なんとか、気力と体力を回復して書きました
クリスマスイベントが終了して、東中野の商店街は年末大売出しでプレイヤーに関係無い、ごく普通の福引が行われていたりする。
クリスマスイベントに関しては、最終的にタケルが目的としていた仲魔向けのアイテムは総て入手したので、余った分は結局限定ガチャのメダルに交換、5枚になったので仲魔たちにそれぞれ一回ずつガチャを引かせてあげて、自分は2回引いた。
宝玉(10個パック)×2、反魂香(5個パック)×1、ニスロクの特製ビーフジャーキー、悪魔スカウターが獲得賞品。
どれがタケルの獲得したものか一目瞭然である。
ビーフジャーキーは悪魔への贈答用にもなる食糧アイテムだが、肉食系の悪魔の友好値を一気に高めるらしく、レベル圏外の悪魔すら仲魔に出来るという話が掲示板で広がっている、今回の限定ガチャにおける「当たり」アイテムである。
手に持って歩いていたらオルトロスが家まで憑いて来た、などという冗談の様な話すらある。
まあ、仲魔たちが食べてみたがったため、既にタケルを含めた全員で食べてしまったため、タケルの手元からは消滅しているのだが……。
悪魔スカウターは某・少年漫画のスカウターそのままのデザインで、コンプのアナライズ機能の拡張版でプレイヤーやNPCの強さも同様に見ることが出来るというものだ。
「戦闘力…たったの5か…ゴミめ」ごっこは出来るが、強い悪魔を見ても爆発はしないらしい。
サマナーよりもバスターや異能者などの補助アイテムとしてなら、ネタアイテムとしてでなく実用アイテムとなる。
そのため、オークションに出そうかとタケルは考えたりもしたのだが、ムルルがすっかり気に入ってしまって色々見て楽しんでいるため、今ではムルルの壺の中に納まっている。
また突発的なクリスマス最終イベントとして、お台場のフ○テレビが「怪異・リア獣」となって暴れるという大規模戦闘が発生し、独り者のプレイヤーたちからフルボッコにされて爆発したという騒動があったが、タケルたちには無縁の話であった。
それなりの経験値とアイテムを手にようやく溜飲を下げたプレイヤーたちが、そのまま「くたばれクリスマス大宴会」に突入、実況スレは27まで短時間で板を消費したらしい。
その頃のタケルは仲魔や友人たちとケーキやチキンでホームパーティーという「爆発しろ!」と言われる側のクリスマスイベント最終日を過ごしていたため、戦闘イベントには不参加であった。
「パパ、あれ何?」
キャロの指差す先には門松が売られている。
如何にもな商店街年末の風景として、特に注意もせず見ていたタケルだったが、キャロたちに説明しながら「買ってみてもいいかな?」と思い直した。
現実では実家に居た頃も含めて門松を飾ったりなどということには縁の無かったタケルだが、仲魔たちと過ごすこの世界での始めての正月に「この際、思いっきり正月ムードに浸ろうか」と門松を皮切りに鏡餅、普通の餅、豆餅、ゴマや青海苔のなまこ餅などの大量の餅、ミカンを八百屋で箱買い、おせちは作れないので惣菜店やスーパーなどで出来合いのものを買い、といった具合に色々と日本の正月について仲魔たちに説明しながらの爆買いをしてしまう。
アイテムを収納出来るプレイヤーだからなんとかなるが、そうでも無ければ大型の仲魔でも居ない限り持ち運べないほどの買い物である。
結果、大量の福引券と福引補助券を手に入れて、商店街の福引所へ。
「一等ハワイ旅行だって!」
ムルルがはしゃいで言うが、都内しか移動できないこの世界で果たして本当にハワイに行けるのだろうか?
「流石に商店街の福引のためだけにデータは実装しないだろうなぁ」などと思いつつも、豪華な上位の景品に目を輝かせる仲魔たちにタケルの気持ちも浮き立つ。
「おじさーん、これで何回引けるの?」
「おお、随分と集めてきたな、これだと14回引けるぞ、お嬢ちゃん」
商店街の人間が仲魔にごく普通の子供に対応するのと同じ様な返事をするのを聞きながら、「じゃあ、フィーネたちが4回、俺が2回引こうか」と声をかける。
「ガラガラガラ~♪」
「おお、7等、ラップかこっちのお菓子だよ!」
まあ、そうそういいものが当たる訳では無いが、商店街が頑張っているため一番下の8等でもティッシュだけということはなくお菓子も選べるため、仲魔たちは引いては貰えるものに喜んでいる。
一番上で6等だったが、それぞれ両手にお菓子を抱えてニコニコの仲魔たちに促されてタケルが最後の2回を引く。
「8等だね」
昔のムルルを思い出して少し懐かしく感じながら、いくつかあるお菓子の中から大き目の飴玉を選ぶ。
「ラスト、タケル頑張って!」
フィーネの声援を受けて勢い良く抽選機を回す。
初めて見るオレンジ色の玉。
「お、4等だな、おめでとう!」
「やった、やった!」
「パパすごーい♪」
自分が当たるまで何なのかさえ確認していなかった4等の賞品を見るタケル。
この手のものは一番上と一番下はそれなりに意識しても、真ん中辺りはあまり気にしないものだ。
奥からおじさんが引っ張り出して来た4等賞品に仲魔の目が輝く。
「大きいなぁ……」
思わずタケルが口にするほど巨大なそれは……。
可愛らしくデフォルメされたケルベロスのぬいぐるみだった。
目をつぶって眠っている姿で、全長はキャロの身長よりもある。
アイテムボックスに入れようとすると仲魔たちが一斉に「え~?」という顔をするため、視界を半ば隠される状態になりながらも抱きかかえて帰宅することになったタケルである。
タケルの手が塞がっているため、ポケットからキャロが鍵を取り出して開け、フィーネとムルルが灯りを点けていく。
床にぬいぐるみを置くと仲魔たちがそれにへばりつく。
「ぬいぐるみの上でお菓子食べて粉とかこぼすなよ?」
蜜柑の箱など買ってきたものを部屋にしまいつつ声をかける。
「タケル~ミルク頂戴!」
「僕はオレンジジュース」
「私もジュース!」
返ってきた返事は飲み物の請求だった。
「正月気分が先行して年越し蕎麦とか買わなかったなぁ、載せる天ぷらとかと一緒に大晦日に買いに行くか……」
ジュースを出した後、餅などをしまいつつ考える。
作りたてのなまこ餅はまだ柔らかいので、焼いたりせずそのまま食べてみようとまな板に載せて包丁で切る。
フィーネが肩に乗ってそれを覗き込む。
「私にも頂戴!」
「ゴマと青海苔どっちがいい?」
「両方!」
他の仲魔も食べると言うので、結局それぞれ切り分け、皿に載せ、緑茶を入れる。
「焼いたのも食べたーい!」
結局、なまこ餅だけでなく他の餅も焼き、「焼き海苔も買ってこないとなぁ」と残り少ない海苔を見ながら考えるタケルであった。
昼の内に買っておいたかき揚げをオーブントースターで温めながら、そばを茹でるタケル。
近くに複数の寺があるために除夜の鐘が微妙にずれる感じで何度も聞こえてくるため、余韻を楽しむという感じではない。
テレビでは名前しか知らない様な昔の歌手が出ている紅白が流れている。
良く良く見ると昭和の時代の歌手が居たり、アニメ作品に登場する架空の歌手が居たりとツッコミどころ満載なのだが、その辺りの知識が無いタケルは素直に「昔はこんなだったのか~」と流している。
福引の時に買ったお餅は仲魔たちが気に入って何度も食べていたため、正月を前に残り少なくなってしまったため、今日になって追加で買ってきたのだが、「お餅も入れて~!」とフィーネがリクエストしたため、人数分をかき揚げの前に既に焼き終えて蕎麦に入れる準備が完了している。
「出来たぞ~!」刻んだ長ネギを最後に載せて、お盆に載せたそれぞれのお蕎麦をこたつに置く。
この器も人数分、今回購入したもの。
普段の食事は外食や弁当類が多いため、コップ以外の人数分の食器が無かったのだ。
「わーい、年越し蕎麦だ!」
「お蕎麦、お蕎麦!」
「タケル~、七味取って~」
甘い物が大好きな割にはフィーネは割と七味を使う。
辛いものが全くダメなキャロはネギも余り好きでは無いため、少ししか載せていない。
辛いものが大好きなムルルだが、辛くない料理に香辛料を足すことはしない。
みな、それぞれの好みがあって、タケルはしっかりとそれを把握しているため、同じに見えてそれぞれのお蕎麦は少しずつ違っている。
食後、蜜柑を食べながらこたつでまったりと過ごす。
普段は日付が変わる前にログアウトするタケルも今日はそのままログインしている。
キャロは時々眠そうにしているが、それでも皆揃って遅くまで起きているという普段とは違った状況に嬉しそうだ。
フィーネは「正月はお雑煮とお汁粉だよね!」と既に正月に気持ちが先走っている。
ムルルはテレビのアイドル歌手の振り付けを真似しつつフヨフヨと宙を漂っている。
そうこうする内に紅白も「ラスボス? あれラスボス?」とムルルが聞いてきた電飾まみれの歌手が歌い終わり、フィナーレが始まる。
どこからか先走った花火の打上げ音が響き、テレビ画面の中からは各地の年越しカウントダウン映像が流れ始めている。
「「「「あけましておめでとうございます」」」」
年越しの挨拶を済ませ、眠さが限界のキャロをコンプに戻す。
少しテンションが上がっているフィーネとムルルはまだまだ元気だ。
「今日くらいはフィーネたちの気が済むまで付き合うか……」
自分のログアウト時間のことは頭から放り出し、アイスをねだるフィーネとジュースを欲しがるムルルのために冷蔵庫へと向かうタケルであった。
福引は小学生の頃、一度だけ2等が当たったことがありますが、演歌歌手のコンサートペアチケットだったので、誰かにあげましたwww
コンサートチケットはけっこうあちこちの商店街で賞品になってるようですが、自分の趣味もあるし興味無いジャンルのが当たっても困りますよねぇ