二度手間っていうなっ!   作:祐弘千尋

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18.労働修行っていうなっ!

 

 今日のドロー修行は海での素潜りドローだ。日の昇るギリギリの時間から水着に着替え、ドローの動きで海藻を引きちぎっては籠に入れている。同行している大山は恐るべき身体能力で魚を何匹かドローすることに成功している。…そこまでいくとドローだけじゃない何かが手に入っていそうだ。

 

「アン・ドゥ・ドロー! アン・ドゥ・ドロー!」

 

 岸にあがると早朝だというのに、三沢、そして十代と愉快な仲間達がカードを延々とドローするという修行を行っていた。三沢はやる気満々な声だが、十代達は面倒くさそうだ。

 

「三沢、お前もドロー修行か?」

 

 そう言いながらあらかじめ準備しておいた簡易的な竃に火をつけ、持参した鍋に海藻を突っ込んで出汁をとる。流石に朝から素潜りをすると身体が冷えて仕方がないので、早く温かいスープを飲みたい。

 

「あぁ、今はセブンスターズも動きを見せていないが、既に七精門の鍵は二つ開けられている。万全を期すべきだろう」

 

 三沢がこちらに気をそらした隙に、十代や翔は休憩とばかりに何か喋っている。アイドルカードがどうこう言っているが、好きなカードをデッキに組みこむ事はよくある事だ。俺の場合はデュアルモンスター全てがアイドルカードと言っても過言ではない。

 

「まったく、軟弱な…真剣にデッキを組んでいたら、あのような不純なカードは一枚も入らないはずだろう」

 

「いや、《白魔導士ピケル》を使ったお前が言うのか?」

 

「最低でも初期ライフの一割を毎ターン回復できるんだ。《ハイドロゲドン》のように展開力のあるカードと並べれば、持久戦にはちょうどいいじゃないか」

 

 どうやら学園対抗デュエルの予選でお目見えした《白魔導士ピケル》が入っていたのは不純な目的ではなかったようだ。そうだよな。あの後、幼女趣味なのではないかという噂が流れても、そんな奴ではないと否定する奴が必ず出るぐらいに堅物だと信じられている三沢である。

 否定する奴がやけにガタイの良い男ばかりで、その後決まって三沢は女には興味がないに違いない、そんなことより俺の筋肉を見てくれ、と強く主張していたがそれは関係ないか。

 

「でもこういうカードがあると、ピンチの時に癒されるんだよ」

 

「喝!」

 

 翔が言い訳のようなことを言って三沢に怒鳴り返されていた。ピンチの時に《雷電娘々》を手札に持った来たとして、【ビークロイド】だと邪魔になるんじゃなかろうか…

 

「あ、そうだ三沢。今日はちょっとした用事で授業にでれそうにないんだ。すまないが連絡を頼まれてくれないか」

 

「また研究所か? わかった、伝えておこう」

 

 今回は研究所関連じゃないんだが、訂正する間もなく三沢はドロー修行へと戻ってしまった。まぁいいか、ちょうど大山の採った魚も煮えた頃合いだ。スープを飲んだら今日も森に向かうことにしよう。

 

—————

 

 そこにいる男達は照りつける日差しの中、滴る汗には目もくれず、前だけむいて石を運び、決められた通りに積んでいく。まるで奴隷にでもなったかのように、ただただ愚直に作業を続ける。

 

 見張りなのか、大きな虎が俺の近くを通り過ぎる。あれに襲われれば人間なんてひとたまりもないだろう。目に余るほどの休憩を取ろうとする男には容赦なくその牙を見せ、作業の再開を促している。

 

 しかし現代に産まれ、近代的な暮らしをしてきた学生たちにとっては過酷な重労働である。高寺を見ると息があがり、今にも倒れそうである。ドロー修行のために心身共に鍛えている俺ですら、なんど挫けそうになったか分からない。いや、大山を見ろ。あの男は汗をかいてはいるものの、その目は輝き、歩みはまったく鈍っていない。

 

 森で虎に連れられた先にあるこの場所で作業に精を出す男達。しかし誰一人文句を言うこと無く作業を続け、ようやく終わりが見えてきた。あともうひと頑張り、そのひと頑張りで俺たちは…

 

「なんだここは!」

 

 聞き覚えのある声がしたが、そんなことよりこの石材で客席を完成させてしまわねば。あらかじめ加工されているおかげで設置するだけなのはありがたいが、万が一にも落として欠けさせると見栄えが悪くなる。

 …よし、これで客席部分は完成したか? 石材は俺が運んだもので最後のはずなので、置き間違えが無いかを念入りに確認する。座席よし、階段よし、石柱よし、問題ないな。それに歪みもなさそうである。

 

「この通りコロシアムは完成した。者ども、感謝するぞ!」

 

 褐色の肌、筋骨隆々とした肉体、群れを統べる者の覇気とも言える物を纏う我らが雇い主兼現場監督の声が響き、作業員一同から歓声が上がる。疲れのあまり座り込む者や大の字になる者もいるが、一様に満足げな表情である。かれこれ一週間程だったが、空きコマや放課後遅くまで作業した甲斐があったというものだ。

 どうやらボスこと雇い主のペットの虎が気を利かせて森に来た人間を誰彼構わず引っ張ってきていたらしく、おかげで完成までの時間が非常に短縮された。…クロノス教諭が来た時は何があったのかと思ったが。

 

「皆さ〜ん、ありがとうね、協力してくれて。おかげで立派なコロシアムができたわ。これはほんの気持ち、ありがとね、お疲れさん、今日はゆっくり休んでね」

 

 座っていた奴や寝転んでいた奴をコロシアムのステージに引っ張って、雇い主の前で整列すると猫なで声で給料袋を渡された。…クロノス教諭がボスに追いかけられコロシアムから逃げ出したが、そんなに怖がらなくともボスは気のいい虎なので、まずいことをやらかさない限り危害を加えられることはない。

 クロノス教諭を目で追っていると、十代達がいるのに気付いた。一瞬彼らも作業員だったかと思ってしまったが、恐らく今日授業を休んでまで作業に参加した奴が多すぎて捜索に来ていたのだろう。そうでなくても…

 

「私はタニヤ。偉大なるアマゾネス一族の末裔にして長。そしてセブンスターズの一人。このコロシアムで七精門の鍵をかけた聖なる戦いを行う!」

 

 この通り、雇い主がセブンスターズの一人なのだ。鍵の守護者が全員集まってくるというものだろう。そしてアマゾネスというのは世界のどこかに存在するという女性だけで構成された一族であり、このタニヤも当然女性だ。

 

「でもね〜、アタシと戦うことができるのは男の中の男だけ」

 

「何よそれ!」

 

 先ほどまでの堂々たる口調と打って変わって媚びるような声だが、作業員一同はこれが演技でも何でも無いと知っているので動揺するような者はいない。というよりも全員さっさと帰ってしまっている。俺は鍵の守護者という立場上、十代達のところにいるのだが。

 

「我こそは男だと言う者、出てこい!」

 

 十代、三沢、万丈目が次々に名乗りを上げる。なお鍵の守護者以外で一緒に来ていた大特集教諭はいつの間にか離れた場所で隠れており、翔と隼人も名乗り出るつもりはないようだ。俺も今回はパスさせてもらう。

 

「あら、葵は立候補しないのね」

 

「俺はまだまだ修行中だからな」

 

 正直なところ、コロシアム建設の筋肉痛と疲れでデュエルディスクを構えるのが辛い。ドロー修行に励んで入学時とは比べるまでもないようなたくましい身体になったとはいえ、まだまだ修行が足りないようだ。

 

「面構えは皆悪くないけど…You!」

 

 三沢が指差され、選ばれなかった二人が残念そうに戻ってくる。明日香さんは除け者扱いにへそを曲げているようで、軽く頬を膨らませてプイとそっぽを向いてしまった。

 

「お前、名前は」

 

「俺は三沢大地。この日のためにずっと準備をしてきた。俺は絶対に勝つ!」

 

 三沢は意気込み十分である。選抜基準が男の中の男ということで、余計に張り切っているのかもしれない。

 

「ここに、お前の明暗をわける二つのデッキがある。一つは知恵のデッキ、一つは勇気のデッキ。お前に自分の運命を選択させてやろう」

 

「もちろん、知恵のデッキと勝負だ。俺は動かざること地の如し、地のデッキで相手をしよう」

 

 タニヤが手に乗せた二つのデッキ、そして三沢がジャケットに仕込んだ六つのデッキ。偶然にも複数デッキを持ち歩く者同士の対戦である。それぞれの相性などもあるだろうが、三沢は当然のように知恵のデッキを指名し、そして自分は【地属性】を選択した。【アマゾネス】が地属性戦士族であることに対抗したのかもしれない。

 

「いいだろう。言い忘れていたが、このデュエルは闇のゲームではない」

 

 鍵の守護者一同に動揺が走る。今までの刺客達は勝つためには人質をとる等の手段をいとわず、なおかつ敗者は魂を奪われる闇のゲームを行ってきたのだ。それが今回は闇のゲームではない真っ当なデュエルだという。

 

「魂なんていらな〜い、私はお前自身が欲しいの! つまり、私が勝ったらお前自身を婿として連れて帰る!」

 

「む、婿!? 訳の分からんことを、それなら俺が勝ったらどうする!」

 

「そしたら私、三沢っちのお嫁さんになってあげる!」

 

 魂を奪った所で活用する方法なんてものがそうそうあるわけでもないだろうし、ましてやアマゾネスの長としては婿をとることで一族を繁栄させることの方が重要なのだろう。魂の抜け殻なんて荷物にしかならないだろうしな。

 しかしタニヤは三沢をいたく気に入っているようで、負けたら嫁入りするつもりのようだ。…そんなにあっさり一族を放り出してもいいものなのだろうか。さすがにアマゾネスの社会事情なんてものは知ったことではないので、長が良いというならば良いのだろう。

 

「このデュエル…なんか羨ましいかも」

 

 翔が呑気なことを言っており、万丈目や隼人も嫁や婿という単語に反応して羨ましそうにしている。…お前ら頼むから、ただでさえ機嫌の悪い明日香さんの冷たい目線に気付いてくれ。気は進まないが一応フォローしておくか…

 

「デュエルで比喩でなく墓場行きにされるのと、比喩的に墓場行きにされるのはどっちが幸せなんだろうな」

 

「どうでもいいわよ」

 

 滑った、盛大に滑った…! 嫉妬とかそういうものじゃなく、何故この状況でそんな能天気な事言ってるのかという冷たい目線に背筋がゾクゾクする。とある性癖を持つ人物にはご褒美かもしれないが、若干殺気を感じるので俺としては遠慮したい。

 

「お前など嫁にするつもりは毛頭無いが、このデュエルには絶対勝つ!」

 

 羨ましそうな翔、顔を赤らめぼんやりする隼人、うっとりして口の端から少しよだれが出始めたサンダー、自分に関係なさそうなので安心している大徳寺教諭、なんだか良く分からないけどデュエルの気配にワクワクしている十代、男どもに呆れて見ない事にしはじめた明日香さん。そんな混沌とした外野の様子は放置して、当事者二人はデュエルを開始するようだ。

 

「いくぞ!」

 

「「デュエル!」」

 

—————

 

 デュエルが終わると、邪魔者は帰れと言わんばかりにコロシアムから追い出されてしまった。三沢は負けて婿入りすることとなったが、相手がセブンスターズとはいえ両思いなら別にいいんじゃないかな…

 

 そう思っていたのだが、一日もしないうちにコロシアムから三沢が出てきた。話を聞く限りどうやら振られたようで、三沢の全デッキを持ってしてもまったく敵わなかったということだった。

 

 その日はとりあえず肉体的には全員無事に帰ってきたので、それぞれの寮へと戻って翌日また集まる事になった。しかし集まったところで聞いた限り、三沢は酷い有様だったようだ。

 何故かレッド寮食堂で食事をしているかと思えば、オムライスにイチゴジャムをかける、ソースやタバスコを飲む、授業中や休み時間も終始心ここにあらずといった具合だ。

 

 仕方が無いので俺がデュエルを挑む流れとなった。デュエル場に三沢を呼び出し、鍵の守護者全員で待ち構える。そこに三沢がふらふらとした足取りでこちらへと歩いてきた。

 

「俺とデュエルしないか?」

 

「…無理だ、俺にはできない」

 

 三沢は静かに首を振り、力なく答えた。そういう気分でないのか、はたまたそれ以外の要因でデュエルをすることに抵抗があるのか。…両方かもしれない。

 

「なんでだよ! びびっちまったのか?」

 

「びびってる? 俺が?」

 

 十代の問いに対し、三沢は自嘲するように笑った。そこには己の理論と計算からくる自信に満ちあふれたいつもの三沢の姿はなく、燃え尽きたような姿には覇気の欠片も無い。

 

「そうじゃない、わからなくなってしまったんだ」

 

「女がか?」

 

「馬鹿な、デュエルが、だ」

 

 むしろ元から女の事なんて、この中では明日香さん以外は誰一人ろくに分かっていないと思われる。もちろん俺もわかっていない。

 

「あのタニヤという女は、闇のデュエリストでありながら、その潔い戦いに姑息さはなく、まっすぐに向かってくるあの姿には尊敬の念さえ覚えている。彼女に会いたい! そして再びデッキを交えたい!」

 

 言葉にするうちに自分の感情の方向が定まってきたようで、話すにつれて三沢の語調は熱くなり、その瞳には確固たる意志が宿る。

 

「デッキとデッキを交えた者のみが感じられる絆のようなものか」

 

「だが、今の俺の実力ではタニヤを満足させられるようなデュエルができない。それが情けなくて、悔しくて…」

 

 三沢の言葉は無力な己を責めるようで、それを否定しようにもその材料が見当たらず、ただただ後ろ向きな物だった。

 

「よかったな、三沢。そんなデュエリストに出会えて」

 

「え」

 

 十代の言葉に三沢はあっけにとられたような声を出す。たしかに尊敬できる対戦相手に出会えた事は純粋に喜ぶべき事である。十代はごちゃごちゃ考えるずに前向きに捉えているようだ。何も考えてないともいうが、下手な慰めよりもよっぽど効果的である。

 

「俺ますますやってみたくなったぜ、あのタニヤって奴と! 羨ましいぜ、三沢っち!」

 

 最後に十代が茶化すように言い、その場は解散となった。今俺が三沢に声をかけても傷心をどうにかすることもできないし、大人しく部屋に戻ろう。

 

—————

 

 そして夕方、三沢からPDAに連絡が届いた。相談があるということだったが、恋愛的なアドバイスなんか出来そうにない。兎にも角にも呼ばれた場所までいくことにした。

 

「シハーブ、お前恋愛相談なんかはできるのか?」

 

『ふむ、そうですな。《エンジェル・魔女》殿から魔女的天使な女性の口説き方というものならご教授頂いたことがありますぞ』

 

 シハーブは自慢げな顔でそう言ってきたが、魔女的天使ってなんだよ。すくなくともタニヤは魔女的天使というよりは野性的女王であるため、今回の相談がタニヤ関係なら使えるかどうか微妙な所だ。

 

「いっそKMA達に相談した方が良いかもな…」

 

 よくわからない魔女的天使な女性よりは、大山に恋いこがれる雌熊のほうが相談相手に適しているような気がする。喋れるわけではないがこちらの言葉はある程度理解している節があり、写真や図を使って質問をすれば返答のようなものをもらえる。

 …俺と大山と博士の写真を貼ったカカシを置いてどれが魅力的かと質問したら、俺のカカシと博士のカカシを投げ捨てて大山のカカシの足下で丸くなったしな。さらにどのぐらい魅力的かという質問にはカカシへのベアハッグと頬擦りが返ってきた。他二人のカカシは投げ捨てられたまま放置である。興味が無いらしい。

 

「さて、指定の場所はここだが…」

 

 指定された教室で、三沢がデュエルディスクを展開して待っていた。なるほど、そういう相談方法か。ならばわかりもしない女性心理を考える必要も、雌熊への相談の仕方を考える必要もない。デュエルディスクを展開して構える。

 

「怒ってるか?」

 

「むしろ嬉しいぐらいだ」

 

 主語が色々足りないが、通じるならば問題は無い。こういう相談は初めてだが、十代曰くデュエルをすれば相手の事が分かるらしいのできっと大丈夫だろう。…今更かもしれないがこんな思考になるあたり、俺もデュエル脳だなぁ。

 

「「デュエル!」」

 

「ドロー! 俺は《磁石の戦士Σ+》を召喚してカードを一枚伏せる。ターンエンドだ」

 

《磁石の戦士Σ+》ATK/1800

 

「俺のターン、ドロー。俺は永続魔法《金剛真力》を発動、この効果で手札からレベル4以下のデュアルモンスター、《幸運の笛吹き》を攻撃表示で特殊召喚。さらに《水面のアレサ》を攻撃表示で召喚し、カードを2枚伏せてターンエンド」

 

《幸運の笛吹き》ATK/1500

《水面のアレサ》ATK/1500

 

「ドロー、俺は《磁石の戦士Ω−》を召喚してバトルだ! 《磁石の戦士Ω−》で《水面のアレサ》を攻撃!」

 

《磁石の戦士Ω−》ATK/1900

 

「リバースカードオープン、《ジャスティ・ブレイク》! 通常モンスターが攻撃されたとき、表側攻撃表示の通常モンスター以外の全てのモンスターを破壊する」

 

 こんなあからさまな罠に突っ込んでくるとは、まだ失恋のショックで冷静さを欠いているのだろうか。対策カードがなかったならば別だが、三沢の様子だと攻めに焦っているようにしか見えない。

 

「速攻魔法《我が身を盾に》! ライフを1500払い、相手のフィールド上のモンスターを破壊する効果を持つカードの発動を無効にし、破壊する!」

 

三沢LP4000→2500

 

「ならば更なるリバースカードオープン、《ヴィクティム・カウンター》! デュアルモンスターを一体裏側守備表示に変更し、相手の魔法カードを無効にして破壊するカウンター罠だ。俺は《幸運の笛吹き》を裏側守備表示にして《我が身を盾に》の発動を無効にする」

 

 一応対策はあったようだが、その先までは見てなかったようだ。いつもの三沢ならばカウンターを予期してもおかしくないのだが、やはり本調子ではないらしい。こちらも《幸運の笛吹き》を破壊することになったとはいえ、被害の度合いは三沢の方が上だろう。

 

「くっ、俺はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー。《インフィニティ・ダーク》を攻撃表示で召喚し、バトルだ《インフィニティ・ダーク》で直接攻撃」

 

《インフィニティ・ダーク》ATK/1500

 

 このまま全モンスターによる直接攻撃が決まってしまえば俺の勝ちである。伏せカードもあるのでそう簡単にいくとは思っていないが、簡単にいってしまうのならばそこまでである。

 

「罠発動、《リビングデッドの呼び声》! 蘇れ《磁石の戦士Ω−》!」

 

「チェーンして速攻魔法《デュアルスパーク》を発動。《インフィニティ・ダーク》を生け贄に、《リビングデッドの呼び声》を破壊し、カードを一枚ドローする」

 

 永続罠は発動にチェーンして破壊された場合、効果は不発となる。そうでなくとも《リビングデッドの呼び声》が破壊されれば蘇生モンスターも道連れとなるのだが。

 

「《水面のアレサ》で直接攻撃」

 

 青く丈の短い着物を着た乙女が手に持つ花を振るとその足下に波紋が広がり、三沢に当たった途端に水柱が立ち上って三沢を包み込んだ。

 

《水面のアレサ》ATK/1500

 

三沢LP2500→1000

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

 攻めに焦っている三沢の動きを一つ一つ潰してきたわけだが、相談したいことがなんとなく伝わってきたような気がする。具体的な言葉として表せないが、三沢の心中というか感情の動きがデュエルを通して伝わってくる。

 

「俺のターン、ドロー! …俺は手札から魔法カード《マグネット・コンダクター・プラス》を発動、墓地から“+”と名の付いたモンスターを手札に戻す。俺が手札に戻すのは《磁石の戦士Σ+》だ。そのまま《磁石の戦士Σ+》を召喚する」

 

《磁石の戦士Σ+》ATK/1800

 

 手札にモンスターがないせいなのか、それとも何か策があるのか。面白そうな予感にワクワクしてしまうのはデュエリストの性なのか。不意に伝わってくる感情が変わった三沢の相談にも全力で乗ろうではないか。

 

「さらに魔法カード《モンスター・スロット》を発動する! 自分の場に存在するモンスター1体を選択し、そのモンスターと同レベルのカードを墓地から除外する。そしてカードを一枚ドローして互いに確認し、そのカードが選択したカードと同じレベルのモンスターならば特殊召喚する事が出来る!」

 

 《モンスター・スロット》ときたか。三沢が博打に走るとは考え辛いので、恐らく狙いは特殊召喚ではないだろう。ドローなのか、除外なのか。それとも両方か。

 

「俺は《磁石の戦士Σ+》を選択する。 《磁石の戦士Σ+》のレベルは4! そして墓地の《磁石の戦士Ω−》もレベルは4だ。《磁石の戦士Ω−》を除外し、ドロー!」

 

 ドローカードは…《磁石の戦士Σ−》、レベル4モンスターだ。

 

「《磁石の戦士Σ−》を攻撃表示で特殊召喚! さらに伏せてあった永続罠《化石岩の解放》を発動! 除外されている岩石族モンスター1体を特殊召喚する! 《磁石の戦士Ω−》を特殊召喚!」

 

《磁石の戦士Σ−》ATK/1500

《磁石の戦士Ω−》ATK/1900

 

「さらに、手札もしくはフィールド上の“+”と“−”のモンスターを1体ずつ生け贄にささげて《電導戦士リニア・マグナム±》は手札から特殊召喚できる! 《磁石の戦士Σ+》と《磁石の戦士Σ−》をそれぞれ生け贄に、《電導戦士リニア・マグナム±》を特殊召喚!」

 

《電導戦士リニア・マグナム±》ATK/2700

 

「バトルだ!《電導戦士リニア・マグナム±》で《水面のアレサ》に攻撃!」

 

《電導戦士リニア・マグナム》ATK/2700

《水面のアレサ》ATK/1500

 

葵LP4000→2800

 

「《磁石の戦士Ω−》で直接攻撃!」

 

《磁石の戦士Ω−》ATK/1900

 

葵LP2800→900

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

「俺のターン、ドロー。《金剛真力》の効果により、手札の《炎妖蝶ウィルプス》を特殊召喚し、再度召喚して効果を発動。墓地のデュアルモンスター1体を再度召喚状態で特殊召喚する。《幸運の笛吹き》を特殊召喚」

 

《幸運の笛吹き》ATK/1500

 

 墓地には上級モンスターはおろか、攻撃力の上昇効果やモンスター破壊効果をもつモンスターすらいない。しかも墓地のモンスターの攻撃力は全て同じである。となれば《幸運の笛吹き》を選んだのにはもちろん理由がある。

 

「リバースカードオープン《デュアル・ブースター》だ。《幸運の笛吹き》に装備し、攻撃力を700上昇させる。バトル、《幸運の笛吹き》で《磁石の戦士Ω−》に攻撃、招風の旋律!」

 

《幸運の笛吹き》ATK/1500→2200

《磁石の戦士Ω−》ATK/1900

 

三沢LP1000→700

 

「そして《幸運の笛吹き》の効果発動。このモンスターが相手モンスターを戦闘によって破壊したとき、カードを1枚ドローすることができる」

 

 引いたカードは…なるほどな。さて、ここで三沢はどうでるか。無謀に突っ込んでくるならそれまでだが、見越した上で押すか引くかそれとも回り込んでくるのか。

 

「カードを1枚伏せ、ターンエンド」

 

「俺のターン、ドロー」

 

「俺は墓地の地属性モンスター《磁石の戦士Σ−》を除外し、手札から《ギガンテス》を特殊召喚だ!」

 

《ギガンテス》ATK/1900

 

「いくぞ、《ギガンテス》で《幸運の笛吹き》を攻撃!」

 

「迎撃しろ《幸運の笛吹き》!」

 

 一ツ目の巨人が棍棒を振り回しながら《幸運の笛吹き》に迫る。しかしフルートから溢れ出た緑色の五線譜にまとわりつかれ、そのまま締め上げられて爆散した。

 

《ギガンテス》ATK/1900

《幸運の笛吹き》ATK/2200

 

三沢LP700→400

 

「《ギガンテス》の効果発動! このモンスターが戦闘によって破壊されたとき、フィールド上の全ての魔法・罠を破壊する!」

 

「くっ、だが俺は《幸運の笛吹き》の効果でカードをドローする」

 

《幸運の笛吹き》ATK/2200→1500

 

 この効果で破壊されたこちらのカードは《金剛真力》、《デュアル・ブースター》、そして伏せてあった《二重の落とし穴》だ。ドローしたカードも《クリボー》のようなダメージ無効効果や《オネスト》のようなパンプアップ効果はない。

 

「《電導戦士リニア・マグナム±》で《幸運の笛吹き》に攻撃!」

 

《電導戦士リニア・マグナム》ATK/2700

《幸運の笛吹き》ATK/1500

 

葵LP900→0

 

—————

 

「葵…」

 

 三沢が遠慮がちに声をかけてくる。なんとなく言いたい事はわかっているので、首から提げていた七精門の鍵を三沢に投げ渡す。三沢が驚いたようにこちらを見てくるが、これで違っていたら恥ずかしい。

 

「タニヤとデュエルをするなら少なくともそれがいるだろう? ついでにこれはお守りだ」

 

 そしてカードを一枚デッキから抜いて投げ渡す。この世界のカードは不思議なことに回転をかけて投げてもまっすぐ無回転で飛んで行く。しかも途中で落下どころか減速すらしない。いったいどうなっているんだ。

 

「俺の身体の一部みたいなものなんだ。なくしてくれるなよ?」

 

「そうだな、出来るだけ早く鍵と一緒に返しにこよう」

 

 流石秀才だけあって、言外に放った意味も理解したようだ。とは言っても身体の一部ということがある意味比喩じゃない、ということまでは理解していないだろう。

 

「あぁ、そうしてくれ。もう夕飯の時間だし俺はブルー寮に戻るとしよう」

 

「そうだな、俺も戦いの前に腹ごしらえだ」

 

 慣れない方面に頭を使ったせいか、いつもよりも空腹になった気がする。これは今日の食事が一層美味しくなりそうだ。楽しみのあまり足取りが軽やかになるのを感じながら、寮へと戻った。

 




三沢の地属性デッキですが、どう弄れば良いのかが非常に困りましたね。
+と−の効果処理がよくわからなかったので、それを使わないようにした結果、ただの岩石族ビートに…
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