友奈と東郷は目の前にいる、望乃と瓜二つの少女に困惑していた。
「ようやく呼び出しに成功したよ~。わっしー」
「え? わっしー? ていうか、なんでこんなところにベッドが?」
「あなたが戦ってることを聞いて、ずっと呼んでたんだよ」
「え、えっと……」
「私はおそらくあなたのことを知りません」
少女は少し寂しそうな表情になった。そして無理をするように笑った。
「わっしーっていうのはね、私の大切なお友達の名前なんだ~。いつもその子のことを考えていてね、つい口に出ちゃうんだよ~。ごめんね」
「しかし私はあなたの姿には見覚えがあります。一つお聞きします。あなたと望乃ちゃんの関係性は何ですか?」
「残念だけどそれは私には答えられないよ」
「なぜですか?」
「それはあの子自身が、自分の口で言いたいらしいからね~。もう少ししたら来ると思うから、それまで待っててね」
東郷はそれほど望乃に対して深くは考えていなかった。
目の前の少女はただ顔が望乃と瓜二つではあるが、逆に言えばそれだけでしかないのだ。おそらく望乃はこの少女と血縁関係者。可能性的に高いのは妹だろうと思っていた。
実際、顔と声は望乃と同じであるが、性格や体格は違うように見える。口調も望乃とは少し違っている。
「私は乃木園子って言うんだ~。一応あなたたちの先輩ってことになるのかな~」
「先輩……?」
友奈が先輩という言葉に驚いていた。二人が園子に自己紹介した後、東郷は今の言葉と先ほどまでの考えを合わせて考えていた。
――この少女が先代の勇者ということは、望乃ちゃんは彼女のこの状態を知っていたはず。つまり望乃ちゃんは勇者の秘密を隠していた。もしかしたらその罪悪感から自分から正体を明かしたいと思ったのかもしれない。
しかし東郷は少女、もとい園子の名前を聞いて、ある疑問を感じていた。
「……あなたの名前、並び替えたら望乃ちゃんの名前になる」
「違うよ。その逆だよ~」
東郷の言ったことの逆、つまりは『園子の名前を入れ替えたら望乃の名前になる』のではなく、『望乃の名前を入れ替えたら園子の名前になる』ということだ。それを意味していることは――
「望乃ちゃんの名前は偽名?」
園子の言い分から見て、偶然ということはない。
――望乃ちゃんの名前が乃木さんの名前から付けられたのなら、偽名以外考えられない。しかしなぜ隠す必要があったのか。乃木さんのことを知っている人間は勇者部にはおそらくいない。だというのに、なぜ望乃ちゃんは偽名を使っていたのか。
東郷がいくら考えても答えにたどり着くことができない。
「その通りだよ~。美森ちゃん」
そう答えたのは園子――ではなく、同じ声ではあるが唯一この呼び方で東郷を呼ぶのは、望乃ただ一人である。突然現れた望乃に、友奈と東郷は驚きを見せる。
「遅かったね~」
「ちょっと、遅くなっちゃった~」
同じ声同士が話していると少し混乱する。しかしそんなことは気にもせずに話を続ける。
「望乃ちゃん、何で偽名を使っていたの?」
「そうでもしないとみんなと会えないからだよ~」
「どういうこと?」
「ん~。もう正体明かした方が説明しやすいよね~」
「望乃ちゃんの正体……」
友奈が喉をゴクッと鳴らす。東郷は今まで動かし続けていた頭を止めて、望乃の次の言葉を待った。
望乃は意を決したように口を開いた。
「私の正体は――精霊だよ」
「……え?」
二人の口から洩れたのはそれだけだった。
「主人は乃木園子。真の名は『妖狐』。勇者なんて立派なものじゃない、主人に仕えるただの精霊だよ」
望乃が改めて自己紹介をするが、二人から返答は返ってこない。二人ともまだ頭の整理が付いていないことに気付いた望乃は、自分自身の矛盾点をあげ始めた。
「矛盾ならいくらでも出てくるよ~。何で満開の経験があるような言動をしていたのに、みんなのように不可解な後遺症がなかったのかとか、何で戦いで攻撃を受けていたのに無傷だったのかとか、何で私の精霊を誰も見ていないのかとか……。でもそれは私が『精霊』ということなら、全部辻褄が合うんだよ~」
「そうなの?」
「そうなんだよ、友奈ちゃん。一番目のは、私にその知識があっただけだから。二番目のは、みんなの精霊みたいにガードを使えたから。私は他の精霊と違って自我を持ってるから、自分を守るためにも使用できるんだよ~。三番目のは、私自身が精霊だから他の精霊を所持することはできないから。ついでに言うと、私の勇者状態は模擬的なものだから、満開もできないよ~」
「望乃ちゃん、仮にあなたが精霊だとしても、おかしな点はあるわ。まずはその姿、声、戦闘技術、そして何より勇者の姿になっていたこと」
「さすが美森ちゃん。鋭いね~。私は『妖狐』だから化けることができるの。と言っても、私の場合は『コピー』だし、自由自在に姿を変えることもできないけどね~。もちろんその対象は主人である乃木園子。私は生まれた瞬間ご主人様をコピーしていた。コピーしたのは外見・身体能力、その人の全ての記憶とその時に感じた感情の動き、その人が元々持っていた考え方、それだけ。口調とか性格はコピーされてないから似せたの」
「何で?」
「コピーの役割って何だと思う?」
突然聞かれて友奈が少し戸惑う。
「コピー元に成りきること、ですか?」
東郷は冷静な様子でそう答えた。
「ご名答。言わば私はご主人様の分身。分身が全然違ったら存在する意味がないでしょ? つまりはそういうこと。勇者の素質もコピーしていたみたいなの。あと満開させたくなかったのは、ご主人様がその時に抱いた心情を知っているから止めたかったんだよ~。ご主人様がその立場なら、そうしたからね~。私は唯一主人から離れて行動できる精霊だから、身動きのとれないご主人様の代わりに行動してるんだ。ちなみに、この姿はご主人様の小学校六年生の時の姿だよ。私には身体が変化することはないから、大きさも重さも変わらないんだ~。それと私は意志疎通ができるからか、全ての精霊の統率も受け持ってるんだ~」
そこまで話すと、望乃は一息ついた。
「まだ私のことで質問ある?」
望乃が二人に、主に東郷にそう聞く。東郷は望乃に関して不可解だった点を全て答えられてしまい、困惑していた。なぜならこれで望乃が精霊である、ということになってしまったからだ。
「じゃあ、本題に戻ろっか~」
今までボーッとしながら望乃の話が終わるのを待っていた園子が口を開く。
「さっきの話で私が勇者として戦ってたことはわかってるよね?」
「はい」
「まあ、今はこんなになっちゃたんだけどね」
「バーテックスが先輩をこんなひどい目に遭わせたんですか?」
「あ~。う~んとね。敵じゃないよ~。この子を見たらわかると思うけど、私そこそこ強かったんだから~。えっと、あ、そうだそうだ。友奈ちゃんは満開、したんだよね?」
「え……?」
「二人ともしたよ」
園子の問いに答えたのは、園子のベッドの隣に従者のように立っている望乃だった。
「そっか。咲き誇った華はその後どうなると思う? 満開の後に、散華という隠された機能があるんだよ。満開の後、体のどこかが不自由になったはずだよ」
「……!」
「え? それって」
園子が明かした言葉に二人が驚いている時、望乃は申し訳なさそうな表情になっていた。
「それが散華。神の力をふるった満開の代償。華一つ咲けば、一つ散る。華二つ咲けば、二つ散る。その代わり、決して勇者は死ぬことはないんだよ」
「死なない?」
「それが私たち精霊が持つ絶対的な使命だからね」
「使命って?」
「勇者を死なせないことだよ。精霊は能力アップという建前で伝えられているけど、精霊の本来の役割は主人である勇者を死なせないことなんだ~。死に値する攻撃を受けた時は精霊が守っていたでしょ? まあ、二体目からの精霊はほとんど能力アップだけの存在だけどね~。そこに勇者自身の意志は関係ない。私以外の精霊はそういう仕組みで動いているんだ~」
「何で、そんなことを?」
「何でもなにも……勇者に死なれたら困るからだよ~。まだ精霊システムがなかった頃にね、勇者が一人戦死してしまったの。その時に大赦は同じように勇者が死ぬようなことが起こってはいけないっていうことで、精霊システムを追加したの。それと同じく満開システムと散華システムもね」
望乃がその話をした途端、園子が複雑そうな表情を浮かべていた。
「まあ簡単に言うとね、勇者は『死ねない』んだよ」
「で、でも、死なないのなら、いいことなんじゃないのかな?」
不安そうな顔をしていた東郷に友奈が必死にフォローを入れる。
「話を戻すけどね、それでね、戦い続けて、今みたいになっちゃったんだ~。元からボーっとするのが特技で良かったかなって。全然動けないのはきついからね。この子もよく話し相手になってくれるんだけどね」
「痛むんですか?」
「痛みはないよ~。敵にやられたものじゃないから~。満開して、戦いし続けて、こうなっちゃっただけだから~」
「じゃあ、その体は、代償で……」
「うん」
「っ!」
その時冷たく悲しい風が吹いた。それはまるで二人や園子の悲しみを映しだしたような風だった。
二人はこの短時間で二つの真実を知った。
今まで同じ部員として、仲間として、友達として、共に同じ時間を過ごして、笑い合ってきた小木曽望乃の正体。
そして、自分たちの先輩である乃木園子から告げられた、何とも残酷で悲しすぎる勇者の真実。
まだ中学二年生である二人の少女がこれらを受け止めるには、あまりにも重すぎたことだった。
予想以上に望乃の正体を説明するのが多くなってしまいました。そのため、オリジナル多めです。
精霊に関してはほとんど自己解釈と自己設定なので、あまり深くは考えないでください。
次回も割とオリジナル多めです。