虚・女神転生   作:春猫

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VRカラオケとかあれば、自分の好きなアーティスト(二次元、三次元問わず)をバックに従えて自分ボーカルとか、好きな歌手とデュエットとか出来ますよねぇ
あるいは主観ドーム球場とか武道館とか、ウッドストックやライブエイドにすら参加出来ますねぇ


Lady's Shop

「起立っ、礼、着席!」

 タヌキの顔をした担任が帰りの挨拶を済ませると、一回クラス中を見回してから職員室へ転移。

 とたん、教室の中はあっという間に半数以上がログアウトを済ませて姿を消す。

 

 現在の学校教育は「完全登校制」「VR併用制」「完全VR制」の中から本人や保護者が選択出来るようになっているが、この学校の様に完全VR制の場合、対人トラブルでのトラウマなどの事情を抱えている生徒も多いことから教師の外見は動物を若干コミカルにアレンジした様な頭部を持つ、いわば獣人スタイルになっている。

 人間の成人男性、成人女性というだけで恐怖を感じる者も居るからだ。

 教師側としても素の表情が見られず、一種のロールプレイとして「頼り甲斐のある教師」を演じやすい点から好評である。

 

 生徒側も外見でいじめられた経験があったり、酷いコンプレックスを抱えていたりする者も居るため、コロコロと外見を変えて本人特定が出来なくならなければ、本人そのままの外見で無くてもいいことになっている。 このため、生徒の中には等身大のテディベアやゲームやアニメのキャラクター、教師と同様の動物の頭部の獣人、エルフやドワーフなどのファンタジー世界の住人の外見をした者も居る。

 

「はぁ、終わった終わった」

「VRでも座りっぱなしは疲れるねぇ」

「軽くログアウトしてからVRカラオケルームでも行かない?」

 

 教室に残ったクラスメイトの会話を聞きながら、自分もログアウトする絵里。

 

 フルダイブ用の端末を外し、サングラス状の端末を装着してハーフダイブタイプの介護ユニットを自分で操作。自室に併設されたユニットバスへ。

 昔であればヘルパーなどの介護者の手を要する様な障害を抱えている者でも介護ユニットを自分で操作することによって「自分で自分を介護」出来るようになっている。

 

 家自体を改造しても同じ様なことは出来るし、アメリカなどの場合はむしろそういった家自体が一つのユニットといったリフォーム、新築を行う者の方が多いが、日本の場合は人型のユニットを用い、元々の住宅には軽く手を加える程度ということの方が多い。

 

 絵里の右足は膝から下が無く、左足は足首から下が無い。

 機械動力の補助とVR技術の応用による制御を用いた義足で歩くことも可能であるし、絵里もそうした電子制御義足は保有しているが、装着や脱却にはかなりの手間を要するため、日常ではあまり用いていない。

 

 生まれた時からの障碍ではなく、両親と弟の命も奪った交通事故によるものである。

 自動車のオートクルーズ化と安全制御の高度化は進んでいるものの、それでも事故は完全にはゼロとならない。

 安全を守る為の機能がケースによっては事故の原因にもなったりする。

 

 レコーダーの検証で運転していた絵里の父親の過失は無かったことが確認され、相手が賠償金の支払能力を持った企業であったこと、父親と母親は保険に入っており、弟の進学を見据えて満額が高い契約に切り換えたばかりであったことから自宅のローンと改装費用を支払ってもかなりの金額が手元に残ったことから生活自体には問題は無い。

 

 両親と仲の良かった親族が比較的近所に住んでいたという点も運が良かった。

 

 それでも家族を失い、それまで当たり前に出来ていたことが出来なくなるということは、親や友人などから「底抜けに能天気」とさえ言われていた絵里から明るさを奪うのに十分な出来事であった。

 

 

「親父と喧嘩した」と言って従兄が転がり込んで来たのも、そうした絵里の状況を心配してのことだろう。

 なんせ社会人として既に安定した収入を得ていることから、もしそんな理由で家から追い出されたのが本当だったとしても、一人暮らしを始めたところで全く問題は無く、それどころかローン完済の自家用車まで持っているのだ。

 実際、通院や義足のメンテナンスなどの際にはお世話になっている。

 

「いや、こっちが迷惑かけてる側だからな!」と絵里の負担にならない様に言い訳までしてくる。

 

 その従兄が最近は特に機嫌がいい。

『女神転生Ruina』を始め、タケルやアキラと知り合った絵里が、かつてほどではないにしろ明るさを取り戻してきているからだ。

 

 従兄は自分がβでプレイをし、その話をしていたからプレイを始めたと思って居るが、実際はクラスメイトが会話をしているのを聞いて「お友達になるきっかけになるかな?」と思ったのが始まりだ。

 完全VR制の場合、授業終了と共にログアウトしてしまう者も多く、学校で友人を作るのが難しいのだ。

 

 プレイを始め、あまりにも広大な東京にプレイ三日目でクラスメイトと中で「偶然」遭遇することを諦めたが、従兄が色々と気を遣いアドバイスやらアイテムの融通やらをしてくれるのをあっさりとやめてしまうのも悪いと思い、活動範囲を少しずつ広げていた、そんな時に見かけたのだ、妖精を。

 

 最初は相当に変な子に思われただろう。

 サマナーを無視して妖精に熱心に見ず知らずの女の子が話しかけてきたのだから。

 

「まあ、中の人の大半にとっては俺はフィーネのおまけだからなぁ……」と、どこか黄昏ながら笑うタケル。

「こそこそ影で見て、隙を窺う感じでスクショ撮る連中よりはストレートで好感持てるよな!」と笑い飛ばすアキラ。

 

 二人と出会い、ログインしておらず消灯状態になっているフレ欄にガッカリしたり、ログインしてれば連絡を取ったり、一緒に異界に行って経験値稼ぎをしたり、会ってくだらない話をしたり、中でちょっと出かけてみたりとしている内に、笑える様になっていたのだ、自然と。

 

「笑顔浮かべてないと不機嫌だと思われないかな?」「乱暴な言葉使うと嫌われないかな?」などといったことを考えず、思ったまま、感じたままで過ごせる様になると、逆にVRスクールでも相手の方から声をかけてくる様になって、学校でも友達が出来て、と。

 

 VRゲーセンで撮った「くまちゃん」との仮想フォトを眺め、笑みを浮かべる絵里。

 背の低さと体型から小学校で酷いいじめを受けた「くまちゃん」は、学校に限らずVR内では等身大のテディベアの外見をしている。

 その愛らしさからクラスでは人気者だ。

 

「もふもふしてみたい」と思っても話しかけるきっかけが無く、仲良くしている人たちを羨ましく見ているしかなかった絵里だが、ごくごく普通に話しかけ、好きなゲームや漫画の話で盛り上がって、「頑張らなくても友達って出来るんだよね、そういえば」ということを思い出した。

 

 くまちゃんも実は『女神転生Ruina』のプレイヤーだということが分かり、今度、中で待ち合わせをして会う約束をしている。

 

 パソコンの電源を入れ、ネット回線に接続する。

 掲示板は貶しあいや喧嘩、悪口の言い逃げなどもあって、あまり好きでは無いが、情報源としては有用なことが多いため、ある程度不快な書き込みの少ない板を選んで見ている絵里である。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

【イベント】なんでそ? お宝鑑定団 その4【もつかれ~】

 

1:永田町の異能者

 ここは『女神転生Ruina』で過日行われたイベントクリア報酬として、各自がゲットしたアイテムを公開するスレです。

 スクショは歓迎ですが、リンク先へのアクセスは自己責任で!

 煽り、荒らしは華麗にスルーしましょう

 愛の無いコメント、貶しはNG

 和気藹々、マターリ進行でいきましょう

 

 過去スレ:なんでそ? お宝鑑定団 その1~3

 

______(中略)__________ 

 

 

 

218:赤坂のペルソナ使い

 獲得アイテム【イージスの義手】

 性能は高いんだが、腕を切り落とせとでも?

 それとも鈍器として振り回せってか?

 

219:多摩センターの異能者

 獲得アイテム【鼓型コンプ】

 和楽器の鼓の形状のコンプ!

 高額でお買い上げ有難うございます!!!

 

220:明大前のサマナー

>>219

 速攻で売れたのか!?

 たしかにそれはちょっと欲しい!

 

221:新宿三丁目のバスター

 獲得アイテム【ハゲヅラ】

 見た目はまんまハゲヅラ

 呪殺・破魔無効、電撃反射、炎熱・氷結・衝撃耐性

 性能は神性能! でもハゲヅラ

 つ【スクショ】【スクショ】【スクショ】

 

222:浅草のサマナー

>>221

 顔にモザイクかけたくなる気持ちも分かる

 これは酷い

 

223:原宿のバスター

 でも、なんでハゲヅラ?

 

224:虎ノ門の異能者

 実はヅラシリーズがけっこう多い模様

 確認済みとして三つ編みお下げ、貞○ロンゲ、仏陀パンチ、荊冠付きロンゲがある

 

225:四谷のサマナー

 この高性能っぷりで逆に分かったぞ!

 メガテンでハゲと言えば四文字!

 つまりハゲヅラは四文字コスプレグッズだったんだよ!!!

 

226:中目黒のバスター

 Ω ΩΩ< な、なんだってー!!

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「タケルの銀の燭台でもマシな方だったんだねぇ……」

 

 パソコンの電源を切り、介護ユニットを用いてベッドに戻る。

 VR端末を装着、いつもの高田馬場のホームへ。

 色々と小物やらなんやらを買い漁って、現実よりも女の子の部屋らしくなっている。

 

 コルクボードにはスクショから作られた写真が重なったりしながら沢山貼られている。

 フィーネとの2ショットが多い。

 

 スマホに入っていたメッセージを確認。

 今日は早稲田に集合で都電に乗ることになっている。

 フィーネのはしゃぎっぷりが今から予想出来て、ウキウキとしてくるエリリであった。

 

 

 

 




VRが一般化した世界で働く方はタケルの日常で書けたんで
学校の方をエリリを主体に書いてみました
エリリの現実描写を不快に思われる方が居たら申し訳ないですが
完全VR制の学校を書くためにこういう設定になっています
登校の頻度は様々になるでしょうが主流は併用制で
VRオンリーは特殊な事情を抱えた生徒向けになると思うのです
逆に現在大きな小児病棟を抱える病院にある院内学級、離島部などの子供が少ない地域の学校はVRに統合されていくことになるかと

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