Fate/グダグダ進撃隊   作:雑炊

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というわけで短編集です。
それぞれの時系列がバラバラな上に出てくる英霊達にも偏りがありますが、ご容赦ください。

また、出てくる英霊達は現状(セプテム進撃中)の雑炊の手持ちからしか出てきませんのでその点に関してもご容赦ください。


では、短編3本とおまけ一つ、どうぞ。


短編集(たぶん)1

①お兄ちゃんと呼んでみよう

 

「お兄ちゃん」

 

それを言われた瞬間、先輩が動きを止めた。

まるで、言われ慣れた言葉を久々に受けたように。

 

今、彼はあるカルデア職員の頼みで、依頼者の部屋の電気配線を弄っていたところだった。

勿論、彼が丁度一休みしたタイミングで私はその言葉で呼びかけた。

電気工事は些細な事が大怪我に繋がる危険な仕事、と事前に彼からよく聞かされていたからだ。

 

工具を手に持ったまま、缶コーヒーの空き缶を床に落として呆然とこちらを見上げる先輩の顔は、思わず笑ってしまうほどに間抜けだった。

軽く無精ひげも生え、髪もボサボサになっているので、余計にそう思ったのかもしれない。

 

「……なんだ?」

 

絞り出すように、というよりは笑ってしまった事に対して問うように彼は私に声をかける。

雰囲気もいつもの少し気怠気なものに戻っていて、それが更に可笑しくて、どこか微笑ましい。

 

「言ってみただけです。コーヒー、おかわりいかがですか?」

 

「……いや……いい。もうやり始めるし」

 

そう言いながらもう一度工具を携えて先輩は天井裏へと上半身を入れ、作業を再開する。

でも、デミ・サーヴァントの私は、それを見逃さなかった。

 

 

 

先輩の顔は、少しだけ赤く染まっていた。

 

 

 

いつも心配をかける困り者のマスターへ、デミ・サーヴァント未熟者の私からの仕返しは、成功したようだった。

 

 

②『汚すな』

 

─────またか。

 

その光景を目にした瞬間、志郎は頭痛と目眩を覚えた。

 

台所中に飛び散りまくった赤紅朱緋アカあか─────

 

「~♪~♪♪~♪…って、あら野犬じゃない。珍しいわね?」

 

───のど真ん中でこの惨状を作り出す元凶がこちらに振り向く。

角の様に見えるリボンのような何かに、爬虫類の尻尾とマゼンタの髪の毛。

言うまでもなくエリザベート・バートリ。通称エリーである。

 

「珍しい、だぁ?お前さんが知らんだけで、結構入っとるわ俺だって…………っつか、この大惨事。掃除すんの面倒だから、程々にしてくんない?」

 

言いながらその刺激臭に顔をしかめる。

見たところ、料理をしているようだが、手順が滅茶苦茶な上に味付けも最終的に唐辛子やら何やらでしっちゃかめっちゃかにしているので、味とか糞くらえであろう。

 

多分、痛いとしか感じない。

 

「大惨事ってっ…失礼ね!!れっきとした料理よ!!!」

 

「れっきとした料理は実食者を医務室送りにはしない」

 

そう言ってやると、うぐぅと唸って彼女は黙った。

自覚だけはあるようである。

 

「兎も角、作るのはいいが汚すな。最終的に俺にお鉢が回ってエライ事になる」

 

「わかってるわよぅ……やめないけど」

 

「オイコラ」

 

そう言ってからドアに寄りかかって監視を始める。

どうせ止めたって今みたいに聞かない上に、下手すりゃ暴れだす。

そうなるともう手がつけられない。

 

で、あるならば、ここで監視しつつ、時折アドバイスをくれてやったほうが、もう半分手遅れではあるが最悪の事態は防げ――――――るといいなという希望的観測込みだが、まあ、この状況ではそれが最善手だろう。

 

ただ、どうあがいてもこの後の始末が面倒になる、と思い返して、志郎は深く溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――そしてそれから少し後、

 

 

 

 

この光景に広がるもの、その被害がほぼ倍になることを、彼は知らない。

 

 

 

 

③クリスマス

 

無言で全体重かけながら目の前の人物に正拳突き。

鳩尾にヒット。崩れ落ちる。

うん、いい調子。

 

そう思いながら周囲に目を向ければ、既にどんちゃん騒ぎのテンションも収まり、約2名を除くほぼ全員が『うわぁ…』という目でこちらを見ている。

まあ、仕方ないとは思う。

たった一発で酔っ払いを仕留めたのもそうだし、その酔っぱらいが英霊だったという点もでかいだろう。

 

ただまあ、結局人間なのでキチンとぶち込めればダメージ通るというのは既に確証が取れてたからそこまで驚くことじゃないんじゃないのか?と思う。

 

ただ、このままだと流石に空気が悪いままだよなと思い、それを払拭するために近場の料理―――七面鳥に手を伸ばし、バラして齧り付く。

 

うん、上手い。やはり鳥なので骨まで行ける。

 

バリバリと骨ごと食べていると、肩を叩かれる。

見れば珍しく私服のマシュが申し訳なさそうにこちらを見ていた。

 

はてなんぞやと話を促す。

するとこんな事を言われた。

 

「………先輩。トナカイの着ぐるみのままその行動はどこかホラーなのでやめて下さい……というか、なんで骨まで食べてるんですか。見ていてとてもグロいんですけど」

 

「解せぬ」

 

「いや、そこは解そうよ」

 

ロマンの言葉にその場に居たほぼ全員が深く頷いた。

あのヴラド公にエリーとかまでもがそれに加わっていやがる。

 

何故だ。

 

 

そう思いつつ、先程沈めたギルガメッシュを蹴り飛ばしてどかし、近くの椅子に腰掛け、はて何故こうなってしまったのかと考える。

 

 

 

 

 

 

といっても、きっかけはいま視界の端で自分同様ターキーを口に運ぶ黒サンタコスの腹ペコ王――――――アルトリア・オルタが原因なのだが。

 

 

きっかけ自体は些細なもんで、要はクリスマスも一週間前だというのにこの腹ペコは今のような服装になった状態で人をアンサモン……要は逆召喚し、『トナカイ』扱いでいろいろと引きずり回したのだ。(なお、途中で一回エリーが参加したが途中でまた別れた。……なんだったのだろうか。)

 

とは言っても、移動自体は常にアルトリアのエクスカリバーによるジェットあるいはロケット推進という謎のギミックを持った大型の『っぽい』ソリで、道中の食事、睡眠もちょくちょくあったので然程苦ではなかったのだが。

 

まあ、兎に角色々まわったのだ。

 

爆笑物だったクソごついバーサーカー2名と歌の上手い仮面付きメンヘラヤンデレ男というそれはそれは酷いメンツから始まり、

 

フライング登場の男の娘と、どこかの山村がオタクやってるアイドルと性別不明の騎士っ子トリオ。

 

ヤンキー聖女と酔っ払い暗殺者とぽんぽこ。

 

嵐の雲の上で留守番していたので詳しく知らないが、家政婦とあざとい弓兵とダメ男。(全員アルトリアが対応。エリーとはここで別れた)

 

恐ろしく可哀想な境遇の幼女2人。(思わずお菓子を贈呈するレベル。また会えるといいが)

 

その後の何故かヴィマーナで強襲してきた英雄王。(半泣きだったのは何故だ)

 

自称サンタの自称赤セイバーである恰幅のいいイケボの皇帝。

 

そんでもって――――――黒ジャンヌ。

 

(実際には他にも居たのだが、まあ、割といつもの事だったのであとは割愛。)

 

濃いメンツに囲まれた騒動寸前の何かだったが、まあ楽しかったので個人的には良かったと思う。

自体の終結後に戻された時も、アンサモンされた時間からあまり経っていなかったし、ちょっと皆から心配された程度だったので、大きな問題もなかったのだし。とりあえずめでたしめでたし、で終われたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――問題はこの直後だった。

 

 

いや、ホントに。

 

 

まず、何故かパーティーの準備が出来ているという食堂にたどり着いたら何故かさっき別れたはずのアルトリアが黒サンタのままそこに居て、案の定用意されていた料理にがっついていると言う事態が勃発。

 

そしてこちらに気づいたアルトリアにいきなりトナカイの着ぐるみを被される。

 

そしてそのまま雪崩込むようにパーティーがスタート。

ほぼ全員が食い尽くされてなる物かと料理に殺到。

 

さらに酒も運ばれてきてカオス度増加。

 

一部に酔いが回って暴走開始。

 

 

 

 

 

 

 

そんな状況下、先程までの事も有り、精神的な疲れとかがピークになってたところに拗ねた英雄王の絡み酒。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結果:俺氏無言でブチ切れて英雄王の黄金の鎧が粉々になる勢いで正拳突きをブチ込む。

 

 

最終結果:食事に夢中なアルトリアと沈んだ英雄王以外が沈黙。

 

 

 

 

 

 

………うん。オレワルクナイヨ。

 

 

 

 

 

 

 

………ごめんなさい。

 

 

 

 

さて、沈んだ英雄王をヘラクレスとともに奴の自室へと叩き込んでからパーティーの会場に戻ってみれば、場のカオスっぷりがさらに増していた。

具体的に言えば、女性参加者は皆例外なくミニスカサンタ服に。

男連中は纏めて俺と同じようなトナカイの着ぐるみ姿になっている。

 

酒ももうほとんどの参加者に入っているのか、ドンチャン騒ぎもいいとこだ。

近くに人がいたら、騒音被害で訴訟確実である。

 

……というかよく見ると、何名かは服がはだけたりでエライ事になってきている。

あのスカサハさんが奇声を上げながらクー・フーリントリオをしばいていると思いきや、ドルオタが黒ひげと何かの布教活動を始めていたり、エリーコンビによる即興コンサートやそれに熱狂する理性吹っ飛んでるバーサーカー組にノッブの大量発生とか、もう地獄絵図極まりない。

アステリオスとかの穏やか組はそこから離れた所で固まってるのでマシだが、それ以外の酷さが半端無い。

ストッパーのデオンどこいったと見回せば、なんぞ地面で悶えてるんだが何これどうなってるの。

 

常識人どもも軒並み酔っ払って理性が吹っ飛んでるのかもう滅茶苦茶である。

沈んでるのもチラホラ居る……って、マシュが顔真っ赤にしてこっちにフラフラ近づいてきたぞ。

もうこの段階で嫌な予感しかしないと思ったら何か言ってきたのだが、呂律が回ってなくて何言ってるのかが完全に不明である。

もう「あqzsxでdcftgvbyhbんjんmきm」とかみたいな感じにしか聞こえん。何語だそれは。

 

仕方なくほっぺプニプニして構ってやると満足したのか、そのままこっちの服に顔うずめて変な笑い声をあげ始める始末だ。

何これ酷過ぎワロエナイ。

 

あ、よく見たらロマンがクリスマスツリーの天辺に………あ?あ!?あああああああああ!!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

……よし、無視しよう。これ以上の面倒はゴメンである。うん。

 

 

 

数時間後

 

 

 

 

酷いの一言に尽きる。

 

結局、あのバカ騒ぎは終わりはしなかった。

最終的にはスカサハとマシュの酷く酔っ払った二人による、爆笑しながらのクロスカウンターによる決着を持って、やっとこさ暴れまわっていた連中が全員沈んだという感じである。

パーティー会場は今や完全にクーデターかデモ隊が警察によって鎮圧された後の如き惨状を呈していた。

 

なお、ロマンはあの後どうなったのかは知らない。

見てもいないし聞いてもいない。

とりあえず言えるとすれば一言である。

 

合唱。

 

以上。

 

 

そんなわけで現在は難を逃れたヘラクレス。バカ騒ぎに巻き込まれずに済んだアステリオスなどの温厚組。

そして、流石に狂っててもそこら辺はキチンとしてるのかさすが王様と言わんばかりにいつも通りなヴラド公といった面々に手伝ってもらいながら、その後片付けをしているという訳である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「………………あの…」

 

「ん?どうしたトナカイ。何か用か」

 

「………いや、その……

 

 

 

 

 

何もしないのなら出て行って頂けます?」

 

「却下だ」

 

「さいでっか」

 

……目の前のこの暴食黒サンタは例外だがな!!!!

 

何故?いやホント何故いる!?

手伝う訳でもなく、かと言って邪魔するわけでもない。

マジで近場の椅子に座ってこっちを見るだけである。

ぶっちゃけ見られてやりにくいという事はないが、気恥ずかしさ+鬱陶しさでどうにも落ち着かない。

監視されてる様な気分になってくる。まじで。

よりにも寄って俺は以前コイツの首を刎ね飛ばしたこともあるので尚更だ。

 

サラっと思うが、今回の騒動に巻き込まれたのも下手するとあの時の仕返しなんじゃないかと思えてくる。

 

コイツの性格は……まあ、色々連れ回されたお蔭で大体分かったが、基本サバサバしてる割に生真面目さと負けず嫌いな部分が奇妙な割合でこんがらがっているという奇特な物だろう。

 

故に、仕返しと言われると逆に納得できる。いや、マジで。

 

……ただ、思い返してみると、の割にはあまり酷いことはされなかったな、と少し引っかかる。

割と対応も柔らかかったし……ぶっちゃけ不気味だったな、そういえば。

いっそセメントの方がわかり易くて良かったのだが……うーむ。

 

(……まあ、いいか)

 

そう結論づけて作業を続ける。

視線がまだ感じられるが基本無視無視。

 

そうすることで作業効率を上げつつ、集中する事でこの暴食王の存在を意識外に追いやる。

うん、いい感じだ。

 

気が付けば、いつの間にかゴミとか散らかった食いカスとかも全て片付けられていて、食器や椅子、テーブルもいつも通りだ。

あとは汚れた食器を酔いつぶれたアホ共のかわりに洗えば全部終わり――――――

 

 

とか、思った瞬間、スルッと黒い手が俺の頬に横合いから伸びる。

瞬間、一気に背筋が凍る。

 

具体的には『今すぐ対応しないと死ぬ』的な、あの冬木での最終戦並みのあれである。

 

コイツ(アルトリア)の首を刎ね飛ばした――――――コイツに何故か気に入られた一件のあの時と全く同じ感覚が全身を襲う。

 

 

 

無意識に体が動く。

 

 

手元の武器代わりになる何かを手繰り寄せ、全身の力を抜きつつそこから脱出しようとし、同時に相手の姿を常に視界に入れんと首をそちらに向けて―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「――――――――――――――」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「――――――」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?」

 

「……フン。まあ、これでお手つきだ。――――――が」

 

 

 

「った!?」

 

「―――よし、これで“おあいこ”だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ではな“シロウ”。良いお年を、だ」

 

 

 

 

 

そう言い放って、黒いサンタは身を翻していった。

俺はそのまま尻餅を付いた体制になり、呆然と座る。

 

 

 

と、いうか、呆然とするしか、ない。

 

 

 

「……なんだよ、それ……」

 

 

暫くしてからそう呟いて、その直後に気恥かしさと、年のクセして吐いた言葉が幼稚だったことへの羞恥から慌てて片付けを再開。

 

結局、眠気も襲ってくることがなく、全員分の食器を洗い終わった頃には早起きの連中がいつもより少しばかり遅くらいの時間で起きてくる頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談:その日の朝、朝食を食いに“セイバーのアルトリア(黒いの)”と“ライダーのアルトリア(黒サンタ)”が姿を見せ、そろそろいい感じに眠気が襲ってきた俺は盛大にぶったまげ、また眠るタイミングを逃した。

 

 

 

 

 

 

 

あと、首元にあった赤い痕をマシュに見つけられて、その弁明にクソ面倒くさかったと断言できるほど時間を費やした。

 

 

以上

 

 

 

④(おまけ)リリィがやってきた

 

「セイバーと申します!まだ未熟者の身なので、リリィと呼んでくださ「「グバッハァ!!!!」」って、ええええええ!?」

 

 

「いよっしゃあ!!!対アルトリア用の秘密兵器ktkr!!!ねえどんな気持ち?自分の若い頃の黒歴史っぽいもの引っ張り出されてどんな気持ち?NDK?NDK?」

 

「マスター

     貴様ァ!!!」」

「トナカイ

 

 

「えっ、えっ、あの……えっ?」

 

「あ、リリィさんはこちらへ……ええ、ぶっちゃけ何時もの事なので気にしないでください。ええ、ホントに」

 

「えええええぇぇぇぇぇ……?」

 

 

 

⑤(追加大遅刻編)バレンタイン

 

マシュ・キリエライトは思った。

 

なんだ、これは。と。

 

なんなのだ、これは、と。

 

彼女の目の前ではカルデアの男連中が所謂作業着(全員デザインが違うのはなんなのだろうか)に身を包み、ホースを引っ張り、高圧洗浄機で排水管を洗浄し、バキューム機を使ってグリストラップを掃除しているという摩訶不思議な光景が広がっていた。

よりにも寄って今日、2月14日――――――バレンタインの当日に、である。

 

何人かは全力で芳香剤やファブリーズの中身をぶちまけて匂いを誤魔化すのに奔走していたりと最早カオスだ。

いや、カオスなのは何時もの事なのだけれども。

 

 

そんな光景の隅、全体に指揮を出していると思われるところに、目的の人がいる。

居るには、居るのだが――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――オラァ!!そこ、サボってんじゃねーどダボどもが!!いつまで時間かけるつもりだボケェ!!日が暮れるどころか明日になるわ!!アステリオスはエウリュアレからチョコ貰ったらしいなぁ!!食ってろ!!芳香剤の残りとか気をつけろよお前ら!!マジで死ぬぞ匂いが!!……おいこらギルガメッシュサボんなエヌマぶっ込むぞこらぁ!!!」

 

――――――何やらいつもよりも剣呑且つとんでもない形相で指示を出す、文字通り鬼が居た。

何か、目的の人の皮を被って、立ってるんじゃないかと一瞬錯覚するような形でそこにいた。

 

彼もいつもの服とは違い、紺色の作業ズボンに腰に道具入れを下げ、上に作業ジャケット羽織りヘルメット装備と、どこからどう見てもその道の人だ。

怒鳴り声も明らかに堂に入っているし、一体このマスターはカルデアに来る前何をやっていたのかとつくづく気になる。

 

と、そこまで考えた所でこちらに気付いたのか、指示出しをヴラドとヘラクレス(無論二人共作業着装備。髪の毛を紐か何かで無理やり束ねているので新鮮だが、何故か作業着姿が割と似合っているのは何故なのだろうか?)に任せてこちらに近づいてくる。

 

と、そこまでになってマシュは自分の目的を思い出した。

手元のソレを見て、身を強ばらせる。

 

これを彼に渡しに来ただけ――――――だったのだ。最初は。

 

ところが誰の差金かたったそれだけの作業は幾人ものサーヴァントとの果し合いを超えた先にある、苦労とか色々なものが入り混じったものになってしまった。

 

無論、そんなことをすればただ渡すだけとしてしか認識してなかったそれはもう凄い勢いで振り回されたりしているわけで。

 

 

そんな哀れな箱の中身はそりゃあそんな感じで振り回したら、どうなってるかは想像に難くはないわけで。

 

 

(……どう、しよう)

 

 

この土壇場に来て、マシュ、半泣きである。

おそらくこのまま渡したとしても、目の前の少年はサラっと受け取ってくれるだろう。

後日礼を言いつつ茶化すだけで終わるだろう。

 

だが、中身に込めた色々な物は、伝わらない――――――かもしれない。

 

 

――――――それは嫌だ、と、未熟な心で彼女は思う。

 

ここまで来て、ここまでやって、それは嫌だ、と。

 

 

深呼吸を一つ。それから目を閉じて、心の中で掌に人という文字を書いて飲み込む。

 

 

 

 

 

そして目を開いて、その言葉を紡ぎ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――先輩!!お疲れ様です!!いつもありがとうございます!!これ、差し入れです!!!」

 

「おうさんキュー」

 

そう言って、志郎はマシュから袋を受け取ると中身を確認。

直後、振り向きつつ、作業をしていた全員に向かって差し入れが来たという旨を伝える。

 

 

……違ぁぁぁぁぁぁう!!!!!!!!!

 

 

マシュ、心の中で大絶叫。

さもありなん。

本来言うべき言葉は出てこず、代わりに出てきたのは何とも言えぬ、確かにこの場ではピッタリなセリフだった。

 

ただ、心情的には感謝してるのはあっているのだがベクトルが明後日の方向に飛んでしまった状態である。

 

 

そのまま笑顔を保ちつつ、「では、頑張ってください」と一言伝え、彼女はその場から離れていった。

その後ろでは休憩を入れる旨と、残りの進捗がどうなのかと確認する志郎の声が聞こえるが、ぶっちゃけもうそれが彼女の耳に入る事はない。

 

そのままゆっくりと歩く速度を上げながら、段々と全力疾走の様相を呈し、最終的には武装までしながらカルデア内を駆け抜ける。

 

その行き先は――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――あ~、やっと仕事も終わったし、本日の業務終了とするかなぁ……さて、秘蔵のDVDで、ご飯時まで時間をつぶ……って、あれ?マシュ?武装なんかして一体どうしたのってちょっと何何どうしたのなんでそんなに無表情でこっち近寄ってくるのちょっとちょっと待って待って今回僕何もしてないよねねぇちょっと待っ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~馬鹿ァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

「アアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?!?」

 

 

 

……余談ではあるが、後に騒ぎを聞きつけたダ・ヴィンチはこう語る。

 

『ロマンはオチにならないとこの世界では生きていけないのかもしれない』と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あ、今日ってもしかしてバレンタインだっけ?」

 

「wwwwwwwwww」

 

作業中、とある少年がこう漏らし、金ピカの男が大爆笑し、他の全員からは『うわぁ…』という目で見られるという一幕があったが、完全に余談だろう。

 

 

何はともあれハッピーバレンタイン。

今年も日本のお菓子業界は潤っていた。




如何でしたでしょうか?
どうも雑炊です。

一ヶ月近くかかってるのは、実はこの3本+1の中にもう一本入れる予定だったのですが、そちらが異常に纏まりきらず、余計に長くなったりした為にその修正などを繰り返していた結果となります。さっさと消せばよかったんですけどね(白目

なお、内容としては若クー兄貴が志郎に『カルデアの女性の中で誰が一番好みか』を聞き出そうとし、そこから全体を巻き込んだ大騒ぎになるという物でした。
要するにラブコメ書こうとしたんですね。慣れないことはするもんじゃないとつくづく思いました。


さて、ではそれぞれの解説を。


マシュが志郎くんにちょっとしたイタズラするお話。時系列は不明。冬木直後かもしれないし、オルレアンやセプテム直後かもしれない。
最初は普通に膝カックンとか考えてたんですが、長くなりそうだったのでこれで。
なお、志郎くんの呆然とした顔と照れた顔はしっかりとフォウさんが撮影、英雄王主導でカルデアに後で散蒔かれました。(笑

真面目な話、いきなり後輩とかから家族と全く同じ呼び方で呼ばれたらビビる。ちょっとだけ。



実は割と前から考えてたお話。時系列は冬木後ハロウィン前。
多分ウチのカルデアにおいてエリーは拷問できない歌えないというストレスを料理で発散してるのではと思いついた事がきっかけで書いてみてます。
医務室に送られたのは誰かは皆さんのご想像におまかせします。


クリスマス番外編として書き出してた作品。時系列は少なくともオルレアン・サンタオルタまでの各イベント終了後。

サラっとヴラド公とか居たりする辺りお察しください。
ギルガメッシュが半泣きの理由はクリスマスイベント終わらせた方なら分かるはず。雑炊はあの話の後、何時英雄王が襲い掛かってくるかずっとビクビクしてました。

なお、本作ではラムレイ2世(エクスカリバーロケット推進)VSヴィマーナという地獄絵図を展開しながらニセサンタの所に襲撃かけた模様。
そして英雄王はそのままジャンヌオルタの所まで着いてきて全力で煽った模様。

志郎くんの苦労は推して知るべし。



おまけ。時系列はセイバーウォーズ直前。
此処ぞとばかりに煽る志郎と、煽られるオルタコンビ。
……リリィの明日はどっちだ!!

⑤(2月28日追記)

大遅刻ですがバレンタイン短編。
うちのカルデアではこんな感じになりました。

この後、志郎くんは一日遅れで他の皆からもチョコを貰って、最終的にこっそり男連中と消費するというアホイ行動をします。
(清姫の分は軽く説教しながらその場で食べましたが)

マシュ、来年はキチンと渡せるといいね。(ゲス顔


なお、今年は雑炊も親にチョコを贈ろうかと思いましたが、血糖値が気になるからやめろと言われてしまいました。残念。

以上となります。
では、また次回。
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