・何かあれば書きます。
【000】ルートX−2
「――また、ダメだった」
黒髪を絶望に満ちた風に靡かせ、少女は小さく呟いた。
周囲は焦土と化した。先程まで存在していた摩天楼は見る影も無く灰塵に帰し、人っ子一人の泣き声も、呻き声も聞こえない。
土煙の彼方に聳え立つ黒い影。山の如き質量を誇る、禍々しき魔女。
――Kriemheld Gretchen――救済の魔女。その性質は慈悲。この星全ての生命を強制的に吸い上げ、彼女の作った新しい天国へと導いていく。
天高く掲げた救済を求める手は、虚空を永遠にすり抜ける。最悪にして最凶のこの魔女を止められる者は、誰もいない。
「…………」
少女――暁美ほむらはその光景を見て、諦めたように目を閉じると――左手に装着された盾型砂時計を回転させた。
――時間遡行――。
砂時計の砂が、再び元の位置に戻る――そして、ほむらはその世界軸から消えた。
――まどか。
――今度こそ、貴女を――。
【001】ルートX−1
暁美ほむらが目を覚ました。目を覚ますと――そこは、荒れ果てた世界だった。
「……え?」
いや、断定は出来ない。ただ、そう見えるというだけ――ほむらは病院のベッドから身を起こす。
辺りを見回すと、そこは病院とは思えないほどに荒れ果てていた。あちこちにヒビが入り、壁は壊れ、床には割れたガラスや機材が散乱している。
「な、何よこれ……」
ほむらは困惑した。今まで幾多もの時間軸を旅してきたが、こんな時間軸は初めてだ。
――まさか、もうワルプルギスの夜が――?
嫌な考えが頭をよぎる。
ベッドから飛び降り、割れた窓から身を乗り出す――ほむらは、驚愕したように目を見開いた。
「…………っ!!?」
街中が崩壊していた。
道路が砕け、瓦礫が積み上がり、血糊が尾を引き、破片が散らばる――なんだ、これは――!?
ほむらは病室を出た。一刻も早く事態を把握しなければならない。まどかは。ワルプルギスの夜が到来したのなら、まどかは、まどかは無事なのか。
廊下を駆け、階段を降りる。
こんな事態、初めてだ。ほむらが今まで体験してきた時間軸の中では、多少のズレはあれどワルプルギスの夜が到来するのは時間遡行してから、ほぼ1ヶ月後で統一されていた。
ほむらはエントランスに出た。ここも例外なく荒れていた。植木は倒壊し、彼方此方に血の跡がある。病院の清潔さとは、まるで無縁である。
もし本当にこの惨状がワルプルギスの夜だったとしたら、今回の時間遡行はこれ以上なく無駄なものとなる。一度時間遡行を行ってしまえば、砂時計の砂が完全に落ち切るまで時間遡行は使えない。つまり、1ヶ月近く無駄な足止めを食らうこととなるのだ。
「…………」
ほむらは病院を出た。そして、遂に"それ"を見た。
「っ!?」
眼前に広がる光景は、異様なものであった。破壊された惨状のことではない。もっと異様なもの――。
肉が削げ落ち、服は傷だらけ、体中から血を滴らせる、人間のような姿をした謎の存在達が、崩壊した街中を闊歩していたのだ。
その姿はまるでゾンビの様であり、幾度となくグロテスクな"魔女"と戦い続けたほむらでも、それは受け入れ難いものであった。
「これは、一体――!?」
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「由紀ちゃん、早く!!」
「待ってよめぐねえ!!」
「くそっ、多過ぎる!!」
「ど、どうすれば――!!」
廊下を走る四つの影。そしてそれを追うのは、それを上回る大量の黒い影。
――ここは、巡ヶ丘学院高等学校。少し前までは普通の学校であった場所。そして今は、廃墟同然の有様となっている。
突如発生した謎の災禍。人々のゾンビ化によって、巡ヶ丘学院高校の生徒及び教員はほぼ全員がゾンビ化。生き残ったのは、たったの四人だけであった。
三人の生徒と一人の教師――丈槍由紀、恵飛須沢胡桃、若狭悠里、そして佐倉慈。
活動範囲を広げるため、机でバリケードを作っていた最中の出来事であった。突如、下の階からゾンビが大量に溢れ出てきたのだ。
当然、バリケード作りは中断。中途半端なバリケードは容易く突破され、四人は逃亡を余儀なくされた。一体や二体なら何とかなるが、数十体となると流石にどうしようもないのであった。
「よしっ……あとちょっとで、部室――っ!!?」
先頭を走っていた胡桃が急ブレーキを掛ける。
「どうしたのくるみ!?」
「うっそだろ……ヤバい、前からも来てる!!」
「なっ――!!?」
前方からも黒い影が迫る。一体や二体ではない。部室代わりの生徒会室の扉の前を、屍たちは通過していく。
「部室は無理だ!! 放送室に入るぞ!!」
「っ!!」
生徒会室の隣にある放送室。胡桃は扉を開けた。
「りーさん! ゆき! めぐねえ! 早く!!」
「ま、待って……待ってよみん――うわっ!?」
「由紀ちゃん!!」
足がもつれ、由紀が転ぶ。駆け寄るめぐねえ。悠里は放送室へと到達した。両側からゾンビが迫る。
「…………っ!!!」
めぐねえは由紀を抱え上げた。
「いったた……め、めぐねえ?」
「恵比須沢さん!! しっかり受け取って!!」
「なっ――!?」
「佐倉先生!!?」
「めぐねえ!!? ちょっ――!!」
「えぇーい!!!」
「うわっ――!?」
慈は抱え上げた由紀を放り投げた。狼狽する三人。それでも何とか、胡桃が由紀をキャッチ。
「め、めぐねえ――!?」
「大丈夫よ――すぐ戻るから」
「っ!!!」
「めぐねえ、まさか――」
「恵比須沢胡桃さん!! 早く扉を閉めて!! 前から来たゾンビが、もうすぐそこまで来てる!!」
「っ――――!!!」
「め、めぐねえ!! めぐねえ!!」
扉が閉められた。前方から来た大群は、閉じられた扉を引っ掻き始める。
――これでいい。
――仕方ない――由紀ちゃん、胡桃ちゃん、悠里ちゃんが無事なら――私はそれでいい。
背後からゾンビが迫る。
やはり死ぬのは怖いのか――慈は走る。逃げるように走る――が、前方のゾンビがそれに気付いた。
逃げ場はない。
「放してっ!!」
「ゆきちゃん、やめ――」
「まだめぐねえが外に!! 早くしないと――!!」
「無理だ、もう手遅れだ!!」
「嫌だ――めぐねえっ――!!!」
放送室の中で、暴れる由紀を胡桃と悠里が必死に抑える。扉を叩く音、引っ掻く音、唸り声が中にまで響く。
「――由紀ちゃん」
慈は、諦めたように壁にもたれかかった。その顔には、絶望が刻まれている。
「「「「「「「「「「「「「「「「「グオォォォォォ」」」」」」」」」」」」」」」」」
「――どうか、無事で――」
慈は、目を閉じた。
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「……キリがないわね」
そう呟くと、私は銃の引き鉄を引いた。
「グァッ」
弾丸は正確にゾンビの頭を撃ち抜いた。ゾンビの頭はあっさりと爆発四散し、動かなくなった。
直ぐさまその場から離れる――あそこに学校が見える。廃墟の様な有様だが、辛うじて原型は保っている。
ゾンビが街中を闊歩する――これはワルプルギスの夜が起こす現象ではない。何か別のものによって引き起こされたものと考えるのが自然だろう。
ワルプルギスの夜はあくまでも文明をひっくり返すレベルの大規模な災害を引き起こすだけであり、人々をゾンビ化させるような力は持っていない。それは私がよく分かっている。何度も対峙し、何度も敗北した、この私が。
再びゾンビが数匹現れる――いちいち相手にしてられない。こんな状況では武器をどれだけ確保できるか分かったものではない。節約していかなければ――。
私は砂時計の動きを止めた。
―――――――TIME STOP―――――――
時間が止まり、周囲の動きが無くなる。当然、ゾンビも石膏の如く動かない。
停止しているゾンビを足場とし、ゾンビからゾンビへ、飛び移る。
向かう先はあの廃校。三滝原中学校とは様相を異にしているが、ゾンビなどという訳のわからないものが街中を徘徊している時点で、この時間軸は今までのものとは違うと考えた方がいい。そもそもここが三滝原かどうかさえ分からない。
だが、私がここで目覚めたということは、この場所は今まででいう三滝原に準ずる場所であるということの証明。つまり、まどかがあの学校に通っていた可能性が、無くはないということだ。
廃校に近付いて行く。近付けば近付くほど、足場の量が増えていった。
この有様だと、そもそも生存者がいるのかどうかがまず分からないが――それでも、これは今までに無いパターンの時間軸。今のうちに捜索し、探索しておけば、もし次同じような状況に遭ったとしても、今回以上に上手く立ち回れるだろう。
校門の前まで到達した。学校の名前が書いてある。
「巡ヶ丘学院高等学校……?」
…………。
……高校……。
少し思案する。
さて、どうしたものか――まどかは中学生。幾らここが今までの時間軸と違うとしても、流石に年齢が違う訳もないだろう。いや、そう断言できる根拠はどこにもないので、そう言い切れる訳ではないけれど……。
だが……どう考えても、ここにまどかがいる可能性は著しく低く思える。中学生が高校に居るかしら? 普通……。
…………。
……かと言って、ここまで来て引き返すのもどうかと思う。もしもこの中に生存者――まどかでなくとも――が居るのなら、それを見逃す訳にもいかない。別に私は美樹さやかのように正義の味方を名乗る訳ではないが、人助けを嫌う訳ではないのだ。
それに、きっとまどかなら、そのような行動をとるのだと思うし――。
…………。
……入りましょうか。
更に多くなった足場から足場へと飛び移り、校舎へ向かう。どうせこのままだと1ヶ月間何もする事がないのだ。ならば、少しくらい有意義な行動をするとしよう。
扉を開け、校舎に入る。廊下には硝子が散らばっていて、例に漏れず血の跡がびっしりとこびりついている。ゾンビも大量。
この状況だと、もう絶望的な気がするが――しかし、生き残りがいるならば、是非とも助けて今のこの状況について詳しく説明してもらいたい。混乱しているようなら、まあ、空砲でも撃てば大人しくなるだろう。
階段を上る。二階。
ここも相変わらずのゾンビの量だ。やはりこれは生き残りは期待できないか?
扉は全て開け放たれていて、等しく血塗れだ。二階は恐らく、全滅と見て間違いないだろう。
階段を上る。三階。
ゾンビは多少少ない……が、それでも相当な量である。机が積まれてあるが、何だこれは? バリケードでも作ろうとしたのか?
ふむ、となると、やはり生き残りは存在している……?
「ん」
あれは……何? ゾンビが1箇所に固まっている? 表示を見るに……放送室?
近付いてみる。
「!」
ゾンビが囲んでいるのは、一人の人間だった。女性だ。生きている。扉の近くで囲まれているのを見るに、部屋から出たらゾンビが居て、戻ろうとしたが部屋の鍵を内側から閉められて万事休す……といったところだろうか。
となると、この扉の向こうに最低一人は更に生存者が居ることになる……願っても無い展開だわ。
私は盾から拳銃を取り出すと、至近距離でゾンビ一体一体の脳天に弾丸を撃ち込む。当然、この女性に当たらないように、正確に。
一頻り撃ち込み、砂時計を再び傾けた。
時間は動き出す。
―――――――TIME START―――――――
「「「「「「「「「「「「「「「グアッ」」」」」」」」」」」」」」」」
「!!? えっ――なっ――!!?!?」
撃ち込んだ弾丸がゾンビの頭を爆発四散させる。頭を失ったゾンビは、その場に倒れ伏した。
「あ、あなた――な、な、きゅ――」
突然目の前で起きた事に困惑を隠せないのか、女性は目を丸くして、声にならない声を出している。先手を打とう。
「初めまして。私は暁美ほむら。私は貴女の味方よ。中に居る人に言って、部屋に入れて頂けないかしら? 場合によっては……扉を壊す事も視野に入れているわよ」
「――――はっ、はいっ!」
女性は扉を急いで叩き、中に呼び掛けた。
「若狭さん!! 恵飛須沢さん!! 丈槍さん!! ここを開けて!! 生存者が居たわ!!」
……生存者を見つけたのは、どちらかというとこちら側なのだけれど。
【002】暁美ほむらと学園生活部
扉の向こうに居たのは三人の少女だった。少女と言っても、私より多分歳上な訳だが――三人とも、呆気にとられたような表情のまま固まっている。
「め、めぐねえ――!?」
「め、めぐねえ、この人は――?」
「わ、私にもよく」
「何でもいいけど早く中に入れてくれるかしら? いつまでも扉を開けていると、あいつらが侵入してくるかもしれないし」
「え、ええ」
快く中に入れてくれた。脅迫じみた言い方になってしまったかもしれないけれど、それは、まあ。
中は放送室らしく(とは言っても入ったことは無いのだけれど)、よく分からない機材で溢れていた。被害は無い。ゾンビはこの中へは侵入していなかったということか。
「めぐねえ!! 無事だったんだ……良かったっ……うわああああああん!!!」
「た、丈槍さん、泣かないで」
「めぐねえ……本当に良かった」
「もう駄目かと思ったが……何があったんだ? それに、そいつは……?」
「え、えっと……私にもよ
「初めまして、暁美ほむらです。よろしく。さあ、次は貴女達の番よ。呼び難いから名前を教えてくれるかしら」
「台詞被った!?」
悠長に話を聞いているほど私は暇ではない。さっさと話を進めよう。
「……私は、若狭悠里。よろしくね」
最初に名乗ったのは焦げ茶色の髪を持つ少女。ロングヘアーを左耳の周りだけ白いバレッタで留めている。割と落ち着いた佇まいから察するに、この集団のリーダー格かもしれない。
「私は、恵飛須沢胡桃。よろしく」
次に名乗ったのは濃紺色の髪をした少女。赤いリボンでツインテールに纏めている。ツインテール……赤いリボン…………それはそれとして、あのショベルは何かしら? 武器なのかしら? 確かにショベルといえば中々に使えそうな道具だけれど……あれが武器とするなら、この集団の戦闘役みたいな立ち位置かしら?
「私は、佐倉慈。で、この子が」
「ひくっ……た、丈槍由紀……」
佐倉慈は、紫色のウェーブヘアーの女性。紫色のロングワンピースを着て、首からは十字架をぶら下げている。多分この集団で一番年長だろう。教師か何かだったのだろうか。
泣きながら名乗った方が丈槍由紀。桃色の髪にネコミミを模したような帽子を被っている。桃色の髪…………それは兎も角。この集団の中では多分最年少だ。中学生くらいか? それとも高一……高三ってことはないでしょうね。
「えっと、暁美ほむら……さん。その、さっきは助けてくれて
「礼は後でいいしどうでもいいわ。それより今の状況を教えてくれるかしら? いつまでも訳の分からない状況のまま放置しておきたくないのよ」
「最後まで言わせてくれない!」
「……その、私たちもよくは分からないの。本当に突然、数ヶ月前にみんなが……ああなって」
「ふうん」
答えたのは若狭悠里。原因は不明か……ゾンビ化が始まってから街がこの惨状になったのは間違いないわね。となると益々ワルプルギスの夜が原因という線は消えた。他の魔女の仕業とすると、街一つを壊滅状態に追い込む辺り、相当な強敵だろう。
「じゃあ、あれの特徴は? 弱点とかそういうの」
「あいつらは音や光に反応して移動する。動きは鈍いから、一体くらいならギリギリ脅威って程でもない……あいつらに傷を付けられると、そいつもゾンビになっちまうんだ」
「ふうん」
恵飛須沢胡桃が言う。感染系ね。映画とかではお決まりのパターンだけれど……そういえば、この場合私はどうなるのかしら? 噛まれたらゾンビ化するのかしら? もう殆どゾンビみたいなものなのだけれど……。
「数ヶ月前と言ったわね。じゃあこの数ヶ月間、どうやって生活してきたの? 食べ物とか」
「食べ物は、屋上の菜園で育ててる野菜を使ったり、部屋に置いてある乾パンを食べたりして、ここまでなんとか……電気はソーラーパネルのお陰で、ある程度は不自由してないわ」
「ふうん」
佐倉慈が言う。ソーラーパネルは兎も角、菜園か……三滝原中にはなかったわね。今時の高校はどこもこんなかんじなのかしら? 高校に行ったことないからよく分からないわね。
「……まあ、今の所これくらいかしら。ありがとう。多少は分かったわ」
取り敢えず、ゾンビを残滅するところから始めるか……出来れば武器を補充したいけれど、流石に望むべくもないか……。
「じゃあ、逆に聞かせてくれ」
胡桃が言う。まあ、そうね。こちらばかり聞いてばかりだったし、まあいいか。よく考えればそこまで急ぐ必要もないし。
「いいわ。何かしら」
「あんた、どうやってここまで来たんだ? この階には誰も居なかった筈だし……下の階には、まだ一杯ゾンビが居るってのに」
「ぴょんぴょん跳ねてきたわ」
「は、はあ……?」
「冗談よ。でも別に嘘は言ってない……あれの頭を踏んづけて、飛んで、それでまた踏んづけて、飛んで。これの繰り返し」
「そ、そんなんで来れんのかよ!?」
「私が証拠よ」
「えぇ……」
まあ、流石に思いつかないでしょうね。動いている状態だと、頭に飛び乗るのは絶対無理だし……動いてなければ、ただ沢山足場があるだけだったけど。
「つ、次は私から……あれだけの量のゾンビ、どうやって倒したの? 気が付いたら、急に目の前にあなたが現れて、それで……」
「時間を止めてちょっと何かしたのよ」
「えっ」
「それだけよ」
「えっ、ちょ
「はい次の質問」
「えっ!?」
佐倉慈の質問。さっさと答える。事態が事態だし、教えても別に何の支障も無いから教えたけれど、本来魔法少女は一般人にバレてはいけない存在……ミステリアスであり続けなければならないわ。
「じゃ、じゃあ次! じ、時間を止めて、って……!?」
「そのまま受け取りなさい。はい、この質問は終わり。今後一切それ関係の質問は受け付けないわよ、はい次」
「えっ!!?」
魔法について詳しく話す気はこれっぽっちも無い。そもそもこの世界に魔法少女が存在するかどうかさえ、まだ分からないのだから。
「……あなたは、何者なの? どうしてここに?」
「質問は一つだけにして欲しいわね、若狭悠里」
「あ、あら、ごめんなさいね」
「まあいいわ。じゃあ一つ目。私は何処にでも居ないような中学生。二つ目。ここへは目に付いたから来た。生存者がいるかどうか知りたかったから」
「中学生!?」
「中学生よ」
「う、嘘だろ!?」
「本当よ」
「じゃ、じゃあ私たち、年下の子に助けられた……ってこと?」
「そうね。高校生の面目丸潰れね。ふふ……年下?」
……意外にも、丈槍由紀は中学生ではなかったらしい。となると、高一か。とてもそうには見えないが……。
「ええ。私たち、三人とも高校三年生だし……参ったわね」
「はい?」
「え?」
「もう一回言って」
「……三人とも高校三年生だし」
「丈槍由紀も?」
「ええ。ゆきちゃんもよ」
「…………」
泣き止んで、佐倉慈に涙を拭いてもらっている丈槍由紀を見る。
…………。
そうは見えない。
いやいや、あれが高校三年生……どう多く見積もっても高校一年生だろう。正直中学生どころか小学生じゃないかと疑いたくなるレベルなのだが。
それとも何か? 私は高校生に対して幻想を抱いていたのか? これが高校生の真の姿なのか? 高校生といえばもう少し大人染みているものだと勝手に思っていたのだけれど……現実と幻想の乖離が大きすぎるわね。
「とてもそうは見えないのだけれど」
「ええ……まあ、ゆきちゃんはちょっと……ね」
「ふむ」
成る程、妙に言葉を濁すところから察するに、彼女は少々幼いようだ。これ以外でどう表せばいいのか分からない。これ以外で表すと流石に過激表現になりそうなので。
「私達から見れば、お前が中学生っていうのが信じられないんだが……中学生って、もっと子供っぽいもんじゃないのか……?」
「意外と中学生ってこんなものよ。貴女達が想像しているよりは大人びてるわ……現実と想像のギャップって大きいわね」
自分で大人びているとか言うのは抵抗しかないが。しかし私に関しては、本来の時間の流れからいけば今頃は大学に入学している年齢……いや、就職しているレベルかもしらない。時間遡行すると自分の身体状態さえも戻るから……。
「さて、質問はもう終わり?」
「……はい!」
「はい、どうぞ」
手を挙げたのは丈槍由紀。別に手を挙げる必要はないのだけれど。
「えっと、ほむらちゃん」
「ちゃん付け……」
「その……が、学園生活部に入部する気はないかな!?」
「……はい?」
学園生活部?
何だそれは……このパーティ名かしら? まさか本当に部活な訳あるまい……。
「…………」
「た、楽しい部活だよ! 学校の中を走り回ったり、教室で野宿したり!」
「…………」
部活だった。
「いろんな部のお手伝いしたり、勉強したり、えっと、後――」
「……おことわ
「そうね! それはいい考えだわゆきちゃん!」
「は?」
「そうだな。部員は多いほうが楽しいもんな」
「ちょ」
「入部手続きは必要ないわ! すぐにでも入部出来るわよ!」
「おい」
こいつら……私を引き入れようとしている。マズい。もしこんなものに入った暁には、間違いなくパシリにされる。時間を止めるとか何も考えず言ってしまったのが間違いだった。高校といえば年齢重視社会(私調べ)。最年少(まだ信じれないが)の私がカーストの最下層に入ることには間違いがないと言っても過言ではないだろう。
「あの……出来るだけオブラートに包んでフィルターで濾して濾して出た言葉を言わせてもらうけれど……いy
「それはいい考えだね! 丈槍由紀!」
「!!!!」
――聞き慣れた、聞き慣れてしまった。
――不愉快すぎる声が、背後から響く。
「っ…………」
振り向いた。
振り向いた先には大きな機材。そして、その上に鎮座していたのは――見覚えのある、不愉快な、白い悪魔――!!
「インキュ……ベーター……っ!!!」
インキュベーター、托卵機。
猫のような姿をした白い悪魔は、首を傾げる。
「こ、今度は喋る猫……だと……?」
「頭が追いつかない……」
「わ、私も……」
「ネコちゃんが喋ってるー!! 凄ーい!!」
「……っっ!!!」
こいつ……何でここにいる……! 何でよりにもよってこいつは続投しているんだ……!
不幸中の幸いにも、こいつと彼女たちは初対面のようだ……これは早めに何とかしないと、この状況だと彼女たちは、必ず――!!
「ねえ、君たち。困っているんだろう? じゃあ、僕が力を貸してあげるよ!」
「力を?」
「貸す?」
「??」
「黙りなさい」
「僕はキュウべえ。宜しくね!」
「黙りなさい」
「宜しく、キュウべえ!」
「気を付けろ、喋る猫なんて、普通じゃないぞ」
「めぐねえ……あれは」
「わ、わからないわ……何もわからない……」
「君たちはこの現状を打破したいんだろう? だったら、僕にいい考えがある」
「考え!? なになに!?」
「黙りなさいインキュベーター」
「きっと君たちには素質がある――僕と――」
「 黙 り な さ い イ ン キ ュ ベ ー タ ー ! ! ! 」
「僕と契約して、魔法少女になってよ!!」
コンマ0秒、銃弾がインキュベーターの脳天を撃ち抜いた。インキュベーターは爆ぜ、血を撒き散らす。動かなくなった。
「なっ――おい!! お前!!」
「キュウべえ!? 酷いよほむらちゃん!! 何で……!?」
「契約……魔法少女……?」
「暁美さん!?」
「…………」
――参った。
――これは参った――あれに目を付けられてしまった。このままでは、今以上に最悪な展開になりかねない――!!
…………。
……仕方ないか……。
「……あれの言うことに、耳を傾けないで」
「ほむらちゃん……?」
「どういう事だ、暁美ほむら!」
「説明してくれるかしら?」
「暁美さん……」
「説明するわ。せざるを得ない――いいわ、付き合ってあげる」
「「「「え?」」」」
「学園生活部よ――いいでしょ? 一ヶ月間だけよ。付き合うわ。今貴女達が置かれている状況が非常に良くないものだと把握した――入部するわ」
――せざるを得ない。
四人は怪訝な顔をしている。流石にこれで説明しないは無理だろう。敵意さえ向けられる可能性もある。
インキュベーターが彼女たちに目を付けた以上、放置は出来ない。そこまで私は冷徹ではない。どうせ一ヶ月間何もやることはないのだ。その時間をフルに使って、インキュベーターの危険性を彼女たちに教え込む――!!
……成功、するかしら?
取り敢えず、最初の三話はこんなかんじのノリでいこうと思います。ちょっとだけ殺伐としておりますが、暫しお付き合いください。