不運にも勇者に選ばれてしまった勇者部所属の中学生結城友奈、東郷美森、犬吠埼風、犬吠埼樹の四人。
その四人が勇者に選ばれてから1ヶ月半が経過し、友奈たちは忙しい日々を送っていた。
その間はバーテックスが現れることはなかったのだが、今日また現れてしまった。スマートフォンのアラームが鳴り響く。戦うために神樹が作った樹海に入り、スマートフォンのアプリを使って勇者の姿になる。
バーテックスを発見し、立ち向かおうかとしていた。
――その時だった。
急に何者かがバーテックスに攻撃を仕掛け、一人であっという間に倒してしまった。それとほぼ同時にまた違う人影が友奈たちに近付いてきた。
「どうも~。勇者の皆さ~ん」
その人影は一人の少女だった。間延びした口調で話す彼女はどこかの誰かを匂わし、その姿はどこかの誰かと瓜二つなのだが、もちろんそれを知る者はその場にはいない。ついでに言えば、髪は拘りもなくただ短くするためだけに、肩あたりでまっすぐ横に切られた後ろ髪がその誰かとの唯一の違いと言えよう。
「何してんのよ!
バーテックスを倒したもう一人の灰色の髪の少女が安堵した様子で近付いてくる。
「挨拶してたんだよ~」
「少しは手伝いなさいよ! まあ、私一人で十分だったけど!」
「こういうのはね、役割分担が大事なんだよ~」
「役割分担って、あんた特に何もしてなかったでしょ!」
突然始まったコント?に勇気を出して友奈が割り込んだ。
「ええっと……誰?」
声をかけられた二人は友奈たちの方に向き直し、灰色の髪の少女が
「そろいもそろってボーっとした顔してんのね。こんな連中が神樹様に選ばれた勇者ですって?」
と鼻で笑いながら言い放った。
「あのー」
「何よ。ちんちくりん」
「ちん?」
「私は三好夏凜。大赦から派遣された正真正銘、正式な勇者。そしてこっちが私と同じ――」
夏凜が紹介しようと目を移した先には、眠そうに立ったままうつらうつらとしているもう一人の少女の姿だった。
「ちょっと望乃! せっかく人が喋ってるのに寝ないの!」
「大丈夫。寝てない寝てない。で、何だっけ~」
「自己紹介よ! 自己紹介! もう自分でしなさいよ!」
「えっとね、私の名前は
「と、いうわけで、あんたたち用済みだから。はい、お疲れ様でしたー」
「えええ!」
あまりのことに全員声をそろえて驚いた。
「何言ってるの~? 夏凜ちゃん。私たちは護衛だよ?」
その言葉に少しほっとした勇者部四人だった。
その次の日、その二人は友奈と東郷のクラスに転校してきた。
二人とも両親の都合で転校してきて、転入試験もほぼ満点だったとのことだ。
夏凜は凛々しく立っていたが、望乃は寝そうに――というかもうほとんど寝てしまっていて、紹介も夏凜が軽めに済ませたのだった。
放課後になり、勇者部の四人に夏凜と望乃を加えた六人で集まっていた。
「そう来たか―」
「転入生のフリなんて面倒臭い。でもまあ、私と望乃が来たからにはもう安心ね! 完全勝利よ!」
隣で眠そうにしている望乃をよそに夏凜が話を進めていく。
「なぜ今このタイミングで? どうして最初から来てくれなかったんですか?」
「私だってすぐに出撃したかったわよ。でも大赦は二重三重に万全を喫しているの。最強の勇者を完成させるためにね!」
「最強の勇者?」
「そう。あなたたち先遣隊の戦闘データを得て、完璧に調整された完成型勇者。それが私と望乃。私たちの勇者システムはバーテックス用に最新の改良を施されてあるわ。その上、あなたたちトーシロとは違って、戦闘のための訓練を長年受けてきている!」
「黒板に当たってますよ」
夏凜が箒を持ってポーズを取るが、後ろの黒板に当たって締まらない。
「夏凜ちゃん、うるさい~」
眠そうに目をこすりながら夏凜から箒を取りあげる。
「望乃からも言ってあげなさいよ!」
「ん~? とりあえず、この人たちは先遣隊じゃないし、私たちがすぐに来れなかったのは訓練を受けていないこの人たちに経験を積ませるため、だったはずだよ~」
そう言いながらあくびを噛みしめる。
「そ、そうなの?」
「二人ともしつけがいのある子たちねー」
「何ですって―!」
「あわわわ。喧嘩しないで」
風の言葉に過剰に反応する夏凜を見て樹が慌てて止めに入る。
「まあ、いいわ。とにかく大船に乗ったつもりでいなさい。特に望乃はあなたたちが思っているよりも遥かに強いから」
その後友奈と呼び方で少し話して、その次に言った
「ようこそ、勇者部へ」
という言葉で夏凜が驚いた様子を見せた。
「は? 誰が?」
「夏凜ちゃん」
「部員になるなんて話、一言もしてないわよ!」
「え? 違うの?」
「違うわ。私はあなたたちを監視するためだけにここに来ただけよ。ねえ? 望乃?」
「私は部員になるよ~。楽しそうだし~」
「え? なるの?」
自分と同じだと思っていた望乃の裏切りに戸惑いを隠せない夏凜。
「どうせここには来ないといけないんだし、部員になったほうが良いと思うよ~」
「まあいいわ。そういうことにしておくわ」
望乃の説得により夏凜が折れる。
「その方があなたたちを監視しやすいでしょうしね!」
「監視監視って、あんたねえ。見張ってないと私たちがサボるみたいな言い方やめてくれない?」
「偶然適当に選ばれたトーシロが大きな顔するんじゃないわよ」
その言葉を聞いて、風が少しむっとしたような顔に変わる。
「でもさ~、私はどちらかと言うと監視される側だと思うんだよね~」
確かに、と東郷と風は思ったが、口には出さなかった。
「望乃は大丈夫よ。それは私が一番よく知ってるわ」
「そっか~。それと……いや、何でもない」
望乃が何かを言いかけたが、言葉を止めてしまう。その望乃の言葉にあまり深い意味はないだろうと思い込み、再度問いただすものはいなかった。
「とにかく、大赦のお役目はね、おままごとじゃ――」
そこで途切れ、夏凜が声にならない声を発する。
夏凜の精霊が友奈の精霊にかじられていたのである。その後友奈が弁解したり、精霊を褒めたり、東郷に精霊が三体いることを教えたりしていた。
そこで友奈が望乃に
「そういえば望乃ちゃんの精霊はどんなの?」
と聞いたのだが、樹が
「どうしよう、夏凜さん」
と嘆いていたので有耶無耶となった。
樹が嘆いていたのはタロットカードが『死神』のカードだったからだった。みんなが「不吉」だと言う中で「不吉じゃない」と言い張る夏凜の横でなぜか望乃が深刻そうな顔をしていた。
「事情は分かったけど、学校にいる間は上級生の言うことを聞くものよ。事情隠すのも任務の中にあるでしょ」
風が年上らしいことを年上らしく言った。
「まあいいわ。残りのバーテックスを殲滅したらお役目は終わりなんだし。それまでの我慢ね」
「うん。それまで頑張ろうね!」
虚勢を張る夏凜に、友奈が笑いかける。まだ深刻そうな顔をしていた望乃も夏凜に笑いかける。
「頑張るのは当然! 私の足を引っ張るんじゃないわよ!」
恥ずかしいのか、皆に背中を向けてそう言い張る。
「ねえ、一緒にうどん屋さん行かない?」
「必要な「行きた~い!」」
夏凜の言葉を遮って望乃が大声で叫ぶ。
「相変わらず食い意地張ってるわね。でも、私は行かないわよ」
「もう帰るの?」
友奈の問いかけにも答えずに夏凜は部室から出て行ってしまった。
そして望乃は少し考えるような素振りを見せた後
「ごめんね~。私、夏凜ちゃんが心配だから追いかけるね~。誘ってくれたのに本当にごめんね~。また今度うどん屋さんに行こうね~」
少し早口で手を合わせて謝ってから、夏凜を追いかけて急いで出て行った。
結局その日は四人でうどん屋に行った。
「夏凜ちゃ~ん」
夏凜を追いかけていた望乃が追いつき、呼び止める。
「何よ。うどん屋に行くんじゃなかったの?」
「夏凜ちゃんと一緒に帰りたいから断ったんだ~」
「……まあいいわ。だったらさっさと帰って鍛錬するわよ!」
「あ、でも、何か食べ物買ってもいい?」
「仕方ないわね」
望乃と夏凜は並んで一緒に帰宅したのであった。
こうして、勇者部に新入部員が二人入ったのだった。
これは余談だが、その後のうどん屋にて、二人の話をしていたのだが、なぜ夏凜が望乃だけに心を許しているのか、なぜあの性格が正反対の二人の仲が良いのかが勇者部の四人には分からなかった。
初めまして、桃の山です。
小説を書くのは初めてで、何かと至らない部分もあるとは思いますが、よろしくお願いします。
この設定は元々アニメが終わった時点で考え付いたものなので、その後に出た設定と矛盾があるかもしれませんが、そこはどうか目をつむってください。