小木曽望乃は勇者である?   作:桃の山

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 今回はほとんど望乃と夏凜だけです。
 あと、少しシリアス気味です。



望乃の悩み

 とある休日。

 夏凜が目を覚ますと、 望乃が先に起きていた。これは今までなかったことで、夏凜は何かあったのかと思った。

 望乃はどこかに出かけるつもりなのか、数少ない私服に着替えていた。

 

「どこに行くのよ」

 

 ベッドから望乃を見ていた夏凜は思わず声をかけてしまった。

 

「あ、ごめんね。起こしちゃったかな~?」

 

「普通に目が覚めただけよ。それより出かけるんでしょ?」

 

「うん」

 

「変なことに首を突っ込んでたりしないわよね?」

 

 望乃は悩みなどを一人で何とかしようとするので、夏凜は常に聞くようにしていた。

 

「大丈夫だよ~。そうだな~、だったら夏凜ちゃんも一緒に来る?」

 

「え? いいの?」

 

「うん。元々は一人で行くつもりだったんだけど、夏凜ちゃんも無関係ってわけじゃないし、いいかなって」

 

「そう……。わかったわ。急いで支度するわ」

 

 夏凜は望乃の提案に乗ることにし、布団から出て支度を始める。

 

「別に急いでないから慌てなくてもいいよ~」

 

「え? ……わかったわ」

 

 夏凜は支度をしながらどこに行くのかを考えてみたが、見当もつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 夏凜は行き先も知らずに望乃の後について行っていた。望乃は黙って歩き続けていた。

 

「望乃、どこに向かってるのよ」

 

やはり行き先が気になるため、夏凜は後ろから声をかける。

 

「ん~? そうだな~。なんて言ったらいいかわからないけど、お友達のところかな~」

 

「友達? 友奈や東郷の家も風と樹の家もこっちじゃないわよ」

 

「知ってるよ。向かってるのは違うとこだよ~」

 

 結局聞いても行き先はわかることはなく、夏凜はただただ望乃について行くしかなかった。

 その時、二人の携帯が音を鳴らした。それは友奈からだった。

 

『今からちょっと集まりませんか?』

 

 勇者部のSNSにそう書かれていた。

 望乃と夏凜を除くメンバーは賛成していた。しかし望乃は『私と夏凜ちゃんは少し用事があるから行けない』と伝え、一言謝りの文も追加して送った。

 

「友奈や東郷たちも一緒に行けばいいんじゃないの?」

 

「ん~? 今日は元々私一人で行くつもりだったからね。今日の件にはあまり関係ないから、今日のところは二人で行こ!」

 

 望乃はなぜか寂しげに微笑んだ。

 向かう途中で望乃はなぜか花屋で花を買っていた。

 

「着いたよ~」

 

「……えっ? ここが目的地なの?」

 

「そうだよ~」

 

 夏凜は驚きを隠せなかった。なぜなら、望乃と夏凜がやってきた場所は墓場だったからだ。

 

「友達に会いに行くんじゃなかったの!?」

 

「? そうだよ? だからここに来たんだよ?」

 

 友達に会いに来て、墓場に来る。その意味するところは一つしかなかった。

 夏凜は喉をゴクッと鳴らす。

 

「望乃、もしかしてその友達って……」

 

「……確かあっちだよ」

 

 望乃は夏凜の言葉に答えずに先に進む。そして一つの墓の前で立ち止まった。

 

「たどり着けて良かった~」

 

「来たことあったんじゃないの?」

 

「ううん。今日が初めてなの。ご主人様の記憶を頼りに来たからちょっと不安だったんだよね~」

 

 望乃はそう言いながら先ほど買ってきた花を供える。

 

「夏凜ちゃん、紹介するよ。ご主人様と美森ちゃんのお友達、三ノ輪銀ちゃんだよ。二人と同じ先代勇者なんだけど、バーテックスとの戦いの途中で……」

 

 望乃が途中で言葉を切る。しかしその先の言葉は聞かなくてもわかっていた。

 

「でも、私とどこに関係があるのよ」

 

「夏凜ちゃんが勇者の時に使ってた端末は元々銀ちゃんのものだから」

 

「そうなの!?」

 

「うん。残された端末をどうするかを考えた大赦は、銀ちゃんと近い性質を持つ夏凜ちゃんに引き継がせたんだよ。銀ちゃんと夏凜ちゃんけっこう似てるしね~」

 

 夏凜は今頃知った真実に言葉が出なかった。

 

「ねえ、夏凜ちゃん。私はね、精霊の時は動けないご主人様の代わりとして、ご主人様がやりたいこととかを代わりにやったりしてたんだ~。でもね、銀ちゃんのお墓参りだけはできなかったの。何でだと思う~?」

 

「え? ここまで来る暇がなかったとかじゃないの?」

 

 突然問われた夏凜は少し困惑しながら答えた。

 しかしその答えに望乃は首を横に振った。

 

「ううん。もっと感情的な理由だよ。単にどう会えばいいかわからなかったの。どんな顔をすればいいのか、どんな話をしたらいいのか、わからなかったの」

 

「どういう意味よ」

 

 望乃は振り向いて寂しげな微笑みを見せた。

 

「夏凜ちゃん。精霊システムは銀ちゃんの戦死がきっかけで実装されることになったの。つまりね、銀ちゃんが戦死したから私は生まれたんだよ」

 

「……」

 

「そんな私が、どんな顔をしてここに来たらいいかわからなかったんだ。もしも銀ちゃんが今も生きてたら私は存在してなかったのかもしれない。夏凜ちゃんも勇者になってなかったかもしれない。そうずっと悩んでたの。精霊から人間になって、いつまでも目を背けているわけにもいかないから来ることにした。ここに来たらどうしたらいいかわかるかもって思ったけど、やっぱり私なんかがかけていいような言葉がないよ」

 

「……望乃」

 

 独り言のように長々と言っていた望乃の言葉を聞いて、夏凜はため息をついてから名前を呼んだ。

 名前を呼ばれた望乃は夏凜の方に振り返る。そして夏凜が望乃にデコピンをした。

 

「いたた。何するの~、夏凜ちゃん」

 

「勇者部五箇条ひとーつ!」

 

「へ?」

 

 突然の夏凜の言葉に望乃が驚く。

 

「悩んだら相談。いつもいつも一人で何とかしようとしてんじゃないわよ。あんたはもう少し私たちを頼りなさい」

 

「あ、うん」

 

「それから、私はその三ノ輪銀ってのをよく知らないけど、そいつは何も悪いことをしてない人間を恨むような奴なの?」

 

「違う、と思う」

 

「だったら、望乃が悩む必要なんてないわよ。いくら悩んでもしものことを考えたところで、生き返るわけでもないでしょ。そんなことをいつまでも悩んでる暇があるならそいつの分までしっかり生きなさいよ! 私が三ノ輪銀の立場だったらそう思うわ」

 

 夏凜にそう言われた望乃はクスッと笑った。

 

「夏凜ちゃん、ほんとに変わったね~。勇者部のみんなのおかげかな~? ……でも、銀ちゃんに似てる夏凜ちゃんがそう言うんだったら、そうなのかな?」

 

 望乃が再び銀の墓に視線を変える。それにつられて夏凜も銀の墓の方を見る。

 

「じゃあさ、なんて言ったらいいと思う?」

 

「そんなの、一つに決まってるでしょ」

 

「そっか。なんとなくわかってたんだけど、それも言っていいのかって思えちゃって」

 

「大丈夫よ。そいつも勇者なんだから」

 

 そして望乃は、一拍置いてから笑顔で口を開いた。

 

「銀ちゃん。いままでありがとうね!」

 

 

 

 

 

 

 墓参りからの帰り道。

 行きの時とは違って、望乃と夏凜は肩を並べて歩いていた。

 望乃はさっきまでとは違い、のほほんとした顔で歩いていた。望乃を悩ませていた胸のつかえが下りたようだった。

 

「ねえ、夏凜ちゃん。夏凜ちゃんにとっての一番の勇者って誰だと思う~?」

 

「何よ、いきなり」

 

「ご主人様にとっての一番の勇者は銀ちゃんなの。その影響もあって私にとってのすごい勇者は銀ちゃんなんだ~。でも、友奈ちゃんが私にとっての一番かな~。夏凜ちゃんは~?」

 

「……教えない」

 

「え~。何で~?」

 

「絶対に教えないわ!」

 

 夏凜はそう言うとスタスタと早足で望乃の前を歩いた。

 

「……友達になったあの日からずっと、私の勇者はあんただけよ、望乃」

 

 望乃に聞こえないようにそう呟きながらかすかに笑った夏凜だった。

 

「あれ? 望乃ちゃんと夏凜ちゃんだ! おーい!」

 

 帰り道の途中で友奈の誘いで集まった勇者部と出くわした。

 

「やっほ~」

 

「用事があったんじゃないの?」

 

「さっき用事が終わったところなんだ~」

 

「じゃあ、もう暇なの?」

 

「うん、そうだよ~」

 

 それを聞いた友奈が顔を輝かせた。

 

「用事って何だったの?」

 

 東郷が二人に聞いた。しかしそれに返答したのは風だった。

 

「どうせ、にぼしが切れたとかじゃないの?」

 

「夏凜ちゃん、いつも食べてるもんね!」

 

「はあ? 違うわよ! にぼしならまだ家に残ってるわよ!」

 

「でも、昨日一日で三袋食べたよね~」

 

「さ、三袋!?」

 

 樹が大きく驚きながら少し後ずさる。

 

「そんなに食べたらさすがに体に悪いわよ」

 

「全部私が食べたんじゃないわよ! ほとんど望乃で、私は一袋だけよ!」

 

「それでも多いですよ……」

 

「それで、結局用事って何だったの?」

 

 東郷が再び聞いた。

 夏凜は正直に言っていいのかわからず、望乃の方に視線を向ける。

 

「ん~とね、私と夏凜ちゃんだけの秘密!」

 

「そう言われたら余計に気になるわね」

 

「まあ、簡単に言うとね、私が向き合わないといけなかったところ、かな~」

 

「だ、大丈夫なんですか?」

 

 樹が心配そうな顔で望乃を見つめる。

 

「大丈夫だよ~。危ないこととかじゃないから」

 

「望乃ちゃん! 悩んだら相談、だよ?」

 

 友奈にそう言われて望乃は笑顔で首を縦に振った。

 

「さっき夏凜ちゃんにも同じこと言われた~」

 

「ちょっと、言わないでよ!」

 

 照れる夏凜を風がからかう。そして一段落したところで風が「よし」と大きな声で言う。

 

「んじゃま、一部は偶然だけど勇者部全員揃ったことだし、みんなでどこか行きましょうか」

 

「どこかってどこよ」

 

「それはその……どこかよ!」

 

「要するに決まってないんじゃない!」

 

「それは集めた友奈に言いなさいよ!」

 

「私はみんなで遊びたいなーって思って声をかけました」

 

「もういいからさっさと行きましょ」

 

「あ、待って、お姉ちゃん」

 

「私たちも行きましょう? 望乃ちゃん」

 

 今にも出発しそうな四人の後ろで東郷が望乃に笑いかける。

 

「ねえ、美森ちゃん。一つ聞いてもいい?」

 

「何?」

 

「銀ちゃん、私たちを見たら笑ってくれるかな?」

 

 それを聞いた東郷は一瞬驚いた表情をしていたが、微笑んで返答した。

 

「……そうね。きっと笑ってると思うわ」

 

「そっか」

 

 東郷は今の言葉で望乃が言っていた用事がわかったような気がした。

 

「私お腹すいた~」

 

 望乃と東郷も他の四人に追いつき、それと同時に望乃が勢いよく抱きついた。

 望乃は改めて勇者部に入って友奈たちと仲良くなって、そして夏凜と出会えて良かったと心の底から思った。

 




 今回の話は本来は予定にはなかったのですが、ふと思いついてこれは入れた方がいいかなと思い書きました。
 次回はちゃんとした日常回を書くつもりです。
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