旅館に戻った勇者部は、浴衣に着替えて部屋に行くと、既に食事が用意されていた。用意されていた食事は予想よりもはるかに豪華なものだった。それに驚きを隠せない勇者部一行。東郷だけは席に座っていた。
「ねえねえ、これって食べれるの~? 硬くて食べられそうにないけど~」
「それは中身を食べるの」
カニを指差して質問した望乃に、東郷が優しく教えていた。
あまりの待遇の良さに風が部屋を間違えていないか聞くが、間違ってはいなかった。
望乃は夏凜の隣で東郷の前の位置に座る。
「好待遇みたい」
「ここは大赦がらみの旅館だし、お役目を果たしたご褒美ってことじゃない?」
「つ、つまり食べちゃっていいと?」
「食べていいからここにあるんじゃないの~?」
そんな中樹が、味覚がない友奈を心配するが、当の友奈は違う楽しみ方で食べていた。
「いただきます!」
問題がないということで、みんなで食べ始める。
その時に携帯を出して思い出として写真に撮る。カニを風と夏凜が目の前に持っていて、望乃が頭にのせている写真や、撮っている友奈以外の五人が写っていて、望乃は夏凜に抱き付いている写真などを撮った。
「場所的に私が『お母さん』をするから、ご飯おかわりしたい人は言ってね」
「おかわり!」
東郷が言い終わった瞬間望乃がおかわりをしていた。
「時々言ってるけどさ、いつかこういうのを日常的に食べられる身分になりたいわね」
「そういえば望乃ちゃんの実家って裕福じゃなかった?」
東郷がおかわりを渡しながら聞く。
「少なくとも私は食べたことないよ~」
そこで話は女子力の話から東郷のきれいに食べる姿にみんなが見入る。
「そういえば望乃もがつがつ食べる割には結構きれいなのよね」
「お嬢様の宿命というやつかしら」
それに対抗して自称マナーにうるさいという夏凜だったが、迷い箸に刺し箸をしていた。そして楽しく食べればいいという結論に達していた。
「私の邪眼が新たな生贄を欲しているー!」
『おかわりが欲しいそうです』
風が樹の通訳ありでおかわりを頼む。
「普通に言いなさいよ」
「三杯目だから遠慮してんの」
「遠慮してたら望乃ちゃんに食べられちゃいますよ」
望乃は既に五杯目に到達していた。
「望乃はいいわね。遠慮とかに無縁そうで……」
「美森ちゃんおかわり~!」
そんな調子で食事を完食した勇者部が続いて向かったのは、お風呂だった。みんなで気持ちよさそうに入っていた。
「何でそんな端の方にいるの?」
なぜか夏凜だけ他の五人とは距離を開けていた。誤魔化す夏凜だったが、恥ずかしいことが風にバレてしまう。
「女同士で何恥ずかしがってんだか」
「べ、別に照れてないし!」
その場で立ち上がってポーズを取る風に、目線をそらす夏凜。
「夏凜ちゃんは、誰かと一緒にお風呂に入るの初めてだからね~」
望乃が一応補足をしてくれていた。
そんな中風が変態親父のような笑い声を上げながら東郷を見ていた。
「普段何を食べてれば、そこまでメガロポリスな感じになるのか、ちょっとだけでもコツとか教えてもらえると……」
風が見ていたのは東郷の胸だった。隣にいる樹も気になるようだった。
「普通に生活してるだけです」
「いやいやそんなご謙遜……」
そんなことをしている隙に夏凜が今のうち、と洗い場に向かう。
「はーい、お背中流しまーす!」
そこに現れたのは友奈だった。
「背中流すのうまいって、お母さんに褒められたこともあるんだよー」
「ちょ、ちょ、くすぐったいってばー!」
風呂の中は非常に騒がしくなっていた。その中でただ静かに浸かっていた人が一人。
「みんな、ゆっくり浸かればいいのに……」
望乃はのんびり風呂に浸かっていた。
勇者部は風呂から上がり、寝る準備に入っていた。望乃は友奈の隣で夏凜の正面の位置になった。全員が寝そべった状態で話が始まる。
「女六人集まって旅の夜。どんな話をするか、わかるわね? 夏凜?」
「え、えっと、辛かった修行の体験談……とか?」
「違う」
「正解は、日本という国について、存分に語る、です」
「それも違う!」
東郷が手を上げながら答えるが却下されてしまう。
「樹、正解は?」
『コイバナ?』
「そう、それよー! 恋の話よ!」
「女の子同士の、だね~!」
望乃が珍しく鼻息を荒くする。
「何でよ。恋って言ったら男女のでしょ」
「な~んだ~」
「えっと、今恋をしている人」
友奈が少し遠慮しながら聞くが、誰も手を上げない。
「そういうあんたは何かあるの? 風」
それを聞いて風が待ってましたと言わんばかりに語り始める。
それを聞いて夏凜がすごい驚きを見せるが、他に驚いてる人はいない。理由を聞くと、風はこの話を何度も何度も話しているのだそうだ。
「え、でも望乃は初めてでしょ?」
「確かに私もはじめて聞いたよ~。でも、女の子同士ならまだしも、男女はね~興味持てないな~」
「そ、そうなの……」
「ってことは、望乃は好きな人もいないのねー」
そう風が軽く茶化す。
「ん~? 好きな人ならいるよ~」
その言葉に全員が驚きを見せる。
「え? 嘘? いるの?」
「誰? 誰?」
「勇者部のみんな~」
少しばかりの沈黙が訪れる。そして今までの流れでこの答えが予測できなかった自分たちを少し恥ずかしく思った勇者部だった。
それから少しすると、夏凜が既に寝入っていた。
それを見て、風が自分たちも寝ることを提案する。そうして電気のスイッチに一番近い樹が電気を消す。挨拶をしながら布団に入る。こうして勇者部の一日は終わった。
「あの日もこんな感じの、暗いじっとりとした夜でした」
――と思いきや、東郷は定番の怪談を始める。
「その男は、帰りを急いでいました。でも、家への近道をしたのが間違いだったんです」
それを聞く犬吠埼姉妹の顔が青ざめていき、友奈も少し怖がっていた。
「お墓のところを通ったあたりから、自分をつけてくるような音が聞こえてきて――」
「何でこのタイミングで怪談なの?」
「私そういうの苦手なのよ」
訴える友奈と風だったが、東郷はそれを聞き入れない。
「男は、思い切って後ろを振り替えることにしたんです。すると――」
「ぎゃああああ!」
突然風が叫びを上げ、友奈と東郷が驚く。その理由は樹が怖くなって風の布団にもぐってきたからだった。
「ねえねえ、今の話いつになったら面白くなるの?」
望乃がのんきな声を出す。
「望乃ちゃん、怖くないの?」
「怖い~? ……わかんない」
「いいわね怖いもの知らずで」
「んん、うるさい!」
話していると、夏凜が寝言で訴えてきたので、今度こそ本当に寝入ることにした。
そして夜が明けて、友奈が目を覚ますと既に東郷が起きていた。
「肌身離さずだね、リボン」
東郷の手にはいつもつけているリボンが握られていた。
「私が事故で記憶を失ったときに、握り締めていたものだったって。誰のものかもわからないけど、とても大切なもの。そんな気がして……」
「そっか」
それを二人に気づかれないように聞いていた望乃は、嬉しそうに微笑んでから再び寝床についた。
勇者部は今から帰宅で、荷物を持って外に出ていた。荷物を車に乗せて、風に呼ばれた勇者部は海を眺めていた。
「で、どうしたんですか? 風先輩。改まって」
友奈が風に聞いた。東郷と夏凜が風のポーズについてツッコむが、無視して話を進める。
「帰る前に私たちには、やるべきことがあるでしょ?」
「何かあったっけ?」
夏凜が悩む横で、樹が文字を書いたスケッチブックを見せる。
『ナンパされてないとか言いそう』
「ちゃうわ! 今は一応勇者部の夏合宿なのよー。少しは内容のある話をしないと!」
「具体的には~」
「文化祭とか、文化祭とか、文化祭とか!」
風が指を折りながら言った。
『でも確かにお姉ちゃんの言う通り』
「劇をやるって予定になりましたよね? 中身をつめていかないと!」
「これは車の中で予定や配役などの話し合いね」
「とりあえず私は割とどうでもいいところね~」
手を上げながら自分の配役を提案する望乃。
「あら意外ね。望乃なら劇に出たいとか言うと思ったのに」
「だって~、本番中に寝ちゃったりしたらだめだから、私が抜けても支障がないところの方がいいかな~って」
「自覚あるんだ」
「応援してるよ~!」
『参加してください』
そんな調子で話し合っていた。
「よーし、文化祭絶対に成功させよう!」
「おー!」
友奈の掛け声を合図に、みんなで拳を空に掲げた勇者部だった。
最後の日常回が終わりました。
次は問題のアニメ八話です。