小木曽望乃は勇者である?   作:桃の山

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選択と覚悟

 大赦に言われて勇者として讃州中学に転校してきた私と夏凜ちゃん。

 私たちは年齢の通り――中学二年生のクラスに転校した。

 私の年齢は一応十三歳ということになってるけど本来の年齢は、肉体年齢は小学六年生、実質年齢は二歳、精神年齢も二歳くらいだということになる。だけどバレる様子はないようだった。

 現場の勇者の人たちは思っていたより楽しそうな人たちだった。

 わっしーは大きくなっていたけど一目でわかった。車イスになっていたことや、短髪であること以外ご主人様と同じ姿の私を見ても特に反応がなかったところを見て、わっしーの後遺症を目の当たりにした。だけど、わっしーがご主人様の渡したリボンを付けていたのを見て、少し嬉しく感じた。あとわっしーって呼ばないように気をつけようと思った。

 勇者部の一員として過ごしていって、この人たちは本当に勇者に相応しい、優しい人たちだって思った。

 夏凜ちゃんも少しずつ馴染んでいって、勇者部で夏凜ちゃんの誕生会をした時を境に、私と話すときと同じようにみんなにも接するようになって、私の目的の一つが達成できた。

 こっちに来てからは今まで以上に忙しくなった。

 なぜなら学校から帰ったらすぐにご主人様の看病に向かっていたからだった。私の担当は学校から帰って来る時間から翌日の学校に向かう時間まで。と言っても特に何か仕事があるわけでもなく、その日の出来事をご主人様に話していただけだった。だけど断るわけにもいかないのでこの時間に看病していた。ついでに大赦から何か連絡などがあればこの時に行っていた。もちろん寝るのは禁止だ。

 お腹が減るという欲求があるのと同じく、眠たいという欲求も存在する。だから私は、一時期しかいないため必要がないと思われる授業中に眠っていた。

 大赦にいる時から基本夜中は私がやることになっていて、鍛錬の時も時々寝そうになるようなときもあったから、夏凜ちゃんにも怪しまれることはなかった。

 ちなみに、私は体の性質的に器用で呑み込みが早いので、ご主人様の頭の良さを有効的に使用してテストの点数が取れたり、手先が異常に器用だったりした。その代わり、ご主人様の百合好きもコピーしていたのか、私自身もそうなっていた。

 とにもかくにも、そんな調子で私は勇者部の一員として一人の人間のように楽しんですごしていた。

 ある時に夏凜ちゃんに私の正体だけでも言おうと思った。だけど結果的にそれはできなかった。途中で声が出なくなったからだった。そんな形の止め方とは思っていなかったから、どういうか迷ったけどなんとか誤魔化した。

 七体のバーテックスと対峙した際、夏凜ちゃん以外の四人が『満開』してしまった。

 そう、私は守れなかったのだ。結局、精霊が勇者を助けることなどできはしなかったのだ。私はその意を込めて、戦いが終わってすぐにご主人様にメールを送った。

 

「ご主人様、すみません。私は友達を守れませんでした」

 

 その後で友奈ちゃんが精霊との突然の別れを寂しそうにしていた時、「大丈夫、またすぐに会えるから」という言葉を言いかけて、また声が出なくさせられることがわかって言葉を飲み込んだ。

 本来はこのタイミングで大赦に戻ることになっていたので、一応相談をした。そのことに異論を唱えたのはご主人様だった。

 

「他人に言われて決めることじゃないと思うんだ~。残るかどうかはあなたがまだ一緒にいたいかどうかだよ~」

 

 そんなご主人様の支えや勇者部と過ごした日々もあって、私は残ることを決めた。

 それから私は自分の運命を受け入れることにした。だからそのための思い出作りを行った。全部ただの私のわがままである。

 だけどいざその時が近付いてきたと思ったら、なんか変な気持ちになって夏凜ちゃんと一緒にいたくなった。お別れの時は夏凜ちゃんを見てなぜか胸が痛くなった。

 

 そうして、私の現地での仕事は終わって、夏凜ちゃんと出会う前と同じような生活になった。ただ元々の形に戻っただけだったのに、どこか物足りなく感じた。

 そんなある日、大赦内がいつになく騒がしかった。多くの大赦の人たちが困惑していた。

 それを疑問に思った私は、そこに近付いて事情を聞いてみた。

 

「どうかしたの~?」

 

「望乃様! それが、犬吠埼風が暴走し、ここに乗り込んできそうなのです」

 

「風ちゃんが?」

 

「はい。現在は三好夏凜が止めているようです」

 

「そっか」

 

 真実が話された今、そうなる人が出てもおかしくないと思っていた。これは仕方のないことだと思う。私もご主人様を知っているだけに、その気持ちを否定することはできない。

 だけど風ちゃんは残念なことに大赦に辿り着くことは決してできない。

 たとえこのまま大赦に向かってきたら、先代勇者のご主人様――乃木園子と、乃木園子の所有する私を含めた二十一体の精霊が立ちはだかることになる。

 ご主人様の今の役目は暴走者を止めることだから。

 いくら風ちゃんでもそれを越えることはできない。たとえ満開したとしても……。

 

「望乃様。このことを園子様に伝えてきてもらえますか?」

 

「わかった~」

 

 大赦の人に頼まれて、私はそのことを伝えにご主人様のところに向かった。

 ご主人様のところに着くと、話し声が聞こえたのでちらっと見てみるとご主人様と美森ちゃんが話していた。二人の邪魔をしてはいけないと思って、しばらく待つことにした。

 しばらくすると美森ちゃんが顔を真っ青にしてその場から急いで去っていった。その表情を見て、ご主人様が壁の外の真実を教えたことが分かった。

 私は静かにご主人様の側に歩み寄って話しかけた。

 

「美森ちゃんに壁の外のこと、話したんですか?」

 

「うん。知らなければならないことだからね~」

 

 壁の外の向こう。それは地獄絵図だ。無数の星屑と呼ばれる生命体が存在し、私たちが戦ってきたバーテックスも時間が経てば復活する。この戦いに終わりはないのだ。

 

「そうですね。それと、風ちゃんが暴走したらしいです」

 

「そっか」

 

 しばらく沈黙が続いた。私が風ちゃんの動向を確かめに行こうかなと思った時

 

「ねえ、あなたはどうするの?」

 

「え? 何が、です?」

 

 ご主人様に話しかけられた。

 

「私はね、わっしーがどんなことをしても、わっしーの味方でいるつもりだよ。だけどあなたにしたいことがあるなら、私にそれを止める権利もない。もう一度聞くよ。あなたはどうしたいの?」

 

「どうしたいって言われましても……私はご主人様の精霊ですからご主人様と同じ――」

 

「私は、精霊としてのあなたに聞いてるんじゃなく、わっしーたちの友達としてのあなたに聞いてるんだよ」

 

「友達としての……私?」

 

「そう。あなたがみんなと過ごした時間は私のものじゃない。あなたのものなの。だから私とは違う答えが出るはずだよ」

 

「でも、私は精霊だから、みんなとは対等じゃないから――」

 

「前にあなたは言ってたけど、あなたは乗り越えないといけないものなのかな? 私にはそうは思えないよ~。乗り越えるんじゃなく、隣で一緒に進むのが友達なんじゃないかな? それに勇者とか精霊とか関係なく、友達同士は対等だと思うよ~。それとも、あなたにとっては友達じゃなかったの?」

 

 私は少し考えた。いや、考えなくても始めから答えは決まっていた。

 

「みんなは私にとっても、友達です。夏凜ちゃんは一番大事な友達です」

 

「じゃあ、その友達のために何もしなくていいの? あなたは本当はどうしたいの?」

 

 私は本当に考えてみることにした。

 私が考えている時に大赦の人が慌てて、今までとは違う大音量のアラームを鳴らしているご主人様の携帯を持ってきた。

 話によると、風ちゃんの暴走は収まったけど、今度は美森ちゃんが暴走して壁に穴を開けたらしい。その結果大量の星屑が押し寄せてきているとのこと。

 大赦の人はご主人様に美森ちゃんを止めるように言っているけど、ご主人様はそれを断り続けていた。銀ちゃんのことを引き合いに出されたけど、ご主人様が意見を変えることはなかった。

 ご主人様は何があっても美森ちゃんの味方でいる覚悟を決めた。

 美森ちゃんも多分何か大きな覚悟を決めて今回のようなことを起こした。

 なら、私は?

 どうすることが正しいの? わからない。わからないけど、夏凜ちゃんとの二年間の思い出を振り返って、一つの覚悟を決めた。

 

「……ご主人様の代わりに私が行くよ」

 

 私はそう言いながらご主人様の携帯を受け取る。携帯を渡した大赦の人はすぐにそこから去っていった。

 

「言ったよね? 私の代わりなんてしなくていいんだよ。あなたはあなたのしたいことをすればいいんだよ。私はずっとそうしてほしいって思ってたんだから」

 

「大丈夫です。ご主人様の代わりに行くっていうのは建前ですから」

 

「建前~?」

 

「はい。実は私、まだ夏凜ちゃんに言いたいことを直接言ってないんですよ~。だからそれを言いに行ってきます」

 

 そして私はご主人様に笑顔を見せて続けて言った。

 

「私は、ご主人様の精霊『妖狐』としてではなく、讃州中学二年、勇者部部員『小木曽望乃』として行ってきます!」

 

「そっか。それがあなたが決めたことなんだったら、私がそれを止める権利はないね~。行ってらっしゃ~い」

 

 ご主人様に見送られて駆け出した私だったけど、すぐに足を止めた。

 

「ご主人様、ありがとうございました」

 

「……うん、こちらこそ~」

 

 そうして私は勇者部のみんなのところに向かって駆け出した。

 




 次回はようやく本編に戻ります。
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