二度手間っていうなっ!   作:祐弘千尋

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4.覗き魔っていうなっ!

 デュエルアカデミアがデュエルエリート養成学校であり授業は単位制のため、選ぶ授業にはある程度自由はあるが、それでも必修の授業はある。

 そして中高一貫校であるため、もちろん体育の授業は必修だ。カードゲームと何の関係があるのかわからないが、“健全な精神は健全な肉体に宿る”とでもいいたいのだろうか?

 

 しかもこの学校、無駄なまでに設備に力が入っている。

 体育館と思っていたらガラス張りのドームで、しかも無駄に大きなモニター付き。きっとデュエル中継とかのためだと思うのだが、それでもこれだけで幾らかかっているのか分かった物ではない。

 

 今日の授業はオリエンテーションということで、現在ドッジボールの真っ最中だ。しかし三沢は運動神経がいいようで、息一つ乱していない…むしろ狙われていないようにも見える。

 

「この角度、この力で投げれば当たる!」

 

 お、また一人退場になった。しかし当てられた生徒は、まるで俺が投げたボールがおかしな軌道で飛んできたかのような表情をしてるな。俺が取ったボールをそのまま三沢に渡して、投げてもらっただけなんだが…

 

 結局こちらのワンサイドゲームのまま、体育の時間が終了した。周りの連中がこちらを異様な物を見るかのような目でみてくるのは、気のせいだと思っておこう。

 

 今日の授業はこの体育で終わりだし、部屋に戻ったら三沢に借りた本でも読むとするか。確かホオジロ・ジンベエ著「水産資源を使った華麗なる戦略論」だったな。水属性デュエリスト御用達の名著らしいので、今後の参考にじっくり読ませてもらおう。

 

—————

 

 風呂をさっさと済ませて部屋に戻ると、十代からメールが来ていたようだ。

 

「翔がさらわれた! 女子寮にいるらしい! 手を貸してくれ!」

 

 少し思考が停止してしまったのも仕方が無いと思う。

 なんというか、もう放っておいていいんじゃないかな? 場所は分かってるんだし、十代がなんとかするだろうし。こんな夜中に女子寮に行くとか勘弁願いたい。

 

『ご主人様、十代殿が待ちぼうけとなってしまうと、翔殿の身が危なくなるのではないでしょうか』

 

 大丈夫だと思うんだけどなぁ…仕方ない、俺も向かうか。

 距離としてはこっちの方が近いし、のんびり歩いて行こう。

 

—————

 

「葵! 来てくれたんだな!」

 

「呼び出しておいて来ないと思っていたのか? 帰った方がいいならそうするぞ」

 

 そっちから呼び出しておいて、まったくもって呼び出され甲斐のない奴だ。

 許可がでたら本当に帰ってしまおうか。ちょうど眠気もやってきた頃合いだし。

 

「わりぃわりぃ、とりあえず、このボートに乗ってくれ!」

 

「もちろん、十代が漕いでくれるんだよな?」

 

「え、お、おう!」

 

 なんでも言ってみる物だな。シハーブが何やら拗ねたような顔をしているが、そもそもこいつは物体に干渉できるのか?…あ、俺がディスクで召喚すれば出来る可能性はあったのか。面倒なことになりそうだからしないけど。

 

「兄貴ぃ〜…」

 

 おや、もう着いたのか。さすが十代、体力は有り余っていたようだ。俺が漕いだとしたらこんなに速くは着かなかっただろう。陸をみると、翔がお縄についており、ブルー女子に確保されていた。

 …もしかすると翔にとってはご褒美かもしれないと思ってしまうあたり、俺のモチベーションの低さが伺えるというものだ。

 

「翔、これはどういうことなんだよ」

 

「それが、話せば長いような、長くないような」

 

「こいつがね、女子寮のお風呂を覗いたのよ!」

 

 よし、帰ろう。本当の覗きでも、ただのヒステリーでも、面倒な展開しか見えない。しかもこの状況、俺まで覗き魔の仲間扱いをされかねない。そんなことは断固お断りだ。デュエル馬鹿の十代はそんなことに興味がないだろうし、エロガッパは翔だけで充分だ。

 

「覗いてないって!」

 

「それが学校にバレたら、きっと退学ですわ」

 

 れっきとした犯罪だしな。仮に退学にならなくても、クラスで噂が流れている時点で自主的に退学しても不思議ではない。

 

「あなたたち、私たちとデュエルしない? もし私達に勝ったら、風呂場覗きの件は大目に見てあげるわ」

 

「だから覗いてないって言ってるのに!」

 

「なんだかよくわかんないけど、まぁいいや。そのデュエル、受けて立つぜ!」

 

「え、俺も頭数に入っているのか?」

 

 ついでに俺たちも共犯扱いで道連れにするつもりなのだろうか。 …十代は悪目立ちをしている節はあるが、俺は完全に巻き添えを喰った形だろう。それとも先日の眼鏡くんへの制裁デュエルで、ブルー全体から敵認定されたのだろうか。

 

「あら、イエローなのに自信がないのかしら」

 

「俺は十代に巻き添え喰わされただけだしなぁ…大した事ないみたいだし、こんなくだらない事でやる気は起きないな」

 

「なんですってぇ! 明日香さん、こいつは私がやります!」

 

 え、今なんの地雷踏んだの?

 

—————

 

 一度陸に上がり、3対3の格好でデュエルディスクを構える。

 目の前には茶髪のブルー女子、名前はなんだったか…ジュンコかモモエであることは確実なんだが。

 

「私のこと、大した事ないなんて言ってくれた落とし前はつけてもらうわよ!」

 

 そういうことか。翔が覗き疑惑で捕まった事が大した事ないって言ったのを、この茶髪さんが大した事ないって言ったと思われてしまったのか。

 

「そういう意味じゃなかったんだけどなぁ…そういえば名乗ってなかったけど、俺は代田葵。君は?」

 

「枕田ジュンコよ! 覚えときなさい!」

 

 ジュンコの方だったか。後々忘れると怒られそうなので、しっかり覚えておく事にしよう。敵意をむき出しにされながらも、つつがなく自己紹介も終わった所で…

 

「「決闘!」」

 

「私の先攻、ドロー! 手札の《ハーピィ・クィーン》を墓地に捨てて、《ハーピィの狩り場》を手札に加えるわ!」

 

 なるほど、【ハーピィ】か。こっちはサポートカードを使えないと辛いし、相性が良いとは言えない相手だな。

 

「さらに、《ハーピィ・レディ2》を攻撃表示で召喚して、《ハーピィの狩り場》を発動! この効果で鳥獣族モンスターの攻撃力が200ポイント上昇するわ。ターン終了よ」

 

《ハーピィ・レディ2》ATK/1300→1500

 

「俺のターン、ドロー。《デュアル・サモナー》を攻撃表示で召喚。そのままバトル、《デュアル・サモナー》で《ハーピィ・レディ2》を攻撃」

 

「《ハーピィの狩り場》の効果で《ハーピィ・レディ2》の攻撃力は1500だから残念だけど相打ちね」

 

《デュアル・サモナー》ATK/1500

《ハーピィ・レディ2》ATK/1500

 

「そうだな。残念ながら《デュアル・サモナー》は一ターンに一度戦闘破壊されないから、《レディ2》が一方的に破壊されるだけだな」

 

 召喚師が杖からオレンジ色のビームのようなものをハーピィ向けて発射し、それに打ち抜かれたハーピィはそのまま消滅した。前回猿に殴り飛ばされた奴と同じに見えない。

 

「カードを2枚伏せて、ターンを終了」

 

「くっ、やるわね…私のターン、ドロー! よし!《ハーピィ・レディ1》を攻撃表示で召喚! 効果により風属性モンスターの攻撃力が300ポイントアップ! さらに、《ハーピィの狩り場》の効果で攻撃力が200ポイントアップ!」

 

《ハーピィ・レディ1》ATK/1300→1800

 

「さらに、《ハーピィの狩り場》の効果を発動! アンタの伏せカードを1枚破壊するわ!」

 

 ハーピィの起こした強風によって、伏せていたカードの一枚が破壊される。…破壊されたのは《血の代償》か。《デュアル・サモナー》がいるからまだ大丈夫だろう。

 

「いくわよ!《ハーピィ・レディ1》で《デュアル・サモナー》に攻撃! スクラッチ・クラッシュ!」

 

 召喚師がハーピィのかぎ爪で切り裂くように蹴られ、うずくまる。やっぱり猿にやられた奴と同一人物だったようだ。頬が紅潮しているのは気のせいだと思っておこう。

 

「さっきも言ったけど、《デュアル・サモナー》は一ターンに一度戦闘によっては破壊されないぞ」

 

「それでもダメージは受けてもらうわ」

 

《ハーピィ・レディ1》ATK/1800

《デュアル・サモナー》ATK/1500

 

葵LP4000→3700

 

「私はカードを一枚伏せてターンエンド!」

 

「エンドフェイズ時に《デュアル・サモナー》の効果発動。ライフを500ポイント払って、手札からデュアルモンスター《巨人ゴーグル》を攻撃表示で召喚しておこう」

 

《巨人ゴーグル》ATK/1500

 

葵LP3700→3200

 

「俺のターン、ドロー。《巨人ゴーグル》を再度召喚!」

 

 赤いゴーグルを装着した岩肌の巨人の身体が輝き、岩でできた筋肉が隆起する。

 獰猛な笑顔を浮かべ、敵を威圧しているようだ。色んなカードの下位互換とか言われる割に、なかなか格好いいじゃないか。

 

「わざわざモンスターを召喚し直すなんて、ただの二度手間じゃない。アンタ何馬鹿なの?」

 

「二度手間っていうなっ! 意味もなしにそんなことをするわけがないだろ! 再度召喚された《巨人ゴーグル》の元々の攻撃力は2100になる!」

 

《巨人ゴーグル》ATK/1500→2100

 

「バトル、《巨人ゴーグル》で《レディ1》に攻撃! ゴーグルナックル!」

 

 巨体に似合わない俊敏な動きで距離を詰め、風切り音を鳴らしながら巨人が拳をハーピィに突き刺した。お前岩石じゃなかったのかよ。

 

《巨人ゴーグル》ATK/2100

《ハーピィ・レディ1》ATK/1800

 

ジュンコLP4000→3700

 

「さらに、《デュアル・サモナー》で直接攻撃!」

 

「くぅ! この程度!」

 

《デュアル・サモナー》ATK/1500

 

ジュンコLP3700→2200

 

「これでターン終了」

 

「やってくれたわね! 私のターン、ドロー!」

 

 やってくれたも何も、デュエルなんだからそうしなきゃ仕方ないだろうに。

 

「《ハーピィズペット仔竜》を攻撃表示で召喚! さらに、手札を1枚すてて罠発動!《ヒステリック・パーティ》! 墓地のハーピィ3体を特殊召喚するわ! これでアンタのモンスターを全滅させれば私の勝ちよ!」

 

《ハーピィズペット仔竜》ATK/1200

 

 これはなかなか凶悪な状況だな。《ペット仔竜》の効果が全部有効になれば、このままライフを消し飛ばされることは目に見えている。

 

「チェーンしてリバースカードオープン! 速攻魔法、《デュアルスパーク》! レベル4デュアルモンスターの《巨人ゴーグル》をコストにして、《ヒステリック・パーティ》破壊! そして1枚ドロー」

 

「な、なんてことすんのよ! せっかくのコンボが台無しじゃない!」

 

 こちらとしても負ける気はさらさらないので、抗議は完全に無視する。そもそもデュエルではよくあることだし、知ったことではない。

 

「うぅ…私はこれでターン終了よ」

 

「俺のターンだな、ドロー。…お、魔法カード《思い出のブランコ》発動。墓地から《巨人ゴーグル》を攻撃表示で特殊召喚、そして再度召喚」

 

《巨人ゴーグル》ATK/1500→2100

 

「バトル!《サモナー》で《ペット仔竜》を攻撃!」

 

《デュアルサモナー》ATK/1500

《ハーピィズペット仔竜》ATK/1200

 

ジュンコLP2200→1900

 

「続いて《巨人ゴーグル》で直接攻撃! やっちまえっ! ゴーグルナックル!」

 

 テンションに任せて技名を叫べるようになった俺は、立派に遊戯王世界の住民になっている気がする。しかし女子にいかつい巨人をけしかける絵面を見る限り、こちらが悪者に見えなくもない。

 

「キャアァッ!」

 

《巨人ゴーグル》ATK/2100

 

ジュンコLP1900→0

 

—————

 

 何はともあれこれで勝利だ。どうやら決着は俺が一番遅かったらしく、十代はワクワクした目で、翔は喜びに溢れた目でこちらを見ていた。もしかして翔は負けていて、一勝一敗という状況だったんだろうか。

 

 それぞれが乗っていたボートを岸に戻し、俺と翔が十代のボートに乗り込む。男三人が同じボートに乗ると流石に少し狭いな。

 

「約束通り、翔は連れて帰るぜ」

 

「どうぞ、約束は守るわ。今日のことは黙っててあげる」

 

「ふん、まぐれで勝ったからといって、良い気にならない事ね!」

 

 ジュンコが明らかに敵意満々である。ブルー生と戦うのは二度目だが、どうしてこうも寮の上下意識が強いんだろうか。良い気になるも何も、騒宣すると翔の覗き疑惑と一緒に俺の共犯疑惑も浮上しそうなので絶対にしないが。

 

「よして、ジュンコ。負けは負けよ、見苦しい事はしないでね」

 

 流石明日香さん男前。その潔さを分けて欲しいぐらいだ。

 

 そして帰りも十代にボートを漕いでもらった。唯一負けたと思われる翔に漕がせようかとも思ったが、十代が漕いだ方が早く帰れるので文句はない。

 借りた本を読むには時間も遅いし、帰ったらさっさと寝ることにしよう。

 




三沢から借りた本ですが、元ネタはシャークのテーマことZEXALのBGM「華麗なる戦略」です。
デュエリストパックではカイト編が出ることが決定していますが、是非シャーク編も出して欲しいですね。使えるかどうかは別として。
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