虚・女神転生   作:春猫

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なかなか執筆時間が……(VRの時間圧縮とか欲しいですねぇ)


CHESED

 

『料理居酒屋・爾簾勒』

 築地に出来た行列の出来る人気店である。

 料理人は店名にも名を出している堕天使ニスロク。

 旬の魚をメインとした和風の料理が多いが、和洋中にエスニック、悪魔ならではの食材、調味料などを使ったものなど実に幅広い。

 プレイヤーだけでなくNPCの常連も多く、立場上「マズいんじゃね、アンタが来ちゃ?」という様なメシアンの大物すら訪れると言われている。

 タケルたちは当然の様にこの行列に並んでいる。

 

 本来は「勝鬨橋が開く時」というイベントへの参加が主目的なのだが、魚市場の見学やら食べ歩きやらの方に注目が集まっていることもあり、中でもメガテンならではのこの店はイベント参加者で通常より更に賑わっている。

 

 大規模な全体イベントの第二回はいまだに行われていないが、東京各地でご当地イベントが行われる様になり、タケルの車もフル稼働で「ガソリン代がかからない仕様で良かった」とタケルはかなりほっとしている。

 

 タケルの車の就寝スペースは仲魔たちが思い思いに持ち込んだ物だけでなく、それを更に加工したりしてもはや人間の立ち入るスペースが存在していない。

 携帯DVDプレイヤーやゲーム機まで置かれて、クッションや棚もそれぞれのテリトリーが決まっているなど、くつろぎの空間となっているのだ。

 

 

「さすが地獄の料理番、なんか最近、中で舌が肥えたせいで現実のコンビニ飯が味気なくてなぁ……」

「これ海ブドウだよね、プチプチしておいしい♪」

「海草麺とかも使ってるんだな、この食感好きなんだよな、俺」

「おさしみおいしーい!」

 仲魔連れの客も多く、フィーネの食べている刺身はフィーネたちでも食べ易い大きさに切り分けられている。

 サイズの違いはあっても変に千切れたりせずに、刺身として美しく盛られているのは凄いとしか言い様が無い。

 

 料理人がニスロクと言うのは聞いていたが、高位分霊に低位分霊と総ての料理人がニスロクだとは思っていなかったタケルは、調理場にズラッと並んだ同じ顔に少し引きつったりもした。

 

 お腹も舌も満足して店を出る。

 

 

「来てる客も凄いなぁ……奥に居たガタイのいいおっさん、自衛隊の幕僚長だぜ?」

「メシアの大主教も来てるって話だし、クズノハもファントムも中では一時休戦だってさ」

「ある意味日本らしい話だよね、おいしいもの食べる場所に余計な物を持ち込むのは厳禁って」

「悪魔もそうだよ! おいしいものにロウもニュートラルもカオスも無いよね!」

「デザートもおいしかった♪ でも途中で出てきたウニ? あれもちょっとデザートっぽかった。タケルがお醤油とワサビ付けちゃうから驚いたけど、そういう食べ方もおいしかったね」

 

 

 勝鬨橋に近付くと橋が半開き状態になっている。

 川の上流に取り残されたネッシーの子供を橋を上げることで海へと逃がすというイベントだが、子供を狙う悪魔やメシア、ガイアなどの妨害もあるというもの。

 悪魔(メシアン、ガイアーズを含む)の排除カウントで開き具合が変化するというある程度長いスパンのイベントな為、ログイン中ずっと橋の周りで戦っている現地組、遠征組の他にタケルたちの様なスポット参戦組も存在する。

 

 騒動に巻き込まれてワタワタしている水棲悪魔も発生し、そうした悪魔を仲魔にするチャンスでもあるらしい。

 ケルピー、アズミ、スイコなど、仲魔にしたばかりの悪魔を使役しているサマナーの姿も多い。

 

 アキラのところのオカンも「オバちゃんにまかしとき!」と張り切っている。

 

「フィクションでは時々、開いたりすんけど、現実じゃ開いてないんだよな、この橋」

「なんか、現時点で既にネッシーの子供通れる気がするんだけど?」

「まあ、それを言っちゃおしまいってことで、ある程度周期的に悪魔が湧くらしいから経験値稼ぎで狩りに参加しよっか」

「タケル~次はあの子仲魔にしようよ!」

「あの子ってネッシーかよ? レベル的には可能かもだけど、流石に普段外に出したり出来ないぞ?」

「じゃ、ドラゴン!」

「ドラゴンって、竜王とか邪竜か? メガテンの場合、あんまドラゴンっぽいドラゴンっていないんだよな」

「東洋系の竜の方が多いよね、形状として蛇っぽいやつ」

「乗り物扱いで堕天使のおまけだったりすることも」

「なんてお喋りしてる内に……来たな。昼だから悪霊系とかは無いか、ハマ系効き易い相手はいないみたいだな」

「水には電気! マハジオいくよ~♪」

「まだ距離あんな、銃撃いっとくか、弾は通常弾でいいだろ」

 

 隅田川から這い上がってくる悪魔も居るが主体は水中、という訳で遠隔攻撃がメインとなる。

 そうなると一気に弱体化するのがタケルである。

 仲魔が頑張っているんだからサマナーとしてはそれでいいじゃないか、というのが普通なのだが「仲魔を守る」という意識の強いタケルの場合、こういう時は少しいたたまれない気持ちに襲われるのだ。

 ポールウェポンの様な、それこそ丸太でも持っていれば川岸からでも悪魔に攻撃出来るのだが、銀の燭台ではリーチ的には警棒などとさして変わらない。

 作業的に近寄ってくるスイコを蹴散らしながら不満そうなタケル。

 後発組らしいプレイヤーが「え? バスターじゃないの、あの人?」と目を丸くしているのにも気付いていない。

 

 

「メイン丸太来た! これで勝つる!」

「おお、兄貴が来た!」

 周囲から起こった歓声に視線を動かす。

 

 川から顔を出したケルピーの顔面に丸太が叩き付けられる。

 首が吹っ飛んだんではと思う様な一撃だ。

 

 掲示板の有名人、丸太装備のレインコート姿の男が「それで悪魔人じゃないって詐欺でしょ?」と言いたくなる活躍を見せている。

 振り回し、叩き付け、かと思えばそれで悪魔からの攻撃を防いだりもしている。

「どこの電柱盗んできた」と聞きたくなるサイズの丸太を、棒術の捧の様に振り回し、時には片手で突いたりすらしているのだ。

 一度見たら忘れらない光景である。

 

 

「実物は凄えな! フォロワーも出てるんだろ?」

「丸太軍団がゾンビ系出るマップで頭叩き潰して回ってるらしい」

「バンパイアだってあの姿見たら逃げるんじゃない? 正直、イベント悪魔より怖いよ?」

「カッコイイ! 僕も丸太使ってみたい!」

 ムルルは自前の花瓶を振り回しながら目を輝かせている。

 ムルルの様子に苦笑して少し肩の力が抜けたタケル。

 川からの悪魔の襲来も少し減ってきた。

 

 

「メシアンもガイアーズも見た目じゃプレイヤーと区別つかねえって!」

「殴りかかってきたら敵ってことで! アナライズしてる暇無いよね、これ!」

「コンプに収納出来ちゃうんだから人間じゃない! 遠慮せずに経験値にするしかねえだろ!」

 川からの悪魔の襲撃と時間差でメシアンとガイアーズが押し寄せてくる。

 中にはプレイヤーに関係無く、ガイアーズに攻撃するメシアンや、メシアンを川に放り込むガイアーズなども居て、対悪魔よりカオスな展開となっている。

 マーカー表示以外で区別のつかない「人間」相手の戦闘にとまどっているプレイヤーも多い。

 

「それでも一番目立ってるのは『兄貴』だけどな!」

「なんかあの人一人で十分なんじゃないかな?」

「タケル、タケル! 丸太って木だよね? なんで鉄より強そうなの?」

「パパ、あの人の丸太、既にただの木じゃなくなってるよ! このまま行くと小烏丸とか大典太とか童子切みたいになるみたい」

「葬らんじゃなく、浄害葬らんだね!」

 悪魔からすればプレイヤーでもメシアンでもガイアーズでも関係ないのか、川に叩き込まれたNPCたちが悪魔に水中に引きずり込まれたりもしている。

 

 ガイアーズやメシアンも姿を消すとアナウンスが流れる。

 経験値や魔貨、マグネタイトとアイテムがまとめて入ってくる。

 時間当たりで言えば普段の経験値稼ぎの10倍以上のペースであるが、倒した数で言えばほぼ順当(多少イベント加算)なものだ。

 

 

「ふぅ~、お疲れ~」

 アキラとエリリ、それに周囲に居る初対面のプレイヤーたちとも声をかけあうタケル。

 その内の何人かとはフレの交換も済ませる。

 さり気にガードはしているが、エリリに軟派目的で近寄ってきている者も居ない。

 

 人が一番集まっている場所では、どうやら兄貴が取り囲まれているらしい。「兄貴」コールが起こるなど凄い人気だ。

 

「見た目だけじゃないからね」

「一度は実際に目にするべきだな、あれは」

「掲示板で読んだ印象と全然違うね、流石に女の子にフォロワーは難しいと思うけど、周りの人も普段以上に体が動いてたんじゃない?」

「ああ、なんか力が湧くっていうか『俺も!』って気になるな」

 

 会話をしながら築地の場外へ。

 麩饅頭、醤油団子、小豆の入ったチーズケーキなど甘い物を中心に持ち帰りの品物を買うが、買う側からピクシーたちやドリアードたちにねだられて包みを開く羽目になっている。

 卵焼きや練り物など食べる物も買う。

 

「みんなでお鍋っていうのもいいよね」

「「「「ゴチになりまーす」」」」

 タケルもアキラも仲魔たちも料理は作れない。

 唯一のスキル保持者であるエリリに頭を下げる一同であった。

 

 




上には上ということで強くなったタケルたちより更に強い「兄貴」です

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