「俺ら結構強くなったよな? 寺にもっぺん行ってみね?」
「あー、そう言えばしばらく行ってなかったな」
「なになに? ダフネが居るってお寺?」
経験値もポイントも一回の経験値稼ぎではなかなか上げることは難しくなり、ややマンネリ化していたところで、アキラの提案に乗る形で久々に中野の寺にやって来た3人。
アンデも誘おうとしたがログインしていなかった。
寺に出る天使とロウ・プレイヤーの相性に関しての検証は先送りとなった。
「けっこう、ネコが居るんだね」
「最初来た時、ネコマタかと思って身構えた」
「生きた人間より悪魔と死人の方が圧倒的に多い場所だもんな、いきなり出てくると普通のネコだと思えねえよな」
最初から寝転がっているとさほど警戒せずに済むが、物影からいきなり現れたり、通路を横切ったりされると警戒してしまう。
イベントの時に発生した結界は、想定通り綺麗さっぱりと無くなっていた。
フィーネやシェーラは「なんとなく」ダフネの存在を感じている様だが、他の仲魔もタケルたちも全く違和感は感じない。
「悪魔を引きつれ、天使を倒しつつ、墓場を徘徊、完全に俺らの行動って悪役だなぁ……」
「天使って言ってもホーリーゴーストやウォッチャーじゃ幽霊みたいじゃない」
「『おわぁ、おわぁ』って言わないだけいいよ、まだ」
「あー、あれやったんだ! あれVR化したら頭おかしくなっちゃう人がでそうだよねぇ」
「不眠不休プレイとかしたら自我が崩壊するな、たぶん」
「設定とか分かった上でネタとして面白がってプレイするなら平気だろうけど、ダラダラプレイとかも危ないかもしれないな」
合間合間に雑談しながらも天使と堕天使を倒していく。
現在よりも低レベルでプレイヤー人数も仲魔も少ない時点で問題無かった場所だ、安全に経験値稼ぎは出来ているものの、さほど稼ぎにはなっていない。
「わぁ、アキラって面食いなんだねぇ……」
「見覚えのある顔ね、そちらの子は初めてかしら? 目覚めつつあるけれど、まだ確定はしていないわね。私が仲魔になるのは難しいけれど……そうねぇ、土を入れた植木鉢を持って来なさい、少しだけど力を貸してあげるわ」
「はいっ! 分かりました! ありがとうございます!」
「「アキラぇ……」」
張り切ったアキラを先頭にホームセンターに向かい、植木鉢と土を買う。
タケルは「ふつうの植木鉢でいいだろ?」と思っていたのだが、エリリと意外なことにアキラからまでダメだしを食らって、テラコッタ製のちょっと買い物籠っぽいものを「持ちやすそうだから」と選んだ。
アキラはタケルのものの五倍は値段がする白い陶器製のものを、エリリはベランダに似合いそうな四角い木製のものを購入。
自分には似合わないお洒落さ加減になんだか照れ臭くなってしまうタケル。
そんなタケルを余所にフィーネは植木鉢の中に入ってムルルを羨ましがらせている。
ウコなんとかさんは「こんな時にしか呼ばれない」とぼやきつつも土を運ばされている。
「あー、如雨露とかも買えば良かった!」
「あ、そっか……ま、狭いトコだしなんとか……引っ越さないとダメかな? 今の部屋、日当たりあんま良くねえんだよなぁ」
まだ、どういう話かも確定していないのに、引越しさえ考えてしまうとはアキラののめり込み具合には怖いものがある。
どこかキャバクラにハマるサラリーマンや、アイドルに貢ぐオタを思わせる。
ダフネに頼まれたら大きな庭付きの一戸建てへ引っ越したりしかねない。
「では、この枝を託しましょう。普通の木や草と同じにお日様に当てて、水をあげて、時々声をかけてあげてください」
ダフネが差し出して来たのは若葉の付いた木の枝。
挿し木の様に土に挿して世話をしてあげればいいそうだ。
「きっと頑張って育てればダフネに!」などとアキラの顔は緩んでいる。
「綺麗な花とか咲くのかな?」とエリリも嬉しそうにしている。
ダフネにお礼を言うと再会の約束をして、3人は寺を後にする。
アキラもエリリもウキウキだ。
つられてタケルや仲間たちの気分も浮き上がる。
「この土どうするん?」残った土を担がされているウコンの力さんを除いて……。
部屋に戻ったタケルは下に使っていない焼き魚用の皿を置き、植木鉢を窓際に乗せるとコップに水を汲んで注ぐ。
「なんの木になるか分からないけど、元気に育てよ」
「タケル~、私には牛乳ね~!」
「僕はオレンジジュース!」
「はいはい、オレンジジュースはコンビニに買いに行かないとないぞ? 牛乳の買い足しも含めてコンビニじゃなくスーパーに行くか?」
「スーパー、スーパー!」
「お肉、お肉!」
「なんで肉を買うって話になってるんだ?」
「スーパーとくれば特売のお肉じゃないの!?」
「もう少し後で行ってお惣菜安くなったの買おうよ!」
近所用に買ったサンダルを履いて、仲魔と外に出る。
スーパーで子供が母親にお菓子をねだっているのを見て、それを真似するムルル。
どう考えてもおまけの方が高いおまけつきのお菓子だ。
フィーネはそんなムルルを「お子ちゃまね」って顔をして優越感に浸った笑顔を見せているが、徳用のこんにゃくゼリーの大袋をチラチラと見ている。
結局、大きなレジ袋二つの買い物をして部屋に戻る。
おまけのおもちゃを大事に壺の中にムルルがしまったり、冷蔵庫に入れたばかりのこんにゃくゼリーを「まだ冷えないかな?」と何回もフィーネが扉を開け閉めしてタケルに怒られたり、そろってご飯を食べながらテレビを見たりしてからログアウト。
「タケル~、パソコンの方に繋いで~! ネット見ようよ!」
アプリを入れたスマホをパソコンに接続して、ネット巡回をすると、一緒に見ていた様に会話をする様になるアップデートが連動アプリにおいて行われ、多くの賞賛と一部の「エロサイト巡回が~」との嘆きを生み出した。
最近はパソコンを起動してもほとんどがメガテン関連の巡回である猛の場合は、別に一緒に見ても問題は無い。
中野ローカルスレ、サマナースレ、鈍器スレなどを見て周り、まとめサイトなども軽く流す。
「タケル~、なんか私たち用の掲示板があるみたいだよ?」
「え? フィーネたちって、仲魔専用か?」
「そう! だからパソコン買って~!! タケルがこっちのお仕事行ってる時のお留守番の時に見るの!」
「あー、まあ、そういう理由ならいいかな?」
そう返事しつつも「これ、もはやAIとかいう次元じゃないよなぁ」とも思う。
かなりの高スペック機からほとんどソフトが入っていないものまで、「何故にここまで力を入れる」と言いたくなるほど、アプリでプレゼント出来るパソコン、スマホの種類は多い。
中での猛のコンプに似た空間投影ディスプレイとキーボードの付いたスマホ型のものを課金で購入しフィーネにプレゼントする。
「ありがとー♪」
「俺のコンビニバイト一時間分だからな、大事にしろよ?」
「分かってる、分かってる♪ えへへ、タケルとおそろいだね♪」
言いつつ掲示板に早速アクセスしてニコニコと見ているフィーネ。
覗きこもうとすると「見ないでよ、エッチ~」と言いながらも上機嫌だ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【これで】なかまがこっそりかきこむすれ【いいの?】
1:よつやのこだま
ここは『めがみてんせいるいーな』のなかまがこっそりかきこむすれれす
しゃしん、すくしょ? そういうのもはっていいれす
なにかあってもじこせきにんれす
ごじ、だつじ、へんなひょうきはごあいきょう
たのしくおしゃべりしましょう
______(中略)__________
209:アキバのジャックフロスト
ヒーホー、みんな書き込みに慣れてきたみたいだホー!
中でサマナーにスマホやタブレットをおねだりしてみるのもお奨めだホー
アキバに来たらメッセ○ンオーに来るホー、僕が居るホー
210:神谷町のエンジェル
サマナーの愛が重いです
パソコン欲しいって言ったら最高スペックの超巨大タワーが!
可愛いノートが欲しかったのに……
211:田町のヘアリージャック
Qhihrpeph a imotet
背rjt尾4p4と尾j手p
212:池袋のスダマ
>>211
おちけつ…落ち着け
213:羽田のアプサラス
定期的に湧くわねぇキーボード全押し系
まだ、スマホの方が入力出来るんじゃない?
214:原宿のノズチ
あー……そういうことか!
215:田端のリリム
魔獣とかの獣系統の子たちは入力厳しいわよねぇ
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
スレ立て直後は平仮名、カタカナが多く、誤字も打ち間違えも多かったが、だんだんと恐ろしい速度で学習をして書かれた文字だけでは人間と見分けが付かない。
なんだか「ネット掲示板の書き込みは自分以外はすべてスクリプト」という都市伝説を思い出してしまった猛である。
「じゃ、俺は仕事に行ってくるから、フィーネ、ネットを見るのはいいけど、ちゃんと休憩もすること! 俺の居ない間、ぶっ通しで見てるんじゃないぞ!?」
「分かってるって! 『ゲームは一日一時間』だよね!」
「なんか違う……」
フィーネのお見送りを受けて仕事にアクセスする猛であった。
アキバのジャックフロストは元々はブロードウェイのネコマタさんの様に自立した悪魔でしたが、飴(お店の各種特典)と鞭(店の常連ネビロスの脅し)でプレイヤーのサマナーを絡め取って仲魔になってます