デュアル・サモナー》ATK/1500
《ヴァンパイア・バッツ》ATK/1000
コウモリLP3400→2900
『《ヴァンパイア・バッツ》効果発動。被破壊時、山札内同名カード1体代用』
デッキから同名カードを墓地に送る事で破壊を回避するという耐性だったか。つまりデッキへと戻さない限りは最大で2回の破壊耐性ということになる。それも一ターン辺りでなく、全体を通してだ。
「カードを1枚伏せ、ターンエンド」
『ドロー……』
即断即決で行動していたはずのデュエルシミュレーターが動きを止めた。やはりお蔵入りにしていたせいでガタがきているのだろうか。そんなことを考えていたところに、再びシミュレーターから声が鳴り響いた。
『私は手札からフィールド魔法《不死の王国—ヘルヴァニア》発動!』
高らかにそのカードの発動を宣言する声は、先ほどまでの無機質な機械音声とは打って変わって楽しげな女性のものだった。俺はかなり驚いたが、博士は目を輝かせてノートに何か書いている。
「ほうほう! 禁断のカードである《不死の王国—ヘルヴァニア》を使うだけならばともかく、音声にまで影響を与えるか! 素晴らしい! 実に素晴らしい!」
完全にテンションが振り切れてしまっているが、有用なデータが取れているならば何ら問題は無いだろう。博士のハイテンションっぷりを見ているだけで、俺もなんだか楽しくなってきた。
『《不死の王国—ヘルヴァニア》の効果発動! 手札のアンデット族を一枚墓地に送る事で、このターン通常召喚ができなくなるかわり、フィールド上の全てのモンスターを破壊する!』
問答無用の《ブラック・ホール》効果によって場を一掃してきた。フィールドのモンスター数もその最高攻撃力もシミュレーターが勝っているのだが、《デュアル・サモナー》の戦闘耐性を破るのが面倒だったのか、それとも他に考えがあるのか…
『《ヴァンパイア・バッツ》の効果発動! このモンスターが破壊される時、代わりにデッキから同名モンスターを墓地に送ることができる』
当然破壊は回避してきた。これで俺の場はがら空きになったのだが、正直なところこれだけならば《不死のワーウルフ》を破壊せずに下級モンスターを並べて《デュアル・サモナー》は戦闘破壊すればいいような気がするのだが…
『手札から《スカル・コンダクター》の効果発動! このカードを墓地に送る事で、手札から合計攻撃力が2000となるように2体までのモンスターを特殊召喚できる。私は《ヴァンパイア・ロード》を特殊召喚!』
《ヴァンパイア・ロード》ATK/2000→2200
さらさらの白銀の髪、不健康なまでに白い肌、その口元にはキラリと輝く白い牙。このコウモリマントをはためかせて立っている美男子は見ての通りの吸血鬼らしい。
『いくわよ! 《ヴァンパイア・バッツ》で直接攻撃! 舞え、ブラッディ・スパイラル!』
「させるか! リバースカード、オープン!《血の代償》! ライフを500払うことで通常召喚の権利を得る! 俺は《デュアル・ソルジャー》を守備表示で召喚し、さらに500ポイント支払い再度召喚する!」
《デュアル・ソルジャー》DEF/300
葵LP2900→1900
『再度召喚だなんて大層な言い方をしてるけど、何も変わってないじゃないの。ただの二度手間、無駄払いだったんじゃない?』
「二度手間っていうなっ!」
『《ヴァンパイア・バッツ》で《デュアル・ソルジャー》を攻撃! ブラッディ・スパイラル!』
《ヴァンパイア・バッツ》ATK/1000
《デュアル・ソルジャー》DEF/300
「再度召喚された《デュアル・ソルジャー》の効果! このモンスターは1ターンに一度戦闘では破壊されず、このカードが戦闘を行った時デッキからレベル4以下デュアルモンスターを特殊召喚する! 俺はデッキから《竜影魚レイ・ブロント》を特殊召喚!」
《竜影魚レイ・ブロント》ATK/1500
「目障りねぇ!《ヴァンパイア・ロード》で《デュアル・サモナー》を攻撃!」
《ヴァンパイア・ロード》ATK/2200
《デュアル・ソルジャー》DEF/300
「《デュアル・ソルジャー》の効果により、《巨人ゴーグル》を特殊召喚!」
《巨人ゴーグル》ATK/1500
「さらにリバースカードオープン!《二重の落とし穴》! 再度召喚されたデュアルモンスターが戦闘で破壊された時、相手モンスターを全て破壊する!」
『なんですって!?』
どうやら虚をつく事が出来たようだ。このまま何もしてこないようなら返しのターンにまとめて攻撃すれば勝つ事が出来るが、どうにもこのままでは終わってくれそうにない、そんな予感がした。
『生意気ナガキメ! リバースカードオープン、《リビングデッドの呼び声》! 墓地カラ蘇レ、《カース・オブ・ヴァンパイア》!』
《カース・オブ・ヴァンパイア》ATK/2000
喉を締め付けたまま喋っているような苦しそうな声。仮に人が出しているなら、喉の奥から蛇でも出てきそうな声である。それとも口が裂けているのだろうか。なんにせよ耳障りな声だ。
蘇らせた《カース・オブ・ヴァンパイア》だが、恐らく《不死の王国—ヘルヴァニア》の効果コストで墓地に送っていたのだろう。むしろそれ以外で相手がカードを墓地に送る場面などなかった。
『行ケ、《カース・オブ・ヴァンパイア》! 《巨人ゴーグル》に攻撃、ネイルファングブロー!』
「攻撃宣言に対し、《血の代償》の効果発動! ライフを500ポイント支払って《巨人ゴーグル》を再度召喚し、元々の攻撃力を2100にして返り討ちだ。ゴーグルナックル!」
腕を構えて走ってきた片翼の吸血鬼に対し、腰を落として正拳突きで反撃する《巨人ゴーグル》。その拳は頬へとまっすぐに突き刺さり、片翼の吸血鬼は錐揉みしながら吹き飛ばされた。
《カース・オブ・ヴァンパイア》ATK/2000
《巨人ゴーグル》ATK/1500→2100
コウモリLP2900→2800
葵LP1900→1400
『《カース・オブ・ヴァンパイア》の効果発動。このカードが戦闘によって破壊された時、ライフを500支払う事ができる』
元の女性の声に戻っているが、先ほどの声を聞いた後だとかえって気味が悪い。猫を被っている…というよりも化けの皮を被り直すというほうが表現としては正しいかもしれない。
コウモリLP2800→2300
『私はこれでターンエンド』
「俺のターン、ドロー!」
『この瞬間、《カース・オブ・ヴァンパイア》の効果発動! 戦闘破壊されたときにライフを支払っていたことにより、墓地に眠るこのカードを特殊召喚する! さらにこの効果で《カース・オブ・ヴァンパイア》が蘇った場合、攻撃力が500ポイントアップ!』
《カース・オブ・ヴァンパイア》ATK/2000→2500
地面から黒い霧が立ち上り、人の姿へと集まっていく。現れた片翼の吸血鬼に巨人を襲ったときの鋭い眼光はなく、どこか虚ろで意識があるのか怪しいものだった。しかし姿は全体的に鋭利になっており、呪いというのも頷ける。
「《エナジー・ブレイブ》を守備表示で召喚、《巨人ゴーグル》と《竜影魚レイ・ブロント》を守備表示に変更し、カードを1枚セット、ターン終了」
《エナジー・ブレイブ》DEF/1200
《巨人ゴーグル》ATK/2100→DEF/500
《竜影魚レイ・ブロント》ATK/1500→DEF/1000
『不死のヴァンパイアを前では防御を固める事しかできないだなんて、所詮は人間ってことかしら。私のターン、ドロー』
馬鹿にされているが、今の状況では攻めようとしたところで《カース・オブ・ヴァンパイア》の攻撃力を越える事が出来ない。それならば《不死の王国—ヘルヴァニア》に対して備えた方がいいだろう。
『そしてこのターン、墓地に眠る《ヴァンパイア・ロード》が蘇る!』
《ヴァンパイア・ロード》ATK/2000
辺りからコウモリが飛び出してきて一塊となり、再び散った。そして中から現れたのは銀髪の吸血鬼である。見下すような目線をこちらに向けてきており、己が不死の貴族であることを誇っているかのようだ。
『本当なら《不死の王国—ヘルヴァニア》の効果でまとめて吹き飛ばしてあげたいところなんだけど、そんなことをしたらせっかくのヴァンパイア達までいなくなってしまうわね』
どうやら俺の防御策は空振りに終わってしまいそうだ。…残りライフも多くはないので、壁を並べたという事にしておこう。相手は《エナジー・ブレイブ》の効果を知らないだろうから、牽制にはなっていないだろうが。
『ならこうしましょう。《ヴァンパイア・ロード》をゲームから除外し、《ヴァンパイア・ジェネシス》を特殊召喚!』
《ヴァンパイア・ジェネシス》ATK/3000
美形の吸血鬼からどうしてこうなったのか、と疑問に思うような筋骨隆々の吸血鬼が降臨した。肌はシハーブに近い紫色であり、そのせいもあってか恐怖よりも呆れに近い何かが胸をよぎった。
『そして手札から《貪欲な壷》を発動! 墓地の《不死のワーウルフ》2体と《ヴァンパイア・バッツ》3体をデッキに戻し、新たに2枚ドロー! …バトルよ、《カース・オブ・ヴァンパイア》で《竜影魚レイ・ブロント》を攻撃! シャープスネイルブレイド!』
片翼の吸血鬼は野生の獣のように《竜影魚レイ・ブロント》へと襲いかかる。その速度も《巨人ゴーグル》に攻撃したときとは大違いで、鋭利になった爪で一閃して《竜影魚レイ・ブロント》を真っ二つにした。
《カース・オブ・ヴァンパイア》ATK/2700
《竜影魚レイ・ブロント》DEF/1000
『そして《ヴァンパイア・ジェネシス》で《巨人ゴーグル》を攻撃!ヘルビシャス・ブラッド!』
紫男二号こと始祖の吸血鬼が気合いをこめると、身体から赤黒い霧が《巨人ゴーグル》へと向けて放たれた。…血霧かなにかだと思うのだが、シハーブの姿が頭をちらついて香木の煙に見えてしょうがない。
《ヴァンパイア・ジェネシス》ATK/3000
《巨人ゴーグル》DEF/500
『うふふ、カードを2枚セットして、私はこれでターンエンド』
「俺のターン、ドロー!」
「俺は《マジック・スライム》を召喚! そして《血の代償》の効果発動! ライフを500払い、《マジック・スライム》を再度召喚状態にする!」
《マジック・スライム》ATK/700
葵LP1400→900
召喚された《マジック・スライム》はぐにぐにとイラストの姿からコウモリの姿へと変化した。しかし何か気に喰わなかったのか、そこからさらに変化を続け、ドレスを纏った長い髪の女へと姿を変えた。
これはもしや、精霊のつながりからカミューラの姿に変化したとかそういうことなのだろうか。このコウモリは眷属というだけでカミューラそのものではないと思っていたのだが、もしかすると力の一部ということなのかもしれない。
「いくぞ、《マジック・スライム》で《ヴァンパイア・ジェネシス》に攻撃!」
『攻撃力の劣るモンスターで攻撃ィ? 舐められたものね、迎撃なさい! ヘルビシャス・ブラッド!』
「それはどうかな。再度召喚された《マジック・スライム》が戦闘する時、俺の受けるダメージは相手が受ける。マジカル・リフレクト!」
『チッ、リバースカードオープン!《収縮》! 《ヴァンパイア・ジェネシス》の元々の攻撃力を半分にする!』
咄嗟に発動された《収縮》により縮んでいく紫男二号。それでも《マジック・スライム》が変化したドレスの女性よりは大きく、放たれた赤黒い霧が《マジック・スライム》を包んで破壊した。
《マジック・スライム》ATK/700
《ヴァンパイア・ジェネシス》ATK/3000→1500
コウモリLP2300→1500
『残念ダッタワネェ、コレデ起死回生ノモンスターモ墓地デオネンネヨ!』
「まだまだぁ! リバースカードオープン、《正統なる血統》! 墓地で通常モンスターとして扱われている《マジック・スライム》を特殊召喚!」
《マジック・スライム》ATK/700
「さらに、手札から速攻魔法《スペシャル・デュアル・サモン》を発動! これで《マジック・スライム》を再度召喚状態にし、バトルだ。《カース・オブ・ヴァンパイア》に攻撃!」
『ソンナ事デ勝トウナンテ、考エガ甘インジャナクテ? リバースカードオープン、《サイクロン》! 破壊スルノハ当然、《正統なる血統》! コレデ其ノ二度手間モンスターモオ終イヨ! アーハッハッハ!』
《サイクロン》によって《正統なる血統》が破壊され、それにより蘇生された《マジック・スライム》も破壊の危機である。そうなれば俺のフィールドにモンスターはいなくなり、手札も無いこの状況では詰みとなるだろう…本来ならば。
「機械だかコウモリだかの癖に二回も二度手間いいやがって、だが残念だったな。《エナジー・ブレイブ》がフィールド上に表側表示で存在する限り、再度召喚されたデュアルモンスターは効果によっては破壊されない!」
蘇生に対するチェーンに対しては無力だが、一度再度召喚状態にしてしまえばこちらのものだ。まさか《不死の王国—ヘルヴァニア》に備えて召喚した《エナジー・ブレイブ》が活きるとは思わなかったが…
「行け! マジカルリフレクト!」
『アアアアアァァァァァーーーーー!』
《マジック・スライム》ATK/700
《カース・オブ・ヴァンパイア》ATK/2500
コウモリLP1500→0
—————
その後シミュレーターが女性の声に変わる事はなく、実験は淡々と進められた。今は博士が何かの考えに没頭してしまったため、一時中断している。
鞄からPDAの着信音が鳴り響いていたので時間を見ると、すっかり寮の門限を過ぎてしまっていた。門限どころか夕飯の時間すら過ぎてしまっており、寮に戻ったとして食事は残されていないかもしれない。さすがに夢中になりすぎたようだ。
しかし発信者はクロノス教諭やブルー寮の管理人ではなく、三沢だった。こんな時間帯にメールではなく電話をしてくるとは珍しい。そう思いながらもとりあえず電話にでる。
「三沢か、どうしたんだ?」
「クロノス教諭が闇のデュエルに敗れた」
「…状況を聞かせてくれ」
三沢の話では、カミューラと名乗る吸血鬼がクロノス教諭と闇のデュエルを行い、その結果クロノス教諭が人形に魂を封印されてしまったとのことだった。
今は俺以外の鍵の守護者は保健室にあつまっているらしい。
「こっちはその吸血鬼が放ったと見られるコウモリを捕まえて、調査を行っているところだ。それで分かったのだが、恐らくデッキが覗かれているぞ」
シミュレーターで発現したデッキのなかに、デュアルモンスターを使ったデッキが登場したのだ。それも実験中に俺が召喚していないモンスターが使われており、いつの間にかデッキが覗かれていたようである。
尤も、これはアニメでもあった展開なのでさほど驚きはしていないのだが。
「なんだって!」
「クロノス教諭の手が透けていた理由としては納得がいくだろう。デッキを弄るときやデュエル中はコウモリに気をつけてくれ」
アニメでは手札までは覗いていなかったが、念を入れるにこした事は無い。デッキだけならともかく、手札がバレると取れる選択肢を全て握られたに等しいからだ。
「分かった」
「今日は研究所に籠って博士を手伝うから、ブルー寮に帰れないことを伝えてくれ。すぐさま結果が出るとは思えないが、何か分かったら連絡する」
そういって通話を切り、PDAを鞄にしまったところで博士の中で何か結論がでたらしい。実験続行を言い渡されたため、こちらも寮に帰る必要がなくなったことを伝える。
その後も仮眠や食事を挟みながら実験は続いていったが目新しい発見もなく、日付が変わり再び夜の帳が降りた後、三沢からの連絡でカイザーが敗れた事を知った。
《エナジー・ブレイブ》の効果は優秀だとは思うんですよ?
再度召喚を《激流葬》で狙われてもデュアルモンスターを守れたり、《思い出のブランコ》などでの自壊を回避できたり、《聖なるバリア―ミラーフォース―》が怖くなかったり、色々と安心できる効果です。
ただ《スーペルヴィス》なら召喚権を使わず再度召喚状態にしたあげく擬似的な耐性を付与できたり、蘇生は《炎妖蝶ウィルプス》を経由すれば自壊しなかったり、複数破壊なら《スターライト・ロード》という便利なカードがあったり、ステータスが中途半端で耐性がないから先に死んじゃったりするだけです。
攻撃力1700じゃ《ダイガスタ・エメラル》や《ラヴァルバル・チェイン》にも殴り倒されるんですよね…
頑張れ、《エナジー・ブレイブ》超頑張れ…
ーーーーー
改訂(3/12):《ヴァンパイア・ジェネシス》の特殊召喚条件のミスを訂正