カイザー敗北の報告があってからさらに次の夜、俺は湖の上に敷かれたレッドカーペットの上を歩いていた。…どのような仕組みなのかは分からないが、絨毯は水がしみ込むこともなく硬い石の上に敷かれたかのような感触が返ってくる。
後ろを付き従うシハーブも無駄口を叩く事無く、俺の足音だけが辺りに響いている。他の鍵の守護者は部屋でデッキの調整をしているのだろう。少なくとも湖の近くには誰もいなかった。
だがその方が俺としては都合がいい。カミューラの使う魔法カード《幻魔の扉》は《サンダーボルト》と《死者蘇生》を足した効果を持つインチキ効果にも程があるカードなのだが、このカードを使って負けると幻魔に魂を持っていかれるという恐ろしいものなのだ。
しかしカイザーとの戦いではこれを逆手に取り、翔を盾にして勝ちを譲らせるという手段にでたのだ。これではもはやデュエルが成り立たない。そのため俺一人…それと《ランプの魔人》のシハーブ…だけならば人質に取られる事もないのでその心配がない。
カミューラによって湖の中心近くに突如として出現した城、学園祭のお化け屋敷にそのまま使いたいぐらいには雰囲気満点である。カメラでも持ってくれば良かった、と意図的に呑気なことを考えながら中に入る。
城の中は湖の真上に立っているというのに湿度を感じさせず、まるでこの城だけが別空間に建てられているかのようだった。
ひやりとした廊下をまっすぐに進み、大きな広間に到着した。吹き抜けになっており、二階部分が突き出る形になっている。
「あら、お客様かしら。でも変ねぇ、あなたは招待した覚えが無いわ」
広間の奥から紅いドレスを身にまとった長髪の女性が優雅な足取りで歩いてきた。気品あふれる佇まいはまさしく貴族と呼ばれるにふさわしいものであり、どこか非現実的な艶やかさも醸し出している。
「いえいえ、翼のついた使いの方からご招待頂きましたよ。使いの方はお帰りになっていないのでご存知ないかもしれませんが」
相手の雰囲気に気圧されないよう、あえて挑発をしてみる。眷属とはいえコウモリを盾に出来るとは思っていないが、まともなデュエルが出来るのならばそれで問題はない。
「…あの子が帰ってこないと思ったら、連れ去ったのはお前か」
「連れ去るだなんてとんでもない。ただこちらで預かっているだけですとも」
カミューラの眼光が怒りをあらわすように鋭く輝き、こちらを撃ち抜かんばかりに睨みつけてくる。俺もクロノス教諭やカイザーへの仕打ちに対して少なからず怒りは覚えているので負けじと睨み返す。
「それでは本題を。鍵の守護者の一人として仇討ちをさせてもらうぞ、吸血鬼」
「ならば闇のデュエルでお前の鍵を奪って、あの子も返してもらうわ!」
互いに宣戦布告をした後、二階へとあがり吹き抜け部分に向けてデュエルディスクを構える。闇のデュエルは初めてだが、こちらも闇のアイテムまがいの物を持っている。一方的に影響を及ぼされるということはないはずだ。…本体は中のカードらしいので、あれがただのランプである可能性は否定できないのが心配だが。
「「デュエル!」」
「先攻はもらった、ドロー! 俺は魔法カード《コストダウン》を発動する。手札を1枚捨て、手札の《灼熱王パイロン》のレベルを2つ下げる」
《灼熱王パイロン》レベル5→3
上級モンスター中心ではないとはいえ、素直に生け贄召喚をしていると召喚権が足りなくなってしまう。…割にあっているかどうかは別問題だが、蘇生や不死をテーマにするカミューラ相手に持久力で競うつもりはさらさらない。
「そして《灼熱王パイロン》を通常召喚し、さらに装備魔法《スーペルヴィス》を装備! これで《灼熱王パイロン》は再度召喚状態となる!」
《灼熱王パイロン》ATK/1500
「わざわざレベルを手札を三枚も使ってすることが、たかが攻撃力1500のモンスターを召喚するだけ? 二度手間、いやそれ以上に手間をかけた割に大したことないわね」
「二度手間っていうなっ!《灼熱王パイロン》の効果発動! 相手ライフに1000ポイントのダメージを与える! 燃やせ、パイロボール!」
灼熱王の名に恥じない熱が更に膨れ上がる。これはソリッドヴィジョンだが、実際の炎ならば乾いたこの城はさぞ盛大に燃えてくれる事だろう。実体化させてしまうと人形にされたカイザーも一緒に燃やしてしまいかねない。
カミューラLP4000→3000
「カードを1枚伏せてターンエンド」
「このっ…私のターン、ドロー! 私は永続魔法《ミイラの呼び声》を発動、私の場にモンスターが存在しない場合、手札からアンデット族モンスターを1体特殊召喚できる。私は《ヴァンパイア・ロード》を特殊召喚! さらに《ヴァンパイア・ロード》をゲームから除外し、《ヴァンパイア・ジェネシス》を特殊召喚!」
《ヴァンパイア・ジェネシス》ATK/3000
《ミイラの呼び声》はレベルの制限がなく条件も緩い。元々墓地蘇生を得意とするアンデット族ならば展開力に困る事はそうそうないが、どこからでも特殊召喚されるというのはやはり厄介だ。
「そして永続魔法《ジェネシス・クライシス》を発動! 1ターンに1度、デッキからアンデット族モンスター1体を手札に加えることができる。私が手札に加えるのは《ヴァンパイア・レディ》!」
そしてこれによって毎ターン《ヴァンパイア・ジェネシス》の効果コストが確保される事になった。ついでにモンスターが全滅したとしても、あらかじめ確保したモンスターは《ミイラの呼び声》で特殊召喚可能という抜け目の無さだ。
「そして《ヴァンパイア・レディ》を召喚してバトル! 《灼熱王パイロン》を攻撃!」
緑の髪に鈍い紫のドレスの女吸血鬼が現れた。髪の色やドレスを見る限りカミューラとは何らかの関係があるのだろうとは思うが、あまり似てはいないので本人というわけではないだろう。
その吸血鬼が灼熱王めがけて眷属たるコウモリを放ち、その身を吹き飛ばそうとする。灼熱王はコウモリ達を焼き払おうとするが、超音波に押されてそのまま散り散りに吹き飛ばされてしまった。
《ヴァンパイア・レディ》ATK/1550
《灼熱王パイロン》ATK/1500
葵LP4000→3950
たかが50のダメージであるため、痛みもほとんど感じる事は無かった。闇のデュエルならば体感システムよりも強烈な痛みが襲ってきそうなのだが、この程度のダメージ量では無いも同然ということなのだろうか。
「《ヴァンパイア・レディ》が相手プレイヤーに戦闘ダメージを与える度、相手は私が宣言した種類のカードをデッキから1枚墓地へ送る。私が宣言するのは魔法カード!」
ここでモンスターカードと言ってくれればむしろ大喜びだったのだが、アンデット族使いだからか墓地アドバンテージの重要性はしっかりと認識されているらしい。俺のデッキが蘇生をある程度得意としていることがバレているわけではないと信じたい。
「俺は《戦線復活の代償》を墓地に送る。しかし《スーペルヴィス》の効果発動! 俺は墓地から《フェニックス・ギア・フリード》を特殊召喚!」
《フェニックス・ギア・フリード》ATK/2800
「あら、強そうなモンスターね。でも吸血鬼の恐ろしさに比べれば、人間の戦士なんて脆弱なオモチャに過ぎないわ! 《ヴァンパイア・ジェネシス》で《フェニックス・ギア・フリード》に攻撃! ブラッディ・スパイラル!」
「だが化け物を殺すのはいつだって人間と相場は決まっているんだよ。リバースカードオープン《デュアル・ブースター》! これにより《フェニックス・ギア・フリード》の攻撃力は700ポイント上昇する。返り討ちにしろ、フェニックス・スラッシュ!」
これでカミューラのデッキの最高攻撃力である《ヴァンパイア・ジェネシス》の攻撃力を上回った。始祖の吸血鬼は騎士に襲いかかろうとしたが、炎を纏った剣で斬りつけられ、浄化されるように全身に火が回って燃え尽きた。
《ヴァンパイア・ジェネシス》ATK/3000
《フェニックス・ギア・フリード》ATK/2800→3500
カミューラLP3000→2500
「そして《ヴァンパイア・ジェネシス》が破壊されたことにより、《ジェネシス・クライシス》は自壊する」
「このっ! カードを1枚伏せてターンエンドよ」
「俺のターン、ドロー! 《エヴォルテクター シュバリエ》を召喚」
《エヴォルテクター シュバリエ》ATK/1900
「バトル、《フェニックス・ギア・フリード》で《ヴァンパイア・レディ》を攻撃!」
「罠発動!《妖かしの紅月》! 手札のアンデット族モンスターを墓地に捨て、攻撃を無効にしてその攻撃力分ライフを回復するわ。そしてこのバトルフェイズは終了になるわよ」
《フェニックス・ギア・フリード》ATK/3500
カミューラLP2500→6000
「ならばカードを1枚伏せてターンエンドだ」
「私のターン、ドロー!」
カミューラのターンになり、引いたカードを見て何か思案顔で止まっていたが、不意にこちらへ向けて走るような足音が聞こえてくる。カミューラ以外のセブンスターズがここまで来るとも思えないし、つまりこの足音は…
「葵!」
やはり十代だった。そこまで時間はかけていないはずなのだが、十代の首元に鍵以外に飾りが二つぶら下がっているということは湖岸でのやり取りの後なのだろう。もちろん十代だけでなく鍵の守護者が全員来ており、ほとんどが俺がいることに驚いている。
「葵、なんでお前がここに!」
「言ってる場合か!」
正直なところ、三沢と問答している時間も惜しい。デュエルの音に気付いては知ってきたのだろうが、俺としては状況が悪化している。せっかくカミューラをここまで追いつめているのに、これでは人質に取られかねない。
「ちょうどいい所に来たわね! 魔法カード《幻魔の扉》発動! このカードはお前のフィールド上に存在する全てのモンスターを破壊し、その後このデュエル中に召喚されたモンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚できるわ。でもね、このカードを発動したプレイヤーが負けると、魂を幻魔に捧げなくっちゃいけなかったのよね」
悩んでいると思ったらやはりそのカードを引いていたのか…他の手札がないせいで使わなければ劣勢を覆せないが、使ってしまえば敗北が死と直結するため使うに使えなかったというところだろう。
「でもやっぱり闇のゲームなんだし、またアンタ達を利用させてもらおうかしらね!」
扉からの光を背に、どういう仕組みかカミューラが二人に増えた。増えた方のカミューラが空を飛び、狙っているのは…誰だったとしても放っておくわけにはいかない。
「シハーブ、取り押さえろ!」
『御意!』
シハーブがカミューラを止めようと追いかけるが、このままでは間に合わないだろう。俺はポケットに忍ばせていた物をカミューラ本体に向けて投げつけた。投擲すると同時に、念のため耳を塞いでおく。
「ギャッ!」
カミューラが短く叫び声をあげて耳を塞ぐ。俺が投げつけたのは博士謹製音響弾である。条件を変えて実験を重ねるうち、特定の周波数の音が発生させるとディエルタクティクスが著しく下がることがわかったのだ。
しかしある程度の音量が必要ということがわかり、研究所に置いてあった防犯用スタングレネードを改造して作ったのだそうだ。尤もスタングレネードが炸裂したら普通の人間でもデュエルに支障があるとは思うのだが…
この音響弾は分裂したカミューラにもダメージはあったようで、シハーブが取り押さえる事に成功していた。そしてタイミング良く十代が首から下げていた闇のアイテムも完成して十代達を守るようにバリアが発生した。
人質を取ろうなんてデュエリストの風上にも置けない、と言いたい所だがデュエルに兵器を持ち出した人間の台詞ではないだろう。
卑劣な手段を取られたからと言って仕返しをしてもいいとは思っていないが、こればっかりは命に関わる。正々堂々のデュエルで負けて自分が命を落とすのならいざ知らず、直接襲われたり負けを強要されて命を落とすのはあまりにも馬鹿馬鹿しい。
「コノ、糞ガキィ!」
カミューラの口が裂け、長い舌がぬるりと出てくる。この不快な声は聞いた事がある。コウモリとのデュエル実験で最初の一度だけ発生した現象、端的な機会音声がまるで誰かが乗り移ったように流暢かつ饒舌に喋ったときに聞いた声だ。
俺に対してはピンポイントな対策をしてはいないので本当に乗り移ったわけではなかったのだろうが、こちらが本性であり今までの艶やかな美女の顔は誘蛾灯のようなものだと考えてしまう。
いや、今はそんなことはいい。せっかく他の皆を守れたというのに、このまま何もしないと俺が《幻魔の扉》の餌食にされてしまう。この策が上手くいってくれればいいのだが…
「《幻魔の扉》にチェーンしてリバースカード、オープン! 速攻魔法《デュアルスパーク》! 俺は《エヴォルテクター シュバリエ》を生け贄に捧げ、《フェニックス・ギア・フリード》を破壊する! そしてカードを1枚ドロー」
「何だぁ!?」
「自分のモンスターを破壊だと!」
「ライフがほぼ初期値とはいえ、これでモンスターを蘇生させられればひとたまりもないはずなのにどういうことかしら…」
「ドロー目的だったとしても、自分のモンスターを破壊するぐらいなら《ヴァンパイア・レディ》の破壊をした方が…いや、まさか!」
放っておいても全滅するモンスター達を自ら一掃し、場をがら空きにした俺に対して鍵の守護者一同が疑念の声を漏らす。流石にイエロー主席こと三沢は気付いたようだが、さて答え合わせの時間だ。
「これで効果解決時に俺のモンスターが存在しないことにより《幻魔の扉》は不発となり、特殊召喚効果は使用できない。そして効果は不発になったとはいえ発動自体は無効となっていないため、負ければその魂を捧げるという誓約効果には従ってもらおう」
少々分かりにくいかもしれないが、一連の効果処理を行う時、最初の効果が処理できない場合、一部の例外を除けばそれ以降の効果も処理することができない。《幻魔の扉》はOCGには無いカードのため、その一部例外である可能性もあったがそうでなくて一安心だ。
今回の場合、破壊した後で蘇生を行うところまでが一連の効果だが、俺のフィールド上にモンスターがいなければ破壊することができない。そしてモンスターを破壊することができなければ蘇生することもできないということになる。
しかし誓約効果はあくまでカードの発動に対するものであるため、今回のようにカード効果が不発になったとしても発動を無効にされていない場合ならばその誓約は有効になるのだ。
「小賢しい真似を! 《ヴァンパイア・レディ》で直接攻撃!」
眷属のコウモリによる攻撃を仕掛けてくるのかと思ったが、《ヴァンパイア・レディ》は俺に接近すると鋭く尖った爪を勢いよく振り下ろした。とっさに両腕をクロスして防御体勢を取ったせいか、腕にわずかな痛みが走る。
《ヴァンパイア・レディ》ATK/1550
葵LP3950→2400
「…ん?」
数値上は《灼熱王パイロン》が破壊された余波の実に31倍のダメージである。それに腕を切り裂かれたのだから大きな痛みが走りそうなものだが、せいぜいデュエルディスクの体感システムと同じかむしろそれよりも痛みが少ない気がする。
それに先ほどはかすり傷のようなものだったせいか気がつかなかったが、傷つけられたはずの場所から痛みが引くのが早過ぎる。…痛みに快楽を覚えるような人種ではないので、ひとまず考えるのは後にするか。
「《ヴァンパイア・レディ》の効果でデッキから魔法カードを墓地に送ってもらうわ!」
「それならば、俺は《闇の量産工場》を墓地に送る」
「ターンエンド」
「俺のターン、ドロー…墓地の通常モンスターが3体のみの場合、そのうちの2体を除外することで《紅蓮魔闘士》を手札から特殊召喚することができる! さらに《紅蓮魔闘士》は1ターンに1度、墓地からレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚することができる!《エヴォルテクター シュバリエ》を特殊召喚!」
《紅蓮魔闘士》ATK/2100
《エヴォルテクター シュバリエ》ATK1900
蒼鎧の戦士と赤甲冑の騎士が並び立ち、戦士は猛々しい動きで大剣を担ぎ、騎士は整然とした動きで長剣を構える。見事に対となるような動きを見せてくれるのはありがたいが、片方には今からコストになってもらわなければいけない。
「そして魔法カード《馬の骨の対価》を発動、俺は場の《エヴォルテクター シュバリエ》を墓地に送り、カードを2枚ドロー!」
《ヴァンパイア・レディ》でちまちま魔法カードを墓地に送っていたが、上手い具合にカードが来てくれた。今引いた他にも魔法カードは入っているが、およそ組み合わせとしてこれ以上は望めないだろう。
「俺は《アームズ・ホール》を発動! デッキトップを墓地に送り、墓地の《スーペルヴィス》を手札に加える。ただしこのターン俺は通常召喚を行うことはできない」
「確かにそのカードは厄介だけどねぇ、追撃の可能性を捨ててまで手札に加えたかったのかしら?」
「追撃? 何を言っている。お前はこのターンで終わりだ」
「面白イ事ヲ言ウジャナイ!」
「俺は手札から《思い出のブランコ》を発動し、《エヴォルテクター シュバリエ》を特殊召喚!」
《エヴォルテクター シュバリエ》ATK/1900
赤甲冑の騎士は再び現れると同時に剣を抜き、払うように振るった後《ヴァンパイア・レディ》に向けてその切っ先を突きつけた。…次の行動は考えているが、それにしてもこの行動はそれが分かっているようにも感じられる。
「そして、《スーペルヴィス》を《エヴォルテクター シュバリエ》に装備し、再度召喚状態にする」
赤甲冑の騎士が炎を纏い、長剣を一度鞘に納める。そして腰を深く落として居合いの構えをとる。…以前も思ったのだが、切腹をしたり居合いの構えを取ったりと中身は侍のつもりなのかもしれない。
「再度召喚状態の《エヴォルテクター シュバリエ》の効果発動! 自分フィールド上の装備カードを1枚墓地に送る事で、相手フィールド上のカードを破壊できる!《スーペルヴィス》を墓地に送り、《ヴァンパイア・レディ》を破壊だ!」
俺が効果の発動宣言をするやいなや、重装甲からは思いも寄らない速度で《ヴァンパイア・レディ》に駆け寄り、鞘から剣を素早く抜き放って炎の斬撃を浴びせた。さらにその余波がカミューラに襲いかかろうとしたが、ライフダメージがないせいかカミューラに届く前に炎は消えてしまった。
「そして墓地に送られた《スーペルヴィス》の効果! このカードが墓地に送られた時、墓地の通常モンスターを1体特殊召喚する。《ヘルカイザー・ドラゴン》を特殊召喚!」
《ヘルカイザー・ドラゴン》ATK/2400
《アームズ・ホール》のコストとして墓地に送られていた《ヘルカイザー・ドラゴン》を墓地から蘇らせると、青い鱗の雄々しい竜は咆哮をあげてカミューラを睨みつけるように見下ろしていた。口の端からは煙が漏れており、すでに臨戦態勢のようである。
「何ィ!」
「行くぞ、《エヴォルテクター シュバリエ》で直接攻撃!」
赤甲冑の騎士は長剣を白く煌めかせ、カミューラの左肩から斜めに斬り下ろした。普通ならば派手にドレスが切り裂かれてあられもない姿になりそうなものだが、流石に服が切られている事は無かった。…残念だなんて思ってはいない。
《エヴォルテクター シュバリエ》ATK/1900
カミューラLP6000→4100
「続いて、《紅蓮魔闘士》で直接攻撃!」
蒼鎧の戦士は赤甲冑の騎士とは違い、斬るのではなく叩き潰すというようにカミューラの右肩へと大剣を打ち下ろした。吸血鬼とはいえ闇のゲームの前では平等なのか、カミューラが苦悶の声をあげる。
…俺が直接攻撃が受けたときにほぼダメージを感じなかったということは、俺が吸血鬼よりもまかり間違った何かということなのかもしれない。体感システムだと普通にダメージは受けていたので、闇のゲームであることが関係しているのは確実だろう。
《紅蓮魔闘士》ATK/2100
カミューラLP4100→2000
「トドメだ!《ヘルカイザー・ドラゴン》で直接攻撃! ヘルカイザー・バースト!」
竜の顎が大きく開かれ、その口から白色に近い熱光線が放たれ、カミューラの全身を覆い隠した。光線が止んでから目に映ったのは、苦しそうに膝をつくカミューラの姿だった。
《ヘルカイザー・ドラゴン》ATK/2400
カミューラLP2000→0
—————
そのとき、カミューラの背後に再び《幻魔の扉》が現れた。そして扉が開かれ、中から現れたモヤが手のような形となる。その手はカミューラの首を掴み、カミューラの中にあったナ二カを扉に引き込むと扉は閉まり、消え去った。
カミューラは魂を奪われたのであろう。カミューラがいた場所にはカミューラの着ていた服とチョーカー、そして成れの果てともいえる灰だけが残っていた。
なお、カイザーは別室に置かれたままであったらしい。俺が一階へと階段を降りる間に広間へと走ってやってきた。一同がカイザーの無事な姿に喜びの声をあげている。
そしてクロノス教諭はサンダーのポケットから元に戻ったようで、サンダーを下敷きにしたままキョロキョロと辺りを見回している。一応人形の間の記憶はあるそうだが、現実感のない状態だったようだ。
二人が無事に元に戻ったことにホッとしたが、そんな安堵を打ち壊すように地鳴りが鳴り響いた。そういえばこの城は湖の上に支えも無く浮いており、そしてその不可思議を起こしていたのはこの城の主であるカミューラに間違いはないはずだ。つまりそれは…
「城が崩れるわ!」
明日香さんが叫び声をあげると全員大急ぎで出口へと走る。さすがに崩れる城を固定したままでいられるような効果をもつカードは思い当たらないし、思い当たったとしても今手元に無いのであれば意味は無い。
城を脱出し湖のほとりに到着すると、城は倒壊して湖の底へと沈んでしまった。先に道が崩れたりしなくて本当に良かった。城の崩壊に巻き込まれたら助かりそうにないし、寒中水泳とは言わないが泳ぐにはまだまだ気温も水温も低い。
《ダークシー・レスキュー》を使うことも考えられたが、そうすると何故か水死体になるまで放置されるような気がした。機械族だから変な所で融通が聞かない気がするんだよな…一度確かめておくべきだな。
「葵、勝ったから良い物の、どうして一人で行ったんだ」
現実逃避のためにとりとめの無い事を考えてはみたが、現実からは逃げられないようだ。身体の前で腕を組んだ三沢は今までにないほどお冠の様子である。
助けを求めようと明日香さんの方を…目をそらされた。サンダーは…追い払うようなジェスチャーをされた。十代は…気付きもしねぇ。カイザーとクロノス教諭は…お疲れの様子でこちらも気付かない。
「葵、聞いているのか!」
「聞いている、聞いていないはずがない、だから落ち着いてくれ」
ものすごい剣幕で三沢に怒鳴られ、思わず後ろへと退いてしまう。《幻魔の扉》のことはカイザー敗北の報せと共に聞いていたとはいえ、その時に一人で突出しないように釘を刺されていたので言い訳にはならないだろう。
正直に話したところでさらに怒鳴られるのは目に見えているし、かといって嘘をついた所ですぐさま気付かれて火に油を注ぐだけになる。ドロー修行の副産物ともいえる脚力に任せて逃げたとしても、後日余計に怒鳴られるに決まっている。
どうやってこの怒れる友人を宥めるか、昇り始めた太陽に問いかけても返ってくるのは呑気に輝く夜明けの光だけであった。
今回《幻魔の扉》はアニメ基準の効果にしました。その結果、一連の効果処理とか不発と無効とか誓約効果とか、そりゃ専門学校もできるだろうよ! と叫びたくなるような面倒なやり取りをする結果になりました。
デュアルならば「《ヴィクティム・カウンター》で無効です」という非常に簡単な解決案もあったのですが、そうしたらカミューラの生存という可能性が頭をよぎり、その場合カイザーとクロノス教諭は人形のままじゃね? と考えてしまったのが運の尽き。
オカルトブラザーズを下僕にして高笑いするカミューラ、城の中にひっそり作った研究室で雷を背景に「完成だ!」などと叫ぶ狂科学者共こと博士と葵と三沢、いっその事あの城でお化け屋敷をしてやろうか。そんなことを考えた後、まとめて没にしました。
正義感の強い主要メンバー達と悪の女幹部よろしく人質作戦をするカミューラは反りがあわないでしょうし、葵が間を取り持つ理由もないんですよね…