小木曽望乃は勇者である?   作:桃の山

21 / 28
悲しみの気持ち

 望乃と東郷の戦いはまだ続いていた。

 望乃が離れたところから槍を回して竜巻を作り、それで攻撃しようとする。東郷はそれを横にかわしその隙に銃を放つが、やはり望乃のガードによって防がれる。

 今度は望乃が接近して槍を振るう。細かく避けることのできない東郷は、大きく後ろに後退し、その位置から長銃を望乃に向けて撃つ。しかし望乃はそれをものともせずに槍で弾き、東郷に思い切り槍を投げる。東郷は何とか防ぐことに成功したものの、息が切れて肩を上下に大きく揺らしていた。

 戦いは明らかに望乃が優勢になっていた。東郷はほとんど防戦一方である。

 二人の攻防は息をつく暇がないほど猛烈なものだった。だが、ダメージを受けているのは東郷のみで、望乃は全くの無傷だった。

 望乃は槍とガードを組み合わせて全ての攻撃を防いでいる。片や東郷は、致命傷になり得る攻撃は精霊が守ってくれるが、それ以外は自分でどうにかしなければならない。精霊の持つガードを自分の判断で使用できる望乃とはどうしても差が出てしまう。故に、かわしきれなかった時や攻撃の反動でダメージを受けてしまっていた。

 しかし辛そうな顔をしているのは優勢であるはずの望乃だった。

 

 ――戦いが終わらないな~。本来だったら、美森ちゃんを気絶させることはできると思うんだけど、今日は戦いにくいな~。本気で戦ってるつもりなんだけど、私が本来持ってる全力の力じゃない。多分その理由は相手が美森ちゃんだからなんだろうな。

 

 東郷も感じていたこと、本来の力なら確実に上であるはずの望乃が東郷と互角に戦っている理由は、東郷の予想も甚だ間違いではなかった。精霊である望乃が勇者と本気で戦うことが許されているとは考えにくい。しかしそれはまだ半分正解と言ったところだった。

 望乃の身体は乃木園子の体をコピーしたものである。その園子は何よりも友達を大切にしていた。そして東郷は園子の大切な友達だ。

 そのため、望乃の身体が無意識に東郷との戦いを拒んでいたのである。

 その二つの理由が重なって、望乃が本来の全力を出すことは困難極まりなかったのである。

 

「美森ちゃん、もう諦めたらどうかな?」

 

「いいえ。私はまだ諦めない!」

 

 戦いの最中、望乃は何度か東郷に諦めるように言っていた。

 できれば話で解決したいという気持ちがまだ残っていたからだ。そして何より望乃は、一刻も早く戦いを終わらせて夏凜の元に向かいたかったのだ。でも東郷を放っておくことはできないので、諦めさせようとしていた。

 しかし何度言っても東郷が諦める様子は一切なかった。

 

 ――美森ちゃんを諦めさせるには友奈ちゃんじゃないとダメなのかな?

 

 望乃はそう思いながら戦い続けていた。

 しかしその瞬間、望乃の耳によく知った声――夏凜の叫び声らしき声がかすかに聞こえて、聞こえてきた方に視線を向けて動きを止めてしまう。

 

「夏凜……ちゃん?」

 

 望乃がそう呟いたところに、東郷が攻撃を仕掛ける。それに何とか気付いた望乃がギリギリのところでかわす。

 その行動に東郷は違和感を覚えた。そして一つの可能性にたどり着き、一か八かの賭けに出ることを決めた。

 それからの望乃は明らかに集中力を欠いている状態だった。何度も声のした方を気にして、戦いに集中できていなかった。

 

 ――樹ちゃんのタロットカードで夏凜ちゃんに『死神』のカードが出てた。勇者にとっての『死』を意味するとしたら、それは満開だと思う。だから夏凜ちゃんが満開する可能性がある。

 

 そんな理由から望乃は夏凜の元に向かってそうさせないようにしたかった。

 隙を見て向かおうと思っていたが、東郷はその隙を与えてくれなかった。

 しかしその瞬間望乃が最も恐れていたことが起きた。視線の先に赤い光が見えたのだ。

 そう、この光は満開、夏凜が満開した光だった。

 それを見た望乃は大きく目を見開き、すぐさま東郷に向かって槍を投げて注意を逸らした。そして槍を右手に出しながら夏凜の元に急いで向かおうとした。

 そんな望乃を阻むように大量の星屑が向かってくる。

 

「……どけ。……邪魔」

 

 望乃が小さく呟く。そして近付いてくる星屑のその先を見据えて、槍を構えた。

 

「どっけえええ!」

 

 普段の望乃では予想も付かないような剣幕で、数十体にも及ぶ星屑を一気になぎ払った。

 そこに東郷が放った銃弾が望乃の首筋に的中した。

 

「やはり、意識していなければ発動しないのね。卑怯かもしれないけれど、私にもやらなければならないことがあるから」

 

 東郷はこのことを今回の戦いで一度もかわしていなかった望乃が攻撃をかわした時に考えた。そしてそれを実行するタイミングを待っていたのだ。

 望乃――精霊のガードは意識して使用していた。よく考えてみればわかるが、無意識に常時展開されているのだったら、普段の日常でも防がれているはずだったのだ。

 それが望乃の唯一と言っていい弱点だったのだ。

 東郷の攻撃が直撃した望乃は、ダメージを受けることに慣れていないことと、東郷が放った攻撃が急所を突いていたことが相まって、気絶寸前まで至った。

 力が抜け、地面に落ちていきながら夏凜がいるであろう方向に手を伸ばす。

 

「夏……凜、ちゃん……」

 

 嘆くような小さな声でそう言った後、視線の先に二度目の赤い光が見えたのとほぼ同時に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 夏凜は復活したバーテックスを殲滅したものの、望乃の予感通りその戦いで四度の満開を行い、右腕、右足、両目、両耳の四ヶ所を供物として神樹に捧げられた。

 戦い終えた後、夏凜は力つき地面に落ちていった。そこに駆け付けたのが友奈だった。

 夏凜の現状に悲痛な声を漏らし、そこで友奈は夏凜の勇者部に対する本音を聞いた。

 それを聞いた友奈は、勇者の姿になって東郷を止めることを決意した。

 そして向かおうとした時、誰かが自分たちのところに近付いてきた。

 

「の、望乃ちゃん!」

 

 それは東郷との戦いに敗れ、少しの間気絶してしまっていた望乃だった。望乃は目が覚めて夏凜が心配だったことと、東郷を止めるためには友奈でないといけないと思ったため、二人が一緒にいるこの場所にやってきたのだ。

 

「友奈ちゃん、久しぶり……ってほどでもないかな。こんなに早く再開できるとは思わなかったよ~。……夏凜ちゃん、満開したんだよね?」

 

「……うん」

 

 望乃は夏凜に聞いたつもりだったが、答えたのは友奈だった。

 

「四回したって夏凜ちゃんの精霊から聞いたよ。失ったところは?」

 

「右の手足と両目・両耳みたい……」

 

「そっか」

 

 望乃はこの時ようやく友奈が代わりに答えていた理由がわかった。

 

「……友奈ちゃん。夏凜ちゃんは私に任せて美森ちゃんのところに行ってあげて。私じゃ止められなかったから、多分友奈ちゃんじゃないとできないと思うんだよ」

 

「うん! 私、東郷さんを止めてくる!」

 

「うん。それでこそ、勇者だよ~」

 

 望乃が笑顔を見せると、友奈は東郷の元に向かっていった。それを見届けると、望乃は視線を夏凜に向ける。そして夏凜の左手をぎゅっと握った。

 

「友奈……早く、東郷のところに行き、なさい」

 

 夏凜は目が見えず耳も聞こえないため、これが望乃であることには気付かない。

 そんな夏凜を見て、自分がまた守れなかったことを痛感した望乃は、夏凜をぎゅっと抱きしめた。

 

「何を……この感触……望乃……なの?」

 

 望乃が抱きしめた時の感触で、夏凜は相手が望乃であることに気が付いた。

 

「うん!」

 

 望乃は返事と共にその状態のまま大きく頷いた。夏凜にわからせるためだ。

 

「そう。本当に、望乃なのね?」

 

「うん!」

 

 もう一度大きく頷く。

 

「……おかしいわね。望乃に、また会えたっていうのに、そこにいるって……わかってるのに、姿が見えない。声が聞こえない。次会ったら右手で、つかまえるって決めたのに、右手が、動かない……」

 

「……夏凜ちゃん」

 

 夏凜も満開の後遺症で自分がどうなっているかは理解していた。しかし、望乃を前にしてそのことを言わずにはいられなかったのである。

 

「……望乃。あんたに……言いたいことがあったのよ。あんた、勝手に、別れたつもりになってんじゃ、ないわよ。あんたが……精霊だろうとなんだろうと、私にとっては……一番大切な友達、親友よ」

 

「親、友?」

 

 夏凜はその後も続けていたが望乃の耳には入らなかった。

 騙し続けていた自分のことを嫌うどころか、『親友』とまで言う夏凜を見て、今まで以上に罪悪感を覚えた。

 すると、何やら望乃の目から液体が流れた。その液体はそのままこぼれ落ち、夏凜の首筋辺りに落ちた。

 それに気付いた夏凜は、ずっと言っていた言葉を止め、失っていない左手を望乃の後頭部に持って行き、優しく撫でた。

 

「全く、泣いてんじゃないわよ」

 

「……泣く?」

 

 夏凜に優しい声でそう言われてこの両目から流れているよくわからない液体が涙だということがわかった。

 それと同時に、自分が今抱いているこの感情が『悲しいという気持ち』だということも理解した。

 

 ――そっか。これが涙。これが、ご主人様が何度も感じていた『悲しい』っていうことなんだね。一番知りたかった感情をようやく知れたよ。でも、こんな状況にならないと出なくて、こんなにも辛いものなんだったら、知らないままが良かったよ。

 

 望乃は何度も涙を拭き取ろうとしたが、拭いても拭いても涙が出てきた。夏凜は泣いて震える望乃の頭を撫で続けた。やがて涙を拭き取ろうとする手をやめ、夏凜を抱きしめる腕の力を強めた。

 

「ごめんね……ごめんね、夏凜ちゃん。ごめんね」

 

 騙していたこと、頭を撫でてくれたこと、こんな自分を嫌わずに『親友』だと言ってくれたこと、こんな目に合わせてしまったこと、いろんな意味を込めて謝罪の言葉を言った。

 どれだけ言っても夏凜には届かないとわかっていても、望乃は言葉を止めることなく謝り続けた。




 次回、クライマックスです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。