幾何学的な模様の描かれたタペストリー、見た事も無い文字が羅列された古びた本、暗がり故に本物の人間を使ったかのようにも見える人体標本、そんな怪しげな物ばかりが置かれた部屋をロウソクの灯りだけが照らしている。
部屋の中に確認できる人影は三つ。どれもフードを被っており、その表情を窺い知る事は出来ない。しかしそれぞれが発する雰囲気からは焦燥感のようなものが感じ取る事が出来る。
机を囲むように座っている影の一つが同席者達を見渡し、重々しい口調で言葉を発した。
「予算が足りない」
その言葉を待っていたように、電灯が点いて部屋が明るくなる。薄明かりの中ではよく見えなかった机の上は、お菓子や紙が乱雑におかれており雰囲気が色々と台無しであった。
「よし、それじゃあ話し合いを始めようか」
先ほどの重たい口調とは打って変わって明るい声が飛んでくる。この声の主こそ、高寺オカルトブラザーズのまとめ役である高寺その人である。
「いやー、雰囲気作りのためとはいえスイッチの前で待機してくれてありがとう」
「それはいいんだが、予算が足りないってどういうことだ?」
予算が足りないような状況ということは、もしかしてアカデミアから援助が受けられなかったのか? それならばそもそも出店許可自体が出ていないということになるから別な言い方になりそうなものだが…
「いやぁそれがね、お化け屋敷をするために見積もりと一緒に教室の使用願を出したんだけど…他に教室を使うグループがないから、外にテントを建ててやることになってね。そうしたら教室にある机と展示用投影機を使えないから、全然予算が足りないんだよ」
非常に切ない理由だった。教室を却下したのは教務の都合なんだしある程度は融通を効かせてもらいたいところだが、あの机は固定されている。教室内で使うならば外した分をどこかに置いて、それ以外で順路のようにするつもりだったのだが…さすがにあの机を外に持ち出すのは骨が折れる。
それだけならまだしも、セットしたカードのソリッドヴィジョンを再生しつづける投影機が使えないとソリッドヴィジョンを使った演出がままならない。演出にデュエルディスクを使うと、ただでさえ人が足りないのに常駐する人数を増やさないといけなくなるんだよな…
「…今のところ予算を使う先って骨格標本とかがメインだし、そこを削るしかないんじゃないか?」
「それでも投影機は無理だよ…」
「だよなぁ…」
正直、かなりカツカツな予算設定をしていたのだ。しかもテントは教室よりも広いらしい。教室を却下した分の補填かもしれなかったが、こうなると逆に迷惑である。
「一応僕たちが個人的に物を買って使うのはいいらしいけど、そんなお金はもってないし…」
アカデミア内では通常の日本円はほぼ使われないため、ほとんどの生徒は金銭をこちらに置く事は無い。代わりにDP(デュエルポイント)と呼ばれるアカデミア内通貨が使われるのだが、それで購入できるのはカード以外は、ドローパン等の食品や学校で使う文房具ぐらいなものである。
「バイトをすれば…それでも現物かDPで支給されるしなぁ。そもそも手が出る値段だと思えない」
稀に購買などでバイトが募集されるが、それでも日本円は手に入らない。そもそも日本円を手に入れても使い道がほとんど無いからだ。一応定期便がくる前に代金と共に注文書を教務に渡せば取り寄せもしてくれるとはいえ、手間が勝ちすぎてそこまでする生徒は滅多にいない。
…例え博士に何か使えそうな機械がないか聞いてみたところで、投影機があるかも分からないし、貸し出しができたとしてもあんなものを研究所から運ぶなんてできないしなぁ。とりあえずダメ元で聞いてみるか。
今回の話し合いでは、デュエルディスクで演出する場合に必要な人数の概算をとり、足りない人数をどうやって確保するか話し合った後解散した。…それでもお化け屋敷でデュエルをしないという結論にならないあたり、流石デュエルアカデミアということだろうか。
—————
「…というわけなんですが、どうしたもんですかね」
明くる日、新しい機械のテストということでSAL研究所に呼び出されたので、ついでとばかりに先日高寺オカルトブラザーズと話し合った件について博士に意見を求めてみた。もちろんこれで機械を貸し出してもらえないか、という打算もある。
もはや勝手知ったるなんとやらで、インスタントコーヒーを博士に渡して俺の分も淹れる。当たり前のようにマイカップとかマイデスクとかがある時点で、もはやここに就職してしまっているかもしれない。
「ふむ…そういうことなら協力できなくもないだろうな。代田くんには色々世話になっとるし、何か考えてみよう」
「ありがとうございます。しかし世話になっているだなんて、こちらこそ博士のお世話になりっぱなしですよ。先日のコウモリの件だってこちらから色々お願いしたというのに」
「はっはっは、あれこそ良い実験材料の提供だったじゃないか。ほとんど普通のコウモリになってしまったとはいえ、まだ研究室で調査は続けておるぞ」
カミューラの魂が幻魔に捧げられたことで、《ヴァンパイアバッツ》もどきは精霊の気配がないただのコウモリとなっている。見た目からして変化があったようで、その瞬間を納めたフィルムが擦り切れるほど検証したとは博士の弁だ。フィルムカメラで撮影したわけではないので、擦り切れるというのはもちろん比喩なのだが。
「む、もうこんな時間か。それでは動作試験の続きといこうじゃないか」
「わかりました」
二人してコーヒーを一気に飲み干し、実験場に戻る。
扉を開けた途端、眩しさに思わず目を覆う。環境認識式フィールド形成装置ことFLOの動作試験のため、実験室を鏡張りにして起動するという何か間違えていないか非常に不安になる試験だ。
「それでは第五次試験73項、合わせ鏡実験を行う。テスター、デュエルディスク展開!」
「了解」
実験場にいる人間達が一斉にデュエルディスクを展開し、目の前の相手とデュエルをする構えをとる。ちなみに俺以外の人間は黒服さんたちで、話してみると結構気さくな人たちである。
「私の相手は代田くんか、お手柔らかに頼むよ」
「こちらこそ」
「FLO起動! 周辺環境認識プロセス…完了、フィールド形成プロセスに移行…完了、周囲のデュエルシステムとの同期…完了、それでは試験開始!」
「「デュエル!」」
「先攻はもらうよ、ドロー!」
黒服さんの先攻でスタートしたが、スクリーンを見る限り今回設定されたフィールドは《銀幕の鏡壁》ということで攻撃モンスターの攻撃力が半分になる。お互いに半分だから守備表示でない限り関係ない、と思うかもしれないがそうではない。
このカードの効果は“攻撃表示モンスター”ではなく“攻撃モンスター”に適用されるのだ。つまり攻撃しない限りは効果を発揮しない。しかし一度攻撃すれば攻撃力は半分になったままである。
「《スクリーチ》を攻撃表示で召喚してターン終了だ」
《スクリーチ》ATK/1500
いかんとも形容し難いモンスターが現れた。全体的に薄緑色の皮膚に覆われており、敢えて表現するならナマコにトカゲの足だけくっつけて尻尾を生やしたような生物だ。あとキィキィと耳障りな鳴き声を発している。
二足歩行だが腕はない。口はあるのだがただ穴が空いているようなものであり、あれが頭なのかは分からない。そして尻尾のようにも見えるが用途がわからない器官が生えている。間違いなく地上には存在しないだろう。もし見かけたらいくらか正気を失いそうだ。
「俺のターン、ドロー…」
さて《スクリーチ》を突破するには最低でも3000の攻撃力が必要となるが、正直かなり無理がある。ここはひとまず守りを固めて出方をうかがうしかないだろう。
「《デュアル・ランサー》を攻撃表示で召喚しカードを1枚伏せて、ターン終了です」
《デュアル・ランサー》ATK/1800
《スクリーチ》の効果は、戦闘破壊されたときにデッキの水属性モンスターを2体墓地に送るというものだ。それを嫌うなら守備表示で召喚すべきなのだろうが、状況が変化しないことにはどうしようもないので敢えて攻撃を誘ってみる。
「そうか、じゃあドローするよ」
しかし相手もこの状況は嬉しくないらしく、少し考え込んでいる。《スクリーチ》の効果が発動できるチャンスだが、手札が揃っていないのか、それとも何か別の懸念があるのか。
「バトル!《スクリーチ》で《デュアル・ランサー》に攻撃だ!」
「《デュアル・ランサー》、迎撃しろ!」
結局攻撃する事に決めたらしい。《スクリーチ》がバタバタと《デュアル・ランサー》に向けて走り出す。そこに突如間に鏡の壁が立ちはだかり、それにぶつかった《スクリーチ》は鏡の奥から現れた《デュアル・ランサー》の槍による一撃で身体を散らせた。
《スクリーチ》ATK1500→750
《デュアル・ランサー》ATK/1800
黒服LP4000→2950
「《スクリーチ》の効果により、デッキから水属性モンスターを2体墓地に遅らせてもらうよ」
ここで何を落としたのか、こちらのデュエルでは確認する事が出来ないのは非常に痛い。しかし水属性で落とすであろうカードは《黄泉ガエル》か《悪魂邪苦止》ぐらいしか思い浮かばないな。後は禁止カードの《キラースネーク》だが、これはないはずだ。そうでないなら《サルベージ》で回収するか、除外コストの可能性が高い。…まさか《瀑征竜—タイダル》とかいわないよな?
「墓地に送ったのは《素早いアンコウ》2体だ、それぞれの効果を発動し、デッキから《素早いアンコウ》以外の“素早い”と名の付いたレベル3以下のモンスターを合わせて4体特殊召喚するよ!《素早いマンタ》、《素早いマンボウ》、《素早いモモンガ》、《素早いムササビ》を特殊召喚!」
《素早いマンタ》ATK/800
《素早いマンボウ》ATK/1000
《素早いモモンガ》ATK/800
《素早いムササビ》ATK/1000
【素早い】か、そりゃ苦い顔にもなるだろう。《素早いムササビ》を効果でこちらに送りつけようと思っても、それによって受けるダメージが割にあわない。《素早いモモンガ》ですら回復が追いつかないし、他の“素早い”モンスターを含めて一斉攻撃したとしてもダメージが小さい。
「手札から速攻魔法《死者への供物》だ!《デュアル・ランサー》を破壊して一斉攻撃!」
《デュアル・ランサー》が除去されてまったくの無防備となってしまう。普通ならば総攻撃力2800の直接攻撃だが、《銀幕の鏡壁》があるせいで総攻撃力1400というリクルーター1体程度のダメージである。元のライフが少ないのでそれでも結構痛いのだが。
《素早いマンタ》ATK/800→400
《素早いマンボウ》ATK/1000→500
《素早いモモンガ》ATK/800→400
《素早いムササビ》ATK/1000→500
葵LP4000→2600
「さらにカードを2枚セットしてターン終了だよ」
「ドロー!」
正直なところシンクロやエクシーズが存在していたなら非常にまずいことになりそうだったのだが、この時代にそんなものはない。それでも《スパルタクァの呪術師》や《ジャンク・アタック》を併用されるとまずい展開にはなるが、まだ手札には無いようだ。
「《シャドウ・ダイバー》を守備表示で召喚します」
《シャドウ・ダイバー》DEF/500
本当なら攻撃表示で召喚しておきたいが、それでサンドバッグ…この場合殴り倒すのは《シャドウ・ダイバー》のほうだが…にされてもかなわない。守備力が低いとはいえ、攻撃力の半減した“素早い”モンスターでは突破することができないのでひとまず壁になってもらう。
「さらにカードを2枚伏せてターン終了します」
「さて、このターンは《死者への供物》の効果でドローはできないから…手札から魔法カード《強制転移》を発動しよう。さぁ《素早いムササビ》と《シャドウ・ダイバー》を交換してもらおうか」
さすがに転移ギミックぐらいは搭載されているか。これが成功したとしても、攻撃力が半減した《素早いムササビ》は一体目だけなので通してもこのターンは問題はなさそうだが、次のターンに《シャドウ・ダイバー》が攻撃可能になる。ここは止めておくか。
「リバースカードオープン、《ヴィクティム・カウンター》!《シャドウ・ダイバー》を裏側守備表示にして《強制転移》を無効にして破壊します」
「それでも押し通させてもらうよ、リバースカードオープン、《盗賊の七つ道具》だ。1000ライフ支払って、《ヴィクティム・カウンター》は無効だね」
どうしてもやりたいことのようなので、通さざるを得ない。しかし予想できるダメージだとまだ決着はつかない。やはり1ターン待ってから仕掛けてくるのだろうか。
黒服LP2950→1950
「バトルだね。《素早いマンボウ》で《素早いムササビ》を攻撃!」
なお、一度半減効果が適用されたカードに対しては《銀幕の鏡壁》の効果は発動しない。そのため《素早いマンボウ》を返り討ち、という現象は発生しないのだ。
《素早いマンボウ》ATK500
《素早いムササビ》ATK500
「バトルで破壊された《素早いムササビ》と《素早いマンボウ》の効果発動! 《素早いムササビ》の効果で代田くんに500ポイントのダメージ、特殊召喚効果は使わないよ。そして《素早いマンボウ》の効果でデッキから魚族モンスター1体を墓地に送って《素早いマンボウ》を特殊召喚だ。そして墓地に送られた《素早いアンコウ》の効果でデッキから《素早いムササビ》を特殊召喚するよ」
葵LP2600→2100
《素早いマンボウ》ATK/1000
《素早いムササビ》ATK/1000
「よし、一斉攻撃の前にリバースカードオープン、《天使のサイコロ》! 自分フィールド場のモンスターはエンドフェイズまでダイスの出た目の100倍攻撃力と守備力がアップする! ダイスロール!」
なるほど、さっきの伏せはこれだったのか。…なぜ前のターンに使わなかったのは気になるが、カウンターでも狙っていたのだろうか。ソリッドヴィジョンにサイコロが現れ、コロコロと転がっていく。出た目は…6、最大値だと!
「ダイスの目は6! よって全モンスターの攻守は600ポイントアップだ!」
《素早いマンタ》ATK/400→1000
《素早いマンボウ》ATK/1000→1600
《素早いモモンガ》ATK/400→1000
《素早いムササビ》ATK/1000→1600
《シャドウ・ダイバー》DEF/500→1100
ここから《素早いマンボウ》と《素早いムササビ》は《銀幕の鏡壁》で半減するから、総計2800の攻撃か。さすがにこれを喰らえばひとたまりもないな。
「リバースカードオープン、《正統なる血統》! この効果で《デュアル・ランサー》を攻撃表示で特殊召喚します」
《デュアル・ランサー》ATK/1800
「む、さすがにそれじゃあ手出しできないなぁ。あまり意味はないだろうけど《シャドウ・ダイバー》を再度召喚させてもらって、ターン終了かな」
《素早いマンタ》ATK/400→1000
《素早いマンボウ》ATK/1600→1000
《素早いモモンガ》ATK/1000→400
《素早いムササビ》ATK/1600→1000
《シャドウ・ダイバー》DEF/1100→500
「俺のターン、ドロー!」
大量展開されたままで除去カードを引かれてしまうと、今度こそ押しつぶされる。一回だけではすぐに並べ直されてしまいそうだが、ここは無理矢理にでも相手を一掃してしまうことにしよう。
「手札から装備魔法《スーペルヴィス》発動! このカードを装備したモンスターは再度召喚された状態になり、また表側表示のこのカードが墓地に送られた時、墓地の通常モンスターを特殊召喚することができる。俺はこのカードを《シャドウ・ダイバー》に装備する!」
「おいおい、《シャドウ・ダイバー》はもう再度召喚したじゃないか、二度手間って奴かな? きっと蘇生目的だろうけどね」
「二度手間っていうなっ! って、こっちの狙い分かってるんじゃないですか!」
ノリツッコミのようになってしまったが、黒服さんは朗らかに笑っていた。黒服さんからの微笑ましいものを見るような目に、なにやらむず痒いものを感じる。…気のせいか、周りでデュエルしている他の黒服さん達からも似たような視線を感じる。
「あー…いきます!《デュアル・ランサー》を再度召喚して貫通効果を与えます! バトル!《デュアル・ランサー》で《シャドウ・ダイバー》を攻撃!」
《デュアル・ランサー》ATK/1800→900
《シャドウ・ダイバー》DEF/500
黒服LP1950→1450
「そして再度召喚された状態のデュアルモンスターが戦闘によって破壊されたため、《二重の落とし穴》を発動! 相手モンスターを全て破壊します!」
《二重の落とし穴》の発動条件は“再度召喚した状態のデュアルモンスターが戦闘によって破壊されたとき”なので、相手のデュアルモンスターでも構わないのだ。そのためミラーマッチだと、お互いにこのカードで一掃しにくることがたまにある。
「ならば《素早いマンタ》の効果を発動だ。このカードが効果にとり破壊されたとき、デッキから《素早いマンタ》を好きなだけ特殊召喚することができる。この効果で2体特殊召喚しよう」
《素早いマンタ》ATK/800
《素早いマンタ》ATK/800
「《スーペルヴィス》の効果により、《シャドウ・ダイバー》を特殊召喚!」
《シャドウ・ダイバー》ATK/1500
「ターン終了です」
「よし、ドロー! …それじゃあ切り札を使わせてもらうおうか!《素早いマンタ》2体を生け贄に、《超古深海王シーラカンス》を召喚!」
《超古深海王シーラカンス》ATK/2800
二匹のマンタが光と消えたあと、地鳴りとともに地面が揺れる感覚に襲われる。さすがにここの体感システムは優秀である。半ば感心しながら震源のあるであろう場所を見ると、地面から巨大なシーラカンスが勢いよく浮上してきた。
サファイアの様に輝く瞳、全身に複雑な紋様が描かれており、頭には王冠のようなものを載せている。まさに深海の王にふさわしい風格である。…なお、他にも深海王やら海王やらがいるのは気にしてはいけない。
「そして《超古深海王シーラカンス》のモンスター効果! 手札を1枚捨てることで、デッキからレベル4以下の魚族モンスターを可能な限り特殊召喚する! 来い、《素早いアンコウ》、《素早いマンボウ》、《メタボ・シャーク》、《オイスターマイスター》!」
《超古深海王シーラカンス》が天に向けて咆哮をあげると、地面から次々と魚達が飛び出してきた。…オイスターは牡蠣だが、魚族なので魚ということにしておく。
《素早いアンコウ》ATK/600
《素早いマンボウ》ATK/1000
《メタボ・シャーク》ATK/1800
《オイスターマイスター》ATK/1600
「と並べてみたは良いけど、効果は無効になってるし、攻撃もできないんだよね」
「《銀幕の鏡壁》も対象にとる効果ではないので、《超古深海王シーラカンス》の効果じゃ無効にできませんしね」
《超古深海王シーラカンス》にはカードの対象となった時、自身以外の魚族モンスターを生け贄に捧げる事でその効果を無効にして破壊するという強力な効果をもつ。つまりこのモンスターには全体除去か対象をとらない効果でない限り、効果による破壊を考えるのは無謀だろう。何せデッキに魚族がいる限り、手札を捨てれば呼び出し続けられるのだ。息切れするのは間違いなく除去する側だろう。
「おや、知っていたのか。まぁいい、バトルだ。《超古深海王シーラカンス》で《デュアル・ランサー》に攻撃! エンシェント・ウェーブ!」
《超古深海王シーラカンス》の瞳が輝き、地面に潜っていった。《デュアル・ランサー》は目の前から失せた相手を探して周囲を見渡しているが、代わりに現れたのは波であった。一部は鏡に跳ね返されたようだが、それでも本来海に暮らしているのであろう《デュアル・ランサー》を飲み込み、逆らうことすら許さずに押し流した。
《超古深海王シーラカンス》ATK/2800→1400
《デュアル・ランサー》ATK/900
葵LP2100→1600
「カードを1枚伏せてターン終了だ」
「俺のターン、ドロー!」
さすがに《超古深海王シーラカンス》を正面から突破するのは現実的じゃない。今は半減しているとはいえ、こちらも結局半減するのならば2800の攻撃力を用意してやっと相打ち、それでも壁の魚達は残ったままで相手へダメージが通る事は無いだろう。
「俺は手札から《インフィニティ・ダーク》を召喚! さらに魔法カード《思い出のブランコ》発動! この効果により、墓地の《デュアル・ランサー》を攻撃表示で特殊召喚!」
《インフィニティ・ダーク》ATK/1500
《デュアル・ランサー》ATK/1800
「そして、手札から速攻魔法《フォース・リリース》を発動! これにより俺の場にいる全てのデュアルモンスターは再度召喚された状態となる! そして再度召喚された《シャドウ・ダイバー》の効果発動! 闇属性レベル4以下のモンスター1体はこのターン直接攻撃することができる! 俺は《シャドウ・ダイバー》自身を選択!」
「おっと、それじゃあリバースカードを使わせてもらうよ。《悪魔のサイコロ》!相手フィールド場のモンスターはエンドフェイズまでダイスの出た目の100倍攻撃力と守備力がダウンする! ダイスロール!」
うっ、こんなときに全体弱化か…試算したときにはギリギリだったし、あまり大きい目どころか2か3ですらトドメを刺しきれないかもしれない。そうすれば返しのターンに《超古深海王シーラカンス》に叩きのめされるだろう。はらはらしながらサイコロの行方を見守り、出た目は…1!
《インフィニティ・ダーク》ATK/1500→1400
《シャドウ・ダイバー》ATK/1500→1400
《デュアル・ランサー》ATK/1800→1700
「バトル!《シャドウ・ダイバー》で直接攻撃! リッピング・フロム・シャドウ!」
《銀幕の鏡壁》による半減効果は“元々の攻撃力”ではなく“攻撃力”を参照する。つまり強化された状態で攻撃しても強化分もろとも半減されてしまうということだが、弱体化した状態ならその減数分も半分になって“元々の攻撃力”を参照するよりも最終的な攻撃力変動は小さくなるのだ。
《シャドウ・ダイバー》ATK/1400→700
黒服LP1450→750
「そして《インフィニティ・ダーク》で《素早いアンコウ》に攻撃! 再度召喚された《インフィニティ・ダーク》の効果発動! 攻撃宣言時に相手モンスター1体の表示形式を変更する!《素早いマンボウ》を守備表示に変更!」
漆黒のヒーローは身体の紋様を白く光らせながら鏡の壁にむけて飛び込み、割れた鏡の破片を一身に受けながらも《素早いマンボウ》の側面に飛び出す。そして《素早いマンボウ》を蹴って《素早いアンコウ》へと方向転換し、宙返りを披露したあと踵落としで《素早いアンコウ》を蹴り落とした。
《素早いマンボウ》ATK/1000→DEF/100
《インフィニティ・ダーク》ATK/1400→700
《素早いアンコウ》ATK/600
黒服LP750→650
「ラスト! 《デュアル・ランサー》で《素早いマンボウ》に攻撃!」
《デュアル・ランサー》ATK/1700→850
《素早いマンボウ》DEF/100
黒服LP650→0
—————
どうやら俺たちは比較的早くにデュエルが終了したようで、他のところが終わるまで黒服さんと今回のデュエルの反省会をしてみることにした。
「しかし《銀幕の鏡壁》は厄介だったね」
「本来なら維持コストがかかるので長持ちしなかったのですが、今回は破壊する事すらできなかったですからね…」
本来ならば毎ターン2000という莫大なライフコストによって維持されるものが最初からずっと適応されっぱなしだったのである。片側だけに適応されていたら一方的な展開が容易に想像でき、ライフコストをかけられるだけはあると頷くしか無い。
「それにしても、なんで《天使のサイコロ》を伏せたんですか? こちらは無防備でしたし、普通に攻めてきても良さそうでしたが」
「あぁ、あれか。もしかしたらあと1体召喚できるかな、って思ったんだよ。いやぁ、欲張っちゃだめだね」
4体で使うのがもったいなかったのか…普通のデッキでは4体並ぶのも一苦労だというのに、なかなか贅沢な話である。あのデッキならば大量展開が可能なので、他にも全体強化カードは何枚か採用しているそうだ。
「ところで代田くんも、《死者への供物》を《ヴィクティム・カウンター》で無効にしても良かったように思うんだが、どうなんだい?」
あぁ、あれか…俺も発動しようかどうか悩んだが、後にもっと面倒なカードを発動されたくなかったんだよなぁ。とくに《ジャンク・アタック》が来ると延々と自爆特攻をされてバーン効果によって負けそうだったし。
「手札に他のモンスターもいましたし、警戒していたカードもありましたからね。ひとまず見逃したんですよ」
《強制転移》に発動したのは、《シャドウ・ダイバー》を渡してしまうと直接攻撃でこちらの壁を無視される可能性があったからである。《銀幕の鏡壁》で半減されるとはいえ、大ダメージの望めない状況では750というのはやはり痛い。
「そういうことか」
などと話している間に他のところのデュエルも終わったようだ。実験室から退室するように促す放送が聞こえてきた。どうやら次の環境をつくるようだ。次はどんなフィールドになるのか…あまり変なフィールドにならないことを祈りながら、待機室に戻ったのであった。
現場で働く大人から見たら、社会を知らない高校生なんてまだまだ子供ですとも。
意識が別事に持っていかれて敬語が崩れる子供とか、微笑ましくないですか?
…身体のデカい野郎がやっても気持ち悪いだけですけどね。むしろあの世界はデュエリストなら目上の人にもタメ口というのがほぼ当たり前ですよね。実力主義なら仕方ない。
最後の反省会ですが、あれ以外にもお互いにやらかしています。
《銀幕の鏡壁》は攻撃宣言時に適応されるというのに黒服さんがサイコロをダメステ発動してなかったり、膠着すると分かっているのに先に《デュアル・ランサー》を召喚しちゃう葵だったり、黒服さんが《超古深海王シーラカンス》の効果で呼んだ魚にステータスの低い“素早い”を混ぜちゃったり…完璧なプレイは中々できないものです。そうしないと負けそうだったからなんですけどね!←