数日が経った。勇者部の部室では、友奈が東郷から借りたHTMLの本を見ながらパソコンを使っていた。
同じく部室にいる風と樹は、勇者部の活動を紙にまとめていた。
「やっぱり三人だと調子出ませんね」
パソコンに伸ばしていた手を止めて、友奈が話しかける。
『かりんさんとののさん、ずっと来てないですね』
「SNSにも返信がなくて……。夏凜ちゃんは授業が終わったらすぐ帰っちゃうし、望乃ちゃんは学校休んでるし……」
「そっかー」
三人とも二人を心配していた。特に望乃は学校にすら来ていない上に、元々サボるような子ではないので、さらに心配なのである。
すると友奈が何かを決意したような表情で立ち上がる。
「私、夏凜ちゃんと望乃ちゃんを探してきます」
そう言うとすぐに部室を出て行った。
友奈が始めに向かったのは二人の家だった。しかし、どちらのインターホンを押しても反応はなかった。
友奈は二人の場所の見当がつかず、当てもなく探し回った。探しても探しても二人は見つからない。それでも友奈は二人が行きそうな場所を探して回った。
望乃が行きそうな食べ物屋を探したり、望乃が以前買っていたという弁当屋も探したりした。
そして日が暮れ始めた頃、浜辺で一人の少女――夏凜が二本の木刀で鍛錬をしているところを発見した。
「夏凜ちゃーん」
大きく手を振りながらそう呼びかけると夏凜が友奈に気が付いた。――のだが、その瞬間友奈が何もないところでこけてしまう。それに夏凜が近付いて、手を差し伸べて立ち上がらせる。
「何しに来たの?」
「部活へのお誘い! 最近夏凜ちゃんがサボりまくってるから。このままじゃ、サボりの罰として、腕立て伏せ千回とスクワット三千回と腹筋一万回させられることになるんだけど」
「け、桁おかしくない?」
「でも、今日部活に来たら全部チャラになりまーす。さあ、部活に来たくなったよね?」
「ならない」
「部活、来ないの?」
「元々私、部員じゃないし……」
「そんなこと――」
「それに、もう行く理由がないのよ!」
夏凜が友奈の言葉を遮って強くそう言う。
「理由って?」
「私は、勇者として戦うためにこの学校に来た。あの部にいたのは、戦うために、他の勇者と連携を取ったほうが良いからよ」
夏凜が右手に持つ木刀をギュッと握りしめる。
「それ以上なんて……ない。大体、風は何を考えてるのよ! 勇者部はバーテックスを殲滅するための部なんでしょ?バーテックスがいなくなったら、そんな部もう意味ない!」
「違うよ。勇者部は、風先輩がいて、樹ちゃんがいて、東郷さんがいて、望乃ちゃんがいて、夏凜ちゃんもいて、みんなで楽しみながら人に喜んでもらうことをする部だよ! バーテックスなんていなくても、勇者部は勇者部!」
「でも……」
「戦うためとか関係ない!」
「でも、私……戦うために来たから、もう戦いが終わったから、だからもう私には価値がなくて、あの部に居場所もないと思って……」
「勇者部五箇条ひとーつ」
突然の友奈の声に夏凜が少し驚く。
「悩んだら相談! 戦いが終わったら居場所がなくなるなんて、そんなことないんだよ。夏凜ちゃんがいないと部室は寂しいし、私は夏凜ちゃんといるの楽しいし、それに私夏凜ちゃんのこと好きだから!」
その言葉に夏凜の顔がパッと赤くなる。
「ったく、しょうがないわね! そこまで言うなら行ってあげるわよ。勇者部」
「やったあ! じゃあ後は望乃ちゃんだね!」
「そういえば望乃、学校にも来てなかったわね」
「うんそうなんだ。夏凜ちゃん、居場所わかる?」
「たぶん家だと思う。あの子も私と同じような理由で言ってないんだろうし、人一倍他人を大切にする子だから、あんたたちの体のことで責任を感じてるのかもしれないわね」
「でも、一度行ってみたけどいなかったよ」
「それはたぶん居留守よ。私と違って学校にも行ってないんだから、顔を合わせずらいのよ。だから簡単に出て来ないわ」
「すごい。さすが望乃ちゃんマスターだね!」
「何よそれ! とにかく、電話をかけながら向かうわよ! 望乃は電話の方が出る可能性が高いから」
「じゃあ行こう! 夏凜ちゃん!」
「言われなくても行くわよ!」
友奈と夏凜は走って望乃の家に向かった。
そして時間は遡って友奈が二人を探しに出た頃。
夏凜の予測通り望乃は部屋の片隅でうずくまっていた。望乃はここ数日何も口にしていなかった。睡眠もとっていなかった。望乃はひたすら悩んでいた。その内容は、自分はここにいても良いのか、だった。
脱力して足を伸ばし、目の前の壁を見つめる。その顔は数日食事も睡眠もとっていないにも関わらず、普段と何の変わりもない顔だった。
――私何してるんだろう。こんなとこで、何もせず……。
学校にも行ってないな。みんな心配してるかな。でもしょうがないもんね。私にはみんなといる資格なんてないんだもん。
守るなんて都合の良いこと言っておきながら、結局は何もできなくて、その上みんなのことを騙してる。言おうにも言えないとはいっても、騙してることに変わりはないんだよね。
そんな私が勇者部のみんなといていいわけないよね。
私は元々大赦の指示でここにいたっていうのもあるけど、夏凜ちゃんに友達ができてほしいっていうのもあった。それはもう達成されて、私はここに残る必要性がない。なのに、何でこんなにも悩んでいるんだろう。
その時、インターホンが音を鳴らした。突然のことにビクッと体を震わせる望乃だったが、おそらくそれは夏凜か勇者部の誰かだとすぐに理解できた。なぜなら、それ以外にこの家を知っている者はいないし、大赦の人間がわざわざ来るわけもないからだった。
勇者部の人たちは優しい。だから自分のことを心配して迎えに来たんだろうということも理解できていた。
そこまで分かっていても、望乃は出ることはしなかった。勇者部は優しいからこそ、騙している自分が傍にいてはいけないと思い込んでいた。
それから何度かインターホンが鳴ると、その音は止んでしまった。
――心配かけちゃってるな~。でもこれが本来の姿なんだよね。
なんたって私は、勇者じゃないんだから。
そういえばご主人様が言ってたな。友達は大事にしろって。
この前相談した時も、残るかどうかはあなたがまだ一緒にいたいかどうかだって言われたな。
まだ一緒にいたいか、か……。私にはあまりわからないな。
でも……楽しかったんだと思う。二年前の記憶と同じで、ここでの日々が楽しいと感じていたんだ。
望乃は隣に放置していた携帯を手に取った。そこから夏凜の誕生日会の時に撮った写真を画面に出す。それをしばらく見ていて
「一緒にいたいなあ」
と呟いた。その瞬間、携帯の画面が電話の画面に切り替わる。突然の出来事に、望乃は反射的に通話ボタンを押してしまう。
『もしもし? 望乃?』
携帯を耳から離していても聞こえるほどに大きな声で夏凜の声が聞こえてくる。望乃は携帯を切らずに耳に当てて、言葉を返す。
「夏凜、ちゃん?」
『あんた今どこにいんのよ?』
「え、家」
『あっそ。じゃあ今から行くから』
「え? ちょっと、夏凜ちゃん?」
電話は望乃の返答も聞かずに切れてしまった。
その後すぐにインターホンが鳴る。夏凜である。
しかし望乃は出るのを躊躇ってしまう。騙している以上、いつか必ずそれがバレる日が来る。自分がここを離れることに日が来る。だったら早めに別れておくべきではないか、そう思えて仕方ないのだ。
「望乃、出てきなさい!」
「夏凜ちゃんそんなことしたらダメだよ」
声で一緒に友奈がいることもわかった。
「望乃、私はここに――勇者部にいることを決めたわ。だからあんたも決めなさい! あんたにとって何が一番大切かをね!」
――何が一番大切か……。そんなの私の存在意義は……違う。ご主人様に言われたんだ。自分でちゃんと決めたんだ。私は『友達』を一番大切にするって。
「望乃ちゃん。責任なんて感じなくていいから、勇者部に帰ろう? みんな、待ってるからさ!」
――こんなに心配されて迎えにも来てくれたのに、それをないがしろにするわけにもいかないよね。なんたって、友達なんだから。
望乃はドアを開けて夏凜と友奈の前に姿を現した。
「心配かけて、ごめんね」
望乃はそう言いながら二人に抱き付いた。
「ちょっと、いきなり抱き付かないでよ!」
「いいじゃん、夏凜ちゃん。こういうのもさ」
「まあ、別にいいけど」
夏凜と友奈のやり取りを見ていた望乃が何かに気付く。
「まさか、ゆうかり?」
「ユーカリがどうしたの?」
「百合だよ~。百合! 私はふうかりだと思ってたんだけど、まさかゆうかりだなんてね~。でもいいと思うよ~!」
望乃の話に友奈が頭にハテナを浮かべる。
「? 夏凜ちゃん分かる?」
「放っといて行くわよ、友奈」
話を振られた夏凜は返答せずに友奈の手を引いて歩き始める。
「あ、待ってよ~。夏凜ちゃ~ん!」
その後を望乃が追いかけて行った。そして夏凜と望乃は勇者部に戻ってきた。
その日の夜、夏凜は望乃に言われた通り、大赦に『ここに残ること』の申請を送っていた。
そしてその次の日。この日は東郷の退院の日だった。みんなで迎えに行き、その日の夕方に勇者部全員で夕焼けを見ていた。
みんなで戦いのことを振り返る。その時に、メールの受信の音が鳴る。風、夏凜、望乃に届き、それぞれの内容は風が『身体変調と満開の関連性は調査中で、変調も一時的なものだと思われる』といったようなもので、夏凜の方は『残ることを受理する』といったようなものだった。
同じくメールを確認していた望乃に夏凜が内容を聞くが
「夏凜ちゃんと同じ内容だよ~」
と笑顔で言われたが、実際は『一応受理しました。先日決められた「その時」まであなたが讃州中学にいることを許します。』という内容だった。
もうすぐ夏休みだということで、計画を考えながら楽しそうに笑う勇者部を見て望乃は思う。
――始まりがあれば終わりもある。出会いがあれば別れもある。私はずっとここにいることはできない。私は勇者じゃなくて、みんなと対等でもないからだ。
でも、もう少しみんなと一緒にいたい。これは私のわがまま。
――もう少しだけ……。
シリアスが強くなってきました。
でも次は水着回です。