二度手間っていうなっ!   作:祐弘千尋

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感想、評価ありがとうございます。
ご期待に添えるよう頑張ります!


3.アンティっていうなっ!

 あの後合格通知と共にラーイエローの制服が郵送され、無事に合格したことがわかった。というよりも、アレで合格出来ていなかったらおかしいと思う。

 

 さてKC社のヘリに乗ってデュエルアカデミアにやってきたのだが、早くも逃げたくなってきた。何故ならこの島には活火山があるのだ。何かの拍子に噴火した日には、アカデミアは全滅だろう。何て恐ろしい島なんだ…!

 

 入学式も滞りなく終わり、夜には歓迎会も行われるそうだ。ラーイエローならご飯にめざしと味噌汁ついでに沢庵、なんてことにはならないだろうから、中々楽しみである。

 

『むむ、精霊の気配』

 

 そう言ってシハーブが振り向いた先を見てみると、十代が翔や三沢と何か話しているところだった。おや、十代がこちらをみて変な顔をしている。

 

『見つかってしまったようですな』

 

 やっぱりお前のせいか。まぁちょうどいい、この際だし知り合いになっておくか。トラブルにも巻き込まれそうだが、主人公がいるなら多少のトラブルならなんとかなるだろう。

 

「よう三沢、この間ぶり。それで君は、クロノス教諭を倒したヒーロー君…だったかな?」

 

 あの入試デュエルで十代はすっかり有名人である。有名人といっても「クロノス教諭を倒した新入生がいるらしい。」という程度の噂ではあるが、少なくともあのデュエルを見ていた人の記憶には深く刻まれているようだ。

 

「おう! 俺は遊城十代。十代って呼んでくれ! っと、お前は?」

 

 快活な声と人懐っこそうな顔、悪い奴じゃないというのは分かるけど、一緒に喋ってたら疲れそうな感じがする。しかしこの時点ではまだギリギリ精霊は見えてないのだろうか?

 

「自己紹介が遅れてすまなかった。俺は代田葵。俺のことも葵で構わない」

 

『某は従者のシハーブと申します。以後お見知り置きを』

 

 まぁ、“従者”で間違ってはいないのだが、すごく違和感がある。ほとんどこいつの押し売りだし、やったこともこの世界に飛ばした以外は精霊の探知ぐらいしかしてないし。それと多分お前の自己紹介は聞こえていない。

 

「葵とシハーブだな! よろしく! …ってあれ?」

 

「十代君、シハーブって誰のこと?」

 

 どうやら声だけは聞こえていたようだ。ここは知らぬ存ぜぬを通した方がいいのだろうか。どうせ十代以外には見えも聞こえもしてないだろうし。

 

「ところで葵、さっきお前と一緒に誰かいなかったか? なんか紫色のおっさんみたいなのが一瞬見えたんだけど…」

 

 紫色のおっさんって言っちゃったよ、こいつやっぱり見えてるだろ。シハーブはおっさんって言われて少し落ち込んでいるようだ。どうみても若くはないんだから、「お兄さん」は諦めた方が良いだろう。

 

「紫色のおっさん…服の色ならまだしも、そんな肌の人間がいたら怖いだろう」

 

 とりあえずごまかす事にした。まぁはっきりと精霊が見えるようになったらすぐにバレるんだけど、大した事じゃないしな。

 

「そっかぁ、見間違いかなぁ…」

 

「何か良くわからないが、これから三年間よろしく。それじゃあ俺は寮で荷物を整理するとしよう」

 

「僕もこれで失敬するよ。そうそう、君たちの寮は向こうだよ」

 

 特に話題もないし、結局寮にいくことにした。三沢と話しているうちにデュエル理論やデュエル哲学の話になった。とはいえほぼ聞いた事が無かったので適当に相槌を打っていたのだが、興味があると思ったようで今度本を貸してくれるそうだ。

 

 暇つぶしにはなりそうだし、少し楽しみだ。

 

—————

 

 寮の自室で荷物を整理し終わり、歓迎会までは時間があるようだったので適当に校舎を散策することにした。さすがに授業の時に迷子になったら洒落にならない。今なら迷子になっても問題ない…しかしここはどこだ。

 

『ご主人様、ちょっとよろしいですかな?』

 

 シハーブはランプをこすってもいないというのに、しょっちゅう現れるようになったな。カードの精霊だとバレたからか?一応肩掛け鞄にランプはいれているし、本体もランプのなかに入れたままだから出てくること自体は不思議ではないのだが。

 

『あちらから人の声が聞こえるのでございます』

 

 たまには役に立つ、それがシハーブだ。シハーブが指差す先にあるのは決闘場のようだ。中に居るのが誰かはわからないが、迷子である可能性は低いだろう。

 これで歓迎会までに無事に寮へ帰れる可能性が高くなった。とりあえず中に居たブルー生徒の二人組に話しかけることにしよう。

 

「ちょっと質問なんだけど、ここはどこなのか教えてもらってもいいだろうか」

 

「ここはオベリスクブルー専用決闘場だ! ラーイエローごときが入っていい場所じゃない!」

 

 眼鏡をかけたブルー生徒にいきなり怒られてしまった。勝手に入った俺が悪いのだが、それにしても顔を見るなり怒鳴るのはいかがな物かと思う。非常にイライラしている彼を見る限り、ここはあの台詞をいう場面に違いない。

 

「…乳酸菌摂ってるぅ?」

 

「貴様ふざけているのか!」

 

 今のは完全に俺が悪かった。乳酸菌には高血圧を抑制する効果もあるのだが、そこまでメジャーな話でもない。イライラに効果があると一般的に知られているのはカルシウムだが、カルシウムが欠乏して神経伝達物質に影響がある頃には骨がボロボロだ。それをいかに説明したものか…

 

「まぁ落ち着いてくれ。キミは何やらイライラが収まらんみたいだし、もしかしたら食生活に乱れがあるのかと思ったんだ。確かにイライラに効果がある物としては、乳酸菌はマイナーかもしれない。しかし免疫力を高めてヒスタミンを「貴様は何の話をしている!?」何って、出会い頭に怒鳴る程イライラしているキミに、健康的な食生活ができるようにアドバイスをしようと思っただけなのだが…」

 

『ご主人様、論点がずれております。道を聞くのではなかったのですか?』

 

 うっかりと話がそれてしまった。あまり怒らせると、帰り道を聞くに聞けなくなってしまう。もうすでに手遅れな空気もただよっているが、ひとまず外に出れさせすればなんとか寮に帰れるはずだ。

 

「おーっ、すげー!」

 

「これ最新設備の決闘場だよ! 音響設備も体感システムもニューバージョンだ! いいなぁ、こんなところでデュエルやってみたいなぁ」

 

 そんなことを考えていると十代と翔がやってきた。顔見知りが来たなら話は早い。さっさと外に案内してもらって、歓迎会にいきたい。樺山教諭が寮長ならカレーパーティーの可能性も捨てきれないが、それはそれで楽しみだ。そんなことを考えながら二人に話しかけようとしたが、先ほどのブルー生徒たちに絡まれて身動きが取れないようだ。

 

「万丈目さん! こいつクロノス教諭に勝った110番ですよ!」

 

 どうやらこいつらは万丈目の取り巻きだったらしい。十代たちが来るってことはそういうことだとは分かっていたが、客席に目を向けていなかったこともあってまったく気がつかなかった。今まさに空気な俺がいうのもおかしな話だが。

 

「ビーコワイエット。諸君、はしゃぐな」

 

 しかし、この頃の万丈目は尖ってるなぁ…髪はそれ以降も尖り続けてるけど、性格の悪さが表情ににじみ出てる。これがおジャ万丈目になるのか…人間って変わるものだなぁ。それはそうとして、あの髪型はどうやってセットしているのだろう。

 

 そんなくだらないことを考えている間に、十代と万丈目の間で好戦的な雰囲気が漂い今にも二人がデュエルを始めかねないその時、

 

「あなたたち、何してるの。そろそろ寮で歓迎会が始まる時間よ」

 

 ちょうど俺の来た方向から明日香さんがやってきた。そして逃げるように帰っていく万丈目一行。それにしてももうそんな時間か、道理でお腹が空くわけだ。とりあえずそろそろ十代たちに話しかけないと、帰り道が分からないままである。

 

「十代、さっきぶりだな」

 

「葵! どうしてここに?」

 

「お散歩、のつもりだったんだけどね」

 

 流石に「迷子だからです」なんて言うのも恥ずかしいので適当にごまかす。元は散歩のようなものだから間違ってはいないはずだ。

 

「あら、あなた…入試デュエルで《ヘルカイザー・ドラゴン》を使ってたわよね」

 

「あぁ、代田葵だ。よろしく。…大はしゃぎだった人の隣にいなかったか?」

 

 隣に居たカイザーの影響もあって、俺の印象は《ヘルカイザー・ドラゴン》だけだったようである。確かにさっさと終わらせたから使ったカードも少ないけど、あまり嬉しくはない。会場がざわついたのは、“カイザー”と名のつくモンスターを使ったからだったのかもしれない。

 

「天上院明日香よ。明日香でいいわ。いつもの亮はあんな感じじゃないんだけどね…」

 

「いつもあんなにハイテンションだったら、それはそれで人生楽しそうだけどな」

 

 お互い苦笑いのままである。その後十代と翔もそれぞれ自己紹介だけ簡潔にすませ、そろそろ歓迎会ということもあり解散となった。外に出ても十代たちは普通に走っていたのだが、もしかしてレッド寮まで走ったのだろうか…その体力の一割でも分けて欲しいものだ。

 

—————

 

 無事に歓迎会に間に合い、樺山教諭の挨拶もそこそこになかなか豪勢な食事がふるまわれた。これでさえ胃にずっしりとくるのに、オベリスクブルーはこれ以上だというのだから驚きである。個人的にはもう少し質素な方が落ち着くのだが、それはこれからの食事に期待しよう。

 

 そして情報端末、通称PDAを確認すると、万丈目と一緒にいた眼鏡からアンティルールの決闘を申し込むといった内容のメールがあった。入学初日から面倒ごとに関わるのは正直勘弁願いたいのだが、降り掛かる火の粉は払わなければならないだろう。

 

 …ということで、さくっとアカデミアに通報しておいた。眼鏡くんの名前は分からなかったが、メールをそのまま転送したので問題ないだろう。

 

『ご主人様はやることがせせこましいですな?』

 

「やかましい。デュエルをしたら記録が残ってしまうんだし、それで勝っても負けても校則違反の現行犯で退学なんてこともあり得るんだぞ? しかもアンティでカードをもらおうにも、好きなカードを使えるから旨味が欠片程もない」

 

 おっと、同じく喧嘩を売られているであろう十代にも伝えてやらないと、あいつらまで捕まってしまうな。先ほどからPDAに電話をかけているがつながらないし…しかたない、メールだけうって寝るとするか。

 

—————

 

 翌日、PDAを確認すると新着メールが二件あった。

 一件は十代からであり、結局万丈目とデュエルをしたがそれが中途半端に終わったことが書いてあった。これはまぁいい、原作通りに進んだということなので何ら問題ない。問題はもう一つのメールだ。

 

 こちらはアカデミアからの通達で、アンティデュエル実行未遂で取巻太陽…昨日の眼鏡君の名前らしい…に対して今日の放課後に制裁デュエルを行う旨が書いてあり、その対戦相手として俺が指名されたということだった。

 

 …意味が分からない。制裁デュエルが行われるのはこの短期間でさっそく校則違反をしようとした見せしめという意味で理解できるが、問題はその対戦相手が俺である意味だ。普通に考えたらブルー生の制裁にイエロー生を使うのは逆ではなかろうか。

 

 名目としては「互いに遺恨を残さないため、解決策として制裁デュエルの相手を当事者である代田葵とする」とあったが、恐らくは「ブルーがイエローに負ける事などありえないので、イエロー生を当てて罰則を回避する」という目論みがあるのだろう。ついでに生徒なら経費もかからないという実情もあるかもしれない。

 

 眼鏡の処遇に関しては、俺が勝った場合は未遂であるため反省レポートを書き、眼鏡が勝った場合は未遂のためなかったことにするとの事だった。ちなみに俺が勝った場合は報酬としてドローパン引換券一ヶ月分を進呈するとメールの最後に書いてあった。

 

『ご主人様の負けた場合のペナルティはどうなっているのでしょうな?』

 

「俺はなにも違反をしてないし、十代みたいに目を付けられるような事した記憶も無い。ペナルティを与える理由がないだろ」

 

 そもそも入学一週間以内に…むしろ入学前から教師に目を付けられている十代がおかしいのだ。さて、放課後まで真面目に授業を受けてるかな。

 

—————

 

 そしてあっという間に放課後になってしまった。

 会場にのんびりやってくるとギャラリーが多いこと多いこと、少なくとも一学年ぐらいの人数はいそうだ。ざっと見た限りブルー生はニヤニヤとこちらを見下ろしており、イエロー生は真面目な顔をしてこちらを見ている。レッド生は…とりあえず楽しそうだ。

 

「せいぜい恥をさらすんだな!」

 

「いや、これキミの制裁だからな?」

 

「う、うるさい! それもこれも貴様が余計なことをしたせいだ!」

 

「これより、取巻くんの制裁デュエルを始めます。両者、準備が良ければ始めるように」

 

 どうやら立ち会いは樺山教諭のようだ。俺の寮長だからなのか、それとも暇な人が他に居なかったのか。もちろん問題が有る訳ではないので気にはしない。

 

「こっちは問題ない」

 

「ふん、いくぞ!」

 

「「決闘!」」

 

取巻LP4000

葵LP4000

 

「俺のターン! ドロー!」

 

 この眼鏡こと取巻という男は、アニメではデュエルをしていた描写が無かったはずだ。むしろ名前さえ出てきた記憶がない。

 

「フィールド魔法《山》を発動!」

 

 …聞き間違いだろうかと思ったのだがもちろんそんなことはなく、最も短い名前のカードの一つが発動されて周囲を山が囲っていく。OCGではそこそこ弱体化をしているため、これは原作効果を期待せざるをえない。

 

「そして《グランド・ドラゴン》を攻撃表示だ!《山》の効果で攻守が200ポイントアップ!」

 

《グランド・ドラゴン》ATK/2000→2200

 

 原作効果では対応種族の攻守が1.3倍上昇する効果なのだが、攻撃力で考えた場合《一族の結束》の上昇量を超えるために元の攻撃力が2700以上必要である。それを考えるとちょっとアリかな、と期待していたのだが…残念だ。

 

「さらにカードを1枚伏せてターン終了だ!」

 

「俺のターン、ドロー」

 

「永続魔法《金剛真力》発動。相手フィールドにしかモンスターがおらん時、ターンに1度手札からレベル4以下のデュアルモンスターを1体特殊召喚できる。手札から《インフィニティ・ダーク》を特殊召喚」

 

《インフィニティ・ダーク》ATK/1500

 

 闇を纏った漆黒のヒーロー、という表現がぴったりのモンスターである。戦士族にも見えなくはないが、悪魔族なんだよな。少なくとも儀式召喚される某ハンバーガーよりは戦士にみえる。なぜあいつは悪魔族では無いんだろう…

 

「そして《インフィニティ・ダーク》を再度召喚!」

 

 再度召喚により鈍い灰色だった紋様が白く輝く。見るからに悪のヒーローが正義の心に目覚めて、仲間になったかのような輝き方だ。《ネクロダークマン》や《ダーク・ブライトマン》辺りの隣に置いておけばE・HEROと見間違えるかもしれない。

 

「再度召喚したところで、見た目以外何も変わってないじゃないか!二度手間の割にあってないんじゃないか?」

 

「二度手間っていうなっ!《インフィニティ・ダーク》で《グランド・ドラゴン》に攻撃!」

 

「挑発されて攻撃力で劣るモンスターで攻撃するなんて、所詮はラーイエローだな。迎撃しろ!《グランド・ドラゴン》!」

 

「残念だが、ここで《インフィニティ・ダーク》の効果が発動する。このカードは攻撃宣言時に、相手の表側表示モンスター1体の表示形式を変更できる。この効果で《グランド・ドラゴン》を守備表示に変更!」

 

 漆黒のヒーローは一息で巨竜との間合いを詰め、その顎の下に身体を潜り込ませて全身をバネにしたアッパーカットをかました。そして着地と同時に左足を軸にしてむきだしとなった腹部目掛けて回し蹴りを叩き込んだ…一体どこで効果を使ったんだろう。もしかしてアッパーカットだったのだろうか。

 

《インフィニティ・ダーク》ATK/1500

《グランド・ドラゴン》ATK/2200→DEF/300

 

「馬鹿な!《グランド・ドラゴン》が破壊されるなんて!」

 

 先ほどの立ち回りはさておき、こいつの効果は地味に便利なんだよな。高攻撃力低守備力のモンスターが蔓延していた環境では、再度召喚さえできれば単体で帝やダムドを除去出来るのだ。…ほとんどの場合、返しのターンに除去されてしまうのはご愛嬌だろう。

 

「カードを1枚セットして、ターンを終了」

 

「くっ、ドロー!《軍隊竜》を守備表示で召喚して召喚して、ターンエンド!」

 

《軍隊竜》DEF/800→1000

 

 リクルーターか…表側表示で召喚してくれたおかげで《インフィニティ・ダーク》の効果を使って攻撃表示に変えれるが、後続はそうはいかない。今回はダメージを期待できそうにないな。

 

「俺のターン、ドロー。《幸運の笛吹き》を攻撃表示で召喚してバトルだ。《インフィニティ・ダーク》で《軍隊竜》に攻撃、そして効果発動!《軍隊竜》を攻撃表示に変更する!」

 

 今度は竜人二体一組のモンスターなのでどうするのかと思っていたら、漆黒のヒーローは高く跳躍した後、捻りを加えながら防御姿勢を取っていた二体の竜人の真後ろに着地した。そして振り向き立ち上がった竜人の片方を肘鉄で吹き飛ばし、残った方をサマーソルトで打ち上げていた。そして中空で爆散する竜人。だからお前はいつ効果を使っているんだ。

 

《インフィニティ・ダーク》ATK/1500

《軍隊竜》DEF/1000→ATK/900

 

取巻LP4000→3400

 

「この、ラーイエローの癖に生意気なっ!《軍隊竜》が戦闘によって破壊され墓地に送られた時、デッキから《軍隊竜》を特殊召喚する!」

 

《軍隊竜》DEF/800→1000

 

「それじゃあ《幸運の笛吹き》で《軍隊竜》に攻撃だ」

 

 先ほどからどこの特撮だと言わんばかりに大立ち回りをする《インフィニティ・ダーク》とは打って変わって、《幸運の笛吹き》の方はそのまま笛を吹いただけであった。そしてブルー女子の方向にウィンクをする。

 

 途端にわき上がる黄色い声、ひっそりと破裂する竜人、あざとい笑顔で手を振るショタ天使、顔を赤らめて鼻息が荒い女子もいた。ついでに男子の何名かも鼻息が荒かったが、見なかったことにした。なんだこの混沌とした状況…

 

《幸運の笛吹き》ATK/1500

《軍隊竜》DEF/1000

 

「まだだっ!《軍隊竜》が戦闘によって破壊され墓地に送られた時、デッキから《軍隊竜》を特殊召喚する!」

 

《軍隊竜》DEF/800→1000

 

「俺はそのままターンエンド」

 

「くそっ! ドロー! ふふ、ふははは! こいつを待ってたんだ!《エレメント・ドラゴン》を攻撃表示で召喚!」

 

《エレメント・ドラゴン》ATK1500→1700

 

 うお、エレメントモンスターが出てくるとは思わなかった。今のフィールドだと得られる効果は風だけだが、今の状況で一番得て欲しくない効果でもある。流石にどのモンスターに属性が対応しているかは覚えていないが、この状況を歓迎するからには風には対応していると考えていいだろう。

 

「手札から《竜の秘宝》を《エレメント・ドラゴン》に装備! これで攻守が更に300ポイントアップする!」

 

《エレメント・ドラゴン》ATK1700→2000

 

 初期の装備魔法だと…!? 古いカードが弱いとは言わないが、いくら何でもそのカードの採用は想像していなかった。ロマンというやつなのだろうか。それでもオベリスクブルーになれたことがすごいと思う。

 

「さらに手札から魔法カード《スタンピング・クラッシュ》を発動! この効果でお前の伏せカードを破壊して500ポイントのダメージだ!」

 

「どうせ破壊されるなら、カウンター罠発動!《ヴィクティム・カウンター》! デュアルモンスター1体を裏守備表示にして魔法カードの発動を無効にして破壊する!《インフィニティ・ダーク》を裏守備にして《スタンピング・クラッシュ》を無効にする!」

 

「守備表示にしても無駄だ! 永続罠《竜の逆鱗》発動! 自分フィールドのドラゴン族は貫通効果を得る!」

 

 初ターンから何を伏せているのかと思ったら、攻撃に使うために伏せていたのか。再度召喚したことを考えるともったいなかったが、念のために守備の高い《インフィニティ・ダーク》を選んで正解だった。《笛吹き》の守備はわずか500なので、1500もの貫通ダメージを受けてしまうところだった。

 

「そして手札から魔法カード《火竜の火炎弾》発動! このカードには相手ライフに800のダメージを与える効果と、フィールド上の守備力800以下のモンスター1体を破壊する効果からどちらか選択して発動する。二つ目の効果を選択する。消え去れ!《幸運の笛吹き》!」

 

 全く正解ではなかった。それどころか一転して大ピンチだ。ショタ天使の破壊に対して主に女子からは大ブーイングが巻き起こっているが、眼鏡くんは気にした様子も無い。もしかしたら一気に優位になった自分に酔っていて、気付いていない可能性もある。

 

「《軍隊竜》を攻撃表示に変更してバトルだ!《エレメント・ドラゴン》で《インフィニティ・ダーク》を攻撃! エレメントバースト!」

 

 攻撃の時には大立ち回りを披露してくれた《インフィニティ・ダーク》だったが、守備のときは防御の構えのまま火球に焼き払われてしまった。

 

《エレメント・ドラゴン》ATK2000

《インフィニティ・ダーク》DEF1200

 

葵LP4000→3200

 

「このモンスターはフィールド上に特定の属性のモンスターが存在するときに新たな効果を得るのさ! 今は風属性の《軍隊竜》が場に存在する。よって相手モンスターを破壊した場合、もう一度続けて攻撃できるんだよ。いけぇ!《エレメント・ドラゴン》! 直接攻撃だ!」

 

 体感システム付きのソリッドヴィジョンで直接攻撃を受けるのは初めてなので、どうなるのか不安に思いながら身構える。赤い竜の火球をもろにうけると同時に高温に晒されたような感覚と衝撃が通り抜ける感覚があり、思わず苦悶の声が漏れてしまった。主人公達がやたらオーバーリアクションかと思ったら、わりとそうでもなかったのか。

 

《エレメント・ドラゴン》ATK2000

 

葵LP3200→1200

 

「くたばれ!《軍隊竜》で直接攻撃!」

 

 流石は軍隊という名がついているだけあって、2体まったく同時にこちらに走ってくる竜人はそのまますれ違い様に斬りつけてきた。斬られた箇所が熱を持ったかのような感覚と共に衝撃を受ける。たしかに痛みもなくすぐに衝撃も引くが、リアクションぐらいはとってしまうだろう。

 

《軍隊竜》ATK/900

 

葵LP1200→300

 

「ははっ虫の息じゃないか! やはりラーイエローはこの程度なんだな、ターン終了」

 

「勝ったつもりになるにはまだ早いと思うぞ、ドロー!」

 

 引いたカードを確認すると、思わず口角がつり上がるのを止められなかった。モンスター処理だけなら元の手札でも充分だったが、これならこのターンで決めることができそうだ。

 

「相手の場にしかモンスターが存在しないので《金剛真力》の効果を発動、手札から《巨人ゴーグル》を特殊召喚!」

 

《巨人ゴーグル》ATK/1500

 

「墓地に通常モンスターが2体以上存在するとき、手札から《樹海の射手》を特殊召喚できる」

 

《樹海の射手》ATK/1400

 

「《巨人ゴーグル》を生け贄に、現れろ!《ヘルカイザー・ドラゴン》!こいつはドラゴン族やから《山》の効果を受ける」

 

《ヘルカイザー・ドラゴン》ATK/2400→2600

 

 先ほど引いたのはこのカードである。《樹海の射手》で適当にサーチしようかとも思っていたのだが、そうした場合ライフを削りきれそうになかったのでちょうどよかった。

 

「そいつは入試デュエルのときのモンスター! だが炎属性モンスターが場に存在する時、《エレメント・ドラゴン》の攻撃力は500ポイントアップだ!」

 

《エレメント・ドラゴン》ATK/2000→2500

 

 ワンキルの立役者だけあって、このモンスターの印象は強かったようだ。…ブルー生徒の方向から非常に熱い視線を感じるが、気にしないようにしよう。

 

「さらに、墓地の通常モンスターが3体のみのとき、通常モンスター扱いの《巨人ゴーグル》と《幸運の笛吹き》の2体を除外して《紅蓮魔闘士》を手札から特殊召喚!」

 

《紅蓮魔闘士》ATK/2100

 

「《紅蓮魔闘士》の効果発動! 墓地からレベル4以下通常モンスターを1体特殊召喚することができる。蘇れ!《インフィニティ・ダーク》!」

 

《インフィニティ・ダーク》ATK/1500

 

 蒼鎧の戦士が剣を地面に突き刺すと眼前の地面が割れ、中から漆黒のヒーローがマントをはためかせて現れた。構図が《ヒーロー・ブラスト》にしかみえないのだが、お前E・HEROの仲間入りする気満々だろ。お前は悪魔族なんだからE-HEROで諦めろ。

 

「一気にモンスターを4体も並べただと!?」

 

「バトル、《ヘルカイザー・ドラゴン》で《エレメント・ドラゴン》に攻撃! カイザーバースト!」

 

 《ヘルカイザー・ドラゴン》の光線に抵抗するために火球を吐き出した《エレメント・ドラゴン》だったが、火球もろとも消し飛ばされてしまった。

 

《ヘルカイザー・ドラゴン》ATK/2600

《エレメント・ドラゴン》ATK/2500

 

取巻LP3400→3300

 

「次!《紅蓮魔闘士》で《軍隊竜》に攻撃!」

 

 蒼鎧の戦士は気だるそうな目でこちらをちらりとみて、独特な剣で一閃するだけで二体まとめて両断していた。殺気をバラまいているようにみえるイラストなのだが、面倒臭がりなのかもしれない。

 

《紅蓮魔闘士》ATK/2100

《軍隊竜》ATK/900

 

取巻LP3300→2100

 

「《樹海の射手》で直接攻撃!」

 

「ぐあぁっ!」

 

 心臓目掛けて一直線に放たれた矢をうけ、左胸を押さえる眼鏡。ソリッドヴィジョンとはいえ、心臓に矢が刺さったように見えたらそりゃ胸を押さえもするだろう。

 

《樹海の射手》ATK/1400

 

取巻LP2100→700

 

「トドメッ!《インフィニティ・ダーク》で直接攻撃!」

 

 最後は漆黒のヒーローがマントをはためかせながら空高く跳躍し、先ほど矢を受けていた心臓へと飛び蹴りを叩き込んだ。どこまでもヒーロー路線を外すつもりは無いようだ。別に良いんだけどさ。

 

《インフィニティ・ダーク》ATK/1500

 

取巻LP700→0

 

—————

 

「勝者、代田葵!取巻くんは反省レポートの提出をお願いします」

 

「馬鹿な、ラーイエロー相手にこんなこと、ありえない…」

 

 眼鏡くんは呆然としている。別に降格になったわけでも、ましてや退学になったわけでもないので単純に格下の寮に負けたのがショックなのだろう。

 

「さて、代田くんは勝ったご褒美にドローパン引換券を預かっています。期限は特にありませんので栄養バランスを考えて、食べすぎには気をつけて下さいね」

 

「そうですね、気をつけます」

 

 そう言いながら引換券を渡され、思わず苦笑してしまった。総菜パンばかりの食事はたしかに健康によくない。もしかしたら樺山教諭が立ち会いになった理由は、寮生の体調管理が理由だったのかもしれない。

 

「これにて制裁デュエルを終了します。もちろん明日も授業がありますので、寝坊などしないように。それでは解散」

 

 解散の合図で生徒がぞろぞろと会場から出て行く。

 俺も部屋に戻るとするか。小腹も空いたし、購買によってドローパンでも食べよう。樺山教諭のアドバイス通り、食べ過ぎないために一個だけにしとくかな。

 




思いのほか長々と書いてしまいました。字数が第二話のほぼ倍、流石にデュエルシーンは長くなりますね
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