虚・女神転生   作:春猫

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遅くなりました(;´Д`)


NOXIOUS

 

「エントリーナンバー0204 チームぐんぐにる 2時間15分36秒 暫定3位です……」

 アナウンスが流れ、電光掲示板のランキングボードに変化が現れる。

 

 何故か芝浦にちゃっかりと存在しているアルゴンNSビル。

 現在、その本社ビルを舞台に「セキュリティのテスト」という名目の元プレイヤーたちによるタイムトライアルが行われている。

 

 VRならではの仕組で5分毎のスタートであるものの、内部でプレイヤー同士がかち合うということも無く、目まぐるしくランキングが変動し続けている。

 

 原典に登場する企業のビルということもあって「裏に何かあるんじゃ?」と深読みをする者も多いが、現在のところごくごく普通にイベントは進行している。

 

 時代的に液晶やLEDが主流になっていた時代の筈にも関わらず、順位が表示されているボードがオーソドックスな電光掲示板である、という点を除いて、特に不審な所も見られない。

 

 

「お、来てたんだ! もうトライしたのか?」

 掲示板を見ながら雑談をしていたタケルたちに話しかけて来たのはマロロ。ガチの攻略系ガイアーズと一緒に、非常に近寄りがたい空気を纏っている。

 見るからにヒャッハーなモヒカン、軍用のヘルメットに髑髏型のフェイスガードとタクティカルベストを含めて上から下まで真っ赤にカスタマイズした装備を付けたミリ系、「渋い」と言っていいくらいオーソドックスな僧侶姿ながらその顔面の右半分に入墨を入れた男、そして「オーッホッホッホ」と高笑いをしながら鞭型コンプを振り回す……エナメル系の下着と服の中間の様な装備の女王様とその下僕たる仲魔。

 相対的にマロロがまともに見えてしまう濃い面子である。

 

「ちーっす、マロロさんの従妹さんですか、自分、ガイアやってますグラ3ってイイマスです」

「……よろしく」

 引き攣りながらも挨拶を返すエリリ。

 外見に似合わず丁寧な口調なので対応できているが、外見まんまの口調だったら逃げ出していただろう。

 異界ではもっとおっかない悪魔をぶちのめしたりもしてるのだが、やはり人間相手だと勝手が違うのだろう。

 

「まだ、トライしてないけど、結構、みんな装備も含めて本気じゃない?」

「そりゃ、元ネタが元ネタだし、賞品とか期待出来そうだしなぁ……」

「ついにガンプが!」

「1位の賞品が『車輌』だって噂だからなぁ、このビルで車輌だろ? とくれば『あのトレーラー』だよな?」

「オープニング、カッコ良かったよね」

 

「で、マロロたちは何位?」

「今のトコ暫定13位ってとこか? あ、今下がった……ま、上位50位以内にはなんか出るみたいだから、そこに入れればオッケーって感じ」

「中はどんな感じ?」

「マシンとダーク系メインに時々何故か霊獣が出るな」

「マシンは完全に時代考えると発達し過ぎ、今の遠隔操作ユニット越える動きを自律型でやるとか……」

「公式HPによればアンチウィルスプログラムの応用ってことになってるらしい」

 

 受付は既に済んでいたタケルたちの順番が回って来たのはそれから三十分ほど後のこと、個性的なマロロの仲魔たちともかなり馴染んでフレ登録なども済ませた。

 

「お金持ってるって感じだね~」

「なんか俺らのリアルより未来っぽくね?」

「だよね~、床とか見た目金属っぽいけど感触違うし」

「マシンって気配が薄いから嫌いー! 建物臭くないのに臭い悪魔出てくるし、なんか変、ココ」

 フィーネが顔を顰めながらタケルに強く主張する様に、清潔な電子臭すら感じさせる内部に、ゾンビやらスライムやらが湧いてくるのは何やらゲーム内ゲームっぽい非現実感がある。

 

「タケル!」

「フィーネは一旦上に退避、ムルルは後ろ警戒、キャロは俺の側に!」

「げっ、シャッターが下りやがった!」

「ペルソナ! 補助いっとくよ!」

 警告音と共に通路の前後の防火シャッターが下りる。

 通路に面したドアが開き、平べったいメカがワラワラと溢れ出てくる。

 アキラのアギが飛ぶがあまり効いている様には見えない。

「なんか、動きがゴキっぽくて気持ち悪い」

「変形しだした……アナライズ、マシン・TSUCHIGUMO、初見ってか、ここのオリジナル? 火炎耐性、電撃反射……マシンなのに電撃効かないとか酷くね?」

 

 平べったい状態から変形、一部は蜘蛛の様な多足戦車の様な形に、一部は人型と蜘蛛型の合体した様な、いわばアラクネ状態になったマシン。

 形状は異なるが同じ種類として認識出来ている。

 つまりは状況や相手に合わせて複数の変形モードを持っているということなのだろう。

 

 幸いと言っていいか重火器の類は持って居ない様だが、行動を阻害する空気に触れるとすぐに固まる樹脂を噴出したり、火炎や電撃を放ってきたりする。

 

「固まるだけでも厄介なのに、あれ、可燃性が高いぞ!?」

「ははは……何故にマシンにハマが効く、意味不明過ぎる!」

 タケルの燭台の追加効果で一瞬で消滅するマシン。

 マグの塊の悪魔ならともかく、現実の機械要素を組み込んだマシンの場合、これまでに遭遇した相手ではこうした事は無かった。

 

「これ、悪魔を加工して作ったマシンじゃね? ツチグモっていたよな、メガテンの悪魔で!」

「可哀相だとは思うけど、交渉とかも無理っぽいし、倒すしかないよね?」

「機械の悪魔化の結果としてのマシンじゃなく、悪魔を素材に作ったマシンってことか、趣味が悪過ぎるぞ、流石、原典・悪役企業!」

「タケル~、あいつら気持ち悪いよ……」

 強さ的にはきちんと耐性を把握して戦えばさほど苦戦する相手ではない、今のタケルたちにとっては。

 ただ、見た目からして気色の悪いゾンビ系悪魔以上に「気持ち悪い」相手なのだ。

 ダーク系同様、比較的戦う相手としては気を使わずに済む筈のマシン系に、ここまで気分を沈ませる相手が居るとは思わなかったタケルたちは、戦闘が終わって、シャッターが開いても気を取り直して先に進むまでかなりの時間をロスしてしまった。

 

 結果として最終タイムは3時間にはギリギリならずに済んだが、50位以内の入賞はかなり微妙な線となった。

 

「まあ、電霊とか扱う企業だし、ダークサマナーの使い捨てとか平気でするところだから、やってもおかしくは無いんだけどね」

「遭遇はしてないけど、ダークサマナーとかヤバいメシアンやガイアーズだって居るんだもんね、この世界」

「これから出てくるのかな、ダークサマナー。自分に縁の無い存在ならダークヒーローとかも『カッコイイ』とか言ってられるけど、目の前に出て来たり、外道な行為の結果とか見ることになるとか嫌だなぁ……」

 タイムスコアとは全く関係の無いところでタケルたちはどんよりとしている。

 

「タケル~、最終結果出るまで時間かかるんでしょ? なにか食べに行こうよー!」

「カレー、カレー食べよう!」

「あんまり辛くないのがいー!」

 タケルの仲魔たちは「自分の仕事は済んだ!」とばかりに食欲優先モードになっている。

 エリリやアキラの仲魔もそれに同調し、「いつまでもこうしてても仕方が無いか」とタケルたちも腰を上げてビルを後にするのであった。

 

 

「チーズがおいしい!」

「エリリちゃん、エリリちゃん、ジャガイモがホクホクですよぉ~」

 神保町古書センターに本店があるカレー店。

 甘みの強いまろやかな口当たりの欧風カレーの田町店を発見したので、そこで食事を取ることにしたタケルたち。

 神保町の本店の方は入り口が分かり辛いが、こちらの支店の方はそうしたことが無かったことと、一般的な食事時と若干時間がずれていたことからあっさりと席に着くことが出来た。

 タケルがビーフカレー辛口チーズ乗せ、アキラがエビカレー辛口大盛、エリリが野菜カレー中辛。

 仲魔たちはフィーネがチーズカレー甘口、ムルルがホタテカレー辛口、キャロ、シェーラ、アンがお子様カレー、オカンが魚介カレー中辛、あと一人はキノコカレー甘口である。

 ジャガイモまで含めるとかなりの分量であるが、一番無理そうに見えるシェーラですらゆったりと味を楽しむ余裕ぶりである。

 まあ、常人の数倍でも平気で食べるフィーネやムルルを見慣れているタケルからすると特に驚くことも無いが、偶然店内に居た他のプレイヤーの中にはシェーラの健啖ぶりに目を丸くしている者も居る。

 食後に付いて来たアイスコーヒーを飲みながらまったりとしているとマロロからエリリに電話が入る。

 タケルたちは50位圏内から脱落してしまったとの話にこのまま帰宅することになる。

 

 経験値的にはおいしいイベントではあったが、若干モヤモヤしたものが残ったタケルたちではあったが、おいしいカレーの恩恵で明るい気分で電車に乗る。

「パパ、パパ~!」と言いながら窓の外に見かけたものについて話しかけてくるキャロに、車内の老婦人が優しい目を注いでいる。

 傍から見ると「大好きなパパとのお出かけにはしゃぐ娘」に見えるのであろう。

 車内の注目を集めてしまっていることに気付いたタケルが「これ舐めて大人しくしてような」とキャロに飴をあげると、今度はフィーネとムルルが自分にもと騒ぐ。

 結果、アキラやエリリの仲魔たちにもあげることに……。

 

「一生付いていきます!」スルーされがちなウコバクのウコンにもしっかりと飴を与えて、自分の仲魔じゃないのに忠誠度を上げてしまうタケルであった。

 

 

 

 




書いててカレーが食べたくなりました(; ・`д・´)

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