二度手間っていうなっ!   作:祐弘千尋

7 / 18
7.ビッグバンっていうな!

 レッドとイエローによる野球の交流試合、8回裏ツーアウトで迎えた俺の打順。

 ピッチャーは遊城十代、登板してからは驚異的な速球で多くの三振を奪っている。俺もここまでの回さっぱり打てず、今もツーストライクまで追いつめられてしまった。

 

「へへっ、また三振をもらうぜ!」

 

「仕方がない、十代は右投げだよな? 俺も右利きだから右打席に入っていたが…スイッチ、ここからは左打席だ」

 

「何!」

 

「俺はどっちの打席でも感覚に差はないからな。終盤だし、遠慮はなしだ」

 

「面白ぇ! 行くぜ葵!」

 

「来い! 十代!」

 

 十代の性格を反映するように、ストライクゾーンに向けてまっすぐ投げられた白球。予想通りのコース、予想通りの速度、それに合わせて勢いよく振られたはずのバットはそのまま空を切り、ミットからは軽快な音が響いた。

 

「ストライク! バッターアウト! チェンジ!」

 

 感覚が変わらないといったのは本当である。どちらにしても打てないため、感覚も何もあったものじゃないとも言う。結局この回も点が取れず、レッドチームに3点リードされたまま9回表を迎えることとなった。

 

「かっとばせー! 十代!」

 

 そして現在2アウト1、2塁のピンチで十代の打順が回ってきてしまった。レッド生の応援が体育館に響く。ピッチャーとしてもバッターとしても優秀な十代は、この状況ではまさしくヒーローになれるだろう。

 

「よし! まかせとけ、ここで一発打てば、1点、2点、3点追加で一気に決まりだぜ!」

 

 こちらのピッチャーは疲れもあって、制球が甘くなってしまっている。こんなときにピッチャーをできる奴が他にいれば、そんな益体もないことを考えていると今までこの場にいなかった男の声が聞こえた。

 

「その試合待ったぁ!」

 

 ラーイエロー学年主席こと、三沢大地だ。ほとんどの生徒が気付かずにそのまま試合を始めてしまったのだが、ここまで遅れるとは思わなかったので先に始めて正解だったのかもしれない。一体何故こんな大遅刻になってしまったのだろう。

 

「遅れてすいません、ついデッキ構築論に夢中になってしまって」

 

 そんな理由で授業を大幅に遅刻しても許されるのは、ここがデュエルアカデミアだからだろう。このピンチの状況でこの男の登場は非常に心強い。レッドの英雄たる十代に対抗できるのは、イエローの豪傑たる三沢を置いて他にはいないだろう。

 

「ピッチャー交代だ! ピッチャー三沢!」

 

「ついに出てきたな、三沢! しかしお前の球もあそこに叩き込んでやる!」

 

「いや、俺の球は打たれはしない」

 

 お前一人称変えたのか。確か初めてあった時は一人称が僕だった気がするんだが、熱くなっているせいだろうか。それとも入学二ヶ月経とうかというこの時期に高校デビューという奴だろうか。

 

「君の攻略法はすでに計算済みだからだ。」

 

 先ほど来たばかりなのに、いつの間に攻略法を計算していたのか非常に気になる。三沢のことだから伊達や酔狂ではないだろうし、瞬算というやつかもしれない。

 

「行くぞ、方程式バージョン1!」

 

 三沢の投げた球は大きくぶれ、いくつにも分裂したような軌道を描きながらミットに収まった。明らかに人間が投げられないような球を投げた三沢もすごいが、取りこぼさなかったキャッチャーもすごいと思う。

 

 そのまま十代を空振り三振に討ち取り、見事ピンチを凌ぎきった。そして迎えた9回裏、イエローチームの攻撃。初めの二人が三振に討ち取られてしまったのだが、そこから十代が四球を連発してこれで満塁である。

 

 一体何故かと思ったが、すぐにその理由に思い至った。

 

「借りはきっちり返さないと行けないからな。三沢! 今度こそお前を討ち取ってやる!」

 

 つまりそういうことだ。わざわざ満塁のピンチを作り出してまですることなのかは微妙な所だったが、負けず嫌いな十代としては先ほど三振に討ち取られたリベンジを果たしたいようだ。

 

「それもできないことだな。キミを打ち崩す方程式ももうすでに出来ている。俺はその数式に乗っ取り、お前を叩くまでのこと。そして、負けたお前は俺の言いなりとなれ!」

 

 しれっとペナルティを追加しているが、誰も気にした様子がない。デュエルにしろなんにしろ勝負事にペナルティや景品をつけたがる奴らが集まっているので、そういったものが当たり前という感覚なのかもしれない。

 

「勝負だ!」

 

「こい、一番!」

 

「行くぞ二番! 喰らえ! 俺がヒーローだ!」

 

 十代が投げた球はこれまでよりも速かったが、三沢はそれすらも予測していたのだろう。三沢の振るったバットが十代の豪速球に直撃し、打球は脇の用具室へと吸い込まれて…誰かに当たったようだ。跳び箱などが滅茶苦茶になってしまっている。

 

「あの、すみませーん」

 

 十代と翔が駆け寄った先にいたのは、クロノス教諭だったようだ。左目にボールがめり込んでいるようにも見えるが、十代達に怒鳴っているのを見る限り問題はなさそうだ。

 

「すみませーん、打ったのは俺なんですー」

 

「シニョール三沢、シニョール三沢といえば成績ダントツの生徒ナノーネ、万丈目の変わりに使えるカモーネ」

 

 駆け寄ってきた三沢を見た途端、クロノス教諭が何やらぶつぶつと言い始めたがよく聞こえない。しかしあれだけ動き回ってもボールが落ちないだなんて、やはりめり込んでいるのかもしれない。

 

「あの、治療費俺持ちですか」

 

 保健室を利用するなら治療費も何もないだろうが、もしもボールがめり込んでいるのなら島の外にある病院に搬送される可能性もある。

 

「ノンノンノン、優秀な生徒には寛容なのはこの学園デース。そのかわり…」

 

 その言い方から察するに、ぶつけたのが優秀でない生徒だったら治療費を請求していたようだ。そのかわり条件があるようだが、ちょっとした手伝いでもさせられるのかもしれない。気になるのでそっと聞くことに集中する。

 

「あ、お前達には関係ないノーネ! シッシッシッ、さしすせシッー!」

 

 聞き耳を立てようとしていたが、クロノス教諭に気付かれてしまったようだ。

 犬歯をむき出しにして唸るクロノス教諭に、十代と翔も一緒に追い出されてしまった。

 

—————

 

 三沢とクロノス教諭の話が終わった後、イエロー寮に向かって歩いている。十代には三沢に負けた罰ゲームということで、やってもらいたいことがあるらしい。ついでに俺と翔も手伝って欲しいということだが、いったい何をするのだろうか。

 

「三沢って野球上手いんだな」

 

「結局兄貴こてんぱんっすもんね」

 

「ふっ、秘訣はコレさ」

 

 そういって三沢が見せたのは数式がびっしりと書いてあるバット…アカデミアの備品を勝手に持ち出したあげく、油性ペン落書きするとはなかなかの度胸だ。暗算では難しい計算だということはわかるのだが、他に書くものはなかったのだろうか。

 

「俺が投げた球もすべて計算で編み出された配球だったってわけさ」

 

「へぇ、そんなことができるのか」

 

「で、僕たちの罰ゲームってなに?」

 

「まぁ、俺の部屋にはいってくれよ」

 

 本の貸し借りなどは教室で行っているため初めて三沢の部屋に入ったが、計算式が壁中どころか天井にまで埋め尽くされている。天井や高い所にある式は、部屋の隅にある脚立を使って書いたのだろう。

 

「おれが思いつくままに書き留めた数式さ」

 

 シュレッディンガーの猫、アボガドロの分子説、風が吹けば桶屋が儲かる確率式と次々と紹介されるが、初めの二つはまだしも最後の式に関しては証明をするために使用したデータは、いったいどこから引用されたのかが非常に気になる。

 

「この星々の、ビックバンの手伝いをしてもらいたい!」

 

 これはもしや《ビッグバン・シュート》の出番なのだろうか。冗談でもそんな考えが浮かんだあたり、この世界に順応してきたのかもしれない。

 

「「「これぞ! ビッグバンだ!」」」

 

 他の三人が元気に叫んでいる通り、現在ビッグバンの真っ最中である。やっていることは要するにペンキ塗りなのだが、部屋全体をやるには一人では手が足りなかったので十代や俺に手伝いをさせることにしたようだ。

 

「始まりじゃなくて終わりだから、むしろビッグクランチだけどな」

 

「まぁ細かいことはいいじゃないか」

 

 もちろん樺山教諭には許可をとってあるそうだし、安全性を考えて塗料も水性のものをつかっているのだが、いかんせん素人なので塗り方にムラがある。業者を呼んでやってもらった方がよかったのではないだろうか。三沢がそれでいいなら構わないのだが。

 

—————

 

 ちょっとした事故によりペンキのかけ合いになってしまったが、おおむね問題なく塗装は完了した。共同浴場でそれぞれ汚れを落とし、全員揃ってイエロー寮の食堂に来ていた。

 

「わりーな! 三沢! 罰のはずだったのにごちそうにまでなってしまって」

 

「すごいごちそうっすよ!」

 

「それじゃあじゃんじゃん喰ってくれ。いくらでもごちそうするぜ」

 

「こんなもの誕生日にも出してもらったことねぇ!」

 

 オシリスレッドの二人が食事に目を輝かせているが、ラーイエローではその気になれば月一ぐらいでは食べることができるレベルの物だ。オベリスクブルーの食事をした日なんかには、驚きすぎて卒倒するんじゃないだろうか。

 

「そういえば、さっきクロノス教諭と何話してたの?」

 

「あぁ、寮の入れ替えテストのことさ」

 

「部屋も綺麗にしたってことは!」

 

「三沢、お前!」

 

「お前がレッド降格だったらアカデミアに抗議ものだし、ブルー昇格か。おめでとう」

 

「まだ、そうと決まったわけじゃ」

 

 しかしあの部屋は三沢が使う物とばかり思っていたのだが、ブルーから落ちてくる奴が踏んだり蹴ったりだな。ブルー寮から落ちてきて新しく入ることになった部屋がペンキ塗りたてで、しかも素人仕事でかなり塗りムラがある。

 

「そうでしょ、そうでしょ!」

 

「入試のときだって抜群に強かったもんな! オベリスクブルーに入るのは当然だぜ! よかったなー三沢!」

 

「よかったよかった」

 

 ひとしきり喜んでから再び料理にがっつく十代と翔。

 

 結局三沢は天井も床もペンキで塗りたくったせいで寝る場所がなく、俺の部屋にもベッドをもう一つ運び込むスペースどころか予備の布団もないということでレッド寮の十代の部屋で布団を敷いて寝ることにしたらしい。

 

 会場と時間は教えてもらったので、明日はもちろん見物にいくつもりである。しかし三沢が昇格試験と聞いて、何かが頭に引っかかるのだが一体なんだったか。

 

—————

 

 三沢より先に会場についてしまったのだが、そこにいたのはクロノス教諭と万丈目だった。どうやら三沢の相手は万丈目だったらしい。そこでようやく万丈目がアカデミアを放逐される話があったことに思い至る。

 

「何故シニョールがここにいるんでスーノ?」

 

 周りに他の生徒もいないことから、ほとんど周知されていなかったようだ。そんな状況で関係のない生徒がふらふらやってきたら、疑問に思って当然だろう。

 とはいっても、特に後ろめたいこともないので正直に話すことにする。

 

「三沢君が入れ替えテストを行うと聞いたので、見学に来たのですがまずかったでしょうか」

 

「イイーエ、別に構いませンーノ」

 

「ふん、せいぜい俺の華麗なデュエルをその目に刻み付けるといい。この万丈目準様の華麗なデュエルをな!」

 

 許可も降りたことだし、間近で見るとしよう。観客席まで回って座っていた方がいいだろうか。それならば足も疲れないし、ソリッドヴィジョンに巻き込まれないし、いい考えかもしれない。

 

 待ち始めてからそれなりの時間が経ち、ようやく三沢がやってきた。

 十代や翔も一緒だが、記憶が正しければカードが海に捨てられる事件があったはずだ。誰も濡れていないということは、回収はしていないみたいである。

 

「遅いーノネ、シニョール三沢」

 

「とっくに尻尾を巻いて逃げ出したのかと思ったよ」

 

 万丈目が人の悪そうな笑みを浮かべて、一段高い所から三人を見下ろしている。何とかと煙は高い所が好きという言葉がふと頭をよぎったが、それを言ってしまうと観客席にいる俺はもっと高い所にいるので墓穴を掘ることになるだろう。

 

「それじゃあ三沢の寮の入れ替えの相手って…そうか、三沢のカードを捨てたのはお前か!」

 

「何の言いがかりだ十代、どうしておれが」

 

「本当にいいがかりかしら?」

 

「明日香、カイザー亮」

 

「私見てしまったの、万丈目くんあなたが今朝海岸にカードを捨てた所を…やっぱり気になって事情を聞きにきたけど」

 

「汚いぞ万丈目!やっぱりお前が!」

 

 明日香さんが来た理由はよくわかったが、カイザーは何故ここにいるんだろう。

 明日香さんの付き添いだろうか。教室全体を見渡しているので、何かを探しているのかもしれない。

 

「黙れ! 俺は自分のカードを捨てたんだ。それとも、そのカードに名前でも書いてあったのか?」

 

「万丈目!」

 

 あまり関係のない話だが、友人にカードの裏にペンで名前を書いてスリーブに入れていた奴がいた。こうすれば盗まれても安心だと豪語していたが、結局盗まれてしまったら取り返すことは難しいこと上に売れなくなるため、結局すぐにやめたらしい。

 

「俺を泥棒呼ばわりした責任は取ってもらうぞ」

 

「いかがでしょう、このデュエルで負けた方が退学になるというのは」

 

「むちゃくちゃだ!キーカードをなくした三沢のデッキは!」

 

「いや、そのデュエル、受けて立つ!」

 

 退学なんて条件をあっさり受けるのがすごいな。負ければ高校中退という人生のリスクを背負うというのに一切の躊躇がないのは、負けることがないという自信の現れだろうか。

 

「心配をかけて悪かったな、十代。捨てられたデッキは、調整用に使う寄せ集めのデッキ! 俺の本当のデッキはここにある! 見ろ! 俺の知恵と魂をこめた6つのデッキを!」

 

 そういうと三沢は制服の前を大きく開き、中のベストを見せつけた。ランボーよりも春先の変態が想像されてしまうのは、光の結社編での衝撃のせいだろう。

 

「風! 疾きこと風のごとく! 水! 静かなること水のごとく! 火! 侵掠すること火のごとく! 地! 動かざること地のごとく! 闇! 悪の闇に光さす!」

 

 三沢屈指の名シーンだけに、こちらに背を向けているのが残念だ。それにしても風林火山をモチーフにしているのは分かるが、闇と光だけやっつけな気がしてならない。

 

「む、6つのデッキだと!? そんなこけおどし、この俺の恨みの炎で焼き尽くしてやるわ!」

 

「ふ、決まった。お前を倒すデッキはこれだ!」

 

 月一試験で十代とデュエルした時の万丈目のデッキが【VWXYZ】だったのを見ていたはずなのだが、それを一切考慮せずに台詞だけでデッキを決めてもよかったのだろうか。

 

「セットアップ! これがこけおどしのデッキなのかどうか、すぐにわかるぜ! 万丈目!」

 

「来い、三沢!」

 

「「デュエル!」」

 

—————

 

 三沢の《ウォーター・ドラゴン》が《炎獄魔人ヘル・バーナー》ごと万丈目を洗い流してデュエルが終了した。これが計算通りというのなら、もはや未来予知の域だ。

 

「万丈目、お前はデュエリストとして」

 

「うるさい、お前が偶然水属性デッキを選んだために、俺は!」

 

「違うな、偶然なんかじゃない。お前が教えてくれたんだ・・・デュエルの前に」

 

 しかし今回の万丈目のデッキは、名前に地獄を連想させる単語があるカードという以外の共通点を見いだせないデッキである。むしろ《ウォーター・ドラゴン》が刺さったことが驚きだ。

 

「つまり、デュエルの前からこの勝負は決まっていた。そして万丈目、海に捨てられていたカードは間違いなく俺の物だ」

 

「何故分かる」

 

「それはこいつにメモしちまったからだよ、数式を…これが証拠だ、こんな落書きのあるカードは世界にった一枚だけだろうからな。万丈目! カードを大切にできないものは、デュエリストとして失格だぞ!」

 

 カードに落書きをするお前には言われたくなかっただろう。それと気になったこととしては、落書きしたカードはデュエルディスクに読み取られるのだろうか。後で三沢に聞いてみよう。

 

「シニョール三沢、ユーのオベリスクブルーの編入を認めるノーネ」

 

「いえ、そのお誘いはお断りします」

 

「おぅ、何故ナノーネ」

 

「俺は、オベリスクブルーに入るなら、この学園でナンバーワンになった時と、入学式のときに決めたんです」

 

 俺たちの学年では万丈目がブルー男子最強のはずなので、名目上はナンバーワンを名乗ってもいいと思うのだが三沢はそれでは満足できないようだ。

 

「十代、オベリスクブルーに入るのはお前を倒してからだ」

 

「よし、今すぐデュエルをやろうぜ! 俺も、お前と戦いたくてうずうずしてたところさ」

 

 むしろ十代は戦いたくてうずうずしていない時間の方が短いと思うのだが、戦いたい相手が決まっているのはあまりないことかもしれない。

 

「残念だが、今は駄目だ」

 

「え?なんでだよ」

 

「ここにあるデッキはまだ完成していない。この6つのデッキはお前の【E・HERO】デッキを研究するための試作デッキに過ぎない」

 

「試作デッキ?」

 

「し、試作のデッキだと、俺は、そんなものに俺は負けたのか」

 

 素直に【E・HERO】を構築してみた方がよっぽど研究になると思うのだが、それだとその構築を前提にして動いてしまうということで、あんな回りくどい研究の仕方をしているのかもしれない。

 

「多分、新しく塗った部屋の壁が数式で埋め尽くされる頃にはできるだろう。お前の【E・HERO】デッキを破る、俺の七番目のデッキが!」

 

「俺をまかすデッキだと? おもしれぇ! そのときこそお前と勝負だ!」

 

「来い二番!」

 

「いくぞ、一番くん!」

 

 二人がめらめらと燃えているのがわかる。それにしても数式を壁紙に直接書き込むのは、樺山教諭に注意されないのだろうか。部屋替えがあった時の手間が明らかに大きいと思うのだが、どうなんだろう。

 

「このままデーハ、誇り高きオベリスクブルーの生徒が減ってしまうノーネ」

 

 クロノス教諭がまた何かつぶやいていたが、距離が遠いこともあってあまり聞き取れなかった。何やら嫌な予感がするので、今のうちにひっそりと退場したほうがいいかもしれない。

 

「シニョール代田、オベリスクブルー編入試験に挑戦するつもりはおありでスーノ?」

 

「え、あ、はい」

 

 急にこちらに話題が振られて思わず返事をしてしまった。万丈目以外はこちらを見ており、驚いた顔をしているがやはり誰一人として気付いていなかったようだ。座っていたのが十代達の後ろ方向だったというのも原因だろう。

 

「え、葵くん、いたの?」

 

「ずっといた!」

 

 翔にしれっと酷いことを言われた。誰もこちら向いてなかったから、まったく気付かれていなかっただけだ。決して空気になったのではないと信じたい。そういうのは三沢の役目のはずだ。

 

「せっかくなノーデ、ワタシが直々に相手をするノーネ」

 

「いえ、ここは俺にやらせてください!」

 

 カイザーがすごい勢いで食いついてきた。明日香さんを始め、周りにいる面々が少々引いている。理由は…恐らく《ヘルカイザー・ドラゴン》だと思われる。それ以外の理由はさっぱり思いつかない。

 

「わ、わかったノーネ。それでーは、シニョール代田とカイザーの試合を始めるノーネ」

 

 観客席から決闘場まで降り、カイザーと向かい合う。

 

「入試デュエルで君を見て、一度デュエルをしたかったんだ」

 

「学園最強のあなたに言われるなんて、光栄ですね」

 

「目は全然そう言ってはいないがな。俺を倒す気満々じゃないか」

 

 どうやらカイザーフィルターを通してみると、俺はやる気に満ちあふれたデュエリストのようだ。光栄と思っていないのは事実だが、面倒な展開になったというのが本音である。

 

「それではいくぞ!」

 

—————

 

「「デュエル!」」

 

「先攻は譲ろう」

 

 サイバー流でその台詞はずるいと思うのだが、譲られて遠慮するのもおかしな話だ。ここは先攻なら罠を張れると考えよう。…召喚反応のカードは入っていないので、大したことはできないのだが。

 

「ドロー。《サンライズ・ガードナー》を守備表示で召喚して、カードを2枚伏せる。ターン終了」

 

《サンライズ・ガードナー》DEF/500

 

 今伏せたのは《スペシャル・デュアル・サモン》と《二重の落とし穴》だ。《サイバー・ドラゴン》来ても再度召喚すれば攻撃を防げるし、融合体で戦闘破壊されても《二重の落とし穴》でまとめて潰せるのでなんとかなるだろう。

 

「俺のターン、ドロー。相手フィールドにのみモンスターが存在する時、俺は手札から《サイバー・ドラゴン》を攻撃表示で特殊召喚!」

 

《サイバー・ドラゴン》ATK/2100

 

 やはり初手で握っていたか。下級アタッカーをことごとく粉砕するカードとして、長らくエースカードの座に君臨し続けた凶悪モンスター。自身が直接殴るだけでなく、機械族メタとしての働きや圧倒的パワーを持つ融合体、さらには手軽な星5モンスターのため、シンクロやエクシーズなどに使用されることで現在も活躍する姿を見ることができる。

 

「そして、魔法カード《エヴォリューション・バースト》を発動。 相手フィールドのカード1枚を破壊する。 俺はこの効果で《サンライズ・ガードナー》を破壊する」

 

 再度召喚すれば耐えられる攻撃、そう判断したのであろう戦士は衝撃に備えて構えていたが、これは戦闘ではなく効果破壊だ。そのため機械の龍から吐き出された光線であっさり消し飛んでしまった。

 

「さらに《プロト・サイバー・ドラゴン》を召喚する。このモンスターはフィールド上に存在する限り、《サイバー・ドラゴン》として扱う」

 

 《エヴォリューション・バースト》の効果で、このターン《サイバー・ドラゴン》は攻撃することができない。それはこの《プロト・サイバー・ドラゴン》も同じはずだ。…ここで《融合》が飛んできたら後攻ワンキルされてしまうのだが。

 

「手札から《フォトン・ジェネレーター・ユニット》を発動!フィールド上の《サイバー・ドラゴン》2体を生け贄に、デッキから《サイバー・レーザー・ドラゴン》を攻撃表示で特殊召喚!」

 

《サイバー・レーザー・ドラゴン》ATK/2400

 

「いくぞ、《サイバー・レーザー・ドラゴン》で直接攻撃! エヴォリューション・レーザーショット!」

 

 機械で作られた龍の尾が開き、そこに光が収束する。そして強い光を感じると胸に熱を感じた。きっと心臓がレーザーで貫かれたのだろう。体感システムだったので緩和されていたのだろうが、これが闇のデュエルだったら即死しそうなものだ。

 

《サイバー・レーザー・ドラゴン》ATK/2400

 

葵LP4000→1600

 

「俺はカードを2枚伏せてターン終了」

 

 初ターンから手札使い切るなんて大胆だな…こちらの伏せは無警戒なのだろうか。それともこちらの魔法・罠が、デュアルモンスターに依存していることを知っているのだろうか。前者ならまだしも、後者なら圧倒的に不利だ。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 うっかりしたら次のターンでそのまま負けかねないため、伏せが怖くても動くしかない。

 

「永続魔法《金剛真力》発動! 相手フィールド上にのみモンスターが存在する時、手札からレベル4以下のデュアルモンスターを1体特殊召喚できる。その効果で手札から《未来サムライ》を特殊召喚!」

 

《未来サムライ》ATK/1600

 

 そこには青白い裃を着た侍が、凛としてたたずんでいた。未来の侍だからか裃の下に着ているのは小袖ではなく機械的なインナーであり、腕にも機械的なサポーターと思われるものを着ている。

 

「そして、《未来サムライ》を再度召喚!」

 

 身体の各所に付けられたケーブルが宙に浮き、ゴーグル型のディスプレイや帯の部分に取り付けられたモニターに文字がせわしなく表示される。持っていた刀の光が緑色から紫色に変わり、裃が真っ白に染まった。

 

「《未来サムライ》の効果発動! 墓地の《サンライズ・ガードナー》を除外し、表側表示のモンスター1体を破壊する! 対象は《サイバー・レーザー・ドラゴン》だ! 紫電一閃!」

 

 侍が居合いの構えを取り、一瞬で距離を詰めるとそのまま跳躍し、一刀のもとに斬り捨てた。侍が着地すると同時に爆発する《サイバー・レーザー・ドラゴン》。

 

「《未来サムライ》でカイザーに直接攻撃! 来世斬!」

 

「リバースカードオープン!《リビングデッドの呼び声》! 俺は墓地から復活させるのは《サイバー・ドラゴン》!」

 

《サイバー・ドラゴン》ATK/2100

 

 カイザーに直接攻撃を行おうと走り出した侍であったが、突如目の前に現れた《サイバー・ドラゴン》を前に後退せざるを得なくなった。

 

「攻撃を中断してメインフェイズ2に移行。カードを1枚伏せてターン終了」

 

「俺のターン、ドロー。バトル、《サイバー・ドラゴン》で《未来サムライ》を攻撃! エヴォリューション・バースト!」

 

 《サイバー・ドラゴン》が吐き出した光線を斬ろうと刀を振るった侍であったが、徐々に押し返され、そのまま吹き飛ばされてしまった。

 

《サイバー・ドラゴン》ATK/2100

《未来サムライ》ATK/1600

 

葵LP1600→1100

 

「リバースカードオープン!《二重の落とし穴》! 再度召喚されたデュアルモンスターが戦闘によって破壊された時、相手フィールド上のモンスター全てを破壊する!」

 

 地震のような揺れがあり、《サイバー・ドラゴン》の足下が割れる。このまま落ちてくれれば反撃の目は充分ある。むしろそのまま削りきる勢いなのだが、果たしてどうなる。

 

「カウンター罠《トラップ・ジャマー》! 罠の発動を無効にして破壊する!」

 

 揺れが治まり、割れた地面も元に戻っていく。流石はアニメでも十代に負けたことがないカイザー、やはりそう上手くはいかないようだ。

 

「カードを1枚伏せ、ターン終了」

 

 手札温存とかそういうものはないらしい。伏せが《融合》なんてブラフを張られていない限り、次ターン《サイバー・ツイン・ドラゴン》に殴り倒されるという悲劇は回避できたとも思うのだが。

 

「俺のターン、ドロー! 《金剛真力》の効果発動! 手札から《デュアル・ソルジャー》を守備表示で特殊召喚! さらに再度召喚してターン終了」

 

《デュアル・ソルジャー》DEF/300

 

 少年とも言うべき小さな体躯の人物が現れた。緑色の服で目以外を完全に隠しているため、戦士というよりも忍者にも見える。守備表示であるため、両腕をクロスして防御姿勢をとっている。

 

「俺のターン、《強欲な壷》を発動し、カードを2枚ドロー」

 

 困ったときの壷とはよく言った物で、これで手札は2枚だ。正直普通の対戦ならそこまで怖くもないのだが、対戦相手がカイザーであり、場に《サイバー・ドラゴン》がいる状況で手札が2枚とくれば嫌な予感しかしない。

 

「そして、《融合》を発動! 手札と場の《サイバー・ドラゴン》を融合し、《サイバー・ツイン・ドラゴン》を召喚!」

 

《サイバー・ツイン・ドラゴン》ATK/2800

 

 ダメージソースとしては《サイバー・エンド・ドラゴン》より強いと噂をされる《サイバー・ツイン・ドラゴン》が出てきた。この攻撃力で二回攻撃、しかもこれで《パワー・ボンド》や《リミッター解除》をすればダメージ合計が簡単に1万の大台に乗ることもある、パワーカードだ。

 

「バトル! 《サイバー・ツイン・ドラゴン》で《デュアル・ソルジャー》を攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト、第一打ァ!」

 

「《デュアル・ソルジャー》は1ターンに1度戦闘によっては破壊されない!」

 

 二つ頭の機械龍が忍者少年に向けて光線を吐くが、身軽な動きで光線をかわしておまけとばかりにプロペラ付きのダーツのような物を地面に投げつけた。

 

「《デュアル・ソルジャー》の効果発動! このカードが戦闘を行う場合、ダメージ計算後にデッキからレベル4以下のデュアルモンスターを1体特殊召喚できる! 《デュアル・ランサー》を守備表示で特殊召喚!」

 

《デュアル・ランサー》DEF/1400

 

 プロペラ付きのダーツがあった場所から光が立ち上がり、三叉に別れた突撃槍を両手に持った魚人が現れた。色合い等が少しカサゴっぽくもみえるが、顔つきは精悍である。

 

「厄介な効果だな、ならばもう一度《デュアル・ソルジャー》に攻撃! エヴォリューション・ツイン・バースト、第二打ァ!」

 

「《デュアル・ソルジャー》の効果は戦闘で破壊されても発動する! 《炎妖蝶ウィルプス》を守備表示で特殊召喚!」

 

《炎妖蝶ウィルプス》DEF/1500

 

 二度目は避けられなかったようで忍者少年は撃ち落とされてしまったが、落ちたプロペラダーツのあった場所からは光が立ち上がり、炎のような紅色をした蝶が飛び立った。

 

「なら俺はこれでターンを終了しよう」

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 せっかくデュアルモンスターが展開されたのだし、このチャンスを活かさない手はない。ラッシュをかけることができれば、充分ライフを削りきることもできるだろう。

 

「いくぞ、《炎妖蝶ウィルプス》を再度召喚!」

 

 再度召喚すると同時に燃え上がる蝶。火の粉なのか鱗粉なのかは分からないが、紅く光って幻想的な光景だ。

 

「《炎妖蝶ウィルプス》の効果発動! このカードを生け贄に捧げることで、墓地のデュアルモンスター1体を再度召喚された状態で特殊召喚する! 俺が呼び戻すのは《未来サムライ》!」

 

《未来サムライ》ATK/1600

 

 燃え上がる蝶が地面にとまると一際強い炎が立ち上がり、中から白い裃の侍が現れた。そして手に持っていた刀を振ると、先ほどまで侍を覆っていた炎が消え、小さな火の粉が舞うのみとなった。

 

「《未来サムライ》の効果発動! 墓地の《デュアル・ソルジャー》を除外し、《サイバー・ツイン・ドラゴン》を破壊する! 紫電一閃!」

 

「リバースカードオープン《融合解除》! 《サイバー・ツイン・ドラゴン》の融合を解除して、墓地の《サイバー・ドラゴン》2体を守備表示で特殊召喚する!」

 

《サイバー・ドラゴン》DEF/1600

 

 逃げられた。あらかじめ《融合解除》を伏せて、次のターンに《融合》というのは予想外だった。カイザーは《強欲な壷》で引き入れていたので予想できるはずもないのだが、してやられたという気持ちが大きい。それでもやれるだけはやってしまおう。

 

「《デュアル・ランサー》を攻撃表示にしてバトル!《デュアル・ランサー》で《サイバー・ドラゴン》を攻撃!」

 

《デュアル・ランサー》ATK/1800

《サイバー・ドラゴン》DEF/1600

 

「まだまだっ! 手札から速攻魔法《デュアルスパーク》を発動! 《デュアル・ランサー》を生け贄にささげ、もう片方の《サイバー・ドラゴン》も破壊! そしてカードを1枚ドローする」

 

 《デュアル・ランサー》が光り輝き、宙を泳いで《サイバー・ドラゴン》に突撃していった。《サイバー・ドラゴン》を貫いた後は、そのまま自分も爆発に飲み込まれて消えていってしまった。

 

「そして《未来サムライ》でカイザーに直接攻撃! 来世斬!」

 

 侍は袈裟切りでカイザーを切り裂くと、そのまま反転してもう一度斬りつけた。

 

《未来サムライ》ATK/1600

 

亮LP4000→2400

 

「さらに、リバースカードオープン!《正統なる血統》発動!《デュアル・ランサー》を蘇生して直接攻撃!」

 

 再び現れた《デュアル・ランサー》が右腕で三段突きをして戻ってきた。どうでもいいことだがそのもう片方の槍は使わないのだろうか。

 

《デュアル・ランサー》ATK/1800

 

亮LP2400→600

 

「ターン終了!」

 

 一気に残りライフを1000以下まで追いつめた。このまま押せば勝ててしまうのではないか、とそんな希望が芽生える。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 ドローしたカードをみたカイザーは、かすかに笑ったような気がした。

 

「俺は、《貪欲な壷》を発動!墓地の《サイバー・ドラゴン》2体と、《プロト・サイバー・ドラゴン》、《サイバー・レーザー・ドラゴン》、《サイバー・ツイン・ドラゴン》をデッキに戻してシャッフルし、カードを2枚ドロー!」

 

 ここでまたドローカードか…手痛い反撃をもらう可能性が濃厚になってきた。手札2枚で何ができる、と虚勢を張ることはできない。学園最強がこの状況を打開するのに、手札が2枚もあれば充分だろう。

 

「俺は、装備魔法《未来融合—フューチャー・フュージョン》を発動! デッキから《サイバー・ドラゴン》3体を墓地に送り、《サイバー・エンド・ドラゴン》を特殊召喚する!」

 

《サイバー・エンド・ドラゴン》ATK/4000

 

 そういえばアニメ版の未来融合は、即時に出てくる装備魔法だった。途中から永続魔法の方に変わっていたから忘れていたが、この状況で《サイバー・エンド・ドラゴン》なんて洒落にならない。

 

「ただし、特殊召喚したターンには攻撃できず、このカードを生け贄に捧げることもできない」

 

 すぐに攻撃できないのはデメリットかもしれないが、攻撃力4000の貫通持ちがポンとでてくるのは心臓に悪い。次のターンに《未来サムライ》で除去できるのならば怖くはないのだが、そんなに甘くはないだろう。

 

「《アーマード・サイバーン》を召喚し、《サイバー・エンド・ドラゴン》に装備する」

 

 突如カイザーの後ろから飛来したものが…鳥か? 飛行機か? いや、機械の竜だ!…《サイバー・エンド・ドラゴン》にドッキングし、その砲台をこちらに向けている。

 

「装備カードとなった《アーマード・サイバーン》の効果発動! 装備モンスターの攻撃力を1000下げることで、相手フィールド上のカードを1枚破壊する! 《未来サムライ》を破壊だ! ジャッジメント・キャノン!」

 

《サイバー・エンド・ドラゴン》ATK/4000→3000

 

 砲台に光が収束し、侍目掛けて勢いよく放たれた。侍は咄嗟の反応もできずに砲台から放たれた光線に貫かれ、そのまま地に伏して消え去った。

 

「《デュアル・ランサー》も破壊させてもらうぞ。ジャッジメント・キャノン、第二打ァ!」

 

《サイバー・エンド・ドラゴン》ATK/3000→2000

 

 再び放たれた光線が魚人を貫き、そのまま侍と同じく地に伏して消え去った。これで俺の場は《金剛真力》しか残っていない。

 

「ターン終了だ」

 

 《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力は半分になったとはいえ、その威圧感はすさまじい。皇帝の二つ名が付いた、学園最強の男の切り札。それが今こちらを蹂躙せんと、その威容を見せつけている。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 さて《アーマード・サイバーン》に…いや、《サイバー・エンド・ドラゴン》に随分と場を荒らされたが、今引いたカードがあれば状況を一転させることができる。ここで譲るつもりはない。

 

「《金剛真力》の効果発動!手札から《インフィニティ・ダーク》を特殊召喚! そして《インフィニティ・ダーク》を生け贄に、《ヘルカイザー・ドラゴン》を召喚!」

 

《ヘルカイザー・ドラゴン》ATK/2400

 

「来たか、《ヘルカイザー・ドラゴン》!」

 

 カイザーが興奮したまなざしをおくる先にいるのは、青い鱗を持つ雄大なドラゴンだった。大きさこそ《サイバー・エンド・ドラゴン》よりはわずかに小さいものの、その雄々しさは決して負けてはいない。

 

「行くぞ! 《ヘルカイザー・ドラゴン》で《サイバー・エンド・ドラゴン》に攻撃! カイザーバースト!」

 

 《ヘルカイザー・ドラゴン》が吐き出した光線は《サイバー・エンド・ドラゴン》の放った光線によって狙いがそれ、ドッキングしていた《アーマード・サイバーン》に当たった。

 

《ヘルカイザー・ドラゴン》ATK/2400

《サイバー・エンド・ドラゴン》ATK/2000

 

亮LP600→200

 

「くっ、だが装備モンスターが破壊される時、《アーマード・サイバーン》を代わりに破壊する」

 

 《サイバー・エンド・ドラゴン》に装着されていた《アーマード・サイバーン》が煙を上げて破壊される。

 

「そして《アーマード・サイバーン》が装備から解除されたことで、《サイバー・エンド・ドラゴン》の攻撃力は元に戻る!」

 

《サイバー・エンド・ドラゴン》ATK/2000→4000

 

「まだだ! メインフェイズ2、手札から魔法カード《思い出のブランコ》を発動! 墓地から《未来サムライ》を蘇生する!」

 

《未来サムライ》ATK/1600

 

「そして、リバースカードオープン! 《スペシャル・デュアル・サモン》! 《未来サムライ》を再度召喚状態にして効果発動! 墓地の《インフィニティ・ダーク》を除外し、《サイバー・エンド・ドラゴン》を破壊する! 紫電一閃!」

 

 刀に紫色の光を纏わせ、《未来サムライ》は《サイバー・エンド・ドラゴン》に接近する。《サイバー・エンド・ドラゴン》の吐く光線のことごとくを回避し、首を一本ずつ切り落とすことで、ついに《サイバー・エンド・ドラゴン》を破壊することに成功した。

 

「これで、ターン終了! 《スペシャル・デュアル・サモン》の効果で《未来サムライ》は手札に戻る」

 

 相手はフィールドはおろか手札にすら何もなく、吹けば飛ぶようなライフでしかない。一方こちらは、ライフは少々心もとないものの《ヘルカイザー・ドラゴン》がその雄姿を見せており、更には手札に《未来サムライ》という保険がある。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

このドロー、このターンさえ凌げば勝てる。そんな確信があるのだが、このターンの敗北が頭をよぎった。先ほどのターン、倒しきれなかったことで逆転される。そんな想像が思考を埋め尽くす。

 

「《死者蘇生》を発動! 俺が蘇生するのは当然《サイバー・エンド・ドラゴン》!」

 

 やはりか、そんな感想だけが出てきた。残念ながら一歩及ばなかったようだ。最初は気の進まないデュエルだったのだが、気付けばムキになっていた。俺は自分が思っていたより負けず嫌いだったようだ。これだからデュエルはやめられない。

 

「《サイバー・エンド・ドラゴン》で《ヘルカイザー・ドラゴン》に攻撃! エターナル・エヴォリューション・バーストォ!」

 

 再び現れた三ツ首の機械竜。その口から発射された光線は《ヘルカイザー・ドラゴン》ごと俺を飲み込み、視界が白く染まっていった。

 

《サイバー・エンド・ドラゴン》ATK/4000

《ヘルカイザー・ドラゴン》ATK/2400

 

葵LP1100→0

 

—————

 

「ありがとうございました」

 

「いいデュエルだった。よければまたデュエルしよう」

 

「えぇ、次は負けません」

 

「次も勝たせてもらうさ」

 

 握手する手に力をこめながら、表情を変えずに言い合う。どうやらカイザーも相当な負けず嫌いのようだ。

 

「シニョール代田、素晴らしいデュエルだったノーネ。これなら、文句無しにオベリスクブルーへの編入を認めるノーネ」

 

 そういえばそんな話だったな。すっかり忘れていた。ラーイエローの方が性に合ってる気がするので、そのままでもいいのだが…

 

「ようこそ代田葵、オベリスクブルーは君を歓迎する」

 

「葵、すっげーな! 次は俺とデュエルしようぜ!」

 

「葵くん、おめでとうっす」

 

「これからはブルー同士、お互い頑張りましょう」

 

「そうか、葵に先を越されてしまったか。すぐに追いついてやるから待ってろよ」

 

 すっかりこの話を受けるような流れになっている。十代や三沢のように昇格を断るようなことができるはずもなく、そのままオベリスクブルーへの昇格が決定して解散となった。

 

 ちなみにクロノス教諭に聞いた所、部屋から遠くなるので推奨はされないが、イエロー食堂で食べることは問題ないらしい。これからも時々イエロー食堂で食事ができるのは嬉しい限りだ。さて、さっさと荷物をまとめてしまおう。

 




最初は普通にクロノス教諭とデュエルする予定でした。
それがどうしてこうなった…カイザーが楽しそうでなによりです。

8/28 21:45(改訂)
アーマード・サイバーンが破壊されたとき、サイバー・エンド・ドラゴンの攻撃力が戻っていなかったため修正しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。