虚・女神転生   作:春猫

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※まず、最初に……今回は戦闘もイベントもありませんので読み飛ばしても問題ありません

千切りキャベツ、ふわふわたまご、エビチリの組み合わせは昔、台南ターミーの日替わり定食でこれがある時は必ず食べると言うお気に入りメニューでした。キャベツ単体で大量に食べるのは苦行ですが、トンカツや、こうした他の料理と組み合わせると必須と言っていいくらい欠かせないものになりますよね
個人的ラーメンのベストは父の実家のあった福島県小高の山川食堂のラーメン
本文中でフィーネが絶賛してるラーメンはそのラーメンのイメージです


AWAKENING

 

「ふう、これで完了っと……」

 技能向上のためのアプリ改造をひと段落し、タケルは冷めた紅茶を一口すする。

 

 いつもなら纏わりついてくるフィーネたちが大人しい。

 タケルのベッドの上に寝転がって何かを見ている。

 

「何見てんだ~?」

「ん、これ!」

「月刊、仲魔マガジン? なにそれ?」

「悪魔向けの雑誌、お店では売ってないの! 注文すると指定したポストに毎月入れてくれるんだよ。一冊100魔貨で一年購読すると1,150魔貨でお徳!」

 表紙を見せながらフィーネが説明してくる。

 以前に日本円でなく魔貨をねだられたことがあったが、これの年間購読料だったらしい。

 

 一緒に少し見てみるとなかなか面白い。

 

「特集:これが勝ち組サマナーだ……俺に当てはまるポイント無いじゃん。魔界に帰る前にここだけは行っておきたい都内お薦めポイント……圧倒的アキバ人気だな、皇居も人気高いな」

「ニスロクの3分クッキングがね、毎回写真がおいしそうなの!」

「コンプの中で鍛える1クラス上の悪魔トレーニングは僕もやってるよ!」

「パパ、これ買って! この広告の100種の悪魔エキス配合、超バイオマジカル肥料ソイレントグリーンX!」

 ニコニコと広告のページを広げてキャロがおねだりしてくるが、丸囲みの中の研究開発したという高名な科学者の写真がどう見てもDr.スリルだ。

 現実でもこの中でも見たことの無いほどの特徴的な鼻。

 

 極めて胡散臭い。

 

 期待で目をキラキラと輝かせているキャロには悪いが、どう考えても悪影響しかなさそうだ。

 タケルは誤魔化すことにして外に食事に行くことを提案する。

 

「ラーメンが食べたい!」

「中華? チャーハンと餃子にコーンスープつけていい??」

「エビチリ、エビチリ!」

 返ってきたリクエストからすると今日の行き先は商店街の中の中華料理屋になりそうだ。

 小さな間口の老夫婦がやっているお店だが、メニューはなかなか充実している。

 タケルは角煮のせチャーハンにしようかと考えつつ、仲魔と共に部屋を出る。

 

 ふと気付けばマンションの駐車場に車が増えている。

 しかも二台。

 いつの間にか住人が増えていたのだろうか?

 

 新たな車はいずれも趣味全開のマニアックなバブルカー。

 BMWイセッタとメッサーシュミットKR200という共に二人乗りのドイツ車で、羽根を取って車輪を付けた飛行機っぽいKRと、前面がドアになっているという独特なデザインのイセッタ、共にちょっとオモチャっぽい。

 

「うわぁ、タケル、タケル、この車可愛い~!」

「カエルさんと冷蔵庫みたい!」

「こっちの車は飛行機みたい、羽根付けたら飛ぶかな?」

「ペタペタさわっちゃだめだよ、人の車なんだから」

 

「構いませんよ、あ、こんにちわ~!」

「あ、サダロだ~、こんにちわ!」

「こんにちわ♪」

「あ、こんにちわ、買い物帰りですか?」

 スーパーの袋を提げて声をかけてきたのはサダロ。

 しっかりと自炊しているようで、冷凍食品や惣菜メインの現実でのタケルとは違って、スーパーでの買い物は野菜や肉といったきちんとした食材だ。

 

「はい、卵が安かったんで♪」

 明るい口調で返事をするサダロ。

 相変わらず外見と話し声のギャップが激しい。

 

「タケルさんたちはお出かけですか?」

「ラーメン食べに行くの!」

「僕はチャーハン!」

「エビチリ!」

「……ってな感じで商店街の中華屋さんへ」

「まあ、いいですねぇ」

「よろしければ、ご一緒します?」

「はい♪ これ、急いで置いて来ますんで待っててくださいね」

 急いでいる様子は見えるが致命的に素早さが足りない動きで部屋に戻っていくサダロ。

 パタパタと外見としぐさがチグハグな様子に、いまだ慣れる事の出来ないタケルである。

 

「この可愛い車、サダロのだったんだねぇ」

「なんかウシロが購入時に苦労させられてそうだなぁ……」

「今度、乗せてもらえるかな??」

 意外なオーナーには驚かされたが、こうなるともう一台の方のオーナーも気にかかるところである。

 

「お待たせしました」

 余り素早い移動では無かったものの、当人的には目一杯だったのだろう。少し息が切れている。

 

「いえいえ、じゃ、ゆっくりと歩いていきましょう」

「サダロ、サダロ、今度、あの車乗せて!?」

「僕も僕も!」

「じゃ、今度、この近くを車でお散歩してみましょうか?」

「「わーい」」

 車で散歩というのもなんだか変な感じではあるが、サダロが口にすると自然な印象を受ける。微妙な天然ペースのなせるわざか?

 

 中華屋に近付くと匂いと音で目をつぶっていても分かる。

 中華鍋とお玉のぶつかる音、そして炒め物の焼ける音。

「いらっしゃい」

 客で賑わい慌しい店内でもどこかおっとりとした歓迎の声に迎えられ、空いているテーブル席に座るとすぐに水が出てくる。

 

「ここは初めて入りました」

 髪で隠れて良く見えないが、ニコニコとサダロがメニューを眺めながら話しかけてくる。

 

「割となんでもおいしいんで、食べたいと思ったものを頼んで平気です」

「私はラーメンが一押し!」

 フィーネが好きなここのラーメンはシンプルな醤油味のもの。

 見た目のインパクトや「これが凄い!」といった特徴は無いが、しばらく食べずに居ると食べたくなってくる味である。

 

「僕はチャーハンと餃子、後、コーンスープはみんなで飲むの!」

 味のしみ込んだチャーシューが入って、その分ご飯のお塩は控えめなチャーハンは絶妙なパラパラ加減だが、その分最後の一口、二口を食べるのには苦労することになる。

 ギョーザはにんにくの入って居ない豚肉と白菜がメインのもの。

 パリッとしていてモチモチで、夕方にはこれとビールをセットで頼むお客さんが多い。

 

「私はエビチリ、あと白いご飯!」

 エビチリはレタスなどが敷かれたものが多いが、ここのエビチリはキャベツの千切りの上にふわふわの玉子が乗り、更にその上にエビチリといった形で供される。

 辛いものがあまり得意で無いキャロだが、甘みのある玉子とさっぱりとしたキャベツと一緒に食べる形になるここのエビチリの場合は、辛味がいい具合に緩和されるらしく、お気に入りとなっている。

 

 タケルが角煮のせチャーハン、サダロがタンメンと注文が決まり、料理が出来上がるまで雑談。

 

 サダロのイセッタ、現実でも乗ってみたかったが安全性などに問題があるため諦めていたものを、中のカーショップで見かけて欲しくなり半ば衝動的に買ってしまったのだそうだ。

 

「本物と違って、こちらのは電気自動車なんですよ、静かなんで町の音なんかも聞けてお気に入りです。現実と違ってトロトロと走ってても文句言われませんし……」

 本来はスクーターやバイクなどのエンジンを積んだバブルカーだが、メガテン内部仕様では電気自動車になっているのだそうだ。

 持ち主のことは知らないがメッサーシュミットも同じショップで売っていたものだろうということで、そちらも電気自動車らしい。

 

 VRの中ならではのご都合というか、サダロの契約したマンションの駐車スペースには充電用のコンセントがしっかり存在しているのだとか。

「自分のトコにはそんなの無かったよな」と思いながら、先に注文した料理が来たキャロに「食べてていいよ」と声をかけるタケル。

 次いで料理が来たサダロにも「どうぞ、お先に」と言うと、さすがに現在の髪では食事は無理だとサダロはゴムの髪留めで髪をまとめる。

 

「ナンパ除けでこの髪型なのも理解できるな」と思ってしまうほどの整った顔があらわになる。

 思わず見とれ、フィーネからのジロっとした視線に目をそらすタケル。

 ちょうどいいタイミングで来た料理に逃げる。

 

 チャーハンの上にチンゲンサイ、さらにその上に豚の角煮。

 トロトロの角煮はレンゲでも簡単に切れる。

 

 まずはチャーハンを一口。

 付け合せの刻んだネギだけ浮いたスープに口をつける。

 テーブルの上の練り芥子を取り角煮に付ける。

 チャーハンごとすくって口の中に。

 肉の存在感を強く主張しながらも舌だけでも崩れる角煮を咀嚼する。

「パパ、はい!」とキャロが渡してくれた自分の分のコーンスープをレンゲでかきこむ。

「キャロ、ありがとな」とお礼を言い、キャロが嬉しそうに笑うのを見つつまたチャーハンを口にする。

 白米を食べる以上に「米の質感」を強調してくるチャーハンを噛み締める様に食べる。

 

「やっぱりラーメンはこうじゃないと!」と力説しつつ麺をすするフィーネの姿に「次は自分も久々にラーメンにしようかな」と思う。

 

 角煮の汁を吸った部分のチャーハンをチンゲンサイで巻く様にして口の中に。

 こうして食べるとチャーハンが主食でなくオカズの様だ。

 軽くお冷やを口にして、スープを一口。

 コーンスープにとかれた玉子に口の中を軽くヤケドしつつ、今度は中心部から離れた角煮の影響の無い部分のチャーハンを食べる。

 角煮、スープ、そしてチャーハン。

 噛み締める、食べる楽しみを感じる食事に満足して、最後に余韻を消さない程度に軽くお冷やを口にする。

 仲魔たちもサダロもニコニコとしている。

 

「ここもおいしいですねぇ、今度、弟も連れてこようっと」

 髪を戻しながらサダロが言うのを「ちょっと顔をまた隠しちゃうのはもったいないな」と思いながら「どっちかって言えば男の子向けの店ですからねぇ、ココは」と答える。

 

「ご馳走様」と声をかけて勘定を済ませ、店の外に出ると入れ替わりの様に造魔スタイルのプレイヤーが店内に入っていくのとすれ違う。

 まだ寒い外の風だが、温かい食事後には気持ちよく感じる。

 

「タケル~! デザート、デザート! 商店街来たんだから和菓子屋さん寄って帰ろう!」

 フィーネの要求に応え、自分も興味が有りそうなサダロも伴って和菓子屋に向かうタケルであった。

 

 




なんか戦闘シーンとか以上に書いている内に力が入った食事シーン
飯テロ注意とか前書きに入れた方が良かったでしょうか?

メッサーシュミットKR200とか、イセッタとかハインケル・カビーネとか、電気自動車として復刻して欲しいですねぇ
車としての安全強度には問題ありますが、屋根付きスクーターだと考えれば問題無いはず
なんか売られてる電気自動車って半端に先進性をデザインに入れようとし過ぎたり、機能優先だったりして「可愛げ」が無いんですよねぇ
「車離れ」とか言われますが、「最先端のCADでデザインしました!」みたいなのばっかで愛着持てる様な外観の車が無いせいもあるんじゃ?

今の車じゃ「クリス・ザ・カー」みたいな存在は生まれませんよね

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