小木曽望乃は勇者である?   作:桃の山

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勇者の出発

 夏凜ちゃんと友達になれたその日の鍛錬後、ご主人様にそれを伝えた。

 

「ご主人様、夏凜ちゃんとお友達になれました〜!」

 

「そっか〜。良かった〜」

 

 ご主人様も自分のことのように喜んでくれた。

 これで第一関門は突破できた。

 私は今回のことで、『嬉しい』という感情を知ることができた。だから『楽しい』という感情も知れるのではないか、と思っていた。

 

「あ、それとね、一つだけよく聞いてね」

 

 ご主人様がいつになく真剣な表情で言ってきた。

 

「あ、はい」

 

「友達は、大切にね」

 

 それはご主人様にとっては重い言葉だった。

 それはご主人様がやりたくてできなかったことだったから。

 

「まかせて~!」

 

 だからこそ私は、そう答えるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 その日からの鍛錬は夏凜ちゃんと普通に過ごしていた。

 鍛錬の始めに夏凜ちゃんの姿を見つけると私は、勢いよく抱きついていた。

 

「夏凜ちゃ~ん」

 

「もう、それやめなさいよ!」

 

 最初の方は恥ずかしがっていたけど、だんだん慣れてきて呆れながら口だけで抵抗するようになった。

 友達になった途端抱きつくようになった私の行動に、夏凜ちゃんはハテナを浮かべていたけど、特別な意味があるわけじゃない。

 ご主人様がそのようなことをするわけではないし、もちろん私自身にもない。

 だけど抱きついているのは、ご主人様に言われたことを守るためだ。ご主人様に言われた通り、友達を大切にしようと思ってもどのようにすればよくわからない。そのため大切な友達には抱きついて存在を確かめている、ただそれだけのことなのだ。

 鍛錬の間は基本、私と夏凜ちゃんは一緒にいた。今までと違って、夏凜ちゃんからも私に近付いてくれる。それが一番大きかったことだ。

 休憩中、大量の食べ物を口に放り込む私を見て、夏凜ちゃんが質問してきた。

 

「ねえ、望乃。いつも思うんだけど、あんた食べ過ぎじゃない?」

 

「そうかな~」

 

「少なくとも休憩の時間に食べる量ではないわね」

 

「でもこれくらいが私にとっては普通だよ~」

 

「まあ、あんたがそれでいいなら別にいいけど」

 

 私たち精霊は基本大食いである。その明確な理由は知らないけど、存在だけでエネルギーを使うからとかそんな感じだったと思う。

 特に私は常にその身を現しているからよりエネルギーを使う。と言っても、それほど深刻なものでもない。

 なぜなら精霊は用意されれば食べるが、されなければ食べなくても大した問題にならないのだ。それをしなかったとしても、餓死したりするようなことないからだ。

 だったら何で食べるのかというと、簡単に言えば単なる欲求である。食べたいと思ったから食べる。ただそれだけである。

 ちなみに、精霊のエネルギーとなるのは食べ物だけである。それが大きなくくりで食べ物に該当するなら、どんなものでもエネルギーとして摂取できる。精霊にとって一番大事なのは食べ物であるか否かで、味は二の次なのだ。

 そのため、本来の人にとって不必要な部分もエネルギーにすることができるので、排便もすることがない。ついでに言うと病気になることもない。

 元々精霊には姿の変化が存在しないから、どんなことをしても、見た目が変わることはない。

 私は特別な精霊なので、問題はないだろうけど念のために毎日何かを食べるように大赦に言われている。

 そんな調子で鍛錬中も休憩中も、夏凜ちゃんと一緒に過ごしていた。そうしているうちに、これが『楽しい』という気持ちだということもわかり、心の底から笑えるようになった。

 そのことで楽しむことは達成されたけど、ご主人様が言ったのは『楽しんでほしい』ということだったのと、まだ私が夏凜ちゃんと一緒にいたかったこともあって、私の鍛錬は続行された。

 毎日鍛錬をしながら夏凜ちゃんと楽しく過ごして、二年の月日が流れた。

 夏凜ちゃんはいろんなところが大きくなったけど、もちろん私は変わらなかった。だけど夏凜ちゃんは、そのことにあまり疑問を抱かなかったみたいだった。

 いつも通り鍛錬が終わると、私たちは大赦の人に呼ばれた。

 その理由は私たち二人が、先に選ばれた勇者と共にバーテックスと戦うことが決まったからだった。

 夏凜ちゃんは勇者になれたことに本当に嬉しそうにしていた。

 

「やったわね、望乃! 私たち勇者になれるのよ!」

 

「うん、そうだね~」

 

 その他に、先に選ばれた勇者たちが通う学校に転校することや、十二体のバーテックスを倒したら大赦に帰還することを告げられた。

 勇者が使用する端末に関してはこの後に、個別で行うということで私と夏凜ちゃんはそこで解散となった。

 

「私はここでやるらしいから、また明日ね~」

 

「そう? わかったわ。また明日」

 

 夏凜ちゃんは大赦の人に連れられて他の場所に向かって行った。それを見届けると、大赦の人の方に向き直した。

 

「じゃあ、本題に入ろっか~」

 

「本題ですか?」

 

「うん。例えば~、何で勇者であるはずのない私が勇者の一人になっているのか、とか」

 

「それはあなたが園子様の勇者の素質もコピーしているからです」

 

「だから夏凜ちゃんと一緒に現地で戦ってもらおうってこと?」

 

「そういうことになります。あなたには今までと同じように精霊としての立場は隠してもらい、あなたの知る勇者の真実も隠しておいてもらいます」

 

「どうせ言えないようにはしてるんでしょ?」

 

「はい、一応。それでもそのことを理解しておいてください。大体、潜伏のようなものと思っていただければ問題ないです」

 

 潜伏という言い方は故意に騙すようであまり好きではない。だけど結局のところ、同罪であることには変わりがないのだから否定する気にもならなかった。

 

「まあいいよ。あと、夏凜ちゃんが選ばれたのは私と一緒にいるから?」

 

「一番の理由はそうです。彼女は勇者の素質も十分にありますし、適任だと判断されました」

 

「そっか。他の勇者は?」

 

「まずは犬吠埼家の姉妹、それに一般家庭ではありますが非常に素質が高い結城友奈、それと勇者の経験がある鷲尾須美ーーいえ、東郷美森の四名です」

 

「……鷲尾須美って、わっしーのこと?」

 

「はい」

 

 またわっしーを勇者にさせるつもりだということをこの時初めて知り、複雑な気分になった。

 でもその決定事項を変えるようなことは私にはできない。

 だけどこれが一つの決意のきっかけだったのかもしれない。

 

「あなたたち二人の役割は、事前に彼女ら四人には先にバーテックスと戦ってもらい、経験を積ませた後、護衛として加わってもらいます」

 

「わかった」

 

「それと一応の義務としてそこであったことなどを伝えてもらいます」

 

「嫌だ」

 

 私は大赦が言う義務を断った。

 

「なぜですか?」

 

「私は乃木園子の精霊なんだよ。だから私はご主人様に伝える。それだけだよ」

 

 その言葉に大赦は一応納得はしてくれた。

 

「それから、あなたには園子様の端末を使っていただきます」

 

「わかった」

 

 それはわかっていたことだった。私はご主人様のコピーなのだから、そうなるのだろうと予想できていたのだ。

 

「では、これで以上です」

 

 長々と続いていた話が終わり、私はご主人様のところに向かった。そして、今話されたことを報告した。

 それを聞いたご主人様は驚くこともなく、少し嬉しそうに笑った。

 

「あなたが行くように勧めたのは実は私なんだ~」

 

「そうなんですか?」

 

「うん。あなたには他の場所で楽しんでもらいたいからね~」

 

「はあ」

 

「あなたがしたいことをしたいようにすればいいんだよ~」

 

「したいように……」

 

 自分が現地に行って何をするか、勇者ではなくただの精霊に過ぎない私には思いつかなかった。だけどご主人様の過去と思い、それと現地にわっしーがいることを照らし合わせてそれを見つけることができた。

 

 

 

 

 

 

 私たちが新たな勇者として現勇者と合流することが告げられた日からしばらく経って、ついにその日がやってきた。

 私たちの携帯から大音量のアラームが鳴り響いている。

 夏凜ちゃんの武器は二挺の斧から二本の日本刀に変わったらしい。斧は銀ちゃんのものだ。そして端末も銀ちゃんのものみたい。

 また三つの端末が揃うんだね。

 私はもう自分のやることを決めていた。

 まずは夏凜ちゃんのお友達になってもらう。私はずっと一緒にいられるわけじゃないから、私がいなくなっても大丈夫なように。私自身は夏凜ちゃんと同じようにみんなも呼ぼうかな。

 そして勇者のみんなを傷つけさせないように私が頑張る。傷つけさせないっていうのは外傷の意味じゃなく、『満開』の後遺症で、という意味。

 ご主人様の悲しみをよく知ってるから、もう二度と同じことは起こしたくない。犠牲者を増やしたくない。わっしーに同じ苦しみを味わせたくない。何より、私の初めてのお友達の夏凜ちゃんにそんな目にあってほしくない。だから、そうならないように私が守る、と。

 

「ついにこの日が来たわね。こういう日はサプリに限るわね」

 

 夏凜ちゃんがそう言いながらサプリを口に放り込む。この二年間で何度か目にした光景だ。

 

「相変わらずそれ好きだね~」

 

「何よ、今日こそ望乃もサプリきめる?」

 

「私はやめとくよ~」

 

 サプリというものは精霊の私には不必要な物質なので断りを入れた。

 

「……ねえ、夏凜ちゃん。どんな人たちだろうね~」

 

「何がよ」

 

「勇者の人たち~」

 

「どんな連中でも、たまたま選ばれたに過ぎないのよ」

 

「でもさ~、仲良くなれたらいいよね~」

 

「私には必要ないわ!」

 

「え~。夏凜ちゃん、友達いらないの~?」

 

「友達なんて望乃だけで十分よ」

 

「……私が死んじゃったらどうするの?」

 

「不吉なこと言わないの!」

 

「大丈夫だよ。ちゃんと夏凜ちゃんと友達になってくれるから」

 

 夏凜ちゃんには友達を作ってほしいけど、本人はあまり乗り気じゃないみたいだった。だけど大丈夫だと思う。だってわっしーも、他の人たちも、勇者なんだから。

 

「じゃあ、行くわよ! 望乃!」

 

「うん! 夏凜ちゃん!」

 

 私が手を握ると、夏凜ちゃんが少し赤くなって照れているような顔になる。そして私たちはその状態で現地へと向かった。

 




 次回は本編の望乃視点+αです。

 遅くなって申し訳ありません。これからも更新が今回くらいになる可能性がありますので、ご了承ください。

 一応最後まで書くつもりですので、これからも読んでいただけると嬉しいです。
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