小木曽望乃は勇者である?   作:桃の山

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 遅くなってしまいました。
 本当にこの時期は忙しいです。

 過去編突入です。


託された望み

 私が生まれて目が覚めて最初に見たのは、ベッドに横になっているご主人様だった。

 

「やっと目が覚めたんだね~」

 

 ご主人様はほぼ全身に包帯を巻いている状態なのに、笑いかけてきた。

 この時点で既に私の頭の中には全ての情報が入っていた。

 私が目覚めたことを知ると、すぐに大赦の医者が検査した。そして私という存在がどういったものなのかを教えられた。

 その時に自分の姿について知った。主人と全く同じ姿をしていた。

 ご主人様ってこんな顔だったんだ、なんてことを思っていた。

 大赦の人たちは半分神様みたいになったご主人様と同じ姿をしてるからか、『さま』付けで敬語を話していた。

 鏡を見ていて、少しはご主人様と変えた方がいいかなと思った。

 ご主人様的にも全く同じ姿の存在がいるのは嫌かもしれないと思ったから。

 とは言っても、私は妖狐らしいけど他の姿に変化することはできないみたいなので、別の形で変えることにした。

 

「何か切れるものある?」

 

 そう聞いた私にナイフが手渡された。それを受け取ると、長い後ろ髪を肩あたりのところで、横一線にナイフで切った。

 ちょうど邪魔だったしね。

 私は唯一自在に動くことのできる精霊という、特別な精霊だった。

 その理由はよくわからないけど、大赦は満開の回数が関係してると考えてるみたい。

 私は乃木園子の二十一番目の精霊だ。つまり、乃木園子が二十回目の満開した時に生まれた精霊なのだ。

 他の精霊をまとめられるということもあって、私は精霊の統率を任された。

 そんな特別な精霊と言っても、することがあるわけでもないので、主人である乃木園子の看病が役目となった。

 それと同時に、『コピー』としての役割のために、コピーされていなかった口調と性格を真似ていた。

 そのことにご主人様はあまり良い顔はしてなかった。

 そんなある時、私がいつも通りご主人様の看病をしている時にご主人様が話しかけてきた。

 

「ねえ、あなたはこんな毎日でいいの?」

 

 毎日ご主人様の看病をして、念のために検査をするだけの日々。それでいいのか、と聞いてきた。

 

「さあ。私は精霊だから命令に従うだけですよ」

 

「……あなたは私のコピーなんだよね~?」

 

「完全ではないですけどそうですね~」

 

「だったら私の代わりにお友達を作って楽しんでほしいな~。そして私にその報告もしてね~」

 

「でもそうしたら――」

 

「これは命令だよ~」

 

 異論を唱えようとした私の言葉を遮ってご主人様が言った。

 命令だと言われてしまえば私は逆らうことはできない。

 

「とりあえず可能か聞いてみます」

 

 ご主人様の命令は簡単に承諾された。

 ちょうどよく勇者候補で、毎日一人で鍛錬をしている子がいたからだった。

 その子の名前は三好夏凜。ご主人様と同じ年らしい。その子の兄が大赦に属している春信って人だから、最低限のことは知っていた。

 私はご主人様の身体能力もコピーしているため、一緒に鍛錬した方がその子の鍛錬も効率良くなると大赦は判断した。

 あとはその子とお友達になれば、命令の一つ目は達成できるけど、二つ目――つまり楽しむということは簡単にはできなさそうだった。

 精霊というものには感情が存在しない。なぜならそれは、本来主人を死なせないために存在する精霊には必要のないものだからだ。感情というものは時として判断を惑わせるもの。だから私たち精霊は感情を持ち合わせていない。それどころか害のあるものだと認識されている。

 だけど私はそれに少し興味があった。私はご主人様から記憶とその時に感じた感情をコピーしている。その感情を頭だけで理解したり、言葉で説明はできるけど、体感的には全くわからない。だから私は、その感情がどういうものなのか気になっていた。

 気になっていても感情が存在しないことに変わりはない。だから私が楽しむのは困難極まるだろう。そう思っていた。

 それから私の仕事に鍛錬が追加された。もちろん今まで通りそれ以外の時間はご主人様の看病且つ話し相手になっていた。

 人と接するなら人名が必要だということで、ご主人様に相談して、ご主人様の名前を入れ替えた『小木曽望乃』と言う名前にすることになった。

 そして私が鍛錬に参加する日が来た。

 指定されたところに向かうと、一人の女の子が座っているのが見えた。それが三好夏凜だということはすぐに理解できた。

 

「やっほ~」

 

 私は毎日のように真似ていたご主人様の口調で話しかけた。笑顔の作り方も知っていたので、笑顔でいた。

 声をかけられて、その子は少し警戒していた。

 

「あんた、誰よ」

 

「あれ~? 聞いてない? 私、今日から参加する予定なんだけど~」

 

「聞いてるわ。だけど勇者は私一人で十分。あんたは必要ないわ」

 

「ん~。でも命令だから、従わないとダメなんだ~」

 

「まあいいわ。好きにしたら? ついでに、力の差っていうものを見せてあげるわ」

 

 そう言いながら行ってしまった。

 私はこの子と友達になんてなれるのかなあ、なんてことを思っていた。

 力の差を見せつけられたのは三好夏凜の方だった。

 前言った通り、私はご主人様の身体能力をコピーしている。勇者の時に鍛錬をしていたご主人様の身体能力は三好夏凜の比じゃない。それに加えて、精霊が持つ性能の一つである身体能力向上を私は自身を対象にすることも可能なので、まだ鍛錬を初めて間もない三好夏凜では手も足も出ないレベルだった。

 

「……あんた、名前は?」

 

「えっと~、小木曽……望乃?」

 

「何で疑問系なのよ……」

 

「うん、それで間違いないよ~」

 

 友達になってくれるのだと思っていた私は笑顔で答えた。

 

「そう、だったら小木曽望乃! 絶対に私が越えてやるから覚悟しなさい!」

 

「……友達には~?」

 

「友達? なるわけがないじゃない。あんたなんかと友達になるなんて、絶対にありえないわ!」

 

「何で~?」

 

「一つ教えといてあげるわ。私はね、何でもこなせるような奴が一番嫌いなの。だから友達は諦めなさい」

 

 三好夏凜はそう言ってその場を去ってしまった。

 私は諦めるつもりは全くなかった。ご主人様からの命令だと言うこともあったけど、それ以上にお友達になりたい、と思ったからだった。

 彼女は優秀な兄を持っていて、自分が見向きもされなかったという過去を持っていることを先に聞いていた。だから同じことにならないように対策しているのだ。でもそれは他人の拒絶だった。それをどうにかしてあげたい、そう思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 私はご主人様の看病のついでに三好夏凜のことを話して、友達になるにはどうすればよいかを相談していた。

 

「けっこう癖のある子だね~」

 

「そうなんですよ」

 

「でも友達になりたいんでしょ~?」

 

「はい」

 

「だったら頑張って仲良くならないとね~」

 

 ご主人様も真剣に考えてくれていた。

 私はご主人様がなぜ今回のような命令を出したのか理解していた。

 ご主人様は名家の生まれで友達ができたことがなかった。だけど小学校の六年生の時に勇者に選ばれたことで、二人の友達ができた。名前はミノさんこと三ノ輪銀ちゃんと、わっしーこと鷲尾須美ちゃん。ご主人様にとっては初めての友達で、何よりも大切な人たちだった。

 だけどバーテックスとの戦いで、銀ちゃんは戦死、須美ちゃんは生き残ったけれど、二回目の満開の後遺症で、勇者になってからの二年間の記憶が喪失して戦線離脱した。

 そしてご主人様は満開の後遺症で今の状態になったことよりも、ようやくできた友達がまた自分の前からいなくなってしまったことの方が悲しかったらしい。

 そんなことがあったからご主人様は私に託したのだ。自分が望んでいたものをコピーである私に……。

 

 

 

 

 

 

 それから私は毎日のようにある鍛錬の度に友達になろうとしていた。三好夏凜も私に勝とうと頑張っていた。だけど、どちらも達成されることがないまま一カ月が過ぎた。

 鍛錬の休憩中に三好夏凜がにぼしを食べていたところに、お菓子を片手に近付いた。

 

「それってにぼし~?」

 

「……そうだけど」

 

「じゃあ、私のお菓子と一個交換しない?」

 

「お断りよ! 何であんたなんかとそんなことしないといけないのよ!」

 

「仲良くなりたいから?」

 

「だから、何回言わせんのよ! 私は、あんたと仲良くなるつもりなんてないって!」

 

「私はなりたいんだもん。あ、そうだ! 私これから『夏凜ちゃん』って呼ぶから、私のことも名前で呼んで~」

 

「何でそうなるのよ!」

 

 この数日で普通に話してくれるようにはなったけど、それでも夏凜ちゃんが友達になってくれることはなかった。

 

 それからまた数日後。

 この日もいつもと同じように、夏凜ちゃんに友達になってもらおうとアプローチをしていた。

 夏凜ちゃんもいつも通り私に背中を向けてそれを聞いていた。だけど急に私の方に体を向けて聞いてきた。

 

「何であんた、そんなに私に執着するのよ」

 

「? 友達になりたいからだけど」

 

「友達がほしいんだったら他にも人はいるでしょ! なのに何で私なのよ」

 

 大赦には夏凜ちゃんの他にも勇者候補は何人もいる。だけどその中で一人だけで鍛錬していたのは夏凜ちゃん一人だった。

 私が夏凜ちゃんに執着する理由はいくつかあった。

 一つはご主人様の命令だから。一つは夏凜ちゃんの孤立させたくないと思ったから。一つはどこか銀ちゃんに似ている気がしたから。

 いろいろあるけど、直接的な理由はそんな小難しいことではなく、もっと単純なものだった。

 

「夏凜ちゃんと会って、夏凜ちゃんと話して、私はこの子と仲良くなりたいなって思ったからだよ~」

 

「……何よそれ。全然理由になってないじゃないの」

 

「私は夏凜ちゃんっていう人を見てそう思ったんだよ~。だから他の人じゃ務まらない。立派な理由だと思うけどな~」

 

「他の奴と接してないからそう思うだけでしょ」

 

 夏凜ちゃんは踵を返してその場を去ろうとする。私はその背中に向かって優しく抱きついた。

 

「ちょっ、あんた、何やって……」

 

「夏凜ちゃん。逃げないでよ」

 

「……誰が逃げてるって?」

 

「夏凜ちゃんがだよ。だっていっつも私と目を合わせてくれないじゃん。私を避けようとしてるじゃん」

 

「それは、あんたが嫌いだから――」

 

「だったら何で普通に話してくれてるの?」

 

「……っ!」

 

 私は夏凜ちゃんを抱きしめる腕の力を少し強めた。

 

「夏凜ちゃん、私は夏凜ちゃんのことちゃんと見てるから。夏凜ちゃんが本当に私を嫌うその時まで一緒にいるから。だから、夏凜ちゃんの隣にいさせて!」

 

「うるさいわね! あんたに私の何がわかるのよ!」

 

「わからないよ。私には、夏凜ちゃんのことをわかるなんて間違っても言えない。だけど、一つだけわかるよ」

 

 私は一息ついてからもう一度口を開いた。

 

「夏凜ちゃん。一人は……寂しいよ。だからお友達になりたいな」

 

「……離しなさい」

 

 夏凜ちゃんは小さく言って私の腕から離れる。そしてゆっくりその場を去ろうと歩き始める。

 まだなってくれないか~、と思っていた私に、初めて夏凜ちゃんが声をかけてきた。

 

「何やってんのよ! さっさと鍛錬に行くわよ。……望乃」

 

 最後の一単語は蚊の鳴くような声だった。それでも私の耳にはしっかりと届き、満面の笑みで答えながら夏凜ちゃんの隣に行った。

 

「うん!」

 

「ちょっと、近すぎない?」

 

「え~。友達はこれくらいの距離が普通だよ~」

 

「そ、そうなの?」

 

 私はこの日、『嬉しい』という感情を知った。それは意識しなくても顔が笑顔になってしまう素晴らしい感情だった。

 




 というわけで、望乃の過去編です。
 一応過去編は三話の予定です。

 先に言っておこう。
 次回も勇者部は出ません。
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