虚・女神転生   作:春猫

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なんとか年内に書けました……
あと一本、なんとか年内に書きたいです


DAATH

「今年のクリスマスは終了しました!」

「なにが聖夜だ! ☆矢の方がいいぞ! オールナイト上映マラソンでもやるか?」

「リア充共め~、雪の代わりに地獄の劫火を降らせてやる!」

 

 野郎どもの雄叫びも空しくクリスマスイベントは続く。

 えっち系の機能は無いとは言え、デートは出来るのでプレイヤー同士、あるいはプレイヤーと仲魔といったカップルの姿も目立ち、クリスマスムードを満喫するその姿は、一層、嫉妬に駆られた男たちを煽ることになっている。

 

 一方でメインの雪だるまだけでなく、かつての全体イベントのラスボス、東京タワーを巨大なツリーに見立て、階段で展望台まで道中悪魔を倒しつつ進み、願い事を書いた短冊を吊るしてくるという、何かが激しく間違っているイベントも運営サイドで行われていたりもする。

 

 

 

「本日は、はるバス東京ダンジョンめぐりツアーにご参加いただきまして真に有難うございます。本日、皆様のご案内をさせていただきます、私ガイドの武内と申します…………」

 そんな中、タケルたちは何をしているかというと都内のバスツアーに参加、リムジンバスのシートに座っている。

 

 クリスマスイベントの雪だるま集め、キャロの欲しがっていたお菓子の長靴は割とあっさりと手に入ってしまったため、フィーネとお揃いになるドレスも追加でプレゼントしようか、などと考えているタケルだが、中野の普段の行動範囲はあらかた捜索しつくしてしまっている。

 新井薬師や高田馬場など別の駅に近いところまで歩いて捜索するのは中々に骨が折れる。

 

「いっそのこと車で気分転換に遠征に出かけるのもいいか?」などとも思っていった所にたまたま気が向いて覗いたポストにチラシ広告が入っていたのだ。

 

 チラシを見つつフィーネたちの質問に答えていたタケルだが、ムルルやキャロの相手をしている内に、タケルのスマホを勝手に使ってアキラやエリリにフィーネが電話をかけてしまい、その後もコンビニに出かける際にマンション入り口ですれ違ったサダロにも誘いをかけるなどのフィーネ無双で、タケルの意思が全く介在しない内にバスツアーへの参加が決まってしまったのだ。

 

 普段なかなか利用する機会の無いバスツアー、しかも地元民ほど利用しない都内観光バス。ダンジョン四箇所巡って、昼食に江戸前の寿司と天ぷらまで付いて料金は樋口さん一枚でお釣りが来る値段。

 クリスマスとは全く縁の無い内容にも関わらず、クリスマス特別価格と大々的に謳っているだけはある、タケルが頭の中で計算しても「これじゃどう見ても赤字、良くて収支トントンじゃない?」の安さである。

 

 既に「行ってもいいかな?」という気分になっていたタケルではあったものの、自分自身が話を進めるより遥かにスムーズで手際の良いフィーネのコミュ力には舌を巻くばかりである。

 

 結局、サダロの弟ウシロ、そしてエリリの友達クママも参加、プレイヤー六人、仲魔も入れれば二桁の大集団と化した。

 他のツアー参加者もダンジョンめぐりと銘打った異界めぐりのため、普段一緒にパーティーなどを組んでいる者同士の参加ばかりのようだ。

 

「お友達のくまちゃんです!」

「クママです、よろしくお願いします」

「「「「よろしく(ね)」」」」

 

「確かにクマだ~」

「凄いね、その外見あったんだ!」

 アキラとウシロが感心する様に、エリリの友達のクママはクマの外見をしている……ペルソナ4のクマの外見を。

 

 たぶん大丈夫だろうと思いつつもネガティブな反応が無かったことにほっとするエリリ。

 クママのリアル事情を説明しておこうかとも思いつつも、勝手に人に話してしまうのもと躊躇して中々クママをタケルたちに紹介出来なかったエリリは、普段とはまた違ったシチュエーションになる今回をいい機会と捉えてクママを誘った。

 

 ただ、悪意が無いどころか善意の言葉や反応でも、人の心は傷つくというのを自分の経験として知っているエリリとしては、タケルたちの人柄は信頼はしていても心配であったのだ。

 

「わーい、クマさんだー♪」

「気に入った! 何かあったら、このハイパーなピクシーである私に言いなさい! 力になってあげるわ!」

「すごいねぇ、クマだねー」

 タケルの仲魔たちにもすっかり気に入られてしまったクママ。

 エリリの仲魔とは既に顔馴染みであるため、シェーラなどはクママの頭にへばりついていて、「あんたはウチの子でしょうが!」とエリリは内心思ったりしている。

 

 

「一箇所目は、ここ有明水再生センターになります。隣接する一部下水網がダンジョン化しております。汚水ではなく雨水管ですのでご心配される様な悪臭などはございませんのでご安心ください……」

 

「なんかSFしてる建物だねぇ……」

「一度見たら忘れない外観だな」

「こっちから見るとキノコみたい」

「こっちの建物は東京都のマークのイチョウなんだね」

 ダンジョン入り口まで旗を持ったガイドさんの後をゾロゾロとついて歩くという中々に奇妙な光景。

 武器やら仲魔やらの凶悪さと、どこまでも普通の観光ガイドのスタンスのガイドさんの温度差がシュールだ。

 

「こちらから先、異界化しております。二時間後までにこちらにお戻りください……」

 

「ちょっとだけタケルの長靴が羨ましい」

「足元滑るから注意してね、姉ちゃんは何も無いトコでも転べるんだから」

「意外と天井が高いんだねー」

「あっちの人たちって攻略組なのかな、装備気合入ってるよね」

「げっ、米軍仕様のボディーアーマーじゃん」

「ちょっと怖い……」

「大丈夫、最強のピクシーの私が守ってあげるから!」

 普段の経験値稼ぎより遥かに大所帯であるだけでなく、ツアーの関係上、異界の浅いところにしか行けないため出てくる悪魔はさほど強く無い。

 なにせムルルの花瓶の一撃で沈んでしまう者さえいるのだ。

 タケルの燭台では完全にオーバーキルである。

 タケルの鈍器攻撃を始めて目にしたサダロやクママはちょっとひいている。

 見慣れているアキラやエリリでも苦笑いするしかない。

 

 

 

「今回のダンジョンめぐりはお試しって感じかな?」

「まあ、深いトコ行けないし、時間も決まってるしね」

「次は神宮外苑で、日本橋に行って昼食で、午後は東京駅に行ってから最終地が都庁だって」

「そう言えば、この辺雪だるまあった?」

「あ、全然気にしてなかった、そういやイベントまだ終わってなかったっけ……」

「バスに乗ってる時だと意味ないなぁ、どんどん見つけた雪だるまが遠ざかってく(笑)」

 車中ではお菓子などを食べながら会話が弾む。

 水再生センターでのドロップアイテムで雪だるまをゲットした者は居なかったようだ。

 クリスマス仕様のモンスターも出現しなかったし、場所によってはクリスマスのバッチが適用されていないのかもしれない。

 

 

 

「この床って草なの?」

「知ってるよ、これが畳なんだよね!」

 

「そう言えば仲魔たちが畳を見るのは初めてだったか」とタケルは日本料理屋の座敷で食後のお茶を飲みながら考える。

 タケルの部屋はフローリングのカーペット。

 畳のあるお店に入ったのも今回が初めてである。

 特にドリアード三人娘は匂いと感触がすっかり気に入ってしまったようで、ゴロゴロと転がっている。

 

 ツアーの昼食は仲魔たちの分までしっかりと料理が出て来たので実に賑やかな食事となった。

 寿司に刺身に天ぷらと来日した外国の人でも満足のメニュー、仲魔たちも普段とは異なった料理に興味津々で色々と周囲に聞きながら堪能し、大喜びであった。

「これから、もしかするとたまにおねだりされるかも?」などとタケルは少し不安に思ったりもしている。

 とは言っても本当におねだりされれば、事前にあれこれ考えていても、あっさりと連れていってしまうのがタケルなのだが……。

 

 この後は東京駅、表の一般利用客用の通路で無く、職員や業者が利用する業務、メンテ用の通路が異界化してるのだそうだ。

 

 普通は入れない場所ということで、異界の内容そのものよりも、そうした見れない場所を見ることを楽しみにしているのがタケルやアキラやウシロである。

 そうしたものに価値やらロマンやらを感じるのは男性ならではの感性なのだろう。

 女性陣は「へえ、そんなところもあるんだ」程度の感覚である。

 

 

「さすが東京駅、出てくる悪魔も日本ならではの連中が多いな」

「神宮外苑も割とそんな感じだったよね」

「何故かマシンも出てくるけど、東京らしいって言えば東京らしいか」

「皇居もすぐ側だしね」

 やはり時間帯によってはかなり強い悪魔も出てくるのだそうだ。

 将門公の乱入すら月齢によってはあるのだから洒落にならない。

 

 

 

 

「最終のダンジョンになります、新宿都庁です。こちらは現在の攻略の最前線ともなっています。皆さまには比較的浅い所に入っていただきますので攻略組との接触は無いとは思われますが、少しでもその空気を感じていただけたらと思っております……」

 

 

「聖獣ってことになってるけど見かけは魔獣だよな、パピルサグ」

「まあ、ランダとバロンだって見た目大して変わらんしな」

「大天使とか堕天使も出るんですねぇ、ここって」

「って姉ちゃん何を呑気に! タルンダ行っときますね!」

「いっくよー、マハジオ!」

「見て見て! サマーソルト葬らん!」

 ムルルのサマーソルトというか逆宙返り、壺は腹に当たっているが、勢いのまま振り回した花瓶は股間を直撃している。

 

「天使は中性あるいは無性と言うけど、それでも痛そうだ」

「少なくとも俺なら本当に葬られるな……」

「いいぞー、ムルル、もっとやっちゃえー!」

 戦闘なのだし当然のフィーネの声援なのだが、ムルルの攻撃のえげつなさの後なので、非常に怖いものを感じてしまうタケルである。

 

 

「ここはクリスマス仕様の悪魔が出るんだ……」

「運営なに考えてんだよ……カワンチャのクリスマスバージョンとか誰得?」

「と、ともかく雪だるまを落とす確率が高いらしいんで頑張りましょー!」

「エリリちゃんエリリちゃん、骨ですよ、骨、可愛くないですよぉ!」

 シェーラの言う様に確かに可愛くないが、誰もカワンチャに可愛さは求めていないだろう。

 タケルとムルルの鈍器ツープラトンを食らって敢え無く昇天。

 

 その後もクリスマス仕様の悪魔は出てくるもののヌエやパトリムパスやヨモツシコメといった、見てもさほどはしゃぐ気にもなれない悪魔ばかりだったのは、いったい誰の日頃の行いの悪さなのだろうか?

 

 ともあれ、都庁初アタックも雪だるまゲット的にはまずますの結果に終わり、新宿駅でバスツアーは解散。

 

「昼があれだったから、夜も少しいいもの食べてかないか?」というアキラの提案に賛成多数。

 駅の近辺で何かおいしいものをと夜の町に繰り出すタケルたち一行であった。

 

 

 

 

 




要解説ネタ:はるバス→はとバスのもじりであり、ソロモンの悪魔でハトの外見ともいわれるハルファス (ハルパス)の名前を元にしてもいます

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