小木曽望乃は勇者である?   作:桃の山

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勇者のシステム

 夏凜と望乃が転入した次の日、授業では水泳の授業行われていた。

 夏凜の泳ぎにみんなが驚き、「すごい」と言われていた。水泳部に誘われた夏凜だが、それを断ってプールから出ると友奈に遭遇した。

 

「すごいね! 夏凜ちゃん」

 

「結城友奈……。いい? 勇者はね、すっごくないと世界を救えないのよ。勇者の戦闘力は、本人の基礎運動能力に大きく左右されるの! あんたも勇者なら、自覚を持ちなさい」

 

「先月勇者になったばかりだから。えへへ」

 

「あんた、よく馬鹿だって言われるでしょ?」

 

「実はそうなんだよね……」

 

 夏凜がガクッと肩を落とす。

 

「全くそんなんでよく勇者に選ばれたわね」

 

「勇者に選ばれるのに、頭の良し悪しはあまり関係ないからね~」

 

 プールに浮いたまま流れてきた望乃が話に割り込む。そんな望乃を見て、再び肩をガクッと落とす。

 

「望乃。あんたがそんな風にしてたら、私が言ったことの信ぴょう性が薄くなるでしょ」

 

「でも、こうしてたら気持ちいいよ~」

 

「全く。言っておくけどね、この子こんなんだけど運動能力は高いし、勇者としての自覚もちゃんとしてるから!」

 

 夏凜が指を差して友奈に説明する。

 

「あ、うん。でも、そこにもう誰もいないよ」

 

 夏凜が指を差した先には既に望乃はいなく、当の望乃は流れて東郷の元に到達していた。

 

 

 

 

 

 

 放課後になり、勇者部が全員部室に集まる。

 

「仕方ないから情報交換と共有よ」

 

 夏凜がにぼし、望乃がお菓子を食べながら勇者部四人の前に立つ。

 

「分かってる?あんたたちがあんまりにものんきだから今日も来てあげたのよ」

 

「にぼし?」

 

 風がおそらく全員が思っていたであろう疑問を口にする。

 

「何よ。ビタミン、ミネラル、カルシウム、タウリン、DPA、DHA。にぼしは完全食よ!」

 

「まあいいけど……」

 

「夏凜ちゃんにぼし大好きだもんね~」

 

「あげないわよ」

 

「いらないわよ」

 

「私、食べてみたいな~」

 

「欲しいんだ!?」

 

「じゃあ、私のぼた餅と交換しましょ」

 

 どこから出したのか、東郷がぼた餅が入った箱を差し出す。

 

「何それ?」

 

「さっき家庭科の授業で……」

 

「東郷さんはお菓子作りの天才なんだよ」

 

 友奈がまるで自分自身のことのように話す。

 

「いかがですか?」

 

「いら「私も食べたい!」わよ……」

 

 食べ物が関連すると節操のない望乃が夏凜の言葉を遮る。その望乃の目は宝箱を見つけたかのように、キラキラと光っている。もう少しすればよだれを垂らしそうな顔である。

 

「どうぞ」

 

 許可をもらって、差し出された箱の中の一つを手に取ってかぶりつく。見るからにおいしそうな表情に変わり、一つ目のぼた餅をたった二口で食べてしまった。

 

「おいしい! すごくおいしいよ! わ……あれ? なんて名前だったっけ~?」

 

「東郷美森ですよ」

 

「あ、そっか~。少し間違えちゃった~」

 

「少しってかすってすらいなかったけどね」

 

 風が呆れたようにそう言う。

 

「ごめんね~。美森ちゃん」

 

「東郷でいいですよ」

 

「美森ちゃん」

 

 頑なに読み方を変えようとしない望乃を見て、東郷は諦めた。

 二つ目のぼた餅に取り掛かろうとしている望乃のことを放っておくことにして、夏凜が話を進める。

 

「いい? バーテックスの出現は、周期的なものだと考えられていたけど、相当に乱れてる。これは異常事態よ」

 

 全員がぼた餅を食べている前で夏凜が説明する。

 

「帳尻を合わせるため、今後は相当な混戦が予想されるわ」

 

「確かに、一か月前も複数体出現したりしましたしね」

 

 東郷が夏凜の言葉に賛同する。

 

「私と望乃ならどんな事態にも対処できるけど、あなたたちは気を付けなさい。命を落とすわよ! 他に、戦闘経験値を溜めることで、勇者はレベルが上がり、より強くなる。それを『満開』と呼んでいるわ」

 

「そうだったんだー」

 

「アプリの説明にも書いてあるよ」

 

「そうなんだ!」

 

 友奈の言葉にまた夏凜が肩を落とす。

 

「『満開』を繰り返すことでより強力になる。これが大赦の勇者システム」

 

「へー。すごーい」

 

 友奈が興味津々にメモ帳にペンを走らせる。

 

「三好さんは『満開』経験済みなんですか?」

 

「……私は、まだ。だけど、望乃は経験あるみたいだから詳しくは望乃に聞いた方がいいわね」

 

 夏凜が望乃に視線を向け、突然名前を呼ばれた望乃が振り向く。

 

「むぐぐ」

 

 喋れないくらい口の中に食べ物を入れた状態で。

 

「なんて顔してんのよ! 早く飲み込みなさい!」

 

「ん~」

 

 夏凜は何度も何度も望乃を「実はすごい」と言うように言っているが、勇者部の四人には全くもってそのようには見えなかった。むしろ、彼女は本当に戦えるのか、という疑問の方が強かった。夏凜が嘘を言っているようには思えないが、いつもマイペースで、寝てることが多い望乃が自分達よりレベルが高いとは思えなかったのである。

 

「え~と、『満開』の話だっけ~?」

 

「『満開』ってどんな感じなの?」

 

 友奈が質問をする。

 

「んっとね~。なんかバーンとなって、力がボンってなって、ギュイーンってやったら、ゴーンってなるの~」

 

 説明が下手で、誰一人として理解できない。夏凜に助けを求めるが、夏凜でも分からないらしく、首をゆっくり横に振る。

 

「私は『満開』なんてできない方がいいと思うな~」

 

「な、何でよ! 強くなった方がいいじゃない!」

 

「強い力が全てじゃないでしょ~」

 

「これは戦いなのよ! 戦いである以上、強い力がある方が――」

 

「夏凜ちゃん」

 

 珍しく真面目な声を出した望乃に夏凜が一蹴される。

 

「皆もよく聞いてね。強い力が絶対に良いものとは限らないの。だから、そんなもの、求めない方がいいよ」

 

 望乃が少し寂し気に微笑んだ。

 五人はそれ以上『満開』のことを聞くのはやめておこうと思った。

 

 友奈が朝練をしようなどということ言っている時に、突然

 

「『なせば大抵なんとかなる!』」

 

 と言い出した。疑問に思った夏凜は、それについて聞いた。その疑問には友奈が答えた。

 

「勇者部五箇条。大丈夫だよ。みんなで力を合わせて頑張れば、大抵何とかなるよ!」

 

 壁の上の方に向かって指を差す。その指の先には、『勇者部五箇条』と書かれた紙が貼ってあった。

 しかしそれを見て夏凜が呆れる。

 

「『なるべく』とか『なんとか』とか、あんたたちらしい見通しの甘いふわっとしたスローガンね。全くもう、私の中で諦めがついたわ」

 

「私は分かりやすくていいと思うけどな~」

 

「わ、私らは、その……あれだ。現場主義なのよ!」

 

 風が見苦しい言い訳をするが、夏凜に見透かされる。

 そこで、次の議題に話を変え、場所を扉近くの机に移動する。その内容とは、一言で言ってしまえば勇者部としての仕事である。

 全員にその仕事の要約が書かれた紙を渡され、樹が説明を始める。

 紙を渡されて流し見をしていた望乃はあることに気付いていた。それ同時にあることを考え付いた。

 

「――というわけで、今週末は子供会のレクリエーションをお手伝いします」

 

「具体的には?」

 

「えーと、折り紙の折り方を教えてあげたり、一緒に絵を描いたり、やる事はたくさんあります」

 

 それを聞いて友奈と望乃が期待を寄せる。

 

「夏凜にはそうね、暴れたりない子のドッヂボールの的になってもらおうかしら?」

 

「ていうかちょっと待って! 私もなの?」

 

 反論する夏凜に風が夏凜の名前が書かれた入部届けを突きつける。

 

「昨日、入部したでしょ?」

 

「け、形式上……」

 

「ここにいる以上、部の方針に従ってもらいますからねぇ」

 

 風が皮肉っぽくそう言うと、夏凜がまた反論しようとするが

 

「夏凜ちゃん。日曜日用事あるの?」

 

「夏凜ちゃんはその日、完璧に暇だよ!」

 

 友奈の質問に望乃が答えてしまう。

 

「じゃあ、親睦会も含めてやろうよ」

 

「何で私が子供の相手なんか……」

 

「嫌?」

 

 友奈の反応に少し動揺してしまい、仕方なく了承する夏凜。

 目を背けた先には何だか嬉しそうな望乃の姿。

 

「何よ?」

 

「楽しみにしててね~。夏凜ちゃん」

 

「? 何で望乃がそんなこと言うのよ?」

 

「いや~、日曜日が楽しみだな~!」

 

 あからさまに話を逸らした望乃に、夏凜はよくわからないといったような表情になった。

 

 

 

 

 

 

 その夜。

 夏凜はその日も望乃とともに帰り、夏凜の部屋の前で別れた。それから鍛錬をして晩御飯を買って再び帰ってきた。

 その時、ふと疑問に思った。

 自分と望乃の部屋は隣同士なのに、隣があまりにも静かすぎる。それにまだここに来て日は浅いが、望乃の性格なら自分の部屋に乗り込んでいてもおかしくないのではないか、と。

 夏凜は少し心配になり、大赦にメールを送ると、隣の望乃の部屋に向かおうと立ち上がる。その瞬間、携帯の着信が鳴る。望乃からだった。

 

「どうしたのよ、望乃」

 

『ん~。なんとなく~』

 

「そう? あんた今何してんのよ」

 

『何って言われても、ゴロゴロしてるだけだよ~。私、基本家では寝るか食べるかだけだから~』

 

「そう、ならいいわ」

 

『? あっ、お腹すいたからもう切るね~。じゃあ、また明日ね~』

 

 電話が切れる。

 

「まあ、そんなことだろうとは思ったわ」

 

 夏凜は望乃の部屋が静かだった理由に納得して食事に取り掛かった。

 




 日常回が続きます。

 話の進みが遅く感じると思いますが、気にせず読んでいただけたら嬉しいです。
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