虚・女神転生   作:春猫

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子供の頃はソアー=トールって分かりませんでした


Spirit's Power

 

「ペルソナっ! ガルっ!」

「おお凄え!」

「仲魔が使うのとはまた違うなぁ」

 

 タケルとアキラはブロードウェイで声をかけてきたペルソナ使いの女の子と共に初の遠征を行っていた……徒歩で。

 

 

 

「しかし、ここも異界化か、それっぽいって言えばそれっぽいけどさ」

「まあ、学校、寺、病院、神社、墓地って辺りは定番だよね」

「俺、ここ落ちたんだよなぁ、大学受験……」

 

 こちらの方がホームでブロードウェイは遠征というか遠出になるんだ、と笑いながら言った少女(少なくともアバター外見は)は、制服風のブレザーとミニスカートにスパッツとグランドホッケーのスティックという現実でもさほど違和感の無い格好で、「エリリって言うんだよろしくね!」とフィーネの目を見て自己紹介をしていた。

 ホントの名前はエリで「エリ」か「エリー」か「エリィ」か「エリイ」にしようとしたのだが、全部先に使用されていたため、この名前になったのだという。

 アルカナは「剛毅」、なんと言うか外見に見合わぬ勇ましいアルカナにちょっと引きつってしまったタケルである(性格を知れば「らしい」と思えるのだが)。

 

 

 初の遠征ではあるが、プレイヤー×3、仲魔×2という編制である現在、特に問題とはなっていない。

 

 そう、仲魔×2。

 ピクシーのフィーネに加えて、ノッカーのムルル(「なんかそんな感じ!」とフィーネによる命名)が仲魔になった。

 

 部屋に連れて来た後、目を覚ましてしばらくは怯えた様子を見せていたが、フィーネがなだめ、タケルが飴をあげるとなんか凄い勢いで懐いた。

 飴はフィーネが欲しがって以前に買っていたものだが、フィーネには大き過ぎて口の中に入らなかったものだ。

 

 ガリガリと噛み砕いて食べるとわんこの様な目でタケルを見上げ、「仲魔になってくれるか?」との問いに勢い良くなんども頷いてコンプに自分から入っていったムルルは、召喚される度に「ご主人様大好きわんこ」の目をして嬉しそうに寄って来る。

 こう「好かれるのは嬉しいけど、なんでそこまで喜ぶの?」って言いたくなるところもわんこに似ている。

 犬の要素が無い悪魔なのに、なんでこうなんだろう、とタケルは首を傾げているが、こうした戦闘でも役に立つことを嬉しがっているのが良くわかるのだ。

 

「ホント、ムルルちゃんはタケルさんが大好きなんだねぇ!」

「人外たらしの隠し称号とか持ってるんじゃね?」

「俺は女好きの貧乏GSじゃないぞ?」

 

 こうしてる間も実のところ戦闘は続いている。

 出現悪魔の傾向はタケルたちお馴染みのサンプラザとは異なっていて、堕天使、夜魔の出現が多い。

 

「大体、交渉が一回も成功してねえし!」

 スキルで交渉を持っているにも関わらず、仲魔となってもらうための交渉に一度も成功したことが無いタケルである。

「まともな方法では仲魔が増やせないんじゃないか?」と肩を落としたくもなる。

 

「タケルー、ちょっと休憩しない?」

「あ、いいかもね!」

「そだな、この小講堂しばらくは悪魔出そうもないし」

「じゃ、私の水筒取ってー!」

 タケルの鞄の中には、今日からフィーネ用の水筒が入っているのだ。

 喉が渇いたということもあるのだろうが、「見せびらかしたい!」という意識も強いようだ。

 小さなサイズの水筒だが、それでもフィーネが持つのには大き過ぎるので、タケルの鞄の中に入っている。

 キャップに中身の牛乳を注ぎ、フィーネに渡すと更に鞄の中を探ってタケルのズボンを掴んでいるムルルに飴玉を渡す。

 ついでに他の二人も飴玉を欲しがってる様なので手渡す。

「ありがとな!」

「ありがとー!」

 

「ぷはーっ! タケル、もう一杯!」

「はいはい、クッキーも付けるか?」

「あるの!? なら頂戴!」

 クッキーを抱えながら牛乳をちびちび。

 ピクシーには二本しか腕はないから、フィーネが飲みやすい位置でキャップを差し出しておくのはタケルの仕事である。

 

「仲魔羨ましいと思ってたけど、サマナーにはおかん属性が必要だと良く分かったよ!」

「おかん(笑)! 確かにタケルはそういうトコあるよな」

「誰がおかんだ! せめて保父さんと言え!」

「大して変わらんが?」

 

「……………………!」

「どうしたムルル、ムルルもクッキー食べるのか?」

 片手でフィーネの牛乳を保持しつつ、もう片方の手でクッキーを取り出してムルルに与える。

 

「「(やっぱおかんじゃん!)」」

 本人がいくら否定しようが周囲の評価は固定されてしまったようだ。

 

 

「さて、じゃ、休憩終了~! ここって何かボスっぽいの出るの?」

「夜は爵位持ちの悪魔が出るって噂だけど、昼はそういうの無いはず」

 廊下を進む3人と仲魔。

 

「掲示板にも書き込んだけど、サンプラザは何か変な扉、そうそうあんな感じ……いいか、フィーネ、勝手に開けるなよ? ふりじゃないからな?」

「あー……あんな扉が出てな? 中に周囲より強めの、その時はウェンディゴが出たんだわ」

「ドロップや経験値的にはおいしいと言えるんだが、その分リスキーな相手が出そうだよなぁ」

 

 フィーネは今回は別にどうでも良さそうな顔をしている。

 ムルルはやる気を見せている。

 

「どうする?」

「う~ん……」

 悩むタケルとアキラ。

 

「よしっ、やろう!」

 エリリの言葉にドアが開く。

 

「その言葉が聞きたかった!!」

 

「「そっちが開けちゃうのかよ!?」」

 

「既に5つのパーティーにスルーされているのだよ!」

「「「あー……」」」

 

 

 開いたドアの先、そこに居たのは悪魔と言うより不審者だった。

 

 黒いゴムの雨合羽、黒のゴム長靴、ゴム手袋、手にはゲートボールのスティックを持っている。

 

 

「analyze 鬼神トール(劣化分霊) ……劣化し過ぎだろ!?」

「う、五月蠅い! 雷神が感電ってネタをお前ら面白がり過ぎだ! 見ろ、対策はバッチリだぞ!?」

「何故にゲートボールのスティック?」

「劣化というのは概念が希薄になるんだ、仕方ないだろ!! ハンマーに近い形状を取れただけでも幸運なんだ!」

「(今の内にゴム手袋をこっちもしといてっと)まあ、効かないだろうがお約束ってことで、行け、フィーネ!」

「いっくよー、ジオ! あー、無効じゃないけど耐性だ、つまんなーい!」

「貴様ら! 会話するフリして攻撃とは!」

「いや、それが人間と言うものだよ、ソアー」

「英語読みするな! それだとアメコミヒーローになるだろ!」

「おお、固えな、結構!」

「だから、会話するフリして死角から殴るな!」

「隙アリ!」

「…………♪」

「あ、トールって自分でも電撃系使うんだっけ? 私ちと下がるね?」

「あーペルソナの?」

「そ、弱点出来ちゃう点はリスクだよねぇ」

 

 

 逆上したトールを更に煽りつつ戦うタケルとアキラ、張り切ってゴム装備のために炎熱弱点になってしまったトールにアギを飛ばすムルル、そしてお気楽傍観者モード時々手伝いといったフィーネとエリリ。

 

 高位分霊ならともかく、これ以上低くすると概念を保つことすら困難になるというレベルの劣化分霊。

 タケルの鈍器が唸り、感電対策を取ったにも関わらず倒されるトール。

 

 実に哀れなものである。

 追い討ちをかけるようだが、一連のやり取り、エリリは電撃弱点ゆえの退避のフリをして動画を撮影していた。

 ネットで動画公開する気満々である。

 本体が怒りのために降臨しかねない鬼畜の所業だ。

 

「いとあはれ……、本体とか高位分霊は滅茶苦茶強いのにねぇ」

「お疲れ~、流石に体力はあったなぁ、あと少しからが長かった」

「……………………! …………♪」

「うんうん、ムルルは頑張ったな!」

「ぶぅ、あんな格好してなきゃ私の独壇場だったのに!」

「あー……まあ、そういう相手も居るわな、反射じゃないだけマシと思わないと」

 

 多少の怪我はあったものの、悪魔をして卑怯とののしられる戦いぶりで無難な勝利を収めたタケルたち。

 次はドロップの確認である。

 

「魔石と雨合羽だった…」

「宝玉とゴム長靴…」

「宝玉とゲートボールスティック!」

 

「ドロップは手に入れた人のものってことで!」

 今日はタケルが真っ先に声を上げる。

「異議無ーし!」

 ゲートボールのスティックを手に入れたエリリも賛成。

「なあ、雨合羽と宝玉交換してくれない?」

 アキラは渋っている。

 

「俺だってゴム長なんだぞ?」

「タケルは既に花瓶、ゴム手袋だからいいじゃないか!」

「耐性同じ装備増えても意味無いからいらん!」

 

「どうしても嫌だったら売るかオークション出せばいいんじゃない?」

「オークション?」

「DDSの」

「あれって仲魔とかだけじゃないの?」

「アイテムを出せるよ? ま、売れずにそのまま戻ってくることもあるらしいけど」

「「そっか!」」

 なんとか諍いのタネも収まって、大きなバトルでそれなりにアイテム消費もしたということで校門まで戻って解散。

 

 もちろんフレ登録は済ませた。

 

「「「じゃ、また!」」」

 

 二人と別れ、ホームへの道を歩く。

 フィーネは出しっぱなし、ラストの戦闘で頑張ったムルルは抱っこして欲しそうにしてたので、「ちょっとの間な」と言って人通りの少ない通りを歩く間だけ抱っこして進む。

 

「都電走ってるんだなぁ、深夜帯に幽霊都電とかイベントありそうじゃね?」

「あー、今度乗ってみたーい!」

「…………♪」

 

「へえ、ここ小学校なんだ」

「子供が遊んでるね」

「お、このお店駄菓子売ってるのか!」

「駄菓子って何?」

「うーん、安いお菓子。例えば、フィーネがいつも買ってるプリンの値段で、これとこれとこれ、更にこれまで買える」

「おー! 凄いんだね、駄菓子! でもプリンやアイスもおいしいし……」

「色々買ってみるか、気に入ったのあれば、コンビニでも売ってるヤツもあるし……」

 フィーネにあんこ玉、ムルルに糸引き飴、自分は串のアンズを食べる。

 色々と買った筈の駄菓子は、ホームにたどり着く前に全て消費されるのであった。

 

 

 




東中野から歩いていける大学……分かる人には分かりますよね

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