望乃が夏凜と悲しすぎる再会をしていた頃、友奈は東郷の説得に成功したが、他のバーテックスと合体したレオバーテックスに苦戦を虐げられていた。
前の戦いの時とは比べものにならないほど大きな球を満開状態の友奈と東郷が受け止めるが、その威力に友奈が受け止められなくなって満開が解けてしまう。
再び立ち向かおうとした友奈だったが、今の満開の後遺症が両足だったらしく、立つことすらままならない。
一人で受け止めていた東郷がもう限界かという時、満開の状態の風と樹が参戦する。
「ごめん、大事な時に!」
「樹ちゃん、風先輩……」
「いくよー! 押し返す!」
さらにそこに目を赤く腫らした望乃と、望乃に手を引かれている夏凜も参戦する。
「勇者部をなめるなー!」
「夏凜ちゃん……望乃ちゃん。その……」
「美森ちゃん、言いたいことがあるなら、後で聞くよ~。今は、こいつをどうにかしないとね。みんなの日常を守るために!」
「……ええ、そうね」
それを見ていた友奈は必死に立ち向かおうとしていた。
受け止める人数が五人に増えても、戦況は拮抗していた。
勇者部がバーテックスに対抗するために満開していたのを見た望乃は、自分も切り札を使うことを心に決めた。
「この世に存在する全ての精霊よ。あらゆる役目を放棄し、汝の力を複合させ、我に更なる力を与え給え」
望乃がそう小さく呟いた瞬間、望乃の体が光り出し、乃木園子の満開時と同じような姿に変わった。
勇者部は本来満開のできないはずである望乃の変化に驚きを見せたが、今は問いただしているほどの余裕がないため、疑問を訴えるような者はいなかった。
これこそ、望乃にしかできない切り札である。
精霊の統率である望乃に他の全精霊の力を合わせることで、満開ほどではないが満開と同じような効果が得られる。しかし今まで望乃が使わなかったのは、満開と同じように問題点も存在するからだ。
一つはどういうものか未確認だったため、安全に使えるものなのかわからなかったのである。
そしてもう一つは、この切り札の使用中は望乃以外の精霊が他のことに力を使えなくなるのだ。要するに、勇者の能力アップや勇者を死なせないためのガードが使用不可になるのである。
そのため今回のような敵からの追撃がなく、満開していて精霊の能力アップがなくても問題がないような状況以外では使うに使えなかったのである。
望乃がパワーアップしたことで、勇者部側が少し優勢になる。しかしそれでもまだ敵を倒すには至らない。
友奈以外の五人が力を振り絞る。
――負けるわけには行かない。もうこれ以上みんなを傷つけさせない。私は精霊だから勇者にはなれないけど、みんなのために私の全精力をもって倒す。そして……
そこに両足の自由を失われてもまだ戦おうと満開状態になった友奈が突っ込んでくる。
「私は讃州中学勇者部、勇者結城友奈!」
友奈が『ミタマ』を破壊しようとする。五人は友奈に託して状態を保ちながら友奈の名前を叫ぶ。
望乃もまた、そんな友奈を見て満足げな表情を浮かべていた。
「……そして、最後に敵を倒すのは
望乃がそう呟いた直後、満開が解けた友奈の手がバーテックスの『ミタマ』に触れ、それと同時に五人が押さえていた球が爆発した。
「牛鬼、青坊主、犬神、木霊、義輝は今すぐ勇者五名の安全を確保!」
望乃以外の五人は気を失っていた。現在精霊が使えない五人がこのまま落下すれば致命傷を負いかねない。そう考えた望乃は、すぐさま切り札を解き、精霊たちに命令して五人の安全を確保させた。
安全が確保された五人を見届けるとホッと安堵し、勇者の姿を解除して通常の状態に戻る。
「鴉天狗」
望乃がそう呼ぶと一体の精霊が現れた。乃木園子の一番初めの精霊『鴉天狗』である。
「これ、ご主人様に返してきて。急いでね」
望乃はスマートフォンを少し操作してから手渡した。鴉天狗はそれを受け取ると、指示の通り姿を消して園子に届けに向かった。
そして望乃は体ごと神樹の方向に向けた。
「えっと~、神樹様。少しお話があるんだけど、いいかな~?」
望乃は一度大きく深呼吸をしてから切り出した。
「私、前から思ってたんだ~。勇者の後遺症が一つ増えると、精霊が一体増える。だったら、逆に言えば、精霊が消えれば後遺症は戻るんじゃないかなって。だけど私たちが自分の意志で消えることはできない。だけど、神樹様なら不可能じゃないよね? だから一つ頼んでもいいかな~?」
望乃はこのことを随分前から思いついていた。だけどそれでもしなかったのは、本当に自分の思い通りにいくかがわからなく、一度行えばやり直すことができないことだったからだ。
最悪のケースを考えたら実行なんてできそうになかった。
しかし、東郷の思いや夏凜の悲惨な姿を見て、その覚悟を決めた。
「私を含めた全精霊をこの世から消滅させて! そして、みんなの後遺症を返して! 私たち精霊のことはどのようにしても構わないから、神樹様のために戦い続けた勇者たちに――幸福を!」
望乃はたかが一精霊にすぎない自分が星屑やバーテックスの問題を解決できないことはわかっていた。
だから望乃自身が言ったように、いつかその時が来ることを祈るしかできないのである。だけど、東郷と同じように勇者部が苦しむ姿はもう見たくなかった。そして出た結果これだったのだ。
望乃がそう叫ぶと、神樹がその頼みを了承したのか、望乃の指先が少しずつバラの花びらになって消え始めた。
他の精霊も少しずつ消えていることがわかった望乃は、円になって倒れている勇者部五人の方に視線を向けた。そして別のところを見るように顔を上げた。
「ご主人様。いろいろとありがとうございました。ご主人様の命令はちゃんと達成されました。ご主人様のおかげでみんなに会うことができました。だから今度はご主人様が楽しんでくださいね」
望乃はそう言った後、再び勇者部の五人に視線を向ける。
「美森ちゃん。美森ちゃんのぼたもちおいしかったよ~。いつもしっかり者で優しい美森ちゃんが大好きだよ」
望乃の片腕が消滅した。
「風ちゃんは、みんなのリーダーでいつも引っ張ってくれてたね。だけど人一倍食べて……ってそれは私も一緒か~。でもそんな風ちゃんも大好きだよ」
望乃の両足の膝下まで消滅した。浮いているような状態になっていた。
「樹ちゃん。樹ちゃんは可愛いよね~。でも勇者として戦う樹ちゃんはすごくかっこよかったと思うよ。可愛くてかっこいい樹ちゃんが大好きだよ」
望乃のもう片腕も消滅した。
続いて友奈に視線を向けたが、友奈にはなぜか精霊の消えた跡がなかった。
「……友奈ちゃん。友奈ちゃんを見て、本当に思ったんだ~。これが勇者なんだって。明るくて、前向きで、一生懸命で……。私も友奈ちゃんに救われたと思う。だから、大好きだよ」
そして望乃は一番大切な存在である夏凜に視線を向ける。
既に望乃の身体は上半身しか残っていなかった。
「いつも素直じゃなくて、勝ち気で、意地っ張りで、それでいて優しい私の一番のお友達、夏凜ちゃん。もう一緒にいてあげることはできないけど、勇者部のみんながいるから私がいなくても大丈夫だよね? 私とずっと一緒にいてくれて、私のお友達になってくれて……ありがとう。心の底から大好きだよ、夏凜ちゃん」
誰にも聞こえていない言葉を長々と言い終えると、またもや望乃の目から涙がこぼれ落ちた。
――あれ? また? 一度知っちゃうと簡単に出てくるな~。私たちはこうなる運命だってわかってたのに……。
望乃は自分が確かな生命体でない以上、いつかは存在が抹消され、勇者部と別れることになることがわかっていた。それでも、実際にそうなってみると、勇者部との別れを惜しんでしまっていた。
望乃は流れている涙を拭って、勇者部の五人に向かって囁くように言った。
「私は、いつかは消えゆく運命にあった。そして私はみんなを守りたかった。だけど守ることはできなかった。だから最後に、私の存在自体を使ってみんなを救わせてね」
望乃のほとんどが消滅してしまっていた。もう時間もわずかだった。
望乃は最期の別れはどうやってするのか前から考えていた。一番『小木曽望乃』らしい顔で別れよう、と。
「バイバイ、みんな。……バイバイ、夏凜ちゃん」
普段と変わらない笑顔でそう言った。それとほぼ同時に望乃は完全に消滅した。
正直言って今回の部分が書きたくてこの作品を始めました。
いや~、ここまで書き続けてこないと書けませんでしたから、大いに満足です。
あっ、大丈夫です。ちゃんと最後まで書きますから。