商店街の道を歩くタケル。
近所のおばさんや子どもを乗せたママチャリで道を行く若いお母さんなどが居て、現実感は高いため「コミュ障や対人恐怖の奴はツラそうだなぁ」などと思う。
買い物客や食事をとり終えて蕎麦屋から出てくるサラリーマンなど、ひと昔前のリアルがそのまま再現されている。
特に特殊なゴーグルやメガネをかけている訳ではないが、タケルの見る風景は、拡張現実的に時々、アイコンが表示されている。
それぞれの町にあるメガテンならではの裏のお店のマークだ。
「高槻マンドリン教室」八百屋の二階にある音楽教室、天本英世にメガネをかけさせた様なぴっちりとしたスリーピースを着たおっさんが経営するその教室の裏の顔はアイテムショップ。
「肉のミカミ」コロッケがおいしそうで思わず買ってしまったが、恰幅のいいプロレスラーっぽいおっちゃんの裏の顔は武器屋。
「メンズファッション浅木」思わず「誰が着るんだよ、こんなの?」と思ってしまう様な柄のシャツやカーディガンなどが並ぶ、「子ども時代のあだ名はバカボンだったんだろうなぁ」って外見の服屋のおっさんの裏の顔は防具屋。
立ち飲み屋の奥に生体エナジー協会があったり、「おたふく教」という新興宗教(オールド特撮マニアが開発スタッフに居るのだろうか?)の会館が邪教の館だったりと普通の町の中にある普通の建物がお馴染みのメガテン系ショップなのだ。
「はあ、なんか凄いな。でもちょっとワクワクするな、こういう一般人の知らない裏が分かった存在として、一見、普通の日常に見える場所にいるってのも……」
タケルも本当はどこか適当なところに入ってみようかとも思っていたのだが、「私にもコロッケ食わせろ~!」とフィーネが五月蠅いのでコンビニに寄って約束のプリンとアイス、そして自分の分の飲み物や食べ物を買うと部屋に戻った。
「コロッケ~♪ そしてデザートにプリン! デザートのデザートにアイス♪」
「アイスは取り敢えず冷凍庫入れとくから食う時言えよ!」
「らじゃー! うふふふ、まだ、カリカリのアツアツ♪」
幸せそうなフィーネを見つつ、「そう言えばテレビって映るの?」と電源を入れて、タケルは映し出されたニュースを見て口に含んだ茶を吹いた。
「もー、何吹いてるのよー! せっかくのコロッケ↑↑テンションが台無しじゃない! 次に外に出かけた時にやり直し用のコロッケを要求する!」などとフィーネが叫んでいるがタケルはそれを制してテレビの音量を上げる。
「五島陸佐を隊長とするPKF部隊が今日、日本を離れ、パレスチナに向かいました……」
「ふんどし」こと「あの」五島「陸将」、この世界ではPKF部隊を率いてパレスチナに向かったらしい。
ICBMフラグが折れていることに安堵はするものの、こんな感じで原典キャラが出てくるとは思ってもみなかったタケル。いや、もしかすると「エルサレムでハルマゲドン」フラグかもしれない。
「案外、アキバとか行くと中島とすれ違うかもな?」
その辺の高校とかにペルソナ系のキャラも居るかもしれない。
狭間もどこかで“OTZ”とハザマってる可能性がある。
てっきりそうしたキャラはイベントNPCだと思っていたタケルは不意をつかれた形になって茶を吹いてしまったのだ。
『♪~♪~』
「え? コンプに電話ってかかるの?」と偽装のはずのスマホを手にするタケル。
「よう! 数時間ぶり!」
「えっと、アキラ?」
「なんか怪訝そうだな?」
「偽装スマホのはずのコンプに電話がかかってきて……」
「あー、サマナーの場合はそうなんだ。こっちは本物のポケットに入ってたスマホなんだけどな」
「フレへの通信ってこうなるんだ」
「通信魔法とか念話とか無いからなぁメガテンの場合。サマナーと異能者とペルソナ使いとバスター、それぞれ同士で通信とかなるとスマホになるんじゃないか? まあ、それはいいや。もう戦闘はしたか?」
「いや、まだ。仲魔は出来たけど」
「おー! やっぱ地霊か妖精?」
「妖精、王道のピクシー」
「ほお、案外、開始すぐには仲魔に出来ないらしいのに運がいいな!」
「運にはフってるからねぇ、極フリじゃないけど」
「まあ、仲魔も居るならなおいいな。これから戦闘をちょっとしようかと思ってるんだけど付き合わないか?」
アキラの誘いに了承の意を伝え、フィーネに声をかけるタケル。
フィーネは足でテレビのリモコンを押して、チャンネルを変えつつプリンを食べている。
「えー! まだアイスを食べてないのに!?」
「後でゆっくり食べるか、今、急いで食べるか、どっちがいい?」
「うー! アイスは堪能しながらじっくりと食べたい! でも、今すぐ食べたい! ぶぅ、タケル酷い!」
「とは言ってもなぁ。最初の戦闘くらい、余裕を持ってしたかったトコだし、初心者同士とはいえ俺とフィーネだけよりは安心だろ?」
しぶしぶコンプに入ったフィーネをなだめつつ、タケルは部屋を後にする。
「修学旅行の土産かよ~!?」
「二時間ドラマの犯人かよ!!」
顔を合わせるなりお互いの「獲物」を見ておちょくり合う。
タケルの武器は「ブロンズの花瓶」、アキラの武器は「日光東照宮の木刀」である。
こんなものを持ち歩いても警察は何も言わないし、周りも奇異なものを見る目で見ない。
流石にアキラは悪魔人丸出しではなく、人間フォームであるが……。
レベルの低いうちは「人間要素が多いから」という設定で人間フォームが取れるが、レベルが高くなると偽装手段が必要になるのが悪魔人である。
人間形態とは言え、現実なら警官には見とがめられる状態、現実舞台のVRMMOならではのシュールさである。
それでも彼らの装備はまだ、言い訳がきく範囲だが、銃や日本刀が当たり前なのがメガテンである。
「見とがめられて連行され、警察署が実は…」なんてイベントもあり得る。下手に咎められないのに慣れてしまうのも良くないだろうな、などとアキラはともかくタケルは考えたりもしている。
悪魔にしても同じプレイヤーかイベントNPCしか見えない設定だ。
だから、本当のところ、タケルはピクシーを出しっぱなしのまま、買い物とかしても平気なのだ。
それでも様式美に従って普段はコンプに入れているのはメガテン好きならではだろう。
決してあれこれねだられたり、あれは何、これは何と聞かれるのを防ぐためではない。
「じゃじゃ~ん! 最強ピクシー、フィーネ参上!」
「おー!!! ピクシーだ、ピクシーだ! メガテンって感じしてきたなぁ!」
「出会いはお間抜けだったけどな」
「あー! あー! 言っちゃダメだからね、タケル!!」
「はぁ……こういうやり取り見るとサマナー羨ましくなるな……ラブラブじゃん」
じゃれ合うフィーネとタケル、半ば本心で落ち込むアキラ。
「にしても、悪魔すげぇな、これ、ホントにAI?」
「中の人が居るとかすら考えないくらい自然で、全然、その辺意識しないレベル……ってか、悪魔との交渉が微妙に憂鬱。コミュ障の奴とか、サマナーやるのキツいんじゃない?」
よく分かってないのに褒められてる気配に得意そうに胸を張るフィーネ。
「あー、ボッチ系ゲーマー厳しそう。ってか、4分の1でも東京広過ぎ! タケル以外プレイヤー見てないぞ」
「あー、ショップとか一応チラ見してみたけど、居なそうだったしなぁ」
「その辺は外の掲示板かDDSとかのコンプ通信頼りなのかね?」
「アキラのスマホも悪魔入れられないだけでコンプに近いんじゃないの、実は?」
「あー、かもね? 劣化コンプ?」
「アプリとか実は入ってるんじゃないの、Mr.サプライズとかバスターとかの戦闘特化でも有用だし」
「どれどれ…なんでレディキラーが入ってんだよ!」
「女悪魔と合体すれ! ってことじゃない?」
「TSはノーサンキュー」
「タケル! 戦いに行くんでしょ?」
「あ、悪い、フィーネ」
ついつい話し込んでしまい、フィーネに耳を引っ張られるタケル。
一緒に遊んでた友達に、友達の彼女が合流した時の様な居心地の悪さを感じているアキラ。
「取り敢えず昼間の異界の浅いトコなら、そんなに危険じゃないらしい」
「この辺の異界って?」
「サンプラザ」
「あそこが異界になってるんだ」
「昼は一部だけらしいけど、夜中はホテル部分の廊下すら、だってさ」
「アキラはタケルとは違って、なんか私たちっぽい感じ?」
「やっぱ、悪魔だとその辺分かるんだ?」
「最強のピクシーだからね、私は! 他の子は私が言うのもなんだけど、ちょっと頭の軽い子も居るし」
「「……(あんま、変わらないんじゃ?)」」
にぎやかに会話しつつ町を進むタケル達。
そしてサンプラザ前に。
「中とかけっこう広そうじゃない?」
「あー…エレベーターでって具体的にドコら辺が異界の範囲か分かってないんだよなぁ…」
「階段使うしかないわけか……」
戦闘前から微妙に疲れた空気を纏う二人と、怪訝そうにタケルの頭の周りを飛ぶフィーネであった。
なんか、会話だらけに(;´Д`)
読みにくかったらごめんなさい