このアカデミアには月一テストというシステムがあり、実技、筆記共に各寮で競い、成績次第で昇格も降格もあるということだ。基本的に授業中に勉強していれば筆記で困る事は無いと思うが、アカデミアのテストなんて入試しか知らないのでどういった問題が出るのか不安は残る。
寮がかわっても授業内容が変わる訳ではないので、筆記試験は全員同じ教室で行われる。寮ごとに座る場所が決まっている訳でもなく、机の距離も非常に近い。…つまりその気になれば成績下位の生徒がカンニングしやすいような席取りもできるということだが、そんなことをすれば監督の先生方にバレるだろう。
それなりに早く来たのだがそれでも四割程度席が埋まっており、特に入り口付近は試験後いち早く外に出ようともくろむ生徒達によって完全に席が埋まっていた。適当に空いている前の辺りに座り、試験開始までゆっくり待つことにしよう。
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試験開始からしばらくして、とくに問題も無く回答欄を埋める事が出来た。授業の復習を兼ねている分、むしろ入試問題の方が難しかったぐらいだ。さりげなく周りの様子を確認した所、そうでもないようだが。
「勉強のしすぎで居眠りなんかしてちゃ意味ねぇぞ、こら」
「あ、兄貴!?」
もう開始30分以上も経ってるのにもかかわらず、十代が悪びれた様子も無く入室してきたようだ。そして試験中に話しかけるとは迷惑な奴だ。席が遠いから心配はないだろうが、頼むからこっちにまで話しかけないで欲しい物だ。
「うるさいぞオシリスレッド、静かにしろ! テストを受ける気がないなら出ていけ!」
「冗談じゃねぇぞ、せっかくきたんだぜ。帰ってたまるか」
万丈目と十代が口論をしているが、どう考えても万丈目の主張のほうが正論である。ただし自分も叫んでいるので、お前が言うな、とも思ってしまう。そっちを向いたらカンニングを疑われかねないので見るに見れないが、気になって仕方が無い。
「遊戯十代くん、はやく問題用紙を取りにこいにゃん、もう時間がないにゃー」
「はーい」
これでやっと静かになりそうだな。まだ40分近く時間は余っているが、一通り問題は埋め終わって見直しもすんだし、普段使いに役立ちそうなカードでも考えながらのんびり待ってるかな。
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「これで筆記テストは終了—。なお、実技テストは午後2時から体育館で行いまーす」
筆記試験が終わり、生徒が一斉に走り出した。入り口付近に陣取っていた生徒が多いのは気付いていたが、これだけ必死だと恐怖さえも感じてしまう。あぁはなりたくないものだ。
「起きろ、二人とも。筆記テストはとっくに終了しているぞ」
面倒見の良い三沢が十代と翔の二人を起こしているが、二人とも机に突っ伏していて何度か肩を揺さぶってもうめくだけだ。
「そうだぞ、試験中に居眠りしてたら先生の心証も悪くなるんだし、ちゃんと起きていたほうがいい」
「葵も寝ていただろう…」
「流石にちゃんと一通り埋めて、見直してからだけどな」
考え事をしていただけなので起きてはいたのだが、カンニングを疑われないように目を閉じていたのは事実なので素直に認めておく。考えた結果、アカデミアは自然豊かなので夏場に《虫除けバリアー》を使うことだけは決まった。
「やっちまった、何のために勉強したんだか…」
「気にすんな、午後の実技テストが本番よ」
ようやく二人が起きたようだ。翔は弾かれるように勢い良く、十代はのっそりとした動きで顔を上げており、二人の筆記試験に向かう心がけの違いがよくわかる。
「あれ、皆は?」
「もう昼飯か?」
まだ11時を過ぎたばかりなので、十代達の疑問も尤もである。今からイエロー寮の食堂までのんびり歩いても15分になる前には到着できる。レッド寮に限ってはもう少し時間がかかるだろうが、ほとんどのレッド生は購買を利用するので昼食には早いだろう。
「購買部さ。なんせ、昼休みに新しいカードが大量入荷することになってるか
らな」
「え、えぇー! カードの大量入荷!?」
「皆、午後の実技テストに向けて、デッキを補強しようと買いに行ったんだよ。」
あれはすごい光景だった。我先にと前にいる人を押しのけながら購買に走る生徒達、ブルーからレッドまでのほぼ全員がそんな勢いで出口に殺到する地獄絵図。端の席に座っていたら間違いなく巻き込まれていただろう。
「み、三沢くんは?」
「僕は今のデッキを信頼している。新しいカードなんか必要ない。」
「あ、葵くんは?」
「新しいカードがあったとしても、調整する時間が足りない。今回はパスだな」
さすがに全種類のカードを持っているなんて言えないし、何より今さら争奪戦に突っ込んでいく元気がない。
「あ、兄貴は?」
「俺は…興味ある!どんなカードがあんのか見たくってしょうがねぇ!行こうぜ!翔!」
「うん!」
そして二人とも走り去ってしまった。寝起きとは思えないフットワークの軽さが羨ましい限りだ。
「それじゃあちょっと早いけど、食堂でお昼にしてくるかな。購買いかないなら、一緒にどうだ?」
「そうだな。購買に人が集中している今なら食堂も空いているだろう」
やはり新カードの大量入荷に興味が無かった人間は稀だったようで、食堂はガラガラと言ってもいい状態だった。試験日ということで二人して今日のオススメであるカツカレーを食べて験を担ぎ、午後の実技に備えて調整するため解散となった。
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実技試験も終盤、十代の見事な勝利でラーイエロー昇格が決定して周りは大盛り上がりだが、試験はまだ続いている。実技試験は同じ寮同士で行われるということで、俺の相手は我らがイエロー主席の三沢大地…
「よ、よよよ、よろしく」
…ではなく、本当に高校生なのか疑わしい程に背の小さいイエロー生だった。名前は確か小原とかいったか。
同じラーイエローだが、あまり面識はない。俺の交友関係が非常に狭いとかそんなわけではなく、彼がいつも大柄な生徒…たしか大原という名前…とつるんでいるため、話しかける機会がないのだ。
『ご主人様は三沢殿や遊城殿とおられないときは、大概一人で過ごしておられると記憶していますが』
おいやめろ。入学からおよそ一ヶ月経ったにも関わらず、マトモに話したイエロー生が三沢以外にいないという事実をバラすんじゃない。
「よろしく、それじゃ始めようか」
「「決闘(デュエル)!」」
「俺の先攻。ドロー」
今回の試験では先攻後攻は決闘場についた順とのことだったので、遠慮なく先攻を取らせてもらう。普段が言った者勝ちなので、あらかじめ決められているのは正直ありがたい。
「《サンライズ・ガードナー》を攻撃表示で召喚。カードを一枚伏せて、ターン終了」
《サンライズ・ガードナー》ATK/1500
太陽を背に受け、黄金に光り輝く戦士が現れた…決して溝の口発の真っ赤なアレではない。
「俺のターン、ドロー。《猛進する剣角獣》を召喚して手札から《『攻撃』封じ》を発動!《サンライズ・ガードナー》を守備表示に変更する!」
《サンライズ・ガードナー》ATK/1500→DEF/500
《『攻撃』封じ》とは、なんて渋いカードを使いやがるんだ…《山》や《ドラゴンの秘宝》が現役であったこともあるし、この世界のパック事情が気になる所だ。
「《猛進する剣角獣》で《サンライズ・ガードナー》に攻撃!」
「リバースカードオープン、速攻魔法《スペシャル・デュアル・サモン》発動。これで《サンライズ・ガードナー》を再度召喚状態にし、元々の守備力が2300となる」
《サンライズ・ガードナー》DEF/500→2300
「て、手札から速攻魔法《月の書》発動!《サンライズ・ガードナー》を裏守備表示に変更する!」
せっかく再度召喚した《サンライズ・ガードナー》だったが、裏守備にされてしまっては再度召喚前の状態に戻ってしまう。《サンライズ・ガードナー》はあっけなく角に貫かれてしまった。
《猛進する剣角獣》ATK/1400
《サンライズ・ガードナー》DEF/500
葵LP4000→3100
「カードを1枚伏せて、ターン終了するよ」
まさか《月の書》をつかってまで破壊しにくるとは…それとも戦闘ダメージを嫌ったのだろうか。どちらにしろ予想外だった。ついでにいうと攻撃名を言わなくて良いのも意外だった。
「俺のターン、ドロー」
わざわざ《『攻撃』封じ》を使ったことを考えると、小原は貫通ダメージを狙っていくデッキのようだ。そして困った事に下級デュアルは守備力が低く、最大値で《炎妖蝶ウィルプス》の1500、しかも初期デュアルに至っては守備力500のモンスターばっかりだ。
「《シャドウ・ダイバー》を召喚」
《シャドウ・ダイバー》ATK/1500
フードを目深に被った男がフィールドに現れ、心無しか周りが暗くなった。
男は微動だにしないが、その影は不気味にうごめいている。
「バトル、《猛進する剣角獣》に攻撃!」
《シャドウ・ダイバー》ATK/1500
《猛進する剣角獣》ATK/1400
小原LP4000→3900
俺から伸びた影から悪魔が浮き出て、鋭い爪で剣角獣を切り裂いた。
名前から考えて影が本体だとは思っていたが、召喚した時に出てきたフードの奴は一体なんだったんだ…
「カードを1枚セットして、ターン終了」
「くそっ、俺のターン、ドロー。…よし! スタンバイフェイズにリバースカードオープン! 《邪悪な儀式》を発動! フィールド上の全てのモンスターの表示形式を入れ替える!」
《シャドウ・ダイバー》ATK/1500→DEF/500
何をセットしているのかと思ったら、またもや渋いカードを…しかし貫通狙いのデッキ相手に低守備力を晒しているこの状況には、嫌な予感を抱かざるを得ない。
「さらに俺は、《俊足のギラザウルス》の効果を発動して、手札から特殊召喚! その効果によりキミは墓地のモンスターを一体特殊召喚できるよ」
「それだったら遠慮なく、《サンライズ・ガードナー》を攻撃表示で特殊召喚させてもらおう」
《サンライズ・ガードナー》ATK/1500
ギラザウルスということは生け贄召喚でもするつもりなのだろう。現時点で恐竜族で固まっていて貫通狙いということは、ここで出てくるのは恐らく…
「《ギラザウルス》を生け贄に、《暗黒ドリケラトプス》を召喚!」
やっぱりそいつか! 貫通持ちな上に守備力が初期の下級デュアルの攻撃力と同じ1500という、こちらからすれば中々厄介なモンスターだ。
「さらに手札から《死者蘇生》を発動! 墓地から《猛進する剣角獣》を特殊召喚してバトル!《猛進する剣角獣》で《シャドウ・ダイバー》に攻撃!」
こっちにきたらどうしようかとおもったが、どうやら攻撃先はフードの男のほうであるらしい。フードの男は影の悪魔を盾にしたようだが、先ほどの仕返しとばかりに突進してきたサイによって悪魔もろとも角で貫かれてしまった。
《猛進する剣角獣》ATK/1400
《シャドウ・ダイバー》DEF/500
葵LP3100→2200
「《暗黒ドリケラトプス》で《サンライズ・ガードナー》に攻撃!」
サイズが違い過ぎるせいか、抵抗もできずに怪鳥に蹴散らされる《サンライズ・ガードナー》。抵抗できなかった理由の一つとして、再度召喚したときの守備力ですら敵わないからか棒立ちだったせいもあると思う。諦めっぷりが潔いほどだ。
《暗黒ドリケラトプス》ATK/2400
《サンライズ・ガードナー》ATK/1500
葵LP2200→1500
「俺はこれでターン終了!」
状況を確認する。相手はほぼ初期ライフで場に攻撃力2400と1400の貫通持ちモンスター、一方こちらはライフが半分を切った上に場にはたった1枚の伏せカードあるだけ。
「俺のターン、ドロー!」
先程の表現だとこちらが圧倒的不利にも見えるが、相手には手札と墓地発動カードは無く、こちらには豊富な手札がある。それでもどうしようもない時もあるが、今回はそうではないようだ。
「手札の《樹海の射手》の効果を発動! 墓地に通常モンスターが二体以上存在する時、このカードを手札から特殊召喚できる! そして《樹海の射手》を生け贄に、《魔族召喚師》を召喚!」
《魔族召喚師》ATK/2400
冥界の魔王ハデスを彷彿とさせる悪魔の召喚師があらわれた…見た目が明らかに悪魔族だが、こいつはれっきとした魔法使い族だ。
「さらに手札から装備魔法《スーペルヴィス》を《魔族召喚師》に装備する。《スーペルヴィス》を装備したデュアルモンスターは再度召喚状態となる!」
「え、わざわざ装備しなきゃいけないなんて二度手間…」
「二度手間っていうな!」
「ひっ! ご、ごめんなさい…」
まったく、今回はせっかく召喚権を使わずに再度召喚したというのに、これでも二度手間というのか、まったくもってけしからん!
「再度召喚された《魔族召喚師》の効果を発動! 手札もしくは墓地から悪魔族モンスターを一体特殊召喚できる! 蘇れ《シャドウ・ダイバー》!」
《シャドウ・ダイバー》ATK/1500
悪魔の召喚師が髑髏のついた杖を一振りすると、青い魔法陣が現れ、そこからローブの男が再び現れた。さて、これでフィールドは整った。
「バトル!《シャドウ・ダイバー》で《猛進する剣角獣》を攻撃! リッピング・フロム・シャドウ!」
《シャドウ・ダイバー》ATK/1500
《猛進する剣角獣》ATK/1400
小原LP3900→3800
「続いて、《魔族召喚師》で《暗黒ドリケラトプス》を攻撃! スペル・オブ・ハデス!」
「む、迎え撃て!《暗黒ドリケラトプス》!」
《魔族召喚師》ATK/2400
《暗黒ドリケラトプス》ATK/2400
「《魔族召喚師》がフィールドを離れたことにより、《魔族召喚師》の効果で特殊召喚された《シャドウ・ダイバー》は破壊される」
これでお互いにモンスターはいなくなった。しかし、これで終わりではない。むしろここからが本番だ。
「《スーペルヴィス》の効果発動! 表側表示のこのカードが墓地に送られた時、墓地の通常モンスターを一体特殊召喚する!《魔族召喚師》を特殊召喚!」
《スーペルヴィス》は数あるデュアルサポートカードの中で非常に強力なカードだ。即座に再度召喚状態にする効果ももちろん強力だが、この蘇生効果はさらに恐ろしい。なにせ強制効果であるため、タイミングを逃さないのだ。
おかげでこのように追撃につかったりもできる。
「《魔族召喚師》でプレイヤーに直接攻撃! もう一丁! スペル・オブ・ハデス!」
《魔族召喚師》ATK/2400
小原LP3800→1400
「リバースカードオープン!《正統なる血統》! 墓地から通常モンスター扱いの《シャドウ・ダイバー》を攻撃表示で特殊召喚! そしてプレイヤーに直接攻撃! トドメのリッピング・フロム・シャドウ!」
「うわあぁぁ」
《シャドウ・ダイバー》ATK/1500
小原LP1400→0
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「葵!」
十代が駆け寄ってきた。俺としては少し余韻に浸りたかったのだが、この騒がしい男にとっては関係ないようだ。
「十代、遅ればせながらだけど、昇格おめでとう」
「おう、サンキュ! 葵もいいデュエルだったぜ!」
「そりゃ俺も負けてられないからな。十代と三沢もだけど、翔も勝ってたみたいだしな」
入学試験の筆記で二位以下に圧倒的点差をつけての堂々の主席であり、実技でも知識を活かした臨機応変な戦術を使いこなす三沢は、ブルー生にも引けを取らないほどの実力者だ。勝つのは当然とも言えるだろう。
一方翔はというと、今の所は自分のカードのテキストすら読んでいない時があるなど、正直なぜそれでアカデミアに合格できたのかと思うことも多々有るが、アカデミアで名高いカイザーの弟である。ポテンシャルは充分だといえるだろう。…この言い方をすると翔は確実に拗ねるので、間違っても口には出さないが。
「そうだ、祝勝会って言うにはささやかだが、ドローパンでよかったら奢ろうか。ついでだし三沢と翔も一緒に」
ちょうど一ヶ月分の引換券があることだし、こちらとしてもちょうどいい。それも毎日3個以上も食べるように計算してあったのか、100枚も封筒に入っていたせいでまだ半分どころか1/4も使えていない。
「おぉ、ラッキー! じゃあ俺は翔を探してくるぜ!」
その後二人と合流し、祝勝会という名目でドローパンを食べながら大いに盛り上がった。十代はとうがらしパンを美味しそうにたべており、翔はキムチパンで泣きそうになっていた。三沢はトマトパン、俺はにんじんパンだった。
試験直後に全員が赤いパンというのは赤点を連想させて翔が嘆いていたが、他のメンバーは一切気にしていなかった。むしろ翔以外は好みのパンが引けて、これなら絶対に大丈夫と言うぐらいである。
…余談だが、イエローに昇格したはずの十代は「赤が好き」という理由でオシリスレッドに残ることを決めたらしい。おかげで余計にブルーやイエローの生徒達から白い目で見られることになったのだが、仕方が無いと思う。
定番の焼きそばパンから三大珍味まで、ドローパンは色々あって楽しそうです。
一部食べてみたいパンもありますが、現実に発売されて買うかと聞かれたら悩む所ですね。