冬休みも終わり、アカデミアでは今日も健全かつ健康的に授業が行われている。多少どころでなくクラスごとの格差があるアカデミアが健全かどうかは、この際気にしないようにする。
「なぁ葵、聞きてー事があるんだけど」
休み時間に教室で三沢から借りた本を読んでいると、十代が唐突に質問してきた。こいつの聞きたそうな事というと、課題の期限あたりだろうか。今週は普段より難易度が高い課題だから、余裕を持って取り組まないと期限を破りかねない。
「なんだ十代、“〜した時、できる”と“〜した場合、できる”の違いについてのレポートの期限は明日だぞ」
「げっ、マジで…それもヤバいんだけど、そっちじゃなくて、葵はフィアンセって何かわかるか?」
一体こいつは何を言っているんだと思って事情を聞くと、先日明日香さんのフィアンセの座を賭けたデュエルに勝利したのはいいが、肝心のフィアンセの意味が分からなかったそうだ。
その時いた人たちに聞いても、意味を教えてもらえなかったという。十代にくっついていた翔を見ると、思いっきり目をそらされた。説明したくないからってはぐらかしやがったな。
「なるほど、そういうことか」
下手に嘘をついても信じてしまうだろうし、間違った事を言ってしまってもそのまま明日香さんに突撃しかねない。それならばキチンと正しい意味で、嘘のないように説明してやらねばならないだろう。
「フィアンセっていうのは、最も幸福な時間および最も不幸な時間を共有するパートナーとなる契約をした異性同士のことだ。この契約は通常は好ましい異性と結ばれる物であり、一般的には契約の証として指輪を交換する事が多い。時折当人達の意志を無視して取り交わされる事もあるが、少なくとも現在においてはそれを破棄する事も可能だ。しかし破棄することによるデメリットも少なからずあるので、フィアンセの契約をするなら気をつけた方がいいだろうな」
一言で言えば婚約者とか許嫁で済むのだが、もしかしたらそれも知らない可能性がある。流石に結婚の意味ぐらいは知っているだろうし、指輪を交換と言っておいたので意味は通じたはずだ。
「あー、うー、えーっと、つまり! ライバルってことだな!」
「まてまてまて、どうしてそうなった」
「だってよ、一番幸せな時間と一番不幸な時間を共有するってことは、デュエルするってことだろ? 指輪とかそういうのは初めて知ったけど、明日香なら相手として不足はないぜ!」
だめだこのデュエル馬鹿、はやくなんとかしないと…この誤解を解くのも面倒だが、解かずに放置しているとそれはそれで騒動の予感しかしない。そしてこの間違った認識を与えたのが俺だということがバレたら恐ろしい目に合う、そんな予感がする。
「いや、フィアンセっていうのはそういうことじゃなくて」
追加で説明しようと口を開いた途端、チャイムが鳴ってしまった。十代たちも急いで席に戻っていく。タイミングがいいのやら悪いのやら…
「…十代がそれでいいならいいけどさ」
十代の説得はすっぱりと諦める事にした。時間をあけてからまた話しても、泥沼になる気がしたからだ。例えばフィアンセとは結婚しなければならないと言ったら、巡り巡って結婚できる相手としかライバルになれないとでも思いかねない。
十代はデュエルに関しては理解力も記憶力も抜群なのだが、興味のない事柄に関してはすぐに忘れる。きっとフィアンセの意味もあまり記憶には残らないだろうし、きっと何も問題は起こらないだろう。そう信じたい。
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放課後、ブルー寮をふらふらしていると妙な噂を聞いた。夜になると、闇夜の巨人デュエリストなるものが現れ、外を出歩くブルー生徒を狙っているのだという。
そういえばアニメでそんな話もあったな。記憶が正しければ、十代がクロノス教諭の依頼で犯人探しをして無事に解決するはずだ。仮にダメでもブルー生徒には特に親しい奴もいないから、まったく心は傷まない。
俺としては外に出なければ関係のない話なので放っておけば良い。そのはずなのだが、俺は今ブルー寮近くの森の中を歩いていた。とっくに日も暮れて、夕飯の時間も終わっている…夕飯を食べてから来たので当然ではあるが。
「シハーブ、見つかったか?」
『はい、ご案内いたします』
シハーブに案内された先は、森の少し開けたところだった。そこでは大量のブルー制服を上半身に巻き付けて人相を隠した大男と、劣勢となっていよいよ負ける寸前のブルー生徒がデュエルをしていた。
「う、うわぁぁぁぁ!」
などと言っている間にブルー生徒が負け、近づいてきた大男を恐れるように叫び声をあげた。きっとアンティルールに従って、レアカードを奪おうとしているのだろう。それを許したら、なんのためにここまで来たのか分からない。
「そこまでだ、闇夜の巨人デュエリスト」
デュエルディスクを展開しながら大男に近づく。ブルー生徒はこれ幸いと逃げていったが、そんなことはどうでもいい。ついでに十代達が走って近づいてくるが、これもどうでもいい。
「葵!? 何してるんだ!?」
「十代か、ちょっとコイツに用事があってな。お前は?」
「俺達はクロノス先生にいわれて、レポート提出の代わりに闇夜の巨人デュエリストを探してたんだ」
「そうか、だがこれは俺たちでなんとかしなきゃいけない問題だ。下がっていてくれ」
大男もデュエルディスクを構え、準備は万端なようだ。ならば始めるとしようか。
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「「デュエル!」」
「俺の先攻、ドロー。俺は《ジャイアント・オーク》を召喚してターンを終了する」
《ジャイアント・オーク》ATK/2200
骨を持った大鬼が現れる。攻撃力は高いが守備力は0であり、しかも攻撃すると次のターン終了時まで守備表示になってしまうモンスターだ。同系統のモンスターも多々いるが、闇属性・悪魔族なので《魔のデッキ破壊ウィルス》と《悪夢再び》に対応している点は優秀だろう。
「俺の先攻、ドロー。手札から永続魔法《金剛真力》を発動、手札から《インフィニティ・ダーク》を特殊召喚し、再度召喚する」
《インフィニティ・ダーク》ATK/1500
漆黒の衣装を身にまとい、全身の紋様を白く輝かせたヒーローが現れた。ヒーローと表現したが、HEROカテゴリーではなく普通の悪魔族である。十代が俺もHEROを使っているのかと大騒ぎしており、漆黒のヒーローは満足そうに頷いている。だからお前はHEROじゃないだろう。
「そんな二度手間召喚、怖くはないぞ」
「二度手間っていうなっ! 《インフィニティ・ダーク》で《ジャイアント・オーク》に攻撃!」
漆黒のヒーローが大鬼に向かって走り出す。翔が攻撃力の低いモンスターで攻撃だなんてなどと言っているが、もちろん無意味に自爆特攻させようとしているわけではない。
「《インフィニティ・ダーク》の攻撃宣言時、相手の表側表示モンスター1体の表示形式を変更できる。《ジャイアント・オーク》を守備表示にする」
《ジャイアント・オーク》ATK/2200→DEF/0
走り出した漆黒のヒーローはそのまま飛び上がり、すれ違い様に右足を鎌のようにして大鬼の首に引っ掛けた。そのままの勢いで地面に蹴り倒し、空中で捻りを加えてオークの腹部を踏み抜いた。オークを撃破したのはいいが、相変わらず攻撃の一部なのか効果を使ったのかがよく分からない。
オークが撃破されたときの余波で、大男がぐるぐる巻きにしていたブルーの制服が吹き飛んでいく。顔を隠していたものが一切なくなり、闇夜の巨人デュエリストの正体があらわになった。
「やっぱり大原か。小原もいるよな、隠れてないで出てこい」
ラーイエローの大原である。そして木の上から小原が降りて来た。身体が大きいが心持ちが優しくて気が弱い大原と、身体は小さいがプライドが強い癖にアガリ症な小原、ラーイエローの凸凹コンビである。
「なんで俺たちって分かったんだ」
小原が憮然として聞いてくるが、アニメで知っていたとは言えない。そうでなくとも噂の端々にわかりやすいところは多かったので、二人の詰めが甘いということだろう。
「大原ほどデカい生徒はそうそういないからな。ブルーの奴らに聞いてみたら、小さいイエロー生が近くにいたって証言もあったな。それで思い当たって三沢や樺山教諭に聞いてみたら、案の定お前らが夜な夜な外出してるって言ってたぞ」
指摘すると小原が苦々しい顔をし、大原がわたわたと慌てている。その他にも決闘場の使用申請を見ると、被害にあったブルー生徒は三日以内に小原とデュエルをしている。ちなみに大原を覆っていたブルー制服は、購買で買ったようだ。変な所で生真面目な奴らだ。
「今の俺はオベリスクブルーだが、ラーイエローには愛着があるからな。元ラーイエローとして、ケジメをつけさせてもらうぞ」
「うるさい! どうせ俺たちの事を見下してるんだろ!」
「どうだろうな。カードを1枚伏せてターンを終了する」
正直なことを言うと、プライドばっかり大きいという点ではこいつもそこらのブルー生徒と大差ないと思っている。見下すか見下されるかの違いはあるが、緊張さえしなければ実力も大差ない。
「俺のターン、ドロー!《五分ゴブリン》の効果発動! 手札の戦士族モンスターを墓地に送って、攻撃表示で特殊召喚する! 2体の《五分ゴブリン》を攻撃表示で特殊召喚!」
《五分ゴブリン》ATK/500
手札をそれぞれ1枚ずつ捨てて、《五分ゴブリン》が特殊召喚された。大原とは授業で何度かデュエルしたことがあるが、そのときは毎回守備表示にしていたことを思い出した。だからどうというわけではないのだが。
「《キングゴブリン》を攻撃表示で召喚! 《キングゴブリン》の攻撃力と守備力はフィールド上の他の悪魔族の数×1000ポイントになる!」
《キングゴブリン》ATK/0→3000
小さな冠を頭に乗せ、豪華な服をきた緑の小鬼がフィールドに登場した。そして来ていたマントが広がり、裏に《五分ゴブリン》2体と《インフィニティ・ダーク》の姿が浮かび上がった。
「いくぞ、バトル!《キングゴブリン》で《インフィニティ・ダーク》に攻撃!」
襲いかかってきた小鬼の王に対し、漆黒のヒーローは構えたものの具体的な防御をすることなく破壊された。お偉いさんの子どもとの接待という言葉が頭に浮かんだが、気にしない事にしよう。
《キングゴブリン》ATK/3000
《インフィニティ・ダーク》ATK/1500
葵LP4000→2500
「さらに、2体の《五分ゴブリン》で直接攻撃!」
「リバースカードオープン、《正統なる血統》! 墓地の《インフィニティ・ダーク》を特殊召喚!」
《インフィニティ・ダーク》ATK/1500
突然現れた漆黒のヒーローに小鬼たちがたじろぎ、逃げ帰っていく。これで追撃を防ぐ事ができた。はしゃいで声援を送る十代に向かって親指を立てているが、気にしないでおこう。
「くそっ、これでターン終了だ!」
「俺のターン、ドロー。《インフィニティ・ダーク》を生け贄に、《ヴァリュアブル・アーマー》を召喚!」
《ヴァリュアブル・アーマー》ATK/2350
現れたのは、黄土色のカマキリだった。ただし生け贄になった漆黒のヒーローよりも幾分か大きいうえに、鎌や脚などの皮膚のところどころが岩の様に硬いようにも見えるのだが。
ついでに《インフィニティ・ダーク》が生け贄となってフィールドから悪魔族が減ったことで、マントの裏に浮かびあがっていた姿も消えて《キングゴブリン》の攻撃力が下がった。
《キングゴブリン》ATK/3000→2000
「そして《スーペルヴィス》を《ヴァリュアブル・アーマー》に装備し、再度召喚状態にする」
「そのカードはっ…!」
最初の月一試験の時に《スーペルヴィス》を小原相手に使い、それが決め手の一つとなったので小原としては苦い思い出のカードなのだろう。ついでに先ほどつかった《正統なる血統》も決め手の一つだった。
「だが自分フィールド上に他の悪魔族モンスターがいるとき、《キングゴブリン》を攻撃対象にはできない!」
「そうか、《ヴァリュアブル・アーマー》で《五分ゴブリン》に攻撃、デスシックル!」
巨大なカマキリが一跳びで小鬼達の目の前に降り立つ。たしかカマキリは飛ぶのも跳ぶのもあまり得意ではないはずなのだが、バッタのようになっている脚のおかげだろう。そしてそのまま鎌の一振りで小鬼の頭を刈り落とした。
《ヴァリュアブル・アーマー》ATK/2350
《五分ゴブリン》ATK/500
大原LP4000→2150
「そして、再度召喚した《ヴァリュアブル・アーマー》の効果だ。このモンスターは相手フィールドの全てのモンスターに1回ずつ攻撃することができる」
「そんなっ!」
「続いて《ヴァリュアブル・アーマー》でもう片方の《五分ゴブリン》に攻撃! デスシックル、第二閃!」
またも鎌の一振りで小鬼の頭が刈り落とされた。しかしカマキリの興味は既にそちらにはなく、無機質な瞳で豪華な服の小鬼を見下ろしていた。配下を失った小鬼の王は、おびえているようにも見える。
《ヴァリュアブル・アーマー》ATK/2350
《五分ゴブリン》ATK/500
大原LP2150→300
「最後だ、《ヴァリュアブル・アーマー》で《キングゴブリン》に攻撃! デスシックル、第三閃!」
カマキリは命令を待ちわびていたかの様な速度で鎌を振り下ろした。鎌はまっすぐ小鬼の王に振り下ろされ、冠も服もまとめて両断されていた。
《ヴァリュアブル・アーマー》ATK/2350
《キングゴブリン》ATK/2000→0
大原LP300→0
—————
「くそっ、俺たちをアカデミアに突き出すのか?」
小原がこちらを睨みつけながら聞いてくる。大原のほうは観念したようにうなだれて地面に座り込んでいた。
「そのことだが…十代、すまないが今回はレアカードをキチンと返却することで手打ちにしてやってくれないか。頼む、この通りだ」
十代に深く頭を下げる。十代はレポートの代わりに犯人探しをしていると言っていた。ならばそれを手伝ってもいいし、食堂でおごっても、欲しいカードがあるならそれを渡しても良い。俺のカードを渡せるのかどうかは知らないが、それならそれで探すまでだ。
「お前…」
小原が呆然として俺を見ている。オベリスクブルー相手にアンティルールをしかけたということが露見すれば、下手すれば退学になるかもしれない。あまり親しい仲とはいえないが、ラーイエローの仲間だったのだ。仲間が退学になるのは嫌だった。
「何言ってんだ。結局闇夜の巨人デュエリストなんていなかったんだし、俺達はこれで帰るぜ。いくぞ、翔、隼人!」
「ま、まってよ兄貴ぃ〜」
「ま、待って欲しいんだな〜」
十代は俺が思っていたより、ずっと粋な男だったようだ。対価を要求するでもなく、文句を言うでもなく、何も見なかったことにして去っていった。レポートを提出していないのは自業自得だが、それでもチャンスを捨ててまでこちらのわがままを聞いてくれたのだ。本当に頭が上がらない。
小原達に向き直る。二人ともバツの悪そうな表情をしており、目線が泳いでこちらと合わない。
「二人とも、わかってるよな」
「あぁ、奪ったカードはちゃんと返すよ」
「代田君、ありがとう」
「礼なら十代に言ってやってくれ、すっとぼけるだろうけどな」
二人からカードを受け取った後、被害者が寝ている間に《シャドウ・ダイバー》で部屋の中から鍵を開けてもらって侵入し、机の上におくなどしてカードを返していった。
翌日、自分たちのレアカードが戻ってきたと大喜びの生徒達を確認することができた。十代のレポートを手伝いたいのは山々だったが、十代がクロノス教諭に監視されていたのでそれは叶わないようだ。しかたないしドローパンと飲み物を買って差し入れしよう、そう思い購買に向かうのであった。