虚・女神転生   作:春猫

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仕事の文章と傾向が全く違うので忙しくなると切り替えが(と、本人は意味不明の言い訳を主張しており……)
間が開いてしまい申し訳ありませんでした


GEBURAH

「うわ、本当に走ってるんだな、幽霊列車」

「真っ黒だね」

「午前4時44分に原宿駅から乗れるって噂は山手線バージョン?」

「お召し列車のホーム?」

 

 最近では昼夜逆転したサンプラザでの経験値稼ぎ。

 遠征だと昼間でも強い悪魔が出る場所はあるが、タケルたちのホームである中野の場合、昼間は完全に初心者向けでそれなりにレベルアップしたタケルたちにとってはドロップアイテム稼ぎくらいの意味しか昼間の悪魔には無くなっているのだ。

 今日も夕食後の待ち合わせで現在、2時過ぎといったところ。

 ゲームの性質上、深夜だろうが真昼間だろうが(プレイヤーからはともかく)他者から何か言われたりすることは無いが、現実に近い街並みの『女神転生Ruina』の場合、ふと我に返って「うわぁ、こんな深夜に徘徊とか学生時代にもしたことないぞ?」などと思ったりもするタケルである。

 

 

 サンプラザ近くでアキラと別れて、エリリと仲魔たちとお喋りしながらの帰宅の道筋から、チラッと見た線路上を真っ黒な電車が通り過ぎて行く。

 車体だけでなく窓まで黒いのに、今の様にチラ見でも何故かそこが窓だと分かる不思議仕様である。

 普段見かける黄色い総武線やオレンジの中央線とは全く異なる。

 

 中央線バージョンだと終電だと新宿で慌てて乗った酔客が気付けば周囲が悪魔だらけに、という形になるらしい。

 乗ってしまうまでは普通の電車と変わらないという話なので、あの中には誰かが乗っているのかもしれない。

 

 この幽霊列車、噂悪魔というか、噂イベントで、掲示板での噂が先行し、実態が後から発生したものだ。

 

 列車内限定の称号付き悪魔も出るという話で、検証スレも虚実入り乱れて盛り上がっている。

 

「幽霊列車専用称号って『鉄道マニアな』『影の薄い』『没個性な』の3つが確認済みなんだよな」

「身近な称号持ちってフィーネちゃんしかいないけど、称号付いてるとやっぱ違うの?」

「称号付く前からこんな感じだからなぁ……フィーネはなんか実感ある?」

「元々がハイパーな私だから、やっと称号が追い付いたって感じだね!」

「検証スレだと性格や一緒にした行動、経験なんかで後天的に付く称号もあるって話。フィーネも一歩間違えたら『食いしん坊な』って称号になってたかもな?」

「え~ん、エリリ~タケルがいじめるよ~!」

「よしよし(なでなで)」

 フィーネの頭を撫でながらも「ちょっとぷくぷくなフィーネとかも可愛いかも?」などと思っているエリリ。

 焼き餅を焼いたのか、シェーラはエリリの頬に貼りついて顔全体で頬ずりをしている。

 ふよふよと浮いているムルルは、ちょっと先に進んでは様子を見て立ち止まったり、急いで戻ってきたりと親とお出かけした幼児と同じ様な行動を取っている。

 どこか犬っぽかった以前のムルルを思い起こさせるところもある。

 

 エリリを自宅そばまで送っていったタケルは、フィーネたちのおねだりに負けてコンビニへと向かう。

 マンションから一番近いコンビニではなく、最近、ムルルがハマっているおもちゃ付きのお菓子のラインナップが充実した商店街の中のコンビニだ。

 雑誌の立ち読みをしている後続組のプレイヤーの姿に「中でも外と同じ様な行動取っちゃうもんだよな」などと思う。

 

 コンビニからマンションに戻り、フィーネたちとお喋りしたり、キャロにミネラルウォーターをあげたり、ムルル自慢のおもちゃコレクションを見て感想を言ったりしてからログアウト。

 スマホはキャロの番だが、キャロの場合、色々と見ているだけでも楽しいらしく、フィーネやムルルほど話しかけては来ない。

 欲しがるものもあまり無いので、たまに何かねだられると猛が張り切ってしまうくらいだ。

 

 そのままスマホをポケットに入れて、現実の方のコンビニに買い物に行くとついミネラルウォーターを買ってしまう。

 フィーネの時はデザート、ムルルの時はおもちゃ付きのお菓子と、ついついアプリの方に来ている仲魔の物をVR内と同じ調子で買ってしまう猛である。

「好みが極端な仲魔がいなくて良かった」と思う。

 おもちゃが貯まってしまうのはちょっと問題だが、他の物は自分でも普通に消費出来るものだ。

 

 ひと眠りしてから仕事へ。

 

 スマホを日当たりのいい窓際に置く。

 キャロが中に居る場合、日の当たる場所を好むからだ。

 お昼寝をしたり、窓の外の景色を眺めたりして、猛が仕事から戻ると「今日は電線のトコでカラスがお喋りしてたんだよ!」とか「今日は雨で残念だったけど、雨音聞いている内に眠くなっちゃってそのままお昼寝しちゃった」とか報告してくる。

 

 すっかり気分は子供の一日の報告を聞くパパさんである。

 良くそんなに話すことがあるなと感心するほど、キャロの報告はけっこう長く、猛が夕食を取っている間ずっと話し続けている。

 

 

 歯を磨いて、シャワーを浴びてログイン。

 飛びついて来るフィーネと、おもちゃ片手に「おかえり~」と言ってくるムルルに挨拶をし、キャロの植木鉢にミネラルウォーターをあげる。

 

 エリリからメッセージで、今日は学校のお友達と中で会うので経験値稼ぎはパス1とのこと。

 アキラは会社の研修で今日はログイン出来ないと昨日の別れ際にげんなりとしていた。

 久々と言っていいタケル一人だけの日である。

 

 

「商店街のあの喫茶店にでも行こうか? で、その後、ダフネのトコにキャロの顔を見せに行こうか」

「アキラが焼き餅焼くんじゃないの? 喫茶店行きは賛成~♪」

「僕はタケルの飲んでるコーヒー飲んでみたいけど、苦い、んだよね?」

「砂糖とかミルクとか入れればそれほどじゃないけどな。この間コーラフロートだったからコーヒーフロートにしたらどうかな?」

「パパ、私ケーキ食べたい!」

「飲み物は何にする? 紅茶にしても色々あるみたいだぞ?」

 喫茶店経由でダフネの居る寺に行き、墓地で経験値稼ぎをしてダフネに無事に成長しているキャロの顔見せをしようとのタケルの提案に口々に賛意を示す仲魔たち。

 尤も喫茶店行きを喜んでいるだけとも言える。

 

 部屋を出ると目の前にぼーっと立っている長い髪で顔を隠した女性。

 

「うわぁ!」

「きゃっ! ……隣に越してきたサダロと言います。今、ノックしようとしてて驚いちゃってすみません」

「こちらこそ、変な声出しちゃってすみませんでした」

「まだ始めたばかりで色々と分からないことが多いのでよろしくお願いします」

「こちらこそ……まだ、固定で一緒に経験値稼ぎをする人間が居ないなら、中野の場合、ブロードウェイに人が集まるんで、そこで探すか、内部の掲示板とかを利用するといいですよ」

「はい、後程行ってみるつもりです」

「そうですか、あ、自己紹介まだでしたね。タケルと言います。サマナーやってて、こっちが仲魔のフィーネとムルルとキャロです」

「フィーネだよ!」

「ムルルだよ!」

「キャロだよ♪」

 髪で表情が良く分からないがサダロは微笑んでいるらしい。

 

 サダロが部屋に戻るのを見送り、階段を下って外に出る。

 フィーネがタケルの頭をポコポコと叩く。

「ぶぅ、綺麗な人だからってデレデレして!」

「え? いや、まるで貞○みたいでビビってただけだぞ? あの髪で顔なんか分からないだろ!?」

「綺麗なお姉さんだったね」

「いや、ムルルも顔が分かったの? でも別に美人だからとかあんまり関係ないだろ、この中じゃ? 悪魔でも美人はいっぱい居るし、それでも敵で出てくれば倒すし……」

「この間のボディコニアンだっけ? あの悪魔よりさっきのお姉さんの方が美人だったよ、パパ」

「外見にビビってたの俺だけ? 正直、悪魔見た時よりビビってたんだけど?」

 ドアを開けた瞬間のインパクトでまともな会話を行いつつも内心ビビりまくりだったタケルは、仲魔たちの言葉にガックリくる。

 そんなに軟派に見られているんだろうか、と。

 

「それにしても自分以外であそこに住んでる人間初めて見たな」

「エリリのトコは新しい人が一杯だって!」

「ああ、あそこは女の子の人気がありそうだよな。エリリが一目ぼれしたくらいだし」

「掲示板にも新人さんの挨拶の書き込みがいっぱいあったよ!」

 喫茶店でコンビニとは一味違うデザートを楽しみつつ会話。

 中から見る商店街の通りにもたまにプレイヤーが通り過ぎ、自分が始めたころに比べると人が増えたと感慨深いタケルである。

 

 まったりと過ごした後、ダフネの寺へ行くとプレイヤーの列が出来ている。

「これ、俺も並ばないとダメなのかな?」

「ダフネの結界だから平気じゃない? 既にキャロが居るんだし」

 プレイヤーを横目に寺の入り口に進むとあっさりと中に入れる。

 

 プレイヤーから文句が出るかと思ったが、キャロが降る手にデレデレとしているプレイヤーたちからは苦情の声は出なかった。

 

 内心、大きくため息をつくタケルであった。

 

 

 




エリリが会っているのはくまちゃんです

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